説明

弾性表面波装置

【課題】 外部からの漏れ信号が存在していても良好なフィルタ特性を有する多重モード型SAWフィルタを含む弾性表面波装置を提供する。
【解決手段】 所定インピーダンス(Fs、例えば50Ω)の弾性表面波装置であって、直列に接続された複数の多重モード型フィルタ(10C、10D)を有し、該複数の多重モード型フィルタの合成インピーダンス(F1+F2)が前記所定インピーダンスを形成する。複数の多重モード型フィルタの合成インピーダンスが前記所定インピーダンスを形成するように構成されているので、複数の多重モード型フィルタの開口長は同じインピーダンスを持つ単一の多重モード型フィルタの開口長よりも大きくなる。従って、直列に接続された複数の多重モード型フィルタの単位面積当りの励振強度が小さくなるので、外部からのもれ信号の影響を抑制することができ、良好なフィルタ特性が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性表面波装置に関し、特に多重モード型弾性表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの無線装置の高周波回路には弾性表面波装置で形成されたフィルタが使用されている。弾性表面波装置で形成されるフィルタ(以下、SAWフィルタという:SAWはSurface Acoustic Waveの略)、送信フィルタや受信フィルタなどの他、送信フィルタと受信フィルタとが1つのパッケージ内に設けられたデュプレクサとして用いられる。SAWフィルタにはいくつかのタイプが知られており、例えばSAW共振器をラダー型に接続したものや、多重モード型SAWフィルタなどがある。一般に、ラダー型のSAWフィルタは送信フィルタとして用いられ、多重モード型SAWフィルタは受信フィルタとして用いられる。
【0003】
多重モード型SAWフィルタの基本構成は、例えば特許文献1に記載されているように、圧電基板上に形成された1組の反射電極と、反射電極の間に入出力のインタディジタルトランスデューサ(IDT)とを有する。入力用IDTに駆動電圧を印加すると、反射電極間に励振された弾性表面波が伝搬し、反射電極間に複数の定在波が発生する。この定在波に応じた電圧が出力IDTに現れる。このような多重モード型SAWフィルタはバンドパスフィルタとして機能する。
【0004】
図1(A)は多重モード型SAWフィルタの単体タイプ(基本構成)を示し、図1(B)は単体タイプをカスケード接続(縦続接続)したカスケードタイプを示す。図1(A)に示す単体タイプの多重モード型SAWフィルタ10は、入力IDT12、その両側に位置する出力IDT14、16及び、SAW伝搬方向において出力IDT14、16の外側に位置する反射電極18、20とを有する。入力IDT12、出力IDT14,16はそれぞれ、電極指がインターディジタルに配置された一対のくし型電極を有する。入力IDT12、出力IDT14、16、反射電極18、20はLN(リチウムナイオベート)やLT(リチウムタンタレート)などの圧電基板上に形成された金属パターンである。単体タイプのインピーダンスFsは、接続される伝送線路の特性インピーダンス(例えば50Ω)に等しくなるように設計される。図1(B)に示すカスケード接続タイプは、2つの多重モード型SAWフィルタ10Aと10Bをカスケード接続した構成である。すなわち、多重モード型SAWフィルタ10Aの2つの出力IDTと多重モード型SAWフィルタ10Bの2つの入力IDTとを信号線22、24で接続するとともに、多重モード型SAWフィルタ10Aの入力IDTの一方のくし型電極12aと、多重モード型SAWフィルタ10Bの出力IDTの一方のくし型電極12bとを接地する。くし型電極12aと12bは接地されているので、これらの間の信号の伝送はない。多重モード型SAWフィルタ10AのインピーダンスFiと多重モード型SAWフィルタ10BのインピーダンスFoとはいずれも、接続される伝送線路の特性インピーダンスに等しく、例えば50Ωである(Fs=Fi=Fo=50Ω)。
【0005】
図2は、図1(B)に示すカスケード接続タイプの多重モード型SAWフィルタを3つ並列に接続した構成である。
【0006】
図1(A)や(B)の多重モード型SAWフィルタは、例えば図3(A)に示すように用いられる。送信フィルタTxと受信フィルタRxがアンテナAntに接続されている。受信フィルタRxは多重モード型SAWフィルタで形成されている。送信信号は送信フィルタTxを介してアンテナAntに出力され、アンテナAntで受信した受信信号は受信フィルタRxを介して次段の回路に出力される。
【0007】
【特許文献1】特開2004−194269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図3(A)の構成において、送信信号を出力している状態で妨害波(所望の受信周波数帯域内の周波数成分)を受信すると、妨害波とともに送信信号のもれ信号が受信フィルタRxを構成する多重モード型SAWフィルタを励振してしまうことが分かった。図3(B)にこの問題点を示す。図3(B)において、横軸は周波数、縦軸は受信フィルタRxの出力電力を示す。図3(B)に示すように、送信信号が存在しない場合には妨害波成分のみが受信フィルタRxの出力に現れるのに対し、送信信号のもれ成分が存在すると、妨害波ピークの両側にもれ信号に起因した電力が受信フィルタRxの出力ポートに現れる。この電力により混変調レベルが増加し、例えば携帯電話としての規格であるシングルトーン妨害感度(Single Tone Defense:STD)が劣化してしまう。この問題点は、送信フィルタTxと受信フィルタRxとがそれぞれ別々の圧電基板を用いて構成されている場合のみならず、単一の圧電基板を用いて形成された場合にも発生する。
【0009】
本発明は、以上のような問題を考慮してなされたものであり、外部からの漏れ信号が存在していても良好なフィルタ特性を有する多重モード型SAWフィルタを含む弾性表面波装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、所定インピーダンスの弾性表面波装置であって、直列に接続された複数の多重モード型フィルタを有し、該複数の多重モード型フィルタの合成インピーダンスが前記所定インピーダンスを形成することを特徴とする弾性表面波装置である。複数の多重モード型フィルタの合成インピーダンスが前記所定インピーダンスを形成するように構成されているので、複数の多重モード型フィルタの開口長は同じインピーダンスを持つ単一の多重モード型フィルタの開口長よりも大きくなる。従って、直列に接続された複数の多重モード型フィルタの単位面積当りの励振強度が小さくなるので、外部からのもれ信号の影響を抑制することができ、良好なフィルタ特性が実現できる。
【0011】
前記所定インピーダンスは、前記弾性表面波装置が接続される伝送線路の特性インピーダンスに等しい構成とすることができる。
【0012】
前記複数の多重モード型フィルタはそれぞれ複数のインタディジタルトランスデューサ(IDT)を有し、前記複数の多重モード型フィルタの対応するIDT同士が直列に接続されている構成とすることができる。
【0013】
前記複数の多重モード型フィルタはそれぞれ複数のインタディジタルトランスデューサ(IDT)を有し、前記複数の多重モード型フィルタの対応するIDT同士は共通のバスバーで直列に接続されており、前記バスバーの端部はテーパー状に形成されている構成とすることができる。
【0014】
前記複数の多重モード型フィルタはそれぞれ複数のインタディジタルトランスデューサ(IDT)を有し、前記複数の多重モード型フィルタの対応するIDT同士は配線パターンで直列に接続され、隣り合う配線パターンからそれぞれ延びる電極指間に、当該隣り合う配線パターンの電位とは異なる電位を持つ電極指が少なくとも1本存在する構成とすることができる。
【0015】
前記複数の多重モード型フィルタはそれぞれ、異なる静電容量を有する構成とすることができる。
【0016】
前記複数の多重モード型フィルタはそれぞれ、異なる開口長を有する構成とすることができる。
【0017】
前記複数の多重モード型フィルタは、前記弾性表面波装置の入力端子が接続される第1の多重モード型フィルタと、前記弾性表面波装置の出力端子が接続される第2の多重モード型フィルタとを含む構成とすることができる。
【0018】
前記複数の多重モード型フィルタは、前記弾性表面波装置の入力端子及び出力端子が接続される第1の多重モード型フィルタを含む構成とすることができる。
【0019】
前記弾性表面波装置を複数並列に接続することもできる。
【0020】
前記弾性表面波装置は、前記複数の多重モード型フィルタのうちの出力側に配置される多重モード型フィルタにカスケード接続される別の多重モード型フィルタを有する構成とすることができる。
【0021】
前記弾性表面波装置を複数並列に接続するとともに、これらの弾性表面波装置のうちの出力側に配置される多重モード型フィルタにそれぞれカスケード接続される別の複数の多重モード型フィルタを有する構成とすることができる。
【0022】
前記弾性表面波装置はバランス入力又はバランス出力を有する構成とすることができる。
【0023】
前記弾性表面波装置は、前記複数の多重モード型フィルタが形成される単一の圧電基板を有する構成とすることができる。
【0024】
送信信号と受信信号のいずれか一方が与えられる第1のフィルタと、他方が与えられる第2のフィルタとを有し、前記第1のフィルタは請求項1から13のいずれか一項記載の前記弾性表面波装置で構成され、前記第2のフィルタは別の弾性表面波装置で構成されるようにしてもよい。この場合、前記第1のフィルタと前記第2のフィルタとは同じ圧電基板上に形成されている構成とすることができる
【発明の効果】
【0025】
外部からの漏れ信号が存在していても良好なフィルタ特性を有する多重モード型SAWフィルタを含む弾性表面波装置を提供することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を好適に実施した形態について図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
図4(B)は実施例1に係る多重モード型SAWフィルタを示す図である。図4(A)は、実施例1との相違を明確にするために図示された前述の単体タイプの多重モード型SAWフィルタを示す。図4(B)に示す多重モード型SAWフィルタは、圧電基板100上に形成された2つの多重モード型SAWフィルタ10Cと10Dとが直列に接続された構成を有する(以下、それぞれ第1のフィルタ10C、第2のフィルタ10Dという)。第1のフィルタ10Cは1組の反射電極18A、20Aとこれらの間に設けられた入出力用のIDT12A、14A及び16Aとを有する。同様に、第2のフィルタ10Dは1組の反射電極18B、20Bとこれらの間に設けられた入出力用のIDT12B、14B及び16Bとを有する。
【0028】
第1のフィルタ10Cと第2のフィルタ10Dとを直列に接続するために、配線パターン22、24、26が図示するように形成されている。配線パターン22と24は、第1のフィルタ10Cの出力IDTと第2のフィルタ10Dの入力IDTとを接続する。配線パターン26は、第1のフィルタ10Cの入力IDTと第2のフィルタ10Dの入力IDTとを接続する。つまり、第1のフィルタ10Cと第2のフィルタ10Dの対応するIDT同士は直列に接続されている。動作状態においては、配線パターン26の電位、つまりくし型電極12a、12bの電位は、入力端子T1に与えられる駆動電圧とグランド電位との中間電位となる。第1のフィルタ10Cの入力IDTは、駆動電圧と中間電位との電位差によりSAWを励振する。第2のフィルタ10Dの入力IDTは、中間電位とグランド電位との電位差によりSAWを励振する。図1(B)の構成とは異なり、くし型電極12a、12bはグランド電位ではない。出力端子T2とT3には同相の出力信号が現れる。
【0029】
第1のフィルタ10Cと第2のフィルタ10Dとを直列に接続した構成なので、第1のフィルタ10CのインピーダンスF1と第2のフィルタ10DのインピーダンスF2との合成インピーダンスが、所定のインピーダンス(例えば50Ω)となるように設計する必要がある。所定のインピーダンスとは、図4(B)の多重モード型フィルタが接続される伝送線路の特性インピーダンスに等しい。今、図4(A)に示す単体タイプのインピーダンスFsを50Ωとすると、Fs=F1+F2=50Ωとなる。F1+F2がFs(=50Ω)と等しくなるようにするために、第1のフィルタ10Cの開口長(電極指の交差幅)AP1と第2のフィルタ20Dの開口長AP2とを、単体タイプの開口長AP0よりも大きく設定してある。これにより、第1のフィルタ10CのIDT面積及び第2のフィルタ10DのIDT面積はいずれも、単体タイプのIDT面積よりも大きくなる。図4(B)の例ではAP1=AP2(=2AP0)なので、第1のフィルタ10Cと第2のフィルタ10DのIDT面積は等しい。見方を変えると、図4(B)の構成は図4(A)の単体タイプを2分割した構成であるとも言える。
【0030】
図4(B)の構成によれば、複数段(図4(B)では2段)の直列接続により、IDTにかかる電圧が分散され、IDT面積の拡大により単位面積当りのSAWの励振強度が小さくなる。この結果、図3(A)に示す測定で得られた図5の特性図に示すように、図4(B)の構成を持つ「発明品」の特性は、図1(B)の構成を持つ「従来品」の特性よりも、混変調レベルの増加が抑制されている。
【0031】
図4(B)の構成では、入力端子T1と出力端子T2、T3とは電極パターンを挟むように配置されている。これに対し、図6に示すように、入力端子T1と出力端子T2、T3とを同じ側に設ける構成とすることもできる。図6の多重モード型SAWフィルタは、直列に接続された2つの多重モード型SAWフィルタ10E(第1のフィルタ)と10F(第2のフィルタ)とを有する。直列接続のために設けられた配線パターン22、24、26はIDTのバスバーを兼ねている。つまり、第1のフィルタ10Eと第2のフィルタ10Fの対応するIDT同士は、共通のバスバー22、24、26で直列に接続されている。入力端子T1と出力端子T2、T3は第1のフィルタ10Eの3つのIDTに設けられている。第1のフィルタ10EのインピーダンスF11と第2のフィルタ10FのインピーダンスF12との合成インピーダンスは、図6に示す多重モード型SAWフィルタが接続される伝送線路の特性インピーダンスに等しい(例えば、50Ω)。出力用のIDT14Bと16Bとは、端子T2とT3の信号が同相(同極性)となるように構成されている。つまり、IDT12Bに隣り合うIDT14Bの電極指はバスバー22に接続されており、同様にIDT12Bに隣り合うIDT16Bの電極指はバスバー24に接続されている。
【0032】
図7は、図6に示す構成(AP1=AP2)の周波数特性を示す図である。図の横軸は周波数(MHz)、縦軸は減衰量(dB)である。図7に示すように、通過帯域の低周波数側にスプリアスが現れている。このスプリアスを低減できる構成を備えた多重モード型SAWフィルタを、実施例2として以下に説明する。
【実施例2】
【0033】
実施例2では、図7に示すスプリアスを低減するために、パターン間容量Cに着目している。図8(A)に示すように、パターン間容量Cは、バスバーを兼ねる配線パターン22と26との間の容量、及び配線パターン24と26との間の容量である。配線パターン22、24及び26にそれぞれ接続される電極指もパターン間容量Cに関与する。図8(B)は、パターン間容量Cの値が図8(A)に示す多重モード型SAWフィルタの周波数特性にどのような影響を与えるのかを実験した結果を示す。図8(B)から分かるように、パターン間容量Cを小さくすると、スプリアスを低減できることが分かった。
【0034】
図9(B)は、パターン間容量Cを減少させる構成を備えた多重モード型SAWフィルタを示す図である。図9(A)は実施例2との相違を明確にするために図示された前述の実施例1に係る多重モード型SAWフィルタを示す。図9(B)の多重モード型SAWフィルタは、第1のフィルタ10Eと第2のフィルタ10Gとを有する。隣り合う配線パターンであるバスバー22、24、26からそれぞれ延びる電極指間に、隣り合う配線パターンの電位とは異なる電位を持つ電極指を少なくとも1本有する構成である。具体的に説明すると、バスバー22の端から延びる電極指Ia1と、バスバー22に隣り合うバスバー26の対向する端から延びる電極指Ib1との間に、これらのバスバー22、26とは異なる電位であるグランド電位を持つ電極指Ic1が配置されている。バスバー22と26の電位は、グランド電位と入力端子T1に与えられる駆動電圧との間の中間電位である。同様に、バスバー24の端から伸びる電極指Ia2と、バスバー24に隣り合うバスバー26の対向する端から延びる電極指Ib2との間に、これらのバスバー24、26とは異なる電位であるグランド電位を持つ電極指Ic2が配置されている。図9(B)の構成では、2本の電極指Ic1と2本の電極指Ic2とが配置されているが、グランド電位の少なくとも1本の電極指が配置されていれば良い。このように、電極指Ia1とIb1との間及びIa2とIb2との間にグランド電位が形成されているので、図9(B)の構成は図9(A)の構成に比べ小さなパターン間容量Cを持ち、この結果スプリアスを低減することができる。また、図9(B)の構成における電極指Ia1とIb1との間の距離d22は、図9(A)の構成における対応する電極指間の距離d21よりも小さい。これにより、パターン間容量Cを更に減少させることができる。なお、第1のフィルタ10EのインピーダンスF11と第2のフィルタ10GのインピーダンスF12との合成インピーダンスは、伝送線路の特性インピーダンス(例えば50Ω)に等しい。
【0035】
実施例2の多重モード型SAWフィルタによれば、混変調レベルの増加を抑制することができるとともに、図7(B)で示すように通過帯域のスプリアスを低減することができる。
【実施例3】
【0036】
図10(B)は、実施例3に係る多重モード型SAWフィルタを示す図である。図10(A)は、実施例3との相違を明確にするために図示された前述の実施例2の多重モード型SAWフィルタを示す。図10(A)の構成において、第1のフィルタ10Eの隣り合うIDTからそれぞれ延びる電極指の対応する長さがパターン間容量Cに寄与する(例えば、電極指Id1とIe1)。したがって、図10(B)に示すように、第1のフィルタ10Eの電極指の長さを短くすることで、パターン間容量Cを減少させることができる。図10(B)の構成において、第1のフィルタ10Hの電極指が短くなったことで、第1のフィルタ10Hの開口長AP11は図10(A)に示す第1のフィルタ10Eの開口長AP1よりも小さい。従って、第1のフィルタ10HのインピーダンスF21は図10(A)に示す第1のフィルタ10EのインピーダンスF11よりも大きくなる。第1のフィルタ10Hと第2のフィルタ10Iとの合成容量を所望のインピーダンス値(例えば50Ω)とするために、第2のフィルタ10Iの開口長AP12を大きくする。開口長AP12を大きくしても図9(B)の第2のフィルタ10Gと同様に、第2のフィルタ10Iはバスバー22、24、26とは異なる電位(グランド電位)の電極指Ic1、Ic2を有するので、パターン間容量Cが増大することはない。
【0037】
実施例3の多重モード型SAWフィルタによれば、混変調レベルの増加を抑制することができるとともに、通過帯域のスプリアスを一層低減することができる。
【実施例4】
【0038】
図11(B)は、実施例4に係る多重モード型SAWフィルタを示す図である。図11(A)は、実施例4との相違を明確にするために図示された前述の実施例3の多重モード型SAWフィルタを示す。実施例4の多重モード型SAWフィルタは、第1のフィルタ10Jと第2のフィルタ10Kとを有する。第1のフィルタ10Jと第2のフィルタ10Kとは、これらを直列に接続するための配線パターンとしても機能する共通のバスバー22A、24A及び26Aを有する。バスバー22Aと26Aとの隣接するエッジ間の距離(パターン間距離)d34、及びバスバー24Aと26Aとの隣接するエッジ間の距離d34は、図11(A)の対応する距離d33よりも長い。d34の距離を長くとってパターン間容量Cを減少させるために、バスバー22A、24A及び26Aのエッジはテーパー状に形成されている。また、バスバー22A、24A及び26Aの幅L34を図11(A)に示すバスバー22、24及び26の幅L33よりも狭くして、パターン間容量Cを減少させている。第1のフィルタ10JのインピーダンスF31と第2のフィルタ10KのインピーダンスF32との合成インピーダンスは、実施例4の多重モード型SAWフィルタが接続される伝送線路の特性インピーダンス(例えば50Ω)に等しい。なお、図11(B)に示す反射電極18Cと18Dは共通のバスバーを有し、反射電極20Cと20Dは共通のバスバーを有する構成である。
【0039】
実施例4の多重モード型SAWフィルタによれば、混変調レベルの増加を抑制することができるとともに、通過帯域のスプリアスをより一層低減することができる。
【実施例5】
【0040】
図12は、実施例5に係る多重モード型SAWフィルタを示す図である。実施例5は、参照番号50A、50B及び50Cで示すように、図11(B)に示す多重モード型SAWフィルタを3個並列に接続するとともに、各フィルタ50A、50B及び50Cにそれぞれ図1(A)や図4(A)に示す単体タイプの多重モード型SAWフィルタ52A、52B及び52Cをカスケード接続した構成を有する。端子T11、T12及びT13は入力端子として機能し、端子T21、T22及びT23は出力端子として機能する。入力端子T11、T12及びT13に同じ入力信号を与え、出力端子T21、T22及びT23から同相の出力信号が得られる。
【0041】
実施例5の多重モード型SAWフィルタによれば、混変調レベルの増加を抑制することができるとともに、通過帯域のスプリアスを効果的に低減することができ、更に耐電力特性を向上させることができる。
【0042】
図13は図12の変形例であって、図12に示すフィルタ50A、50B及び50Cのみからなる多重モード型SAWフィルタを示す図である。各フィルタ50A、50B及び50Cの出力は出力端子T24に共通に接続されている。
【0043】
図14は図12の変形例であって、図12に示すフィルタ50A、50B及び50Cからなるフィルタと、フィルタ50D、50E及び50Fからなるフィルタとをカスケード接続した構成である。フィルタ50D、50E及び50Fはそれぞれ図11(B)に示す構成である。
【0044】
ここで、実施例5の多重モード型SAWフィルタの周波数特性を図15に示す。横軸は周波数(MHz)、縦軸は減衰量(dB)である。参照番号60で示す線は一般に求められる挿入損失の値である−3dBの減衰を示し、参照番号62で示す線は一般に求められる帯域外減衰量である−50dBの減衰を示す。図15からわかるように、実施例5の多重モード型SAWフィルタは挿入損失が小さく、かつ帯域外減衰量が大きく、良好はフィルタ特性を持つ。
【実施例6】
【0045】
実施例6は、バランスフィルタの例である。図16(A)は、実施例6に係るバランス型多重モード型SAWフィルタの単体タイプを示す。図16(A)において、信号B1とB2はバランス入力又はバランス出力を示している。バランスフィルタを実現するために、IDT14BとIDT16Cとは異なる電極構成である。IDT12Bと14Bとの隣り合う電極指はそれぞれバスバー26とバスバー22とに接続されているのに対し、IDT12Bと16Cとの隣り合う電極指はそれぞれバスバー26とバスバー28とに接続されている。
【0046】
図16(B)は、実施例6に係るバランス型多重モード型SAWフィルタのカスケード接続タイプを示す。前述の並列接続された多重モード型SAWフィルタ50A、50B及び50Cにそれぞれ、単体タイプの多重モード型SAWフィルタ52D、52E及び52Fがカスケード接続されている。各フィルタ52D、52E及び52FはB1とB2で示されるバランス出力又はバランス入力を持つ。
【0047】
このようにバランス型であっても、多重モード型SAWフィルタ50A、50B及び50Cが前述した構成、作用及び効果を有するので、混変調レベルの増加を抑制することができるとともに、通過帯域のスプリアスを一層低減することができる。
【実施例7】
【0048】
図17は、実施例7に係るデュプレクサを示す。デュプレクサは図3(A)に示す送信フィルタTxと受信フィルタRxとを1つのパッケージに設けた弾性表面波装置である。送信フィルタはSAW共振器をラダー型に接続した構成で、受信フィルタは図12(B)に示した構成である。送信フィルタTxと受信フィルタRxとは1つの圧電基板100上に形成されている。送信フィルタTxは、ラダー構成の直列腕に設けられたSAW共振器S1〜S6と、並列腕に設けられたSAW共振器P1、P2とを有する。このデュプレクサは、受信フィルタRxが前述の通り構成されているので、送信フィルタTxの漏れ信号が受信フィルタRxに与える影響、つまり混変調レベルの増加を抑圧できるとともに、受信フィルタRxの通過帯域のスプリアスを抑制することができる。
【0049】
なお、このデュプレクサは例えば、PCS携帯電話などの無線装置において、送信信号(1850MHz〜1910MHz)と受信信号(1930MHz〜1990MHz)とを分離するために用いることができる。
【0050】
以上、本発明の実施例を説明した。本発明は上記実施例に限定されるものではなく、他の実施例や変形例を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(A)は多重モード型SAWフィルタの単体タイプを示し、(B)は単体タイプを2つカスケード接続した従来の構成を示す図である。
【図2】図1(B)に示すカスケード接続構成を3つ並列に接続した従来の多重モード型SAWフィルタを示す図である。
【図3】(A)は多重モード型SAWフィルタの使用例を示し、(B)はその問題点を示すグラフである。
【図4】(A)は多重モード型フィルタの単体タイプを示し、(B)は本発明の実施例1に係る多重モード型SAWフィルタを示す図である。
【図5】図4(B)に示す多重モード型SAWフィルタと、従来の多重モード型フィルタの混変調レベルを比較したグラフである。
【図6】図4(B)に示す構成の変形例を示す図である。
【図7】図6の構成で得られる通過帯域内にスプリアスが現れる可能性を説明するためのグラフである。
【図8】(A)は図7に示すスプリアスを抑制する構成の原理を示す図、(B)はその効果を示すグラフである。
【図9】(A)は実施例1の構成を示し、(B)は実施例2に係る多重モード型SAWフィルタを示す図である。
【図10】(A)は実施例2の構成を示し、(B)は実施例3に係る多重モード型SAWフィルタを示す図である。
【図11】(A)は実施例3の構成を示し、(B)は実施例4に係る多重モード型SAWフィルタを示す図である。
【図12】実施例5に係る多重モード型SAWフィルタを示す図である。
【図13】実施例5の変形例を示す図である。
【図14】実施例5の別の変形例を示す図である。
【図15】実施例5のフィルタ特性を示す図である。
【図16】(A)は実施例6に係るバランス型多重モード型SAWフィルタの単体タイプを示し、(B)は実施例6に係るバランス型多重モード型SAWフィルタのカスケード接続タイプを示す図である。
【図17】実施例7に係るデュプレクサを示す図である。
【符号の説明】
【0052】
10A〜10K 多重モード型SAWフィルタ
12A、12B、14A、14B、16A、16B、16C IDT
12a、12b くし型電極
18A、18B、20A、20B 反射電極
22、24、26 配線パターン
100 圧電基板
F1、F2 インピーダンス
T1、T2、T3 端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定インピーダンスの弾性表面波装置であって、直列に接続された複数の多重モード型フィルタを有し、該複数の多重モード型フィルタの合成インピーダンスが前記所定インピーダンスを形成することを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記所定インピーダンスは、前記弾性表面波装置が接続される伝送線路の特性インピーダンスに等しいことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記複数の多重モード型フィルタはそれぞれ複数のインタディジタルトランスデューサ(IDT)を有し、前記複数の多重モード型フィルタの対応するIDT同士が直列に接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記複数の多重モード型フィルタはそれぞれ複数のインタディジタルトランスデューサ(IDT)を有し、前記複数の多重モード型フィルタの対応するIDT同士は共通のバスバーで直列に接続されており、前記バスバーの端部はテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記複数の多重モード型フィルタはそれぞれ複数のインタディジタルトランスデューサ(IDT)を有し、前記複数の多重モード型フィルタの対応するIDT同士は配線パターンで直列に接続され、隣り合う配線パターンからそれぞれ延びる電極指間に、当該隣り合う配線パターンの電位とは異なる電位を持つ電極指が少なくとも1本存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波装置。
【請求項6】
前記複数の多重モード型フィルタはそれぞれ、異なる静電容量を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性表面波装置。
【請求項7】
前記複数の多重モード型フィルタはそれぞれ、異なる開口長を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性表面波装置。
【請求項8】
前記複数の多重モード型フィルタは、前記弾性表面波装置の入力端子が接続される第1の多重モード型フィルタと、前記弾性表面波装置の出力端子が接続される第2の多重モード型フィルタとを含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の弾性表面波装置。
【請求項9】
前記複数の多重モード型フィルタは、前記弾性表面波装置の入力端子及び出力端子が接続される第1の多重モード型フィルタを含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の弾性表面波装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項記載の弾性表面波装置を複数並列に接続したことを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項11】
前記弾性表面波装置は、前記複数の多重モード型フィルタのうちの出力側に配置される多重モード型フィルタにカスケード接続される別の多重モード型フィルタを有することを特徴とする請求項1から9の何れか一項記載の弾性表面波装置。
【請求項12】
請求項1から9の何れか一項記載の弾性表面波装置を複数並列に接続するとともに、これらの弾性表面波装置のうちの出力側に配置される多重モード型フィルタにそれぞれカスケード接続される別の複数の多重モード型フィルタを有することを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項13】
前記弾性表面波装置はバランス入力又はバランス出力を有することを特徴とする請求項1から12のいずれか一項記載の弾性表面波装置。
【請求項14】
前記弾性表面波装置は、前記複数の多重モード型フィルタが形成される単一の圧電基板を有することを特徴とする請求項1から13のいずれか一項記載の弾性表面波装置。
【請求項15】
送信信号と受信信号のいずれか一方が与えられる第1のフィルタと、他方が与えられる第2のフィルタとを有し、前記第1のフィルタは請求項1から13のいずれか一項記載の前記弾性表面波装置で構成され、前記第2のフィルタは別の弾性表面波装置で構成されることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項16】
前記第1のフィルタと前記第2のフィルタとは同じ圧電基板上に形成されていることを特徴とする請求項15に記載の弾性表面波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−74202(P2006−74202A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252644(P2004−252644)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(398067270)富士通メディアデバイス株式会社 (198)
【Fターム(参考)】