説明

形状測定機および倣いプローブ装置

【課題】簡便かつ安価の構造で、外乱振動の影響を軽減できる形状測定機および倣いプローブ装置を提供する。
【解決手段】プローブ10は、相対移動機構のZ軸スライダに保持されたケース体11と、このケース体の内部に往復移動可能に設けられたプローブ本体12と、このプローブ本体の先端に設けられた力センサ20と、プローブ本体を往復移動させる駆動アクチュエータ14とを含む。ケース体とプローブ本体との間にはプローブ本体の往復移動方向へ振動可能な振動素子17が設けられている。力センサからの力検出信号を基にプローブ本体に伝わる外乱振動を相殺する振動を振動素子17から発生させる相殺振動発生手段50が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状測定機および倣いプローブ装置に関する。詳しくは、被測定物との接触時に発生する測定力を検出し力検出信号として出力する力センサを有するプローブと被測定物とを相対移動させながら、被測定物の形状などを測定する形状測定機および倣いプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
力センサを有するプローブと被測定物とを、接触させた状態で相対移動させながら、被測定物の形状などを測定する形状測定機では、被測定物の形状測定時に外乱振動の影響を受ける。
例えば、マスターボール(ルビー球など)を倣い測定すると、図6に示すような測定結果が得られる。この測定結果からマスターボールの形状を差し引いた後の残差には、図 7に示すように、形状誤差のほかに、測定環境の外乱振動成分が必ず重畳する。これは、測定するオーダが小さくなればなるほど顕著となり、残差結果に占める割合が大きくなる。つまり、得られる測定値というのは、
測定値=被測定物の形状+外乱振動
となる。
【0003】
接触式倣い測定システムにおいて、外乱振動の影響は被測定物への接触力(測定力)のばらつきとなってしまうため、被測定物への接触痕を形成する要因の一つである。
そのため、被測定物の破損を防ぐために、測定力を極力小さく、かつ、一定に保つ制御機能を備えた倣い測定システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に開示されたシステムにおいて、振動の影響を軽減し測定を行うためには、力制御の応答を高める方法が考えられる。しかし、プローブの小型、軽量化、高度な制御技術の導入などといった技術的課題を抱えており、実現が難しい。
【0005】
また、一般に測定形状は比較的低周波の形状成分を多く含んでおり、外乱振動は比較的高周波成分で構成されることから、測定機が外乱振動に応答せず、被測定物の形状成分のみに応答すればよい。
そのためには、力制御ゲインを低くすることが考えられるが、そうすることによって同時に形状追従性も低下してしまい、特に、表面粗さのような短波長成分の測定を行うことは困難になる。したがって、形状測定機では、ゲインを低くして外乱振動を抑制するという手法はとることができない。
【0006】
外乱振動の周波数と測定機の固有振動数(応答周波数)が考慮された測定システムであれば、その影響を軽減することが可能であるが、多くの場合、その2つの周波数は異なり、それが原因で被測定物に対する測定力がばらつき、更に、一定の測定力で倣い測定を行うことは困難である。
【0007】
そのため、得られる測定値が振動的になるとともに、非破壊測定が難しくなると考えられる。例えば、図8に示すように、ある一定の走査速度で被測定物を測定している場合、外乱振動成分の突発的な入力が鉛直方向に加わると、測定機の応答周波数が低い場合、スタイラスが振動に遅れて追従するため、被測定物に起伏がある部分では、被測定物表面に余分な測定力が掛かってしまい、傷がついてしまう。
そのため、従来では、この外乱振動の影響を軽減するために、一般的にはパッシブ型やアクティブ型の除振台が用いられている。
【0008】
【特許文献1】特開2007−309684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
パッシブ型の除振台は、空気ばねやゴムなどの弾性体によって、入ってきた振動を減衰させる構造である。このパッシブ型の除振台は、安価であるが、振動減衰性能が比較的低く、減衰周波数帯域も狭いという欠点がある。
【0010】
アクティブ型の除振台は、電気制御によって、入ってきた振動と逆向きの力を加えることで振動を打ち消すシステムである。しかし、軽減できる周波数帯域に制限があることや、除振台そのものが非常に高価であることから、外乱振動への対策として広く用いられているとは言えない。
したがって、これらのことから、簡便に外乱振動の影響を軽減できる測定システムが望まれている。
【0011】
本発明の目的は、このような実情に鑑みて、簡便かつ安価な構造で、外乱振動の影響を軽減できる形状測定機および倣いプローブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の形状測定機は、被測定物を載置するテーブルと、前記被測定物との接触時に発生する測定力を検出し力検出信号として出力する力センサを有するプローブと、このプローブを保持したプローブ保持部材と前記テーブルとを相対移動させる相対移動機構とを備え、前記力センサからの力検出信号が略一定になるように制御しながら、前記被測定物の形状などを測定する形状測定機において、前記プローブは、前記プローブ保持部材に保持されたケース体と、このケース体の内部に往復移動可能に設けられたプローブ本体と、このプローブ本体の先端に設けられた前記力センサと、前記プローブ本体を往復移動させる力センサ移動手段とを含んで構成され、前記ケース体と前記プローブ本体との間に設けられ前記プローブ本体の往復移動方向へ振動可能な振動素子と、前記力センサからの力検出信号を基に前記プローブ本体に伝わる外乱振動を相殺する振動を前記振動素子から発生させる相殺振動発生手段とを有する、ことを特徴とする。
ここで、振動素子としては、例えば、圧電素子やボイスコイルモータなどを利用できる。
【0013】
このような構成によれば、テーブルに被測定物を載置し、この被測定物の表面にプローブの力センサを接触させた状態において、力センサからの力検出信号が略一定になるように、プローブ本体を被測定物に対して往復移動させるとともに、相対移動機構によってプローブを保持したプローブ保持部材とテーブルとを相対移動させる。すると、被測定物の表面が力センサによって一定の測定力で倣い測定される。
このとき、外乱振動が相対移動機構およびプローブのケース体を介してプローブ本体に伝わると、その外乱振動成分は、力センサからの力検出信号に重畳された状態で検出される。すると、相殺振動発生手段によって、力センサからの力検出信号を基にプローブ本体に伝わる外乱振動を相殺する振動が振動素子から発生される。これにより、外乱振動が相殺される。したがって、簡便かつ安価な構造で、外乱振動の影響を軽減できる。
とくに、この発明では、振動素子を、プローブのケース体とプローブ本体との間に介在させたので、プローブを相対移動機構のプローブ保持部材に取り付けるにも、特別な取付機構を付加する必要がなく、既存の測定機にプローブを簡単に取り付けて使用することができる。
【0014】
本発明の形状測定機は、被測定物を載置するテーブルと、前記被測定物との接触時に発生する測定力を検出し力検出信号として出力する力センサを有するプローブと、このプローブを保持したプローブ保持部材と前記テーブルとを相対移動させる相対移動機構とを備え、前記力センサからの力検出信号が略一定になるように制御しながら、前記被測定物の形状などを測定する形状測定機において、前記プローブと前記プローブ保持部材との間に設けられた振動可能な振動素子と、前記力センサからの力検出信号を基に前記ケース体に伝わる外乱振動を相殺する振動を前記振動素子から発生させる相殺振動発生手段とを有する、ことを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、上述した倣い測定を行うことができるとともに、相対移動機構を介してプローブに伝わる外乱振動を、プローブとプローブ保持部材との間に設けられた振動素子によって相殺することができる。したがって、上記と同様に簡便かつ安価な構造で、外乱振動の影響を軽減できる。
この発明では、プローブのケース体内に振動素子を組み込まなくてもよいから、プローブを大型化することなく、小型に維持できる利点がある。
【0016】
本発明の形状測定機において、前記相殺振動発生手段は、前記力センサの力検出信号から外乱振動を主成分とする信号を通過させるハイパスフィルタ回路と、このハイパスフィルタ回路からの出力を入力として前記振動素子を駆動させ前記振動素子から前記外乱振動を相殺する振動を発生させる駆動回路とを備えた、構成が好ましい。
このような構成によれば、相殺振動発生手段が、力センサの力検出信号から外乱振動を主成分とする信号を通過させるハイパスフィルタ回路と、このハイパスフィルタ回路からの出力を入力として振動素子を駆動させ振動素子から前記外乱振動を相殺する振動を発生させる駆動回路とから構成できるから、簡易に構成できる。
【0017】
本発明の形状測定機において、前記ハイパスフィルタ回路と前記駆動回路との間には、ゲイン調整回路が挿入されている、ことが好ましい。
このような構成によれば、力センサで検出された力検出信号を、測定力に応じた最適な振動振幅に調整できるから、外乱振動を相殺する振動を振動素子から発生させることができる。
【0018】
本発明の倣いプローブ装置は、被測定物との接触時に発生する測定力を検出し力検出信号として出力する力センサを有するプローブと、このプローブに加わる外乱振動を相殺する振動を発生させる外乱振動相殺手段とを備え、前記プローブは、ケース体と、このケース体の内部に往復移動可能に設けられたプローブ本体と、このプローブ本体の先端に設けられた前記力センサと、前記プローブ本体を往復移動させる力センサ移動手段とを含んで構成され、前記外乱振動相殺手段は、前記ケース体と前記プローブ本体との間に設けられ前記プローブ本体の往復移動方向へ振動可能な振動素子と、前記力センサからの力検出信号を基に前記プローブ本体に伝わる外乱振動を相殺する振動を前記振動素子から発生させる相殺振動発生手段とを含んで構成されている、ことを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、被測定物との接触時に発生する測定力を検出し力検出信号として出力する力センサを有するプローブと、このプローブに加わる外乱振動を相殺する振動を発生させる外乱振動相殺手段とを備えているから、既存の測定機において、相対移動機構のプローブ保持部材に倣いプローブを取り付ければ、倣い測定を行う形状測定機に構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
<形状測定機の説明(図1および図2参照)>
図1は、本発明の一実施形態に係る形状測定機の正面図、図2は、同形状測定機の側面図である。
本実施形態に係る形状測定機は、基台1と、被測定物を載置するテーブルとしてのXYステージ2と、このXYステージ2を水平面内の互いに直交するXおよびY軸方向へ変位させるX軸駆動機構3およびY軸駆動機構4と、基台1の上面にXYステージ2を跨いで設けられた門形フレーム5と、この門形フレーム5のクロスレール5Aに設けられたZ軸スライダ6と、このZ軸スライダ6をXおよびY軸方向に対して直交するZ軸方向へ変位させるZ軸駆動機構7と、Z軸スライダ6に取り付けられたプローブ10とを含んで構成されている。
【0021】
XYステージ2は、上面に被測定物を載置する平坦な載置面を有し、その載置面と平行な面内において互いに直交するXおよびY軸方向へ移動可能に設けられている。
X軸駆動機構3およびY軸駆動機構4は、例えば、ボールねじ軸と、このボールねじ軸に螺合されたナット部材とを有する送りねじ機構によって構成されている。
Z軸駆動機構7も、X軸駆動機構3やY軸駆動機構4と同様に、例えば、ボールねじ軸と、このボールねじ軸に螺合されたナット部材とを有する送りねじ機構によって構成されている。
なお、これら X軸駆動機構3およびY軸駆動機構4、門形フレーム5、Z軸スライダ6、Z軸駆動機構7などは、プローブ10を保持したプローブ保持部材としてのZ軸スライダ6とテーブルとしてのXYステージ2とを、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向、つまり、三次元方向へ相対移動させる相対移動機構を構成している。
【0022】
<プローブの説明(図3参照)>
プローブ10は、図3に示すように、相対移動機構のプローブ保持部材としてのZ軸スライダ6に設けられた略長方形箱状のケース体11と、このケース体11の内部に長手方向一端(下端)が外部に露出する状態で設けられた長手状のプローブ本体12と、このプローブ本体12の長手方向一端側(下端)に設けられた力センサ20と、プローブ本体12をZ軸方向に進退させる力センサ移動手段としての駆動アクチュエータ14と、プローブ本体12に取り付けられたスケール15と、このスケール15に基づき駆動アクチュエータ14による力センサ20の変位量(つまり、力センサ20による被測定物の測定位置情報)を検出する位置検出手段としてのスケール検出器16と、ケース体11の上壁とプローブ本体12の長手方向他端(上端)との間に設けられた振動素子17とを備えている。
【0023】
力センサ20は、金属製のベース21と、このベース21と一体的に形成されたスタイラス22と、このスタイラス22を振動(軸方向へ振動)させる加振素子23と、スタイラス22の振動状態を検出し検出信号として出力する検出素子24とから構成されている。加振素子23および検出素子24は、1枚の圧電素子によって構成され、ベース21の表裏にそれぞれ接着固定されている。
加振素子23に対して、特定の周波数と振幅をもつ加振信号を与えると、検出素子24では、特定の周波数と振幅の検出信号が得られる。スタイラス22が被測定物に接触すると、検出信号の振幅が減衰する。減衰率と測定力との間には一定の関係があるため、力センサ20からは、被測定物との接触時に発生する測定力に応じた信号が力検出信号として出力される。つまり、力センサ20は、被測定物との接触時に発生する測定力を検出しこれを力検出信号として出力できる。
したがって、減衰率が常に一定になるように力センサ20と被測定物との距離を制御すれば、測定力一定状態で被測定物の表面形状を倣い測定することができる。
【0024】
振動素子17は、プローブ本体12をその往復移動方向(Z軸方向)と同じ方向へ振動させるもので、プローブ本体12を往復移動させる駆動アクチュエータよりも高応答な圧電素子17Aにより構成されている。
【0025】
<コントローラおよび相殺振動発生手段の説明(図4参照)>
図4は、プローブ10を制御するコントローラ30および相殺振動発生手段50を示すブロック図である。
コントローラ30は、図4に示すように、力センサ20からの力検出信号をアナログからデジタルに変換するA/D変換回路31と、スケール検出器16からの信号をカウントし力センサ20の測定位置情報を位置測定値として出力するカウンタ32と、A/D変換回路31からの出力(力フィードバック信号)と目標測定力との偏差を演算する演算器33と、この演算器33からの出力を入力とした力制御補償器34と、目標位置に対して加減速処理を施す加減算処理回路35と、この加減算処理回路35からの出力とカウンタ32の測定値(位置フィードバック信号)との偏差を演算する演算器36と、この演算器36からの出力を入力とした位置制御補償器37と、カウンタ32からの位置フィードバック信号を微分して速度信号に変換する時間微分回路38と、制御ループ切替手段としてのスイッチ39と、このスイッチ39を介して取り込まれる力制御補償器34または位置制御補償器37からの出力と時間微分回路38からの出力との偏差を求める演算器40と、この演算器40からの出力を入力とした速度補償器41と、この速度補償器41からの出力を基に駆動アクチュエータ14を駆動させる駆動アンプ42と、A/D変換回路31からの出力(力フィードバック信号)に基づきスイッチ39を切り替える接触判定回路43とを含んで構成されている。
【0026】
ここでは、力センサ20、A/D変換回路31、演算器33、力制御補償器34、演算器40、速度補償器41、駆動アンプ42および駆動アクチュエータ14を含んで、力センサ20からの力検出信号を力フィードバック信号として目標測定力と比較し、力フィードバック信号が目標測定力に一致するように駆動アクチュエータ14を駆動させる力制御ループRFが構成されている。
また、スケール検出器16、カウンタ32、演算器36、位置制御補償器37、演算器40、速度補償器41、駆動アンプ42および駆動アクチュエータ14を含んで、スケール検出器16からの測定位置情報を位置フィードバック信号として目標位置と比較し、位置フィードバック信号が目標位置に一致するように駆動アクチュエータ14を駆動させる位置制御ループRPが構成されている。
【0027】
スイッチ39は、接触判定回路43からの切替指令により、力制御側と位置制御側とに切り替え制御され、力制御ループRFと位置制御ループRPのいずれか一方を有効にする。
接触判定回路43は、力センサ20からの力検出信号の減衰率が一定以上になると、つまり、力検出信号の振幅の減衰率が予め設定した値を超えると、力センサ20のスタイラス22が被測定物に接触したと判定し、スイッチ39を位置制御側から力制御側に切り替える。
【0028】
相殺振動発生手段50は、力センサ20からの力検出信号を基にプローブ本体12に伝わる外乱振動を相殺する振動を振動素子17から発生させるもので、力センサ20の力検出信号から外乱振動を主成分とする信号を通過させるハイパスフィルタ回路51と、このハイパスフィルタ回路51からの出力を入力としハイパスフィルタ回路51からの出力の振動振幅を目標測定力に応じて調整するゲイン調整回路52と、このゲイン調整回路52からの出力に基づき振動素子17である圧電素子17Aを駆動させ圧電素子17Aから外乱振動を相殺する振動を発生させる駆動回路としての駆動アンプ53とを備える。
【0029】
<倣い測定動作>
測定にあたっては、まず、プローブ10を被測定物にアプローチする。これには、スイッチ39を位置制御側に切り替えた状態において、位置制御ループRPによりプローブ10を被測定物に接近させる。
プローブ10が被測定物に接近し、スタイラス22が被測定物に接触すると、その接触力(つまり、測定力)が力センサ20により検出される。力センサ20からの力検出信号の減衰率が一定以上になると、つまり、力検出信号の振幅減衰率が予め設定した値を超えると、接触判定回路43は、力センサ20のスタイラス22が被測定物に接触したと判定し、スイッチ39を位置制御側から力制御側に切り替える。これにより、位置制御ループRPから力制御ループRFに切り替えられる。
【0030】
すると、力センサ20からの力検出信号が力フィードバック信号として、力制御ループRFにフィードバックされるため、力センサ20からの力検出信号(力フィードバック信号)が目標測定力に一致するように駆動アクチュエータ14を駆動される。つまり、測定力が一定の倣い測定が実行される。
したがって、このときの走査方向の座標値、つまり、相対移動機構のX、YおよびZ軸方向の座標値とスケール検出器16の検出値とを読み取れば、被測定物の表面性状(形状や粗さ)を求めることができる。
【0031】
この倣い測定において、外乱振動が相対移動機構およびプローブ10のケース体11を介してプローブ本体12に伝わると、その外乱振動成分は、力センサ20からの力検出信号に重畳される。すると、相殺振動発生手段50において、力センサ20からの力検出信号のうち外乱振動を主成分とする信号がハイパスフィルタ回路51を通過し、ゲイン調整回路52に入力され、ここで目標測定力に応じて振幅が調整されたのち、駆動アンプ53に入力される。すると、駆動アンプ53は、ゲイン調整回路52からの出力を基に、圧電素子17Aを駆動させ、外乱振動を相殺する振動を圧電素子17Aから発生させる。つまり、外乱振動成分と同じ方向へプローブ本体12を駆動(振動)させる。これにより、外乱振動が相殺されるので、測定力のばらつきが小さな倣い測定を実現できる。
【0032】
<実施形態の作用効果>
(1)ケース体11とプローブ本体12との間に設けられた振動素子17と、力センサ20からの力検出信号を基にプローブ本体12に伝わる外乱振動を相殺する振動を振動素子17から発生させる相殺振動発生手段50とを備えたので、倣い測定時において、外乱振動が相対移動機構およびプローブ10のケース体11を介してプローブ本体12に伝わると、その外乱振動成分は、力センサ20からの力検出信号に重畳された状態で検出される。すると、相殺振動発生手段50によって、力センサ20からの力検出信号を基にプローブ本体12に伝わる外乱振動を相殺する振動が圧電素子17Aから発生されるから、外乱振動を相殺できる。したがって、簡便かつ安価な構造で、外乱振動の影響を軽減できる。
【0033】
(2)とくに、本実施形態では、圧電素子17Aを、プローブ10のケース体11とプローブ本体12との間に介在させたので、プローブ10を相対移動機構のプローブ保持部材(Z軸スライダ6)に取り付けるにも、特別な取付機構を付加する必要がなく、既存の測定機にプローブ10を簡単に取り付けて使用することができる。
(3)また、圧電素子17Aを組み込んだプローブ10と、このプローブ10に加わる外乱振動を相殺する振動を発生させる相殺振動発生手段50とを備えているから、既存の測定機において、相対移動機構のプローブ保持部材(Z軸スライダ6)にプローブを取り付ければ、倣い測定を行う形状測定機を構成することができる。
【0034】
(4)相殺振動発生手段50は、力センサ20の力検出信号から外乱振動を主成分とする信号を通過させるハイパスフィルタ回路51と、このハイパスフィルタ回路51からの出力により圧電素子17Aを駆動させ圧電素子17Aから外乱振動を相殺する振動を発生させる駆動アンプ53とを含んで構成されているから、簡易に構成できる。
(5)また、ハイパスフィルタ回路51と駆動アンプ53との間にゲイン調整回路52が挿入されているから、力センサ20で検出された力検出信号を、測定力に応じた最適な振動振幅に調整できる。したがって、外乱振動を相殺する振動を圧電素子17Aから発生させることができる。
【0035】
(6)力センサ20として、スタイラス22と、加振素子23と、検出素子24とから構成される加振型の力センサ20を用いているから、小さい測定力で高精度な測定が可能である。その結果、高精度な測定が可能な形状測定機を提供できる。
【0036】
<実施形態の変形例>
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で、以下の変形例をも含む。
前記実施形態では、プローブ10のケース体11内に圧電素子17Aを組み込んだが、これに限られない。例えば、図5に示すように、プローブ10とプローブ保持部材としてのZ軸スライダ6との間に、振動素子17としての圧電素子17Aをプローブ本体12の移動方向(相対移動方向)へ振動可能に組み込んでもよい。なお、この場合、プローブ10とプローブ保持部材としてのZ軸スライダ6との間に、振動素子17としての圧電素子17Aを内蔵したブラケットを介在させるようにしてもよい。
【0037】
このようにすれば、上述した実施形態と同様に、倣い測定を行うことができるとともに、相対移動機構を介してプローブ10に伝わる外乱振動を、プローブ10とZ軸スライダ6との間に設けられた振動素子17によって相殺することができる。したがって、上記と同様に簡便かつ安価な構造で、外乱振動の影響を軽減できる。
また、この例では、プローブ10のケース体11内に振動素子17を組み込まなくてもよいから、プローブ10を大型化することなく、小型に維持できる利点がある。
【0038】
前記実施形態では、力センサ20を有するプローブ10を形状測定機のZ軸スライダ6に取り付けた例を説明したが、力センサ20および振動素子17を有するプローブ10と、このプローブ10に加わる外乱振動を相殺する振動を発生させる外乱振動相殺手段とで倣いプローブ装置を構成するようにしてもよい。なお、ここでいう外乱振動相殺手段とは、プローブ10のケース体11とプローブ本体12との間に設けられプローブ本体12の往復移動方向へ振動可能な振動素子17と、力センサ20からの力検出信号を基にプローブ本体12に伝わる外乱振動を相殺する振動を振動素子17から発生させる相殺振動発生手段50とを含む構成である。
このようにすれば、既存の測定機において、相対移動機構のプローブ保持部材(Z軸スライダ6)にプローブ10を取り付ければ、倣い測定を行う形状測定機を簡単に構成することができる。
【0039】
前記実施形態では、力センサ20として、振動式の力センサを用いたが、これに限られない。例えば、スタイラスに歪みゲージを一体的に取り付けた構造でもよい。スタイラスが被測定物に接触すると、測定力に応じてスタイラスには撓みが生じる。この撓み量を歪みゲージで検出し、測定力に応じた検出信号を出力する構造であってもよい。要は、被測定物との接触時に発生する測定力を検出し力検出信号として出力できる構造であれば、上記例に限られない。
【0040】
前記実施形態では、テーブルとしてのXYステージ2とプローブ保持部材(Z軸スライダ6)とが三次元方向へ移動可能な形状測定機を例として挙げたが、必ずしも、テーブルとプローブ保持部材とが三次元方向へ移動可能な構造に限られない。たとえば、2次元方向へ移動可能な形状測定機であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、被測定物の表面粗さ、形状、輪郭、真円度などを測定する測定機一般に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る形状測定機の正面図。
【図2】前記実施形態の側面図。
【図3】前記実施形態におけるプローブの断面図。
【図4】前記実施形態のコントローラおよび相殺振動発生手段を示すブロック図。
【図5】前記実施形態の変形例を示す図。
【図6】マスターボール(ルビー球など)を倣い測定した測定結果を示す図。
【図7】図6の測定結果からマスターボールの形状を差し引いた後の残差を示す図。
【図8】外乱信号が与えられた際の測定状態を説明する図。
【符号の説明】
【0043】
2…XYステージ(テーブル)、
6…Z軸スライダ(プローブ保持部材)、
10…プローブ、
11…ケース体、
12…プローブ本体、
14…駆動アクチュエータ(力センサ移動手段)、
17…振動素子、
17A…圧電素子、
20…力センサ、
50…相殺振動発生手段、
51…ハイパスフィルタ回路、
52…ゲイン調整回路、
53…駆動アンプ(駆動回路)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物を載置するテーブルと、前記被測定物との接触時に発生する測定力を検出し力検出信号として出力する力センサを有するプローブと、このプローブを保持したプローブ保持部材と前記テーブルとを相対移動させる相対移動機構とを備え、前記力センサからの力検出信号が略一定になるように制御しながら、前記被測定物の形状などを測定する形状測定機において、
前記プローブは、前記プローブ保持部材に保持されたケース体と、このケース体の内部に往復移動可能に設けられたプローブ本体と、このプローブ本体の先端に設けられた前記力センサと、前記プローブ本体を往復移動させる力センサ移動手段とを含んで構成され、
前記ケース体と前記プローブ本体との間に設けられ前記プローブ本体の往復移動方向へ振動可能な振動素子と、前記力センサからの力検出信号を基に前記プローブ本体に伝わる外乱振動を相殺する振動を前記振動素子から発生させる相殺振動発生手段とを有する、
ことを特徴とする形状測定機。
【請求項2】
被測定物を載置するテーブルと、前記被測定物との接触時に発生する測定力を検出し力検出信号として出力する力センサを有するプローブと、このプローブを保持したプローブ保持部材と前記テーブルとを相対移動させる相対移動機構とを備え、前記力センサからの力検出信号が略一定になるように制御しながら、前記被測定物の形状などを測定する形状測定機において、
前記プローブと前記プローブ保持部材との間に設けられた振動可能な振動素子と、前記力センサからの力検出信号を基に前記ケース体に伝わる外乱振動を相殺する振動を前記振動素子から発生させる相殺振動発生手段とを有する、
ことを特徴とする形状測定機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の形状測定機において、
前記相殺振動発生手段は、前記力センサの力検出信号から外乱振動を主成分とする信号を通過させるハイパスフィルタ回路と、このハイパスフィルタ回路からの出力を入力として前記振動素子を駆動させ前記振動素子から前記外乱振動を相殺する振動を発生させる駆動回路とを備えた、
ことを特徴とする形状測定機。
【請求項4】
請求項3に記載の形状測定機において、
前記ハイパスフィルタ回路と前記駆動回路との間には、ゲイン調整回路が挿入されている、
ことを特徴とする形状測定機。
【請求項5】
被測定物との接触時に発生する測定力を検出し力検出信号として出力する力センサを有するプローブと、
このプローブに加わる外乱振動を相殺する振動を発生させる外乱振動相殺手段とを備え、
前記プローブは、ケース体と、このケース体の内部に往復移動可能に設けられたプローブ本体と、このプローブ本体の先端に設けられた前記力センサと、前記プローブ本体を往復移動させる力センサ移動手段とを含んで構成され、
前記外乱振動相殺手段は、前記ケース体と前記プローブ本体との間に設けられ前記プローブ本体の往復移動方向へ振動可能な振動素子と、前記力センサからの力検出信号を基に前記プローブ本体に伝わる外乱振動を相殺する振動を前記振動素子から発生させる相殺振動発生手段とを含んで構成されている、
ことを特徴とする倣いプローブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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