説明

形状測定装置用プローブ及び形状測定装置

【課題】水平面に近い形状を有するときにも高精度かつ低測定力で測定が可能なプローブを提供する。
【解決手段】直動部6は鉛直方向にのみ直動可能に取付部2に支持される。揺動部3は、測定物60の被測定面61に接触するスタイラス121を先端に備えるアーム112を有する。連結機構4は、揺動部3側の支持部材42の尖端を直動部6側の載置台41に形成された溝41aに嵌入することで、揺動部3を直動部6に対して揺動可能に連結する。揺動側磁石51と非揺動側磁石52との間の磁気的吸引力により、アーム112を鉛直方向に向ける付勢力が揺動部3に作用する。可動側磁石71と固定側磁石72との間の磁気力により、直動部3に鉛直方向上向きの付勢力が作用し、直動部3は取付部3に対して鉛直方向に非接触で保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度、低測定力で任意の三次元形状を測定する形状測定装置用プローブ及び形状測定装置に関するものである。詳細には、本発明は、微細化と高精度化が進む産業界のニーズに応えるため、より高精度、低測定力で任意形状を測定でき、穴の内面や穴径の測定、外側面の形状や外径の測定、非球面レンズの形状や外径に対するレンズ面の傾きや偏心、微細表面形状等をサブミクロン以下の高精度、1mN以下の低測定力で応答性良く、速く、かつ信頼性良く測定できる形状測定装置用プローブ及び三次元形状測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
測定物の外側面、内側面、及び穴径等を、1mN以下の低測定力で走査測定可能な従来の三次元形状測定装置及び形状測定装置用プローブとして、特許文献1に記載のものがある。図8及び図9に、特許文献1に記載された従来の三次元形状測定用プローブを示す。
【0003】
図8及び図9に示すプローブ101は、円筒形の取付部2に固定されている載置台41の上面に形成された円錐形の溝41aに嵌入された支点部材42の尖端を中心として、支点部材42、支点部材42が取り付けられている揺動部3、及び揺動部3に取り付けられているスタイラス121がX、Y方向問わずいずれの方向にも揺動可能になっている。
【0004】
揺動部3に固定された可動側磁石51と、取付部材2に取り付けられている固定側保持部材133に固定された固定側磁石52とが、互いに対向して配置されている。可動側磁石51と固定側磁石52は、可動側磁石51と固定側磁石52の個々の対について互いに吸引力が働く向きに固定されている。この吸引力によって揺動部3は下向きに力を受けるので、支点部材42の尖端が載置台41の円錐溝41aの中心に押し付けられて接し、それによって揺動部3の位置ずれ等が防止される。また、揺動部3は、可動側磁石51と固定側磁石52の間の吸引力によって、先端にスタイラス121を備えるアーム122が鉛直方向に延在する中立位置となるように付勢されている。
【0005】
可動側磁石51と固定側磁石51のいずれか一方を磁石ではない磁性体に置換させても両者の間に吸引力が作用するので、先端にスタイラス121を備えるアーム122が鉛直方向に延在する中立位置となるように揺動部3を付勢できる。
【0006】
測定対象となる測定物60の被測定面61の形状測定時には、スタイラス121を被測定面61に所定の押圧力にて押し付ける。すなわち、形状測定時には、スタイラス121が測定物60に微小な測定力を加えた状態で、スタイラス121と測定物60が接する。この測定力の反力がスタイラス121に作用するため、揺動部3は、支点部材42の尖端を中心として傾斜する。
【0007】
このプローブ101を備えた形状測定装置は、スタイラス121先端の微小な測定力が一定になるように、つまり揺動部3の傾斜角度が一定になるように制御しつつ、プローブ101を被測定面61に沿って移動させて走査し、レーザ測長器と基準平面ミラーとを利用して検出したプローブ101と基準面との位置関係に基づいて、被測定面61の表面形状を測定、演算する。測定物60と接触しているスタイラス121の位置を検出する方法としては、形状測定装置からの測定用レーザ光211を揺動部3の中心部に固定されたミラー123で反射させて受光することで揺動部3の鉛直方向の座標情報と傾斜角度を検出し、これらを使用した演算でスタイラス121の位置を求める。そのため、この形状測定装置用のプローブ101を備えた形状測定装置では、その接線方向と鉛直方向とが0度から最大30度までの間の交差角度を有する被測定面61をきわめて高精度に測定することが可能である。
【0008】
【特許文献1】国際公開2007/135857号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された構成で測定可能な被測定面61は、前述のようにこの被測定面61における接線方向と鉛直方向との交差角度が0度から最大で約30度までの間の角度を有する面に限定されている。具体的には、例えば水平面、すなわちその面における接線と鉛直方向との交差角度が90度の面を測定しようとすると、スタイラス121の先端に鉛直方向上向きの力が作用するため、揺動部3が支点部材42の尖端を支点として揺動しない(揺動部3に傾きが生じない)ため、スタイラス121の位置を検出できず、形状測定ができない。
【0010】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することであって、被測定面がほぼ鉛直方向の形状を有するときだけでなく、水平面に近い形状を有するときにも高精度かつ低測定力で測定が可能なプローブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために、以下のように構成されている。
【0012】
本発明の第1の態様は、形状測定装置に取り付けられる取付部と、前記取付部に対して鉛直方向にのみ直動可能に支持される直動部と、測定物の被測定面に接触するスタイラスを先端に備えるアームを有する揺動部と、前記揺動部に設けられた支点部と、前記直動部に設けられて前記支点部が載置される載置部とを備え、前記支点部を支点として揺動可能に前記揺動部を前記直動部に連結する連結機構と、前記揺動部に固定された揺動側部材と、前記直動部に固定されて前記揺動側部材に対して鉛直方向に間隔を隔てて対向する非揺動側部材とを備え、前記揺動側部材と前記非揺動側部材は磁気的吸引力を発生するように構成され、当該磁気的吸引力により前記アームが鉛直方向に向くように前記揺動部を付勢する第1の付勢機構と、前記直動部に固定された可動側部材と、前記取付部に固定されて前記可動側部材に対して鉛直方向に間隔を隔てて対向する固定側部材とを備え、前記可動側部材と前記固定側部材は磁気力を発生するように構成され、当該磁気力により前記取付部に対して鉛直方向に非接触で保持されるように前記直動部を鉛直方向上向きに付勢する第2の付勢機構とを備える形状測定装置用プローブを提供する。
【0013】
被測定面が水平面に近い場合の第1の態様の形状装置測定用プローブの動作ついて説明する。
【0014】
被測定面に接触したスタイラスが測定物から受ける測定力の反力は、水平方向と鉛直方向上向きに分解できる。
【0015】
水平方向の力に対しては、揺動部が連結機構によって直動部に対して支点を中心にして揺動する。また、第1の付勢機構の揺動側部材と非揺動側部材との間の磁力によってアームを鉛直方向に向ける付勢力が揺動部に作用し、この付勢力により揺動部には姿勢を保持しようとする復元力が働く。この復元力によって、スタイラスが測定物を押圧する微小な力、すなわち微小な測定力が発生する。
【0016】
鉛直方向上向きの力に対しては、支点部を備える揺動部に鉛直上向きの力が作用し、この力には支点部を載置部から離そうとする作用がある。しかし、第2の付勢機構の可動側部材と固定側部材の磁気力により直動部が鉛直方向上向きに付勢されている。そして、この付勢力と、直動部の自重と、支点部を介して直動部に作用する揺動部の自重と、揺動部に伝わる反力の鉛直方向成分との釣り合いにより、直動部が鉛直方向上向きに移動する。つまり、これらの力の釣り合いにより載置部が鉛直方向上向きに移動する。その結果、支点部が載置部から離れてしまうのを防止することができる。
【0017】
前記連結機構の前記載置部は上部に円錐溝を備え、前記連結機構の前記支点部は前記揺動部から鉛直方向下向きに突出する針状の突起で構成され、前記円錐溝の最深部と前記支点部材の尖端との接触部を揺動中心として、前記測定面接触部が揺動可能に連結されることが好ましい。
【0018】
連結機構が円錐溝と尖端で揺動部の支点を構成することにより、支点の位置ずれを防止できる。また、揺動側部材と非揺動部材は、円錐溝に嵌入された尖端が外れない方向、つまり支点部と載置部とを互いに押さえつける方向に力がかかるように設置されているため、重力や磁力の影響によって両者がずれることがない。
【0019】
前記揺動側部材及び前記非揺動側部材はいずれも永久磁石で構成され、異極が互いに対向するように配置される。
【0020】
代案としては、前記揺動側部材及び前記非揺動側部材のうちの一方が永久磁石で構成され、他方が磁性体で構成される。
【0021】
前記可動側部材は前記固定側部材よりも上方に位置し、前記可動側部材及び前記固定側部材は磁気的反発力を生じるように異極が互いに対向して配置される。
【0022】
代案としては、前記可動側部材は前記固定側部材よりも下方に位置し、前記可動側部材及び前記固定側部材は磁気的吸引力を生じるように同極が互いに対向して配置される。
【0023】
前記取付部は前記直動部を非接触の空気軸受構造で鉛直方向のみ可動に支持する軸受部を備えることが好ましい。
【0024】
前記直動部のそれ自体の軸線回りに水平方向の回転に抗する磁気回路を生じる磁気回路部を備えることが好ましい。
【0025】
前記揺動部は測定用レーザを反射するためのミラーを備える。
【0026】
本発明の第2の態様は、測定用レーザを反射するためのミラーを備える形状測定装置用プローブと、前記形状測定用プローブが取り付けられた鉛直方向移動部と、前記測定用レーザの前記ミラーにて反射した反射光に基づき前記形状測定装置用プローブの前記鉛直方向移動部に対する鉛直方向の相対的な移動量を検出するフォーカス検出部と、前記測定用レーザの前記ミラーにて反射した反射光に基づき前記形状測定装置用プローブの揺動部の鉛直方向に対する傾斜角度を検出して前記スタイラスの前記被測定面への接触位置である測定点の位置情報を求める測定点情報決定部とを備える形状測定装置を提供する。
【0027】
支点部は直動部に対して固定された位置にあり、支点位置も鉛直方向にしか移動しないようになっている。揺動部に取り付けられたミラーの反射光によって鉛直方向の位置情報が分かれば支点位置についても容易に情報を得ることができ、測定点情報決定部での演算を高精度に実行することができる。支点の位置、つまり揺動部の回転中心の位置が分からなければ、揺動部の傾斜角度をいかに高精度に求められたとしても、傾斜角度の情報だけではどこを中心に揺動部が回転しているのかわからず、結局は測定点の位置情報を演算する際に誤差が生じてしまうからである。
【0028】
前記測定点情報決定部は、前記傾斜角度を検出する傾斜角度検出部と、該傾斜角度検出部から得られた角度信号を前記形状測定装置用プローブに備わる取付部に対するスタイラスの変位量に変換するスタイラス位置演算部と、前記測定用レーザ光を用いて、前記取付部に対する前記測定点の相対位置座標値を求める位置座標演算部と、前記相対位置座標値に前記スタイラスの変位量を加算して前記測定点の位置情報を求める加算部と、
を有するように構成することもできる。
【0029】
また、前記被測定面に沿って2次元又は3次元に移動するステージと、そのステージを、前記フォーカス部から検出される測定面接触部の取付部に対する鉛直方向の相対的な移動量、もしくは前記傾斜角度検出部から検出される傾斜角度から、被測定面に接触した際の垂直反力、すなわち測定力が所定の値になるように制御する制御装置とを更に備えるように構成しても良い。
【発明の効果】
【0030】
本発明の形状測定装置用プローブ及び形状測定装置によれば、スタイラスを先端に備えるアームを含む揺動部は、支持部を支点して揺動可能であるのみでなく、連結機構を介して連結された直動部と共に鉛直方向に移動できる。従って、被測定面の傾斜角度の限定を限定することなく、すなわち被測定面がほぼ鉛直方向の形状を有するときだけでなく水平面に近い場合でも、任意形状の測定面を高精度かつ低測定力で測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の実施形態である形状測定装置用プローブとこの形状測定装置用プローブを備える形状測定装置について、図面を参照しながら以下に詳しく説明する。なお、各図において、同じ構成部分については同じ符号を付している。また、後述する取付部2、揺動部3、及び直動部6等は、特に言及しない限り、一体構造であっても複数の部材ないし部品から構成されていてもよい。
【0032】
形状測定装置は、レンズ形状や機構部品の穴や外形等、任意形状をナノメートルオーダの高い精度で測定可能とする装置である。測定対象としては、例えばレンズに関して言えば、レンズ面形状の測定だけでなく、レンズ側面の真円度や、レンズ側面を基準としたレンズ面の傾き、偏心等で表される位置ずれ等を測定することができるだけでなく、他にもきわめて高精度が必要とされるモータの軸受、インクジェットプリンタにおけるノズル、及び自動車エンジンにおける燃料噴射ノズル等における穴形状や、流体軸受に形成され潤滑剤を収容する溝部の形状、さらには、形状測定装置に備わるマイクロエアスライドの内径、円筒度等も測定することができる。また、半導体回路パターンにおけるトレンチ部分も測定対象に含めることができる。
【0033】
まず、形状測定装置用プローブについて説明する。図1及び図2は、本発明の実施形態にかかる形状測定装置に用いられる形状測定用プローブの斜視図である。図1及び図2に示す形状測定装置用プローブ(以下、単にプローブという)101は、取付部2、揺動部3、連結機構4、及び直動部6を備える。揺動部3(測定面接触部)は、測定対象となる測定物60の被測定面61に接触する部分としてのスタイライス121を下端に有するアーム122を備える。本実施形態のプローブ101は、揺動部3(アーム122)を任意の水平方向、すなわちX、Y方向を問わずにいずれの方向にも傾斜可能とする構成に加え、揺動部3(アーム122)を鉛直方向にのみ並進移動可能とする構成を有することが特徴である。具体的には、取付部2に対して鉛直方向にのみ並進移動可能に直動部6が保持されており、この可動部材6に対して連結機構4によって揺動部3が任意の水平方向に傾斜可能に連結されている。
【0034】
取付部2は形状測定装置201に固定又は着脱可能に取り付けられる。本実施形態における取付部2はブロック部材である。揺動部3が揺動し、かつ直動部6が鉛直方向に可動であるのに対し、取付部2は固定された部材である。取付部2は、中央部に形状測定装置201から照射される測定用レーザ光211を通過可能とするための貫通するレーザ用開口137a,137b,131aを中央部に有し、全体として円筒形である。取付部2は、両端開口の円筒形の本体131と、この本体131の上端側に固定された同様に両端開口の円筒状の取付部材137とを備える。
【0035】
取付部2の取付部材137は、形状測定装置201に対して固定され、又は形状測定装置201に対して嵌め込みによって着脱可能に取り付けられる。取付部材137の上端と下端に前述のレーザ用開口137a,137bが形成されている。
【0036】
取付部2の本体131は、上端の中央部にレーザ用開口131aが形成され、下端に揺動部3の揺動を許容する空間を形成するための揺動開口131bが形成されている。
【0037】
取付部2の本体131の内部には、揺動部3の上端側(後述する載置台41を含む部分)、連結機構4、及び直動部6の上端側が収納される。一方、取付部2の本体131の下端の揺動開口131bからは、揺動部3の下端側(後述する中間部3eと下側部3dを含む。)、及び直動部6の下端側(後述する磁石保持部6bを含む。)が下向きに突出している。
【0038】
本体131の下端の揺動開口131bの内壁には、水平方向に延びる細幅梁状の支持部131cの両端が連結されている。支持部131cの長手方向の中央には、直動部6を鉛直方向に可動に支持する軸受部16が設けられている。また、支持部131cの長手方向の両端の上面側には、一対の固定側磁石72が取り付けられている。これらの固定側磁石72は、直動部6が備える可動側磁石71(後に詳述する)と鉛直方向に間隔を隔てて対向している。
【0039】
連結機構4は、ミラー123に照射される測定用レーザ光211の光軸211aに対して交差するいずれの方向にも揺動可能に、揺動部3を直動部6に支持する機構である。なお、本実施形態では、測定用レーザ光211の光軸211aは、鉛直方向であるZ軸方向に一致する。
【0040】
本実施形態において、連結機構4は、直動部6の上端に固定された載置台(載置部)41と、揺動部3に取り付けられた支点部材(支点部)42とにより構成されている。載置台41の上面には円錐形の溝41aが形成されており、この溝41aに針状の突起である支点部材42の尖端が嵌入している。載置台41と支点部材42は、支点部材42の尖端が円錐形の溝41aの最下点に接触するように構成されている。この構成により、揺動部3は、支点部材42の尖端と円錐形の溝41aの最深部との接触部分を揺動中心ないし支点として、水平方向のいずれの方向(X方向のY方向のいずれの方向)にも揺動可能に載置台41(直動部6)に対して連結される。
【0041】
揺動部3は、測定物60の被測定面61に接触するスタイラス121と、取付部2を通過した測定用レーザ光211を反射するミラー123を有し、被測定面61の形状に応じたスタイラス121の変位に対応して直動部6に対して揺動する。揺動部3は、取付部2の本体131内に収容された上側部3aと、この上側部3aの両端から下向きに延びる一対の連結部3b,3cと、取付部2の下方に位置する連結部3b,3eの下端が両端に連結された下側部3dとを備え、全体として矩形枠状を呈する。また、揺動部3は取付部2の下方であって下側部3dよりも上方に中間部3eを備える。この中間取付部3eも両端が連結部3b,3cに連結されている。
【0042】
揺動部3の上側部3aの下面(揺動部3の内側上壁)には、針状の支点部材42が下向きに突出する姿勢で設けられている。この支点部材42は、前述のように連結機構4の一部を構成する。上側部3aは同様に連結機構4の一部を構成する直動部6の載置台41よりも上方に間隔を隔てて配置されており、支点部材42は載置台41の溝41aに嵌入されている。一方、上側部3aの中心部の上面には前述した測定用レーザ光211を反射するためのミラー123が固定されている。
【0043】
揺動部3の下側部3dに棒状部材であるアーム122の上端側が固定されており、下向きに延びるアーム122の下端にスタイラス121が設けられている。本実施形態では、スタイラス121は、例えば約0.3mm〜約2mmの直径を有する球状体であり、アーム122は、一例として直径が0.7mmで、アーム122の下側部3dへの固定箇所からスタイラス121の中心まで長さは約10mmである。これらの値は、被測定面61の形状により適宜変更される。なお、揺動部3は、支点部材42を溝41aに嵌入して載置台41に連結したときに、アーム122が鉛直方向を向くように、揺動部3の重心が支点部材42の尖端の鉛直方向下側に位置するように構成されていることが好ましい。
【0044】
揺動部3の中間部3eには、複数個(本実施形態では4個)の揺動側磁石51が保持されている。これらの揺動側磁石51は等角度間隔で同心円状に配置されている。揺動側磁石51は、直動部6が備える非揺動側磁石52と上下方向に対向している。また、中間部3eの中央部には上下方向に関する貫通穴3fが形成されており、この貫通穴3fに直動部6が挿通されている。揺動部3の揺動を許容するために、貫通穴3fの穴径は直動部6の外径よりも十分大きく設定されている。
【0045】
揺動部3の具体的な構成は、支点により載置台41に揺動可能に配置される構成である限り、本実施形態のものに限定されない。
【0046】
直動部6は、上下方向に延びる真直な棒状又は筒状である本体6aと、取付部2の本体131内に位置する本体6aの上端側に固定された載置台41と、取付部2の本体131の下方外側に位置する下端側に固定された磁石保持部6bとを備える。
【0047】
直動部6の本体6aは、鉛直方向にのみ直動可能となるように、取付部2に備えられている軸受部16に支持されている。図示は省略しているが、軸受部16には空気流入穴と空気排出穴が設けられている。空気流入穴から供給されて空気排出穴から排出される空気によって、直動部6の本体6aは軸受部16に対して非接触の空気軸受構造で支持されている。この空気軸受構造により、直動部6の横方向(水平方向)の傾斜は防止されるが、鉛直方向へは直動部6がスムーズに昇降する。
【0048】
直動部6の本体6aの上端に固定された載置台41は、X軸方向に延伸された直方体形状になっており、上面の中心に支点部材42の尖端が嵌入される溝41aが形成されている。また、本実施形態では、X軸方向に延伸された載置台41の両端付近に、一対の可動側磁石71が固定されている。これら載置台41に固定された可動側磁石71は、前述した取付部2の支持部131c(載置台41よりも下側に位置する。)に固定された固定側磁石72に対して鉛直方向であるZ軸方向に間隔を隔てて対向している。
【0049】
本実施形態では、直動部6(載置台41)の可動側磁石71と、取付部3(支持部131c)の固定側磁石72は、互いに反発力が作用する向きに固定されている。つまり、可動側磁石71と固定側磁石72は、同極が対向する姿勢で固定されている。可動側磁石71と固定側磁石72との間に作用する反発力により、直動部6に対して鉛直方向上向きの付勢力が作用する。この磁石71,72の反発力による直動部6に対する付勢力と、直動部6の自重及び連結機構4を介して直動部6に作用する力(いずれも鉛直方向下向き)との釣り合いにより、直動部6が上下方向に移動する。
【0050】
直動部6に対して鉛直方向上向きの付勢力が作用する限り、直動部6の可動側磁石71と取付部3の固定側磁石72の上下配置や、磁石71,72間に作用する磁力(反発力か吸引力か)は、本実施形態のものに限定されない。例えば、本実施形態とは上下配置を入れ替えて、直動部6の可動側磁石71を取付部材3の固定側磁石72の下側に配置し、かつ磁石71,72間に吸引力を作用させ、それによって直動部6に鉛直方向上向きの付勢力を作用させてもよい。また、反発力と吸引力の両方の力によって、直動部6に鉛直上向きの付勢力が作用するように、直動部6の可動側磁石71と取付部3の固定側磁石72を配置してもよい。
【0051】
直動部6の本体6aの下端側に固定された磁石保持部6bには、複数個(本実施形態では4個)の非揺動側磁石52が固定されている。これらの非揺動側磁石52は等角度間隔で同心円状に配置されている。
【0052】
図3を参照すると、直動部6の磁石保持部6bは揺動部3の中間部3eよりも下側に位置している。また、磁石保持部6bに固定された4個の非揺動側磁石52と、揺動部3の中間部3eに固定された前述の4個の揺動側磁石51とは、それぞれが鉛直方向であるZ軸方向に間隔を隔てて対向している。
【0053】
また、揺動側磁石51と非揺動側磁石52は、個々の揺動側磁石51と非揺動側磁石52の対の間で互いに吸引力が働く向きに固定されている。つまり、非揺動側磁石51と揺動側磁石52は異極が対向する姿勢で固定されている。揺動側磁石51と非揺動側磁石52との間に作用する吸引力により、揺動側磁石51を保持する揺動部3には鉛直方向であるZ軸方向下向きの付勢力が作用する一方、非揺動側磁石51を保持する直動部6には鉛直方向であるZ軸方向上向きの付勢力が作用する。従って、揺動側磁石51と非揺動側磁石52間の吸引力により、揺動部3に取り付けられている支点部材42と、直動部6に取り付けられている載置台42(支点部材42の下方に配置されている)との間には、互いに押さえ付ける方向に力が作用する。そのため、揺動部3に取り付けられた支点部材42に鉛直方向上向きの力が作用しても、支点部材42の尖端は載置台42に形成された溝41aから外れることなく嵌入された状態を維持する。これにより、重力や磁力の影響による支点部材42のずれが防止される。
【0054】
図3を参照すると、本実施形態では、揺動側磁石51及び非揺動側磁石52それぞれについて、隣り合う磁石の極性の向きが反対になるように配置されている。まず、揺動側磁石51については、下側がN極(上側がS極)の姿勢のものと、下側がS(上側がN極)の姿勢のものとを交互に配置している。また、非揺動側磁石52についても、下側がN極(上側がS極)の姿勢のものと、下側がS(上側がN極)の姿勢のものとを交互に配置している。そして、前述のように揺動側磁石51と非揺動側磁石52との間に吸引力が作用するように、下側がN極の姿勢の揺動側磁石51と上側がS極の姿勢の非揺動側磁石52とを対向させ、下側がS極の姿勢の揺動側磁石51と上側がN極の姿勢の非揺動側磁石52とを対向させている。揺動部3が支点である支持部材42の尖端を中心として水平方向に回転しようとすると、互いに反発力が作用する揺動側磁石51と非揺動側磁石52どうしが対向することになり、この反発力と回転開始前に対向していた揺動側磁石51と非揺動側磁石52の間に作用する吸引力は、支点部材42の回転に対する抗力ないしは復元力として機能する。このように、揺動側磁石51及び非揺動側磁石52のそれぞれについて、磁極の関係を交互に配置することにより、揺動部3が支軸部材42の尖端を中心として水平方向に回転するのを防止できる。ただし、揺動側磁石51及び非揺動側磁石52のいずれについても、極性の向きをすべて同じにする配置を採用すること可能である。
【0055】
直動部6は取付部2に対して、鉛直方向については可動側磁石71と固定側磁石72の反発力によって非接触で保持されており、水平方向については軸受部16が構成する空気軸受によって非接触で保持されている。そして、前述のようにレーザ光211を反射するミラー123とスタイラス121を備えるアーム122とを含む揺動部3は、連結機構4によって直動部6に対して揺動可能に連結されている。つまり、測定物60の被測定面61を走査する部分である直動部6、連結機構4、及び揺動部3は、取付部2に対して非接触の状態で保持されている。このように測定物60の被測定面61を走査する部分が取付部2に対して非接触であるため、形状測定装置で発生した振動等に対する影響を受けにくく、極めて高精度での測定が可能となる。
【0056】
本実施形態のプローブ101は、取付部2内に磁気回路部136を備えている。磁気回路部136は、2つの磁石29a、29bと、2つの磁石をつなげる磁性体リング95、2つのヨーク8a、8b及び、可動側磁性体20を備える。
【0057】
取付部2の本体131の内周壁に磁性体リング95が固定されている。磁石29a,29bは薄板状で上端が磁性体リング95に固定され鉛直方向下向きに延びている。個々の磁石29a,29bの下端側にヨーク8a,8bが固定されている。磁石29a,29bとヨーク8a,8bは、Z軸方向から視ると測定用レーザ光211の光軸211a(取付部2の中心軸と一致する。)に対して対称に配置されている。可動側磁性体20は水平方向に延びる細長い棒状であり、直動部6に取り付けられた載置台41の上面に固定されている。可動側磁性体20の両端は、それぞれ磁石29a,29bに対して隙間を隔てて水平方向に対向している。可動側磁性体20の長さ方向中央部には厚み方向の貫通する穴20aが形成されている。この穴20aを通って支持部材42が載置台41の溝41aに嵌入されている。穴20aの穴径は支持部材42の外径よりも十分大きく設定されているので、揺動部3の揺動により支点部材42が傾いても可動側磁性体20と干渉しない。本実施形態にける磁気回路部136(可動側磁性体20)をZ軸方向から視ると、X軸方向に延伸している載置台41に対して交差する方向に延びており、載置台41と磁気回路部136はZ軸方向から視ると十字形を構成するように配置されている。
【0058】
磁気回路部136は一方の磁石29aからヨーク8a、可動側磁性体20、ヨーク8b、磁石29b、及び磁性体リング95を経て磁石29aに戻る磁気回路を形成する。この磁気回路により、直動部6と揺動部3(連結機構4により直動部6に連結されている)とが、一緒になって水平方向に回転(いわゆる供回り)するのを防ぐことができる。詳細には、直動部6と揺動部3が水平方向に回転しようとすると、磁気回路部136で形成された磁気回路が可動側磁性体20をもとの回転位置に戻すように作用し、それによって供回りが防止される。なお、可動側磁性体20は、磁気回路を形成できるように磁性体で構成し、可動側磁性体20が取り付く載置台41は、磁気の影響を受けないように非磁性体で構成することが好ましい。磁気回路136を設けない構成も可能である。
【0059】
本実施形態におけるプローブ101は、以下のように動作する。
【0060】
まず、図4のうちの非測定時、すなわちスタイラス121が測定物60に接していない状態について説明する。揺動側磁石51と非揺動側磁石52の吸引力により、揺動部3には鉛直方向下向きの付勢力が作用する。この付勢力により支点部材42の尖端は載置台41の溝41aの中心である最深部に接した状態を維持し、揺動部3の可動部6に対する位置ずれ等が防止される。また、揺動側磁石51と非揺動側磁石52の吸引力により、アーム122が鉛直方向に延在する中立位置に維持しようとする復元力が揺動部3に作用する。具体的には、揺動部3は揺動してその中心軸が傾いた場合、揺動側磁石51と非揺動側磁石52の距離が遠ざかることになり、磁石の性質により、一対の磁石を互いに近づける方向に復元力が働き、その結果、揺動部3全体も傾きを戻す方向に復元力が働く。さらに、前述のように揺動側磁石51及び非揺動側磁石52それぞれについて、隣り合う磁石の極性の向きが反対になるように配置されているので、揺動部3が支点(支点部材42の尖端)を中心として水平方向に回転した場合も、回転を戻す方向に復元力が働く。これらにより、非測定時、すなわちスタイラス121が測定物60に接していない状態の揺動部3は、アーム122の延在方向が鉛直方向に一致するように付勢及び姿勢保持される。
【0061】
一方、非測定時の直動部6の鉛直方向の位置は、可動側磁石71と固定側磁石72の反発力による鉛直方向上向きの力と、直動部6の自重と連結機構4を介して作用する揺動部3の自重との和である鉛直方向下向きの力とが釣り合う位置で保持される。
【0062】
次に、図4のうちの測定時について説明する。後に詳述するように、測定物60の被測定面61の形状測定は、揺動部3に取り付けられているスタイラス121を被測定面61に所定の押圧力にて押し付けて行われる。この押圧力は、スタイラス121を被測定面61に接触させた状態から、取付部2を測定物60側へわずかに移動させることで得られ、スタイラス121には被測定面61から押圧力に対応する反力(抗力)が作用する。この反力の水平方向成分により、揺動部3が支点(支持部材41の尖端)を中心として傾斜する。また、反力の鉛直方向成分は、揺動部3に対して鉛直上向きに作用する。この反力の鉛直方向成分(鉛直方向上向き)の分だけ、スタイラス121が測定物61に対して非接触である釣り合い状態での位置から、揺動部3と共に直動部6が取付部3に対して、可動側磁石71と固定側磁石72の反発力が弱まる方向、つまり鉛直方向上向き(Z軸方向上向き)に変位する。要するに、スタイラス121に作用する反力の鉛直方向成分により、揺動部3と共に直動部6が測定物61に対して鉛直方向上向きに変位する。そして、直動部6と揺動部3の鉛直方向の位置は、直動部6の自重、揺動部3の自重、スタイラス121を介して揺動部3に作用する反力(鉛直方向成分)、及び可動側磁石71と固定側磁石72の反発力が釣り合う位置に移動する。そのため、支点部材42の尖端は溝42aの中心に押し付けられた状態を維持し、支点部材42の載置台41に対する位置にずれは生じない。このようにスタイラス121に被測定面61から作用する反力の鉛直成分によっても支点部材42の載置台41に対する位置ずれは生じないので、被測定面61がほぼ鉛直方向の形状を有するときだけでなく、水平面に近い形状を有するときにも、スタイラス121で走査する被測定面61の形状を高精度で追従して、揺動部3が傾斜や鉛直方向上向きの移動を行う。
【0063】
本実施形態におけるプローブ101では、スタイラス121に作用する鉛直方向及び水平方向の力に対する変位量がほぼ同一になるように構成されている。具体的には、スタイラス121に鉛直方向及び水平方向のいずれに0.3mN(≒30mgf)の力が作用した場合でも、スタイライ121には約10μmの変位量が発生する。ただし、プローブ101が鉛直方向と水平方向に略同一の剛性を有していなくてもよい。
【0064】
次に、本実施形態のプローブ101を備える形状測定装置について説明する。
【0065】
一般に、プローブを使用する形状測定装置は、プローブを測定物に接触させ、接触力がほぼ一定になるようにプローブの移動を制御することでプローブを測定物の被測定面に沿って移動させ、レーザ測長器と基準平面ミラーとを利用して、プローブと基準面との位置関係に基づき、被測定面の表面形状を測定、演算するものである。
【0066】
このような形状測定装置としては、主として例えば約400mm角の大きさを有する比較的大型の測定物の測定用であり、図5に示すように、測定物60を石定盤292上に固定する一方、プローブをXY−ステージ295によりX軸方向及びY軸方向に移動させ、Z−ステージ293によってZ軸方向に移動させるタイプ、すなわちプローブ101をX軸、Y軸、及びZ軸の全方向に移動させるタイプの形状測定装置290がある。また、主として例えば約200mm角以下の大きさを有する中型及び小型の測定物の測定用であり、図6に示すように、測定物60を載置したステージ291をX軸及びY軸方向に移動させる一方、プローブ101のみをZ−ステージ293によりZ軸方向に移動させるタイプの形状測定装置がある。図5及び図6において同一の要素には同一の符号を付している。本実施形態の測定装置用プローブ101は、図5及び図6のいずれのタイプの形状測定装置にも適用可能である。
【0067】
以下、図6の形状測定装置290に本実施形態のプローブ101を適用する場合について説明する。
【0068】
図6に示す形状測定装置290は、石定盤292上に設置されたステージ291を備える。このステージ291は、平面状で互いに直交するX軸及びY軸方向に可動であるX−ステージ2911及びY−ステージ2912を有する。測定物60はステージ291上に載置され、プローブ101に対してX軸方向及びY軸方向に相対的に移動する。プローブ101をZ軸方向に可動とするZ−テーブル293が、石定盤292に立設された支柱2921に対してZ軸方向に可動に取り付けられている。X−ステージ2911、Y−ステージ2912、及びZ−テーブル293は駆動部281により駆動され、駆動部281は制御装置280によって制御される。
【0069】
また、形状測定装置290は、レーザ光発光部210を備える。このレーザ光発生部210は、被測定面61上のスタイラス121が接触している点(測定点61a)の位置情報を求めるための測定用レーザ光211(例えば発振周波数安定化He−Neレーザ光)を発生する。
【0070】
さらに、形状測定装置290は測定点情報決定部220を備える。図7を参照すると、測定点情報決定部220は、レーザ光発生部210にて発生したレーザ光211を用いて被測定面61における測定点61aの位置情報を得るための光学系221、並びにX軸、Y軸、Z軸方向の各基準面からのレーザ光と測定点61aからのレーザ光(揺動部3のミラー123で反射されたレーザ光)との干渉に基づき測長を行う公知のレーザ測長部282を備える。レーザ測長部282は、傾斜角度検出部222、スタイラス位置演算部223、位置座標測定部224、及び加算部225を有する。レーザ測長部282は光学系221に光電的に結合され、実際に測定点61aの位置情報を求める機能を有する。
【0071】
レーザ光発生部210にて発生した測定用レーザ光211は、被測定面61の測定点61aの3次元座標位置を求めるため、光学系221にてX、Y、Z座標用の3つにレーザ光に分光される。測定用レーザ光211を分光した3つのレーザ光のうちの1つは、プローブ101と共にX軸方向に移動するミラーと石定盤292に固定されたX軸基準面(いずれも図示せず)とに照射され、これらの反射光は位置座標測定部224のX軸座標測定部224aに導光される。また、測定用レーザ光211を分光した3つのレーザ光のうちの他の1つは、プローブ101と共にY軸方向に移動するミラーと石定盤292に固定されたY軸基準面(いずれも図示せず)とに照射され、これらの反射光は位置座標測定部224のY軸座標測定部224bに導光される。さらに、測定用レーザ光211を分光した3つのレーザ光のうちの残りの1つは、集光レンズ283を介して揺動部3のミラー123に照射される共に、石定盤292に固定されたZ軸基準面(図示せず)に照射され、これらの反射光は位置座標測定部224のZ軸座標測定部224cに導光される。
【0072】
位置座標測定部224のX軸座標測定部224aとY座標測定部224bは、プローブ101と共に位置及び姿勢が変化するミラー123からの反射光と、X座標基準面やY座標基準面からの反射光との干渉信号から、プローブ101のX座標とY座標を算出する。また、位置座標測定部224のZ軸座標測定部224cは、揺動部3のミラー123からの反射光とZ座標基準面からの反射光との干渉信号から、プローブ101のZ座標を算出する。つまり、位置座標測定部224は、X軸、Y軸、及びZ軸基準面を基準として、プローブ101の移動量を測長している。この種のレーザ光の干渉を利用した測長の原理及びそのための具体的な構成は公知であり、例えば特開平1−170243号公報や特開平10−170243号公報に記載されている。
【0073】
傾斜角度検出部222は、測定物60の被測定面61にスタイライ121が接触することによって揺動部3が傾いた量を、揺動部3に取り付けられたミラー123にレーザ光を照射することで検出する。傾斜角度検出部222は、プローブ101が取り付けられたZ−テーブル293に固定されており、Zテーブル293と共に鉛直方向(Z軸方向)に移動する。本実施形態では、傾斜角度検出用のレーザ光として、レーザ発生部210から発振された測定用レーザ光211とは別に、傾斜角度検出用レーザ光発振部222aから発振された傾斜角度検出用レーザ光222cを使用している。揺動部材3のミラー123で反射されて戻ってきた傾斜角度検出用レーザ光222cを受光部222bで受光し、それによって揺動部材3の傾斜角度を検出している。
【0074】
前述のように、位置座標測定部224で測定されるX、Y、及びZ座標は、それぞれの軸に設置されたミラーを基準に、各軸の移動量を測長したものである。特に、Z軸の測長の場合、プローブ101の揺動部3に設置されたミラー123のZ軸方向の位置変化を測長している。しかし、実際にはスタイラス121が測定物60の被測定面61と接している箇所とミラー123との相対的な位置関係は固定されていない。すなわちミラー123が取り付けられた揺動部材3は支持部材42の尖端(支点)を中心にして傾く機構になっている。従って、位置座標測定部224で測定されるX、Y、及びZ座標を揺動部材3が傾いた量を補正する必要がある。この補正をするのがスタイラス位置座標演算部223である。スタイラス位置座標演算部223では、上述の傾斜角度検出部222で検出された傾きから、スタイラス121の先端位置を補正する量(ΔX,ΔY,ΔZ)を決定する。
【0075】
揺動部3の支点部材42は直動部6の載置台41に対して固定された位置にあり、支点位置(支点部材42の尖端)も鉛直方向にしか移動しない。従って、ミラー123の反射光によって鉛直方向の位置情報が得られれば、支点位置についても容易に情報を得ることができ、スタイラス位置座標演算部223での演算を高精度で実行することができる。仮に、支点の位置、つまり揺動部3の回転中心の位置が分からなければ、揺動部3の傾斜角度をいかに高精度に求められたとしても、傾斜角度の情報だけではどこを中心に揺動部3が回転しているのかわからず、結局はスタイライの位置情報を演算する際に誤差が生じてしまうからである。
【0076】
加算部225では、位置座標測定部224で測長されたX、Y、Zの各座標値(X,Y,Z)に、スタイラス位置演算部223にて計算されたスタイラス121の先端位置の補正値(ΔX,ΔY,ΔZ)を加算する演算を実行し、測定点61aの3次元座標位置(X+ΔX,Y+ΔY,Z+ΔZ)を算出する。
【0077】
プローブ101を備える形状測定装置290は、Z軸方向(鉛直方向)について2つの可動部分、すなわちプローブ101全体をZ軸方向に可動するZ−テーブル293と、プローブ101内で可動する直動部6を有する構成となっている。これらのZ軸方向の2つの移動量のうち、ミラー123を取り付けた揺動部3が直動部6と共にプローブ101全体やZテーブル293に対して鉛直方向(Z軸方向)に相対的に移動した量を検出する構成として、フォーカス検出部226が設けられている。前述の傾斜角度検出部222と同様に、フォーカス検出部226はプローブ101が取り付けられたZ−テーブル293に固定されており、Zテーブル293と共に鉛直方向(Z軸方向)に移動する。
【0078】
フォーカス検出部226は、フォーカス検出用レーザ光発振部226aと、フォーカス検出用レーザ光発振部226aから発振された後に揺動部3に取り付けられたミラー123で反射されて戻ってくるフォーカス用レーザ光226cを受光するフォーカス信号検出部226bとからなる。フォーカス検出用レーザ光発振部226aとフォーカス信号検出部226bは、同一位置に配置されている。例えば、フォーカス検出用レーザ光発振部226aとしての半導体レーザと、フォーカス信号検出部226bとしての受光素子との一体化素子により、フォーカス検出部226を構成できる。この場合、一体化素子の受光素子上の集光位置のずれに基づいて、プローブ101全体やZテーブル293に対するミラー123を取り付けた揺動部3と直動部6の移動量を検出する。つまり、フォーカス検出部226により、プローブ101全体やZテーブル293に対するミラー123を取り付けた揺動部材3と直動部6のZ軸方向の相対的な位置関係が把握できる。言い換えれば、フォーカス検出部226により、揺動部材3と直動部6のプローブ101全体やZテーブル293に対する鉛直方向上向きの移動量が得られる。
【0079】
フォーカス検出部226によって検出される揺動部材3と直動部6のプローブ101全体やZテーブル293に対する鉛直方向の相対的な位置関係(揺動部材3と直動部6のプローブ101全体やZテーブル293に対する鉛直方向上向きの移動量)は、主として2つの用途で使用される。第1に、検出された鉛直方向の相対的な位置関係は、制御部280によるフォーカス制御(フォーカス検出部226及び傾斜角度検出部222からミラー123までの距離の制御)に使用される。第2に、検出された鉛直方向の相対的な位置関係から、スタイラス121に被測定面61から作用する反力の鉛直方向成分が分かる。以下、この点について説明する。スタイラス121を測定物60の被測定面61に対して所定の押圧力で押し付けると、スタイライ121には被測定面61からの反力が作用する。そして、この反力の鉛直成分に対応する移動量だけ、揺動部材3と直動部6がプローブ101全体やZテーブル293に対して鉛直上向きに移動する。このようにスタイラス121に作用する反力の鉛直方向成分と、揺動部材3と直動部6のプローブ101全体やZテーブル293に対する鉛直方向上向きの移動量は直接的な相関関係を有する。従って、フォーカス検出部226が検出する揺動部材3と直動部6のプローブ101全体やZテーブル293に対する鉛直方向上向きの移動量から、スタイラス121に作用している反力の鉛直方向成分を計算できる。また、フォーカス検出部226が検出する揺動部材3と直動部6のプローブ101全体やZテーブル293に対する鉛直方向上向きの移動量を制御することで、スタイラス121に被測定面61から作用する反力の鉛直方向成分を制御できる。
【0080】
ミラー123には、合計3本のレーザ光、すなわち測定用レーザ光211、傾斜角度検出用レーザ光222c、及びフォーカス用レーザ光226cが照射される。そのため、3本のレーザの波長や偏光方向を変えることや、レーザ光分岐部227が備えるレーザ光の合流や分岐のためのミラー、プリズム等の光学素子の組合せにより、3本のレーザ光間で互いに干渉が生じないように構成されている。
【0081】
制御装置280は、測定物60の被測定面61をスタイラス121で走査するとき、プローブ101のX、Y、及びZ軸方向の動きを制御する。この制御の方法としては、(1)フォーカス検出部226で検出される揺動部材3と直動部6の上下方向の相対移動量で制御する方法、(2)傾斜角度検出部222で検出される揺動部3の傾斜角度で制御する方法、並びに(3)フォーカス検出部226で検出される揺動部3と直動部6の鉛直方向の相対移動量と傾斜角度検出部222で検出される揺動部3の傾斜角度の両方を用いて制御する方法の3種類のモードが存在する。
【0082】
(1)フォーカス検出部226で検出される揺動部材3と直動部6の上下方向の相対移動量で制御する方法について説明する。この場合、フォーカス検出部226によってプローブ101が取り付けられたZ−テーブル293に対して揺動部3と直動部6が相対的に移動した量を検出し、その量を一定にすることにより、スタイラス121を被測定面に押し込むZ軸方向の力、すなわち測定力が一定になるようにZ軸方向の動作(Z−テーブル293の昇降)を制御しながら測定する。このとき、X及びY軸方向の走査は、予め設定された走査パス等に基づいて走査する。X及びY軸方向の走査による測定物60のZ軸方向の変化に追従してZ−テーブ293を昇降させれば、被測定面61に沿ってZ軸方向の測定力を一定に維持した測定ができる。このとき、傾斜角度検出部222で検出されるスタイラス122の傾斜角度をスタイラス位置演算部223で使用するため、正確に測定点61aの位置座標情報を得ることができる。ただし、測定物60の被測定面61が鉛直方向に平行な面の場合には、スタイラス121に対して鉛直方向に力が加わらず、Z−テーブル293に対する揺動部3と直動部6の鉛直方向の相対的な移動量を検出することができない。そのため、この制御方法は、レンズ面の形状測定等、スタイライ121で被測定面61を上方向から測定することが可能な場合に有効である。
【0083】
(2)傾斜角度検出部222で検出される揺動部3の傾斜角度で制御する方法について説明する。この場合、傾斜角度検出部222で検出される揺動部3の傾斜角度を一定にすることで、スタイラス122を被測定面61へ押し込む力、すなわち測定力が一定になるようにX及びY軸方向の動作(X−ステージ2911及びY−ステージ2912の水平移動)を制御しながら測定する。このとき、Z軸方向の走査パスを固定するか、もしくは予め設定された走査パス等に基づいて走査する一方、X及びY軸方向については被測定面61の変化に対して倣い走査することにより、例えば円筒面等の測定物60の形状測定が可能となる。このとき、フォーカス誤差信号は、Z軸方向の位置制御用に使用する。傾斜角度検出部222で検出される傾斜角度は、X及びY軸方向の動作の制御にするだけでなく、スタイラス位置演算部223で使用するため、正確に測定点61aの位置座標情報を得ることができる。
【0084】
(3)フォーカス検出部226で検出される揺動部3と直動部6の鉛直方向の相対移動量と傾斜角度検出部222で検出される揺動部3の傾斜角度の両方を用いて制御する方法について説明する。この場合、スタイラス122に被測定面61から作用する反力が一定となるように、X及びY軸方向には予め設定された走査パスでスタイラス122を走査しつつ、Z軸方向の動作(Z−テーブル293の昇降)を制御する。以下に示すように、スタイラス122に被測定面61から作用する反力は逐次計算できる。被測定面61に押し付けられることによりスタイラス122に作用する測定力の反力Fは、水平方向の分力Fxと、鉛直方向の分力Fzに分解される。つまり、以下の式(1)の関係が成り立っている。
【0085】
【数1】

【0086】
揺動部3の傾斜は水平方向の分力Fxによって生じ、直動部6の鉛直方向の移動は鉛直方向の分力Fzによって生じる。また、揺動部3の傾き量は傾斜角度検出部222で検出でき、直動部6の移動量はフォーカス検出部226で検出できる。従って、傾斜角度検出部222で検出される揺動部3の傾斜角度と、フォーカス検出部226で検出直動部6の移動量から分力Fx,Fzを計算できる。反力Fは分力Fx,Fzは前述の式(1)で計算できる。
【0087】
また、水平方向の分力Fxと鉛直方向の分力Fzからスタイラス121が被測定面61に接触している箇所(被測定点61a)の傾斜角度を検出できる。この被測定面61の傾斜角度に応じて制御方法を切り換える等の制御も可能である。
【0088】
本実施形態のプローブ101では、ミラー123を取り付けた揺動部3は、支持部材42の尖端を支点して揺動可能であるのみでなく、連結機構4を介して連結された直動部6と共に鉛直方向に移動できる。従って、このプローブ101を備える形状測定装置290では、被測定面61がほぼ鉛直方向の形状を有するときだけでなく、水平面に近い形状を有するときにも、高精度かつ低測定力での測定が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、任意形状の面性状の測定、例えばレンズ等の側面の真円度、レンズ側面を基準としたレンズ面の傾き、偏心等で表される位置ずれ等を測定、任意形状の穴の内面や穴径の測定、及び任意形状の外側面の形状測定等を高精度及び低測定力にて走査測定する形状測定装置、形状測定装置に備わるプローブに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施の形態1における形状測定用プローブの斜視図で、XZ平面で断面したときの斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1における形状測定用プローブの斜視図で、YZ平面で断面したときの斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1における形状測定用プローブの磁石の配置に関する説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1における形状測定用プローブが測定物に接しているときと接していないときとでの差を表す図である。
【図5】図1に示すプローブを備えた形状測定装置の一例を表す図である。
【図6】図1に示すプローブを備えた形状測定装置の他の例を表す図である。
【図7】図6に示す形状測定装置に備わる測定点情報決定部、フォーカス検出部の構成を表す図である。
【図8】従来の特許文献1に開示された従来の形状測定装置に備わるプローブの図である。
【図9】従来の特許文献1に開示された従来の形状測定装置に備わるプローブの図である。
【符号の説明】
【0091】
101 形状測定装置用プローブ
2 取付部
3 揺動部
3a 上側部
3b,3c 連結部
3d 下側部
3e 中間部
4 連結機構
6 直動部
6a 本体
6b 磁石保持部
8a,8b ヨーク
16 軸受部
20 可動側磁性体
20a 穴
29a,29b 磁石
41 載置台
41a 溝
42 支点部材
51 揺動側磁石
52 固定側磁石
60 測定物
61 被測定面
71 可動側磁石
72 固定側磁石
95 磁性体リング
121 スタイラス
122 アーム
123 ミラー
131 本体
131a レーザ用開口
131b 揺動用開口
131c 支持部
136 磁気回路部
137 取付部材
137a,137b レーザ用開口
201 形状測定装置
210 レーザ光発光部
211 測定用レーザ光
220 測定点情報決定部
221 光学系
222 傾斜角度検出部
222a 傾斜角度検出用レーザ光発振部
222b 受光部
222c 傾斜角度検出用レーザ光
223 スタイラス位置演算部
224 位置座標測定部
224a X座標測定部
224b Y座標測定部
224c Z座標測定部
225 加算部
226 フォーカス検出部
226a フォーカス検出用レーザ光発振部
226b フォーカス信号検出部
226c フォーカス用レーザ光
282 レーザ測長部
283 集光レンズ
290 形状測定装置
291 ステージ
292 石定盤
292 XY−ステージ
293 Z−ステージ
2911 X−ステージ
2912 Y−ステージ
2921 支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状測定装置に取り付けられる取付部と、
前記取付部に対して鉛直方向にのみ直動可能に支持される直動部と、
測定物の被測定面に接触するスタイラスを先端に備えるアームを有する揺動部と、
前記揺動部に設けられた支点部と、前記直動部に設けられて前記支点部が載置される載置部とを備え、前記支点部を支点として揺動可能に前記揺動部を前記直動部に連結する連結機構と、
前記揺動部に固定された揺動側部材と、前記直動部に固定されて前記揺動側部材に対して鉛直方向に間隔を隔てて対向する非揺動側部材とを備え、前記揺動側部材と前記非揺動側部材は磁気的吸引力を発生するように構成され、当該磁気的吸引力により前記アームが鉛直方向に向くように前記揺動部を付勢する第1の付勢機構と、
前記直動部に固定された可動側部材と、前記取付部に固定されて前記可動側部材に対して鉛直方向に間隔を隔てて対向する固定側部材とを備え、前記可動側部材と前記固定側部材は磁気力を発生するように構成され、当該磁気力により前記取付部に対して鉛直方向に非接触で保持されるように前記直動部を鉛直方向上向きに付勢する第2の付勢機構と
を備える形状測定装置用プローブ。
【請求項2】
前記連結機構の前記載置部は上部に円錐溝を備え、
前記連結機構の前記支点部は前記揺動部から鉛直方向下向きに突出する針状の突起で構成され、
前記円錐溝の最深部と前記支点部材の尖端との接触部を揺動中心として、前記測定面接触部が揺動可能に連結される、請求項1に記載の形状測定装置用プローブ。
【請求項3】
前記揺動側部材及び前記非揺動側部材はいずれも永久磁石で構成され、異極が互いに対向するように配置されている、請求項1又は請求項2に記載の形状測定装置用プローブ。
【請求項4】
前記揺動側部材及び前記非揺動側部材のうちの一方が永久磁石で構成され、他方が磁性体で構成されている、請求項1又は請求項2に記載の形状測定装置用プローブ。
【請求項5】
前記可動側部材は前記固定側部材よりも上方に位置し、前記可動側部材及び前記固定側部材は磁気的反発力を生じるように異極が互いに対向して配置されている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の形状測定装置用プローブ。
【請求項6】
前記可動側部材は前記固定側部材よりも下方に位置し、前記可動側部材及び前記固定側部材は磁気的吸引力を生じるように同極が互いに対向して配置されている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の形状測定装置用プローブ。
【請求項7】
前記取付部は前記直動部を非接触の空気軸受構造で鉛直方向のみ可動に支持する軸受部を備える、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の形状測定装置用プローブ。
【請求項8】
前記直動部のそれ自体の軸線回りに水平方向の回転に抗する磁気回路を生じる磁気回路部を備える、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の形状測定装置用プローブ。
【請求項9】
前記揺動部は測定用レーザを反射するためのミラーを備える、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の形状測定装置用プローブ。
【請求項10】
請求項9に記載の形状測定装置用プローブと、
前記形状測定用プローブが取り付けられた鉛直方向移動部と、
前記測定用レーザの前記ミラーにて反射した反射光に基づき前記形状測定装置用プローブの前記鉛直方向移動部に対する鉛直方向の相対的な移動量を検出するフォーカス検出部と、
前記測定用レーザの前記ミラーにて反射した反射光に基づき前記形状測定装置用プローブの揺動部の鉛直方向に対する傾斜角度を検出して前記スタイラスの前記被測定面への接触位置である測定点の位置情報を求める測定点情報決定部と
を備える形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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