説明

往復ポンプ

【課題】ピストンパッキンとシリンダ内壁との間の気密性を確保しつつ、温度上昇に起因する両者間の摺動抵抗の増大を可能な限り抑制できる往復ポンプを提供すること。
【解決手段】ピストンパッキン80は、ピストン径φPよりも大きくシリンダ径φCよりも小さい径を有するフランジ部102と、フランジ部102から遠ざかる程、径が大きくなるスカート部104とを有し、スカート部104は、フランジ部102側端部からシリンダ92内壁に当接する開口端部にかけ、縮径方向に弾性変形した状態でシリンダ92に収納されていて、フランジ部102の径の大きさφFとシリンダ92に収納される前のスカート部104の前記開口端部の外径φSの大きさとが、ピストン76が径方向に偏心してフランジ部102の周面の一部がシリンダ92内壁に当接した場合でも、偏心方向と反対方向の前記開口端部部分がシリンダ92内壁と接触状態を維持する関係に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復ポンプに関し、特に、ピストンパッキンの改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
容積形ポンプの一種である往復ポンプは、ピストンの往復運動によりシリンダ内への気体の吸入とシリンダ外への気体の排出を行っている。ピストンがシリンダ内壁と接触せず、かつピストンとシリンダとの間の気密性を確保するため、当該ピストンにはピストンパッキンが取り付けられている。
ピストンパッキンには、種々の形状のものが存在するが、例えば、特許文献1には、図11に示すようなピストンパッキン300が開示されている。図11(a)は、特許文献1に開示された往復ポンプにおけるピストンパッキン300およびその近傍を表した断面図であり、図11(b)は、ピストンパッキン300のシリンダ302内壁との摺動部分(外周部分)を拡大した図である。
【0003】
図11(a)に示すように、ピストンパッキン300は、ピストンロッド304の先端部に設けられたピストン306に取り付けられている。ピストンパッキン300は、円板状部300Aと円板状部300Aの外周から円板状部300Aの主面に略垂直方向に延出された円筒部300Bとを有し、合成樹脂からなる。
円筒部300Bの外径はピストン306の径よりも十分に大きいため、ピストン306とシリンダ302の内壁との非接触状態が確保される。また、円筒部300Bの外周面がシリンダ302の内壁に弾性的に押圧されているため、この部分での気密性が確保されている。
【0004】
また、ポンプ運転中、ピストン306を往復運動させる機構中に生じるこじれ等が原因で、ピストン306に対し、その径方向に大きな力が加わることがあり、ピストン306をその径方向に偏心させる要因になる。ピストン306がその径方向に偏心すると、偏心方向と反対方向のピストンパッキン300外周部分がシリンダ302内壁から離れて、気密性が損なわれることとなる。特許文献1の往復ポンプでは、円筒状部300Bが上記径方向の力を十分に支えることができるため、ピストン306の姿勢が保持され、気密性が損なわれる程の上記偏心を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−144714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1のピストンパッキン300では、往復ポンプの運転中において、円筒部300Bの外周面とシリンダ302の内壁との相対的な摺動により生じる摩擦熱によって、ピストンパッキン300が径方向に膨張する。シリンダは一般的に金属製であり、ピストンパッキンを形成する合成樹脂よりも熱膨張率が小さい。このため、特に、円板状部300Aの膨張に伴い、円筒部300Bのシリンダ302内壁に対する押圧力が増大することとなり、ピストンパッキン300のシリンダ302内壁に対する摺動抵抗が増大してしまう。
【0007】
このため、ピストンパッキン300は、摺動部分の磨耗の進行が早く、寿命が短くなってしまう。また、ピストン306を往復運動させるための動力源であるモータ等に必要なトルクが増大し、当該モータ等の大型化を招来してしまう。
上記した課題に鑑み、本発明は、ピストンパッキンとシリンダ内壁との間の気密性を確保しつつ、温度上昇に起因する両者間の摺動抵抗の増大を可能な限り抑制できる往復ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明に係る往復ポンプは、ピストンの往復運動により、シリンダ内への流体の吸入とシリンダ外への流体の排出を行う往復ポンプであって、前記ピストンの前記往復方向における片側に取り付けられたピストンパッキンを有し、当該ピストンパッキンは、ピストン径よりも大きく、シリンダ径よりも小さい径を有するフランジ部と、前記フランジ部の前記ピストンとは反対側に設けられ、当該フランジ部から遠ざかる程、径が大きくなるスカート部と、を有し、前記スカート部は、前記フランジ部側端部からシリンダ内壁に当接する開口端部にかけ、縮径方向に弾性変形した状態で当該シリンダに収納されていて、前記フランジ部の径の大きさと前記シリンダに収納される前の前記スカート部の前記開口端部の外径の大きさとが、前記ピストンが径方向に偏心して前記フランジ部の周面の一部が前記シリンダ内壁に当接した場合でも、偏心方向と反対方向の前記開口端部部分が前記シリンダ内壁と接触状態を維持する関係に設定されていることを特徴とする。
【0009】
また、前記スカート部の前記フランジ部側端部の外径が前記フランジ部の径よりも小さいことを特徴とする。
さらに、前記流体は、圧縮性流体であり、前記スカート部が囲繞する空間の前記弾性変形を妨げない領域に、前記空間への前記流体の流入を排除するための部材が設けられていることを特徴とする。
【0010】
この場合に、前記部材は、前記ピストンパッキンを前記ピストンに取り付けるための取付部材であることを特徴とする。
また、前記シリンダの軸心を含む断面において、前記スカート部の開口側端面の前記シリンダ内壁面との成す角度が90度以下であることを特徴とする。
さらに、前記往復ポンプは、モータを有し、ピストンの往復運動を前記モータの回転運動を往復直線運動に変換するスコッチ・ヨーク機構によって得ているポンプであって、前記シリンダと前記ピストンパッキンとで、前記スコッチ・ヨーク機構におけるヨークの直動案内機構が構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記の構成からなる往復ポンプによれば、縮径方向に弾性変形した状態でシリンダ内に収納されたスカート部の、当該シリンダ内壁に当接する開口端部で気密性が確保される。
また、ピストンを往復運動させる機構中に生じるこじれ等が原因でピストンに対し径方向に力が加わった場合には、ピストンパッキンのフランジ部がシリンダ内壁に当接して、当該フランジ部がピストンの過度の偏心を防止するストッパーとして機能し、ピストンの姿勢が保持される。
【0012】
さらに、フランジ部(ストッパー)を設けることによって、スカート部の肉厚を薄くすることができる。すなわち、スカート部には、前記ストッパーとしての機能は不要となるため、ピストンに働く径方向の外力を支持する剛性までは不要となり、シリンダ内壁との間の気密性を確保するに足りる弾性(剛性)が備わっていれば十分だからである。
このため、仮に(シリンダ内壁と常時接触する)スカート部にストッパー機能と気密性の確保の機能を持たせる場合と比較して、スカート部(の開口端部)の、シリンダ内壁への押圧力を小さくすることができる。その結果、ピストンの往復に伴う、スカート部のシリンダ内壁に対する摺動抵抗を小さくすることができる。また、スカート部の開口端部がシリンダ内壁を摺動することで発生する摩擦熱も低減できる。
【0013】
また、さらに、この摩擦熱によりスカート部が膨張しても、スカート部は、その形状に因り、径方向において弾性に富むため、スカート部の開口端部のシリンダ内壁への押圧力が大きく増大することはない。
そして、ピストンが径方向に偏心してフランジ部の周面の一部がシリンダ内壁に当接した場合でも、偏心方向と反対方向の開口端部部分がシリンダ内壁と接触状態を維持するため、気密性が損なわれることはない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は実施の形態に係るスコッチ・ヨーク機構の概略構成を示す斜視図であり、(b)は同正面図、(c)は(b)におけるA・A線断面図である。
【図2】上記スコッチ・ヨーク機構の動作を説明するための図である。
【図3】実施の形態に係る往復ポンプの外観斜視図である。
【図4】上記往復ポンプを正面から見た一部断面図であり、図5におけるG・G線に沿って切断したものである。
【図5】上記往復ポンプを上面となる方向から見た一部断面図であり、図4におけるE・E線に沿って切断したものである。
【図6】上記往復ポンプの一部構成部材の分解斜視図である。
【図7】上記往復ポンプの構成部材であるピストン、ピストンパッキン、およびパッキン押えの分解斜視図である。
【図8】上記ピストンパッキンの断面図である。
【図9】(a)は、シリンダ内に収納される前のピストンパッキンの外周部分およびその近傍の拡大図(断面図)であり、(b)は、図4におけるP部拡大図であって、シリンダ内に収納された状態のピストンパッキンの外周部分およびその近傍の拡大図(断面図)であり、(c)は、ピストンパッキンのスカート部の開口端部の形状の一例を示す図である。
【図10】上記往復ポンプの動作を説明するための図である。
【図11】従来の往復ポンプにおけるピストンパッキンを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る往復ポンプの実施の形態について図面を参照しながら説明する。
先ず、実施の形態に係る往復ポンプの説明の前に、当該往復ポンプに用いるスコッチ・ヨーク機構について説明する。
<スコッチ・ヨーク機構>
図1(a)はスコッチ・ヨーク機構10の概略構成を示す斜視図であり、図1(b)は同正面図、図1(c)は図1(b)におけるA・A線断面図である。なお、図1(a)では後述するヨーク14の一部を切断しており、図1(c)ではヨーク14のみを切断している。
【0016】
スコッチ・ヨーク機構10は、回転軸であるクランクシャフト12の回転運動をヨーク14の往復運動に変換する機構である。
クランクシャフト12には、偏心カムであるクランクピン16が取り付けられている。クランクピン16は、円柱状をしており、クランクシャフト12に偏心して取着されている。すなわち、クランクピン16は、その軸心がクランクシャフト12の軸心と平行で、かつ両軸心が一定の間隔を隔てた状態でクランクシャフト12に取り付けられている。
【0017】
クランクシャフト12のクランクピン16への取り付けは、例えば、クランクピン16の軸心から偏心した位置に厚み方向に貫通孔を開設し、当該貫通孔にクランクシャフト12を圧入して行われる。
クランクピン16の外周面(円筒面)には、3個のころがり軸受(本例では、玉軸受)18,20,22がクランクピン16の軸方向に、この順に並設されている。なお、図1(a)では、煩雑さを避けるため、各ころがり軸受(以下、単に「軸受」という。)18,20,22の外輪、内輪、および両輪の間に在る複数の玉等を一体のものとして描いている。ここで、軸受18,20,22をそれぞれ、第1軸受18、第2軸受20、第3軸受22と呼ぶこととする。なお、本例では、この3個の軸受は全て同じもの(同じ仕様のもの)である。
【0018】
図1(b)では、第1〜第3軸受18,20,22の内、第1軸受18が現れている。第1軸受18は、その内輪18Aがクランクピン16に嵌合されて(圧入されて)取り付けられている。これにより、金属製(本例では、ステンレス製)の円環部材である外輪18Cは、クランクピン16の軸回りに回転自在に取り付けられていることになる。残りの第2および第3軸受20,22も、第1軸受18と同様、各々の内輪(図1では不図示)がクランクピン16に圧入されて取り付けられている。
【0019】
ここで、第1〜第3軸受18,20,22の外輪の各々を第1外輪18C、第2外輪20C、第3外輪22C(図1(c))と呼ぶこととする。
ヨーク14は、開口部が長孔24に形成されている枠体26からなる。ヨーク14は、金属と比べて弾性を有する材料、例えば、6ナイロンその他の合成樹脂からなる。
長孔24において長手方向に延びる2つの内周面の内、一方の内周面(図1における上側の内周面)は、図1(c)に示す横断面に現れているように、第2外輪20Cに対応する部分のみが突出している。この突出面が、前記長手方向に一条の帯状に延びていて、第2外輪20C外周との当接面30(以下、「第2当接面30」という)を形成している。第2当接面30の幅は、第2外輪20Cの最大幅と略等しい。第2当接面30は、第2外輪20Cとのみ接触し、第1外輪18Cおよび第3外輪22Cとは常に非接触である。
【0020】
長孔24において長手方向に延びる2つの内周面の内の他方の内周面(図1における下側の内周面)は、図1(c)に示す横断面に現れているように、第2外輪20Cに対応する部分のみが窪んでいる(前記長手方向に溝が形成されている。)。換言すると、第1外輪18Cおよび第3外輪22Cに対応する部分のみが突出している。この両突出面の各々が、前記長手方向に一条の帯条に延びていて、それぞれ第1外輪18Cの外周面および第3外輪22Cの外周面との当接面28,32を形成している。第1外輪18Cに対応する当接面28を第1当接面28、第3外輪22に対応する当接面32を第3当接面32と称することとする。第1当接面28と第3当接面32は、それぞれ、第1外輪18Cおよび第3外輪22Cとのみ接触し、第2外輪20Cとは常に非接触である。第1当接面28と第3当接面32とは、同一平面上に在る。
【0021】
第1当接面28と第3当接面32の各々の幅は、第2当接面30の幅の半分としている。すなわち、第1当接面28の第1外輪18Cとの接触幅および第3当接面32の第3外輪22Cとの接触幅の各々は、第2当接面30の第2外輪20Cとの接触幅の半分としている。このようにした理由については後述する。
また、第1〜第3軸受18,20,22が取着されたクランクピン16が組み込まれる前のヨーク14における第2当接面30と第1当接面28および第3当接面32との間の前記長手方向と直交する方向の距離D(図1(c))は、第1〜第3外輪18C,20C,22Cの直径よりも若干短く設定している。したがって、第1〜第3軸受18,20,22が取着されたクランクピン16を、枠体26に組み込む際には、第1〜第3軸受18,20,22を、枠体26に圧入することとなる。すなわち、第1外輪18Cおよび第3外輪22Cは、それぞれ第1当接面28および第3当接面32から押圧力を受け、第2外輪20Cは第2当接面30から押圧力を受けるように、枠体26に圧入されている。このようにした理由についても後述する。
【0022】
ヨーク14は、往復ポンプの構成部材として組み込まれた状態で、長孔24の長手方向と直交する方向(第1〜第3当接面28,30,32と直交する方向)に直動案内されているのであるが、当該直動案内の機構については後述することとし、以下、ヨーク14が前記直動案内をされているとの前提の下で、スコッチ・ヨーク機構10の動作について、図2を参照しながら説明する。
【0023】
図2(a)〜図2(d)は、スコッチ・ヨーク機構10の正面図であり、図2(b)、図2(c)、図2(d)は、図2(a)に示す状態から、クランクシャフト12が矢印Rの向きに、90度ずつ回転したときの状態を示している。
図2(e)は、図2(a)におけるB・B線断面図であり、図2(f)、図2(g)は、それぞれ、図2(e)の場合と同様に切断した断面図であり、図2(h)は、図2(d)におけるC・C線断面図である。図2(e)〜図2(h)では、ヨーク14のみを切断している。
【0024】
なお、便宜上、図2に向って紙面上側を上方、紙面下側を下方として説明する。
クランクシャフト12の軸心に対し、偏心したクランクピン16の外周が最も上方に張り出し、ヨーク14が最も上方に位置する上死点の状態(図2(a)、図2(e))から、クランクシャフト12が矢印Rの向きに回転されると、第1外輪18Cおよび第3外輪22Cの外周が、それぞれ、ヨーク14の第1当接面28および第3当接面32を押下する(図2(f))。
【0025】
これにより、ヨーク14は下方へ移動する(便宜上、ヨーク14の下方への移動を「往動」とする)。そして、クランクピン16の外周が最も下方に張り出し、ヨーク14が最も下方に位置する下死点(図2(c)、図2(g))に至るまで、第1外輪18Cおよび第3外輪22Cの外周が、それぞれ、ヨーク14の第1当接面28および第3当接面32を押下し続ける。
【0026】
下死点の状態(図2(c)、図2(g))から、さらに、クランクシャフト12が矢印Rの向きに回転されると、今度は、第2外輪20Cの外周が、ヨーク14の第2当接面30を押し上げる(図2(h))。
これにより、ヨーク14は上方へ移動する(便宜上、ヨーク14の上方への移動を「復動」とする。)。そして、クランクピン16の外周が最も上方に張り出し、ヨーク14が最も上方に位置する上死点(図2(a)、図2(e))に至るまで、第2外輪20Cの外周が、それぞれ、ヨーク14の第2当接面30を押し上げ続ける。
【0027】
以上、クランクシャフト12が1回転するとヨーク14が上下方向に1往復する。
この間、第1外輪18Cおよび第3外輪22Cは、それぞれ、第1当接面28および第3当接面32と常時接触している。
従来のスコッチ・ヨーク機構は、軸受はクランクピンに1個だけ取着され、ヨークの開口部は単純な長孔(長円形)であり、かつ、長孔の短径は軸受の外径よりも長く設定された構成をしている。すなわち、ヨークの往動中と復動中において、ヨークの移動方向と反対方向のヨーク内周面と軸受外周との間には間隙が生じる設定としている。このため、ヨークが上死点から復動へ移行する際には、ヨーク内周面の下面に軸受が衝突して、衝突音が発生している。
【0028】
これに対し、上記の通り、本実施の形態では、第1外輪18Cおよび第3外輪22Cは、それぞれ、第1当接面28および第3当接面32と常時接触しているため、軸受とヨークとの上記従来のような衝突が生じない。
また、第2外輪20Cは、第2当接面30と常時接触している。このため、上記従来のスコッチ・ヨーク機構において、ヨークが下死点から復動へ移行する際に生じていた軸受とヨークとの衝突が生じない。
【0029】
すなわち、上記従来のスコッチ・ヨーク機構において、ヨークが1往復する間に(クランクシャフトが1回転する間に)、2回発生していた衝突音が、本実施の形態に係るスコッチ・ヨーク機構ではほとんど発生しないため、当該衝突音に起因する騒音を抑制することができる。
なお、第1〜第3外輪18C,20C,22Cを対応する当接面と常時接触させているが、これによる問題は、以下の理由によりほとんど生じない。
【0030】
ヨークの往動中、当該往動に寄与しない第2外輪20Cが第2当接面30と接触し続ける。上死点(図2(a))からクランクシャフト12が矢印Rの向きに90度回転する間、第2外輪20Cは、第2当接面30と接触しつつ左向きに移動するが、第2外輪20Cは、クランクピン16に対し、回転自在に設けられているため、クランクシャフト12の回転方向とは逆向きに回転して、第2当接面30上を転動することができる。このため、第2外輪20Cと第2当接面30との間の摩擦抵抗を可能な限り抑制できるため、スコッチ・ヨーク機構における機械損失の増大を可能な限り抑制することができる。
【0031】
ヨークの復動中も、同様、当該復動に寄与しない第1外輪18Cおよび第3外輪22Cが、それぞれ第1当接面28および第3当接面32と接触し続ける。下死点(図2(c))からクランクシャフト12が矢印Rの向きに90度回転する間、第1外輪18Cおよび第3外輪22Cは、それぞれ、第1当接面28および第3当接面32と接触しつつ右向きに移動するが、第1外輪18Cおよび第3外輪22Cは、クランクピン16に対し、回転自在に設けられているため、クランクシャフト12の回転方向とは逆向きに回転して、それぞれ第1当接面28および第3当接面32上を転動することができる。このため、第1外輪18Cおよび第3外輪22Cと第1当接面28および第3当接面32との間の摩擦抵抗を可能な限り抑制できるため、スコッチ・ヨーク機構における機械損失の増大を可能な限り抑制することができる。
【0032】
また、スコッチ・ヨーク機構10を後述する往復ポンプに用いる場合、クランクシャフト12は、例えば、回転数4500[rpm]の速さで回転される。この場合、スコッチ・ヨーク機構10を構成する各部材間等の摩擦熱等に起因して、スコッチ・ヨーク機構10全体が昇温する。ヨーク14を形成する合成樹脂は、第1〜第3軸受18,20,22を形成する金属よりも、一般に、熱膨張係数が大きい。このため、何ら手当てしない場合は、ヨーク14における長孔24の短径(第2当接面30と第1当接面28および第3当接面32との間の長孔24の長手方向と直交する方向の距離(図1(c)の「D」に相当)が、第1〜第3外輪18C,20C,22Cの外径よりも大きくなり、第1〜第3外輪18C,20C,22Cが対応する当接面28,30,32と常には接触しなくなるおそれが生じる。
【0033】
しかしながら、本実施の形態では、上述したように、第1〜第3軸受18,20,22を、枠体26に圧入している。このときの上記距離D(図1(c))を、スコッチ・ヨーク機構10の動作中に生じる、ヨーク14と第1〜第3外輪18C,20C,22Cとの熱膨張差を考慮して設定しておくことで、第1〜第3外輪18C,20C,22Cが対応する当接面28,30,32と非接触状態となる事態を可能な限り防止することができる。
【0034】
次に、第1当接面28の第1外輪18Cとの接触幅および第3当接面32の第3外輪22Cとの接触幅の各々を、第2当接面30の第2外輪20Cとの接触幅の半分としている理由について説明する。
これは、ヨーク14を押動するために必要最小限の接触幅とし、ヨーク14全体の重量の増加を抑制するためである。
【0035】
すなわち、上記の構成とすることで、ヨーク14の往動中において第1および第3当接面28,32と第1および第3外輪18C,22Cとの間で生じる接触面圧と、復動中において第2当接面30と第2外輪20Cとの間で生じる接触面圧とが略等しくなる。これにより、第1および第3当接面28,32の幅が過剰に大きくなることを回避し、もって、ヨーク14全体の重量が無用に大きくなることを防止できるからである。
【0036】
なお、第1および第3軸受18,22は、第1および第3当接面28,32の幅に合致した幅の外輪を有するものを用いても構わない。すなわち、第1および第3軸受18,22を、第2軸受20の半分の幅のものとしても構わない。
<往復ポンプの全体構成>
図3は、スコッチ・ヨーク機構10(図1)が組み込こまれた往復ポンプ40の外観を示す斜視図である。
【0037】
往復ポンプ40は、スコッチ・ヨーク機構10や後述する第1および第2ピストン74,76等が収納されたアルミ製のシリンダブロック42と、シリンダブロック42を挟むように設けられた第1吸・排気ブロック44および第2吸・排気ブロック46(内部構造は、後で詳述する)を有し、第1および第2ピストン74,76の往復運動により、後述する吸気ポートに取り付けられた管継ぎ手48から空気を吸い込み、吸い込んだ空気を後述する排気ポートに取り付けられたサイレンサ50から吐き出す真空ポンプである。当該真空ポンプは、例えば、管継ぎ手48に接続されたチューブ(不図示)を、小ねじその他の小型部品を吸着する真空チャック装置(不図示)に配管して用いられる。
【0038】
第1吸・排気ブロック44および第2吸・排気ブロック46は、それぞれシリンダブロック42に、ガスケット52、仕切板54、ガスケット56、およびガスケット58、仕切板60、ガスケット62を間に挟み、不図示のねじで取り付けられている。
また、シリンダブロック42の下側には、L字断面を有するアングルブラケット64を挟んでモータ66が取り付けられている。アングルブラケット64は、往復ポンプ40を、例えば、壁面その他の構造物に取り付けるためのものである。
【0039】
往復ポンプ40を正面から見た一部断面図を図4に、上面となる方向から見た一部断面図を図5に示す。なお、図4に示す断面は、図5におけるG・G線に沿って切断したものであり、図5に示す断面は、図4におけるE・E線に沿って切断したものである。また、図5では、スコッチ・ヨーク機構10、後述する第1および第2ピストン74,76、第1および第2パッキン78,80は切断していない。
【0040】
また、図6に、第1吸・排気ブロック44、ガスケット56、仕切板54、ガスケット52、シリンダブロック42、ガスケット58、仕切板60、ガスケット62、および第2吸・排気ブロック46の分解斜視図を示す。
なお、上述したスコッチ・ヨーク機構10の構成要素については、図1に用いたのと同じ符号を図4、図5、および図6でも使用し、必要に応じて言及するに止める。
【0041】
図4に示すように、本例では、モータ66の出力軸がクランクシャフト12となっている。クランクシャフト12の先端部は、シリンダブロック42の内壁凹所に取り付けられた玉軸受68に回転自在に軸支されている。
クランクピン16よりもモータ66本体寄りのクランクシャフト12部分には、バランスウエイト70が取り付けられている。バランスウエイト70は、金属製(例えば、ステンレス製)の円柱体からなり、当該円柱体の軸心と平行に当該軸心から偏心させて貫通孔を開設したものである。また、径方向において厚肉部分には、当該径方向に雌ねじが形成されている。バランスウエイト70は、前記貫通孔にクランクシャフト12を挿入した後、前記雌ねじに止めねじ72を螺合させてクランクシャフト12に固定されている。バランスウエイト70は、クランクシャフト12に対する偏心の向きがクランクピン16と反対になるように取り付けられている。これにより、バランスウエイト70は、クランクシャフト12の回転の際のクランクピン16に対するカウンターバランスとして機能する。
【0042】
ヨーク14には、長孔24(図5)の長手方向と直交する方向の両端部の各々に第1ピストン74および第2ピストン76が一体的に形成されている。第1および第2ピストン74,76は射出成型などによりヨーク14と一体的に形成されている。よって、第1および第2ピストン74,76は、ヨーク14と同じ6ナイロンその他の合成樹脂からなる。
【0043】
図7に、第1および第2ピストン74,76、後述する第1および第2ピストンパッキン78,80、第1および第2パッキン押え82,84の分解斜視図を示す。以下、図7も参照しながら説明する。
第1および第2ピストン74,76は、略同じ形状をしており、それぞれ、円板部74A,76A、円板部74,76中心から突出した円柱部74B,76B、および円柱部74A,76Aと同心円上に円柱部74,76を取り囲む円筒部74C,76Cを有している。また、円柱部74A,76Aには、その軸心方向に雌ねじ74D,76Dが形成されている。第1および第2ピストン74,76の中心(すなわち、円板部74A,76Aの中心軸)は同一軸心上に在って、当該軸心(以下、「ピストン軸」と言う。)は第2軸受20(第2外輪20C)を通っている。
【0044】
第1ピストン74および第2ピストン76には、それぞれ、全体的にリング状をした第1ピストンパッキン78(以下、単に「第1パッキン78」と言う。)および第2ピストンパッキン80(以下、単に「第2パッキン80」と言う。)が嵌め込まれている。第1および第2パッキン78,80は、ブロンズが充填されたPTFE(ポリテトラフルオラエチレン)からなる。第1および第2パッキン78,80の詳細については後述する。
【0045】
第1パッキン78および第2パッキン80にはそれぞれ、円形の皿状をした第1パッキン押え82および第2パッキン押え84が被せられている。第1および第2パッキン押え82,84の各々の中心には、テーパ状をした貫通孔82A,84Aが開設されている。第1および第2パッキン押え82,84の各々は、貫通孔82A,84Aに挿入され、雌ねじ74D,76Dにそれぞれ螺合したさら小ねじ86,88で、第1ピストン74および第2ピストン76に固定されている。第1および第2パッキン押え82,84は、6ナイロンその他の合成樹脂からなる。
【0046】
図6に示すように、シリンダブロック42には、スコッチ・ヨーク機構10、第1および第2ピストン74,76、第1および第2パッキン78,80、第1および第2パッキン押え82,84などを収納する貫通孔42Aが開設されている。貫通孔42Aの両開口端部部分には、円筒形をした第1シリンダ90および第2シリンダ92が圧入されている(図6では、第2シリンダ92のみが現れている)。第1シリンダ90によって、第1ピストン74等の移動空間である第1シリンダ室90Aが創出され、第2シリンダ92によって、第2ピストン76等の移動空間である第2シリンダ室92Aが創出される。第1および第2シリンダ90,92は、焼入れ鋼からなる。
【0047】
第1および第2ピストン74,76の各々に取り付けられた第1および第2パッキン78,80は、それぞれ第1および第2シリンダ90,92内周面で、前記ピストン軸方向に直動案内されている。これにより、第1および第2ピストン74,76と一体的に形成されたヨーク14も同様に直動案内されている。すなわち、第1および第2シリンダ90,92と第1および第2パッキン78,80とでスコッチ・ヨーク機構10におけるヨーク14の直動案内機構が構成されている。
【0048】
第1および第2吸・排気ブロック44,46は、アルミニウムからなる。
第1吸・排気ブロック44は、直方体状に窪んだ第1排気室44Aおよび第1吸気室44Bを有する。第1排気室44Aと第1吸気室44Bとは、隔壁44Cで仕切られている。第1吸気室44Bの下部には、雌ねじの形成された吸気ポート44Dが開設されている。管継ぎ手48(図4)は、当該雌ねじにねじ込まれて取り付けられている。
【0049】
第2吸・排気ブロック46も、第1吸・排気ブロック44と同様、直方体状に窪んだ第2排気室46Aおよび第2吸気室46Bを有する、第2排気室46Aと第2吸気室46Bとは隔壁46Cで仕切られている。第2排気室46Aの下部には、雌ねじの形成された排気ポート46Dが開設されている。サイレンサ50は、当該雌ねじにねじ込まれて取り付けられている。
【0050】
仕切板54,60は、アルミニウムからなる。
仕切板54は、第1排気室44Aおよび第1吸気室44Bと第1シリンダ室90Aとを仕切るものである。仕切板54は、その中央領域に開設された4個の貫通孔54A,54B,54C,54Dを有する。また、仕切板54は、上部コーナーに2個の貫通孔54E,54Fを有する。
【0051】
仕切板60は、第2排気室46Aおよび第2吸気室46Bと第2シリンダ室92Aとを仕切るものである。仕切板60は、その中央領域に開設された4個の貫通孔60A,60B,60C,60Dを有する。また、仕切板60は、上部コーナーに2個の貫通孔60E,60Fを有する。
ガスケット56,52,58,62は、ポリエチレンからなり、厚み0.3[mm]の可撓性を有するシート状をしている。
【0052】
第1吸・排気ブロック44と仕切板54との間に設けられたガスケット56は、第1排気室44Aと第1吸気室44Bの各々に対応した方形の窓56A,56Bを有する。第1排気室44Aに対応する窓56Aの中央に向って、両窓56A,56Bを区切る枠部56Cから、舌片状をした一対の排気弁56D,56Eが延出されている。
排気弁56D,56Eは、それぞれ、貫通孔54A,54Bに対応する。排気弁56D,56Eは、後述するように、貫通孔54A,54Bを閉塞し、または貫通孔54A,54Bを開放する。
【0053】
仕切板54とシリンダブロック42との間に設けられたガスケット52は、シリンダブロック42の貫通孔42Aに対応した円形の窓52Aを有する。窓52Aの周縁から、舌片状をした一対の吸気弁52B,52Cが延出されている。吸気弁52B,52Cは、それぞれ、貫通孔54C,54Dに対応する。吸気弁52B,52Cは、後述するように、貫通孔54C,54Dを閉塞し、または貫通孔54C,54Dを開放する。
【0054】
ガスケット52は、また、上部コーナーに2個の貫通孔52D,52Eを有する。
第2吸・排気ブロック46と仕切板60との間に設けられたガスケット62は、第2排気室46Aと第2吸気室46Bの各々に対応した方形の窓62A,62Bを有する。第2排気室46Aに対応する窓62Aの中央に向って、両窓62A,62Bを区切る枠部62Cから、舌片状をした一対の排気弁62D,62Eが延出されている。
【0055】
排気弁62D,62Eは、それぞれ、貫通孔60A,60Bに対応する。排気弁62D,62Eは、後述するように、貫通孔60A,60Bを閉塞し、または貫通孔60A,60Bを開放する。
仕切板60とシリンダブロック42との間に設けられたガスケット58は、シリンダブロック42の貫通孔42Aに対応した円形の窓58Aを有する。窓58Aの周縁から、舌片状をした一対の吸気弁58B,58Cが延出されている。吸気弁58B,58Cは、それぞれ、貫通孔60C,60Dに対応する。吸気弁58B,58Cは、後述するように、貫通孔60C,60Dを閉塞し、または貫通孔60C,60Dを開放する。
【0056】
ガスケット58は、また、上部コーナーに2個の貫通孔58D,58Eを有する。
シリンダブロック42は、上部コーナーに2個の貫通孔42B、42Cを有する。
第1吸・排気ブロック44、ガスケット56、仕切板54、ガスケット52、シリンダブロック42、ガスケット58、仕切板60、ガスケット62、および第2吸・排気ブロック46が組み立てられた状態(図3、図4、図5)で、第1排気室44Aと第2排気室46Aとは、窓56A、貫通孔54E、貫通孔52D、貫通孔42B、貫通孔58D、貫通孔60E、および窓62Aを介して連通されている。すなわち、第1排気室44Aから第2排気室46Aにいたる上記一連の開口部で排気室連絡路94が構成されている。
【0057】
また、第1吸気室44Bと第2吸気室46Bとが、窓56B、貫通孔54F、貫通孔52E、貫通孔42C、貫通孔58E、貫通孔60F、および窓62Bを介して連通されている。すなわち、第1吸気室44Bから第2吸気室46Bに至る上記一連の開口部で吸気室連絡路96が構成されている。
<ピストンパッキン>
第1パッキン78と第2パッキン80とは、同じ形状をしているので、ここでは、第2パッキン80を代表に説明する。
【0058】
図8は、第2パッキン80の断面図である。
第2パッキン80は、円環状をしたフランジ部102を有する。フランジ部102の横断面は、図8に示すように、径方向に長い長方形をしている。
フランジ部102の一方の側面には、テーパ状に開き、フランジ部102から遠ざかる程、径が大きくなるスカート部104が設けられている。フランジ部102の中心軸とスカート部104の中心軸とは一致している。本例では、フランジ部102とスカート部104とは一体成型されている。
【0059】
スカート部104のフランジ部102側端部の外径は、フランジ部102の外径よりも小さく(すなわち、スカート部104のフランジ部102側端部は、前記側面の外周縁よりも内側に位置しており)、スカート部104の開口端部の外径は、フランジ部102の外径よりも大きくなっている。
図9(b)に、図4におけるP部拡大図を示す。すなわち、図9(b)は、シリンダ92内に収納された状態の第2パッキン80の外周部分およびその近傍の拡大図(断面図)である。
【0060】
図9(a)に、シリンダ92内に収納される前の第2パッキン80の外周部分およびその近傍の拡大図(断面図)を示す。
図9(a)に示すように、フランジ部102は、その両側面を第2ピストン76と第2パッキン押え84とで挟持されて、第2ピストン76に取り付けられている。前記両側面の内、第2ピストン76の外周よりも突出した部分およびスカート部104が突出した部分を除いて、第2ピストン76と第2パッキン押え84とで挟持されている。
【0061】
第2パッキン80の第2ピストン76への取付部材である第2パッキン押え84は、スカート部104の内側に設けられており、スカート部104が囲繞する空間への空気の流入を排除するための部材としても機能している。第2パッキン押え84は、スカート部104が囲繞する空間の内、スカート部104の後述する弾性変形を妨げない領域に設けられており、当該空間のほとんどを埋めている。このようにした理由は後述する。
【0062】
ここで、図9(a)に示すように、第2ピストン76の径(外径)をφP、フランジ部102の径(外径)をφF、フランジ部102の厚みをT、スカート部104の開口端部の外径をφS、スカート部104の厚みをt、スカート部104のテーパ角をαとする。また、図9(b)に示すように、第2シリンダ92の径(内径)をφCとする。
φFはφPよりも大きくφCよりも小さく(φP<φF<φC)設定されている。また、φSはφCよりも大きく(φC<φS)設定されている。
【0063】
φFがφPよりも大きいため(φP<φF)、第2ピストン76が第2シリンダ92内壁に接触するのを防止できる。
また、φSはφCよりも大きいため(φC<φS)、第2パッキン80は、第2シリンダ92内に収納された状態で、スカート部104の開口端部が第2シリンダ92内壁に当接しており、スカート部104は、フランジ部102側端部から前記開口端部にかけて、縮径方向に弾性変形している。よって、スカート部104は、第2シリンダ92内に収納された状態で、拡径方向に復元しようとして、前記開口端部(の外周部分)が第2シリンダ92内壁を押圧する(復元力を作用する)。これにより当該開口端部(の外周部分)が第2シリンダ92内壁に密着して気密性が確保される。また、密着するのは、テーパ状に開いたスカート部104の開口端部であるため、第2シリンダ92内壁との接触部分(密着部分)は、線接触に近い形になる。
【0064】
また、スカート部104の前記開口端部は、第2シリンダ92の内壁から、前記復元力に対する反力を受ける。スカート部104と第2シリンダ92内壁とは共に円形断面をしているため、前記反力は、スカート部104の全周に渡ってほぼ均等に作用する。これにより、外力が働かない限り、スカート部104は、第2シリンダ92内において径方向に偏心せず中央に位置決めされる。
【0065】
このため、通常は、フランジ部102の周面は、第2シリンダ92内壁と非接触状態である(φF<φC)。しかし、ヨーク14の往復運動中に、ヨーク14のこじれ等が原因で、第2ピストン76(第1ピストン74についても同様であるが)に対し、その径方向に力が加わることがあり、第2ピストン76はその径方向に偏心する。この場合、偏心方向のフランジ部102の周面部分が第2シリンダ92内壁に当接して、それ以上の偏心を規制する。よって、フランジ部102は、径方向に働く外力に抗し、第2ピストン76の姿勢を保持するためのストッパーとして機能する。
【0066】
また、フランジ部102(ストッパー)を設けることによって、スカート部104の肉厚を薄くすることができる。すなわち、スカート部104には、前記ストッパーとしての機能は不要となるため、第2ピストン76に働く径方向の外力を支持する剛性までは不要となり、第2シリンダ92内壁との間の気密性を確保するに足りる弾性(剛性)が備わっていれば十分だからである。
【0067】
このため、仮に(シリンダ内壁と常時接触する)スカート部にストッパー機能と気密性の確保の機能を持たせる場合と比較して、スカート部(の開口端部)の、シリンダ内壁への押圧力を小さくすることができる。その結果、ピストンの往復に伴う、スカート部のシリンダ内壁に対する摺動抵抗を小さくすることができる。また、スカート部104の開口端部が第2シリンダ92内壁を摺動することで発生する摩擦熱も低減できる。
【0068】
また、スカート部104のフランジ部102側端部(スカート部104の基部)の外径は、フランジ部102の外径よりも小さい、すなわち、スカート部104の基部はフランジ部102の周面よりも軸心寄りに後退しているため、フランジ部102の周面が第2シリンダ92内壁に当接しても、スカート部104の第2シリンダ92内壁との接触範囲をその開口端部およびその近傍の狭い範囲に規制することができる。その結果、フランジ部102の周面が第2シリンダ92内壁に当接している間においても、スカート部104の第2シリンダ92内壁に対する摺動抵抗が過度に大きくなるのが抑制される。
【0069】
さらに、上記摩擦熱によりスカート部104が膨張しても、スカート部104は、その形状に因り、径方向において弾性に富むため、スカート部104の開口端部の第2シリンダ92内壁への押圧力が大きく増大することはない。
なお、フランジ部102は、摩擦熱の主たる発生箇所(スカート部104の開口端部)から離れているため、当該摩擦熱による温度上昇は、前記開口端部よりも少ない。しかし、少ないながらも温度は上昇して、径方向に膨張する。このため、往復ポンプ40の運転中の昇温に伴う膨張によっては、フランジ102の外周面が第2シリンダ92内壁に接触しないように、φFとφCの寸法関係が設定されている。
【0070】
また、第2ピストン76が上記したように径方向に偏心すると、偏心方向とは反対方向における第2パッキン80のスカート部104部分は、第2シリンダ92内壁から離れる向き(偏心方向)に変位する。この変位により、前記スカート部104部分において、第2シリンダ92内壁との間の気密性が損なわれないよう、φF、φS、およびφCの寸法は、以下の関係になるように設定されている。
【0071】
{(φC−φF)/2}<{(φS−φC)/2} … (1)
すなわち、φF(フランジ部102の外径)とφS(第2シリンダ92に収納される前のスカート部104の開口端部の径)とφC(第2シリンダ92の内径)とが、
第2ピストン76が径方向に偏心してフランジ部102の外周面の一部が第2シリンダ92内壁に当接した場合でも、偏心方向と反対方向の(スカート部104の)開口端部部分が第2シリンダ92内壁との接触状態を維持する関係に設定されているのである。
【0072】
式(1)における各寸法の一例は、以下の通りである。
φF=29.85[mm]、φS=30.2[mm]、φC=30.0[mm]
これ以外の寸法の一例は、以下の通りである。
T=1.6[mm]、t=約0.5[mm]、α=10[°]
なお、図9(c)に示す、第2シリンダ92の軸心(不図示)を含む断面において、スカート部104の開口端面104Aと第2シリンダ92内壁との成す角度βは、90°以下が好ましい。
【0073】
これは、空気の吸引に伴って、シリンダ室92A(図4)に万一、異物が混入したとしても、スカート部104の開口端面104Aにスクレーパの機能を持たせ、第2シリンダ92内壁とスカート部104との間に異物が挟まって、気密性が失われるのを防ぐためである。
以上、第2パッキン80、第2ピストン76、および第2シリンダ92について説明したが、上記した内容は、第1パッキン78、第1ピストン74、および第1シリンダ90にも当てはまるものである。
<往復ポンプの動作>
上記の構成からなる往復ポンプ40の動作について、図10を参照しながら説明する。
【0074】
図10(a)、図10(b)は、往復ポンプ40を上面となる方向から見た一部断面図であり、図5と同様に切断した図である。なお、排気室連絡路94と吸気室連絡路96とは、その全部は図10(a)、図10(b)における断面には現れないのであるが、説明上必要なため、便宜上、図10(a)、図10(b)において一点鎖線で表すこととする。また、煩雑さを避けるため、図10(a)、図10(b)では、第1および第2シリンダ90,92の図示を省略している。
【0075】
ここで、図10では、ヨーク14は水平方向に往復運動するのであるが、便宜上、クランクシャフト12の軸心に対し、クランクピン16の外周が最も左側に張り出し、ヨーク14が最も左側に位置する状態(図10(a))を上死点、この反対に、クランクピン16の外周が最も右側に張り出し、ヨーク14が最も右側に位置する状態(図10(b))を下死点として説明する。また、図6に記した吸気弁、排気弁、貫通孔の内、図10に現れないものについては、その符号に括弧をつけて説明に用いることとする。
【0076】
クランクシャフト12が矢印Rの向きに回転して、下死点(図10(b))から上死点(図10(a))に至る間、図10(a)に示すように、第1シリンダ室90A内の空気が第1ピストン74により押し出され、排気弁56D(56E)が開き、押し出される空気が、貫通孔54A(54B)から、第1排気室44Aに流入する。そして、排気室連絡路94内を空気が矢印の向きに移動して、第2排気室46Aに流入し、排気ポート46Dを通過して、サイレンサ50(図4)から往復ポンプ40外へ排出される。
【0077】
また、第2シリンダ室92A内には、ピストン76によって空気が導入される。すなわち、第2ピストン76の左方への移動によって第2シリンダ室92Aが負圧になるため、吸気弁58B(58C)が開く。そして、貫通孔60C(60D)、第2吸気室46B、吸気室連絡路96、第1吸気室44B、吸気ポート44Dを介して、外部の空気が第2シリンダ室92Aに導入される。
【0078】
一方、上死点(図10(a))から下死点(図10(b))に至る間は、図10(b)に示すように、第2シリンダ室92A内の空気が第2ピストン76により押し出され、排気弁62D(62E)が開く。押し出される空気は、貫通孔60A(60B)から第2排気室46Aに流入し、排気ポート46Dを通過して、サイレンサ50(図4)から往復ポンプ40外へ排出される。
【0079】
また、第1ピストン74の右方への移動によって第1シリンダ室90Aが負圧になるため、吸気弁52B(52C)が開く。そして、吸気ポート44D、第1吸気室44B、貫通孔54C(54D)を介して、外部の空気が第1シリンダ室90Aに導入される。
以上の動作を繰り返して、往復ポンプ40は、吸気ポート44Dから往復ポンプ40外部の空気を継続して吸引する。
【0080】
上記したように、本実施の形態によれば、通常は、第1および第2パッキン78,80のスカート部104各々の開口端部が、第1および第2シリンダ90,92の内壁に密着状態で摺接して、気密性が確保されると共に、ヨーク14の往復運動の直動案内がなされる。
ヨーク14の往復運動中に生じるヨーク14のこじれ等が原因で、第1および第2ピストン74,76に対し径方向に力が加わった場合には、第1および第2パッキン78,80のフランジ部102が第1および第2シリンダ90,92内壁に当接して第1および第2ピストン74,76の過度の偏心が防止され、第1および第2ピストン74,76の姿勢が保持される。フランジ部102は、その外周端部部分を僅かに突出させた状態で、第1および第2ピストン74,76と第1および第2パッキン押え82,84とで、その厚み方向両側から挟持されている。このため、第1および第2ピストン74,76の往復運動中に、フランジ部102が第1および第2シリンダ90,92内壁に当接したとしても、フランジ部102が当該往復方向に撓むのを防止できる。
【0081】
第1および第2ピストン74,76が偏心したとしても、フランジ部102の外径(φF)と第1および第2シリンダ90,92に収納される前のスカート部104の開口端部の径(φS)と第1および第2シリンダ90,92の内径(φC)とが、上記のように設定されているため、スカート部104の開口端部と第1および第2シリンダ90,92内壁との接触状態が維持され、気密性が確保できる。
【0082】
また、第1および第2パッキン78,80のスカート部104の各々が囲繞する空間には、第1および第2パッキン押え82,84が上述した態様で配されている。これは、圧縮性流体である空気を第1および第2ピストン74,76のストロークに見合った分、第1および第2シリンダ室90A,92Aから押し出すため(排気するため)である。
さらに、本実施の形態によれば、往復ポンプ40は、ヨーク14の下死点から上死点に至る往動中のみならず上死点から下死点に至る復動中も吸引する(負圧を発生させる)。
【0083】
上述した従来のスコッチ・ヨーク機構を用いた場合は、ヨークが下死点から往動に転じるまでと、上死点から復動に転じるまでの間は、軸受外周がヨークの長孔の内周面から離間する期間が生じるため、その間、ヨークの動きが止まり、ひいては、ピストンの動きが止まって、吸引動作が中断することとなる。
したがって、従来のスコッチ・ヨーク機構を用いた往復ポンプを、例えば、製品の組立工場などで用いられる、小ねじその他の小型部品を吸着する真空チャック用の真空ポンプに使用した場合、上記吸引動作の中断時に吸引力が低下して小型部品が真空チャックから脱落するおそれがある。
【0084】
これに対し、本実施の形態に係る往復ポンプ40によれば、ヨーク14は、クランクピン16が、図10(a)と図10(b)に示す回転位置にある一瞬のみその動きが停止するだけであって、ほとんど間断なく吸引動作は続くこととなる。よって、往復ポンプ40を真空チャック用の真空ポンプに使用した場合、小型部品が真空チャックから脱落することを可能な限り抑制することができる。
【0085】
また、本実施の形態では、前記ピストン軸が、第1〜第3外輪18C,20C,22Cの内の真ん中の第2外輪20Cを通っているため、第1および第2ピストン74,76に、余分な力(モーメント)がほとんど作用することがない。すなわち、第2外輪20Cが第2当接面30を押圧してヨーク14を押動しているときは、第2外輪20Cがピストン軸上にあるため、第1および第2ピストン74,76にほとんどモーメントが作用することがない。一方、第1および第3外輪18C,22Cが、それぞれ第1および第3当接面28,32を押圧してヨーク14を押動しているときは、第1および第3外輪18C,22C間の真ん中にピストン軸が通っている関係上、第1および第3外輪18C,22Cの押圧力の合力ベクトルが当該ピストン軸に存するため、第1および第2ピストン74,76にほとんどモーメントが作用することがないのである。これにより、第1および第2ピストン74,76のスムーズな往復運動が確保される。
【0086】
なお、本実施の形態に係る往復ポンプ40の運転中において、スコッチ・ヨーク機構で発生する騒音が低減できるのは、上述した通りである。
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下の形態とすることもできる。
(1)上記実施の形態では、第1および第2パッキン78,80のスカート部104の厚みを一様にしたが、これに限らず、例えば、フランジ部から開口端部に行くにしたがって、厚みが漸減するようにしても構わない。
【0087】
(2)上記実施の形態では、フランジ部を円環状にしたが、これに限らず、例えば、円板状にしても構わない。
(3)上記実施の形態では、第1および第2パッキン78,80をブロンズが充填されたPTFE(ポリテトラフルオラエチレン)で形成したが、これに限らず、他の合成樹脂で形成しても良い。
【0088】
(4)上記実施の形態では、ヨークとピストンとを一体的に形成しているが、これに限らず、別個に作製したものを、バー材等の連結部材で連結する構成としても構わない。
(5)上記実施の形態では、ピストンを2個用いて往復ポンプを構成したが、ピストン1個で構成しても構わない。
(6)上記実施の形態に係る往復ポンプは、吸・排気の対象が空気であったが、吸・排気の対象は、空気に限らず他の気体(圧縮性流体)でも構わない。
【0089】
また、本発明に係る往復ポンプは、気体の吸・排気用のみならず、非圧縮性流体である液体の吸込み・吐出し用の往復ポンプにも適用可能である。
(7)上記実施の形態では、軸受を3個用いたが、軸受の個数は、これに限らず2個または4個以上でも構わない。要は、軸受を複数個用い、当該複数個の内、少なくとも1個をヨークの往動用とし、残余の軸受をヨークの復動用として、上記実施の形態のように構成すればよいのである。
【0090】
また、4個以上用いる場合は、上記実施の形態の場合(軸受を3個用いる場合)と同様、ピストンにモーメントが作用しないように構成することが好ましい。すなわち、ピストン軸を中心として、クランクピンの軸方向に、往動用の軸受の配列および復動用の軸受の配列が対称になる構成とするのが好ましい。
(8)上記実施の形態では、軸受として玉軸受けを用いたが、これに限らず、ころ軸受を用いても構わない。
【0091】
(9)上記実施の形態では、クランクピンの軸回りに回転自在な円環部材を、当該クランクピンに嵌合されたころがり軸受の外輪で構成したが、当該円環部材はこれに限らない。
例えば、クランクピンの外周面の周方向に沿った溝をクランクピンの軸方向に複数条形成し、当該溝の各々に、当該クランクピンの軸回りに回転自在に文字通りの円環部材をはめ込んだ構成としても構わない。
【0092】
この場合には、複数の溝の各々に、円環部材の回転を滑らかにするための潤滑剤を塗布するのが好ましい。
(10)上記実施の形態では、クランクシャフトとしてモータの出力軸を用いたがこれに限らず、クランクシャフトは、モータの出力軸とは別個のものとし、当該出力軸からの回転動力を周知の動力伝達機構を介して、当該クランクシャフトに伝達することとしても構わない。
【0093】
(11)上記実施の形態では、ヨークを、開口部が長孔に形成されている枠体で構成し、当該長孔の長手方向に延びる内周面部分を、軸受の外輪が当接する当接面として構成した。
しかし、上記当接面は、必ずしも長孔の内周面で構成する必要はない。例えば、平行に配された角材の対向する2面を外輪の当接面とすることもできる。この場合、両角材の両端部同士は、バー材等により連結することとする。なお、当接面を形成する部材は、角材に限らないことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る往復ポンプは、例えば、小ねじその他の小型部品を吸着する真空チャック用の真空ポンプとして好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0095】
40 往復ポンプ
74 第1ピストン
76 第2ピストン
78 第1ピストンパッキン
80 第2ピストンパッキン
90 第1シリンダ
92 第2シリンダ
102 フランジ部
104 スカート部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの往復運動により、シリンダ内への流体の吸入とシリンダ外への流体の排出を行う往復ポンプであって、
前記ピストンの前記往復方向における片側に取り付けられたピストンパッキンを有し、
当該ピストンパッキンは、
ピストン径よりも大きく、シリンダ径よりも小さい径を有するフランジ部と、
前記フランジ部の前記ピストンとは反対側に設けられ、当該フランジ部から遠ざかる程、径が大きくなるスカート部と、
を有し、
前記スカート部は、前記フランジ部側端部からシリンダ内壁に当接する開口端部にかけ、縮径方向に弾性変形した状態で当該シリンダに収納されていて、
前記フランジ部の径の大きさと前記シリンダに収納される前の前記スカート部の前記開口端部の外径の大きさとが、前記ピストンが径方向に偏心して前記フランジ部の周面の一部が前記シリンダ内壁に当接した場合でも、偏心方向と反対方向の前記開口端部部分が前記シリンダ内壁と接触状態を維持する関係に設定されていることを特徴とする往復ポンプ。
【請求項2】
前記スカート部の前記フランジ部側端部の外径が前記フランジ部の径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の往復ポンプ。
【請求項3】
前記流体は、圧縮性流体であり、
前記スカート部が囲繞する空間の前記弾性変形を妨げない領域に、前記空間への前記流体の流入を排除するための部材が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の往復ポンプ。
【請求項4】
前記部材は、前記ピストンパッキンを前記ピストンに取り付けるための取付部材であることを特徴とする請求項3に記載の往復ポンプ。
【請求項5】
前記シリンダの軸心を含む断面において、前記スカート部の開口側端面の前記シリンダ内壁面との成す角度が90度以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の往復ポンプ。
【請求項6】
前記往復ポンプは、モータを有し、ピストンの往復運動を前記モータの回転運動を往復直線運動に変換するスコッチ・ヨーク機構によって得ているポンプであって、
前記シリンダと前記ピストンパッキンとで、前記スコッチ・ヨーク機構におけるヨークの直動案内機構が構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の往復ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−68198(P2013−68198A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208978(P2011−208978)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)
【Fターム(参考)】