説明

往復駆動機構及びこれを用いた光学装置

【課題】 往復駆動機構の小型化を図る。
【解決手段】 本発明に係る往復駆動機構は、内ねじ21が形成された筒状の静止体2と、該静止体2の内部に設置されて内ねじ21と螺合する外ねじ31が形成された回転体3と、静止体2の外周面に取り付けられて静止体2に周方向の進行波を発生させるための一対の圧電素子5、6とを具え、該一対の圧電素子5、6は、静止体2に発生する進行波の1/4波長分だけ静止体2の周方向にずれた位置に配置され、該一対の圧電素子5、6に対して互いに90度の位相差を有する交番電圧を印加して、静止体2内で回転体3を回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品等の対象物を往復駆動するための往復駆動機構、並びに該往復駆動機構を用いた光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルカメラ等の光学装置においては、電気モータを動力源とするオートフォーカス機構やズーム機構が搭載されており、例えばオートフォーカス機構においては、モータの回転を対物レンズの枠体に伝えることにより、対物レンズを光学軸に沿って前後に移動させて、オートフォーカス動作を実現している(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平8−327879号公報
【特許文献1】特開平11−84200号公報
【特許文献1】特開2002−168308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のオートフォーカス機構やズーム機構等の往復駆動機構においては、高精度な位置制御が必要となるため、モータの高い回転数を低速の回転数まで減速する減速機構や、回転運動を直線運動に変換する変換機構が必要であり、この様な減速機構や変換機構は多数のギアを用いて構成されていることから、往復駆動機構が大型となって、光学装置の小型化を阻害している問題があった。
特に近年は、薄型の携帯電話機にカメラが搭載されており、この様なカメラに搭載すべきオートフォーカス機構の小型化が大きな課題となっている。
【0004】
そこで本発明の目的は、往復駆動機構の小型化を図り、ひいては往復駆動機構を搭載した光学装置の小型化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る往復駆動機構は、内ねじ(21)が形成された筒状の静止体(2)と、該静止体(2)の内部に設置されて前記内ねじ(21)と螺合する外ねじ(31)が形成された回転体(3)と、前記静止体(2)の外周面に取り付けられて静止体(2)に周方向の進行波を発生させるための超音波装置とを具え、該超音波装置は、静止体(2)に発生する進行波の1/4波長分だけ静止体(2)の周方向にずれた位置に配置された少なくとも一対の超音波振動子を具え、該一対の超音波振動子に対して互いに90度の位相差を有する交番電圧を印加するものである。
【0006】
上記本発明の往復駆動機構においては、超音波装置を構成する一対の超音波振動子に互いに90度の位相差を有する交番電圧(例えば20kHz〜300kHz)を印加すると、各超音波振動子によって静止体(2)に対して超音波域の振動が加えられる。これによって、静止体(2)には、一方の超音波振動子の振動による定在波が発生すると同時に、他方の超音波振動子の振動による定在波が発生し、2つの定在波が互いに重ね合わされることにより、静止体(2)の内周面には、周方向へ進む進行波が生成されることになる。
【0007】
ここで、前記一対の超音波素子は、静止体に発生する進行波の1/4波長に相当する位置ずれを有する一方、前記2つの定在波は、互いに90度の位相差を有しているので、静止体(2)の周方向(時計方向及び反時計方向)の内、一方向に関しては、2つの定在波が互いに同位相で重なって強め合うのに対し、静止体(2)の周方向の他方向に関しては、2つの定在波が互いに180度の位相差で重なって互いに打ち消し合うことになる。
この結果、静止体(2)の内周面には、両超音波素子に印加される交番電圧の位相を90度進ませるか遅らせるかによって決まる、時計方向若しくは反時計方向の何れか一方向の進行波が生成されることになる。
【0008】
静止体(2)の内周面にこの様な進行波が生成されることによって、該内周面には楕円軌道を描く振動(楕円振動)が発生して、静止体(2)の内周面(内ねじ面)と回転体(3)の外周面(外ねじ面)との間に一方向の摩擦力が生じ、該摩擦力によって、回転体(3)が静止体(2)に生じる進行波とは逆方向に回転駆動される。そして、該回転体(3)の回転に伴って、回転体(3)の外ねじ(31)と静止体(2)の内ねじ(21)との間にねじ推力が発生し、回転体(3)は軸方向に移動することになる。
【0009】
ここで、回転体(3)の軸方向の移動速度は、回転体(3)の回転速度とねじピッチによって決まるが、ねじピッチは、静止体(2)や回転体(3)の大型化を伴うことなく、可及的に小さくすることが出来るので、回転体(3)の軸方向の移動速度は無限に低速化することが可能である。
【0010】
具体的構成において、前記静止体(2)には、前記内ねじ(21)が形成された内周面に、内ねじ(21)と交叉して伸びる複数本の溝(22)が凹設されている。
該具体的構成によれば、静止体(2)の内周面には、前記複数本の溝(22)の凹設によって、複数の突片が形成されることとなり、前記進行波の波形の頂点に位置する突片が回転体(3)の外周面を押圧して、回転体(3)を効率的に回転駆動する。
【0011】
本発明に係る光学装置は、前記本発明の往復駆動機構を構成する回転体(3)の内部に光学部品を配備したものである。
上述の如く本発明の往復駆動機構が動作して、回転体(3)が軸方向に移動すると、これに伴って光学部品が移動して、必要な光学的調整が施される。
【0012】
具体的構成において、前記光学部品は、前記回転体(3)の回転軸上に光学中心を有するレンズ(4)である。
該具体的構成によれば、レンズ(4)の移動によってフォーカス調整やズーム等の機能が実現される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る往復駆動機構においては、超音波装置、静止体及び回転体からなる単一の機構が、従来は別個の構成であったモータ、減速機構、及び変換機構の3つの機能を同時に実現しているので、機構の大幅な小型化が実現される。又、本発明に係る光学装置によれば、本発明の往復駆動機構を構成する回転体に光学部品が内蔵されているので、回転体が更に光学部品としての機能をも発揮し、装置の大幅な小型化が実現される。従って、本発明は小型カメラのオートフォーカス機構やズーム機構等に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を携帯電話機等に装備される小型カメラのオートフォーカス機構に実施した形態につき、図面に沿って具体的に説明する。
本発明に係るオートフォーカス機構においては、図1に示す如く往復駆動機構(1)に制御回路(7)を介して電源(8)が接続されており、往復駆動機構(1)は、内ねじ(21)が形成された円筒状の静止体(2)と、静止体(2)の内部に設置されて前記内ねじ(21)と螺合する外ねじ(31)が形成された円筒状の回転体(3)と、静止体(2)の外周面に取り付けられて静止体(2)に周方向の進行波を発生させるための一対の圧電素子(5)(6)とから構成されている。そして、回転体(3)の内部には、フォーカス調整用のレンズ(4)がその光軸を回転体(3)の回転軸に一致させて取り付けられている。
【0015】
前記一対の圧電素子(5)(6)は、図2に示す如く静止体(2)の外周面に沿って90度の角度差を有する2つの位置A及びBにそれぞれ配置されており、両圧電素子(5)(6)には、前記電源(8)から制御回路(7)を経て、図3の如く90度の位相差を有する2つの交番電圧がそれぞれ印加される。該交番電圧は、周波数が超音波域(20kHz〜300kHz)の正弦波の波形を有している。
尚、2つの圧電素子(5)(6)の角度差は、後述の如く静止体(2)の内周面に発生する進行波の1/4波長に対応している。
又、制御回路(7)は、一方の圧電素子(5)に印加される交番電圧の位相を他方の圧電素子(6)に印加される交番電圧の位相よりも90度進ませるか遅らせるかを切換え制御する。
【0016】
一対の圧電素子(5)(6)に前記交番電圧が印加されると、各圧電素子によって静止体(2)に対して超音波域の振動が加えられる。これによって、静止体(2)には、一方の圧電素子(5)の振動による定在波が発生すると同時に、他方の圧電素子(6)の振動による定在波が発生し、2つの定在波が互いに重ね合わされることにより、静止体(2)の内周面には、周方向へ進む進行波が生成されることになる。
【0017】
ここで、一対の圧電素子(5)(6)は、静止体(2)に発生する進行波の1/4波長に相当する位置ずれを有する一方、前記2つの定在波は、互いに90度の位相差を有しているので、静止体(2)の周方向(時計方向及び反時計方向)の内、一方向に関しては、図4(a)の如く2つの定在波が互いに同位相で重なって強め合うのに対し、静止体(2)の周方向の他方向に関しては、図4(b)の如く2つの定在波が互いに180度の位相差で重なって互いに打ち消し合うことになる。
この結果、静止体(2)の内周面には、一方の圧電素子(5)の交番電圧の位相を他方の圧電素子(6)の交番電圧の位相よりも90度進ませるか遅らせるかによって決まる、時計方向若しくは反時計方向の何れか一方向の進行波が生成されることになる。
【0018】
静止体(2)の内周面にこの様な進行波が生成されることによって、該内周面には楕円軌道を描く振動(楕円振動)が発生して、静止体(2)の内周面(内ねじ面)と回転体(3)の外周面(外ねじ面)との間に一方向の摩擦力が生じ、該摩擦力によって、回転体(3)が静止体(2)に生じる進行波とは逆方向に回転駆動される。
【0019】
例えば図5は、静止体(2)の内周長に一致する周期を有する進行波が発生している様子を破線で表わしたものであって、図中の時間t0、t1、t2は図3に示す時間t0、t1、t2に対応している。図5に破線で示す様に、時間の経過に伴って、時計方向に進む進行波が発生しており、該進行波によって、回転体(3)が反時計方向に回転駆動される。
【0020】
そして、回転体(3)の何れか一方向の回転に伴って、回転体(3)の外ねじ(31)と静止体(2)の内ねじ(21)との間にねじ推力が発生し、図6(a)(b)(c)に示す如く回転体(3)は軸方向の何れか一方向へ移動することになる。
これに伴って、図1の如く回転体(3)の内部に取り付けられたレンズ(4)が静止体(2)の軸方向へ移動し、フォーカス調整が施されるのである。
【0021】
ここで、図1に示す制御回路(7)は、フォーカス調整の制御信号に応じて、一対の圧電素子(5)(6)に印加すべき交番電圧の位相及びオン/オフを制御し、レンズ(4)の焦点位置を調整する。
尚、静止体(2)の内ねじ(21)と回転体(3)の外ねじ(31)としては、JIS準拠のねじを採用することが可能であるが、互いにバックラッシュのない螺合状態が得られるねじ形状を採用することが望ましい。
【0022】
図7(a)〜(f)は、静止体(2)の内周面に軸方向へ伸びる複数の溝(22)を凹設して、内ねじ(21)を複数の突片(23)に分断した構成を示している。該構成によれば、静止体(2)の内周面に発生する進行波の波形の頂点に位置する突片(23)が回転体(3)の外周面を押圧して、回転体(3)を効率的に回転駆動する。
【0023】
又、図8(a)(b)(c)は、一対となる圧電素子(5)(6)を複数箇所に配置した例を表わしている。これらの配置例においては、隣接する2つの圧電素子(5)(6)の角度差に応じて両圧電素子(5)(6)に印加すべき交番電圧の周波数を上げることにより、何れの配置例においても、互いに隣接する2つの圧電素子(5)(6)の角度差が静止体(2)の内周面に発生する進行波の1/4波長に対応するものとなっている。
【0024】
図9(a)〜(d)は、種々の角度差で配置された複数の圧電素子(5)(6)に対して印加すべき交番電圧の位相の関係と、その配置によって発生する進行波を表わしたものである。図9(a)の例では、互いに隣接する圧電素子(5)(6)に90度の角度差が与えられると共に、90度の位相差を有する交番電圧が印加されて、静止体(2)の内周面には内周長を1周期とする進行波が発生している。これに対し、図9(b)〜(d)の例では、互いに隣接する圧電素子(5)(6)に45度の角度差が与えられると共に、90度の位相差を有する交番電圧が印加されて、静止体(2)の内周面には内周長を2周期とする進行波が発生している。
何れの例においても、進行波は時計方向に進行し、回転体(3)に対して反時計方向の駆動力を与えている。
【0025】
上述の如く、本発明に係るオートフォーカス機構においては、一対の圧電素子(5)(6)、静止体(2)及び回転体(3)からなる往復駆動機構(1)を外径1cm以下に小型化することが可能であり、この様な小型の往復駆動機構(1)によって、回転体(3)を回転させるモータの機能と、回転体(3)を低速で回転させるための減速機構と、回転体(3)の回転運動を直進運動に変換する変換機構と、回転体(3)に内蔵されたレンズ(4)によるフォーカス調整機能の4つの機能を同時に実現することが出来るので、オートフォーカス機構の大幅な小型化が実現される。
【0026】
尚、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、超音波振動子として圧電素子を用いているが、これに限らず、磁歪素子等の周知の超音波振動子を用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明をオートフォーカス機構に実施した構成例を示す図である。
【図2】該オートフォーカス機構を構成する往復駆動機構の断面図である。
【図3】一対の圧電素子に印加される交番電圧の位相関係を示す波形図である。
【図4】2つの定在波の位相差に応じた重合せ状態を示す波形図である。
【図5】静止体に発生する進行波と回転体の回転方向を説明する一連の断面図である。
【図6】回転体の回転に伴う往復移動を説明する一連の断面図である。
【図7】静止体の内ねじに凹設される溝の各種の例を示す図である。
【図8】圧電素子の他の配置例を示す図である。
【図9】複数の圧電素子に印加される交番電圧の位相関係を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
(1) 往復駆動機構
(2) 静止体
(21) 内ねじ
(22) 溝
(23) 突片
(3) 回転体
(31) 外ねじ
(4) レンズ
(5) 圧電素子
(6) 圧電素子
(7) 制御回路
(8) 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内ねじ(21)が形成された筒状の静止体(2)と、該静止体(2)の内部に設置されて前記内ねじ(21)と螺合する外ねじ(31)が形成された回転体(3)と、前記静止体(2)の外周面に取り付けられて静止体(2)に周方向の進行波を発生させるための超音波装置とを具え、該超音波装置は、静止体(2)に発生する進行波の1/4波長分だけ静止体(2)の周方向にずれた位置に配置された少なくとも一対の超音波振動子を具え、該一対の超音波振動子に対して互いに90度の位相差を有する交番電圧を印加して、静止体(2)内で回転体(3)を回転させることを特徴とする往復駆動機構。
【請求項2】
前記静止体(2)には、前記内ねじ(21)が形成された内周面に、内ねじ(21)と交叉して伸びる複数本の溝(22)が凹設されている請求項1に記載の往復駆動機構。
【請求項3】
内ねじ(21)が形成された静止体(2)と、該静止体(2)の内部に設置されて前記内ねじ(21)と螺合する外ねじ(31)が形成された回転体(3)と、該回転体(3)に内蔵された光学部品と、前記静止体(2)の外周面に取り付けられて静止体(2)に周方向の進行波を発生させるための超音波装置とを具え、該超音波装置は、静止体(2)に発生する進行波の1/4波長分だけ静止体(2)の周方向にずれた位置に配置された少なくとも一対の超音波振動子を具え、該一対の超音波振動子に対して互いに90度の位相差を有する交番電圧を印加して、静止体(2)内で回転体(3)を回転させることを特徴とする光学装置。
【請求項4】
前記光学部品は、前記回転体(3)の回転軸上に光学中心を有するレンズ(4)である請求項3に記載の光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−101593(P2006−101593A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282253(P2004−282253)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】