説明

後輪独立操舵装置

【課題】ロックスクリューを締め付けた際の力を確保し、かつ、入力フランジを確実に支持することを容易におこなうことができる後輪独立操舵装置を提供する。
【解決手段】後輪独立操舵装置10は、入力フランジが第1、第2のスラストベアリング83,84に挟まれた状態でハウジング30内に配置され、第1スラストベアリング83がハウジング30に当接するとともに、第2のスラストベアリング84がロックスクリュー95に当接され、ハウジング30およびロックスクリュー95の間にロックスクリュー95の締め付けによる力で変形可能なスペーサカラー91が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータを伸縮させて後輪の舵角を制御する後輪独立操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
後輪独立操舵装置のなかには、アクチュエータを伸縮させてアッパリンクおよびロアリンクを制御することで、サスペンションのバンプ(伸び)、リバウンド(縮み)に伴うキャンバ角やトレッドの変化を抑えて操縦安定性能を高めるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特公平6−47388号公報
【0003】
特許文献1のアクチュエータは、モータの駆動で雄ねじ部材を回転させ、雄ねじ部材の回転で雌ねじ部材をモータから離れる方向や近づく方向に送り出すように構成されている。
モータの駆動で雌ねじ部材を送り出すことでアクチュエータが伸縮し、車輪のトー角を制御することができる。
車輪のトー角を制御することで、サスペンションのバンプ、リバウンドに伴うキャンバ角やトレッドの変化を抑えて操縦安定性能を高めることが可能になる。
【0004】
この後輪独立操舵装置は、モータの回転を雄ねじ部材に伝えるために入力フランジを備えている。
入力フランジは、雄ねじ部材の後端部に同軸上に設けられるとともに、一対のスラストベアリングでアクチュエータのハウジング内に回転自在に支持されている。
【0005】
具体的には、一対のスラストベアリングのうち、一方がハウジングに当接し、他方がロックスクリューに当接している。
ここで、ハウジングとロックスクリューとの間にはスペーサカラーが介在されている。このスペーサカラーは、ロックスクリューを締め付けた際の力を支える役割を果たす。
ロックスクリューを締め付けた際の力を確保することで、ロックスクリューが緩まないように保持することが可能であるとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ロックスクリューを締め付けた状態で、一対のスラストベアリングのうち、一方をハウジングに当接させるとともに、他方をロックスクリューに当接させて、入力フランジを確実に支持することが望ましい。
しかし、一対のスラストベアリングをハウジングやロックスクリューに確実に当接させるためには、スペーサカラー、入力フランジや一対のスラストベアリングなどの製造公差や、組立公差を小さく抑える必要がある。
このため、ロックスクリューを締め付けた際の力を確保するとともに、入力フランジを確実に支持するためには、加工工程や組付工程に手間がかかり、そのことがコストを抑える妨げになっていた。
【0007】
本発明は、ロックスクリューを締め付けた際の力を確保し、かつ、入力フランジを確実に支持することを容易におこなうことができる後輪独立操舵装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、アクチュエータのハウジング内に備えたモータを回転させ、前記モータの回転を入力フランジを介して雄ねじ部材に伝え、前記雄ねじ部材の回転で雌ねじ部材を軸方向に送り出してアクチュエータを伸縮させることで、後輪の舵角を制御する後輪独立操舵装置において、前記入力フランジが一対のスラストベアリングに挟まれた状態で前記ハウジング内に配置され、前記一対のスラストベアリングのうち、一方が前記ハウジングに当接するとともに、他方が、前記ハウジングにねじ結合されたロックスクリューに当接され、前記入力フランジおよび前記一対のスラストベアリングの外周で、かつ、前記ハウジングおよび前記ロックスクリューの間に、前記ロックスクリューの締め付けによる力で変形可能なスペーサカラーが配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明では、一対のスラストベアリングのうち、一方をハウジングに当接するとともに、他方をロックスクリューに当接した。また、ハウジングおよびロックスクリューの間に、ロックスクリューを締め付けた際の力で変形可能なスペーサカラーを配置した。
以下、ロックスクリューを締め付けた際の力を「ロックスクリューを締め付けた際の軸力」という。
【0010】
ハウジングおよびロックスクリューの間に変形可能なスペーサカラーを配置することで、ロックスクリューでスペーサカラーを締め付けた際に、スペーサカラーを変形させて、ロックスクリューで他方のスラストベアリングを押し付けることができる。
これにより、スペーサカラーをハウジングやロックスクリューに当接させ、かつ、一対のスラストベアリングをハウジングやロックスクリューに当接させた状態を容易に確保することができる。
したがって、ロックスクリューを締め付けた際の軸力を確保し、かつ、入力フランジを確実に支持することを容易におこなうことができるという利点がある。
【0011】
さらに、ハウジングおよびロックスクリューの間にスペーサカラーを介在させることで、ロックスクリューを締め付けた際の軸力をスペーサカラーで支えることができる。
よって、ロックスクリューによる他方のスラストベアリングへの押圧力を抑えることができる。
これにより、一対のスラストベアリングの耐久性を確保することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は運転者から見た方向にしたがい、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
【0013】
図1は本発明に係る後輪独立操舵装置を示す斜視図、図2は図1の2矢視図である。
後輪独立操舵装置10は、車体11に上下動可能に連結されたアッパアーム12およびロアアーム13と、アッパアーム12およびロアアーム13に操舵自在に連結されたナックル14と、ナックル14を操舵するアクチュエータ15と、ナックル14の上下動を緩衝する懸架ばね付きダンパー16とを備えた四輪操舵車両用のダブルウイッシュボーン式のリヤサスペンションである。
ナックル14に後輪18が回転自在に支持されている。
【0014】
アッパアーム12は、基端部がゴムブッシュジョイント21,21で車体11に上下動可能に連結されている。
ロアアーム13は、基端部がゴムブッシュジョイント22…で車体11に上下動可能に連結されている。
アッパアーム12の先端部およびロアアーム13の先端部にボールジョイント23,24を介してナックル14の上部および下部が連結されている。
【0015】
アクチュエータ15は、基端部がゴムブッシュジョイント26を介して車体11に連結され、先端部がゴムブッシュジョイント27を介してナックル14の後部位に連結されている。
懸架ばね付きダンパー16は、上端部16aが車体11(具体的には、サスペンションタワーの上壁19)に設けられ、下端部16bがゴムブッシュジョイント28を介してナックル14の上部に連結されている。
【0016】
後輪独立操舵装置10によれば、アクチュエータ15を伸長することで、ナックル14の後部が車幅方向外側に押圧されて後輪18のトー角をトーイン方向に制御させることができる。
一方、アクチュエータ15を収縮することで、ナックル14の後部が車幅方向内側に引っ張られて後輪18のトー角をトーアウト方向に制御させることができる。
すなわち、アクチュエータ15は、トー角をコントロールするトーコントロールアクチュエータである。
【0017】
よって、通常のステアリングホイール(不図示)の操作による前輪の操舵に加えて、後輪18のトー角を制御して車両の直進安定性能や旋回性能を高めることができる。
後輪18のトー角は、例えば、車速やステアリングホイールの操舵角に応じて制御される。
以下、図3〜図6に基づいてアクチュエータ15の構造を詳しく説明する。
【0018】
図3は図1の3−3線断面図である。
アクチュエータ15は、車体11(図2参照)側に連結されるゴムブッシュジョイント26が設けられた第1ハウジング31と、第1ハウジング31にボルト32…で一体に設けられた第2ハウジング33と、第2ハウジング33にスライド自在に支持された出力ロッド34とを備えている。
出力ロッド34は、ナックル14側に連結されるゴムブッシュジョイント27が設けられている。
【0019】
第1、第2のハウジング31,33は、フランジ31a,33aがボルト32…で締結されることで一体に連結されている。すなわち、第1、第2のハウジング31,33でハウジング30が形成されている。
第1ハウジング31は、内部にモータ38が収納されている。
第2ハウジング33は、内部に、モータ38に連結された減速機41と、減速機41に連結されたカップリング42と、カップリング42に連結された送りねじ機構43とが収納されている。
【0020】
モータ38は、カップ状のヨーク45と、ヨーク45のフランジ45aにボルト46…で締結されたベアリングホルダ47とを備えている。
ヨーク45およびベアリングホルダ47を締結するボルト46…を、第1ハウジング31にねじ結合することでモータ38は第1ハウジング31に取り付けられている。
【0021】
ヨーク45の内周面に環状のステータ48が支持され、ステータ48内にロータ49が配置されている。
ロータ49の回転軸51は、一端部がヨーク45の底部にボールベアリング52を介して回転自在に支持され、他端部がベアリングホルダ47にボールベアリング53を介して回転自在に支持されている。
ベアリングホルダ47は、内面に、回転軸51のコミュテータ54に摺接するブラシ55が支持されている。
ブラシ55から延びた導線56が、グロメット57を介して外部に引き出されている。
【0022】
図4は図3の4部拡大図である。
減速機41は、第1遊星歯車機構61および第2遊星歯車機構62が連結されている。
第1遊星歯車機構61は、第2ハウジング33の開口部に嵌合されたリングギヤ63と、回転軸51の先端部に形成された第1サンギヤ64と、第1サンギヤ64の近傍に同軸上に設けられた第1キャリヤ65と、第1キャリヤ65に第1ピン66…を介して回転自在に支持された第1遊星ギヤ(遊星歯車)67…とで構成されている。
第1遊星ギヤ67…がリングギヤ63および第1サンギヤ64に噛み合わされることで、第1サンギヤ64の回転が第1キャリヤ65に減速して伝達される。
【0023】
第2遊星歯車機構62は、第1遊星歯車機構61と共通のリングギヤ63と、第1キャリヤ65の中心に設けられた第2サンギヤ71と、第2サンギヤ71の近傍に同軸上に設けられた第2キャリヤ72と、第2キャリヤ72に第2ピン73…を介して回転自在に支持された第2遊星ギヤ(遊星歯車)74…とで構成されている。
第2遊星ギヤ74…がリングギヤ63および第2サンギヤ71に噛み合わされることで、第2サンギヤ71の回転が第2キャリヤ72に減速して伝達される。
【0024】
このように、第1、第2の遊星歯車機構61,62を直列に連結することで、減速機41で大きな減速比を得ることができる。
【0025】
第2キャリヤ72は、送りねじ機構43の入力フランジ81にカップリング42を介して連結されている。
入力フランジ81は、外周フランジ部82が第1、第2のスラストベアリング83,84に挟まれた状態で段部86内に回転自在に支持されている。
【0026】
カップリング42は、入力フランジ81および第2キャリヤ72間に配置された弾性ブッシュ98…と、弾性ブッシュ98…の外周側において、外周フランジ部82から突出された係合爪101…と、第2キャリヤ72から突出された係合爪102…とが、弾性ブッシュ98…の突起(図示せず)を介在させた状態に噛み合わされている。
【0027】
よって、第2キャリヤ72の回転は、第2キャリヤ72の係合爪102、外周フランジ部82の係合爪101…および弾性ブッシュ98…の突起を経て入力フランジ81(外周フランジ部82)に伝達される。
なお、カップリング42は、送りねじ機構43の入力フランジ81に同軸上に設けられている。
【0028】
図3に戻って、第2ハウジング33の軸方向中間部の内周面に第1スライドベアリング104が設けられ、第2ハウジング33の軸方向端部にエンド部材105がねじ結合されている。
エンド部材105の内周面に第2スライドベアリング106が設けられている。
第1、第2のスライドベアリング104,106に出力ロッド34が摺動自在に支持されている。
【0029】
出力ロッド34内に送りねじ機構43が収納されている。
送りねじ機構43は、入力フランジ81に同軸上に設けられた雄ねじ部材107と、雄ねじ部材107の外周にねじ結合された雌ねじ部材108とを備えている。
雄ねじ部材107は、一端側(右側)が入力フランジ81の中心を貫通してナット112で締結されている。
雌ねじ部材108は、中空の出力ロッド34の内周面に嵌合され、他端側(左側)の外周が出力ロッド34の内周にねじ結合部114でねじ結合されている。
【0030】
この送りねじ機構43は、入力フランジ81の回転を雄ねじ部材107に伝えることで、雌ねじ部材108を軸線111方向に移動させることができる。
よって、雌ねじ部材108と一体に出力ロッド34を軸線111方向に移動させることができる。
【0031】
ここで、アクチュエータ15には、出力ロッド34の移動位置を検出し、検出した移動位置を制御装置(図示せず)にフィードバックする位置検出手段120が設けられている。
位置検出手段120は、出力ロッド34の外周にボルト121で固定された被検出部122と、被検出部122の位置を磁気的に検出する検出部123とを備えている。
【0032】
検出部123は、第2ハウジング33に設けられたセンサ本体124に収納されている。
被検出部122は、一例として、永久磁石が用いられている。
検出部123は、一例として、コイル等が用いられている。
第2ハウジング33には開口部33bが形成されている。第2ハウジング33に開口部33bを形成することで、出力ロッド34の移動に伴って被検出部122が移動した際に、被検出部122が第2ハウジング33に干渉することを防止できる。
【0033】
このアクチュエータ15によれば、ハウジング30内に備えたモータ38を回転させ、モータ38の回転を入力フランジ81を介して雄ねじ部材107に伝えることができる。
雄ねじ部材107が回転することで、雌ねじ部材108を軸線111方向(軸方向)に送り出すことができる。
雌ねじ部材108を送り出してアクチュエータ15を伸縮させることで、後輪18(図2参照)の舵角を制御することができる。
【0034】
図5は図4の5部拡大図、図6は本発明に係る入力フランジおよびスペーサカラーを示す斜視図である。
入力フランジ81は、中央に嵌合孔85が形成され、基部に径方向外側に張り出された外周フランジ部82が形成されている。
外周フランジ部82は、第1、第2のスラストベアリング83,84に挟まれた状態で第2ハウジング33内に回転自在に支持されている。
【0035】
具体的には、第2ハウジング33に段部86が形成され、段部86の側壁86aに第1ワッシャ88が配置されている。この第1ワッシャ88に第1スラストベアリング(一対のスラストベアリングの一方)83が配置され、第1スラストベアリング83に入力フランジ81の外周フランジ部82が配置されている。
【0036】
この外周フランジ部82に第2スラストベアリング(一対のスラストベアリングの他方)84が配置され、第2スラストベアリング84に第2ワッシャ89が配置されている。
よって、入力フランジ81は、第1、第2のスラストベアリング83,84に挟まれた状態で段部86内に配置されている。
【0037】
この外周フランジ部82の外周側で、かつ第1、第2のワッシャ88,89間に環状のスペーサカラー91が配置されている。
このスペーサカラー91を第1、第2のワッシャ88,89で挟持するように、環状のロックスクリュー95が段部86の雌ねじ96にねじ結合されている。
雌ねじ96は、段部86の周壁86bに形成されている。
【0038】
スペーサカラー91を挟持するようにロックスクリュー95がねじ結合されることで、ロックスクリュー95および周壁86b間に第1、第2のワッシャ88,89、第1、第2のスラストベアリング83,84および外周フランジ部82が挟持されている。
すなわち、第1スラストベアリング83が、第1ワッシャ88および外周フランジ部82に当接されている。
さらに、第2スラストベアリング84が、第2ワッシャ89および外周フランジ部82に当接されている。
【0039】
よって、入力フランジ81の外周フランジ部82が第1、第2のスラストベアリング83,84に挟まれた状態で段部86内に回転自在に支持されている。
なお、この状態において、ロックスクリュー95を締め付けた際の力(軸力)はスペーサカラー91に作用し、第1、第2のスラストベアリング83,84には作用していない。
【0040】
スペーサカラー91は、外周フランジ部82の外周側で、かつ第1、第2のワッシャ88,89間に配置された環状の筒体である。
このスペーサカラー91は、ロックスクリュー95を雌ねじ96にねじ結合させて、ロックスクリュー95を締め付けた際の軸力が付与された状態で、圧縮する方向に変形可能(座屈変形可能)に形成された金属製チューブである。
【0041】
具体的には、ロックスクリュー95を締め付けた際の軸力がスペーサカラー91に付与された状態において、スペーサカラー91の両端部91a,91bに第1、第2のワッシャ88,89からそれぞれ押圧力が作用する。
スペーサカラー91の両端部91a,91bに押圧力が作用することで、スペーサカラー91の中央部91cが内周側に膨出するように変形されている(図5参照)。
【0042】
このように、スペーサカラー91を変形させることで、例えば、スペーサカラー91の長さ寸法L1(図7参照)が、第1、第2のスラストベアリング83,84の幅寸法および外周フランジ部82の幅寸法の和L2(図7参照)より大きい場合でも、第1、第2のスラストベアリング83,84および外周フランジ部82を第1、第2のワッシャ88,89で挟持することができる。
よって、第1、第2のスラストベアリング83,84および外周フランジ部82を確実に保持することが可能になり、外周フランジ部82を円滑に回転させることができる。
つぎに、スペーサカラー91のばね特性を図7、図8のグラフに基づいて説明する。
【0043】
図7は本発明に係るスペーサカラーを変形させる例を説明する図、図8は本発明に係るスペーサカラーのばね特性を説明するグラフである。
縦軸はロックスクリュー95を締め付けた際の力を軸力Tとして示し、横軸はロックスクリュー95の締込量δを示す。
グラフG1はロックスクリュー95の締付時にスペーサカラー91に作用する力を示す。グラフG2はロックスクリュー95の締付時に第1、第2のスラストベアリング83,84に発生する力を示す。
【0044】
ここで、一例として、図7(a)に示すように、スペーサカラー91の長さ寸法L1が、第1、第2のスラストベアリング83,84の幅寸法および外周フランジ部82の幅寸法の和L2より大きい場合について説明する。
また、図8のグラフに示す「軸力T2」は、ロックスクリュー95を締め付けた状態に保持可能な力である。
すなわち、ロックスクリュー95を軸力T2に締め付けた状態に保つことで、ロックスクリュー95が緩むことを防止することができる。
【0045】
図7(a)に示すように、ロックスクリュー95を段部86の雌ねじ96にねじ結合し、締込量δを当接開始位置δ1まで締め付ける。ロックスクリュー95が第2ワッシャ89を介してスペーサカラー91の一端部91bに当接する。
グラフG1に示すように、ロックスクリュー95の締め付けによる軸力は発生していない。
【0046】
一方、ロックスクリュー95は第2ワッシャ89を介して第2スラストベアリング84に当接していない。
グラフG2に示すように、第1、第2のスラストベアリング83,84にロックスクリュー95の締め付けによる軸力は発生していない。
【0047】
図7(b)に示すように、ロックスクリュー95を当接開始位置δ1から継続して締め付けることでスペーサカラー91が弾性変形(変形)を開始する。
この状態から、ロックスクリュー95をスペーサカラー91が塑性変形(変形)を開始する位置δ2まで継続してさらに締め付ける。
グラフG1に示すように、ロックスクリュー95を当接開始位置δ1から塑性変形開始位置δ2まで締め付ける際に、スペーサカラー91に作用する軸力Tが締付量δに比例してT1まで上昇する。
【0048】
一方、ロックスクリュー95は第2ワッシャ89を介して第2スラストベアリング84に当接していない。
よって、グラフG2に示すように、第1、第2のスラストベアリング83,84にロックスクリュー95の締め付けによる軸力は発生していない。
【0049】
ロックスクリュー95を塑性変形開始位置δ2から締付位置δ3まで継続して締め付ける。
グラフG1に示すように、スペーサカラー91に作用する軸力TがT2まで上昇する。
軸力T2は、ロックスクリュー95が緩まないように締め付けた状態に保持可能な力である。
【0050】
この状態で、第2スラストベアリング84に第2ワッシャ89が接触(当接)する。
よって、第1、第2のスラストベアリング83,84および外周フランジ部82は、第1、第2のワッシャ88,89間に回転自在に位置決めされた状態で挟持される。
第2スラストベアリング84に第2ワッシャ89が接触(当接)しているのみである。
グラフG2に示すように、第1、第2のスラストベアリング83,84にロックスクリュー95の締め付けによる軸力は発生していない。
【0051】
これにより、第1、第2のスラストベアリング83,84に軸力T(すなわち、荷重)を作用させないで、ロックスクリュー95を緩まない状態に締め付けることができる。
さらに、第1、第2のスラストベアリング83,84に荷重を作用させないことで、第1、第2のスラストベアリング83,84の耐久性を確保することができる。
【0052】
ここで、グラフ1に示すように、軸力Tは締付位置δ3の近傍(具体的には、範囲H)で略T2に保つことが可能である。
よって、ロックスクリュー95を締付位置δ3の近傍(範囲H)で、ロックスクリュー95が緩まないように締め付けた状態に保持することが可能である。
これにより、ロックスクリュー95を締付け状態に保つこと(管理すること)が容易におこなえる。
【0053】
以上説明したように、変形可能なスペーサカラー91を第1、第2のワッシャ88,89間に介在させることで、スペーサカラー91を第1、第2のワッシャ88,89で挟持するとともに、第1、第2のスラストベアリング83,84および外周フランジ部82を第1、第2のワッシャ88,89で確実に挟持した状態を容易に確保することができる。
よって、ロックスクリュー95を締付け状態に保つ軸力T2を容易に確保し、かつ、入力フランジ81を確実に支持することができる。
【0054】
これにより、外周フランジ部82(すなわち、入力フランジ81)を円滑に回転させることができる。
また、外周フランジ部82のずれを防ぐことができるので、後輪18を所定位置に確実に保持することができる。
【0055】
なお、前記実施の形態では、第1、第2のワッシャ88,89間にスペーサカラー91を配置した例について説明したが、これに限らないで、第1、第2のワッシャ88,89を除去して段部86の側壁86aおよびロックスクリュー95間にスペーサカラー91を直接配置することも可能である。
【0056】
また、前記実施の形態で示したハウジング30、第1ハウジング31、第2ハウジング33、入力フランジ81、ロックスクリュー95などの形状は例示したものに限定するものではなく適宜の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、アクチュエータを伸縮させて後輪の舵角を制御する後輪独立操舵装置を備えた自動車への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る後輪独立操舵装置を示す斜視図である。
【図2】図1の2矢視図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図3の4部拡大図である。
【図5】図4の5部拡大図である。
【図6】本発明に係る入力フランジおよびスペーサカラーを示す斜視図である。
【図7】本発明に係るスペーサカラーを変形させる例を説明する図である。
【図8】本発明に係るスペーサカラーのばね特性を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0059】
10…後輪独立操舵装置、15…アクチュエータ、18…後輪、30…ハウジング、38…モータ、43…送りねじ機構、81…入力フランジ、83…第1スラストベアリング(一対のスラストベアリングの一方)、84…第2スラストベアリング(一対のスラストベアリングの他方)、91…スペーサカラー、95…ロックスクリュー、107…雄ねじ部材、108…雌ねじ部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータのハウジング内に備えたモータを回転させ、前記モータの回転を入力フランジを介して雄ねじ部材に伝え、前記雄ねじ部材の回転で雌ねじ部材を軸方向に送り出してアクチュエータを伸縮させることで、後輪の舵角を制御する後輪独立操舵装置において、
前記入力フランジが一対のスラストベアリングに挟まれた状態で前記ハウジング内に配置され、
前記一対のスラストベアリングのうち、一方が前記ハウジングに当接するとともに、他方が、前記ハウジングにねじ結合されたロックスクリューに当接され、
前記入力フランジおよび前記一対のスラストベアリングの外周で、かつ、前記ハウジングおよび前記ロックスクリューの間に、前記ロックスクリューの締め付けによる力で変形可能なスペーサカラーが配置されたことを特徴とする後輪独立操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−241727(P2009−241727A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90262(P2008−90262)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】