説明

循環式の水の濾過装置

【課題】濾材を間欠的に曝気する循環式の濾過装置であって、大型の水の循環システムに組み込んでも安定的に水位上下サイクルの作動が可能であり、コストを抑制できる水の濾過装置の提供。
【解決手段】上端を閉止し下端に開口部を設けてあり槽の底面との間に隙間を形成してある外管と、上下端とも開口してあり上端は外管の内方に挿入して外管との間に水路を形成し下端は槽の底面を貫通させてある内管とを備えた濾過槽において、側面が上記隙間とほぼ同じ程度の深さに水没する比重を備え、外管の外径の1.1倍以上の内径を有する中空状のフロートを外管を囲んで取り付けてあり、槽内の水位が内管の上端まで上昇したときはサイフォンの機構により槽外へ水を排出し、槽内の水位が外管の開口部付近まで下降したときはフロートの作用によりサイフォンの機構を停止させて水位を上昇させることを繰り返して、槽内の濾材を間欠的に曝気する循環式の水の濾過装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は循環式の水の濾過装置に関する。詳しくは、水循環式の間欠式濾過装置に関する。本発明に係る水の濾過装置は、養魚用飼育システムや下水浄化システム等の大型の水の循環システムに組み込んで使用することができる。
【背景技術】
【0002】
水循環式の養魚用飼育システムの一例を図2に示す。図2において、送水ポンプ7は常時稼働しており、飼育水は、濾過槽1で濾過されて魚の飼育水槽6に送られ、飼料滓や魚糞等で汚れた後、送水管8を経て濾過槽1に戻され、汚物を濾過されるというように一定の流路を循環している。なお、9は警報器付きの流量計である。(実際の養魚用飼育システムでは、飼育水槽の手前に汚物の分離槽ないし貯水槽を設けることが多いが、説明を簡明にするため図示を省略する。)
【0003】
上記のような飼育水を循環させる養魚用飼育システムは、飼育水の連続式供給システム(いわゆるワンウエイの流水式又は掛け流し式のもの)に比べて、加温・冷却の熱源コストを大幅に節約できる。また、外部からの病原菌やウイルス等が侵入しにくいという利点もある。しかし、水循環式の養魚用飼育システムは、汚物から生じたアンモニア等を生物濾過により低減させる濾過槽が大型になるため、設置面積が大きくなり、かつ、濾過槽の設置コストや維持コストが高くなりやすい。
【0004】
また、一般的な濾過槽では、濾材が常時水中に浸漬されているため、濾材の隅々まで酸素が行き渡らず、連続的に稼働すると濾過効率が低下することが多い。また、濾過槽内にヘドロが溜まりやすく、長期の稼働によって有害な硫化水素が発生することがある。そのため、濾過槽内の水位を変化させて濾材を間欠的に曝気する濾過装置(間欠式濾過装置)が開発されている。間欠式濾過装置を用いると、濾材に酸素が供給されて好気性バクテリアの活性が飛躍的に上昇するため、汚物由来のアンモニアや亜硝酸塩を比較的無害な硝酸塩に変換することができる。また、濾過装置を間欠式にすると、同じ水槽容量の濾過装置の2倍以上に浄化能力を高めることができるので、その分だけ小型化が可能である。
【0005】
而して、従来の間欠式濾過装置では、水位を変化させる部材として、二重管式のサイフォン機構を装備して槽内の水位の上下をサイクル化させたり、水の供給と停止にフロートを用いる方法が知られている。本発明者らの調査によれば、その主な先行文献は以下のとおりである。
【特許文献1】特開平7−148403号公報
【特許文献2】実用新案登録第3022194号公報
【特許文献3】特開平5−168372号公報
【非特許文献1】株式会社レイシー発行の総合製品案内「間欠水流上部フィルターRFGシリーズ」2001年8月発行(CAT.No.R104−03)
【非特許文献2】エーハイムジャパン株式会社発行「エーハイムウエットアンドドライフィルター2229」の取扱説明書(2004年8月発行)
【0006】
特許文献1には、二重管式の逆洗用送給水サイフォン管を装備した重力式濾過装置について開示してある。しかし、この濾過装置は、サイフォン管の頂部に流量調整用ダンバを取り付けて逆洗用水の流量をこのダンバを上下方向に移動させて調節する必要があり、また、逆洗をスムースに行なうために予め逆洗水室内に一定量の濾過水を吸い上げておく必要がある等、操作が複雑であり、水の濾過と濾床の逆洗を自動的に繰り返すことは困難である。
【0007】
特許文献2には、循環水の一部(分流水)をウエット&ドライの容器に導入し、この容器内で二重管式のサイフォン機構を用いて水位の上下を繰り返し、容器内の多孔質石のウエット&ドライ状態を交互につくり出す水質浄化装置について開示している。また、水位の上下を浮きの動きによって観察するための浮き室を設けている。しかし、この水質浄化装置は、循環水を少量ずつ浄化する方法を採っているため、小型の鑑賞用水槽には適用できるとしても、大型の水の循環システムに組み込んで水位上下作動サイクルを安定的に繰り返すことは困難である。
【0008】
特許文献3には、揚水ポンプからの水供給量と水槽に戻す流出量を落下口直上に設けたフロートの上下動によってバランスさせ、また、落下口における空気の吸い込みをなくすようにして、濾過水の流下に伴う水音の発生を抑制する鑑賞魚用水槽の濾過装置について開示してある。なお、この濾過装置は、フロートを用いているものの、サイフォン機構を採っておらず、濾材を間欠的に曝気する装置ではない。
【0009】
非特許文献1には、ウエット&ドライ運転により濾材を間欠的に空気に曝すようにした鑑賞魚用の飼育水の濾過装置において、エアチューブの先端まで水位が下がってサイフォン部内に空気が入ると水槽への水の供給が止まり、フィルター内の水位が高くなるとサイフォン部内の空気を巻き込みながら水が落ちていくようにした濾過装置について記載してある。しかし、この濾過装置は、空気取り入れ用の管を備えた二重管式のサイフォン機構を使用して水位を上下させるだけであるから、鑑賞魚用の小型の濾過装置には適するとしても、大型の水の循環システムに組み込んで水位上下作動サイクルを安定的に繰り返すことは困難である。
【0010】
非特許文献2には、フィルター(濾過装置)の側方にフロート室を設け、フロート室に入ってきた水の浮力によりフロートが上昇して水路が開放されてシャワーパイプへ向かっての排水が始まり、排水が進むにしたがってフロートが落下してフロート下部のO−リング付き突起部がコネクションパイプの穴に嵌合し、流路を閉鎖して排水を停止する仕組みが開示されている。しかし、この装置は、フロート下部の突起部とパイプの穴との嵌合・離脱が常にスムースに行なえるとは限らず、鑑賞魚用の小型の濾過装置には適するとしても、大型の水の循環システムに組み込んで水位上下作動サイクルを安定的に繰り返すことは困難である。
【0011】
このように、従来から知られている間欠式濾過装置は、鑑賞魚用の小型飼育槽(容積が概ね150L以下のもの)に用いる濾過槽(容積が2L〜20L程度)に限られており、水族館の飼育水槽や業務用の養殖魚の飼育水槽や下水の浄化槽等の大型の水の循環システム(水槽の容積が概ね3トン以上のもの)に組み込む間欠式濾過装置(濾過槽の容積が概ね100L以上)は、未だ実用化されていない。これは、サイフォンの機構では、流量を増加させるために排水管の口径を大きくすると配管の内外に乱流や渦巻きが生じ、排水が不安定になるからである。そのため、鑑賞魚用の小型の濾過槽の水位上下作動サイクルの仕組みを単純に相似的に大型化しても、連続的かつ安定的に水位の昇降を繰り返すことはできない。
【0012】
特に養殖魚用の飼育水槽では、大量の餌を投入するため、配管内部に汚れが蓄積しやすく、配管内清掃等のメインテナンスを怠ると濾過槽への供給水量や濾過槽からの排水量がヘドロ等の蓄積物やその剥離物のために短期間に変動することがあり、濾過槽の水位の上下作動サイクルの安定的な自動化に大きな影響を及ぼしている。
【0013】
なお、送水ポンプの流量を一定間隔で変動させる電子制御装置を取り付けて濾過槽の水位を上下させることは可能であるが、電子部品は交換時期の予測が難しく、故障による停止を避けるためには定期的な交換が必要であり、維持コストが嵩む。また、ポンプの回転数を一日に数百回から数千回も変動させることは高電流が流れる頻度が上がるためポンプの寿命を大幅に縮めることになる。その上、消費電力の増加にもつながるので避けるべきである。
【0014】
このような状況に鑑み、本発明者らは、濾材の曝気を間欠的に繰り返し、養殖魚用の飼育水槽をはじめとする大型の水の循環システムに組み込んでも安定して自動化が可能な、低コストの循環式の水の濾過装置の開発を志向し、種々の試験・試作を繰り返した結果、従来の二重管式のサイフォン機構に中空状のフロートを組み合わせることによって目的が達せられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
すなわち、本発明は、濾過槽の水位の上昇と下降を自動的に繰り返して濾材を間欠的に曝気し、常に濾過効率を高く維持できる循環式の水の濾過装置であって、大型の水の循環システムに組み込んでも連続的かつ安定的に水位上下作動サイクルの維持が可能であり、かつ、設置コストや維持コストを低くすることができる水の濾過装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するための本発明のうち、特許請求の範囲・請求項1に記載する発明は、上端を閉止し下端に開口部を設けてあり槽の底面との間に水路となる隙間を形成して直立させてある外管と、上下端とも開口してあり上端は外管の内方に挿入して外管との間に水路を形成し下端は槽の底面を貫通させてある内管とを備えた濾過槽において、側面が上記隙間とほぼ同じ程度の深さに水没する比重を備え、外管の外径の1.1倍以上の大きさの中空部を有する中空状のフロートを外管を囲んで取り付けてあり、槽内の水位が内管の上端まで上昇したときはサイフォンの機構により内管を介して槽外へ水を排出し、槽内の水位が外管の開口部付近まで下降したときはフロートの作用によりサイフォンの機構を停止させて水位を上昇させることを繰り返して、槽内に敷設した濾材を間欠的に曝気する循環式の水の濾過装置である。
【0017】
また、同請求項2に記載する発明は、下面を外方に広げてあるか又は下面に外方に広がるフランジを取り付けてある中空状のフロートを用いる請求項1に記載の循環式の水の濾過装置である。
【0018】
また、同請求項3に記載する発明は、濾材を敷設する床面を外管の開口部よりも高くするとともに該床面を外管の開口部に向かって傾斜させてある濾過槽を用いる請求項1又は2に記載の循環式の水の濾過装置である。
【0019】
また、同請求項4に記載する発明は、濾過槽への送水路に警報器付きの流量計を取り付けてある請求項1から3のいずれかに記載の循環式の水の濾過装置である。
【0020】
また、同請求項5に記載する発明は、水循環式の養魚用飼育システムに組み込んで使用する請求項1から3のいずれかに記載の循環式の水の濾過装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る循環式の水の濾過装置は、上記の構成であるから、大型の水の循環システムに組み込んだ場合でも、濾過槽内で水位の上昇と下降を一定時間ごとに連続的かつ安定的に繰り返すことができる。具体的には、本発明に係る循環式の水の濾過装置は、容積が概ね100L以上の濾過槽に用いることができ、また、水槽の容積が概ね3トン以上の水の循環システムに組み込むことが可能である。そのため、本発明に係る循環式の水の濾過装置は、上記の大型の濾過槽を含め、多くの濾過槽について、濾材を間欠的に曝気して酸素の供給量を増加させるとともに、ヘドロ等の蓄積を抑止し、長期間にわたって高効率の濾過を続けることが可能である。
【0022】
本発明に係る循環式の水の濾過装置は、上記の構成であり、二重管式のサイフォン機構に中空状のフロートを併用するだけであるから、製作コストを低く抑えることができる。しかも、水位の上下に動力を必要としない上、故障等のおそれが少ないので、維持コストも低く抑えることができる。すなわち、本発明に係る循環式の水の濾過装置は、装置の作動状態の確認や分解・清掃がきわめて簡単であるため、若干の定期的整備をするだけで長期間にわたって低コストのまま安定的に水位の上下作動サイクルを続けることが可能である。
【0023】
また、本発明に係る循環式の水の濾過装置は、短時間で大量の排水を繰り返すことが可能であり、そのため、下流側の水槽等に強力な水流を起こすことができるので、貯水槽や池等の水を攪拌する場合にも適用できる。特に、養魚用の飼育システムに組み込んだ場合は、水槽中の水流が間欠的に変化するので天然環境の一部を再現でき、養魚にとって変化のある状態になるため、より健全な飼育環境を構築できる。また、本発明に係る循環式の水の濾過装置は、汚れた水槽や水域の水の浄化システムに応用すれば、十分な攪拌が行なわれるので、その底層にヘドロ等が固着するのを防ぎ、悪臭の発生を抑止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る循環式の水の濾過装置(以下単に「濾過装置」とも記す。)の実施例を図1・図2に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る循環式の水の濾過装置の説明図である。図1の(1)は、濾過槽内の水位が最も上昇したときの状態を示し、(2)は水位が下降途中の状態、(3)は水位が最も下降したときの状態を示す。本実施例では、図1の濾過装置は、図2に示すように、水循環式の養魚用飼育システムに組み込んで使用する。
【0026】
図1において、1は適宜の容積を有し、底面12の上部に適宜の濾材(図示せず)を敷設してある濾過槽で、その上部の送水管には警報器付きの流量計を取り付けてある。2は上端21は閉止してあるが下端に開口部22を設けてある外管で、濾過槽1の底面11と開口部22の間に水路となる隙間aを形成し、適宜の手段によって濾過槽1内に直立状に固設してある。3は上端31・下端32とも開口してあり、上端31を外管2の内方に挿入して外管2との間に水路となる隙間bを形成するとともに下端32を濾過槽1の底面11を貫通させてあり、濾過槽1内の水を排出可能な内管で、適宜の手段により固設してある。なお、底面11は濾過槽1の底面の一部で、外管2を設置するスペースであるが、図示のように外管2の周囲を切り欠いて、濾材(図示せず)を敷設するスペースである底面12よりも低くしてある。また、底面12は、底面11に配置した外管2の開口部22に向かって下がり傾斜状に成形してある。
【0027】
図1において、4は、適宜の高さの側面41を有する浮輪型の中空状のフロートであり、外管2を囲むように取り付けてある。中空状のフロート4は、浮力を有するが、その側面41は上記水路となる隙間aとほぼ同じ深さまで水中に没する程度の比重を備え、かつ、外管の外径の1.5倍の大きさの内径を有している。そのため、中空状のフロート4は、水面に浮かんだとき外管2を囲んだ状態で上昇と下降をスムースに繰り返すことができる。
【0028】
サイフォンの機構を作動させるため、外管2の上端21(閉止してある)と内管3の上端31(開口してある)の間には適度の空間cを設けて空気が滞留しやすくする。また、濾過槽1の水位は、内管3の上端31の位置が上限になる。そのため、濾過槽1内の、外管2と内管3を取り付ける位置はこれらの点を考慮して定める必要がある。
【0029】
図2は、図1の濾過装置(濾過槽1として図示してある。)を組み込んだ水循環式の養魚用飼育システムの説明図で、図中の6は適宜の容量の飼育水槽である。7は送水ポンプで、起動後は所定の水量を維持しながら常時稼働させる。8は送水管、9は警報器付きの流量計である。
【0030】
図2に示す水循環式の養魚用飼育システムでは、まず、飼育水槽6に水を注入し、送水ポンプ7を起動すると、水は、送水管8を経て流量計9を通って濾過槽1から飼育水槽6に送られ、水の循環が開始される。そうすると、濾過槽1内では、水位は次第に上昇し、外管2を囲んで取り付けてある中空状のフロート4も外管2を芯にした状態で水面に浮かび、水面とともに次第に上昇する。水は、濾過槽1の底面11と外管2の下端の開口部22の間に設けた水路aを通って開口部22から外管2内の水路bへ流入し、内管3の側壁にそって上昇する。図1の(1)に示すように、水は、内管3の上端31に達すると外管2の上端21付近の空間cに滞留している空気を巻き込みながら内管3の上端31から内管3の内方を通って槽外へ排出される。このとき、内管3の排水側の下端32は空中に露出していることが好ましい。この時点では濾過槽1への送水量と排水量は同じである。ほぼ排気が終了すると、サイフォンの機構がこの流路で働き、濾過槽1内のより多くの水が内管3に吸い込まれて濾過槽1から排出され、飼育水槽6へ送られる。この時点では濾過槽1への送水量よりも排水量が多くなっている。そのため、図1の(2)に示すように、濾過槽1の水位は次第に下降する。中空状のフロート4も外管2を囲んだ状態で水面とともに下降する。
【0031】
濾過槽1の水位が外管2の下端の開口部22付近に達すると、中空状のフロート4は着底するか又は着底寸前まで下降する。そうすると、中空状のフロート4が外管2の開口部22への水の流れに抵抗を与え、流入を遮断し、内管3からの排水量を減らす。そのため、図1の(3)に示すように、外管2の開口部22から空気が入り込んで、閉止してある外管2の上端21の空間cに滞留するようになり、サイフォンの機構は停止する。サイフォン機構が停止しても送水ポンプ7による水の供給は続いているので、濾過槽1の水位は上昇に転じ、中空状のフロート4も水面とともに上昇する。水位が再び内管3の上端31にまで達するとサイフォンの機構が働いて、内管3からの排水が始まる。そうすると送水量よりも排水量の方が多くなって水位は下降する。水位が外管2の開口部22付近まで下降すると、中空状のフロート4の作用によって外管2の開口部22への水の流れに抵抗が生じ、排水量が減って、ついにはサイフォン機構が停止され、水位は上昇に転じる。このように水位の上昇と下降のサイクルが一定時間ごとに繰り返えされることによって、濾過槽1は一定の間隔で水が満たされたり、空(カラ)になったりするので、濾過槽1に敷設してある濾材は間欠的に曝気され続けることになる。
【0032】
また、濾過槽1の水位が下降する際には、濾材を敷設した底面12付近で外管2の開口部22に向かって強い流れが生じるため、水位の昇降を繰り返しているうちに、底面12や濾材に付着しているヘドロ等が引き剥がされ、また、付着しにくくなるので、濾過能力をいっそう高めることができる。
【0033】
このように、本発明に係る水の濾過装置は、二重管を用いたサイフォン式の水の排出機構に中空状のフロートを取り付けて、濾過槽の水位が下降したときに水の流れに抵抗を与えて流量を減らしかつ流れを遮断するだけであるから、槽外への排水のために電気的な操作やバルブ操作をする必要がなく、また、連続的に稼働させても、作動不良になるリスクがきわめて小さい。しかも、送水量に多少の変動があっても差し支えなく、安定的かつ連続的に水位の上下作動サイクルを繰り返すことができる。また、製作が容易で有るとともに故障するリスクも少ないから、製作コストと維持コストを低く抑えることができる。
【0034】
中空状のフロートの働きによってサイフォンの機構が停止する作用について詳しく説明する。濾過槽内の水位が十分に高い場合は、中空状のフロートの下面と濾過槽の底面とには十分な空間があるため、水は特に抵抗を受けることなく外管の開口部から吸い込まれ、内管の内方を通って槽外へ排出される。このとき、中空状のフロートの水位は濾過槽の水位と同じである。しかし、濾過槽の水位が下がって中空状のフロートが下降し、フロートの下面と濾過槽の底面との空間が減少すると、フロートの下面が水の流入に抵抗を与えて流れにくくし、さらに下降すると、フロートの側面が水の流れを遮断するように働くので、中空状のフロートと外管の間に入り込む水量が減って外管の内部に流入する水の量が減少する。このとき、中空状のフロートの水位は濾過槽の水位よりも下がっている。中空状のフロートがさらに下降して外管の開口部付近に達すると外管の内部に流入する水の量はさらに減少し、サイフォン機構を維持できなくなってサイフォンは停止する。その結果、濾過槽の水位は上昇に転じる。
【0035】
本発明に係る水の濾過装置では、濾過槽からの排水量は外管の下端に設ける開口部の口径、内管の内径、濾過槽の底面から下方に貫通している内管の長さによって規定される。安定的かつ連続的に水位の上昇と下降を繰り返すには、サイフォンの機構が確実に作動するようにこの流路の断面積を十分に広くし、かつ、濾過槽の底面以下の内管も適宜長くすることが好ましい。
【0036】
本発明で用いる中空状のフロートは、或る程度の重さが必要である。すなわち、中空状のフロートの比重が軽く、その側面の大部分が水面上に露出している場合はフロートと濾過槽の間にほとんど水位差が生じないため、サイフォン機構が停止しない。また、フロートの中空部分の内径が外管の外径より十分に大きくないとこの水位差は生じない。すなわち、中空状のフロートは、浮力を有するが、水位が外管の下端に設けた開口部付近に達したときに着底するか又は着底すれすれの状態となって開口部への水の流れを妨げることができるように、濾過槽の底面と外管の開口部で形成している隙間の深さとほぼ同じ程度の深さまで水中に没する側面(高さ)を備えている必要がある。「・・隙間の深さとほぼ同じ程度」とは、フロートの側面の水中に沈降する部分が上記の隙間の深さ以上に深いことが好ましいが、上記の隙間より若干浅くても水流を妨げることができるので、その程度でも支障はないという意味である。
【0037】
また、本発明で用いる中空状のフロートは、その中空部(上記の実施例ではフロートの内径)を外管の外径より十分に大きくして、水位の昇降の際に外管に接触しても停止しないでスムースに水面に浮遊するような大きさにする必要がある。本発明者らの試験によれば、中空状のフロートは、その中空部の内径が外管の外径よりも1.1倍以上、好ましくは1.2〜2倍程度に大きくする必要がある。
【0038】
また、本発明で用いる中空状のフロートは、上記実施例のように「浮輪型」(すなわちドーナツ型)の円盤形状であることが好ましいが、正確な浮輪状やドーナツ状である必要はない。中空状すなわち中央部に空間(吹き抜け部)が設けてあり、濾過槽の底面と外管の開口部との間に形成される隙間(上記実施例の隙間a)とほぼ同じ深さに水没する程度の比重を備えていて、水位の昇降の際に外管から外れないで水面に浮かんでスムースに上下し、水面が下がったときに外管の下端の開口部への水の流れを妨げて水量を減少できるものであれば、その形状は特に限定されない。例えば、フロートの中空部を形成する側壁が中心方向に膨らんでいたり、昇降の際に外管の外壁に衝突するような形状やサイズであっても、上記の機能を奏することが可能であれば差し支えない。本発明者らの試験によれば、フロートは、リング状に限るものではなく、ドーナツの一部を切り欠いたような円孤状に成形しても水量を減ずる機能を奏することができる。そのような形状のフロートの場合は、外管の周囲から外れやすくなるので、昇降を案内するためのレール等を設ける必要がある。
【0039】
中空状のフロートは、例えば、空気を封じた硬質プラスチック材、塩化ビニール材、発泡スチロール材等を適宜組み合わせて作ることができる。割れにくいガラス材を用いてもよい。また、比重調整用に1個又は数個の浮きや錘りを取り付けてもよい。
【0040】
上記のとおり、本発明で用いる中空状のフロートは、濾過槽の水位が下降して外管の開口部近くに至った際にフロートの下面でフロートと濾過槽の底面の間の水流に抵抗を与えるとともに、フロートの側面で水の流れを遮断して水の流量の減少を誘導し、外管の開口部から空気を吸い込ませることによってサイフォン機構を停止させる役割をする。そのためには、中空状のフロートの下端の面積(幅)は広い方が好ましい。そのため、フロートの下面を外方に広げるか又はフロートの下面に外方に広がるフランジを取り付けることが好ましい。また、フランジの下面にブラシやスポンジ状のものを貼り付けるとフロートが濾過槽の底面と接触する面積が増えるのでさらに好ましい。図3にその一例を示す。図3において、4は外管の外径の約2倍の大きさの中空部43を有する中空状のフロートで塩化ビニール管の側面41に比重調整用として発泡スチロール管42を嵌めてあり、また、フロート4の下面には外方に広がるフランジ5(薄い塩化ビニール板で作ったもの)を貼り付けてある。また、このフロート4は、濾過槽の底面と外管の開口部の間に形成される隙間(水路)の大きさに合わせて、水に浮かべたときその側面41の3分の1程度が水中に没するように比重を調整してある。
【0041】
濾過槽への送水量が少ない場合には、中空状のフロートの自重によってフロートの下面が濾過槽の底面を塞ぐ作用のみでサイフォン機構は停止する。しかし、送水量が多い場合には、中空状のフロートがその下端付近の水流の作用によって若干浮くことがある。このような場合、中空状のフロートの下面を外方に広げてあるか又はその下面に外方に広がるフランジを取り付けてあると、水は、その下面と濾過槽の底面の間の水路を通ることになり、抵抗が大きくなって水量が早く減少するか又は水流が早く停止する。また、中空状のフロートの下面付近に発生した乱流や渦流がフロートの外方へ広がった部分に乗ったときには、一瞬、その部分が下方に押しつけられ、その結果、排水が停止する。そのため、濾過装置が大型の場合には、中空状のフロートは、その下面を外方に広げてあるか又は下面に外方に広がるフランジを取り付けて下面の面積を大きくしたものを用いることが好ましい。
【0042】
本発明で用いる外管は、上端を閉止するとともに下端に開口部を設けてあり、濾過槽の底面との間に水路となる隙間を設けて直立させてあるが、開口部及び開口部と槽の底面との隙間の形成は、外管の下端を開口状にして底面から浮かせた状態で固設してもよく、また、外管の下端に数カ所の切り込みを入れてもよく、さらには、下端部に数カ所の孔を設けてもよい。
【0043】
本発明で用いる濾過槽については、槽内にヘドロ等を溜まりにくくするため、濾材を敷設する床面(通常は濾過槽の底面の一部のスペース)を外管の下端の開口部よりも高くするとともに該床面を外管の開口部に向かって傾斜させた構造にすることが好ましい。この場合、実施例で示したように、底面の一部を区画してその区画したスペースをさらに低くし、その低くしたスペースに外管を配置してもよい。その一例を図4に示す。図4において、1は濾過槽、2は外管、22は外管2の下端に設けた開口部である。外管2は濾過槽1の底面をさらに低くしたスペース11に固設してある。12は濾過槽1の濾材を敷設する床面(この場合は底面)で外管2の開口部22に向かって傾斜させてある。(なお、図4では中空状のフロートは省略してある)。濾過槽をこのような構造に形成すると、水位が下降する際に該床面付近で外管に向かって横方向の強い流れが生じるため、これを繰り返すことによって該床面上に吸着しているヘドロ等を引き剥がすことができる。このように、本発明に係る濾過装置では、濾過槽内の水位上下作動サイクルを続けることによって、濾材や飼育水の酸素不足を解消することは勿論、濾材にヘドロ等が付着しにくくなり、さらには濾過槽内部や配管内部を清掃する間隔を大幅に延長することができる。
【0044】
従来の間欠式濾過装置では多少の流量の変化が水位上下の作動に影響を与えるが、本発明に係る濾過装置は、上記の中空状のフロートを装備し、かつ、濾材を敷設する濾過槽の床面を外管の開口部よりも高くするとともに該床面を外管の開口部に向かって傾斜させた構造にすると、許容流量の幅が広くなって、水位の上下作動サイクルをより安定的に繰り返すことができる。特に、水の流量が多い場合には、許容流量の幅が高流量側で拡大するため、送水管内部に汚れが溜まりにくくなる。
【0045】
濾過槽への送水用配管や送水ポンプ内部に汚物が蓄積して水の流量が低下すると、水位の上下作動が不安定になりやすく、ひどくなると水位の上下作動サイクルが停止してしまう。水位上下作動サイクルの停止は、濾過槽としての機能を大幅に低下させるので短時間であっても避けた方がよい。そこで、送水用配管に、例えばブザー等の警報器を備えた流量計を取り付けて、流量が大きく変動しないように管理することが好ましい。なお、適正な水の流量は、濾過槽の大きさによって異なるため、各濾過槽ごとに予め調べておくことが好ましい。
【0046】
本発明に係る水の濾過装置を組み込む水の循環システムは、図2の配置に限るものではなく、例えば、濾過槽で濾過を済ませた水をいったん貯水槽に溜めて、貯水槽から送水ポンプで飼育水槽に送って飼育水槽から濾過槽へ戻すようにしてもよいし、また、送水ポンプを2台装備し、濾過槽で濾過を済ませた水を貯水槽に送ってポンプAによって濾過槽と貯水槽の間を循環させながらポンプBによって貯水槽から飼育水槽へ送って貯水槽に戻すようにする等、様々な方法を採ることができる。また、流量計を取り付ける位置は任意であり、例えば、飼育水槽の手前の配管に取り付けてもよいし、濾過槽の手前の配管に取り付けてもよい。また、温度調整装置や泡沫分離装置等を組み合わせてもよい。
【0047】
本発明において、用いる濾材については何ら限定はない。濾過槽内への濾材の敷設については特に限定はない。濾材の大きさや種類や性状にもよるが、例えば、濾材を袋等に収納して濾過槽内に敷設し、その上にパンチングボードのようなものを設置して、水がシャワーのようにまんべんなく濾材に降りかかるようにしてもよい。また、中空状のフロートの作動に影響しないように濾過槽内の濾材を敷設する床面に仕切りを設けて区画してもよい。なお、本発明において「濾材を敷設する」とは、濾過槽内に濾材を配置することを意味し、例えば、適宜の容器に収納した濾材を濾過槽内に吊り下げる方法で配置することも含むものである。
【0048】
以下、試験例をもって本発明をさらに詳細に説明する。試験例1は小型の濾過槽を用いたテストであり、試験例2には大型の濾過槽を用いたテストである。また、中空状のフロートは、1型・2型・3型の3種類を作って試用した。3種類のフロートの形状や寸法は図5に示す。なお、以下の試験例の説明において、水位の「上限」とは、水が内管の上端まで上昇し、これから下降を始めるときの水位のことであり、「下限」とは、水が外管の開口部付近まで下降し、これから上昇を始めるときときの水位のことをいう。
【0049】
《試験例1》
(1)試験の目的
容積30Lの濾過槽を用いて水位上下サイクルの作動状態を確認する試験
(2)試験に用いる濾過装置の構成
イ.濾過装置の仕様
a.濾過槽:容積=35L(W460×D310×H260mm)、底面の形状=平坦、
b.外管:外径=60mm、内径=65mm、長さ=225mm、開口部=下端の4か所にD40 ×H25mm の三角形の切り欠きを設けた。上端の空気溜まりの容量=66mL
c.内管:外径=29mm、内径=25mm、長さ=340mm、濾過槽底面からの高さ=205mm、濾過槽底面から下方へ貫通した部分の長さ=135mm
d.ポンプ:実測最大送水能力=30L/分
ロ.中空状のフロート(1型フロートと2型フロートを使用した。形状を図5に示す。) 1型=内径125mm、厚さ3mm、高さ140mm の塩化ビニール管の外周に、外径200mm、厚さ42mm、内径131mm のドーナツ状の発泡スチロール管を取り付け、さらに、その下部に厚さ9mm、高さ30mmの塩化ビニール板を巻いて錘り兼用フランジとした。重さは630gである。
2型=内径100mm、厚さ5mm、高さ140mm の塩化ビニール管の外周に、外径180mm、厚さ42mm、内径110mm のドーナツ状の発泡スチロール管を取り付け、さらに、その下部に厚さ5mm、高さ30mmの塩化ビニール板を巻いて錘り兼用フランジとした。重さは590gである。
ハ.濾材の種類と敷設方法
ソフトセラミック約10Lをタマネギ保存用ネットに入れて濾過槽の底面に設けたプラスチック台の上に載置した。
【0050】
(3)試験の方法
上記の濾過装置を用いて中空状のフロートを取り付けた場合と取り付けない場合の水位上下作動サイクルの状態を、水の流速を5〜30L/分の間で変化させて、それぞれの流速を3〜10回宛測定した。
(4)所見
イ)表1に示すとおり、中空状のフロートを付けなかった場合は、流速が5〜15L/分の範囲内では、いずれの流速でも下限水位から上昇に転ずる時間は一定でなく、2秒から262秒の間で変化した。(なお、表1では、5分以上下限で停止したままで上下作動サイクルが確認できない例は「上下作動サイクルが認められない」として計数してある。)このような例は高流速側で確認された。また、流速30L/分の場合は、中空状のフロートを付けなかったときは水位の上下サイクルは3例中で3例とも認められなかった。
ロ)一方、中空状のフロートを取り付けると(流速30L/分では2型フロート、その他では1型フロートを使用した。)、流速30L/分の場合でも、水位の上下作動サイクルが10例中の10例で認められ、さらに、下限水位から上昇に転ずる時間は0〜4秒になり、流速が5〜15L/分の場合とほぼ同様の効果が確認された。
ハ)また、上下作動サイクルが10例中の全部で認められた流速は、フロートを付けなかった場合は「5〜6L/分」ときわめて狭い範囲であるのに対し、フロートを取り付けた場合は「5〜30L/分」であり、フロートを付けることによって許容流速の範囲を6倍に拡大できることが確認された。
【0051】
(5)結論
上記の結果は、中空状のフロートを取り付けることが、広い流速範囲で水位の上下作動サイクルを安定化させることを示すとともに、水位を下限から上限に転じさせる時間を短縮させる上でもきわめて効果的であることを示している。
(3)試験結果
試験の結果は表1に示すとおりである。
【0052】
【表1】

【0053】
《試験例2》
(1)試験の目的
容積500Lの濾過槽を用いて水位上下サイクルの作動状態を確認する試験
(2)試験に用いる濾過装置の構成
イ.濾過装置の仕様
a.濾過槽:容積=500L(W1110 ×D860×H590mm)、底面の形状=平坦
b.外管:外径=136mm、内径=130mm、長さ=518mm、開口部=下端の4か所にD60 ×H50mm の三角形の切り欠きを設けた。上端の空気溜まりの容量=265mL
c.内管:外径=66mm、内径=50mm、長さ=925mm、濾過槽底面からの高さ=495mm、濾過槽底面から下方へ貫通した部分の長さ=430mm
d.ポンプ:実測最大送水能力=230L/分
ロ.中空状のフロート(3型フロートを使用した。形状を図5に示す。)
3型=内径180mm、厚さ6mm、高さ220mm の塩化ビニール管の外周に、外径280mm、厚さ63mm、内径192mm のドーナツ状の発泡スチロール管を取り付け、さらに、その下部に厚さ10mm、高さ55mmの塩化ビニール板を巻いて錘りとし、その下面に厚さ3mm、直径230mm の塩化ビニール板を塩ビ溶接してフランジとした。重さは1935g である。
ハ.対照の装置
対照として、フロートの代わりに、上記の外管の上端から15mmの部分に全長500mm、外径10mm、内径6mmのシリコンチューブを取り付け、象の鼻のように垂らしたものを用いた。シリコンチューブの高さは420mmになり、肉厚なので多少の力が加わっても折れ曲がったり潰れたりすることはない。
ニ.濾材の種類と敷設方法
濾材は使用しなかった。
【0054】
(3)試験の方法
上記の濾過槽に中空状のフロートを取り付けた場合と取り付けない場合の水位上下サイクルの作動状態を、水の流速を90〜200L/分の間で変化させて測定した。さらに、中空状のフロートを取り付けて、流速150L/分で1か月間にわたり連続稼働させ、上下サイクルに異常を生じないか、観測した。
(4)試験結果
中空状のフロート(3型)を取り付けて、濾過槽を1か月間連続稼働した結果、水位の上下サイクルは順調に作動し、何らの問題も生じなかった。また、流速に対応した上限サイクルの作動状況の試験結果は表2に示すとおりである。
【0055】
【表2】

【0056】
(5)所見
表2において、90〜200L/分の流速で送水し、排水サイクルの確認を行なったところ、いずれの流速でも中空状のフロートを取り付けた場合には、濾過槽内の水位は下限に達してすぐに上昇に転ずるとともに上限に達した際にもすぐに下降に転じた。一方、中空状のフロートを付けなかった場合には。90L/分の場合のみ水位は下限に達してからすぐ上昇に転じたが、150L/分、200L/分では水位は5分以上下限を維持し、水位の上下サイクルを確認できなかった。さらに150L/分及び200L/分では、中空状のフロートを付けないで、ゴム管としてシリコンチューブ(半透明)を外管に付加したもので試験したところ、150L/分では水位の上下サイクルが確認できたが、200L/分では水位の上下サイクルは確認できなかった。しかも、200L/分の際にはゴム管(シリコンチューブ)の下端は空中に露出しており、多くの空気が泡として吸い込まれていることが目視で確認できたにもかかわらず、水位の上下サイクルは確認できなかった。このことは、高流量の際にはサイフォン機構を停止させるために空気をゴム管を経由させて外管内部に取り込ませる方法では限界があり、中空状のフロートを使用して強制的に外管への排水供給を遮断する方式が安定的で確実な水位の上下作動サイクルを生みだす上で効果的であることを示している。特に、中空状のフロートを取り付けることによって、許容送水量が増加することが確認された。
【0057】
(6)結論
上記の結果は、中空状のフロートを使用することによって流速を高めに設定できることを示しており、大型の濾過槽において、以下の効果が期待できる。
イ)配管内の汚れがたまりにくくなる。
ロ)濾過槽への供給水量の適応幅が拡大する。
ハ)濾過槽内の水位交換頻度を増加させるとともに配管や濾過槽掃除する間隔を長くできる。
ニ)配管内の付着物の剥離等による多少の流量変化への対応が可能となる。
ホ)水循環式の養魚用飼育システムに組み込んだときに起こりがちな、給餌直後の排泄による一時的なアンモニア濃度の上昇を低減できる。
ヘ)また、水循環式の養魚用飼育システムではより多くの酸素を飼育水へ供給できる。
なお、本試験例では、全ての場合において、濾過槽内の水位が上限水位に達してからサイフォン機構によって水位が下降することを確認した。
【0058】
以上、詳しく説明したとおり、本発明に係る循環式の水の濾過装置は、長期間にわたって安定的に水位の上下作動サイクルを続けることが可能であり、そのため、ヘドロ等の蓄積を抑止して長期間にわたって高効率の濾過を続けることができる。また、サイフォン機構にドーナツ状のフロートを併用するだけであるから、製作コストや維持コストを抑えることができ、また、故障のおそれが少ないので、維持コストも低く抑えることができる。
【0059】
本発明に係る循環式の水の濾過装置は、容積が2Lから20L程度の小型の濾過槽に適用できるとともに容積500L以上の大型の濾過槽にも適用できる。そのため、水族館の飼育システム、養魚用飼育システム、下水浄化システムなどの大型の水循環システムに組み込んで使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る循環式の水の濾過装置の水位上下作動サイクルの説明図
【図2】本発明に係る循環式の水の濾過装置を組み込んだ水循環式の養魚用飼育システムの一例の説明図
【図3】中空状のフロートの一例とその下面に取り付けるフランジの説明図
【図4】本発明に係る循環式の水の濾過装置の濾材の敷設床面と外管の位置関係を示す説明図
【図5】試験例1、2で用いた中空状のフロートの形状と寸法を示す説明図
【符号の説明】
【0061】
1=濾過槽、 11=その底面、 12=濾材を敷設する床面
2=外管、 21=その上端、 22=その下端の開口部
3=内管、 31=その上端、 32=その下端
4=中空状のフロート、 41=その側面、 42=側面に嵌めた部材、43=中空部
5=フランジ
6=飼育水槽
7=送水ポンプ
8=送水管
9=警報器付き流量計
a=水路となる隙間
b=水路となる隙間
c=空気溜まりとなる空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端を閉止し下端に開口部を設けてあり槽の底面との間に水路となる隙間を形成して直立させてある外管と、上下端とも開口してあり上端は外管の内方に挿入して外管との間に水路を形成し下端は槽の底面を貫通させてある内管とを備えた濾過槽において、側面が上記隙間とほぼ同じ程度の深さに水没する比重を備え、外管の外径の1.1倍以上の大きさの中空部を有する中空状のフロートを外管を囲んで取り付けてあり、槽内の水位が内管の上端まで上昇したときはサイフォンの機構により内管を介して槽外へ水を排出し、槽内の水位が外管の開口部付近まで下降したときはフロートの作用によりサイフォンの機構を停止させて水位を上昇させることを繰り返して、槽内に敷設した濾材を間欠的に曝気する循環式の水の濾過装置。
【請求項2】
下面を外方に広げてあるか又は下面に外方に広がるフランジを取り付けてある中空状のフロートを用いる請求項1に記載の循環式の水の濾過装置。
【請求項3】
濾材を敷設する床面を外管の開口部よりも高くするとともに該床面を外管の開口部に向かって傾斜させてある濾過槽を用いる請求項1又は2に記載の循環式の水の濾過装置。
【請求項4】
濾過槽への送水路に警報器付きの流量計を取り付けてある請求項1から3のいずれかに記載の循環式の水の濾過装置。
【請求項5】
水循環式の養魚用飼育システムに組み込んで使用する請求項1から3のいずれかに記載の循環式の水の濾過装置。


【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−36141(P2010−36141A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203934(P2008−203934)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)【国等の委託研究の成果に係る記載事項】 平成19年度独立行政法人科学技術振興機構地域イノベーション創出総合支援事業「シーズ発掘試験」、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【Fターム(参考)】