説明

微小流体装置

【課題】微小流路内に発生した気泡によって流体の流れが妨げられるのを防止することができる、微小流体装置を提供する。
【解決手段】微小流体が流れる略一定の高さの微小流路16が内部に形成され、その微小流路内に柱状体12cなどが形成されることによって微小流体の一部に幅が狭い部分が形成された微小流体装置10において、微小流路を上方に拡張する拡張凹部14cを、幅が狭い部分の上流側に形成し、必要に応じて、拡張凹部に対向する微小流路の底面の部分に、微小流路の長手方向に略平行に延びる複数の隆起部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小流体装置に関し、特に、マイクロ流路(マイクロチャネル)のような微小流路が内部に形成された微小流体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラスやプラスチックからなる基板の内部に数10〜200μm程度の幅および深さの微小流路(微細流路)が形成されたマイクロチップのような微小流体装置を使用し、その微小流路を流体の流路や反応槽などに利用して、微小流体装置内で複雑な化学系を集積するインテグレーテッド・ケミストリと呼ばれる技術が知られている。このインテグレーテッド・ケミストリでは、様々な試験に使用可能なマイクロチップを分析化学に限定して使用する場合には、そのようなマイクロチップをμ−TAS(Total Analytical System)と呼称し、マイクロチップを反応だけに限定して使用する場合には、そのようなマイクロチップをマイクロリアクターと呼称している。このインテグレーテッド・ケミストリは、各種の試験(分析、測定、合成、分解、混合、分子輸送、溶媒抽出、固相抽出、相分離、相合流、分子補捉、培養、加熱、冷却などの操作や手段の一つまたは複数の組合せからなる試験)を行う場合に、マイクロチップ内の空間が小さいので拡散分子の輸送時間を短くすることができ、また、液相の熱容量が極めて小さいなどの優れた利点を有しているため、ミクロ空間を分析や化学合成などに利用しようとする技術分野において注目を集めている。
【0003】
このような微小流体装置として様々な形状の微小流路が形成された微小流体装置が知られており(例えば、特許文献1〜3参照)、このような微小流体装置の微小流路の形成方法として様々な方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−1102号公報(段落番号0009−0014)
【特許文献2】特開2002−239317号公報(段落番号0006−0008)
【特許文献3】特開2003−220322号公報(段落番号0018−0036)
【特許文献4】特開2005−230647号公報(段落番号0007−0009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような微小流体装置の微小流路内に流体を流す際に、微小流路内に滞在していた空気やポンプなどにより発生した空気が微小流路内で気泡になって、微小流路内の流体の流れを妨げる場合がある。特に、微小流路内に流体の混合や生体反応などを行うための柱状体(ピラー)などが設けられていることによって微小流路の一部に幅が狭い部分(流路断面積が小さい部分)が形成された微小流体装置では、その幅が狭い部分に気泡が滞在して流体の流れを妨げる場合がある。
【0006】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、微小流路内に発生した気泡によって流体の流れが妨げられるのを防止することができる、微小流体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明による微小流体装置は、微小流体が流れる微小流路が内部に形成された微小流体装置において、微小流路内の気泡を捕捉して微小流路内の所定の領域に気泡が到達するのを防止する気泡捕捉部として、微小流路を上方に拡張する拡張凹部を、所定の領域の上流側に形成したことを特徴とする。この微小流体装置において、拡張凹部が、微小流路を略鉛直方向上方に拡張しているのが好ましく、微小流路の長手方向に略垂直な横方向に延びているのが好ましい。また、微小流路の高さが、拡張凹部以外の部分において略一定の高さであるのが好ましい。また、微小流路内の所定の領域に、気泡の通過を妨げる程度に幅が狭い部分を形成してもよい。この場合、幅が狭い部分を、微小流路の内部に設けられた柱状体によって形成してもよく、微小流路の高さが、拡張凹部の下流側の拡張凹部に隣接する部分において幅が狭い部分の幅以下であるのが好ましい。また、拡張凹部に対向する微小流路の底面の部分に、微小流路の長手方向に略平行に延びる複数の隆起部を形成してもよい。この場合、複数の隆起部の上面が、微小流路の上流側から下流側に向かって微小流路の底面を徐々に隆起させるように傾斜して形成されているのが好ましく、複数の隆起部の間隔が、幅が狭い部分の幅以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微小流体装置の微小流路内の試験などが行われる所定の領域の上流側、例えば、微小流体装置の微小流路内に設けられた柱状体(ピラー)などによって幅が狭くなっている微小流路の部分の上流側に、微小流路を上方に拡張する拡張凹部(段差部)を形成し、この拡張凹部によって気泡を捕捉(トラップ)して、幅が狭くなっている部分などの所定の領域に気泡が到達しないようにすることができ、このようにして、微小流路内に発生した気泡によって流体の流れが妨げられるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明による微小流体装置の実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
図1〜図5は、本発明による微小流体装置の第1の実施の形態を示している。図1に示すように、本実施の形態の微小流体装置10は、互いに貼り合わされた略矩形の平面形状の下側プレート部材(基板部材)12と上側プレート部材(蓋部材)14とから構成されている。下側プレート部材12および上側プレート部材14は、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの樹脂材料またはガラス材料によって形成されている。
【0011】
図3および図5に示すように、下側プレート部材12には、上側プレート部材14に対向する面(上面)の略中央部に、長手方向に延びる細長い直線状の微細溝12aが形成されている。この微細溝12aは、一辺の長さ(幅および深さ)が1〜100μm程度の略矩形の断面を有し、数センチメートル程度の長さを有する。この微細溝12aの長手方向の略中央部には、その幅を増大する拡幅部12bが形成され、この拡幅部12bには、流体の混合や生体反応などを行うための複数の略円柱形の柱状体(ピラー)12cが、所定の間隔(D)で離間して微細溝12aの底面から微細溝12aの深さと略同一の高さに略鉛直方向に突出するように立設されている。
【0012】
図1、図2、図4および図5に示すように、上側プレート部材14には、微細溝12aの一端に対向して開口し且つ外部に開口するように、断面が略円形の貫通孔(注入口)14aが形成されている。また、上側プレート部材14には、微細溝12aの他端に連通し且つ外部に開口するように、断面が略円形の貫通孔(排出口)14bが形成されている。さらに、上側プレート部材14には、微細溝12aの拡幅部12bの柱状体12cの上流側に、拡幅部12bに対向し且つ微細溝12aの長手方向に略垂直に延びるように、略一定の深さの略矩形の拡張凹部14cが形成されている。後述するように、この拡張凹部14cは、気泡を捕捉するための気泡トラップとして作用する。
【0013】
上述した下側プレート部材12に上側プレート部材14を接着剤などにより貼り合わせることにより、微細溝12aの開口部が上側プレート部材14によって閉塞されて内部に略一定の高さの微小流路16が形成され、図1および図5に示すような本実施の形態の微小流体装置10を作製することができる。このようにして作製された本実施の形態の微小流体装置10では、拡幅部12bの拡張凹部14cより下流側の領域を、各種の試験(分析、測定、合成、分解、混合、分子輸送、溶媒抽出、固相抽出、相分離、相合流、分子補捉、培養、加熱、冷却などの操作や手段の一つまたは複数の組合せからなる試験)を行う領域、特に、流体の混合や生体反応などを行うための領域として使用することができる。なお、微小流路16の高さ(本実施の形態のように微小流路16の高さが略一定ではない場合には、拡張凹部14cの下流側の拡張凹部14cに隣接する部分における微小流路16の高さ)hと、微小流路16の高さと拡張凹部14cの深さの和Hとの関係は、h<Hであり、微小流路16の高さhと、隣接する柱状体12cの間隔Dとの関係は、h≦Dであるのが好ましい。
【0014】
次に、図6〜図9を参照して、上述した本実施の形態の微小流体装置10の作用について説明する。本実施の形態の微小流体装置10のような拡張凹部14cが設けられていない場合には、図6および図7に示すように、微小流路16内に流体を流す際に微小流路16内に滞在していた空気やポンプなどにより発生した空気などの気体が微小流路16内で気泡18になり、隣接する柱状体12cの間の幅が狭くなっている部分に滞在して、微小流路16内の流体の流れが妨げられる。しかし、本実施の形態の微小流体装置10のように拡張凹部14cが設けられている場合には、図8および図9に示すように、発生した気泡18が拡張凹部14cに捕捉(トラップ)されて、微小流路16内の流体の流れが妨げられない。
【0015】
図10〜図14は、本発明による微小流体装置の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の微小流体装置の斜視図および平面図は、図1および図2と略同一であるので省略する。また、本実施の形態では、微細溝12aに拡幅部12cが形成されず、拡張凹部14cに対向するように下側プレート部材12の微細溝12aの底面に複数の隆起部12dが形成されている以外は、上述した第1の実施の形態と略同一であるので、同一の部分の説明を省略する。
【0016】
本実施の形態では、微小流体装置10の下側プレート部材12の微細溝12aに拡幅部12cが形成されず、柱状体12cが一列に配置されている。また、拡張凹部14cに対向する部分の微細溝12aの底面の部分には、微細溝12aの長手方向に略平行に延びる複数の隆起部12dが形成されている。図13および図14に示すように、これらの隆起部12dの上面は、微細溝12aの上流側から下流側に向かって微細溝12aの底面を徐々に隆起させるように傾斜して形成され、隆起部12dの高さが最大になる下流側の端部が、拡張凹部14cに対向する微細溝12aの底面の部分と柱状体12cとの間に配置されている。なお、これらの隆起部12dの高さが最大になる下流側の端部における微小流路16の高さhと、拡張凹部14cに対向する微細溝12aの底面の部分における微小流路16の最小の高さHとの関係は、h<Hであり、柱状体12cと微細溝12aの側面との間隔Dと、高さhおよび隣接する隆起部12dの間隔dとの関係は、h≦Dおよびd≦Dであるのが好ましい。
【0017】
なお、本実施の形態では、図13および図14に示すように、隆起部12dの高さが最大になる下流側の端部が、拡張凹部14cに対向する微細溝12aの底面の部分と柱状体12cとの間に配置されているが、必ずしもこのように配置する必要はなく、隆起部12dの高さが最大になる下流側の端部が、拡張凹部14cに対向する微細溝12aの底面の部分に配置されてもよく、隆起部12dの高さが最大になる部分が隆起部12dの下流側の端部でなくてもよい。
【0018】
次に、図15〜図18を参照して、上述した第2の実施の形態の微小流体装置10の作用について説明する。本実施の形態の微小流体装置10のような隆起部12dが設けられていない場合には、図15および図16に示すように、微小流路16内に流体を流す際に微小流路16内に滞在していた空気やポンプなどにより発生した空気などの気体が微小流路16内で気泡18になり、発生した気泡18が柱状体12cの上流側の拡張凹部14cに捕捉(トラップ)されるが、気泡18の幅が微小流路16の幅と略同一であるため、そこに滞在した気泡18によって微小流路16内の流体の流れが妨げられる。しかし、本実施の形態の微小流体装置10のように複数の隆起部12dが設けられている場合には、図17および図18に示すように、発生した気泡18が拡張凹部14cに捕捉(トラップ)されても、隆起部12dの間で流体が流れることができるので、微小流路16内の流体の流れが妨げられない。
【0019】
なお、本発明による微小流体装置10では、流体の混合や生体反応などを行うための領域のように気泡が流れ込むのを防止する必要がある領域や、微小流路16内の柱状体12cが設けられた領域のように幅が狭い領域の上流側において、気泡を捕捉(トラップ)されればよく、拡張凹部14cの大きさは、微小流路16内の流体の流れを妨げない程度に十分な大きさであるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による微小流体装置の第1の実施の形態の斜視図である。
【図2】図1の微小流体装置の平面図である。
【図3】図1の微小流体装置の下側プレート部材の平面図である。
【図4】図1の微小流体装置の上側プレート部材の裏面図である。
【図5】図2のV−V線断面図である。
【図6】図1の微小流体装置の拡張凹部を設けない場合の下側プレート部材の平面図であり、拡張凹部を設けない場合に気泡によって流体の流れが妨げられる状態を説明する図である。
【図7】図1の微小流体装置の拡張凹部を設けない場合の微小流体装置の断面図であり、拡張凹部を設けない場合に気泡によって流体の流れが妨げられる状態を説明する図である。
【図8】図1の微小流体装置の下側プレート部材の平面図であり、上側プレート部材に形成された(破線で示す)拡張凹部によって気泡が捕捉される状態を説明する図である。
【図9】図1の微小流体装置の断面図であり、拡張凹部によって気泡が捕捉される状態を説明する図である。
【図10】本発明による微小流体装置の第2の実施の形態の下側プレート部材の平面図である。
【図11】図10の下側プレート部材の一部(拡張凹部および隆起部が設けられた部分)の拡大平面図である。
【図12】本発明による微小流体装置の第2の実施の形態の上側プレート部材の裏面図である。
【図13】本発明による微小流体装置の第2の実施の形態の断面図である。
【図14】図13の微小流体装置の一部(拡張凹部および隆起部が設けられた部分)の拡大断面図である。
【図15】図12の微小流体装置の隆起部を設けない場合の下側プレート部材の平面図であり、隆起部を設けない場合に、上側プレート部材に形成された(破線で示す)拡張凹部によって捕捉された気泡によって流体の流れが妨げられる状態を説明する図である。
【図16】図12の微小流体装置の隆起部を設けない場合の微小流体装置の断面図であり、隆起部を設けない場合に気泡によって流体の流れが妨げられる状態を説明する図である。
【図17】図12の微小流体装置の下側プレート部材の平面図であり、隆起部によって気泡による流体の流れを妨げることなく、拡張凹部によって気泡が捕捉される状態を説明する図である。
【図18】図12の微小流体装置の断面図であり、隆起部によって気泡による流体の流れを妨げることなく、拡張凹部によって気泡が捕捉される状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0021】
10 微小流体装置
12 下側プレート部材
12a 微細溝
12b 拡幅部
12c 柱状体
12d 隆起部
14 上側プレート部材
14a 貫通孔(注入口)
14b 貫通孔(排出口)
14c 拡張凹部
16 微小流路
18 気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小流体が流れる微小流路が内部に形成された微小流体装置において、前記微小流路内の気泡を捕捉して前記微小流路内の所定の領域に気泡が到達するのを防止する気泡捕捉部として、前記微小流路を上方に拡張する拡張凹部を、前記所定の領域の上流側に形成したことを特徴とする、微小流体装置。
【請求項2】
前記拡張凹部が、前記微小流路を略鉛直方向上方に拡張していることを特徴とする、請求項1に記載の微小流体装置。
【請求項3】
前記拡張凹部が、前記微小流路の長手方向に略垂直な横方向に延びていることを特徴とする、請求項1または2に記載の微小流体装置。
【請求項4】
前記微小流路の高さが、前記拡張凹部以外の部分において略一定の高さであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の微小流体装置。
【請求項5】
前記微小流路内の前記所定の領域に、前記気泡の通過を妨げる程度に幅が狭い部分が形成されていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の微小流体装置。
【請求項6】
前記幅が狭い部分が、前記微小流路の内部に設けられた柱状体によって形成されていることを特徴とする、請求項5に記載の微小流体装置。
【請求項7】
前記微小流路の高さが、前記拡張凹部の下流側の前記拡張凹部に隣接する部分において前記幅が狭い部分の幅以下であることを特徴とする、請求項5または6に記載の微小流体装置。
【請求項8】
前記拡張凹部に対向する前記微小流路の底面の部分に、前記微小流路の長手方向に略平行に延びる複数の隆起部が形成されていることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の微小流体装置。
【請求項9】
前記複数の隆起部の上面が、前記微小流路の上流側から下流側に向かって前記微小流路の底面を徐々に隆起させるように傾斜して形成されていることを特徴とする、請求項8に記載の微小流体装置。
【請求項10】
前記複数の隆起部の間隔が、前記幅が狭い部分の幅以下であることを特徴とする、請求項9に記載の微小流体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−155441(P2007−155441A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349571(P2005−349571)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000208765)株式会社エンプラス (403)
【Fターム(参考)】