説明

微小粒子分級装置、及び微小粒子サンプラ

【課題】大気圧下において、従来のカスケードインパクタでは分級できなかったサブミクロンオーダーの粒径を持つ浮遊粒子を、大気圧の下で分級することを目的とする。
【解決手段】気体中の浮遊粒子を粒径により分級する微小粒子分級装置10に、粒径が1.0μm以上の粒径の浮遊粒子を分級する粗大粒子分級部20と、サブミクロンオーダーの粒径の浮遊粒子を分級する微小粒子サンプラ30とを備える。微小粒子サンプラ30にテーパー状の貫通孔33を持つフィルタサポート部31を設ける。さらに、この貫通孔33の下端付近に、繊維状の素材で構成された微小粒子サンプリングフィルタ32を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子分級装置、及び微小粒子サンプラに係るものであり、特に、気体中の微小粒子を捕集する微小粒子分級装置、及び微小粒子サンプラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体中の微小粒子を分級するための装置として、カスケードインパクタが知られている。特許文献1には、このようなカスケードインパクタを用いた花粉分別装置が示されている。図1は、従来のカスケードインパクタの構成を単純化した断面図を示している。図1のカスケードインパクタは、複数のインパクタで構成されている。各インパクタは、複数の貫通孔を持つ円板状のインパクタノズルと、中央部に貫通孔を持つ円板状の捕集プレートと、インパクタノズルと捕集プレートとのクリアランスを確保するためのスペーサで構成されている。図中、インパクタノズル1と捕集プレート2とスペーサ3とで1つのインパクタを構成している。また、インパクタノズル1の貫通孔よりも開口径が小さく、貫通孔の開口面積の合計も小さいインパクタノズル4と捕集プレート5とスペーサ6とでもう1つのインパクタを構成している。これら2つのインパクタを、スペーサ7を介して接続したものが図1のカスケードインパクタである。
【0003】
カスケードインパクタの捕集プレート5側から吸引ポンプによって気体が吸引されるので、インパクタノズル1の貫通孔から気体が流入する。流入した気体は矢印で示すように流れる。インパクタノズル1を通過した気体は、運動方向を変えながら、捕集プレート2の貫通孔に向かって流れる。このとき気体と共にインパクタノズル1の貫通孔を通過し、その慣性により気体の運動に追従できない浮遊粒子は、運動方向を変えることなく捕集プレート2に衝突し、捕集される。次に、捕集プレート2の貫通孔を通過した気体は、インパクタノズル4の貫通孔を通過する。インパクタノズル4の貫通孔を通過した気体は、インパクタノズル1を通過したときよりも高い流速で、捕集プレート5に向かって流れる。このとき、気体の運動に追従できない浮遊粒子が捕集プレート5に衝突し、捕集される。捕集プレート5に捕集される浮遊粒子の粒径は、気体の流速の高まりに対応して捕集プレート2に捕集されるものよりも小さくなる。カスケードインパクタは、その内部に流れる気体の流速を、インパクタノズルの貫通孔の数や径によって調整する。そして複数のインパクタを接続し、順次気体の流速を高めることで、段階的に粒径の小さな浮遊粒子を捕集し、分級するようにしている。
【特許文献1】特開2001−183284号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カスケードインパクタは、その内部の気圧を下げることで生じる外部との圧力差によって外部の気体を吸引し、その内部に気体の流れを発生させる構造となっている。微小粒径の粒子を分級するために、気体の流速を高めれば、インパクタノズルの貫通孔の径を小さくする必要がある。例えば0.5μm以上の粒径の粒子をカットオフするためには0.7mmφ、0.3μm以上の粒径の粒子をカットオフするためには0.5mmφの正確な径の貫通孔を多数設ける必要があり、ノズルの加工が難しくなる。このことから、従来のカスケードインパクタでは、大気圧下において、一般的には0.3μm以下の粒径を持つ微小粒子の分級が難しい、という問題点があった。
【0005】
また清浄空気を得るため、全ての粒径範囲の粒子を高効率で捕集する粒子除去集装置としてエアフィルタが用いられてきた。しかし、エアフィルタは、サイクロン、インパクタとは異なり、様々な捕集機構(慣性、さえぎり、重力、静電気力、拡散など)によって粒子を捕集するため、ろ過速度が一定の場合では最も捕集されにくい粒子の大きさ(最大透過粒子径)が存在し、一定の大きさの粒子ではその粒子がもっともフィルタを透過するろ過速度が存在する。このため、これまでは、最も捕集されにくい最大透過粒子径の捕集効率を如何に高くするかがフィルタ開発の焦点であった。
【0006】
更に最近、大気中の超微粒子、特に0.1μm以下の粒子の生体への影響が懸念されている。大気に浮遊する微粒子の生体への影響を評価するためには、粒径毎の粒子濃度だけでなく、粒径とその粒子を構成する化学物質の組成との関係を認識することが不可欠である。0.1μm以下の粒子を捕集し組成を測定する装置として、減圧インパクタ、DMAがある。減圧インパクタはインパクタノズルへの入口側をあらかじめ減圧させる必要があり、粒子組成の変化が生じる恐れがある。またDMAでは化学分析に必要な粒子量を捕集するのに長時間のサンプリングが必要であり、荷電、希釈による粒子性状の変化も問題である。したがって、0.1μm以下の粒子を分級し、短時間で化学分析に必要な粒子量を捕集できる装置が要求されている。
【0007】
本発明は、大気圧下でもサブミクロンオーダーの粒径を持つ微小粒子を分級でき、短時間で化学分析に必要な粒子量を捕集できる微小粒子サンプラ、及び微小粒子分級装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の微小粒子サンプラは、気体中の浮遊粒子を捕集する微小粒子サンプラであって、気体が通過する貫通孔を持つフィルタサポート部と、繊維状の部材で構成され、前記フィルタサポート部の貫通孔の端部付近で前記貫通孔と気密に接して、前記貫通孔を塞ぐように配置される微小粒子サンプリングフィルタと、を具備するものである。
【0009】
尚、前記微小粒子サンプリングフィルタは、ステンレス繊維で構成されてもよい。
【0010】
尚、前記微小粒子サンプリングフィルタの繊維径は、1μm以上であってもよい。
【0011】
本発明の微小粒子サンプラは、気体中の浮遊粒子を捕集する微小粒子サンプラであって、気体が通過する貫通孔を持つフィルタサポート部と、通気性の多孔質の部材で構成され、前記フィルタサポート部の貫通孔の端部付近で前記貫通孔と気密に接して、前記貫通孔を塞ぐように配置される微小粒子サンプリングフィルタと、を具備するものである。
【0012】
尚、前記フィルタサポート部の貫通孔は、少なくとも前記微小粒子サンプリングフィルタが設けられる部分がテーパー状であってもよい。
【0013】
本発明の微小粒子分級装置は、気体中の浮遊粒子を粒径により分級する微小粒子分級装置であって、浮遊粒子を分級する粗大粒子分級部と、前記粗大粒子分級部に接続された微小粒子サンプラと、を具備し、前記微小粒子サンプラは、前記粗大粒子分級部を通過した気体が通過する貫通孔を持つフィルタサポート部と、繊維状の部材で構成され、前記フィルタサポート部の貫通孔の端部付近で前記貫通孔と気密に接して、前記貫通孔を塞ぐように配置される微小粒子サンプリングフィルタと、を有するものである。
【0014】
本発明の微小粒子分級装置は、気体中の浮遊粒子を粒径により分級する微小粒子分級装置であって、浮遊粒子を分級する粗大粒子分級部と、前記粗大粒子分級部に接続された微小粒子サンプラと、を具備し、前記微小粒子サンプラは、前記粗大粒子分級部を通過した気体が通過する貫通孔を持つフィルタサポート部と、通気性の多孔質の部材で構成され、前記フィルタサポート部の貫通孔の端部付近で前記貫通孔と気密に接して、前記貫通孔を塞ぐように配置される微小粒子サンプリングフィルタと、を有するものである。
【0015】
尚、前記フィルタサポート部の貫通孔は、少なくとも前記微小粒子サンプリングフィルタが設けられるテーパー状であってもよい。
【0016】
尚、前記粗大粒子分級部は、カスケードインパクタを有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
このような特徴を有する本発明の微小粒子サンプラによれば、大気圧下においても、サブミクロンオーダー以下の粒径を持つ微小粒子を効率よく補集することができる。又この微小粒子サンプラを分級装置に用いることによって、サブミクロンオーダーの微小粒子を効率よく分級することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施の形態1)
本発明の微小粒子サンプラを用いた微小粒子分級装置の実施の形態1について、図2〜図7を用いて以下に説明する。
【0019】
図2は、本実施の形態の微小粒子分級装置10の構成を示す断面図である。微小粒子分級装置10の外観はほぼ円柱状であり、円柱又は円筒状に加工された複数の部材で構成されている。
【0020】
微小粒子分級装置10は、気体中に存在する浮遊粒子(Particulate matter)をその粒径によって区分して分級する。粒径の区分は例えば、10μm以上、2.5μm〜10μm、0.1μm〜2.5μm、0.1μm以下の4区分とする。ここで、粒径が10μm以下の全ての浮遊粒子をPM10、粒径が2.5μm以下の全ての浮遊粒子をPM2.5、粒径が0.1μm以下の全浮遊粒子をPM0.1と表す。
【0021】
図2において、微小粒子分級装置10は、10μm以上、2.5μm〜10μmの粒子を分級する粗大粒子分級部20と、微小粒子サンプラであって0.1μm〜2.5μmを分級する微小粒子分級部30と、0.1μm以下の粒径の浮遊粒子を捕集する超微小粒子補集部40と、フィルタ排気部50とを備える。上記の各分級部及びフィルタ排気部50の外径はほぼ同じである。フィルタ排気部50の下部には、気体吸引のための吸引ポンプが取り付けられている。
【0022】
粗大粒子分級部20は従来のカスケードインパクタと同様の構成であり、PM10用インパクタとPM2.5用インパクタを備える。PM10用インパクタは、インパクタノズル21、捕集プレート22、スペーサ23を有する。PM2.5用インパクタは、インパクタノズル24、捕集プレート25、スペーサ26を有する。これらのPM10用インパクタとPM2.5用インパクタはスペーサ27を介して接続されている。
【0023】
図3に示すように、インパクタノズル21は円板状の部材であり、その面に複数の円形の貫通孔を環状に配置している。ここでは一例として、インパクタノズル21の直径を64.9mm、厚みを5mm、貫通孔の数を18とし、貫通孔の直径を5mmとする。各貫通孔の中心軸はインパクタノズル21の中心軸に平行であり、各貫通孔はインパクタノズル21の半径の中央付近にある。
【0024】
図4に示すように、捕集プレート22は円板状の部材であり、その中央部に円形の貫通孔を1つ備えている。ここでは一例として、捕集プレート22の直径を64.9mm、厚みを1mmとし、その貫通孔の内径を30mmとする。貫通孔の中心軸は捕集プレート22の中心軸と一致している。
【0025】
図5に示すように、インパクタノズル23は円板状の部材であり、その面に複数の円形の貫通孔を環状に配置している。ここでは一例として、インパクタノズル23の直径を64.9mm、厚みを2mm、貫通孔の数を36、貫通孔の直径を1.6mmとする。各貫通孔の中心軸はインパクタノズル23の中心軸に平行であり、各貫通孔はインパクタノズル23の半径の中央付近にある。
【0026】
捕集プレート25は、円柱状の部材であり、その中央部に円形の貫通孔を1つ備えている。その構成は、捕集プレート22と同様である。
【0027】
図6に示すスペーサ23,26は円筒形の部材であり、各インパクタノズルと捕集プレートとのクリアランスを確保して、気体の流路を確保するためのものである。各インパクタノズル、捕集プレート、及びスペーサは、図2に示す順序で配置されており、各々の接続部分は、気密が保たれている。
【0028】
図7に示すように、微小粒子分級部30は微小粒子サンプラであり、フィルタサポート部31と、0.1μm〜2.5μmの微粒子を分級するフィルタ32とを備えている。フィルタサポート部31は、上記各インパクタノズル、捕集プレート、及びスペーサよりも厚みの大きい円柱形の外観を持ち、中央部に貫通孔33を備えている。この貫通孔33の中心軸とフィルタサポート部31の中心軸はほぼ一致している。貫通孔33の開口径は、上部が捕集プレート25の開口径と同じ30mmであり、貫通孔33の上部側面の傾斜は、気体とともに流入した浮遊粒子がその側面に衝突しないようになめらかな曲線状の傾斜となっており、下部では開口径は一定で10mmとなっている。尚、フィルタサポート部31は、貫通孔33の上部で捕集プレート25に気密を保って接続されている。
【0029】
微小粒子サンプリングフィルタであるフィルタ32は、通気性があり非圧縮性の繊維フィルタで構成されている。本実施の形態では、フィルタ32は、例えば繊維径8μmのステンレス繊維が緻密に絡まり充填率が低くフェルト状となった、厚さ約4mmの非圧縮性の繊維フィルタとする。このフィルタ32は、貫通孔33の下端付近に、貫通孔33を隙間なく塞ぐように配置され、貫通孔33と接する面では気密を保っている。フィルタ32は非圧縮性であるので、高速の気体が通過してもほとんど体積変化がない。
【0030】
超微粒子補集部40は、円筒状のバックアップフィルタ導入部41と、0.1μm以下の粒径の浮遊粒子を捕集するバックアップフィルタ42と、バックアップフィルタ42を支持するサポート多孔板43とを備える。バックアップフィルタ導入部41は、フィルタサポート部31と気密を保って接続し、その内部はフィルタサポート部31の貫通孔33の下端の開口より大きな開口径をもつ空洞となっている。
【0031】
フィルタ排気部50は円柱状であり、その中央部に貫通孔を有する。フィルタ排気部50は、貫通孔をバックアップフィルタ導入部41に向けて、サポート多孔板43と気密を保って接続している。
【0032】
以下に、本実施の形態の微小粒子分級装置10における、浮遊粒子の分級の様子を、図2を用いて説明する。
【0033】
[PM10の分級]
微小粒子分級装置10は、浮遊粒子を含む気体を、その内部に最大で数十m/秒の速度で通すことで、気体中の浮遊粒子を分級する。微小粒子分級装置10内に気体を流入させて気流を発生させるために、フィルタ排気部50の側から気体を吸引する。この吸引は吸引ポンプなどを用いて行なうが、その吸引速度は、例えば40リットル/分である。
【0034】
フィルタ排気部50の気体出口から気体を吸引すると、微小粒子分級装置10内の気圧が大気圧より低くなるため、微小粒子分級装置10内に気体が流入する。流入する気体はまずインパクタノズル21の貫通孔を通過する。通過するときの気体の流速は、例えば1.886m/秒に達する。
【0035】
インパクタノズル21を通過した気体は、スペーサ23によるクリアランスを経て、捕集プレート22の貫通孔へ向かって流れる。捕集プレート22の貫通孔は、インパクタノズル21の貫通孔の延長上にはないので、インパクタノズル21を通過した気体の流路は、図2に矢印で示すように曲線を描く。このとき、慣性が大きくこの曲線状の気体の運動に追従できない10μm以上の微粒子が、その慣性によって気体の流路を外れ、捕集プレート22に衝突し捕集される。こうしてPM10を分級することができる。
【0036】
[PM2.5の分級]
捕集プレート22を通過したPM10を含む気体は、スペーサ27によるクリアランスを経て、インパクタノズル24の貫通孔へ向かって流れる。インパクタノズル24の貫通孔は、インパクタノズル21の貫通孔よりもその直径が小さくなり、開口面積の合計も小さくなっている。したがって、インパクタノズル24の貫通孔を通過した気体の流速は、インパクタノズル21を通過したときよりも大きくなる。このときの気体の流速は、例えば9.211m/秒に達する。
【0037】
インパクタノズル24を通過して加速した気体は、捕集プレート25の貫通孔に向かってその流路を曲げながら流れていく。このとき、気体の運動に追従できない2.5μm以上の微粒子が、捕集プレート25に衝突して捕集される。
【0038】
[PM0.1の分級]
捕集プレート25の貫通孔を通過した気体は、フィルタサポート部31の貫通孔33に流入する。流入した気体は、開口径が小さくなっていく方向に流れるので、徐々に加速した後、一定速度でフィルタ32を通過する。この通過の際に、フィルタ32が気体中の0.1μm以上の微粒子を捕集する。
【0039】
フィルタ32のような繊維を層状にした繊維フィルタを用いて浮遊粒子を捕集するときの、気体の流速、及び繊維径の選択に用いることができるストークス数Stkとペクレ数Peについて以下に説明する。ストークス数Stkは、繊維フィルタ内での、気体の流れに対する浮遊粒子の追従性を表す無次元の値であって、次の式で示される。
Stk=Cc・ρp・dp・u/(9μ・df) ・・・(1)
Ccはカニンガムの補正係数、ρpは粒子密度、dpは粒子径、uは流速、μは粘性係数、dfは繊維フィルタの繊維径である。上の式から、ストークス数は、dp(粒子径)の2乗に比例し、またdf(繊維径)に反比例することがわかる。
【0040】
また、ストークス数はu(流速)にも影響を受ける値であり、流速に比例してストークス数も大きくなる。つまり、気体の流速が高まるにつれて、粒子径の大きな浮遊粒子から順に気体の運動に追従できなくなり、気体の流路から外れてフィルタの繊維と衝突するようになる。このように、ストークス数を参考にしながら気体の流速を制御することと、繊維径を選択することとで、捕集したい浮遊粒子の粒径を選択することができる。貫通孔33に流入する気体は、粒径2.5μm以上の微粒子はあまり含んでいない。次に、気体が0.1μm以上の微粒子を捕集するのに最も適した速度となるように貫通孔33の径を選択する。
【0041】
本実施の形態のフィルタ32は、例えばその繊維径を8μm程度としているので、先に説明したストークス数の式(1)において、繊維フィルタの繊維径を表すdfは非常に小さい値となる。これにより、ストークス数を大きく採ることができるが、捕集の標的となる0.1μm以上の微粒子に対してストークス数が十分に大きければ、インパクタを用いる場合ほど気体の流速を上昇させなくても、PM0.1を分級することができる。しかし、繊維層であるフィルタ32は、浮遊粒子の慣性のみならず、さえぎり、重力、静電気力、拡散などの捕集機構によって、浮遊粒子を捕集する。
【0042】
ここで、気流によって浮遊粒子が運ばれる効果と、拡散によって浮遊粒子が運ばれる効果の比を表すペクレ数Peがある。このペクレ数は次の式で求めることができる。
Pe=u・df/Db ・・・(2)
【0043】
uは流速、dfは繊維フィルタの繊維径、Dbは拡散係数である。ここで、拡散の影響を少なくするため、ペクレ数Peを大きくする必要がある。微粒子の粒径が小さいほど拡散係数Dbは大きくなり、繊維径dfは小さい値が選択されているので、流速uを高めることが粒径の選択性を高めるのに必要であることがわかる。
【0044】
つまり、フィルタ32では、ストークス数とペクレ数とを大きくすることによって、PM0.1を分級するのに最も適した繊維径dfと、流速uとを最適化するようにしている。フィルタ32は、慣性を大きくし、拡散による効果を抑制して、PM0.1を分級するのに必要な流速を大気圧下で得ることができる。
【0045】
[PM0.1の捕集]
フィルタ32を通過した粒径0.1μm以下の浮遊粒子を含む気体は、バックアップフィルタ導入部41で膨張し、その流速を低下させてバックアップフィルタ42を通過する。バックアップフィルタ42は、気体中に残存する全ての微粒子、即ち主として粒径0.1μm以下の浮遊粒子を捕集する。バックアップフィルタ42を通過した気体は、フィルタ排気部50を通って微小粒子分級装置10の外に流出する。
【0046】
上記のように、従来のカスケードインパクタに、本発明の微小粒子サンプラを付加することで、従来のカスケードインパクタでは分級が困難であった0.1μm以上の微粒子を、大気圧下で分級することができる。
【0047】
次に、微小粒子分級装置10の微小粒子分級部30を用いて微粒子を捕集したときの捕集効率を、気体の流速ごとに図8に示す。図には、4つの流速uについての捕集効率を示しており、Aは27m/秒、Bは40m/秒、Cは53m/秒、Dは65m/秒のときのものである。この図は、フィルタ32に流入する気体の速度を変えることで、50%カットオフ径(捕集効率が0.5となる粒径)を変化させることができることを示している。例えば流速uが65m/秒では50%カットオフ径が0.09μm、40m/秒では50%カットオフ径は0.193μmとなる。そしてこの図に示されるように、各曲線A〜Dにおいて補集効率が零まで下がっており、これはフィルタとしての透過率はこの粒径では100%に達していることを示している。この点は透過率を下げようとしていた従来のフィルタとは大きく異なる。
【0048】
また図9は、フィルタ32にタバコの副流煙を付着させて、毎秒65mの流速で浮遊粒子を捕集したときの捕集効率を、単位面積当たりに付着している副流煙の量ごとに示している。図のEは0g/m、Fは60g/m、Gは300g/mの量の副流煙が付着しているときのグラフである。いずれも補集効率0.5となるのは、ほぼ0.1μmで一致している。つまりこの結果は、フィルタ32の50%カットオフ径が、既に捕集した浮遊粒子の量に影響を受けにくいことを示している。
【0049】
次に、フィルタ32の圧力損失と、気体がフィルタ32を通過する速度との関係を、図10に示す。ここでは、通過速度が53m/秒のときの圧力損失は10kPa(75mmHg)程度の小さな値であることを示しており、大気圧と比較しても小さな値といえる。フィルタ32の通気性がよいため、その圧力損失は小さな値になる。このように圧力損失の小さな通気性のよいフィルタを用いることにより、大気変化で通常のポンプを用いて微小粒子を分級することができる。
【0050】
フィルタ32のステンレス繊維径は8μmに限らず、要求される分級性能等によって変更することができる。捕集する浮遊粒子の粒径を変えるためには、より小さな繊維径を用いてもよいし、気体の流速との組み合わせによっては、より大きな繊維径を用いることもできる。図11Aは流速を53.1m/sとし、ステンレス繊維径が夫々4μm、8μm、12μmのフィルタを用いたとき、夫々曲線A,B,Cとして補集効率を示したものである。この図より示されるように、繊維径を小さくすることで50%カットオフ径を小さくすることができる。又図11Bでは流速を53.1m/sとし、フィルタ32のステンレス繊維径dfと厚みLを変えることで、フィルタの補集効果が0〜100%となることを示している。曲線Aはdf=4μm,L=7mm、曲線Bはdf=8μm,L=13mm、曲線Cはdf=12μm,L=24mmの場合である。尚、横軸はストークス数の1/2乗であるが、これは式(1)から示されるように、粒子径と比例している。ここで曲線A,B,Cは夫々効果が50%となる粒子径が33nm,34nm,45nmとなる。これらはいずれの場合もフィルタとして使用することができる。尚、繊維径は1μm未満では製造が困難となるので、1μm以上の繊維径を用いることが好ましい。フィルタ32の厚さも4mmに限らず、要求される分級性能等によって、例えば4〜40mmの厚みを持つものに変更することができる。
【0051】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の微小粒子分級装置の実施の形態2について説明する。図12は、本発明の実施の形態2の微小粒子分級部70を示している。図13は、微小粒子分級部70を用いた微小粒子分級装置80を示している。図13において、微小粒子サンプラである微小粒子分級部70以外の構成は、実施の形態1の微小粒子分級装置10と同様である。微小粒子分級部70は、フィルタサポート部71、PM0.1を分級するフィルタ72、貫通孔73を備えている。
【0052】
フィルタサポート部71は、各インパクタノズル、捕集プレート、及びスペーサよりも厚みの大きい円柱形の外観を持ち、中央部に貫通孔73を備えている。さらにフィルタサポート部71の外径は、粗大粒子分級部20、超微粒子補集部40と同じである。貫通孔73の開口径は、上部が最大で捕集プレート25の開口径と同じく30mmであり、下端は約10mmで、テーパー状となっている。
【0053】
フィルタ72は、貫通孔73の下端付近に貫通孔73を隙間なく塞ぐように配置され、貫通孔73と接する面では気密を保っている。このフィルタ72の材質はフィルタ32と同様であり、厚さ4mmのステンレス繊維である。このように構成することで、フィルタ72もテーパー状となる。このような微小粒子分級部70を用いても、実施の形態1と同様の過程を経てPM0.1を分級することができる。
【0054】
ここで、微小粒子分級部70において貫通孔73の円筒部分の下端の開口径は10mmであるので、貫通孔33の気体出口は、微小粒子分級部30の貫通孔33の気体出口と同じ開口径になる。従って貫通孔33及び73において、開口径10mmの部分を通過する気体の流速が同じとなる。しかし、貫通孔73はテーパー状であるため、気体は加速しながらフィルタ72を通過する。よって、フィルタ32とフィルタ72が同じ材質のものから構成されているので、微小粒子分級部70の方が、微小粒子分級部30よりも圧力損失を小さくすることができる。
【0055】
上記の各実施の形態において、微小粒子分級装置10及び微小粒子分級装置80を通過した気体に含まれていた浮遊粒子は、その粒径によって、10μm以上と、2.5μm〜10μmと、0.1μm〜2.5μmと、0.1μm以下の4区分に分級される。しかし、本発明の微小粒子分級装置の分級は、上記の区分にかかわらず、任意の区分による分級であってもよい。インパクタノズルや捕集プレートの貫通孔の開口面積の変更、吸引ポンプの吸引速度の変更、微小粒子分級装置10及び微小粒子分級装置80内を流れる気体の流速の変更、及びフィルタ32及びフィルタ72の繊維径及び厚みの変更などによって、浮遊粒子の分級の区分を変更することができる。例えば、フィルタ33及びフィルタ73の繊維径を変えたり、フィルタを通過する気体の流速を変えたりすることで、微小粒子分級部30及び70が分級する浮遊粒子の粒径の下限は0.1μmに限らず、例えば0.03μm〜1.0μmの範囲であってもよい。
【0056】
上記の各実施の形態では、各インパクタノズル及び捕集プレートの直径、厚み、貫通孔の数及び直径などについて具体的な数値を挙げて説明した。しかし、これらとは違う数値によるインパクタノズル及び捕集プレートの設計でも、同様の分級を行なうことができる。
【0057】
また、フィルタ32及びフィルタ72はフェルト状のステンレス繊維であるとしたが、繊維径が均一で充填率が低く、非圧縮性の繊維フィルタであればステンレス繊維以外のものでもよい。例えばステンレス繊維をメッシュ状に織った金属布を層状に重ねてステンレスファイバーマットを構成してもよい。また、ステンレス以外の金属又は高分子繊維等を用いてファイバーマットを構成し、フィルタ32及びフィルタ72の代わりに用いてもよい。さらにフィルタ32及びフィルタ72は、必ずしも繊維フィルタで構成されている必要はなく、多孔質体フィルタ、例えばセラミックで構成されたフィルタであってもよい。この場合、多孔質フィルタは孔径が均一で非圧縮性のものが好ましい。
【0058】
上記の各実施の形態において、インパクタノズル21、23の貫通孔の位置は、必ずしも図面で示したとおりでなくてよい。捕集プレートの貫通孔が、インパクタノズルの貫通孔の延長上に存在しないようになっていれば、それら貫通孔を任意の場所に設けてもよい。
【0059】
又上述した各実施の形態では微小粒子分級部をカスケードインパクタに付加したものとしているが、微小粒子分級部を独立して用いてもよく、微小粒子分級部を縦続接続し、夫々の分級する微粒子の粒径を変化させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】従来のカスケードインパクタの構成を単純化して示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1の微小粒子分級装置10の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1のインパクタノズル21を示す構成図である。
【図4】本発明の実施の形態1の捕集プレート22を示す構成図である。
【図5】本発明の実施の形態1のインパクタノズル23を示す構成図である。
【図6】本発明の実施の形態1のスペーサ23を示す構成図である。
【図7】本発明の実施の形態1の微小粒子分級部30を示す構成図である。
【図8】本発明の実施の形態1のフィルタ32を用いてPM0.1を分級した結果を、気体の流速ごとに示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態1のフィルタ32に、毎秒65mの流速でタバコの副流煙を捕集したときの捕集結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態1のフィルタ32の圧力損失を示すグラフである。
【図11A】本発明の実施の形態1においてフィルタ32の繊維径を変化させたときの補集効率を示すグラフである。
【図11B】本発明の実施の形態1においてフィルタ32の繊維径と厚みを変化させたときの補集効率を示すグラフである。
【図12】本発明の実施の形態2の微小粒子分級部70を示す構成図である。
【図13】本発明の実施の形態2の微小粒子分級装置80を示す構成図である。
【符号の説明】
【0061】
10 微小粒子分級装置
20 粗大粒子分級部
21 PM10用インパクタノズル
22 PM10用捕集プレート
23、26、27 スペーサ
24 PM2.5用インパクタノズル
25 PM2.5用捕集プレート
30 微小粒子分級部
31 PM0.1用フィルタサポート部
32 フィルタ
33 貫通孔
40 超微粒子補集部
41 バックアップフィルタ導入部
42 バックアップフィルタ
43 サポート多孔板
50 フィルタ排気部
70 微小粒子分級部
71 PM0.1用フィルタサポート部
72 フィルタ
73 貫通孔
80 微小粒子分級装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中の浮遊粒子を捕集する微小粒子サンプラであって、
気体が通過する貫通孔を持つフィルタサポート部と、
繊維状の部材で構成され、前記フィルタサポート部の貫通孔の端部付近で前記貫通孔と気密に接して、前記貫通孔を塞ぐように配置される微小粒子サンプリングフィルタと、を具備する微小粒子サンプラ。
【請求項2】
前記微小粒子サンプリングフィルタは、ステンレス繊維で構成される請求項1に記載の微小粒子サンプラ。
【請求項3】
前記微小粒子サンプリングフィルタの繊維径は、1μm以上である請求項2に記載の微小粒子サンプラ。
【請求項4】
気体中の浮遊粒子を捕集する微小粒子サンプラであって、
気体が通過する貫通孔を持つフィルタサポート部と、
通気性の多孔質の部材で構成され、前記フィルタサポート部の貫通孔の端部付近で前記貫通孔と気密に接して、前記貫通孔を塞ぐように配置される微小粒子サンプリングフィルタと、を具備する微小粒子サンプラ。
【請求項5】
前記フィルタサポート部の貫通孔は、少なくとも前記微小粒子サンプリングフィルタが設けられる部分がテーパー状である請求項1から4のいずれか1項に記載の微小粒子サンプラ。
【請求項6】
気体中の浮遊粒子を粒径により分級する微小粒子分級装置であって、
浮遊粒子を分級する粗大粒子分級部と、
前記粗大粒子分級部に接続された微小粒子サンプラと、を具備し、
前記微小粒子サンプラは、
前記粗大粒子分級部を通過した気体が通過する貫通孔を持つフィルタサポート部と、
繊維状の部材で構成され、前記フィルタサポート部の貫通孔の端部付近で前記貫通孔と気密に接して、前記貫通孔を塞ぐように配置される微小粒子サンプリングフィルタと、を有する微小粒子分級装置。
【請求項7】
気体中の浮遊粒子を粒径により分級する微小粒子分級装置であって、
浮遊粒子を分級する粗大粒子分級部と、
前記粗大粒子分級部に接続された微小粒子サンプラと、を具備し、
前記微小粒子サンプラは、
前記粗大粒子分級部を通過した気体が通過する貫通孔を持つフィルタサポート部と、
通気性の多孔質の部材で構成され、前記フィルタサポート部の貫通孔の端部付近で前記貫通孔と気密に接して、前記貫通孔を塞ぐように配置される微小粒子サンプリングフィルタと、を有する微小粒子分級装置。
【請求項8】
前記フィルタサポート部の貫通孔は、少なくとも前記微小粒子サンプリングフィルタが設けられるテーパー状である請求項6又は7に記載の微小粒子分級装置。
【請求項9】
前記粗大粒子分級部は、カスケードインパクタを有する請求項6〜8のいずれか1項に記載の微小粒子分級装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−70222(P2008−70222A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248957(P2006−248957)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000230685)日本カノマックス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】