説明

微生物を検出するための方法

【課題】 微生物の存在を迅速かつ簡単に検出し、特定の種類の検出微生物を識別する技術を提供する。
【解決手段】 簡単、迅速、かつ有効な方法で微生物の存在を検出するための技術。より詳細には、この技術は、関連の特定の微生物に伴う一以上の揮発性化合物を同定する工程を伴っている。揮発性化合物は、例えば、ガスクロマトグラフィー/質量分光(GC/MS)分析法と共に固相微量抽出を用いて同定することができる。同定された状態で、次に、同定された揮発性化合物の存在下で検出可能な色変化を起こすように構成された指示薬を選択することができる。必要に応じて指示薬を基体上に設け、様々な用途に用いるための指示薬ストリップを形成することができる。このようにして、微生物の存在は、指示薬ストリップの色変化を単に観察することによって迅速に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
微生物を迅速に検出する機能は、様々な産業で徐々に大きな問題となっている。例えば、食品(例えば、肉)は、通常は、施設に入る前、その間、又はその後に分析される。しかし、食品が消費される前に更に検査することは一般的に行われず、製品の包装、輸送、及び陳列の間にサルモネラ及びリステリアのような未検出の食物媒介病原体が望ましくないレベルまで増加することになる可能性がある。例えば、3℃未満の温度上昇で食物貯蔵寿命が50%短くなり、長期間での細菌増殖を有意に増大させる場合がある。実際、食品へのグラムあたり103コロニー形成単位(cfu)の合計病原性及び非病原性細菌負荷に基づいて、37℃で数時間ほどの短さで食物の損傷が起こる場合がある。食物安全性指導者は、このレベルを肉製品の最大許容閾値であると特定している。
【0002】
時間−温度指示装置を含む細菌負荷又は食物の鮮度のいずれかを反映する診断試験を提供するいくつかの装置が公知である。今日まで、このような装置のどれも、応用したその技術のために広く受け入れられたものは無かった。例えば、フィルム包装装置は、一般的に、細菌と実際に接触することが必要である。しかし、細菌が食物外面の内部にあれば、食物の内部が高度に細菌負荷されてもセンサを活性化しない。更に、アンモニアセンサも開発されたが、タンパク質を分解する細菌しか検出することができない。細菌は、最初に炭水化物を利用するために、これらのセンサは、多くの用途で感受性が低い。
【0003】
これらの問題の一部を克服する試みにおいて、いくつかの装置が開発された。例えば、Morris他に付与された米国特許出願公開第2004/0265440号は、生鮮食品中の細菌を検出するためのセンサを説明している。センサは、食品又は包装表面に対して離間した関係で配置するためのハウジングにより担持されたpH指示薬を含有する気体透過性材料を含む。指示薬は、細菌の増殖を示すことができる気体細菌代謝産物濃度の変化を検出するが、この場合、代謝産物が存在することによってpH変化が影響を受ける。例えば、pH指示薬を通って拡散し、水素イオン濃度を低減し、従ってpHのレベルを低下させる二酸化炭素ガスの増大したレベルの存在下では、pH指示薬(例えば、「ブロムチモールブルー」及び「メチルオレンジ」の混合物)は、視覚的な色の緑からオレンジへの変化を起こすことになる。
【0004】
不都合なことに、このようなpH指示薬には、依然として問題がある。例えば、pHの低下が検出されても、一部の細菌が存在しているかもしれないことを示すだけである。しかし、pHの低下は、どの種類の細菌が存在するかに関する指標とはならない。細菌の種類の選択的識別の必要性は、様々な理由で重要である。例えば、一部の種類の細菌は、有害と見なされない場合がある。更に、どの種類の細菌が存在しているかが分かれば、特定の汚染源を導くこともできる。
従って、現在、微生物の存在を迅速かつ簡単に検出し、特定の種類の検出微生物を識別する技術に対する必要性が存在している。
【発明の開示】
【0005】
本発明の一実施形態により、微生物の存在を検出する方法を開示する。本方法は、微生物の培養物により生成されるヘッドスペースガスを抽出する工程と、抽出したヘッドスペースガスを分析して、微生物培養物に伴う揮発性化合物を同定する工程と、同定された揮発性化合物の存在下で検出可能な色変化を起こすことができる指示薬を選択する工程とを含む。
本発明の別の実施形態により、微生物の存在を検出する方法を開示する。本方法は、微生物培養物に伴う揮発性化合物を同定する工程と、同定された揮発性化合物の存在下で検出可能な色変化を起こすことができる指示薬を選択する工程と、基体の表面に指示薬を適用する工程とを含む。
【0006】
本発明の更に別の実施形態により、複数の微生物の存在を検出するための基体を開示する。基体は、少なくとも第1及び第2の指示薬区域を含む。第1の指示薬は、第1の微生物により生成された第1の揮発性化合物と接触すると検出可能な色変化を引き起こすのに有効な量で第1の指示薬区域に含まれている。第2の指示薬は、第2の微生物により生成された第2の揮発性化合物に接触すると検出可能な色変化を引き起こすのに有効な量で第2の指示薬区域に含まれている。
本発明の他の特徴及び態様は、以下でより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
当業者を対象として、本発明の最良の形態を含め、本発明を十分かつ実施可能にする開示内容を、添付図面を参照して本明細書の残りの部分により詳細に説明する。
ここで、一以上の実施例を含む、以下に示す本発明の様々な実施形態を詳細に以下に説明する。各実施例は、本発明の説明のために挙げたものであり、本発明を制限するものではない。実際、本発明には、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく様々な修正及び変形することができることは当業者には明らかであろう。例えば、一実施形態の一部として例示又は説明する特徴は、別の実施形態に用いて更に別の実施形態を生ずることができる。従って、本発明は、特許請求の範囲及びその均等物の範囲に含まれるものとしてこのような修正及び変形を含むものとする。
【0008】
本発明は、微生物の存在を簡単、迅速、かつ効率的な方式で検出するための技術に関する。より詳細には、この技術は、関連の特定の微生物に伴う一以上の揮発性化合物を同定する工程を含む。揮発性化合物は、例えば、ガスクロマトグラフィー/質量分光(GC/MS)分析法と共に固相微量抽出を用いて同定することができる。同定された状態で、次に、同定された揮発性化合物の存在下で検出可能に色変化するように構成された指示薬を選択することができる。必要に応じて、指示薬を基体上に供給して様々な用途に用いるための指示薬ストリップを形成することができる。従って、微生物の存在は、単に指示薬ストリップ上の色変化を観察することによって迅速に検出することができる。
【0009】
細菌、酵母、真菌、カビ、プロトゾア、ウイルスなどのような微生物は、特定の特性によって様々な群に分類される。例えば、細菌は、一般的に、その形態、染色特性、環境的要件、及び代謝特性等に基づいて分類される。一部の医学的に重要な細菌群には、例えば、グラム陰性桿菌(例えば、腸内細菌);グラム陰性湾曲桿菌(例えば、ビブリオ、ヘリコバクター、カンピロバクター等);グラム陰性球菌(例えば、ナイセリア);グラム陽性桿菌(例えば、バシラス、クロストリジウム等);グラム陽性球菌(例えば、ブドウ球菌、連鎖球菌等);偏性細胞内寄生体(例えば、リケッチア及びクラミジア);抗酸性桿菌(例えば、ミコバクテリア、ノカルジア等);スピロヘータ(例えば、トレポネーマ、ボレリア等);及びマイコプラズマ(すなわち、細胞壁がない小さな細菌)が含まれる。特に関連のある細菌には、大腸菌(グラム陰性桿菌)、肺炎桿菌(グラム陰性桿菌)、連鎖球菌(グラム陽性球菌)、豚コレラ菌(グラム陰性桿菌)、黄色ブドウ球菌(グラム陽性球菌)、及び緑膿菌(グラム陰性桿菌)が含まれる。
【0010】
微生物は、ある一定の条件下で増殖して繁殖する。増殖するのに必要な事項には、適切な栄養の供給、エネルギ源(例えば、光栄養又は化学合成)、水、適切な温度、適切なpH、適切なレベルの酸素(例えば、嫌気性又は好気性)等が含まれる。例えば、細菌は、栄養素として、糖類及び炭水化物、アミノ酸、ステロール、アルコール、炭化水素、メタン、無機塩、及び二酸化炭素のような広範囲の化合物を用いることができる。増殖は、特定の細菌に対する最適な増殖温度で最も急速に進む(温度がこの最適値から上昇又は下降すると減少する)。全ての細菌には、それを超えると増殖が維持されない最低及び最高温度が存在する。好熱性細菌の最適増殖温度は45℃よりも高く、中温性細菌の最適増殖温度は、15と45℃の間であり(例えば、ヒト病原細菌)、好冷性細菌の最適増殖温度は、15℃未満である。
【0011】
医学的に重要なヒト病原体を含む多くの種類の微生物は、増殖及び繁殖中に揮発性化合物を生成する。本発明者は、これらの揮発性化合物の1つ又はそれよりも多くが、微生物の特定の類、属、種、及び/又は亜種に独特に見えることを発見した。従って、揮発性化合物を分析して同定し、同定した揮発性化合物に特定的な検出技術を開発することができる。揮発性化合物は、関連の用途に対する閾値安全レベルである負荷量で又はほぼその量で分析することができる。例えば、細菌負荷量1×103コロニー形成単位(cfu)/ミリリットル原液は、食品に基づく用途での閾値安全レベルとして許容されている。従って、一部の実施形態では、少なくとも約1×103cfu/ミリリットル原液の負荷量で分析を行うことができる。しかし、試験のために選択される負荷量は、許容閾値レベルと同じでも同じでなくてもよいことを理解すべきである。すなわち、少なくとも一以上の揮発性化合物が同定可能である限り、少ない負荷量で試験することができる。
【0012】
微生物により生成される揮発性化合物は、本発明により様々な異なる技術を用いて分析することができる。一部の実施形態では、ソックスレー抽出、液液抽出、加速溶媒抽出、マイクロ波補助溶媒抽出、固相抽出、及び超臨界流体抽出などのような抽出方法が用いられる。特に望ましい抽出技術の1つは、「固相微量抽出」(SPME)であり、これにより、単一の工程でサンプル抽出及び予備濃縮を行うことができる。SPMEでは、中実溶融繊維(solid fused fiber)の外表面を選択的固定相で被覆する。急速に溶質拡散させる熱的に安定なポリマー材料が、通常固定相として用いられる。抽出作業は、被覆された繊維端部をサンプルのヘッドスペースに浸漬して平衡にさせることによって行われる。
【0013】
図1を参照すると、例えば、シリンジ4を用いる固相微量抽出を行うための装置2の一実施形態が示されている。シリンジ4は、バレル8内で摺動可能なプランジャ10を含むバレル8で形成される。プランジャ10は、バレル8の一端14から延びる取っ手12を有する。針18は、コネクタ20によりバレル8の他端16に連結される。更に、装置2は、針18からバレル8を通って端部14から出て延びる中実の糸様材料である繊維6も含む。取っ手12に隣接して位置決めされる繊維6の端部(図示せず)は、プランジャ10がバレル8内で摺る時、繊維が縦方向に動くことになるようにその上に位置決めされる維持手段22を有する。維持手段は、単純に、取っ手8近くの繊維6の端部上に配置されたエポキシ滴とすることができる。繊維6は、部分的に、プランジャ10内の繊維6の一部、バレル8及び針18の一部を囲む金属スリーブ24内に封入される。金属スリーブ24の目的の1つは、繊維6が損傷を受けないように保護し、装置の作動中に確実に良好に密封することである。繊維6への別の進入経路とすることができる任意的な入口26が、コネクタ20から延びている。例えば、繊維6が針18内に含まれる時には、流体は、入口26に入り、針18の自由端28から出ることによって繊維6に接触することができる。更に、入口26は、繊維6を活性化溶媒と接触させるのに用いることができる。
【0014】
固相微量抽出及びその後の分析を行うために、使用者は、単に、プランジャ10を押し、関連する微生物培養物を含む容器、ビン、皿、寒天プレート、又は何らかの他のサンプルホルダ内に繊維6を露出する。例えば、繊維は、液相(ポリジメチルシロキサン、スチレンジビニルベンゼン多孔性ポリマー、ポリエチレングリコール、炭素分子の篩吸着剤、その混合物等)で被覆した溶融シリカとすることができる。培養期間の間、微生物は増殖し、関連する揮発性化合物を生成する。従って、サンプルホルダのヘッドスペースは、揮発性化合物で満たされる、十分な期間(例えば、約2〜約30分)の後、ヘッドスペース構成要素は、繊維6上に吸着される。その後、プランジャ10を引出し位置に移動し、繊維6を針8内に引込み、次に、針8をサンプルホルダから除去する。吸着されたヘッドスペース構成要素は、次に、次の分析のために加熱することによって繊維液相から脱着する。本発明に用いるのに適するSPMEアセンブリの1つは、ミズーリ州セントルイス所在の「Sigma−Aldrich,Inc.」から「Supelco」とい名称で市販されている。「Supelco」システムは、手動繊維ホルダ(カタログ番号第57330−U号)、及び「85μm−Carboxen(登録商標)」/ポリジメチルシリコーン(カタログ番号第57334−U号で被覆した「StableFlex(登録商標)」繊維を用いる。このような繊維は、ガス及び低分子量化合物に推奨される。更に、本発明には、Pawliszynに付与された米国特許第5,691,206号、Pawliszynに付与された第6,537,827号、Malik他に付与された第6,759,126号、及びJinno他に付与された第6,780,314号に説明されているような様々な他の抽出技術を用いることができ、これらの特許の全ては、本明細書においてその全内容が引用により組み込まれている。
【0015】
抽出の次に、通常は、クロマトグラフ分析を行い、ここでは、抽出した化合物は、クロマトグラフカラム内に導くために注入ポートに脱着される。例えば、一実施形態では、本発明に用いるのにガスクロマトグラフ(GC)を用いる。ガスクロマトグラフ(GC)は、ガス状サンプルを取り入れ、サンプルを個々の化合物に分離し、それらの化合物を同定して定量することができる分析器具である。典型的なガスクロマトグラフには、サンプル成分をガスに変換し、そのガスを狭い帯域の分離カラムのヘッドに移動する注入器、及び不活性搬送ガスによりカラムを通して押し流す時にサンプル混合物を個々の成分に分離する分離カラム(例えば、長い螺旋管)が含まれる。分離は、成分とカラム内の不動化液体又は固体材料の間の差動的相互作用に基づいている。例えば、本発明に用いる場合、抽出されたヘッドスペースガスは、ガスクロマトグラフの入口に受け取られる。次に、ガスは、カラムを通って移動し、それが分子を分離する。異なるサンプル成分は、カラム内に異なる長さの時間保持され、固有の保持時間に到着する。これらの「保持時間」は、特定のサンプル成分を同定するのに用いることができ、かつカラム内の収着材料の種類及び量、カラムの長さ及び直径、搬送ガスの種類及び流速、及びカラム温度の関数である。
【0016】
ガスクロマトグラフは、一般的に、制御可能に加熱又は冷却され、保持時間を再現可能にするのを助ける。例えば、様々なコーティング(例えば、ポリシロキサンベースのコーティング)で被覆したポリイミド又はメタルクラッド溶融シリカ管を加熱するオーブンを用いることができる。オーブンは、抵抗加熱要素及びオーブン内で加熱風を循環させるファンを用いることができる。同様に、カラムは、オーブンの通気口を開け、抵抗加熱要素をオフにし、周囲空気又は液体二酸化炭素又は液体窒素のような低温冷却材でカラムを強制空気冷却することを用いることによって冷却することができる。代替的に、金属鞘を用いて毛管GCカラムを加熱することができる。この場合、カラムを金属鞘にねじ込み、次に、クロマトグラフ過程の間に鞘を抵抗加熱する。
【0017】
必要に応じて、GC分析は、質量分光法(MS)を含む他の同定技術と連結させ、更に精度の高い結果を得ることができる。質量分光法は、一般的に、材料及び材料混合物の定量的及び定性的な化学分析に用いられる分析法である。質量分光法では、サンプル(すなわち、GC工程で分離されたもの)をイオン源の構成成分の電気的に荷電した粒子に分解する。粒子は、それが生成された状態で、そのそれぞれの質量対電荷比に基づいて分光計により更に分離される。次に、イオンを検出し、材料の質量スペクトルを生成する。質量スペクトルは、溶出分子のイオン強度に関する情報を提供するという点で、分析されるサンプル材料の指紋に類似する。より詳細には、質量分光法を用いて、サンプルの分子及び分子断片の分子量を求めることができる。質量分光計は、一般的に、サンプルからイオンを生成するイオン源を含む。例えば、用いることができるイオン源の種類の1つは、電子イオン化(EI)チャンバである。更に、質量分光計は、一般的に、その質量対電荷比(m/z)に従ってイオンを分離する少なくとも1つの分析器又はフィルタ、及びイオンの存在量を測定する検出器を含む。次に、検出器は、サンプルの質量スペクトルを生成するデータ処理システムに出力信号を生成する。
【0018】
GC/MSシステムのGC及びMS構成要素は、分離していても一体化していてもよい。例えば、本発明に用いるのに適する1つの一体化GC/MSシステムは、コロラド州ラブランド所在の「Agilent Technologies,Inc.」から「5973N」という名称で市販されている。更に、様々な他のガスクロマトグラフ及び/又は質量分光法システムは、Overtonに付与された米国特許第5,846,292号、Quimby他に付与された第6,691,053号、Hastings他に付与された第6,607,580号、Gourley他に付与された第6,646,256号、及びBai他に付与された第6,849,847号にも説明されており、この全ては、本明細書においてその全内容が引用により組み込まれている。
【0019】
用いる特定の同定技術に関係なく、微生物の特定の属、種、及び/又は亜種に固有の揮発性化合物を同定することが通常望ましい。従って、同定した揮発性化合物に特異的な指示薬を選択することができる。しかし、実際には、同定した揮発性化合物が本当に独特であるか否かを直ちに判断することが困難である場合がある。従って、固有の揮発性化合物は、指示薬が使用中に遭遇する可能性が高い微生物の種類に基づいて同定することができる。例えば、食物に基づく用途で関係があると考えられる一部の種類の細菌には、大腸菌、豚コレラ菌、黄色ブドウ球菌、及び緑膿菌が含まれる。同様に、指示薬に広範囲の用途が想定されている場合には、更に一部の細菌の種類を試験することができる。更に別の場合では、特定の種類の微生物に固有の揮発性化合物を同定することは必要でもなく望ましくもない場合がある。例えば、一以上の揮発性化合物を一種類の微生物に対して同定することができるが、これは、別の種類の微生物によっても生成される。このような場合、指示薬は、依然として一以上の微生物の種類の存在を同定することになる。
【0020】
一般的に、指示薬は、同定された揮発性化合物の存在を容易に示すことができる。一実施形態では、指示薬は、揮発性化合物と接触すると、視覚的に又は器具を通してのいずれかで検出可能な色変化を示す染料である。例えば、揮発性化合物と接触する前には、指示薬染料は無色であることもあり、又はある一定の色を有することもある。しかし、揮発性化合物に接触した後には、染料は、最初の色と異なる色に変化する。すなわち、染料は、第1の色から第2の色に、無色から有色に、又は有色から無色に変化することができる。必ずしも必要ではないが、検出可能な色変化は、吸収ピークをスペクトルの赤方端部に向ってシフトさせる(深色シフト)か、又はスペクトルの青方端部に向ってシフトさせる(浅色シフト)かのいずれかを引き起こす官能基(例えば、OH、NH2等)を染料分子に加えることによることもある。吸収シフトの種類は、染料分子の性質、及び官能基が電子受容体(酸化剤)として機能するか否か(この場合浅色移動が起こる)又は官能基が電子供与体(還元剤)として機能するか否か(この場合深色移動が起こる)に依存する。いずれにせよ、吸収シフトにより、検出可能な色差を得ることができる。
【0021】
本発明には、様々な公知の指示薬のいずれかを用いることができる。例えば、このような指示薬の1つは、4−ジメチルアミノシンナムアルデヒドであり、これは、次の構造を有するエチレン的不飽和アミン塩基である。





【0022】
【化1】

【0023】
4−ジメチルアミノシンナムアルデヒドは、一般的に次の構造を有するインドールが存在すると、色変化することができる。
【0024】
【化2】

【0025】
別の適切な指示薬は、過マンガン酸カリウムであり、これは、次の構造を有する。
【0026】
【化3】

【0027】
過マンガン酸カリウムは、強酸化剤であり、アルコール、アルデヒド、及び不飽和炭化水素などのような容易に酸化可能な化合物の存在下で色変化することができる。このような容易に酸化可能な化合物の一例は、メチル2−メチル−2−ブテノエートであり、これは次の構造を有する。
【0028】
【化4】

【0029】
過マンガン酸カリウム中で色変化を開始することができる化合物の別の例は、2,5−ジメチルピラジンであり、これは次の構造を有する。
【0030】
【化5】

【0031】
更に別の適切な指示薬は、重クロム酸アンモニウムであり、次の構造を有する。
【0032】
【化6】

【0033】
また、重クロム酸アンモニウムも強力な酸化剤であり、式(CH32CHCH2CH2OHであるイソアミルアルコールのようなアルコールが存在すると色変化することができる。
更に、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DPNH)も炭素−酸素二重結合(例えば、アルデヒド及びケトン)を有する化合物に対する適切な指示薬であり、以下の構造を有する。
【0034】
【化7】

【0035】
例えば、DPNH(「Bradyの試薬」としても公知)は、2−アセチルチアゾールが存在すると色変化することができ、これは、次の構造を有する。
【0036】
【化8】

【0037】
上述の指示薬以外に、一部の他のよく用いられる指示薬及びその関連目標化合物を以下に示す。
【0038】
(表)








【0039】
選択した指示薬は、一般的に、特定の微生物が存在すると検出可能な色変化を達成するのに有効な量で用いられる。指示薬が望ましい色変化を達成する機能は、指示薬と微生物により生成されるガスの間の接触面積を増大させることによって改善することができる。次に、それによって望ましい色変化を達成するのに必要な指示薬の量を低減することができる。このように表面積を増大させる技術の1つは、指示薬を基体に適用することである。これを用いる場合、一以上の指示薬を基体に適用し、1つ又は複数の種類の微生物の存在を検出するように構成された指示薬ストリップを形成することができる。例えば、一実施形態では、指示薬ストリップは、大腸菌、豚コレラ菌、黄色ブドウ球菌、及び緑膿菌の存在を検出するように設計することができる。これは、単一の指示薬又は複数(例えば、4つ)の指示薬を用いて達成することができる。更に、基体は、水吸収、包装などのような他の目的も果たす。
【0040】
本発明によれば、様々な異なる基体のいずれにも指示薬を組み込むことができる。例えば、不織布、織布、綿、編布、湿潤強度紙、フィルム、発泡体等に指示薬を適用することができる。不織布は、用いる場合には、以下に限定されるものではないが、スパンボンデッドウェブ(孔あき又は非孔あき)、メルトブローンウェブ、ボンデッドカーデッドウェブ、空気堆積ウェブ、同時形成ウェブ、及び水圧交絡ウェブなどを含むことができる。以下に限定されるものではないが、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、エチレン及びプロピレンのコポリマー、エチレン又はプロピレンとC4〜C20αオレフィンのコポリマー、エチレンとプロピレン及びC4〜C20αオレフィンのターポリマー、エチレンビニルアセテートコポリマー、プロピレンビニルアセテートコポリマー、スチレン−ポリ(エチレン−αオレフィン)エラストマー、ポリウレタン、A−Bブロックコポリマー(Aがポリスチレンのようなポリ(ビニルアレイーン)成分で形成され、Bは、共役ジエン又は低級アルケンのようなエラストマー中間ブロック)、ポリエーテル、ポリエーテルエステル、ポリアクリレート、エチレンアルキルアクリレート、ポリイソブチレン、ポリ−1−ブテン、エチレン−1−ブテンコポリマーを含むポリ−1−ブテンのコポリマー、ポリブタジエン、イソブチレン−イソプレンコポリマー、及び以上のあらゆる組合せを含む様々な熱可塑性材料を用いて、不織ウェブを構成することができる。
【0041】
適切な不織ウェブの別の種類は、同時形成材料であり、これは、一般的に、セルロース繊維及びメルトブローン繊維の配合物である。「同時形成(coform)」という用語は、一般的に、熱可塑性繊維及び第2の非熱可塑性材料の混合物又は安定化混合物を含む複合材料を意味する。例示的に、同時形成材料は、形成する時にそれを通して他の材料をウェブに加えるシュートの近くに少なくとも1つのメルトブローンダイヘッドが配置された工程によって作ることができる。このような他の材料には、以下に限定されるものではないが、綿、レーヨン、再生紙、パルプフラフの等の木質又は非木質パルプのような繊維有機材料、並びに超吸収性粒子、無機吸収性材料、及び処理ポリマーステープル長繊維などを含むことができる。このような同時形成材料の一部の例は、Anderson他に付与された米国特許第4,100,324号、Everhart他に付与された第5,284,703号、及びGeorger他に付与された第5,350,624号に開示されており、これらは、全ての目的に対して本明細書においてその全内容が引用により組み込まれている。
【0042】
また、指示薬は、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ペーパータオル、及びナプキンなどのような一以上の紙ウェブを含む紙製品に用いることができる。紙製品は、製品を形成するウェブが単一の層を含むか又は層化された(すなわち、複数の層を有する)単一プライとすることができ、又は製品を形成するウェブ自体が単層又は多層のいずれかとすることができる多重プライとすることができる。更に、様々な材料のいずれかを用いて紙ウェブを形成することができる。例えば、紙ウェブには、クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、サーモメカニカルパルプなどのような様々なパルプ化工程で形成された繊維を含むことができる。
【0043】
また、基体は、フィルムを含むことができる。様々な材料を用いてフィルムを形成することができる。例えば、フィルムを製造するのに用いられる一部の適切な熱可塑性ポリマーは、以下に限定されるものではないが、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、及びその配合物を含むポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等);エチレンビニルアセテート;エチレンエチルアクリレート;エチレンアクリル酸;エチレンメチルアクリレート;エチレンノルマルブチルアクリレート;ポリウレタン;ポリ(エーテル−エステル);及びポリ(アミド−エーテル)ブロックコポリマーなどを含むことができる。
【0044】
フィルム、不織ウェブなどを含有するか否かに関わらず、本発明に用いる基体の透過性も、特定の用途に対して様々とすることができる。例えば、一部の実施形態では、基体は、液体透過性とすることができる。例えば、このような基体は、様々な種類の流体吸収及び濾過の用途に有用とすることができる。他の実施形態では、ポリプロピレン又はポリエチレンから形成されたフィルムのような基体は、液体、気体、及び水蒸気に不透過性とすることができる。更に別の実施形態では、基体は、液体に不透過性であるが、気体及び水蒸気に透過性(すなわち、通気可能)とすることができる。材料の「通気性」は、水蒸気透過度(WVTR)に関して測定され、値が高ければ材料の蒸気透過性が高いことを表し、値が低ければ材料の蒸気透過性が低いことを表している。通気可能材料の水蒸気透過度(WVTR)は、例えば、少なくとも約100グラム/平方メートル/24時間(g/m2/24hours)とすることができ、一部の実施形態では、約500〜約20,000g/m2/24時間、一部の実施形態では、約1,000〜約15,000g/m2/24時間とすることができる。通気可能材料は、一般的に、当業技術で公知のように様々な材料で形成することができる。例えば、通気可能材料は、マイクロポーラス又はモノリシックフィルムのような通気可能フィルムを含むことができる。
【0045】
指示薬は、様々な公知の適用技術のいずれかを用いて基体に適用することができる。適切な適用技術には、印刷、浸漬、スプレー、溶融押出し、溶媒コーティング、粉末コーティング等が含まれる。指示薬は、基体マトリックス内に組み込み、及び/又はその表面に含むことができる。例えば、一実施形態では、指示薬は、基体の一以上の表面に被覆される。1つの特定的な実施形態では、指示薬コーティングは、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、又はインクジェット印刷のような印刷技術を用いて基体上に印刷される。このような印刷技術の様々な例は、Levy他に付与された米国特許第5,853,859号、及びLye他に付与された米国特許出願公開第2004/0120904号に説明されており、これらは、全ての目的に対して本明細書においてその全内容が引用により組み込まれている。
【0046】
必要に応じて、指示薬は、使用者が特定の微生物の存在をより良く判断することができるように、一以上の個別の区域で基体に適用することができる。例えば、2つ又はそれよりも多くの個別の指示薬区域(例えば、線、点等)を用いて、2つ又はそれよりも多くの微生物の存在を検出することができる。1つの特定的な実施形態では、4つの異なる指示薬区域を用いて大腸菌、豚コレラ菌、黄色ブドウ球菌、及び緑膿菌の存在を検出する。従って、使用者は、単に、異なる区域を観察してどの微生物が存在するかを判断することができる。指示薬区域は、一般的に、基体のいずれの表面にも適用することができるが、一般的に、少なくとも、使用中に微生物により生成される揮発性化合物に接触することができる表面に存在する。
【0047】
基体上に存在する指示薬の量は、基体の性質及びその意図する用途、指示薬及び揮発性化合物の性質等に応じて様々とすることができる。例えば、添加レベルを低くすると、基体の機能性を最適にすることができるが、添加レベルを高くすると、検出感度を最適にすることができる。いずれにせよ、指示薬は、一般的に基体の約0.001重量%〜約10重要%の範囲とされることになり、一部の実施形態では、約0.01重量%〜約5重量%、一部の実施形態では、約0.05重量%〜約2重量%の範囲とされることになる。同様に、基体表面上の指示薬のパーセント被覆度は、選択的に様々とすることができる。一般的に、パーセント被覆度は、所定の表面の100%未満であり、一部の実施形態では、約90%未満、一部の実施形態では、約5%〜約50%である。
【0048】
場合によっては、大表面積粒子を用いて基体の有効表面を増大させ、それによって指示薬と揮発性化合物の間の接触を改善することができる。一般的に、大表面積の粒子の表面積は、約50平方メートル/グラム(m2/g)〜約1000m2/gであり、一部の実施形態では、約100m2/g〜約600m2/g、一部の実施形態では、約180m2/g〜約240m2/gである。表面積は、窒素を吸着ガスとしたBruanauer、Emmet、及びTellerの物理的ガス吸着(B.E.T.)法、米国化学学会誌、第60巻、1938年309頁により求めることができる。更に、大表面積の粒子は、望む結果に応じて様々な形態、形状、及び大きさも有する。例えば、粒子の形状は、球、結晶、ロッド、円板、管、糸等とすることができる。粒子の平均の大きさは、一般的に約100ナノメートル未満であり、一部の実施形態では約1〜約50ナノメートル、一部の実施形態では約2〜約50ナノメートル、一部の実施形態では、約4〜約20ナノメートルである。本明細書で用いる場合、粒子の平均の大きさとは、その平均の長さ、幅、高さ、及び/又は直径を意味する。更に、粒子は、比較的無孔性又は中実とすることができる。すなわち、粒子の孔容積は、約0.5ミリリットル/グラム(ml/g)未満、一部の実施形態では約0.4ミリリットル/グラム未満、一部の実施形態では約0.3ml/g未満、一部の実施形態では、約0.2ml/g〜約0.3ml/g未満とすることができる。
【0049】
大表面積粒子は、以下に限定されるものではないが、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化マグネシウム、二酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化銅、ポリスチレンのような有機化合物、及びその組合せを含む様々な材料で形成することができる。例えば、アルミナナノ粒子を用いることができる。一部の適切なアルミナナノ粒子は、Ando他に付与された米国特許第5,407,600号に説明されており、これは、全ての目的に対して本明細書においてその全内容が引用により組み込まれている。更に、市販のアルミナナノ粒子の例には、例えば、「Aluminasol 100」、「Aluminasol 200」、及び「Aluminasol 520」が含まれ、これらは、「Nissan Chemical Industries Ltd」から入手可能である。代替的に、これも「Nissan Chemical」から入手可能な「Snowtex−C」、「Snowtex−O」、「Snowtex−PS」、及び「Snowtex−OXS」のようなシリカナノ粒子を用いることができる。例えば、「Snowtex−OXS」粒子の粒径は、4〜6ナノメートルであり、表面積がほぼ509平方メートル/グラムの粉末に挽くことができる。更に、「Nissan Chemical」から入手可能な「Snowtex−AK」のようなアルミナ被覆シリカ粒子を用いることができる。
【0050】
上に挙げたような大表面積の粒子は、互いに接合してもしなくてもよいユニットを有することができる。このようなユニットが接合するか否かは、一般的に、重合の条件に依存する。例えば、シリカナノ粒子を形成する時には、ケイ酸塩溶液を酸化すると、Si(OH)4を産することができる。この溶液のpHが7未満に減少するか又は塩を加えると、このユニットは、互いに融合して鎖になり、「シリカゲル」を形成する傾向があるであろう。他方、pHが中性のpH又は7を超える値を維持する場合には、ユニットは分離し、徐々に成長して「シリカゾル」を形成する傾向があるであろう。このようなコロイド状シリカナノ粒子は、一般的に、透析、電気透析、ぺプチゼーション、酸中和、及びイオン交換のような当業技術で公知の様々な技術のいずれかにより形成することができる。このような技術の一部の例は、例えば、Watanabe他に付与された米国特許第5,100,581号、Watanabe他に付与された第5,196,177号、Tsugeno他に付与された第5,230,953号、及びYamada他に付与された第5,985,229号に説明されており、これらは、全ての目的に対して本明細書においてその全内容が引用により組み込まれている。
【0051】
1つの特定的な実施形態では、シリカナノ粒子ゾルは、イオン交換技術を用いて形成される。単に例示的な目的で、このようなイオン交換技術の1つをこれからより詳細に以下に説明する。最初に、シリコン(SiO2)対アルカリ金属(M2O)のモル比が約0.5〜約4.5であるアルカリ金属ケイ酸塩を準備する。例えば、モル比が約2〜約4のナトリウム水ガラスを用いることができる。アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、例えば、約2重量%〜約6重量%の濃度で水に溶解することによって得られる。アルカリ金属ケイ酸塩含有水溶液は、次に、一以上のイオン交換樹脂に接触させることができる。例えば、溶液は、最初に強酸に接触させ、水溶液中の全ての金属イオンをイオン交換することができる。このような強酸の例には、以下に限定されるものではないが、塩酸、硝酸、及び硫酸等が含まれる。接触は、温度約0℃〜約60℃で、一部の実施形態では約5℃〜約50℃で、強酸で満たしたカラムに水溶液を通過させることによって達成することができる。カラムを通過させた後、得られるケイ酸含有水溶液のpH値は、約2〜約4とすることができる。必要に応じて、別の強酸をケイ酸含有水溶液に加えて不純物の金属構成要素を解離イオンに変換することができる。この更なる強酸により、得られる溶液のpH値を約2未満に低減することができ、一部の実施形態では、約0.5〜約1.8に低減することができる。
【0052】
金属イオン及び強酸の陰イオンは、連続的に強酸(すなわち、陽イオン交換樹脂)及び強塩基(陰イオン交換樹脂)を適用することによって溶液から除去することができる。適切な強塩基の例には、以下に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等が含まれる。このように連続的に適用すると、ケイ酸含有水溶液のpH値は、約2〜約5とすることができる。この酸性水溶液は、次に、一以上の更なる強塩基と接触させて溶液をpH値約7〜約9に安定させることができる。
【0053】
安定化したケイ酸含有水溶液を次に容器に供給し、液体の温度を約70℃〜約100℃に維持する。この工程により、シリカの濃度が約30重量%〜約50重量%に増大することになる。安定な水性シリカゾルを次に上述のような強酸及び強塩基に連続的に接触させ、得られるシリカゾルが実質的にシリカ以外の多価金属酸化物を含まないようにすることができる。最後に、水性ゾルにアンモニアを加え、pH値を約8〜約10.5に更に増大させ、それによってシリカ濃度が約30重量%〜約50重量%、平均粒子の大きさが約10〜約30ナノメートルであり、シリカ以外の多価金属酸化物を実質的に何ら含まない安定な水性シリカゾルを形成することができる。
【0054】
粒子の量は、一般的に、基体の性質及びその用途に応じて様々とすることができる。一部の実施形態では、例えば、乾燥固体の添加レベルは、約0.001%〜約20%であり、一部の実施形態では約0.01%〜約10%、一部の実施形態では、約0.1%〜約4%である。「固体添加レベル」は、処理基体の重量(乾燥後)から未処理基体の重量を引き、この計算した重量を未処理基体の重量で割り、その後100%を掛けることによって求められる。添加レベルが低いと、基体の機能を最適にすることができ、添加レベルが高いと、揮発性化合物と指示薬の間の接触を最適にすることができる。
【0055】
本発明によれば、指示薬ストリップの色変化は、微生物が存在することの簡単で迅速な信号として機能する。これは、食物安全性、感染、臭気等の評価を含む様々な用途で有用であると考えられる。例えば、指示薬ストリップは、創傷ケア包帯剤、食物包装、冷蔵庫、玩具、調理区域、病院区域、浴室区域、電話、コンピュータ機器、女性用パッド、及びおむつなどとして又はそれらと組み合わせて用いることができる。必要に応じて、指示薬ストリップは、ストリップを望ましい表面に接着するための接着剤(例えば、感圧接着剤、溶融接着剤等)を含むことができる。
本発明は、以下の実施例を参照するとより良く理解することができる。
【実施例1】
【0056】
特定の種類の細菌に伴う一以上の揮発性化合物を同定する機能を明らかにする。この特定の実施例では、緑膿菌(ATCC第9027号)を試験した。1×108コロニー形成単位(cfu)/ミリリットル(ml)の微生物原液をトリプチカーゼ大豆ブロス(TSB)溶液で濃度1×105cfu/mlまで希釈することによって緑膿菌の懸濁液を調製した。懸濁液1ミリリットルをデキストロースサブロー寒天プレートに適用し、35℃で4時間増殖させた。緑膿菌懸濁液を250ミリリットルセプタジャーに入れ、それをアルミニウム箔裏打ちテフロン(登録商標)/シリコーンキャップで密封することによってサンプルを調製した。対照として、栄養素ブランクも調製した。
【0057】
試験及び対照サンプルを85マイクロメートル「Carboxen(登録商標)」/ポリジメチルシリコーン「固相微量抽出」(SPME)アセンブリに約30分間露出し、分析のために揮発分を収集した。(「Supelco」カタログ番号57330−Uの手動繊維ホルダ及び「StableFlex」繊維上の57334−Uの85μm「Carboxen(登録商標)」/ポリジメチルシリコーン、これらは、ガス状及び低分子量化合物に推奨される。)コロラド州ラブランド所在の「Agilent Technologies,Inc.」からシリーズ名「5973N」で入手可能なシステムを用いてガスクロマトグラフィー及び質量分光(GC/MS)分析が行われた。搬送ガスとしてヘリウムを用いた(注入ポート圧力:12.7psig;供給ライン圧力は、60psigである)。長さが60メートル、内径が0.25ミリメートルの「DB−5MS」カラムを用いた。このようなカラムは、カリフォルニア州フォルサム所在の「J&W Scientific,Inc.」から入手可能である。GC/MSシステムに用いるオーブン及び作動パラメータを以下の表1及び表2に示している。
【0058】
(表1)

【0059】
(表2)

【0060】
SPME抽出物は、熱的に脱着され、その単離物をGC/MSで分析した。緑膿菌に対する得られた総イオンクロマトグラムを図2に示す。スペクトルのピークは、スペクトルの質量対電荷比及びその相対存在量を用いて対応する化合物に適合させた。スペクトル分析の結果は、以下の表3に示している。









【0061】
(表3)

【0062】
図示のように、アルキルエステル、イオウ含有化合物、及びアルケンを含むいくつかの揮発性化合物が、緑膿菌に伴うものとして同定された。
【実施例2】
【0063】
実施例1の手順を用いて、黄色ブドウ球菌(ATCC第6538号)により生成される揮発性化合物を同定した。黄色ブドウ球菌に対して得られた総イオンクロマトグラムを図3に示している。スペクトルのピークは、スペクトルの質量対電荷比及びその相対存在量を用いて対応する化合物に適合させた。2つの化合物のみが、濃度が栄養素ブランクよりも実質的に大きいピークを示している。これらの2つの化合物は、以下の表4に同定されている。
【0064】
(表4)

【0065】
図示のように、黄色ブドウ球菌に伴うと同定された揮発性化合物には、チアゾール及びアルケンが含まれていた。
【実施例3】
【0066】
実施例1の手順を用いて、大腸菌(ATCC第8739号)により生成される揮発性化合物を同定した。大腸菌に対して得られた総イオンクロマトグラムを図4に示している。スペクトルのピークは、スペクトルの質量対電荷比及びその相対存在量を用いて対応する化合物に適合させた。3つの化合物のみが、濃度が栄養素ブランクよりも実質的に大きいピークを示している。これらの3つの化合物は、以下の表5に同定されている。
【0067】
(表5)

【0068】
図示のように、大腸菌に伴うと同定された揮発性化合物には、アルコール、アルケン、及び溶融複素環化合物が含まれていた。
【実施例4】
【0069】
実施例1の手順を用いて、カンジダアルビカンス(ATCC第10231号)により生成される揮発性化合物を同定した。カンジダアルビカンスに対して得られた総イオンクロマトグラムを図5に示している。スペクトルのピークは、スペクトルの質量対電荷比及びその相対存在量を用いて対応する化合物に適合させた。化合物は、以下の表6に同定されている。
【0070】
(表6)

【0071】
図示のように、カンジダアルビカンスに伴うと同定された揮発性化合物には、アルデヒド、アルコール、複素環化合物、及びイオウ含有化合物が含まれていた。
【実施例5】
【0072】
実施例1の手順を用いて、豚コレラ菌により生成される揮発性化合物を同定した。豚コレラ菌に対して得られた総イオンクロマトグラムを図6〜図7に示している。スペクトルのピークは、スペクトルの質量対電荷比及びその相対存在量を用いて対応する化合物に適合させた。化合物は、以下の表7に同定されている。
【0073】
(表7)

【0074】
図示のように、豚コレラ菌に伴うと同定された揮発性化合物には、アルコール及び複素環化合物が含まれていた。
【実施例6】
【0075】
実施例1〜実施例5で得られる結果を分析し、緑膿菌(グラム陰性)、大腸菌(グラム陰性)、黄色ブドウ球菌(グラム陽性)、カンジダアルビカンス(酵母)、及び豚コレラ菌(グラム陰性)に伴う一以上の揮発性化合物を同定した。緑膿菌、大腸菌、及び黄色ブドウ球菌は、1−ウンデセンを生成した。しかし、これらの細菌に対する残りの揮発分のプロフィールは、大幅に異なる。緑膿菌は、一連のチグリン酸エステル、イオウ化合物、及び小さな分枝酸のエステルを生成した。黄色ブドウ球菌は、2つの化合物の濃度のみが栄養素ブランクよりも有意に大きい簡単な揮発分プロフィールを有していた。最も目立つピークは、2−アセチルチアゾールであった。更に、大腸菌揮発分は、栄養素ブランクよりも濃度が有意に大きいものとして3つの化合物のみを含んでいた。インドールが目立つピークであった。カンジダアルビカンスの揮発分プロフィールは、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、及び大腸菌に見られる揮発分とは有意に異なるものであった。移送対照及び媒体対照の両方に多くの不純物のピークが存在することにより、どの化合物が豚コレラ菌の放出する気体に実際に主に影響を及ぼすかを判断することが困難であった。しかし、豚コレラ菌培養物に主に見出される一部の化合物には、イソプロパンール、2,5−ジメチルピラジン、エタノール、及び場合によっては3−メチル−1−ブタノール及びシクロヘキサンが含まれていた。以上に基づいて、次の揮発性化合物を同定した。
【0076】
(表)

【0077】
次の工程では、微生物の存在に対する視覚的指示薬を生成するための手段として微生物の揮発分に感受性があると考えられる色変化染料を同定した。表8は、非常に低濃度の目標化合物に露出されても色変化が起こる特定の揮発性化合物に感受性がある染料を列記している。



【0078】
(表8)

【0079】
選択した染料は、揮発性化合物に露出されると液相で容易に色変化する。表9は、染料がモデル化合物と反応する時に観察される色変化を列記している。
【0080】
(表9)

【0081】
図示のように、染料は、同定された揮発性化合物に対する有効な指示薬として機能した。
【実施例7】
【0082】
気相で存在する時に実施例6で選択された染料がそれぞれの揮発性化合物と反応する機能を明らかにする。より詳細には、各染料の溶液(40ミリグラム染料を10ミリリットルのアセトン又は水に溶解したもの)を「Pasture」ドロッパで分取した一定分量で基体の小さなストリップ上に被覆した。各基体は、「Snowtex(登録商標)」OXSシリカナノ粒子で予備処理し、空気乾燥させた。シリカナノ粒子により、ストリップの表面積が増大し、それによって染料の揮発性化合物への露出が増大する。表10は、用いた特定の溶媒及び基体を示している。
【0083】
(表10)

【0084】
試験は、各微生物に固有の揮発性化合物に対して、染料被覆ストリップをヘッドスペースに露出することによって行った。より詳細には、染料被覆ストリップは、バイアルの底で液体に触れないようにバイアル内に吊された。各場合で、揮発性化合物に露出して1分以内に色変化を観察した。更に、大腸菌の生細菌の懸濁液を用いて「実際の試験」も実施した。生存可能な細菌懸濁液(100マイクロリットル)をシンチレーションバイアルに入れ、染料被覆綿布のストリップがバイアルの上部から吊された。蓋をネジで閉めてから1分以内に色変化を観察した。増殖媒体のみを用いて同じ実験を繰返した時には色変化は起こらなかった。従って、指示薬染料が大腸菌の存在を同定することができることは明らかであった。
【0085】
本発明をその特定的な実施形態に関して詳細に説明したが、以上の事項を理解すれば、当業者が、これらの実施形態に対する代替物、実施形態の変形、及び実施形態に対する均等物を容易に考えることができることは認められるであろう。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びそれに対するあらゆる均等物の範囲であるとして判断されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施形態により用いることができる固相微量抽出「SPME」アセンブリの概略図である。
【図2】揮発性化合物の存在量を保持時間に対してプロットした実施例1の緑膿菌で得られる総イオンクロマトグラムである。
【図3】揮発性化合物の存在量を保持時間に対してプロットした実施例2の黄色ブドウ球菌で得られる総イオンクロマトグラムである。
【図4】揮発性化合物の存在量を保持時間に対してプロットした実施例3の大腸菌で得られる総イオンクロマトグラムである。
【図5】揮発性化合物の存在量を保持時間に対してプロットした実施例4のカンジダアルビカンスで得られる総イオンクロマトグラムである。
【図6】揮発性化合物の存在量を保持時間に対してプロットした実施例5のサルモネラ菌で得られる総イオンクロマトグラムである。
【図7】一部の違いが観察される領域での図6を拡大を示す図である。
【符号の説明】
【0087】
2 固相微量抽出を行うための装置
4 シリンジ
6 繊維
8 バレル
10 プランジャ
18 針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の存在を検出する方法であって、
微生物の培養物によって生成されたヘッドスペースガスを抽出する工程と、
前記抽出されたヘッドスペースガスを分析し、前記微生物培養物に伴う揮発性化合物を同定する工程と、
前記同定された揮発性化合物の存在下で、検出可能な色変化を起こすことができる指示薬を選択する工程と、
を含む前記方法。
【請求項2】
微生物の存在を検出する方法であって、
微生物の培養物に伴う揮発性化合物を同定する工程と、
前記同定された揮発性化合物の存在下で、検出可能な色変化を起こすことができる指示薬を選択する工程と、
前記指示薬を基体の表面に適用する工程と、
を含む前記方法。
【請求項3】
更なる指示薬を前記基体の前記表面に適用する工程を更に含み、該更なる指示薬は、更なる揮発性化合物の存在下で検出可能な色変化を起こすことができ、該更なる揮発性化合物は、更なる微生物の培養物に関連している請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基体の前記表面を前記微生物によって生成された前記揮発性化合物に接触させる工程を更に含む請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記揮発性化合物が、前記微生物培養物によって生成されたヘッドスペースガスを抽出し、該抽出されたヘッドスペースガスを分析することによって同定される請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ヘッドスペースガスが、固相微量抽出を用いて抽出される請求項1又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記抽出されたヘッドスペースガスをガスクロマトグラフのクロマトグラフカラムに接触させて、該ヘッドスペースガスの一以上の成分を分離する工程を更に含む請求項1、5又は6に記載の方法。
【請求項8】
更に、前記ヘッドスペースガスの前記分離した成分を質量分光法に供し質量スペクトルを生成する工程を含む請求項1、5、6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記微生物が細菌である請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記微生物が、緑膿菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、カンジダアルビカンス又は豚コレラ菌である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記微生物が緑膿菌であり、前記同定された揮発性化合物がメチル2−メチル−2−ブテノエートである請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記微生物が大腸菌であり、前記同定された揮発性化合物がインドールである請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記微生物が黄色ブドウ球菌であり、前記同定された揮発性化合物が2−アセチルチアゾールである請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記微生物がカンジダアルビカンスであり、前記同定された揮発性化合物がイソアミルアルコールである請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記微生物が豚コレラ菌であり、前記同定した揮発性化合物が2,5−ジメチルピラジンである請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記指示薬が、過マンガン酸カリウム、ジメチルアミノシンナムアルデヒド、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン又は重クロム酸アンモニウムである請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
複数の微生物の存在を検出するための基体であって、少なくとも第1及び第2の指示薬区域を含み、
第1の指示薬が、第1の微生物によって生成された第1の揮発性化合物に接触すると検出可能な色変化を引き起こすのに有効な量で前記第1の指示薬区域内に含まれ、
第2の指示薬が、第2の微生物によって生成された第2の揮発性化合物に接触すると検出可能な色変化を引き起こすのに有効な量で前記第2の指示薬区域内に含まれている、
前記基体。
【請求項18】
前記第1及び第2の揮発性化合物が、メチル2−メチル−2−ブテノエート、インドール、2−アセチルチアゾール、イソアミルアルコール及び2,5−ジメチルピラジンから成る群から選択される請求項17に記載の基体。
【請求項19】
前記第1及び第2の指示薬が、過マンガン酸カリウム、ジメチルアミノシンナムアルデヒド、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン及び重クロム酸アンモニウムから成る群から選択される請求項17又は18に記載の基体。
【請求項20】
各指示薬が、基体の約0.001重量%から約10重量%の量で存在する請求項17〜19のいずれか1項に記載の基体。
【請求項21】
大表面積粒子を更に含む請求項17〜20のいずれか1項に記載の基体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−538179(P2008−538179A)
【公表日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504025(P2008−504025)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/002250
【国際公開番号】WO2006/107370
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【Fターム(参考)】