説明

微細凹凸格子のピッチ縮小方法及びそれにより得られた微細凹凸格子部材

【課題】今まで実現できなかった100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子をcm2オーダー以上の大面積で実現することができる微細凹凸格子のピッチ縮小方法及びそれにより得られた微細凹凸格子部材を提供すること。
【解決手段】被延伸部材2にスタンパ1の微細凹凸格子1a側を熱プレスなどの処理により押圧して、被延伸部材2に微細凹凸格子1aのパターンを転写する。スタンパ1を外すと、スタンパ1の微細凹凸格子1aが転写された微細凹凸格子2aを有する被延伸部材2が得られる。この被延伸部材2に対して幅方向を自由にした一軸延伸処理を施す。このようにして100nmレベル又はそれ以下のピッチを有する微細凹凸格子を有する微細凹凸格子部材を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細凹凸格子のピッチ縮小方法及びそれにより得られた微細凹凸格子部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のフォトリソグラフィー技術の発達により、非常に狭いピッチのパターンを形成することができるようになってきている。このように狭いピッチ、特に光の波長レベルのピッチのパターンを形成することができると、このような狭ピッチパターンを有する部材や製品は、半導体分野だけでなく、光学分野においても利用することができる。特に、光学分野においては、100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子を有する部材や製品は、利用範囲が広く、このような部材や製品に対する要求が高くなってきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子をcm2オーダー以上の大面積で実現することができないのが現状であった。
【0004】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、今まで実現できなかった100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子をcm2オーダー以上の大面積で実現することができる微細凹凸格子のピッチ縮小方法及びそれにより得られた微細凹凸格子部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の微細凹凸格子のピッチ縮小方法は、表面に0.01〜100μmピッチの微細凹凸格子を有する被延伸部材を、前記被延伸部材を構成する材料が軟化する温度まで加熱する工程と、前記凹凸格子の長手方向と略直交する方向の前記被延伸部材の幅を自由にした状態で前記長手方向に略平行な方向に前記被延伸部材を一軸延伸する工程と、前記材料が硬化する温度まで前記被延伸部材を冷却する工程と、を具備することを特徴とする。
【0006】
この方法によれば、表面に0.01〜100μmピッチの微細凹凸格子を有する被延伸部材に一軸延伸処理を施すことにより、被延伸部材の長さが長くなり、それに応じて幅方向が縮小する。これにより、今まで実現できなかった100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子をcm2オーダー以上の大面積で実現することができる。
【0007】
本発明の微細凹凸格子のピッチ縮小方法によれば、前記微細凹凸格子の延伸前後のピッチをそれぞれp0,p1とし、延伸前後の前記微細凹凸格子の高さをそれぞれh0,h1としたとき、縮小比率r(=(h1/h0)/(p1/p0))が0.3<r<1.5となるように一軸延伸を行うことが好ましい。
【0008】
また、本発明の微細凹凸格子のピッチ縮小方法によれば、前記被延伸部材が熱可塑性樹脂で構成されていることが好ましい。この熱可塑性樹脂は、一軸延伸の際のガラス転移点や転写の際の融点などを考慮して選定する。この場合、前記熱可塑性樹脂の貯蔵弾性率が10MPa〜2000MPaとなる温度範囲内で一軸延伸を行うことが好ましい。また、前記熱可塑性樹脂が非晶性樹脂であり、前記非晶性樹脂の示差熱分析計で測定したガラス転移温度Tgに対してTg−10℃〜Tg+20℃の温度範囲で一軸延伸を行うことが好ましい。また、本発明の微細凹凸格子のピッチ縮小方法によれば、前記微細凹凸格子表面に流体が存在する状態下で、前記被延伸部材を一軸延伸することが好ましい。
【0009】
本発明の微細凹凸格子のピッチ縮小方法は、表面に0.01μm〜100μmピッチの微細凹凸格子を有し、熱可塑性樹脂で構成された被延伸部材の微細凹凸格子の存在する側に流体を与える工程と、前記被延伸部材の前記微細凹凸格子の存在しない側を前記熱可塑性樹脂が軟化する温度まで加熱し、前記凹凸格子の長手方向と略平行な方向に前記延伸部分を一軸延伸する工程と、前記熱可塑性樹脂が硬化する温度まで前記延伸部分を冷却する工程と、を具備することを特徴とする。
【0010】
本発明の微細凹凸格子部材は、上記方法により製造されたことを特徴とする。
【0011】
本発明の金属部材の製造方法は、上記方法により微細凹凸格子を有する延伸部材を得る工程と、前記延伸部材の前記凹凸格子を有する側を導電化する工程と、導電化された面上に金属層を形成する工程と、前記延伸部材を除去して前記金属部材を得る工程と、を具備することを特徴とする。また、本発明の金属部材は、前記方法により製造されたことを特徴とする。また、本発明の転写部材は、前記方法により表面に微細凹凸格子を有する金属部材を得る工程と、前記金属部材を用いて被転写部材に前記微細凹凸格子を転写する工程と、により得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面に0.01〜100μmピッチの微細凹凸格子を有する被延伸部材に一軸延伸処理を施すので、被延伸部材の長さが長くなり、それに応じて幅方向が縮小する。これにより、今まで実現できなかった100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子をcm2オーダー以上の大面積で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
現在、狭ピッチのパターンを形成する技術として干渉露光法がある。この干渉露光法は、波長λnmのレーザ光源を用い、レジスト面の法線方向とのなす角θで2光束干渉露光を行った場合の干渉縞を用いてパターニングする技術である。この干渉縞のピッチpは、p=λ/2sinθで表される。したがって、原理上、波長の2分の1以下のピッチは作れないことになる。また、干渉露光に使用できるレーザはTEM00モードのレーザに限定される。TEM00モードのレーザ発振ができる紫外光レーザとしては、アルゴンレーザ、YAGレーザの4倍波などが挙げられる。例えば、波長266nmのレーザを用いて90°の角度で干渉縞を作ったとしてもピッチは133nmとなる。したがって、干渉露光で作製できる干渉縞はピッチ133nmのものが限界である。本発明者らは、この点に着目し、ピッチが100nmを超える被延伸部材を干渉露光で作製し、これを延伸することによりピッチを100nmにできることを見出し本発明をするに至った。
【0014】
すなわち、本発明の骨子は、表面に0.01μm〜100μmピッチの微細凹凸格子を有する被延伸部材を凹凸格子の長手方向と略平行な方向に一軸延伸することにより100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子をcm2オーダー以上の大面積で実現することである。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
本発明の微細凹凸格子のピッチ縮小方法においては、表面に0.01μm〜100μmピッチの微細凹凸格子を有する被延伸部材を、前記被延伸部材を構成する材料が軟化する温度まで加熱し、前記凹凸格子の長手方向と略直交する方向の前記被延伸部材の幅を自由にした状態で前記長手方向に略平行な方向に前記被延伸部材を一軸延伸し、延伸状態を保持したまま前記材料が硬化する温度まで前記被延伸部材を冷却する。
【0016】
被延伸部材が有する微細凹凸格子のピッチは、0.01μm〜100μmの範囲に設定するが、要求する微細凹凸格子のピッチや延伸倍率に応じて適宜変更することができる。すなわち、この範囲は本発明の目的や効果を逸脱しない範囲において変更可能である。
【0017】
被延伸部材とは、本発明の一軸延伸処理が施される部材をいい、板状体、フィルム状体、シート状体などを挙げることができる。この被延伸部材の厚さや大きさなどについては、一軸延伸処理が可能な範囲であれば特に制限はない。また、被延伸部材は、熱可塑性樹脂で構成されていることが好ましい。これにより一軸延伸処理を簡単に行うことができる。熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性樹脂や、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などの結晶性樹脂などを挙げることができる。また、上記樹脂を混合したものを用いることもできる。
【0018】
被延伸部材に微細凹凸格子を形成する方法としては、特定の波長のレーザ光を角度θの2つの方向から照射して形成される干渉縞を用いて露光を行う干渉露光法などを用いてパターン形成した金型(スタンパ)でパターンを転写する方法を用いることができる。転写方法としては、熱プレス法などを用いることができる。干渉露光に使用できるレーザとしては、TEM00モードのレーザを用いることができる。TEM00モードのレーザ発振できる紫外光レーザとしては、アルゴンレーザ(波長364nm,351nm,333nm)や、YAGレーザの4倍波(波長266nm)などが挙げられる。なお、干渉露光に用いるレーザ光の波長及び入射角は、形成する微細凹凸格子のピッチに応じて適宜設定する。
【0019】
本発明における一軸延伸処理は、被延伸部材に対して、被延伸部材の幅方向(微細凹凸格子の長手方向と直交する方向)は自由であり、被延伸部材の長手方向の一方向に延伸処理を行う方法である。この一軸延伸処理を行う装置としては、通常の一軸延伸処理を行う装置を用いることができる。この一軸延伸処理においては、被延伸部材を構成する材料、例えば熱可塑性樹脂が軟化する温度まで被延伸部材を加熱し、微細凹凸格子の長手方向と略平行な方向に被延伸部材を一軸延伸し、延伸状態を保持したまま材料が硬化する温度まで被延伸部材を冷却することにより行う。このような一軸延伸処理により、100nmピッチレベルの微細凹凸格子を実現することができる。また、加熱条件や冷却条件については被延伸部材を構成する材料に応じて適宜決定する。
【0020】
一軸延伸処理における延伸倍率は、微細凹凸格子の延伸前後のピッチをそれぞれp0,p1とし、延伸前後の微細凹凸格子の高さをそれぞれh0,h1としたとき(図1(c),(d)参照)、縮小比率r(=(h1/h0)/(p1/p0))が0.3<r<1.5となるように設定することが好ましく、0.8<r<1.1が特に好ましい。また、1.0以上の縮小比率rを得るためには、延伸方向と直角方向にあらかじめ延伸ひずみを持った被延伸部材を用いることが好ましい。これにより、微細凹凸格子の形状を良好に保ったまま一軸延伸を行うことができる。なお、被延伸部材の体積が一定で、延伸により幅方向、厚み方向が均等に縮小されると、延伸倍率x=(L1/L0)(L1:延伸後の長さ、L0:延伸前の長さ)と、延伸前後のピッチ(p0,p1)及び高さ(h0,h1)の間には、p1=p0/x1/2(式1)、h1=h0/x1/2(式2)のような関係がある。延伸倍率は、目的とするピッチに応じて適宜決定する。
【0021】
また、一軸延伸処理において、被延伸部材が熱可塑性樹脂で構成されている場合、硬化している熱可塑性樹脂が延伸できるほぼ限界の温度(できるだけ硬い状態)で一軸延伸を行うことが好ましい。すなわち、後述するような相対的に高い弾性率の領域(低温)で被延伸部材を延伸した場合には、上記式1、式2に近い結果(理論値)が得られるが、相対的に低い弾性率の領域で被延伸部材を延伸した場合には、p1は理論値に近い値になるが、h1は理論値よりも低い値になる。したがって、相対的に高い弾性率の領域(低温)で被延伸部材を延伸することが好ましい。この場合、樹脂の白化や破断を防止するために、比較的ゆっくりと時間をかけて延伸を行うことが好ましい。例えば、ひずみ速度としては、0.5%/秒〜5%/秒であることが好ましく、0.5%/秒〜2%/秒であることが特に好ましい。これにより、微細凹凸格子の形状を良好に保ったまま一軸延伸を行うことができる。熱可塑性樹脂の貯蔵弾性率Eが10MPa〜2000MPaとなる温度範囲内で一軸延伸処理を行うことが好ましい。動的粘弾性測定を行うと、貯蔵弾性率と損失弾性率の値が得られる。本明細書における貯蔵弾性率は動的粘弾性測定において得られる貯蔵弾性率をいう。
【0022】
また、被延伸部材が熱可塑性樹脂で構成されている場合において、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂であるとき、非晶性樹脂のガラス転移温度Tgに対してTg−10℃〜Tg+20℃の温度範囲で一軸延伸を行うことが好ましく、Tg+3℃〜Tg+8℃の温度範囲で一軸延伸を行うことが特に好ましい。本発明におけるガラス転移温度は、熱可塑性樹脂に対する示差熱走査型熱量計(DSC)の測定において、20℃/分で昇温するときに得られる温度−熱流量グラフのオンセット温度で、オンセット温度が複数ある場合にはその内の最高の温度とする。非晶性樹脂においては、図3に示すような弾性率と温度の関係を示し、弾性率が急激に変化する温度域Rが存在する。この温度域Rは、選択した非晶性樹脂により異なるが、上記DSC測定により得られたTg−10℃〜Tg+20℃の範囲内に存在する。したがって、樹脂の白化や破断などを考慮して、温度の上昇と共に弾性率が急激に低下する範囲である、Tg−10℃〜Tg+20℃の温度範囲Rにおいて一軸延伸を行うと、微細凹凸格子の形状を良好に保ったまま一軸延伸を行うことができる。
【0023】
また、一軸延伸処理においては、被延伸部材が熱可塑性樹脂で構成されている場合において、微細凹凸格子表面に流体が存在する状態下で、すなわち微細凹凸格子が流体で濡れた状態下で、被延伸部材を一軸延伸することが好ましい。この流体としては、被延伸部材を構成する材料とぬれ性が高く、被延伸部材を溶解せず、大きく膨潤させず、延伸温度において揮発性が低い流体であることが好ましい。このような流体の存在下では、微細凹凸格子の凹部に流体が流れ込んで延伸が行われるので、凸部同士の接触を流体が防止された状態で延伸が行われる。これにより、微細凹凸格子の形状を良好に保ったまま一軸延伸を行うことができる。このような流体としては、上記条件を満たすシリコーンオイルやシリコーン系界面活性剤などの粘性液体などを用いることができる。特に、水溶性のシリコーン系界面活性剤は、水洗により容易に除去できることから、洗浄の簡略化の点で好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂と親和性のある(ぬれ性のある)流体の存在下で、被延伸部材を一軸延伸する場合、流体内で被延伸部材を一軸延伸処理を行っても良く、被延伸部材の微細凹凸格子の存在する側に流体を塗布し、温度調節されたオーブン内で一軸延伸処理を行っても良い。あるいは、被延伸部材に流体を与え、その被延伸部材を、延伸部分のみを加熱しながら被延伸部材に対して一軸延伸処理を行っても良い。この場合には、例えば、熱可塑性樹脂で構成された被延伸部材の微細凹凸格子の存在する側に流体を塗布し、この被延伸部材の微細凹凸格子の存在しない側を加熱し、微細凹凸格子の長手方向と略平行な方向に一軸延伸する。なお、これらの場合においては、流体の温度、オーブンの温度などを一軸延伸処理の加熱温度に設定する。
【0025】
一軸延伸する被延伸部材の形状は、延伸方向と略直交する方向の幅Wを一定とした場合、延伸方向の長さLが長い方が、延伸時に幅W方向の縮小を妨げることが少ないので好ましい。延伸前の被延伸部材の幅Wと長さLの比W/Lは、大きくとも1以下が好ましく、0.8以下が特に好ましい。
【0026】
次に、本発明の微細凹凸格子のピッチ縮小方法を用いて、微細凹凸格子を有する微細凹凸格子部材、金属部材及びこの金属部材を用いて微細凹凸格子が転写された転写部材を製造する方法について説明する。
【0027】
図1(a)〜(f)は、本発明の一実施の形態に係る微細凹凸格子のピッチ縮小方法を用いて、微細凹凸格子を有する微細凹凸格子部材及び金属部材を製造する断面図である。
【0028】
まず、図1(a)に示す表面に0.01〜100μmピッチの微細凹凸格子1aを有する金型(スタンパ)1を準備する。このスタンパ1は、ガラス基板上にレジスト材料をスピンコートにより塗布してレジスト層を形成し、そのレジスト層に対して干渉露光法を用いて露光を行い、レジスト層を現像する。これにより0.01〜100μmピッチの微細凹凸格子を有するレジスト層が得られる。次いで、レジスト層上にニッケルをスパッタリングしてレジスト層を導電化する。次いで、スッパタリングしたニッケル上にニッケルの電気メッキを行ってニッケル板を形成する。その後、ニッケル板をガラス板から剥離し、ニッケル板からレジスト層を除去することにより、表面に0.01〜100μmピッチの微細凹凸格子を有するスタンパ1を作製することができる。
【0029】
スタンパ1は、そのまま次の熱プレスなどに供することができるが、レジスト層上に形成した微細凹凸格子の断面形状に、熱プレスなどのパターン転写後の離型時にアンダーカットとなり得る部分が含まれて離型が難しくなる場合は、一旦、熱可塑性樹脂や紫外線硬化樹脂からなる転写部材に形状を反転して転写し、この転写部材を用いて、導電化処理、電気メッキによりスタンパ1を製作する。このようにすることで、転写部材の離型時に、アンダーカット部分の転写部材が適当に変形して、アンダーカット部分がなくなるもしくは減少するために、離型性を向上させることができる。なお、スタンパ1の作製方法としては、上記方法に限定されず、他の方法を用いても良い。
【0030】
次いで、図1(a)に示すように、被延伸部材2にスタンパ1の微細凹凸格子1a側を熱プレスなどの処理により押圧して、図1(b)に示すように、被延伸部材2に微細凹凸格子1aのパターンを転写する。なお、被延伸部材2は、構成材料が熱可塑性樹脂である場合には、射出成形や押出成形などにより作製することができる。そして、スタンパ1を外すと、図1(c)に示すように、スタンパ1の微細凹凸格子1aが転写された微細凹凸格子2aを有する被延伸部材2が得られる。
【0031】
次いで、図1(d)に示すように、この被延伸部材2に対して幅方向を自由にした一軸延伸処理を施す。すなわち、図2(a)に示す被延伸部材2を矢印方向(微細凹凸格子2aの長手方向に略平行な方向)に一軸延伸する。このとき、被延伸部材2を構成する材料が軟化する温度まで加熱し、微細凹凸格子1aの長手方向と略平行な方向に被延伸部材2を一軸延伸し、延伸状態を保持したまま前記材料が硬化する温度まで被延伸部材2を冷却する。なお、これらの加熱温度や冷却温度は、被延伸部材2を構成する材料により適宜設定する。
【0032】
この一軸延伸処理により、被延伸部材2は、矢印方向に長さが長くなり、それに応じて幅方向が縮小する。これにより、図2(b)に示すように、100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子2a’を有する延伸部材(延伸済み部材)2’が得られる。なお、延伸倍率については、準備する被延伸部材の微細凹凸格子のピッチと必要とする延伸部材の微細凹凸格子のピッチに基づいて適宜設定する。例えば、延伸倍率が6倍でピッチが約2.5分の1に縮小する。例えば、微細凹凸格子1aのピッチ(p0)が250nmであると、6倍延伸することにより、微細凹凸格子2a’のピッチ(p1)は、p1=p0/61/2=250/2.449≒100となる。このようにして今まで実現できなかった100nmレベル又はそれ以下のピッチを有する微細凹凸格子を有する微細凹凸格子部材を製造することができる。このような微細凹凸格子部材は、液晶表示装置に使用する配向膜、(構造複屈折型)位相差板などに適用することができる。
【0033】
次いで、この延伸部材2’を用いて金属部材3を得る。この場合、まず、延伸部材2’の微細凹凸格子2a’を有する側を導電化する。例えば、蒸着法、スパッタリング法、無電解メッキ法などにより延伸部材2’上に金属膜を形成することにより延伸部材2’の微細凹凸格子2a’を有する側を導電化する。その後、導電化された面上に金属層を形成する。金属層を形成する方法としては、電気メッキ法などの方法を挙げることができる。金属層の厚さは、特に制限はなく、金属部材3の用途に応じて適宜設定される。これにより、図1(e)に示すように、延伸部材2’上に金属部材3が形成される。
【0034】
次いで、金属部材3から延伸部材2’を除去することにより、図1(f)に示すように、100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子3aを有する金属部材3を得ることができる。金属部材3から延伸部材2’を除去する場合においては、金属部材3を延伸部材2’から剥離する方法や、延伸部材2’を構成する材料が可溶である溶剤を用いて、延伸部材2’を溶解して金属部材3を残存させる方法などを用いることができる。
【0035】
このようにして得られた金属部材3は、100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子3aを有するので、これをマスター型として使用することにより、100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子3aを有する部材や製品を簡単に製造することができる。すなわち、この金属部材3で構成されたマスター型を被転写部材に押圧する、あるいは紫外線硬化型樹脂をマスター型に塗布した後、紫外線を照射して硬化させて離型する、あるいは熱硬化型樹脂をマスター型に塗布した後、加熱硬化させて離型することにより、微細凹凸格子を転写することができる。これにより、100nmレベル又はそれ以下のピッチの微細凹凸格子3aを有する部材や製品を得ることができる。
【0036】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
(実施例1)
ピッチ(p0)が250nmであり、微細凹凸格子の高さ(h0)が200nmである微細凹凸格子を表面に有するニッケルスタンパを準備した。この微細凹凸格子は、周期的サイン波の縞状格子形状であった。このニッケルスタンパを用いて、熱プレス法により厚さ500μmのポリスチレン樹脂板に表面形状を転写した。このポリスチレン樹脂のガラス転移温度(Tg)は94℃であった。また、ポリスチレン樹脂の100℃における貯蔵弾性率Eは1120MPaであった。
【0037】
具体的に、熱プレスは次のように行った。まず、プレス機の系内を真空排気し、ニッケルスタンパ及びポリスチレン樹脂板を190℃まで加熱した。ニッケルスタンパ及びポリスチレン樹脂板が190℃に達した後、プレス圧20kg/cm2、プレス時間4分でニッケルスタンパの微細凹凸格子をポリスチレン樹脂板に転写した。さらに、プレス圧を20kg/cm2に保持したままニッケルスタンパ及びポリスチレン樹脂板を40℃まで冷却した後、真空開放し、続けてプレス圧を開放した。このとき、ニッケルスタンパとポリスチレン樹脂板は、プレス圧を開放したときに容易に離型した。プレス後のポリスチレン樹脂板の厚さは約350μmであった。また、電界放出型走査型電子顕微鏡で、ポリスチレン樹脂板の表面形状を観察したところ、ニッケルスタンパに形成された周期的サイン波の縞状格子形状が忠実に転写されたことが確認された。
【0038】
次いで、この周期的サイン波の縞状格子形状が転写されたポリスチレン樹脂板をカッターナイフで30mm×25mmの長方形に切り出し、延伸用サンプルとした。このとき、30mm×25mmの長手方向と縞状格子の長手方向とが互いに略平行になるように切り出した。
【0039】
次いで、延伸用サンプルの長手方向の両端5mmを延伸機のチャックで固定し、その状態で100℃に温度調節されたシリコーンオイルバスに延伸用サンプルを3分間浸漬した。その後、2.5cm/分の速度(初期ひずみ速度125%/分)で4分間延伸したところで延伸を終え、15秒後に延伸用サンプルをシリコーンオイルバスから取り出した。これにより、延伸用サンプルは、幅方向が自由で一軸方向に6倍延伸されていることになる。シリコーンオイルバスから取り出した延伸用サンプルを、延伸状態を保持したまま室温のシリコーンオイルに浸漬して、ポリスチレン樹脂が硬化する温度まで速やかに冷却した。延伸を終えた延伸用サンプルは、中央部に近づくほどくびれており、最も幅が縮小されている部分は10mmになっていた。幅が10mmになっている領域は全体の40%程度であった。
【0040】
この延伸を終えた延伸用サンプルの表面を電界放出型走査型電子顕微鏡にて観察したところ、ピッチ(p1)が100nmであり、周期的サイン波の縞状格子形状の高さ(h1)が74nmであり、周期的サイン波の縞状格子形状は維持されていた。幅・高さ縮小比率r(=(h1/h0)/(p1/p0))は、(74/200)/(100/250)=0.925であり、ポリスチレン樹脂表面の周期的サイン波の縞状格子の凹凸形状は実質的に延伸前の形状と相似で縮小されていたことが分かった。すなわち、100nmレベルのピッチの微細凹凸格子を実現することができた。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同様にしてニッケルスタンパを用いて周期的サイン波の縞状格子形状をプレス転写して、ピッチ(p0)が250nmであり、縞状格子の高さ(h0)が200nmである周期的サイン波の縞状格子形状を有する厚さ約350μmのポリスチレン樹脂板を作製した。このポリスチレン樹脂板をカッターナイフで30mm×20mmの長方形に切り出し、延伸用サンプルとした。このとき、30mm×20mmの長手方向と縞状格子の長手方向とが互いに略平行になるように切り出した。
【0042】
この延伸用サンプルの周期的サイン波縞状格子形状が転写された面にシリコーンオイルを塗布し、次いで、延伸用サンプルの長手方向の両端5mmを延伸機のチャックで固定した状態で、100℃に温度調節されたSUS304の円筒形容器を周期的サイン波縞状格子形状の転写されていない側の面に3分間押し当てた。その後SUS304の円筒形容器を押し当てたまま2.5cm/分(初期ひずみ速度125%/分)の速度で延伸用サンプルを4分間延伸したところで延伸を終え、さらにSUS304表面をサンプルに押し当てた状態で15秒間保持し、その後サンプル表面からSUS容器を外した。これにより、延伸用サンプルは、幅方向が自由で一軸方向に6倍延伸されていることになる。表面からSUS容器を取り外された延伸用サンプルは、延伸状態を保持したまま室温のシリコーンオイルに浸漬して、ポリスチレン樹脂が硬化する温度まで速やかに冷却した。延伸を終えた延伸用サンプルは、中央部に近づくほどくびれており、最も幅が縮小されている部分は10mmになっていた。
【0043】
この延伸を終えた延伸用サンプルの表面を電界放出型走査型電子顕微鏡にて観察したところ、ピッチ(p1)が100nmであり、周期的サイン波の縞状格子形状の高さ(h1)が75nmであり、周期的サイン波の縞状格子形状は維持されていた。幅・高さ縮小比率r(=(h1/h0)/(p1/p0))は、(75/200)/(100/250)=0.940であり、ポリスチレン樹脂表面の周期的サイン波の縞状格子の凹凸形状は実質的に延伸前の形状と相似で縮小されていたことが分かった。すなわち、100nmレベルのピッチの微細凹凸格子を実現することができた。
【0044】
(実施例3)
実施例1と同様にしてニッケルスタンパを用いて周期的サイン波の縞状格子形状をプレス転写して、ピッチ(p0)が230nmであり、縞状格子の高さ(h0)が250nmである周期的サイン波の縞状格子形状を有する厚さ約400μmのポリスチレン樹脂板を作製した。このポリスチレン樹脂板をカッターナイフで200mm×320mmの長方形に切り出し、延伸用サンプルとした。このとき、200mm×320mmの長手方向と縞状格子の長手方向とが互いに略平行になるように切り出した。
【0045】
この延伸用サンプルの周期的サイン波縞状格子形状が転写された面に、全面がほぼ均一にぬれる程度にシリコーン系界面活性剤(GE東芝シリコーン製TSF4452)を薄くスプレー塗布し、次いで、延伸用サンプルの長手方向における両端10mmを延伸機のチャックで固定し、その状態で延伸機を100±1℃に温度調節された熱風炉に入れた。その後、10分間放置した後、3mm/秒(初期ひずみ速度1%/秒)の速度で延伸用サンプルを4倍延伸したところで延伸を終え、延伸終了後、延伸機のチャック間距離を保ったまま20秒で、延伸用サンプルを室温下の環境に取り出し冷却した。延伸を終えた延伸用サンプルは、中央部の約1/3でほぼ幅が均一にくびれており、幅は100mmになっていた。
【0046】
この延伸を終えた延伸用サンプルの表面を電界放出型走査型電子顕微鏡にて観察したところ、ピッチ(p1)が115nmであり、周期的サイン波の縞状格子形状の高さ(h1)が120nmであり、周期的サイン波の縞状格子形状は維持されていた。幅・高さ縮小比率r(=(h1/h0)/(p1/p0))は、(120/250)/(115/230)=0.960であり、ポリスチレン樹脂表面の周期的サイン波の縞状格子の凹凸形状は実質的に延伸前の形状と相似で縮小されていたことが分かった。すなわち、100nmレベルのピッチの微細凹凸格子を実現することができた。
【0047】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態における寸法、材質などは例示的なものであり、適宜変更して実施することが可能である。その他、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)〜(f)は、本発明の一実施の形態に係る微細凹凸格子のピッチ縮小方法を用いて、微細凹凸格子を有する微細凹凸格子部材及び金属部材を製造する断面図である。
【図2】(a),(b)は、本発明の一実施の形態に係る微細凹凸格子のピッチ縮小方法における一軸延伸を説明するための図である。
【図3】熱可塑性樹脂における弾性率と温度との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0049】
1 スタンパ
1a,2a,2a’,3a 微細凹凸格子
2 被延伸部材
2’ 延伸部材
3 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に0.01μm〜100μmピッチの微細凹凸格子を有する被延伸部材を、前記被延伸部材を構成する材料が軟化する温度まで加熱する工程と、前記凹凸格子の長手方向と略直交する方向の前記被延伸部材の幅を自由にした状態で前記長手方向と略平行な方向に前記被延伸部材を一軸延伸する工程と、前記材料が硬化する温度まで前記被延伸部材を冷却する工程と、を具備することを特徴とする微細凹凸格子のピッチ縮小方法。
【請求項2】
前記微細凹凸格子の延伸前後のピッチをそれぞれp0,p1とし、延伸前後の前記微細凹凸格子の高さをそれぞれh0,h1としたとき、縮小比率r(=(h1/h0)/(p1/p0))が0.3<r<1.5となるように一軸延伸を行うことを特徴とする請求項1記載の微細凹凸格子のピッチ縮小方法。
【請求項3】
前記被延伸部材が熱可塑性樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の微細凹凸格子のピッチ縮小方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂の貯蔵弾性率が10MPa〜2000MPaとなる温度範囲内で一軸延伸を行うことを特徴とする請求項3記載の微細凹凸格子のピッチ縮小方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が非晶性樹脂であり、前記非晶性樹脂の示差熱分析計で測定したガラス転移温度Tgに対してTg−10℃〜Tg+20℃の温度範囲で一軸延伸を行うことを特徴とする請求項3又は請求項4記載の微細凹凸格子のピッチ縮小方法。
【請求項6】
前記微細凹凸格子表面に流体が存在する状態下で、前記被延伸部材を一軸延伸することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の微細凹凸格子のピッチ縮小方法。
【請求項7】
表面に0.01μm〜100μmピッチの微細凹凸格子を有し、熱可塑性樹脂で構成された被延伸部材の微細凹凸格子の存在する側に流体を与える工程と、前記被延伸部材の前記微細凹凸格子の存在しない側を前記熱可塑性樹脂が軟化する温度まで加熱し、前記凹凸格子の長手方向と略平行な方向に前記延伸部分を一軸延伸する工程と、前記熱可塑性樹脂が硬化する温度まで前記延伸部分を冷却する工程と、を具備することを特徴とする微細凹凸格子のピッチ縮小方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする表面に微細凹凸格子を有する微細凹凸格子部材。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の方法により微細凹凸格子を有する延伸部材を得る工程と、前記延伸部材の前記凹凸格子を有する側を導電化する工程と、導電化された面上に金属層を形成する工程と、前記延伸部材を除去して前記金属部材を得る工程と、を具備することを特徴とする微細凹凸格子を有する金属部材の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法により製造されたことを特徴とする表面に微細凹凸格子を有する金属部材。
【請求項11】
請求項9記載の方法により表面に微細凹凸格子を有する金属部材を得る工程と、前記金属部材を用いて被転写部材に前記微細凹凸格子を転写する工程と、により得られたことを特徴とする微細凹凸格子を有する転写部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−224659(P2006−224659A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2100(P2006−2100)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】