説明

微細凹凸表面を有する表面加工基板の製造方法

【課題】大面積の樹脂フィルムに対しても適用可能な、表面に規則正しい微細な凹凸を有する表面加工基板の製造方法を提供する。更に、当該表面加工基板を有する太陽電池基板および発光デバイス部材を提供する。
【解決手段】微細凹凸表面を有する表面加工基板の製造方法は、樹脂フィルム2の表面に微粒子分散液を塗布する工程;塗布した微粒子分散液を乾燥することによって、微粒子堆積層を形成する工程;微粒子堆積層の一部または全部を樹脂フィルムへ機械的に埋め込む工程;微粒子堆積層を除去することにより樹脂フィルム表面に多孔質層4を形成する工程;および、多孔質層を除去することにより樹脂フィルム表面に微細な凹凸形状5を形成する工程;を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な凹凸表面を有する表面加工基板を製造する方法、および当該方法で製造された表面加工基板からなる太陽電池基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、製造コストの低減などにより太陽光発電の普及を図るべく、薄膜太陽電池の開発が活発に行われている。この薄膜太陽電池のエネルギー変換効率を向上するために太陽光を効率的に利用すべく基板表面に微細な凹凸を形成して太陽光を発電素子内部で繰り返し反射させることが行われている。また、液晶ディスプレイなどの表示装置は反射光を拡散するための防眩層を有する。この防眩層は、通常、微細な凹凸表面を有する樹脂フィルムで構成されている。さらに製品の意匠性向上のため表面に微細な凹凸を形成する艶消し塗料もある。その他、微細な凹凸表面を有する樹脂フィルムは、細胞の培養ディッシュなどバイオ分野での利用も考えられる。よって、樹脂フィルムなどの表面に微細な凹凸を形成する技術がこれまでにも種々検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、樹脂溶液を支持基板上に塗布した上で乾燥させて微粒子の捕捉層を形成し、その上に微粒子分散液を塗布乾燥して微粒子堆積層を形成した後に捕捉層を溶融することにより微粒子堆積層を埋め込み、微細な凹凸パターンを形成する方法が開示されている。この際、捕捉層の厚さを微粒子の平均粒子径以下とすることにより最下層の微粒子のみが薄膜中に埋め込まれ、この微粒子を除去すれば基板上に微細な凹凸が形成されるとされている。当該方法において微粒子として球状で真円度が高く粒子径分布の狭いものを用いれば、微粒子を高い充填密度で配列させることができるとの記載もある。
【0004】
しかし特許文献1によれば、使用する微粒子の粒子径は3nm〜5μmとされており、捕捉層の膜厚はこれ以下である。この様に数μm以下という極めて薄い捕捉層を大面積で且つ均一厚で形成することは非常に困難であり、コストが極めて高くなってしまう。また、その様な薄膜を工業的に連続製造するのは技術的に難しい。さらに、特許文献1の技術では樹脂を溶融させて樹脂堆積層を埋め込んでいるが、このような方法では均一で微細な凹凸表面を形成するのは技術的に難しい場合がある。その理由は以下の通りである。
【0005】
樹脂を溶融する場合、特許文献1では微粒子が埋め込まれる深さは粒子径よりも浅くなるとされている。しかし溶融した樹脂は表面張力により微粒子堆積層内部まで吸い上げられ、微粒子の大きさ等に応じて微粒子上に這い上がる溶融樹脂の量や高さが異なってしまう可能性がある。よって、特許文献1の実施例の通り微粒子の埋め込み深さを粒子半径よりも浅くするには、微粒子の粒子径を極めて均一に制御し且つ捕捉層として塗布する樹脂の量も厳密に調整しなければならない。さもなければ樹脂の厚みムラや異常突起が生じ、歩留が悪くなるおそれがあり得る。
【0006】
特許文献2には、微細な凹凸が規則正しく配列している太陽電池用基板として、微粒子を分散させたポリイミド溶液と単なるポリイミド溶液を二層ダイへ供給し、微粒子を分散させたポリイミド溶液側が平滑な支持体に接触するようにして二層フィルムを製造する方法が開示されている。
【0007】
しかし特許文献2の方法では、いかに平滑な支持体を用いてもフィルム表面に微粒子が不安定に露出する可能性が大きく、これが擦過等により脱落することにより異常欠陥が発生し得る。また当該方法では、ポリイミド溶液中における微粒子の濃度を高めるとフィルムが脆化して強度が低下してしまう。
【0008】
特許文献3には、基材上に液状塗料を塗布し、液状塗料が未硬化の間に粒子を付着または埋没させ、塗料を硬化した後に粒子を除去することにより塗膜面を粗状にする方法が記載されている。当該方法では粒子を除去していることから、特許文献2の技術のように後から粒子が脱落することはない。しかし、未硬化の塗膜へ粒子を規則性高く付着等させるのは極めて困難であり、例えば粒子が最密充填的に規則正しく配列した層の凹凸を転写することは実質的に不可能である。
【0009】
特許文献4には、有機樹脂材料および当該材料と非相溶性の材料を混合して塗工液とし、当該塗工液を塗布して硬化させた後に非相溶性材料を除去することにより塗膜表面に凹凸を形成する方法が開示されている。しかし、これら有機樹脂材料と非相溶性材料との組み合わせとしてはウレタンアクリル系の紫外線硬化型樹脂とアルキル(メタ)クリレート等が挙げられているが、特に非相溶性材料の選択の幅は極めて狭いという問題がある。
【特許文献1】特開2005−230947号公報
【特許文献2】特開2001−119050号公報
【特許文献3】特開2001−191021号公報
【特許文献4】特開2006−116533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、樹脂フィルム等の表面に凹凸を形成する方法としては様々なものが知られていた。しかし、大面積の樹脂フィルム等へ規則正しい微細な凹凸を形成できる技術はなかった。
【0011】
そこで本発明が解決すべき課題は、大面積の樹脂フィルムに対しても適用可能な、表面に規則正しい微細な凹凸を有する表面加工基板の製造方法を提供することにある。また本発明は、当該表面加工基板からなる太陽電池基板を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた。その結果、対象となる樹脂フィルム上に微粒子を自己組織化させて最密充填的に規則正しく配列した堆積層を形成させ、その最下層形状を樹脂フィルム表面へ機械的に転写すれば規則正しい微細な凹凸表面を有する加工基板が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0013】
本発明に係る微細凹凸表面を有する表面加工基板の製造方法は、樹脂フィルムの表面に、微粒子分散液を塗布する工程;塗布した微粒子分散液を乾燥することにより微粒子堆積層を形成する工程;微粒子堆積層の一部または全部を、樹脂フィルムへ機械的に埋め込む工程;および、微粒子堆積層を除去することにより樹脂フィルム表面に微細な凹凸形状を形成する工程;を含むことを特徴とする。
【0014】
上記方法においては、微粒子堆積層の一部または全部の樹脂フィルムへの埋め込みを熱プレスにより行うことが好ましい。樹脂フィルム表面を軟化させつつ圧力をかけて微粒子堆積層を埋め込むことにより、微粒子堆積層の凹凸を樹脂フィルム表面へより正確に転写できるからである。また、微粒子堆積層の除去は微粒子を溶解することにより行うことが好ましい。微粒子の除去をより確実且つ容易に行うことができるからである。
【0015】
本発明の太陽電池基板は、上記方法で製造された表面加工基板からなることを特徴とする。本発明に係る表面加工基板は規則正しい微細な凹凸が形成された表面を有するため、本発明の太陽電池基板はかかる表面形状に応じた特性を有する。
【0016】
本発明の発光デバイス部材は、上記方法で製造された表面加工基板を有することを特徴とする。当該発光デバイス部材は、同様に本発明の表面加工基板の特性に応じた効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明方法によれば、大きな窪みや突起などが抑制されている規則正しい微細凸凹形状を、大面積の樹脂フィルムや連続的に製造された長尺の樹脂フィルムなどの表面に精度良く形成することができる。よって本発明は、太陽電池基板などの基板やディスプレイの防眩層、さらには細胞培養用ディシュなどに応用できる微細な凹凸表面を有する表面加工基板を製造できるものとして産業上非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る微細凹凸表面を有する表面加工基板の製造方法は、樹脂フィルムの表面に、微粒子分散液を塗布する工程;塗布した微粒子分散液を乾燥することにより微粒子堆積層を形成する工程;微粒子堆積層の一部または全部を、樹脂フィルムへ機械的に埋め込む工程;および、微粒子堆積層を除去することにより樹脂フィルム表面に微細な凹凸形状を形成する工程;を含むことを特徴とする。以下、実施の順番に従って図面を参照しつつ本発明を説明する。
【0019】
(1) 微粒子分散液の塗布工程
本発明では、先ず、樹脂フィルムの表面に微粒子分散液を塗布する。
【0020】
本発明で用いる樹脂フィルムを構成する材料としては特に制限はなく、例えばポリエステル系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、アクリル系ポリマー、オレフィン系ポリマー、アミド系ポリマー、スチレン系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、およびこれら2種以上のブレンド物等を挙げることができる。但し、後の工程において溶解により微粒子を除去する場合、微粒子の溶解に使用する溶剤等に侵食されないものを選択する必要がある。例えば、シリカ微粒子を溶解により除去する場合にはフッ化水素酸など活性の高い酸性溶剤を使用するため、液晶ポリマーなど耐薬剤性の高い樹脂を選択する必要がある。なお、液晶ポリマーは熱線膨張係数が制御可能である点からも好適である。また、本発明の表面加工基板を太陽電池基板として用いる場合など光を透過させる必要がある場合には、透明な材料を用いる。
【0021】
樹脂フィルムを構成する材料としては熱可塑性のものが好ましい。後の工程で微粒子堆積層を機械的に埋め込む際に、適度に加熱することで表面を軟化させることにより容易に埋め込むことができるからである。但し、熱硬化性樹脂を用いる場合であれば、Bステージと呼ばれる半硬化状態のままの樹脂フィルムを用い、以下の工程を実施して表面に微細な凹凸形状を転写した後に硬化させればよい。
【0022】
樹脂フィルムの厚さは特に限定されないが、少なくとも後の工程で堆積層を埋め込むに十分な厚さは必要であり、また、作業性を阻害しない程度の強度が残るだけの厚みがあれば好ましい。さらに、樹脂フィルム厚の決定には将来的な用途も考慮すべきである。例えば本発明の表面加工基板をプリント配線基板として使用する場合には、電気的特性を考慮して、絶縁破壊電圧の値やJIS C2318で規定される体積抵抗率から適宜に決定すればよい。ガス透過性が問題となり得るのであれば、JIS K7126Bで規定される酸素透過量やJIS K7129Bで規定される水蒸気透過量などから用途に応じて適宜決定し得る。樹脂材料の透光性が必要な場合には、材料の光透過特性を考慮した上で適宜に決定し得る。一般的には強度や取扱性の作業性を考慮すれば、10〜500μm程度である。さらに20〜300μmが好ましく、30〜200μmがより好ましい。
【0023】
本発明で用いる樹脂フィルムは市販のものがあればそれを使用すればよく、また、常法により調製してもよい。調製方法は、将来的な用途などにより適宜選択することができる。例えば、本発明方法により製造される表面加工基板をスパッタリング装置やCVD装置など高真空を必要とする装置内で使用する可能性がある場合には、樹脂フィルム中に溶剤が残留しないように溶融押出成形などにより熱可塑性樹脂フィルムを調製すればよい。
【0024】
樹脂フィルムとしては補強材により補強されているものを用いてもよい。補強材としては特に制限はなく、透明性が必要な場合には、透明ポリイミドやフッ素樹脂など表面加工用の樹脂材料より耐クリープ性等の耐熱性が高い樹脂や、ガラスなどを用いることができる。またシリコンウェハ等の半導体材料、鉄、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、ステンレス鋼、もしくは軽量性の面から炭素繊維からなるCFRPやガラス繊維からなるFRP等などの繊維複合材料なども用いることができる。中でも、耐食性などの観点からチタンやステンレス鋼が好ましく、コストの面からはステンレス鋼が特に好ましい。例えば、ここでのステンレス鋼とは通常の炭素鋼に比較して耐蝕性の優れた特殊鋼をいい、一般的にはCr含有率が約12%以上のクロム鋼主体とし、これにNi、Mo、Ti、Nbなどを含ませたものである。含有率の違いによりマルテンサイト型、フェライト型、オーステナイト型などに分類でき、SUS304、SUS306またはSUS430等が挙げられる。
【0025】
なお、本発明で使用する樹脂フィルムは平面状のものが好適であるが、微粒子堆積層の形成や埋め込んだ微粒子堆積層の除去を実施できるのであればチューブなど曲面状のものであってもよい。
【0026】
本発明の表面加工基板をデバイスの構成材料として使用する際に熱履歴を受ける場合には、層間剥離や反りを防止するために、樹脂フィルムと補強材の材料として両者の熱線膨張係数が近いものを選択することが好ましい。かかる観点からは、樹脂フィルムと補強材の材料を同一のものとしてもよい。或いは、補強材としてステンレス板などを用いて樹脂フィルムの表面を加工した後に、当該樹脂フィルムを補強材から剥離して用いてもよい。
【0027】
本発明方法で用いる微粒子の種類は特に制限されず、例えば金属微粒子や金属酸化微粒子等の無機微粒子;または樹脂微粒子を用いることができる。特にコストや耐熱性の面からコロイダルシリカ微粒子が好適である。微粒子は単一物である必要はなく、2種類以上の混合物であってもよい。
【0028】
本発明における微粒子の役割は、緻密な堆積層を形成し、その最下層における形状を樹脂フィルムに転写することにある。よって、微細な凹凸形状を表面に有する表面加工基板を製造するために、微粒子の50%累積径を0.01〜10μmの範囲とすることが好ましく、0.1〜1μmの範囲がより好ましい。また、堆積層における微粒子の充填度を高めるために微粒子の形状はできる限り球状であることが好ましく、また、その粒度分布範囲はできる限り狭いことが好ましい。なお50%累積径とは、粒度分布計により粒度分布を測定した場合に累積体積が粒子の小さい方から50%である場合の粒子径をいう。50%累積径は使用する微粒子のカタログ値を参照すればよく、或いは常法により測定してもよい。
【0029】
場合によっては、ゾルゲル法やメッキ法、粒子を高剪断力下で樹脂と混練して表面に樹脂をコーティングするメカノケミカル法などの方法により粒子径を増大させてもよい。また、主な粒子径の微粒子が形成する多層構造を妨げないくらいの微細な微粒子を混合してもよい。
【0030】
微粒子分散液の溶媒は特に制限されず、水系のものも有機溶剤系のものも用いることができるが、樹脂フィルムや微粒子を溶解してしまうようなものの使用は避けなければならない。また、樹脂フィルムとの濡れ性や微粒子の分散性を高めるために界面活性剤を使用してもよい。但し、樹脂の加工温度が界面活性剤の熱分解温度以上である場合には、微粒子堆積層の形成後に化学的または熱分解などの処理によって、予め界面活性剤を除去しておくことが好ましい。
【0031】
微粒子分散液における微粒子の濃度は特に制限されないが、濃度が低過ぎると乾燥に時間がかかる場合があり、また、規則性の高い微粒子堆積層を形成できないおそれがある。一方、当該濃度が高過ぎると分散液の分散状態を保てなくなる可能性がある。よって、通常は10〜40wt%程度にする。
【0032】
樹脂フィルムの表面に微粒子分散液を塗布する手段としては常法を用いればよい。例えば、スプレー法、ディッピング法、スピンコーティング法、ロールコート法、グラビアコーティング法、バーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法などが利用できる。
【0033】
(2) 微粒子堆積層の形成工程
次に、樹脂フィルムの表面に塗布した微粒子分散液を乾燥することにより微粒子堆積層を形成する(図1を参照)。詳しくは、乾燥により微粒子分散液に含まれる溶媒は徐々に留去する。それに連れて微粒子は集積し、いわゆる自己組織化膜を形成する。かかる自己組織化膜では微粒子が最密充填的に堆積していることから、微粒子の配列は非常に規則的である。
【0034】
その他、微粒子分散液を単に乾燥するのではなく、移流集積法と呼ばれる方法で微粒子を自己組織化させて規則正しい配列を有する緻密な微粒子堆積層を容易に形成させるということも考えられる。移流集積法とは、塗布した微粒子分散液を全面にわたり乾燥するのではなく、塗布面の端部から徐々に乾燥する方法である。その結果、乾燥端部における微粒子濃度が高まり、端部から徐々に微粒子の自己組織化が進行し、規則正しい配列を有する緻密な微粒子堆積層が容易に得られる。
【0035】
好適な乾燥条件は微粒子分散液の溶媒や乾燥方法などにより異なるため、適宜調整すればよい。例えば移流集積法の場合、窒素ガスやフィルタリングした圧縮空気を常温で端部から吹き付ければよく、また、乾燥時間は微粒子堆積層の厚さなどにより適宜調整できる。単に乾燥する場合には、主に微粒子分散液の溶媒により乾燥条件を調整する。例えば水を溶媒とする微粒子分散液をスピンコートする場合には常温で自然乾燥することができるが、沸点の高い溶媒を用いた場合には100〜200℃程度の高温下で乾燥する場合もある。
【0036】
従来、上述したような堆積層ではなく単粒子膜を形成する方法も検討されているが、工業的には煩雑で困難であるため好ましくない。一方、本発明方法では、容易に形成できる微粒子堆積層の最下層の形状を樹脂フィルムに転写するため、単粒子膜を形成する必要はない。また、微粒子堆積層の厚みに関しては特に限定はないが、例えばクラックの防止や微粒子の除去を考慮して使用する微粒子分散液の量や濃度を決定すればよい。
【0037】
微粒子分散液に界面活性剤を配合した場合には、界面活性剤を除去するために、微粒子分散液の溶媒を留去して微粒子堆積層を形成した後にさらに加熱してもよい。この加熱条件は、界面活性剤の種類などに応じて適宜調整することができる。但し温度が高過ぎると樹脂フィルムに影響が生じるおそれがあるので、樹脂フィルムの種類も考慮すべきである。
【0038】
(3) 微粒子堆積層の埋め込み工程
次に、樹脂フィルム上に形成された微粒子堆積層の一部または全部を樹脂フィルムへ機械的に埋め込む(図1を参照)。ここで、機械的な方法を用いることなく単に樹脂を完全に溶融させて微粒子堆積層を樹脂フィルム中へ埋め込む方法では、表面張力などメニスカスと呼ばれる樹脂の這い上がりによる欠陥が発生するおそれがある。
【0039】
本発明では、微粒子堆積層の一部または全部を樹脂フィルムへ埋め込むが、例えば、埋め込むべき微粒子が最下層のみであるといった制限がない。但し、微粒子堆積層の厚さが樹脂フィルムの厚さを超えるような場合には、埋め込みにより樹脂フィルムが破損しないように圧力を調節する必要がある。好適には微粒子堆積層の厚さを樹脂フィルムの厚さ未満として、微粒子堆積層の全部を樹脂フィルムへ埋め込む。全部を埋め込む場合は、圧力条件の微妙な調節の必要もなく効率的である。
【0040】
微粒子堆積層の埋め込み方法としては、熱可塑性樹脂の場合、微粒子の圧縮強度が樹脂の圧縮強度より高い温度領域で、平板プレス機やロールプレス機等により微粒子堆積層を押し込む方法が考えられる。一般的に埋め込む温度としては、熱可塑性プラスチックフィルム及びシートの熱機械分析による軟化温度試験方法が記載されているJIS K7196で規定されている軟化点以上であり、応力を緩和することができる加工温度条件であればよい。なお、本発明においては微粒子堆積層を機械的に埋め込むことから、樹脂フィルム表面を完全に溶融させたとしても表面張力による樹脂層厚の不均一や異常突起は起こり難い。樹脂フィルム材料としてBステージの熱硬化性樹脂を用いた場合には、特に温度制御することなく圧力を加えればよい。
【0041】
(4) 凹凸形状の形成工程
次に、樹脂フィルムへ埋め込んだ微粒子堆積層を除去することによって、樹脂フィルム表面に微細な凹凸形状を形成する(図1を参照)。即ち、樹脂フィルムの表面には微粒子が規則正しく配列した微粒子堆積層の最下層の形状が転写されているので、微粒子を除去することにより規則正しく微細な凹凸表面形状が得られる。
【0042】
樹脂フィルムに埋め込んだ微粒子堆積層の除去手段は特に制限されず、機械的な方法によってもよい。しかし機械的な方法では微粒子が残留するおそれがあるので、微粒子は溶解により除去することが好ましい。かかる溶解に用いる溶剤は微粒子の材料により適宜決定することができる。例えば、二酸化チタンであれば硫酸やアルカリなどを使用し、二酸化ケイ素であればフッ化水素酸もしくはフッ化水素酸と硝酸との混合溶液、アルカリなどが適用できる。また有機材料では、ポリメタクリル酸メチルであればアセトン、酢酸エチル、トルエン等に可溶であり、ポリスチレン等であればトルエンやキシレンに可溶である。
【0043】
溶解により微粒子堆積層を除去した場合には、樹脂フィルム表面には多孔質層が形成され得る(図1を参照)。かかる多孔質層は機能層としても利用可能であるが、基板表面に凹凸を形成する場合には多孔質層をすべて除去する必要がある。この際、多孔質層は粒子の自己組織化膜を除去したあとの形状として得られるものであるため、物理的に剥離させる際には特に精度のよい剥離方法を必要とせず、膜強度の関係上、多孔質層と充実層との界面から容易に剥離させることが可能である。また基材表面に形成された凹凸部分は多孔質層の強度に比べ十分高いために、凹凸はそのまま残される。
【0044】
多孔質層の除去方法は、基材表面に形成された凹凸にダメージを与えないように剥離する際の強弱が制御可能な方法であればよく、特に限定はない。例えばポリッシュやケミカルメカニカルポリッシュ、サンドブラスト、ドライアイスブラスト、超音波洗浄、高圧水圧洗浄、またはそれらの組み合わせにより剥離することができる。
【0045】
この際、多孔質層は粒子の自己組織化膜を除去したあとの形状として得られるものであるため、物理的に剥離させる際には特に精度のよい剥離方法を必要とせず、膜強度の関係上、多孔質層と充実層との界面から容易に剥離させることが可能である。また基材表面に形成された凹凸部分は多孔質層の強度に比べ十分高いために、凹凸はそのまま残される。
【0046】
なお、上述した微粒子堆積層の除去工程で微粒子を溶解することなく機械的な方法で除去した場合には、微粒子堆積層と共に樹脂フィルムの余分な残留部分も除去されるので微細な凹凸表面形状を得ることが可能になる。つまり、微粒子堆積層の除去工程と多孔質層の除去工程は機械的な方法により同時に行うことができる。但し上述したように、機械的な方法のみでは微粒子を完全に除去できない場合があるので、微粒子堆積層は溶解して除去し、次いで得られた多孔質層を機械的な方法で除去することが好ましい。
【0047】
本発明方法により得られる表面加工基板は、規則的で微細な凹凸表面を有する。従って、局所的な穴や急峻な突起の発生が抑制されているため、例えば本発明に係る表面加工基板を太陽電池に適用する場合、基板上へ裏面電極、透明電極、シリコン層など他の層を形成する際におけるこれら層の破損や短絡などを抑制することができる。また、光の拡散強度を向上させることが可能となり、シリコン層内部での光路長が増加するので、エネルギー変換効率の向上が望める。かかる作用効果を一層確かなものとするために、形成した凸凹形状が崩れない程度の熱変形温度付近で一定時間アニーリング処理することによって、端部などに発生する可能性のある突起などを緩和し、基板の品質をより一層安定化することもできる。
【0048】
本発明の表面加工基板は太陽電池基板として利用することができる。具体的には、例えば本発明により表面加工した液晶ポリマー基板上に裏面電極(反射層)、n型シリコン層、i型シリコン層、P型シリコン層、透明電極層、および集電電極を順に形成することにより、薄膜太陽電池とすることができる。また、ポリカーボネート、PEN、PETなど透明性を有する樹脂からなる基板を本発明により表面加工した場合には、上記の太陽電池構造を逆から構成していくことで薄膜太陽電池とすることができる。
【0049】
本発明の表面加工基板は微細な凹凸表面を有することから太陽光を内部で内部拡散させることができ、太陽光の効率的な利用が可能になる。その一方で、本発明の表面加工基板は局所的な穴や急峻な突起が少ないため、基板上に形成された電極やシリコン層を損傷することが少なく、太陽電池デバイスの歩留りやフィルファクター等の太陽電池性能は向上し、結果的にエネルギー変換効率の向上に貢献することができる。
【0050】
また、本発明の表面加工基板は発光デバイス部材としても利用することができる。本発明の表面加工基板は規則的で微細な凹凸形状を有し光学特性などにも優れるからである。具体的には、例えば反射防止膜、拡散反射板、プリズムシートなどのディスプレイデバイス部材として利用し得る。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】
製造例1
厚さ125μmの液晶ポリマーフィルム(ジャパンゴアテックス社製、商品名「BIAC」)を1辺5cmの正方形にカットした。厚さ150μm、1辺5cmの正方形のSUS箔を当該液晶ポリマーフィルムに積層し、プレス機を用いて温度290℃、圧力40kg/cm2で圧着し、樹脂層/耐熱補強材の基板を作成した。別途、50%累積径:0.45μmのシリカ微粒子を含むコロイダルシリカ水分散液(日産化学社製、MP4540−M)50gと、界面活性剤(第一工業製薬社製、エパン785)0.2gを混合し、塗工液を調製した。
【0053】
上記基板へ、スピンコーティング装置を用いて、500rpmで30秒間、上記塗工液を塗布した。乾燥した後に塗布された固形分の量を電磁式はかり(A&D社製、GR−300)で測定したところ約2g/m2であった。さらに、界面活性剤を除去するために、230℃で30分間加熱した。
【0054】
次いで、形成されたシリカ微粒子堆積層を、プレス機を用いて、温度290℃、圧力40kg/cm2の条件で加圧することにより、樹脂層に埋め込んだ。その後、46%フッ化水素酸に1分間浸漬して、シリカ微粒子堆積層を溶解除去した。十分に洗浄乾燥し、さらに超音波洗浄機で洗浄し、微細凹凸面を有する樹脂層を得た。当該凹凸面を走査型電子顕微鏡で観察した。その写真を図2として示す。図2によれば、本発明方法により得られた表面加工基板は大きな窪みや突起などがない規則正しく微細な凹凸面を有することを確認することができる。
【0055】
製造例2
厚さ125μmのポリカーボネートフィルム(帝人化成社製、パンライトシート)を1辺5cmの正方形にカットした。厚さ150μm、1辺5cmの正方形のSUS箔を当該液晶ポリマーフィルムに積層し、プレス機を用いて温度290℃、圧力40kg/cm2で圧着し、樹脂層/耐熱補強材の基板を作成した。別途、上記製造例1で用いたコロイダルシリカ水分散液(日産化学社製、MP4540−M)50gと、界面活性剤(第一工業製薬社製、エパン785)0.2gを混合し、塗工液を調製した。
【0056】
上記基板へ、スピンコーティング装置を用いて、500rpmで30秒間、上記塗工液を塗布した。乾燥した後に塗布された固形分の量を上記製造例1と同様に測定したところ約2g/m2であった。さらに、界面活性剤を除去するために、230℃で30分間加熱した。
【0057】
次いで、形成されたシリカ微粒子堆積層を、プレス機を用いて、温度290℃、圧力40kg/cm2の条件で加圧することにより、樹脂層に埋め込んだ。その後、46%フッ化水素酸に1分間浸漬して、シリカ微粒子堆積層を溶解除去した。十分に洗浄乾燥し、さらに超音波洗浄機で洗浄し、微細凹凸面を有する樹脂層を得た。当該凹凸面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、大きな窪みや突起などがない規則正しい凹凸面であることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明方法の一態様を示す模式図である。
【図2】本発明方法で得た微細な凹凸表面を有する表面加工基板の20,000倍の顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0059】
1:微粒子堆積層、 2:樹脂フィルム、 3:補強材、 4:多孔質層、 5:規則的で微細な凹凸表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細凹凸表面を有する表面加工基板を製造する方法であって、
樹脂フィルムの表面に微粒子分散液を塗布する工程;
塗布した微粒子分散液を乾燥することにより微粒子堆積層を形成する工程;
微粒子堆積層の一部または全部を樹脂フィルムへ機械的に埋め込む工程;および
微粒子堆積層を除去することにより樹脂フィルム表面に微細な凹凸形状を形成する工程;
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
微粒子堆積層の一部または全部を熱プレスにより樹脂フィルムへ埋め込む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
微粒子堆積層の除去を、微粒子を溶解することにより行う請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の方法で製造された表面加工基板からなる太陽電池基板。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載の方法で製造された表面加工基板を有する発光デバイス部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−34904(P2009−34904A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201188(P2007−201188)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】