説明

微細藻類スピルリナ由来の血圧降下ペプチド及びその製造方法

【課題】本発明は、血圧降下ペプチド及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、Ile−Xaa−Pro(ただし、XaaはPro、Arg以外のアミノ酸)で示されるトリペプチドを有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤及びその製造方法である。本発明のトリペプチドは、化学合成することもでき、また、天然の生物資源から単離することもできる。天然の生物資源としては、特に、タンパク質を豊富に含む藻類のスピルリナが適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧降下ペプチド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は生活習慣病の中でも発症率の高い疾患の1つで、肥満、高脂血症、糖尿病との合併により重篤な症状を呈することもあり、その効果的な治療が強く望まれている。
これまでに知られている高血圧の治療薬として、例えば、利尿薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬などが存在する。降圧利尿薬は、古くから広く使用されているが、低カリウム血症や、耐糖能の悪化などの副作用を誘発する可能性が示唆されていたため、糖尿病の患者などに対しては、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(angiotensin converting enzyme(以下、ACE) inhibitor)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬などが第一次的な選択薬として使用されることが多い。
【0003】
ACEは、レニン−アンジオテンシン系において作用する酵素で、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換する機能を持つ。ACEの作用によって生成したアンジオテンシンIIは、レニン−アンジオテンシン系の最終生理活性物質であるが、血管壁、副腎、腎臓などの細胞膜に存在するアンジオテンシンII受容体を介して、血管収縮、カテコールアミンの分泌、ナトリウムの再吸収の促進など、血圧調節や体液及び電解質の恒常性の維持などの重要な機能を担う物質である。しかしながら、何らかの原因によって、血圧調節機能のバランスが崩れると、アンジオテンシンIIによる血圧上昇作用が異常亢進し、高血圧の常態が持続され、いわゆる、高血圧症の発症が惹起される。以上のような、ACEの活性に着目すると、これを抑制的に調節する物質が高血圧症の治療に有効であると考えられ、これまでに、カプトプリル、テプロタイドなどの、非ペプチド性又はペプチド性ACE阻害剤が抗高血圧治療薬として開発されている。
【0004】
カプトプリルは、ACEと酵素学的に類似しているカルボキシペプチダーゼAの阻害薬をモデルとして開発されたもので、強力なACE阻害活性を示すものであるが、腎機能障害等の副作用を引き起こすなどの問題点が指摘されている。
一方、ペプチド性のACE阻害剤としては、ヘビ毒成分から分離された幾つかのペプチドにACE阻害活性が認められ、その中の6アミノ酸からなるペンタペプチドに最も強い阻害活性が見られたが、このペプチドはペプチダーゼによって消化されてしまうため、医薬としての使用には適するものではなかった。ペンタペプチドの他に、9アミノ酸からなるペプチド(テプロタイド)にもACE阻害活性が認められ、静注による降圧効果を確認されたが、経口投与においては、有効性が認められなかった。
【0005】
テプロタイドの開発以降、ペプチド性のACE阻害剤に関する研究が活発に行われるようになり、これまでに、ACE阻害効果を示す、より低分子で経口投与によっても薬理効果を発揮するペプチドが多数報告されている。例えば、Ile−Arg−Pro−Val−Gln(配列番号2)(特許文献1)、Glu−Lys−Thr−Ala−Pro(配列番号20)、Ile−Ala−Ile−Pro−Pro(配列番号22)(以上、特許文献2)などのペンタペプチド、Ala−Ile−Pro−Pro(配列番号3)、Ile−Ala−Ile−Pro(配列番号21)などのテトラペプチド(以上、特許文献2)、Ala−Ile−Pro(配列番号4)、Ile−Pro−Pro(配列番号5)(以上、特許文献2)、Ile−Arg−Pro(配列番号6)(特許文献3)、Val−Pro−Pro(配列番号7)(特許文献4及び5)、Gly−Pro−Leu(配列番号8)、Gly−Pro−Met(配列番号9)(以上非特許文献1)及びAsp−Leu−Pro(配列番号10)(非特許文献2)などのトリペプチド、さらに、Tyr−Pro(配列番号11)(特許文献6)、Asp−Gly(配列番号12)(非特許文献2)、Ser−Tyr(配列番号13)、Gly−Tyr(配列番号14)、Phe−Tyr(配列番号15)、Asn−Tyr(配列番号16)、Ser−Phe(配列番号17)、Gly−Phe(配列番号18)及びAsn−Phe(配列番号19)(以上非特許文献3)などのジペプチドが報告されている。
【0006】
また、ペプチド性のACE阻害剤については、安価かつ簡便で、安全性の高い調製方法の確立も経済効率等に鑑みると非常に重要な問題である。ペプチドを生産する方法としては、化学的に合成する方法や、生物材料等から単離する方法が一般的である。上記ペプチドのうち、例えば、Gly−Pro−Leu、Gly−Pro−Metなどはスケソウダラの皮膚から(非特許文献1)、Asp−Leu−Pro及びAsp−Glyは大豆から(非特許文献2)、Ser−Tyr、Gly−Tyr、Phe−Tyr、Asn−Tyr、Ser−Phe、Gly−Phe及びAsn−Pheはガーリックから(非特許文献3)の単離が報告されており、また、Ile−Pro−Pro、Val−Pro−Pro及びTyr−Proについては、乳酸菌を利用した安全性を考慮した効率的な単離方法が報告されている(特許文献4〜7を参照のこと)。
医薬又は機能性補助食品等として利用するためのペプチドを生物資源から調製する場合、大量かつ安価に調製することを考慮するのみならず、毒性等、安全面においても十分に配慮する必要がある。そのために、ペプチドを調製するための生物資源の選択及び該ペプチドの調製方法については、依然として改善の余地が残されている。
【0007】
【非特許文献1】Byunら,Process Biochemistry 2001,36:1155−1162.
【非特許文献2】Wuら,Food Research international 2002,35:367−375.
【非特許文献3】Suetaら,J.Nutr.Biochem.,1998,9:415−419.
【特許文献1】特開平5−1097号
【特許文献2】特開平3−120225号
【特許文献3】特開平5−306295号
【特許文献4】特許第2782142号
【特許文献5】特許第2782153号
【特許文献6】特許第3364579号
【特許文献7】WO2006/004105
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意研究を行ったところ、ACE阻害活性を有し、血圧降下作用を示すペプチドの調製に成功し、本発明を完成するに至った。
よって、本発明は、ACE阻害活性を有し、血圧降下作用を示すペプチド、並びに、該ペプチドを有効成分として含むACE阻害剤及び血圧降下剤の提供を目的とする。
さらに、本発明は、該ペプチドを含む機能性補助食品の提供を目的とする。
また、本発明は、ACE阻害活性を有し、血圧降下作用を示すペプチド、並びに、該ペプチドを有効成分として含むACE阻害剤及び血圧降下剤の調製方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、ACE阻害活性を有するペプチドの調製を行うにあたり、その生物資源としてスピルリナ(Spirulina)を選択した。
スピルリナとは、藍藻類のネンジュモ目ユレモ属スピルリナ科に属する一群の藻類のことである。現在知られているスピルリナの中には、良質のタンパク質を豊富に含むものが存在し、将来の食料難に対する栄養源として期待され、栄養補助食品等としても製品化されている。発明者らは、このようなスピルリナの特徴に着目し、ACE阻害活性を有するペプチドを、大量かつ安価に調製するための安全性の高い生物資源としてスピルリナを選択し、これまで報告されていない血圧降下作用を持つ新規のペプチドの調製に成功した。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)に関する。
(1)本発明の第1の形態は、「Ile−Xaa−Pro(ただし、XaaはPro、Arg以外のアミノ酸)で示されるトリペプチドを有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤」である。
(2)本発明の第2の形態は、「前記XaaがGlnである上記(1)に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤」である。
(3)本発明の4の形態は、「上記(1)又は(2)に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を含む血圧降下剤」である。
(4)本発明の第4の形態は、「上記(1)又は(2)に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を含有する機能性補助食品」である。
(5)本発明の第5の形態は、「Ile−Xaa−Pro(ただし、XaaはPro、Arg以外のアミノ酸)で示されるトリペプチドをスピルリナから単離することを特徴とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤の製造方法」である。
(6)本発明の第6の形態は、「前記XaaがGlnである上記(5)に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤の製造方法」である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のペプチドは、優れたACE阻害活性を示し、また、経口投与により有効な血圧降下作用を発揮する。
【0011】
本発明の方法を用いると、ACE阻害活性を有する本発明のペプチドを大量かつ安価に、また、安全性の高い状態で調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態の1つは、Ile−Xaa−Proで示されるトリペプチド(以下、本発明のトリペプチドと称する)を有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤である。ここで、Xaaは、Pro及びArg以外のアミノ酸を示し、例えば、Asn、Thr、Ser及びGlnなどが好ましく、特に、Glnが好ましい。本発明のトリペプチドは、如何なる方法によって調製したものであってもよく、例えば、化学的に合成する方法や大腸菌等の宿主生物中において遺伝子工学的手法により発現させる方法、あるいは、天然の生物資源などから単離する方法など、当業者によって選択可能な任意の方法によって調製することができる。例えば、天然の生物資源から単離する場合においては、当業者によって任意の生物資源を選択することができるが、できるだけ、豊富にタンパク質を含んだ生物資源が好ましい。特に、本発明の方法として示されるように、藍藻類のネンジュモ目ユレモ属スピルリナ科に属する一群の藻類のうち、タンパク質を豊富に含むもの(例えば、Spirulina platensisなど)が本発明のトリペプチドの単離には適している。スピルリナ属の藻類を入手するには、天然環境から採取してもよいが、市販されているものを購入することもできる。
【0013】
本発明のトリペプチドを生物資源等から単離する場合、生物資源の細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過等により、タンパク質を豊富に含む可溶性抽出液を取得する。得られた抽出液から本発明のトリペプチドを単離するには、適当なプロテアーゼにより、タンパク質を加水分解してペプチドを調製してから精製を進めるのが好ましい。ここで用いるプロテアーゼとしては、特に限定はしないが、例えば、アルカリ性プロテアーゼであるアルカラーゼなどが好適に利用可能である。プロテアーゼ処理を行った画分からの本発明のトリペプチドの単離は、当該技術分野において公知の分離・精製法を適切に組み合わせて実施することができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、及びSDS−PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0014】
本発明の他の実施形態は、本発明のトリペプチドを含む、高血圧症による異常な血圧上昇の治療のための医薬(血圧降下剤)(以下、本発明の医薬と称する)である。本発明の医薬の有効成分としては、本発明のトリペプチドのほか、薬理学的に許容されるその塩を用いてもよい。本発明の医薬は、本発明のトリペプチド及び薬理学的に許容されるその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物自体を投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記物質と1又は2以上の製剤用添加物とを含む医薬組成物の形態で投与することが望ましい。
【0015】
医薬組成物の種類は特に限定されず、剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。なお、液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な溶媒に溶解又は懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明のトリペプチドを水等に懸濁させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水或いはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
また、本発明の医薬は、経口投与用又は非経口投与用の任意の製剤形態で提供される。例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤又は液剤等の形態の経口投与用医薬組成物、静脈内投与用、筋肉内投与用、若しくは皮下投与用などの注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤などの形態の非経口投与用医薬組成物として調製することができる。注射剤や点滴剤などは、凍結乾燥形態などの粉末状の剤形として調製し、用時に生理食塩水などの適宜の水性媒体に溶解して用いることもできる。
【0016】
医薬組成物の製造に用いられる製剤用添加物の種類、有効成分に対する製剤用添加物の割合、又は医薬組成物の製造方法は、組成物の形態に応じて当業者が適宜選択することが可能である。製剤用添加物としては無機又は有機物質、或いは固体又は液体の物質を用いることができ、一般的には、有効成分重量に対して1重量%から90重量%の間で配合することができる。具体的には、その様な物質の例として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられる。
【0017】
経口投与用の固形製剤(機能性補助食品として使用する場合も含む)を製造するには、有効成分と賦形剤成分例えば乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸などと混合して散剤とするか、さらに必要に応じて、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式又は乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するには、これらの散剤及び顆粒剤をそのまま或いはステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒又は錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸− メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤、或いはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま或いはグリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解した後ゼラチン膜で被覆し軟カプセルとすることができる。
【0018】
注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのpH調整剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖などの等張化剤と共に注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、更にマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80 、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化せしめ注射剤用乳剤とすることもできる。
【0019】
本発明の医薬は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。例えば、エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬剤的に受容可能な担体として使用することができる。有用なリポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製される。
【0020】
本発明の医薬は、医薬組成物としてキットの形態で、容器、パック中に投与の説明書と共に含めることができる。本発明に係る薬剤組成物がキットとして供給される場合、該薬剤組成物のうち異なる構成成分が別々の容器中に包装され、使用直前に混合される。このように構成成分を別々に包装するのは、活性構成成分の機能を失うことなく長期間の貯蔵を可能にするためである。
【0021】
キット中に含まれる試薬は、構成成分が活性を長期間有効に持続し、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないような容器中に供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性ガスの下において包装されたバッファーを含む。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、又は試薬を保持するために通常用いられる他の何れかの適切な材料などから構成される。他の適切な容器の例には、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ、又はその類似物が含まれる
また、キットには使用説明書も添付される。当該医薬組成物からな成るキットの使用説明は、紙又は他の材質上に印刷され、及び/又はフロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスクなどの電気的又は電磁的に読み取り可能な媒体として供給されてもよく、あるいは、キットの製造者等によって指定されるウェブサイトに掲載されていてもよい。
【0022】
本発明の医薬の投与量及び投与回数は特に限定されず、治療対象疾患の悪化・進展の防止及び/又は治療の目的、疾患の種類、患者の体重や年齢、疾患の重篤度などの条件に応じて、医師の判断により適宜選択することが可能である。一般的には、経口投与における成人一日あたりの投与量は0.01〜1000mg(有効成分重量)程度であり、一日1回又は数回に分けて、或いは数日ごとに投与することができる。注射剤として用いる場合には、成人に対して一日量0.001〜100mg(有効成分重量)を連続投与又は間欠投与することが望ましい。
【0023】
さらに、本発明には、高血圧症などにおける血圧の異常な上昇、及び高血圧症によって引き起こされる他の疾患又は疾病の治療方法も含まれる。
ここで「治療」とは、血圧の異常な上昇を示す哺乳動物、あるいは、血圧上昇によって引き起こされる疾患に罹患した哺乳動物において、その高血圧状態又は病態の進行及び悪化を阻止又は緩和することを意味し、これによって高血圧状態又は疾患の諸症状等の進行及び悪化を阻止又は緩和することを目的とする治療的処置の意味として使用される。
また、ここで「疾患」とは、高血圧症の他、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全及び、これらの疾患の予備的病態をも含む意味として使用される。
治療の対象となる「哺乳動物」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトである。
【0024】
本発明の他の実施形態は、本発明のトリペプチドを含有する機能性補助食品である。機能性補助食品とは、一般に、体調を整える効果をもつとされる加工食品のことであるが、ここでは、特に、高めの血圧を低下させる効果を持つ食品類を指し、特定保健用食品、栄養機能性食品などの保健機能食品を含む機能性補助食品(栄養補助食品)一般を網羅する意味として定義される。
以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
1.アルカラーゼ消化物の調製
Spirulina plantensisの乾燥粉末(20g)(Inner Mongolia Reiuve Biotech Co.Ltd.,China.)を水160mLにけん濁し、凍結融解を5回おこなってから3分間の超音破砕し、6,000×gで30分遠心分離した。この溶液をpH8.5に調製してからalcalase 2.4 L(Novo Nordisk Biochem Inc.,Sigma)を0.04(v/v)で加えて50℃で10時間反応させた。pH4.0にして反応を停止させ20分間氷冷した後、6,000×gで10分遠心分離した。0.45μm Supor Membrane(Pall Co.USA)に通してから異なる分画サイズの限外ろ過膜(Sartorius Co.,Germany)で分画し(10,000MWCO膜で酵素を除去し、5,000及び3,000MWCO膜を用いてさらにろ過を行った)、ACE阻害活性を蛍光共鳴エネルギー移動法により測定した(Carmonaら,Nat.Protoc.,2006,1:1971−6を参照のこと)。その結果、0−3000MWCOの分画に最も強いACE阻害活性が見られた(表1)。
【0026】
【表1】

【0027】
2.ACE阻害ペプチドの精製
分画分子量3,000以下の画分をSuperdex Peptide HR10/30(Amersham Pharmacia Biotech,Sweden)を用いて10mM Tris−HCl(pH7.0),150mM NaClを緩衝液として溶出し、得られた各画分の吸光度(220nm)と、ACE阻害活性を測定した(図1)。次に、最も強いACE阻害活性の画分をCOSMOSIL MS−II C18 column(ナカライテスク株式会社)を用い、0.1% トリフルオロ酢酸,1% アセトニトリル溶液を基本とした溶媒を使用し、アセトニトリル濃度を高める濃度勾配により精製を行った。得られた活性のピーク画分を、再度、COSMOSIL MS−II C18 columnにかけ、濃度勾配を変えて、さらに精製を行った(図2)。
3.ACE阻害ペプチドの物理化学的及び生化学的解析
精製したACE阻害ペプチドの分子量をMALDI−TOF−MS(Kratos Analytical Shimadzu,Japan)で測定し、そのアミノ酸配列をエドマン分析法(SHIMADZU,Japan)により決定した。その結果、ACE阻害ペプチドとしてIle−Gln−Pro(IQP)が同定された(図3)。IQPは、ACEを競合的に阻害する(IC50=5.8μM,Ki=7.6μM)。
さらに、消化器系の種々の消化酵素(ペプシン、キモトリプシン、トリプシン)をIQPに反応させたときの安定性を評価した。各種酵素による反応溶液を10,000MWCO膜でろ過後、4℃、6,000gで遠心し、酵素を除去した。遠心後の上清をHPLC逆相クロマトグラム(Hydrosphere C18 column,4.6mm×150mm,粒子サイズ 5μm,YMC Co.,Ltd)にかけた。カラムは、0.1% トリフルオロ酢酸,1% アセトニトリル溶液を基本とした溶媒を使用し、アセトニトリル濃度を高める濃度勾配により溶出を行った。逆相クロマトグラムの保持時間とIQP強度がほとんど変化しなかったことから(図4A、B、CとDを比較)、IQPは、経口投与あるいは摂食の場合でも安定に存在することが示された(図4)。
【0028】
4.ACE阻害ペプチドの血圧降下作用
本発明のペプチド(IQP)の血圧降下作用について検討を行った。高血圧自然発症ラット(SHR)(日本チャールス・リバー株式会社)にIQPを経口投与(摂取)し、加重平均最大血圧及び加重平均最小血圧の1週間及び1日の変動を測定した。
SHRの血圧測定直後にIQP(10mg/kg)を経口投与し(その日の11:00amに投与)、1週間の血圧変動を調べた。IQPを投与した場合、加重平均最大血圧(図5A)、加重平均最小血圧(図6A)ともに、日毎に低下していくのに対し(図5A及び図6A、IQP)、生理食塩水の投与では、血圧の低下は認められなかった。また、IQPの血圧降下作用は、ポジティブコントロールとして用いたカプトプリル(10mg/kg)とほぼ同等の効果を示した。
IQP投与による一日の血圧変動についても同様に測定を行った(図5B及び図6B)。SHRの血圧測定直後にIQP(10mg/kg)を経口投与し(11:00amに投与)、その後1時間毎に血圧を測定し、その変動を調べた。IQPを投与した場合、加重平均最大血圧(図5B)、加重平均最小血圧(図6B)ともに時間毎に低下し、ペプチド投与後4〜6時間後の血圧低下が最も大きかった(図5A及び図6A、IQP)。これに対し、生理食塩水の投与では、血圧の低下はみられなかった。また、一日における血圧降下作用についても、カプトプリル(10mg/kg)とほぼ同等の効果を示した。
【0029】
5.血中ACE活性に対する影響
前述のように本発明のペプチド(IQP)は、優れた血圧降下作用を示すが、この作用が実際に血中のACE活性を阻害することを介して発揮されていることを以下のように確認した。IQP(10mg/kg)を経口投与後、SHRから血液を採取し、その血清中のACE、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンIIの存在量をELISAによって測定した。ELISA測定には、それぞれACE human quantikin ELISA kit(R&D Systems Inc.)、Rat angiotensinogen ELISA kit(株式会社 免疫生物研究所)、Angiotensin II human ELISA kit(Phoenix Pharmaceuticals Inc.)を使用した。その結果、ACE及びアンジオテンシノーゲンの血清存在量は、コントロール(図7A及びB、生理食塩水)との比較において有意差は認められなかったのに対し、ACEの作用によって生じるアンジオテンシンIIの存在量は、コントロールと比較して有意に減少していることが解った(図7C)。
以上のことから、本発明のペプチドは、ACE活性阻害を介して血圧降下作用を発揮していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、ACE活性を阻害し、血圧降下作用を示すペプチドを提供する。従って、本発明は、高血圧症及びその合併症等の治療分野における利用の他、日常の健康管理に供される機能性補助食品の分野において有効に利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】Superdex Peptide HR10/30によるゲルろ過プロファイルを示す。横軸は溶出画分の画分番号(チューブ番号)を、縦軸は各画分の吸光度(220nm)を示す。
【図2】COSMOSIL MS−II C18 columnからの溶出プロファイルを示す。横軸は溶出画分の画分番号(チューブ番号)を、縦軸は各画分の吸光度(220nm)を示す。
【図3】ACE阻害ペプチドの質量分析の結果を示す。
【図4】ACE阻害ペプチドの各種消化酵素に対する安定性を調べた。A:0.2mLのペプチド溶液(1.5mMミリQ中)を0.2mLの0.05%(w/v)ペプシン溶液(Sigma Chemical Co.,0.1M KCl−HCl、pH2.0)で、37℃、6時間処理し、1N NaOHを添加してpHを7.0に調整した。B:0.2mLのペプチド溶液(1.5mMミリQ中)を0.2mLの0.05%(w/v)キモトリプシン溶液(Sigma Chemical Co.,0.1M KPO、pH8.0)で、37℃、6時間処理し、6N HClを添加してpHを7.0に調整した。C:トリプシンを用いて、Bと同様に処理を行った。D:消化酵素無処理のコントロール
【図5】加重平均最大血圧に対するIQPの影響を測定した結果である。A:SHRへIQPを経口投与後、加重平均最大血圧の1週間の変動を記録した結果を示す。加重平均最大血圧は、測定した最大血圧を平均心拍数で除した値として算出し、ポスト−ホック シェッフェ テストによる分散分析(One−way ANOVA)を行った。グラフ中のアルファベットは有意差を表しており、異なるアルファベットが付与されたデータポイント間には有意差があることを示している。abが付与されたデータポイントは、aまたはbが付与されたデータポイントのどちらとも有意差が認められない。p<0.05が統計的有意とした。
【図6】加重平均最小血圧に対するIQPの影響を測定した結果である。A:SHRへIQPを経口投与後、加重平均最小血圧の1週間の変動を記録した結果を示す。加重平均最小血圧は、測定した最小血圧を平均心拍数で除した値として算出し、ポスト−ホック シェッフェ テストによる分散分析(One−way ANOVA)を行った。グラフ中のアルファベットについては、図5の説明を参照のこと。p<0.05が統計的有意とした。
【図7】IQP投与後の血清中におけるACE(A)、アンジオテンシノーゲン(B)、アンジオテンシンII(C)の存在量をELISA法により測定した結果を示す。グラフ中のアルファベットについては、図5の説明を参照のこと。p<0.05が統計的有意とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ile−Xaa−Pro(ただし、XaaはPro、Arg以外のアミノ酸)で示されるトリペプチドを有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項2】
前記XaaがGlnである請求項1に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を含む血圧降下剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を含有する機能性補助食品。
【請求項5】
Ile−Xaa−Pro(ただし、XaaはPro、Arg以外のアミノ酸)で示されるトリペプチドをスピルリナから単離することを特徴とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤の製造方法。
【請求項6】
前記XaaがGlnである請求項4に記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−138133(P2010−138133A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317630(P2008−317630)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】