説明

微細軸形成装置

【課題】微細軸を形成する微細軸形成装置において、高精度でかつ容易に微細軸を形成する。
【解決手段】微細軸形成装置1は、電極2と、間隙dを設けて対向配置された成形部材3A、3Bと、電極2を回転させる電極回転手段と、回転せしめられている電極2をY軸方向に相対移動させる電極移動手段と、電極2が間隙dに沿って移動中に、成形部材3A、3Bと電極2とをX軸方向に相対的に移動させる移動手段5と、電極2と成形部材3A、3Bとの間に放電を発生させる放電発生手段9と、成形部材3Aと電極2との間に流れる第1の放電電流と、成形部材3Bと電極2との間に流れる第2の放電電流を検出する電流検出手段10A、10Bと、放電回数を所定の閾値毎に計数する計数手段16と、放電回数を所定の閾値毎に重み付けして合計した第1の放電電流の放電頻度と第2の放電電流の放電頻度の差が小さくなるように移動手段5を制御する制御手段19を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細軸を形成する微細軸形成装置に関し、特に微細軸に加工される電極の位置制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、物を削ったり切ったりする加工では、加工中に生じる加工反力が大きく、小さな加工になればなるほど、加工反力によって工具や工作物が曲がるため、高精度な加工が困難になる。一方、放電加工は非接触加工であるため、加工中に生じる加工反力が小さいことから、微細加工の分野で高い効果を発揮しており、工具電極を加工機上で製作できる放電加工装置等も知られている。
【0003】
このような放電加工装置で加工されるものとしては、ノズル穴等の微細穴の放電加工用電極材、微細金型用の二次元、三次元形状創成のマイクロツール、微細形状や表面粗度の計測プローブ、マイクロマニピュレーション用工具等に用いられる微細軸があり、このような微細軸を形成する方法としては、例えば図6Aに示す如く、微細軸に加工される電極2’と成形ブロック1’の間に放電を発生させ、電極2’を矢印M’方向に回転させながら成形ブロック1’に向けて(矢印Y’方向に)移動させると共に電極2’を上下方向(矢印Z’方向)に移動させることにより電極2’の下端部を微細径に加工する逆放電加工法や、図6Bに示す如く、矢印M’方向に回転しながら微細軸に加工される電極2’とガイド101’に沿って矢印J方向に走行しているワイヤ100’との間の一定の加工間隙に放電を発生させることにより電極2’の下端部を微細径に加工するワイヤ放電研削法(Wire Electro Discharge Grinding法;WEDG法)等が知られている。
【0004】
しかしながら上記逆放電加工法は、成形ブロック1’の面に対して対向する電極2’の面積が広いために電極2’が頻繁に消耗するので、電極2’の消耗量を検出することが困難であり、精度のよい微細軸を形成するためには顕微鏡等の測定器により電極2’の径を測定しながら微細軸を形成する必要があるため手間がかかっていた。また上記WEDG法はワイヤ100’が振動するため精度のよい微細軸の形成が困難であった。
【0005】
そこで、微細軸を容易に形成するために、平行な隙間が調整可能に配置された一対の成形ブロックを使用し、隙間の寸法を電極の形成寸法と等しくして、各成形ブロックと電極との間に放電を発生させながら、この隙間に回転している電極を送り込み、さらに電極を隙間に沿って移動させて、各成形ブロックと電極との間の放電がなくなるまで電極を加工することにより所望する成形寸法の微細軸を形成する方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
しかしながら特許文献1に記載された上記方法は、隙間が曲がっていると電極が成形ブロックの新しい面を加工してしまうため、隙間の平行度の調整が困難であった。そこで隙間の平行度を考慮せずに精度良く微細軸を形成するために、電極が隙間の中心を走査して進むように、各成形ブロックと電極との間に流れる電流の大きさ、すなわち電流の大きさと比例する放電頻度をそれぞれ検知し、この放電頻度が等しくなるように電極の隙間方向の移動を制御する制御方法が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開昭63−127816号公報
【特許文献2】WO2007/058110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献2に記載された制御方法では、電流の大きさが放電頻度に比例する点に着目しているため、実際の放電頻度すなわち放電回数はカウントせずに電流の大きさを検出して制御を行っているので、電流の大きさにバラつきがある場合には精度が低減してしまう虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高精度でかつ容易に微細軸を形成することができる微細軸形成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の微細軸形成装置は、微細軸に加工される電極と、
該電極が挿入される間隙を設けて対向配置された2つの成形部材と、
前記電極を、該電極の軸を中心に回転させる電極回転手段と、
該電極回転手段により回転せしめられている前記電極を、前記間隙に沿って相対的に移動させる電極移動手段と、
該電極移動手段により前記電極が前記間隙に沿って移動せしめられているときに、前記2つの成形部材と前記電極とを、前記間隙に沿った方向と略直交する方向に相対的に移動させる移動手段と、
前記間隙に挿入された前記電極の一部と前記2つの成形部材との間に放電を発生させる放電発生手段と、
一方の前記成形部材と前記電極との間に流れる第1の放電電流と、他方の前記成形部材と前記電極との間に流れる第2の放電電流とをそれぞれ検出する電流検出手段と、
電流の大きさの所定の閾値を段階的に設定し、前記電流検出手段により検出された放電電流の放電回数を前記所定の閾値毎に計数する計数手段と、
前記計数手段により計数された前記放電回数を前記所定の閾値毎に重み付けして合計した前記第1の放電電流の放電頻度と前記第2の放電電流の放電頻度の差が小さくなるように前記移動手段を制御する制御手段を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
なお「微細軸に加工される電極」は棒状であっても、円筒状であってもよい。また電極は下端部、すなわち一部分のみを隙間に挿入してもよいし、電極の上端に電極を保持するホルダ等を設けておいて電極の全部を隙間に挿入してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の微細軸形成装置は、電流の大きさの所定の閾値を段階的に設定し、一方の成形部材と電極との間に流れる第1の放電電流の放電回数と他方の成形部材と電極との間に流れる第2の放電電流の放電回数とをそれぞれ所定の閾値毎に計数して、計数した各放電回数を所定の閾値毎に重み付けしてそれぞれ合計した放電頻度の差が小さくなるように、電極と成形部材とを相対的に移動させるので、検出する電流の大きさに多少のばらつきがあっても放電回数としてカウントできると共に、大きい電流値での放電回数が多いときには電極と成形部材との距離が近いので、重み付けによって放電頻度の差を大きくして、電極又は成形部材の移動量を多くすることにより、間隙の中心と電極との距離に対応した速度で電極と成形部材の距離を遠ざけることができるので、速やかに精度よく電極を間隙の中心に戻すことができ、安定して間隙の中心に位置させておくことができる。
【0012】
これにより隙間の平行度を厳密に考慮しなくても電極の軸を間隙の中心に沿って移動させることができるので微細軸を容易に形成することができると共に、電流の大きさと放電回数の両方の値に基づいて移動手段による移動量を算出することにより微細軸の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態である微細軸形成装置1について、図面を参照して詳細に説明する。図1は本実施形態の微細軸形成装置1の概略構成図、図2は放電時の電流値の波形の一例を示す図である。
【0014】
本実施形態の微細軸形成装置1は、図1に示す如く、微細軸に加工される直径0.3mm、長さ2mmの炭化タングステン(WC)で構成された棒状の電極2と、電極2が挿入される間隙d(本実施形態では0.05mm)を設けて対向配置された2つの成形部材3A、3Bとを備えている。2つの成形部材3A、3Bは、厚さ1mmの板状の銅(Cu)で構成されており、それぞれの側面が平行に対向するように配置されて、直方体の積載台4の上面に載置されており、この積載台4の下方には積載台4を間隙dに沿った方向(図1中Y軸方向)と直交する方向(図1中X軸方向)に移動させる移動部5が設けられている。
【0015】
移動部5は、三相交流コアレスリニアモータで構成されており、複数のコイルが一列に配置されたリニアモータコイル部6と、リニアモータコイル部6の下方に配置され、コイル列に対向するように配置された複数の永久磁石が一列に配設されたマグネットヨーク部7と、リニアモータコイル6に接続され、後述するモーションコントローラ19からの指令位置データに基づいてリニアモータコイル6に流れる駆動電流を図示しない位置検出器からのフィードバック信号によって制御量を補償してサーボ制御するモータドライバ8とを備えている。
【0016】
本実施形態の移動部5は、マグネットヨーク部7が固定側でリニアモータコイル部6が可動側となる、いわゆるムービングコイル方式が適用されており、リニアモータコイル部6の各コイルに駆動電流が流れて電磁力が発生することにより、マグネットヨーク部7の永久磁石に対して駆動力が発生し、この駆動力によって積載台4のX軸方向の移動が制御される。
【0017】
なお本発明において移動部5は、リニアモータコイル部6が固定側でマグネットヨーク部7が可動側となる、いわゆるムービングマグネット方式を適用してもよい。またリニアモータに限られるものではなく、積載台4をX軸方向に移動制御可能であれば、回転駆動モータやボールねじ等で構成される駆動機構であってもよい。
【0018】
電極2には、電極2を、その軸2aを中心にして図1中のM方向に回転させる図示しない電極回転手段と、電極2をY軸方向及びZ軸方向に移動させる電極移動手段とが配設されている。なお本発明において電極移動手段は、電極2をY軸方向のみに移動させるものであってもよい。
【0019】
また微細軸形成装置1には、電極2及び2つの成形部材3A、3Bと接続し、電極2と成形部材3A及び電極2と成形部材3Bにそれぞれ電流を流して、電極2と成形部材3Aとの対向する面の間及び電極2と成形部材3Bとの対向する面の間にそれぞれ放電を発生させる放電加工電源(放電加工手段)9が設けられている。
【0020】
また微細軸形成装置1には放電加工電源9と成形部材3Aの間、放電加工電源9と成形部材3Bの間にはそれぞれ各成形部材3A、3Bに流れる放電電流を検出する電流検出器10A、10Bが設けられていて、さらに電流検出器10A、10Bにて検出される放電電流パルスから放電回数を電流の大きさの所定の閾値毎に計数する計数部16、計数部16の計数結果に基づいて移動部5を制御するモーションコントローラ19が設けられている。
【0021】
電流検出器10A、10Bは、放電加工電源9と成形部材3A及び放電加工電源9と成形部材3Bをそれぞれ接続する接続線が挿通する環状コア11A、11Bと、環状コア11A、11Bにそれぞれ巻き線が螺旋状に捲回する検出コイル12A、12Bと、検出コイル12A、12Bの各々の巻き線の終端にそれぞれ設けられた抵抗13A、13B及び抵抗13A、13Bに流れる電流を一定方向に流すダイオード13A、13Bと、電流信号を増幅するオペアンプ15A、15Bとを備えている。なお図示は省略しているがオペアンプ15A、15Bの下流には、電流信号のノイズ除去のための低域透過フィルタが設けられている。電流検出器10A、10Bを以上のように構成することにより、市販されている検出コイル12A、12Bを使用することができるので、電流検出器10A、10Bを安価に製作することができる。
【0022】
計数部16は、上記電流検出器10A、10Bから入力された電流信号を、段階的に設定された電流の大きさの閾値毎に出力するコンパレータ部17A、17Bとコンパレータ部17A、17Bから出力された信号の回数を設定された前記閾値毎にカウントするカウンタ18とを備えている。
【0023】
コンパレータ部17A、17Bは、それぞれ電流の大きさの閾値が、閾電流1、閾電流2、閾電流3、閾電流4に設定された4つのコンパレータ17−1、17−2、17−3、17−4を有している。各コンパレータ17−1、17−2、17−3、17−4は、上記電流検出器10A、10Bから入力された電流信号と各閾電流1、2、3、4の値とを比較し、入力された電流信号が各閾電流1、2、3、4よりも大きいときに当該コンパレータ17−1、17−2、17−3、17−4が信号を出力する。
【0024】
例えば電流検出器10Aが、図2に示すような波形の2つの連続する電流パルスが検出されたとした場合、検出された電流信号がコンパレータ部17Aに入力されたときには、各コンパレータ17−1、17−2、17−3、17−4は電流信号の立ち上がり信号を検出するものとし、コンパレータ17−1及びコンパレータ17−2は前後2つの電流パルスを検出してそれぞれ比較信号を出力し、コンパレータ17−3及びコンパレータ17−4は後の電流パルスのみを検出してそれぞれ比較信号を出力する。
【0025】
そしてカウンタ18は所定時間毎にコンパレータの比較信号の出力回数をカウントし、コンパレータ17−1及びコンパレータ17−2はそれぞれ2回、コンパレータ17−3及びコンパレータ17−4はそれぞれ1回を放電回数としてカウントする。このときカウントは8ビットの整数型にて行う(図4参照)。
【0026】
計数部16が上記のように放電回数をカウントすることにより、検出する電流の大きさに多少のばらつきがあっても出力された電流信号を放電回数としてカウントできる。
【0027】
モーションコントローラ19は、先ず閾電流1、2、3、4の値が大きくなるにつれて値が大きくなるように閾電流1、2、3、4毎に重み計数を設定する。そしてコンパレータ部17Aとコンパレータ部17Bの各々においてカウンタ18によりカウントされた放電回数を閾電流1、2、3、4毎に上記設定した重み計数で重み付けして合計した値を、それぞれ成形部材3Aと電極2との間に流れる放電電流の放電頻度及び成形部材3Bと電極2との間に流れる放電電流の放電頻度として算出し、成形部材3A側の放電頻度と成形部材3B側の放電頻度の差、つまり放電頻度差Nを算出する。なおこの放電頻度差Nは下記式(1)にて算出することができる。
【数1】

【0028】
ここでNは放電頻度差、a、a、a、aは重み計数、NA1、NA2、NA3、NA4はコンパレータ部17Aの出力数、NB1、NB2、NB3、NB4はコンパレータ部17Bの出力数である。なおこの放電頻度差Nを求める周期を頻度差算出周期とし、本実施形態では1msecに設定する。
【0029】
電流検出器10A、10Bの検出した電流値が大きいときには、成形部材3A又は成形部材3Bと電極2との間の距離が小さい、つまり電極2が成形部材3A又は成形部材3Bに近いことになるので、上記のように閾電流1、2、3、4の値が大きいほど、成形部材3A側の放電頻度と成形部材3B側の放電頻度の差に重い重み付けをすることにより、放電頻度差Nの値を大きくすることができる。
【0030】
なお上記式(1)において放電頻度差Nがプラスの値のときには、電極2が成形部材3Aに近づいており、マイナスの値のときには、電極2が成形部材3Bに近づいている。また放電頻度差Nの絶対値が大きいほど成形部材3A又は成形部材3Bにより近づいている。
【0031】
よって算出された放電頻度差Nの値が0よりも大きいとき、すなわちプラスの値のときには、電極2は成形部材3Aに近いので、電極2を成形部材3Aから遠ざけるべく、積載台4を図1中手前側に移動させ、放電頻度差Nの値が0よりも小さいとき、すなわちマイナスの値のときには、電極2は成形部材3Bに近いので、電極2を成形部材3Bから遠ざけるべく、積載台4を図1中奥側に移動させるように、モーションコントローラ19が積載台4つまり成形部材3A、3BのX軸方向の移動位置(指令位置データ)を算出する。
【0032】
モーションコントローラ19による移動部5の位置の指令は所定のサーボ周期(本実施形態では6msec)毎に行うため、6msecの間に上記式(1)により算出された6つの放電頻度差Nの平均放電頻度差σを下記式(2)にて算出する。ここで図3に平均放電頻度差σの算出方法を説明する図を示す。
【0033】
本実施形態では、平均放電頻度差σを算出するときに、サーボ周期毎に6つの放電頻度差Nを合計して6で割るのではなく、図3に示す如く、1msec前に算出した平均放電頻度差σm−1を使用した下記式(2)にて算出することにより算出処理の時間を低減する。
【数2】

【0034】
つまり、1msec前に算出した平均放電頻度差σm−1は、7msec前から1msec前の間で算出された放電頻度差Nm−5、Nm−4、Nm−3、Nm−2、Nm−1、Nの値を合計して6で割った値と同等の値なので、現在の平均放電頻度差σは、1msec前の平均放電頻度差σm−1から最も以前に算出された放電頻度差Nm−5を6で割った値を減算すると共に直前に算出された放電頻度差Nを6で割った値を加算することにより算出する。
【0035】
そして上記のようにして算出された平均放電頻度差σからサーボ周期毎のX軸の指令位置は、下記式(3)により算出される。
【数3】

【0036】
ここでPは今回の指令位置、Pi−1は前回の指令位置、Gはゲインである。なおゲインGの値は、予め放電頻度差Nの値と成形部材3A、3Bの移動量との関係から算出しておく。
【0037】
このように指令位置Pを算出するときに、直前に算出された放電頻度差Nではなく、式(2)によって1msec前の平均放電頻度差σm−1を考慮して求めた平均放電頻度差σを使用することにより、サーボ周期毎に位置指令を算出して指令移動量を出力するようにするので、積載台4のX軸方向の指令移動量の唐突な変化を抑えることができて、積載台4の移動を滑らかに行えるので、電極2の軸を、間隙dの中心に安定して移動させることができる。
【0038】
また平均放電頻度差σの値が大きいほど、前回の指令位置Pi−1からの積載台4の移動量が多くなるので、電極2と成形部材3A又は3Bとの距離が近いほど高速に遠ざけることができて、電極2をすばやく精度よく間隙dの中心に位置させることができる。
【0039】
また算出された平均放電頻度差σの値が0よりも大きいとき、すなわちプラスの値のときには、電極2は成形部材3Aに近いので、電極2を成形部材3Aから遠ざける方向つまり積載台4を図1中手前側に移動させ、平均放電頻度差σの値が0よりも小さいとき、すなわちマイナスの値のときには、電極2は成形部材3Bに近いので、電極2を成形部材3Bから遠ざける方向つまり積載台4を図1中奥側に移動させる。
【0040】
これにより隙間dの平行度を厳密に考慮しなくても電極2の軸2aを間隙dの中心に沿って移動させることができるので微細軸を容易に形成することができると共に、電流の大きさと放電回数の両方の値に基づいて移動部5による移動量を算出することにより電極が間隙dの中心を挟んで行ったり来たりして不安定な状態に陥ることがなく、安定して間隙dの中心に位置させておくことができ、微細軸の精度を向上させることができる。
【0041】
次に微細軸形成装置1における一連の加工動作にについて説明する。ここで図4にモーションコントローラ19の制御タイミングチャートの一例を示す図、図5に形成された微細軸の一例を示す図をそれぞれ示す。
【0042】
本実施形態の微細軸形成装置1は、図1に示す如く、先ず予め放電加工により直径0.3mmに加工された長さ2mmの電極2を電極回転手段(図示は省略)によって回転させながら、電極移動手段(図示は省略)によって電極2の下端が成形部材3A、3Bの下面と略同位置に位置するようにZ軸下方向に移動させてから、間隙dに沿って図1中Y軸方向に移動させるべく、成形部材3A、3Bの近傍から成形部材3A、3Bに向かって移動させる。
【0043】
電極2のY軸方向への移動と共に、放電加工電源9が電極2と成形部材3A及び電極2と生成部材3Bにそれぞれ電流を流す。
【0044】
すると電極2が成形部材3A、3Bと所定の距離まで近づくと、成形部材3A及び成形部材3Bと対向する電極2の外周面との間に放電が発生して成形部材3A、3Bと電極2がそれぞれ加工される。
【0045】
そして電極2が上記のように加工されつつ間隙dに沿って移動中に、電流検出器10A、10B、計数部16、モーションコントローラ19によって電極2の軸2aが間隙の中心と一致して移動するように移動部5に積載台4の位置すなわち成形部材3A、3Bの位置を指令する。
【0046】
モーションコントローラ19による位置指令データの算出は、図4に示す如く、成形部材3A側の放電電流を検出する電流検出器10A及び成形部材3B側の放電電流を検出する電流検出器10Bがそれぞれ電流信号を検出して出力し、この出力信号を計数部16が上述のようにして放電回数としてカウントする。放電回数のカウントは、図4に示すようにカウント周期A中に出力された電流信号は、次回のカウント周期B中にカウントされる。
【0047】
そしてモーションコントローラ19が、直前に計数部16にてカウントされた放電回数を使用して、上述のように頻度差算出周期の1msec毎に上記式(1)から放電頻度差Nを算出する。
【0048】
さらにサーボ周期の6msec毎に、7msec前に算出された放電頻度差Nm−5、直前に算出された放電頻度差Nと平均放電頻度差σm−1を使用して、上述のように上記式(2)から平均頻度差σを算出し、上記式(3)から指令位置Pを算出して、この指令位置Pに積載台4が位置するように移動部5を駆動させる。
【0049】
このときサーボ周期毎に、積載台4を前回の指令位置Pi−1から今回の指令位置Pまで移動させるので、上記式(3)において平均放電頻度差σの値が大きければ大きいほど移動量は多くなる。つまり平均放電頻度差σの値が大きいと電極2と成形部材3A又は成形部材3Bの距離が近いので、サーボ周期つまり6msecに積載台4が移動する移動量を多くすることにより、前回の指令位置Pi−1から今回の指令位置Pまで速く移動し、逆に平均放電頻度差σの値が小さいと電極2と成形部材3A又は成形部材3Bの距離が遠いので、サーボ周期つまり6msecに積載台4が移動する移動量を小さくすることにより、前回の指令位置Pi−1から今回の指令位置Pまでゆっくり移動する。
【0050】
このように放電頻度差の大きさによって積載台4すなわち成形部材3A、3Bの移動速度を変化させることにより、電極2と成形部材3A又は成形部材3Bの距離の大きさ応じた適切な速度で電極2の軸2aを間隙dの中心に位置させることができる。
【0051】
以上のように、電極2の軸2aを間隙dの中心と一致させながら放電加工を行うことにより、図5に示すように電極2の下端部を直径20μm、長さ1mmの微細軸を形成することができる。
【0052】
なお本実施形態の移動部5は、積載台4を介して成形部材3A、3BをX軸方向に移動させるものとしたが、本発明はこれに限られるものではなく、成形部材3A、3Bと電極2とが相対的に移動可能であればよいので、電極2をX軸方向に移動させるものであっても、電極2と成形部材3A、3Bの両方をそれぞれX軸方向に移動させるものであってもよいし、適宜変更することができる。
【0053】
本発明の微細軸形成装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】微細軸形成装置の概略構成図
【図2】放電時の電流値の波形の一例を示す図
【図3】平均放電頻度差の算出方法を説明する図
【図4】モーションコントローラの制御タイミングチャートの一例を示す図
【図5】形成された微細軸の一例を示す図
【図6A】従来の逆放電加工法を説明する図
【図6B】従来のワイヤ放電研削法を説明する図
【符号の説明】
【0055】
1 微細軸形成装置
2 電極
3A、3B 成形部材
4 積載台
5 移動部(移動手段)
9 放電加工電源(放電発生手段)
10A、10B 電流検出器(電流検出手段)
16 計数部(計数手段)
17A、17B コンパレータ部
18 カウンタ
19 モーションコントローラ(制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細軸に加工される電極と、
該電極が挿入される間隙を設けて対向配置された2つの成形部材と、
前記電極を、該電極の軸を中心に回転させる電極回転手段と、
該電極回転手段により回転せしめられている前記電極を、前記間隙に沿って相対的に移動させる電極移動手段と、
該電極移動手段により前記電極が前記間隙に沿って移動せしめられているときに、前記2つの成形部材と前記電極とを、前記間隙に沿った方向と略直交する方向に相対的に移動させる移動手段と、
前記間隙に挿入された前記電極の一部と前記2つの成形部材との間に放電を発生させる放電発生手段と、
一方の前記成形部材と前記電極との間に流れる第1の放電電流と、他方の前記成形部材と前記電極との間に流れる第2の放電電流とをそれぞれ検出する電流検出手段と、
電流の大きさの所定の閾値を段階的に設定し、前記電流検出手段により検出された放電電流の放電回数を前記所定の閾値毎に計数する計数手段と、
前記計数手段により計数された前記放電回数を前記所定の閾値毎に重み付けして合計した前記第1の放電電流の放電頻度と前記第2の放電電流の放電頻度の差が小さくなるように前記移動手段を制御する制御手段を備えていることを特徴とする微細軸形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6A】
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【図6B】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−94783(P2010−94783A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268477(P2008−268477)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000132725)株式会社ソディック (197)
【Fターム(参考)】