説明

微細針構造体及び微細針構造体デバイス

【課題】生体に苦痛を与えることなく、生体へ薬剤の供給又は/及び生体から血液又は/及び体液の採取を確実に行えるようにすること。
【解決手段】上記課題を解決するために、先端側に可動アンカー部(1)と内部に内容物保持部(2)とを有し、
前記可動アンカー部(1)は、形状記憶材料からなることにより、室温では閉じて針の先端となり体温では開いて前記内容物保持部(2)の口となることを特徴とする微細針構造体としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば医療、創薬等に用いる微細針構造体及び微細針構造体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から薬剤を経皮的に投与する方法として、注射針により薬剤を皮内、皮下、筋肉層等へ注入が行われている。
【0003】
しかし、従来の注射針では表皮、真皮、皮下又は筋肉層に穿刺することができるが、真皮は神経細胞が含まれるので注射針の真皮への穿刺は苦痛が大きい。
【0004】
これを克服するため、塗布軟膏やホクナリンテープ等のツロブテロール貼付剤のような経皮吸収剤を使用し薬剤を皮膚から投与する方法がある。この方法は、穿刺による苦痛を避けることができるが、薬剤を皮膚から投与するため非常に制限がある。すなわち皮膚を容易に浸透/透過することができるのは少数の薬剤のみであり、大半の薬剤は十分な量又は速度で皮膚を浸透/透過することができない。
【0005】
大半の薬剤が十分な量又は速度で皮膚を浸透/透過することができないのは、皮膚の最表面にある角質層が原因であり、角質層は厚さ20μm程度の層構造をとっており、異物や微生物、ウィルス等の体内への侵入および水分等の体内からの蒸発を防ぐバリア機能を持っている。そのため薬剤が角質層を浸透/透過することが困難となっている。
【0006】
経皮的に薬剤の透過性を向上させるためのデバイスの形態として、痛みを伴わない無痛針としてマイクロニードルの開発が進められている。
【0007】
例えば、医療用マイクロニードルは体内への薬剤の供給や体内からの血液/体液の採取に用いられることを目的とし、その内部に形成された貫通口を液体が通過するタイプが提案されている(例えば特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0008】
また、アレイ状に配置した貫通口の無いマイクロニードルのニードルアレイ面に、あらかじめ薬剤を塗布し、ニードルアレイ面を皮膚に押し付けることにより、ニードル表面と皮膚の間を浸透するタイプが提案されている(例えば特許文献2及び非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−369816号公報
【特許文献2】特開2004−114552号公報
【非特許文献1】Shyh−Chyi Kuo et al,“Novel Polymer Microneedle Arrays and PDMS Micromolding Technique”,Tamkang Journal of Science and Engineering,2004,Vol.7,No.2,p.95−98A
【非特許文献2】Jung−Hwan Park et al.“Biodegradable polymer microneedles:Fabrication,mechanics and transdermal drug delivery”,Journal of Controlled Release,2005,104,p.51−66
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した従来の技術にあっては、次の問題があった。
【0010】
すなわち、特許文献1や非特許文献1に記載された技術の場合、内部に貫通口が形成されたマイクロニードルで毛細管現象を利用して、体内からの血液/体液の採取を行うが、マイクロニードルの材料と血液/体液の濡れ性に毛細管現象が影響してしまう為、安定した血液/体液の採取が困難となっている。
【0011】
また、薬剤を毛細管現象により貫通口が形成されたマイクロニードルに保持する際にもマイクロニードルの材料と薬剤の濡れ性に毛細管現象が影響してしまう為、マイクロニードル材料と薬剤の組み合わせが制限されるか、マイクロニードル材料にUV処理やEB処理等の特殊な表面処理が必要となる。
【0012】
また特許文献2や非特許文献2に記載された技術の場合、薬剤を効率よく皮膚内に浸透させるために、表皮の厚み(50〜150μm)を超える200μm程度の長さのニードルを、アレイ状に多数配置して用いられるのが一般的であるが、従来のマイクロニードルの形状、大きさでは、ニードル1本あたりの薬剤の塗布量が足りないため、単にニードルをアレイ状に配置するだけでは、十分な量の薬剤を投与することが出来ない。また、薬剤の塗布量を増やすために、ニードルをそれ以上大きくすると、疼痛を感じてしまうため、無痛針として機能しなくなってしまう。
【0013】
本発明は、これらの問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、生体に苦痛を与えることなく、生体へ薬剤の供給又は/及び生体から血液又は/及び体液の採取を確実に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明において上記課題を解決するために、まず請求項1の発明では、
先端側に可動アンカー部と内部に内容物保持部とを有し、
前記可動アンカー部は、形状記憶材料からなることにより、室温では閉じて針の先端となり体温では開いて前記内容物保持部の口となることを特徴とする微細針構造体としたものである。
【0015】
また請求項2の発明では、
前記内容物保持部は、内容物として薬剤又は/及び血液又は/及び体液を保持することに用いられる空間であること特徴とする請求項1に記載の微細針構造体としたものである。
【0016】
また請求項3の発明では、
前記形状記憶材料が生体適合性材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の微細針構造体としたものである。
【0017】
また請求項4の発明では、
前記生体適合性材料からなる形状記憶材料がニッケル・チタン合金であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の微細針構造体としたものである。
【0018】
また請求項5の発明では、
前記生体適合性材料からなる形状記憶材料が二方向性形状記憶合金であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の微細針構造体としたものである。
【0019】
また請求項6の発明では、
前記可動アンカー部は、生体への穿刺時に体温で開くことにより、該生体から引き抜けなくなるアンカー効果を発揮することを特徴とした請求項1〜5の何れか1項に記載の微細針構造体としたものである。
【0020】
また請求項7の発明では、
前記可動アンカー部は、生体への穿刺時に体温で開いた後に、冷却されることにより閉じて該生体から引き抜けることを特徴とした請求項6記載の微細針構造体としたものである。
【0021】
また請求項8の発明では、
生体への穿刺時に前記可動アンカー部が体温で開くことにより、前記内容物保持部から薬剤が該生体へ放出又は/及び、該生体から前記内容物保持部へ血液又は/及び体液が採取されることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の微細針構造体としたものである。
【0022】
また請求項9の発明では、
請求項1〜8の何れか1項に記載の微細針構造体がアレイ状に複数配置されていることを特徴とした微細針構造体デバイスとしたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の微細針構造体では、可動アンカー部は、室温では閉じて針の先端となり体温では開いて内容物保持部の口となるので、生体へ苦痛を与えることなく穿刺が行え、その穿刺時に、生体から脱落することがなく、生体へ薬剤の供給又は/及び生体から血液又は/及び体液の採取をすることが確実に行えるという効果がある。
【0024】
また本発明の微細針構造体デバイスでは、本発明の微細針構造体をアレイ状に複数配置したものなので、上記効果をより向上させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の微細針構造体デバイスについて、幾つかの最良の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0026】
図1〜3は、本発明にかかる微細針構造体のそれぞれ一形態を示す断面図であり、図1〜3(a)は穿刺前の室温における微細針構造体のそれぞれ一形態の形状を示す断面図、図1〜3(b)は穿刺後の体温による加熱時における微細針構造体のそれぞれ一形態の形状を示す図である。
【0027】
微細針構造体H、H’、H”は、少なくとも先端側に可動アンカー部1と内部に内容物保持部2とを有する。内容物保持部2は、内容物として、薬剤又は/及び血液又は/及び体液を保持する空間である。
【0028】
微細針構造体H、H’、H”の大きさは、高さ20μm以上1mm以下、好ましくは100μm以上400μm以下とし、無痛針としての機能を保持するためには、皮膚における角質層の厚さ以上表皮の厚さ以下とすることが望ましい。
【0029】
可動アンカー部1の大きさは、微細針構造体H、H’、H”の大きさの1/5以上4/5以下程度とし、好ましくは、微細針構造体H、H’、H”の大きさの2/5程度にすることが望ましい。これにより最低限のアンカー効果を発揮することができる。
【0030】
微細針構造体H、H’、H”の材料としては、形状記憶ポリマー、形状記憶セラミック、形状記憶合金等の形状記憶材料を用いることができ、好ましくは、Ti−Ni合金、Au−Cd合金、Cu−Al−Ni合金、Cu−Al合金、Cu−Zn合金を用いることが望ましい。
【0031】
特にTi−Ni合金は、人工生体材料や内視鏡等の医療器具に用いられており、剛性、超弾性を有し、生適合性の面からも適している。さらに二方向性形状記憶合金を用いることが望ましい。
【0032】
微細針構造体H、H’、H”は、射出形成方法、キャスト形成方法、切削形成方法、レーザー加工、鋳造方法、鍛造方法、サンドブラスト方法、インプリント方法等の形成方法から単独又は、併用して作製することができる。
【0033】
以下に本発明に係る実施形態の使用方法の一例を図4に従って詳細に説明する。
【0034】
まず図4(a)及び図4(b)に示すように可動アンカー部1及び薬剤を保持する内容物保持部2を有する微細針構造体Hを先端から生体5に穿刺する。
【0035】
次に図4(c)に示すように生体5の体温により微細針構造体Hが加温され、微細針構造体Hの先端側にある可動アンカー部1が開きアンカー効果を発揮し、微細針構造体Hの生体5からの脱落を防ぐことができる。
【0036】
また図4(d)に示すように可動アンカー部1が開くことにより、薬剤を保持する内容物保持部2から生体5へ薬剤6を供給することができる。
【0037】
その後図4(e)及び図4(f)に示すように冷却材7を用いて微細針構造体Hを冷却することにより、微細針構造体Hの可動アンカー部1が閉じ、アンカー効果が取り消され、生体5から微細針構造体Hを容易に引き抜くことができる。
【0038】
以下に本発明に係る微細針構造体の使用方法のもう一例を詳細に説明する。
【0039】
まず可動アンカー部1及び空の内容物保持部2を有する微細針構造体Hを先端から生体に穿刺する。
【0040】
次に生体の体温により微細針構造体Hが加温され、微細針構造体Hの先端側にある可動アンカー部1が開きアンカー効果を発揮し、微細針構造体Hの生体からの脱落を防ぐことができる。
【0041】
また可動アンカー部1が変形することにより、生体から内容物保持部2へ毛細管現象により血液又は/及び体液を採取することができる。
【0042】
その後冷却材を用いて微細針構造体Hを冷却することにより、微細針構造体Hの可動アンカー部1が閉じ、アンカー効果が取り消され、生体から微細針構造体Hを容易に引き抜くことができる。
【0043】
上記各使用例では、微細針構造体Hを例にして説明したが、微細針構造体H’、H”でも同様に使用できる。
【0044】
また、図5に示すように前述した微細針構造体を基板3上へアレイ状に配置したものを
微細針構造体デバイスとして用いることにより、その効果をより向上させることができる。
【0045】
以上、本発明の微細針構造体及び微細針構造体デバイスを図示の形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
以下に、本発明の実施例1を図4に従って具体的に説明する。尚、生体5としてマウスの皮膚を用いた。
【0047】
Ti−Ni合金からなり、先端側に可動アンカー部1及び内部に薬剤を保持する内容物保持部2を有する、直径80μm、高さ300μmの微細針構造体Hを先端からマウスの皮膚5に穿刺した(図4(a)、(b)参照)。
【0048】
穿刺後にマウスの体温により可動アンカー部1が開きアンカー効果を発揮すると共に、微細針構造体H内部の薬剤を保持する内容物保持部2から薬剤6がマウスに供給された。この時、マウスの激しい動きにも微細針構造体Hは脱落することなく穿刺状態を保つことができた(図4(c)、(d)参照)。
【0049】
穿刺後24時間が経過し、氷からなる冷却材7を用いて微細針構造体Hを冷却したところ、可動アンカー部2が閉じ、アンカー効果が取り消された(図4(e)参照)。
【0050】
アンカー効果が取り消されることにより、微細針構造体Hをマウスの皮膚5から容易に取り除くことが可能となった。
【0051】
また、薬剤の供給効率を評価したところ従来の微細針構造体と比較して8割程度、供給効率の向上が確認された。
【実施例2】
【0052】
以下に、本発明の実施例2を具体的に説明する。
【0053】
Ti−Ni合金からなり、先端側に可動アンカー部1及び内部に空の内容物保持部2を有する、直径80μm、高さ300μmの微細針構造体Hを先端からマウスの皮膚に穿刺した。
【0054】
穿刺後にマウスの体温に可動アンカー部1が開きアンカー効果を発揮すると共に、微細針構造体内部Hの内容物保持部2へ毛細管現象によりマウスの血液が採取されていく。この時、マウスの激しい動きにも微細針構造体は脱落することなく穿刺状態を保つことができた。
【0055】
穿刺後5分が経過し、十分な量の血液が微細針構造体H内部の内容物保持部2に採取され、氷からなる冷却材を用いて微細針構造体Hを冷却したところ、可動アンカー部1が閉じ、アンカー効果が取り消された。
【0056】
アンカー効果が取り消されたため、微細針構造体Hをマウスの皮膚から容易に引き抜いた。また、可動アンカー部1が閉じているため、血液も微細針構造体H内部の内容物保持部に確実に採取することができた。
【0057】
マウスの皮膚から引き抜いた微細針構造体Hをマウスの体温と同程度に加熱し、可動アンカー部1を開き、内容物保持部2へ採取されたマウスの血液をDNAチップへ導入し、
血液の分析を行うことができた。
【0058】
また、血液の採取効率を評価したところ、従来の微細針構造体と比較して7割程度、採取効率の向上が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(a)は、本発明に係る微細針構造体の一形態における穿刺前の断面図であり、(b)は穿刺後の断面図である。
【図2】(a)は、本発明に係る微細針構造体の一形態における穿刺前の断面図であり、(b)は穿刺後の断面図である。
【図3】(a)は、本発明に係る微細針構造体の一形態における穿刺前の断面図であり、(b)は穿刺後の断面図である。
【図4】本発明に係る微細針構造体の使用方法の一例を示す断面図である。
【図5】(a)は、本発明に係る微細針構造体デバイスの一形態における穿刺前の断面図であり、図5(b)は穿刺後の断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1…可動アンカー部
2…内容物保持部
3…基板
5…生体
6…薬剤
7…冷却剤
H…微細針構造体
H’…微細針構造体
H”…微細針構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に可動アンカー部と内部に内容物保持部とを有し、
前記可動アンカー部は、形状記憶材料からなることにより、室温では閉じて針の先端となり体温では開いて前記内容物保持部の口となることを特徴とする微細針構造体。
【請求項2】
前記内容物保持部は、内容物として薬剤又は/及び血液又は/及び体液を保持することに用いられる空間であること特徴とする請求項1に記載の微細針構造体。
【請求項3】
前記形状記憶材料が生体適合性材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の微細針構造体。
【請求項4】
前記生体適合性材料からなる形状記憶材料がニッケル・チタン合金であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の微細針構造体。
【請求項5】
前記生体適合性材料からなる形状記憶材料が二方向性形状記憶合金であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の微細針構造体。
【請求項6】
前記可動アンカー部は、生体への穿刺時に体温で開くことにより、該生体から引き抜けなくなるアンカー効果を発揮することを特徴とした請求項1〜5の何れか1項に記載の微細針構造体。
【請求項7】
前記可動アンカー部は、生体への穿刺時に体温で開いた後に、冷却されることにより閉じて該生体から引き抜けることを特徴とした請求項6記載の微細針構造体。
【請求項8】
生体への穿刺時に前記可動アンカー部が体温で開くことにより、前記内容物保持部から薬剤が該生体へ放出又は/及び、該生体から前記内容物保持部へ血液又は/及び体液が採取されることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の微細針構造体。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の微細針構造体がアレイ状に複数配置されていることを特徴とした微細針構造体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−66104(P2009−66104A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236336(P2007−236336)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】