説明

心肺蘇生用圧迫力インジケータ

心肺蘇生(CPR)用の圧迫力インジケータは、患者がCPRを施されている間、患者の経胸腔インピーダンスをモニタし、対応するインピーダンス信号を生成する手段(20、26、28、30)と、心血行動態出力の継続的な測定値を提供するために前記インピーダンス信号を処理する手段(32、34、36)と、前記測定値を事前設定限度を外れるかどうかを判定する手段(24)と、かかる判定をCPRを施している人に外部的に指示する手段(38)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心肺蘇生時に、患者に与える圧迫力を指示するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インピーダンスカーディオグラム(ICG)は、心血行動態出力の測度である。インピーダンスは、交流電流の通過に対する抵抗の大きさである。一定の、低振幅で、高周波数の電流を胸部に流すことができ、これにて得られる電圧、すなわち、電流を患者に印加する電極間に現れる電圧は、心臓の内外における血液の動きによって生じるインピーダンスの測度である。血液量の高い部位は低インピーダンスを呈し、血液量の低い部位は高インピーダンスを呈する。血流及び血液量の変化が生じて、インピーダンスは変化するので、この関係を心臓機能の検査に用いることができる。呼吸中の呼気及び吸気によっても胸部のインピーダンスは変化するが、心臓によって引き起こされる変化よりも非常にゆっくりとした変化である。インピーダンス信号の一次導関数を得ることによって、胸部のインピーダンスの変化を表す波形が生成され、この形で、摂動及び呼吸器の影響をより一層速やかに除去することができる。その結果が、心血行動態出力を表す波形(ICG)である。
【0003】
突然の心拍停止(SCA)の場合には、心臓の電気的機能及び血行動態機能はほとんど停止し、呼吸が止まってしまう。このような状態下では、電気療法を適用すべきであるが、心肺蘇生(CPR)も併せて行わなければならない。CPRを施す圧迫速度及び圧迫力は、患者を速く、しかも完全に回復させるのに極めて重大である。圧迫速度に関して、圧迫が遅すぎると、血液は主要な臓器を維持するのに十分な速さで循環することができない。圧迫が速すぎると、圧迫による大動脈中への血液の放出前に、心臓を血液で満たすのに充分な時間が与えられない。同様に、圧迫力が弱いと、不十分な血流を引き起こしている心臓を適切に圧迫できない。圧迫力が強すぎると、肋骨及び肺に損傷を与えるだけでなく、極端な場合には、心臓そのものに損傷を与えるかもしれない。緊急時及び家庭での民生用に除細動器を使用する人たちの訓練を最小限にするという最近の動向は、CPR技術におけるリアルタイムな支援の必要性を引き起こしている。したがって、CPRにおける指示を除細動器の使用時における指示と統合させることが、ますます重要になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術は、患者のECG及び経胸腔インピーダンスをモニタし、且つ電気療法を適用するために用いることができる、電極内に一体化した力センサの使用を教示している。CPRを適用する際に、その当事者は、センサの上から圧迫するよう要求され、それに印加する力と装置に予め定められている力との比較に従って、印加する力を減少させるか、又は増加させるかアドバイスを受けることができる。しかし、このような技法には明らかに多くの問題がある。
【0005】
第1の問題は、2つの電極及び力センサを単一体として構成しなければならないことにある。その結果、部品の配置が重要となり、電極の配置と力センサの配置との間の距離に妥協点を見出さなければならない。前方−後方間又は心尖−胸骨間の配置の選択を当事者にさせることはできない。従って、小児使用には、全く異なる部品が必要となる。
【0006】
第2の問題は、電極は使い捨てであり、力センサを含めることは高価なオプションであり、コンシューマ又は家庭での当事者を対象とした装置には、それらの主要な存在理由は適さないということにある。
【0007】
さらにまた、緊急時に、自動化された圧迫システム内のセンサを使用することは厄介である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、心肺蘇生(CPR)用の圧迫力インジケータであって、CPRが患者に施されている間、患者の経胸腔インピーダンスをモニタし、対応するインピーダンス信号を生成する手段と、心血行動態出力の継続的な測定値を提供するために前記インピーダンス信号を処理する処理手段と、前記測定値が事前設定限度を外れるかどうかを判定する判定手段と、かかる判定をCPRを施している人に指示する指示手段と、を備えている心肺蘇生(CPR)用圧迫力インジケータを提供する。
【0009】
インジケータは、必ずしもその必要はないが、患者にショックを与えることと、患者の経胸腔インピーダンスを得ることとの双方のための患者用電極を含んでいる、自動体外式除細動器(AED)の一部を形成することができる。
【0010】
本発明は、CPRの間、心血行動態出力は患者に与えられる圧迫力の関数となるという見識に基づいて成したものであり、したがって、好ましくはICG形式の患者の経胸腔インピーダンスによって、ユーザ、すなわちCPRを施す人にフィードバックするための圧迫力の信頼できる測度を提供することができる。
【0011】
本発明の実施態様では、CPRの間、印加する力が適切であるか、弱いか、又は強すぎるかについてユーザにアドバイスするCPR用圧迫力インジケータを、AEDに組み込む。AEDは、患者の経胸腔インピーダンスを測定し、それを用いてショックを与えるべきか否かを判定する診断アルゴリズムの特異度を増大させる。インピーダンス信号は、また、ICGを得るためにも処理される。心拍停止後のCPRの場合に、CPRの間に患者の胸部に印加される圧迫力は、ICG信号の反応によって測定することができる。ユーザは、印加する力が適切であるか、弱いか、又は強すぎるかを、視覚及び/又は音声指示によって、アドバイスを受けることができる。
【0012】
本発明の装置は、コンパクトかつ安価な方法で実装でき、CPR実施の効果をかなり改善することができるため、心拍停止後の生存率を高めることができる。このことは、ガイドラインが提示しているように、CPRを除細動の前に施さなければならない場合に、心拍停止が長期にわたるときに特に顕著である。
【0013】
更に、本発明は、心肺蘇生(CPR)の間、圧迫力を指示する方法であって、CPRが患者に施されている間、患者の経胸腔インピーダンスをモニタし、対応するインピーダンス信号を生成するステップと、心血行動態出力の継続的な測定値を提供するために前記インピーダンス信号を処理するステップと、前記測定値が事前設定限度を外れるかどうかを判定するステップと、かかる判定をCPRを施している人に指示するステップと、を含む、心肺蘇生(CPR)時の圧迫力指示方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を内蔵する自動体外式除細動器のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照するに、自動体外式除細動器は、3つの主要部10、12及び14を備えている。
【0016】
主要部10は、メインの高電圧ショック回路であり、充電回路18によって高電圧に充電されるコンデンサ16のバンクを備えており、コンデンサの電荷はブリッジ回路22によって一対の患者用電極20を介して二相性の高電圧のショックとして放出される。コンデンサ16の充電及び二相性のショック波形の形状と持続時間は、マイクロプロセッサ24によって制御され、実際のショックは、入力として患者のECGを有する診断アルゴリズムによって判定されるように、患者の状態が「除細動可能」(”shockable”)とみなされる場合に、ユーザがボタンを押すことによって与えられる。ECGは既知の方法で導き出されるため、説明を省略する。一連の作業は、可視/可聴インジケータ38(インジケータは、図の便宜上主要部12内に示してある)に音声メッセージ及び/又は視覚プロンプトの出力によって促される。可聴/可視出力のインジケータ38は、スピーカ及び/又は少なくとも1つのLEDを備えることができる。
【0017】
主要部12は、ショックを与えるために使われるのと同じ電極20を使用して患者の経胸腔インピーダンスを測定する。周波数発生器26は、30キロヘルツの正弦波を100マイクロアンペアの定電流で発生する。この信号は、電極20間に印加される。電極を患者に取り付けると、30キロヘルツの正弦波に重畳される電圧が電極間に発生する。この電圧は、患者の経胸腔インピーダンスを直接測定したものである。正弦波に応答して発生する電圧は、差動増幅器28に供給され、この増幅器は、その電圧を差動信号からアース電位を基準とする単一信号に変換する。これにて得られた波形信号は、患者のインピーダンスに正比例する信号Zを残して元の30キロヘルツの信号を除去するローパスフィルタ30を通過する。マイクロプロセッサ24は、二相性パルスの振幅及び幅を設定して正確な全エネルギー(典型的には、150ジュール)が患者に確実に届けられるようにするために、インピーダンス信号を用いる。
【0018】
AEDの主要部10及び主要部12の構成及び動作そのものは周知であるので、更なる詳細は省略する。
【0019】
主要部14は、マイクロプロセッサ24による微分に備えてインピーダンス信号Zを更に調節するためのものであり、この主要部14は、患者のインピーダンスを測定するための既存の回路である主要部12に付加される。主要部14の主な目的は、ショック回路10によってショックを与えた後のCPRの実施期間中、心血行動態出力を絶えず測定することにあるが、後述するように、それはまた、CPRが施されない期間中に診断アルゴリズムへの入力としてICGを提供するためにも用いることができる。
【0020】
ショックを与えた後すぐに、心肺蘇生を施す人のためのガイドとして、内蔵メトロノーム(図示されないが、従来技術である)を1分間につき100回の拍子で始動させる。これは2分間続けるのであって、この期間は、ショックと次のショックとの間に与えられるべきCPRの推奨期間である。
【0021】
除細動器の主要部14では、ローパスフィルタ30から出力されたインピーダンス信号を、ハイパスフィルタ32に通し、これにてローパスフィルタ34でより高い周波数ノイズを除去する前にDCオフセットを除去する。その後、信号をローパスフィルタ34に通して、より高い周波数ノイズを除去する。最後に、信号を、デジタルゲイン制御を内蔵している増幅器36において、マイクロプロセッサ24によるアナログ―デジタル変換に適したレベルにスケーリングする。これにて得られたインピーダンス信号Z’は、フィルタリング及び増幅率の点で信号Zとは異なるが、それでもまだ患者の経胸腔インピーダンスの測度である。信号Z’はデジタル信号に変換され、その後(デジタルの)ICGを導出するために、マイクロプロセッサのソフトウェアによって微分される。心肺蘇生の間、ICGを調べることによって、マイクロプロセッサ24は、CPRの間に与えられている圧迫力が適切であるか、弱すぎるか、又は強すぎるかを判定することができる。これは上下の閾値を規定することによって行い、ピークのICG電圧が上限閾値を越える場合に圧迫力は強すぎるとみなす。同様に、ピークのICG電圧が下限閾値よりも低い場合、圧迫力は弱すぎるとみなす。ピークのICG電圧が上下の閾値の間に位置する場合のみ、圧迫力は適切であるとみなす。
【0022】
CPRの間、圧力をより強くか、同じか、又はより弱く印加すべきかどうかについての指示は、インジケータ38の出力の音声メッセージ及び/又は視覚的指示をマイクロプロセッサにより制御することにより達成される。好適な実施形態においては、3状態LEDを用いて、圧力の印加が弱い場合には、インジケータが第1の色を示し、圧力の印加が強い場合には第2の色を示し、圧力が適切な場合には第3の色を示す。別の実施形態では、発光強度が変化する1つのLEDか、各状態に1つずつの3つのLEDか、ディスプレイスクリーン上に現れるシンボル/アイコンか、音声メッセージか、又はこれらのうちの2つ以上の組合せを用いる。
【0023】
選定する特定の上下の閾値は、固定させるか、又は患者の年齢、体格及び/又は体重によって変えることができる。例えば、子供は通常、成人に比べてはるかに少ない圧迫力で済む。これらの患者の変数は、マイクロプロセッサ24に自動で入力することも、手動で入力することもできる。増幅器36のゲインも、同様に固定させるか、同じ患者の変数に従って変えさせることができ、ICGの振幅は軽い圧迫を受ける子供の場合よりも、強い圧迫を受ける成人のほうがはるかに大きくなるということが理解される。閾値のレベル及び増幅器のゲインにおける変化は、個々の範囲にとって適切と思われる圧迫力の範囲を調査することによりから経験的に導き出すことができる。また、電極20を交換することによって、小児患者用の除細動器を使用することも可能である。この電極の交換は除細動器によって検知することができるので、自動的に子供に適用できる圧迫力閾値レベルを変えることができる。
【0024】
これまでは、CPRの期間を2分に固定するシステムについて述べたが、CPRの期間を「適切な」圧迫数の関数、すなわちインジケータ38が適切な圧迫レベルを示した期間として規定することも可能である。
【0025】
上記実施形態の変更態様として、マイクロプロセッサは、ICGから導出されるようなCPRを適用する実際の圧迫速度をメトロノームの速度と比較し、CPRが正しい圧迫速度、すなわちメトロノームの速度に合った設定範囲内の測度か、遅すぎる圧迫速度(設定範囲以下)か、又は速すぎる圧迫速度(設定範囲以上)で施されている場合に、インジケータ38の音声メッセージ及び/又は視覚的指示出力によって、ユーザに指示するようにプログラムされることができる。
【0026】
上述したように、除細動器の主要部14によって導出される信号Z’を微分することによって生成されるICGは、CPRを施していない期間中に、患者のECGに加えて診断アルゴリズムへの更なる入力として用いるのが好適である。これは、例えば、患者が診断アルゴリズムによって心室頻拍症(VT)であると判断される場合に、その診断アルゴリズムをさらに精緻化する。この症状のうちいくつかのものは除細動可能であり、他のものは不可能である。ICGは、VTのときに、十分な血流があるかどうかを判断するのに用いることができる。したがって、もし十分な血流がなければ、患者に適宜ショックを与えることができる。この場合、AD変換の全範囲を使用するために、増幅器36のゲインは、ICGの振幅が概してCPRの実施期間よりも非CPR期間のほうがはるかに低くなるので、非CPRの期間中には高く設定する必要がある。
【0027】
上記実施形態は心血行動態出力の測度としてICG(患者の経胸腔インピーダンスの一次導関数)を使用したが、患者の経胸腔インピーダンスの他の1つ以上の特徴又は特性を使用することもできる。
【0028】
本発明を自動体外式除細動器にて具体化したが、スタンドアローンのCPR用圧迫力インジケータを本発明の原理に従って、すなわち除細動器に無関係に作成することができる。
【0029】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内から逸脱することなく修正又は変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心肺蘇生(CPR)用の圧迫力インジケータであって、
CPRが患者に施されている間、患者の経胸腔インピーダンスをモニタし、対応するインピーダンス信号を生成する手段と、
心血行動態出力の継続的な測定値を提供するために前記インピーダンス信号を処理する処理手段と、
前記測定値が事前設定限度を外れるかどうかを判定する判定手段と、
かかる判定をCPRを施している人に指示する指示手段と、
を備えている心肺蘇生(CPR)用圧迫力インジケータ。
【請求項2】
前記処理手段は、患者のインピーダンスカーディオグラム(ICG)を得る手段を備えている、請求項1に記載のCPR用圧迫力インジケータ。
【請求項3】
前記判定手段は、前記ICGの振幅を上下の閾値と比較する比較手段を備えている、請求項2に記載のCPR用圧迫力インジケータ。
【請求項4】
前記指示手段は、可聴及び/又は可視インジケータを備えている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のCPR用圧迫力インジケータ。
【請求項5】
圧迫を与える速度の継続的な測定値を提供するために前記インピーダンス信号を処理する処理手段と、
前記測定値が事前設定限度を外れるかを判定する判定手段と、
かかる判定をCPRを施している人に指示する指示手段と、
をさらに備えている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のCPR用圧迫力インジケータ。
【請求項6】
前記インジケータは、患者にショックを与えることと、患者の経胸腔インピーダンスを得ることとの双方のための患者用電極を含んでいる自動対外式除細動器の一部を形成する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のCPR用圧迫力インジケータ。
【請求項7】
心肺蘇生(CPR)の間、圧迫力を指示する方法であって、
CPRが患者に施されている間、患者の経胸腔インピーダンスをモニタし、対応するインピーダンス信号を生成するステップと、
心血行動態出力の継続的な測定値を提供するために前記インピーダンス信号を処理するステップと、
前記測定値が事前設定限度を外れるかどうかを判定するステップと、
かかる判定をCPRを施している人に指示するステップと、
を含む、心肺蘇生(CPR)時の圧迫力指示方法。
【請求項8】
圧迫を与える速度の継続的な測定値を提供するために前記インピーダンス信号を処理するステップと、
前記測定値が事前設定限度を外れるかどうかを判定するステップと、
かかる判定をCPRを施している人に指示するステップと、
を含む、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−512811(P2010−512811A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540663(P2009−540663)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【国際出願番号】PCT/EP2007/011000
【国際公開番号】WO2008/071439
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(503338457)ハートサイン テクノロジーズ リミテッド (8)
【Fターム(参考)】