説明

必須金属アミノ酸錯体の溶液を動物に補足するための組成物の製造方法

【解決すべき課題】
安定で且つ水溶性の金属−アミノ酸溶液を開発すること。
【解決手段】
亜鉛、鉄、マンガン、クロム、又は銅を含む微量元素の安定な水性溶液錯体を調製する方法であって、微量元素塩を水に溶解する工程、L−リシン、グリシン、ロイシン及びセリンより成る群から選択され且つ錯体を形成するのに十分な量のアミノ酸を該微量元素塩の水溶液に添加する工程、及び温度を約50℃未満に維持しながらpHを2.0から6.0の範囲内に調整する工程を含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物飼料用栄養補助剤の分野に関するものであり、より具体的には必須金属アミノ酸錯体の安定な溶液を家畜動物の食餌に補足する調製物及び栄養価に関する。
【背景技術】
【0002】
食餌における十分量及び生体利用され得る形態の必須金属の存在は、家畜動物及び家禽の健康及び幸福を維持するために必須である。銅、鉄、マンガン及び亜鉛などの必須金属は、しばしば一般的な飼料成分に不足しているため、これらの栄養素の補足的な量がしばしば家畜動物及び家禽の飼料に添加される。多数の市販の飼料添加物は容易に生体利用できる形態の必須金属を提供するために開発されてきた。栄養素の生体利用性の程度はしばしば「生体利用率」と呼ばれる。必須金属の生体利用率は、該金属が食餌に存在する形態の物理学的及び/又は化学的な性質に応じて変化する。補足用の金属の生体利用率が増加することは、動物及び環境の両方に及ぼす高レベルの該金属の潜在的に有害な影響を小さくしながら、動物の栄養の必要量を満たす食餌において、より低濃度の金属を使用できるので有益である。
【0003】
微量元素が対応する無機資源の金属よりも生体利用率の高い幾つかの市販製品が利用できる。生体利用率の向上は、一般的にリガンドとして知られる有機分子と該金属の結合に起因する。この結び付き又は結合により、動物が利用する金属の利用率が結果として増加する、即ち生体利用率が増加する。これらの製品における必須元素の生体利用率の増加は、溶解度の増加、腸でのより高い安定性、循環系への吸収の増加及び/又は代謝利用向の結果である。
【0004】
本出願の一般譲受人は以前に生体利用率のより高い必須元素の資源としてアミノ酸の金属錯体を合成し特許を得た。以下はこれらの特許の例である。即ち、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、及び特許文献5は、アルファ・アミノ酸、好ましくはDL−メチオニンと、亜鉛、クロム、マンガン及び鉄の遷移金属との1:1錯体を開示している。L−メチオニンを用いた同様な錯体の形成は特許文献6に開示される。特許文献7及び特許文献8は末端アミノ基を含むアルファ・アミノ酸の銅錯体を開示する。銅、マンガン、亜鉛及び鉄とアルファ・ヒドロキシル脂肪族カルボン酸の錯体は特許文献9及び特許文献10に開示されている。特許文献11及び特許文献12はグルコヘプタン酸などのポリヒドロキシルカルボン酸とコバルトの錯体を開示する。微量元素とアミノ酸L−リシンとの錯体は特許文献13で開示されている。これらの特許で開示された化合物の有効性は、これらの特許の幾つか並びに多数の科学刊行物及び技術報告書で提示されるデータから証明される。
【0005】
上記の特許は純粋な合成又は天然のアミノ酸又はヒドロキシル酸の使用を記載する。特許文献14において、現行出願の譲受人はタンパク質の加水分解により得られた天然アミノ酸と必須元素の錯体の合成を開示した。この特許が取得されてから、多数の分野の研究により、これらの錯体に由来する金属が無機資源由来の金属よりも生体利用率が高いことを証明した。
【0006】
上に引用した特許に基づく市販製品は固体飼料への添加用に固体として入手可能である。これらの固体は担体を含有しない製品或いは材料が担体と混合された製品である。固体の飼料添加物を使用する利点は多数あり、取り扱い、出荷及び貯蔵の利便性、出荷費用の低さ、乾燥状態での錯体の安定性、最後に他の固体飼料成分への該固体の混合し易さを含む。金属−アミノ酸錯体を含有する水性組成物の調製方法及び該水性組成物の固体飼料への直接適用方法は特許文献15に記載されている。特許文献15 に記載された金属−アミノ酸錯体の水性組成物はしばしば不安定であり大量の沈殿物の形成をもたらす。特許文献15 に記載された異種産物の測定及び調剤に伴う困難を解決するため、本発明者らは、「過飽和流動性飼料栄養補助剤、例えば特許文献15に開示された亜鉛メチオニン過飽和飼料栄養補助剤などの物質の局部保存、計測及び調剤」のための方法及び装置を記載する特許出願を行い、特許を得た(特許文献16 )。
【0007】
幾つかの動物給餌作業において、微量金属添加物は水性液体単独として又は電解質などの他の栄養物とともに投与される。通常、該添加物は水剤投与システムを用いることにより又は飼い葉桶の飲用水に混ぜて動物に投与される。水剤投与システムにおいては、該添加物は動物の口に直接投与される。大半の水剤投与システムは電子制御され、産物が沈殿しないように該液体が連続的に撹拌又は循環される貯蔵タンクから成る。該水剤液体は送達装置を通して動物の口へ加圧される。投薬される液体の量は送達装置が加圧される時間の長さにより制御される。飼い葉桶処理(trough treatment)方法は飲用水への液体添加物の投薬工程を含む。これは給水系で液体添加物を計測する直列型ディスペンサーの使用により達成される。
【特許文献1】米国特許第3,941,818号
【特許文献2】米国特許第3,950,372号
【特許文献3】米国特許第4,021,569号
【特許文献4】米国特許第4,039,681号
【特許文献5】米国特許第4,067,994号
【特許文献6】米国特許第5,278,329号
【特許文献7】米国特許第4,900,561号
【特許文献8】米国特許第4,948,594号
【特許文献9】米国特許第4,956,188号
【特許文献10】米国特許第5,583,243号
【特許文献11】米国特許第4,670,269号
【特許文献12】米国特許第4,678,854号
【特許文献13】米国特許第5,061,815号
【特許文献14】米国特許第5,698,724号
【特許文献15】米国特許第5,702,718号
【特許文献16】米国特許第6,012,608号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
必須金属−アミノ酸錯体の液体添加物の調製は、とりわけ均一な溶液が必要な場合、特別な課題となる。1:2の金属−アミノ酸錯体は一般的に水に不溶性であり、不均質な懸濁液としてしか製剤できない。比較的安定な懸濁液を調製するための幾つかの懸濁剤が利用できるが、均質な投薬が必要な場合、これらの懸濁液は連続的に撹拌又は循環しなければならない。1:1の金属−アミノ酸錯体は通常水に可溶である。しかしながら、溶液が静置されると、該錯体は徐々に分解して金属及び/又はアミノ酸の沈殿物を生ずる。沈殿物形成速度は元の溶液の錯体濃度及び構成物質であるアミノ酸及び金属の溶解度に依存する。この挙動はアミノ酸であるメチオニンの金属錯体により最もよく例証される。金属−メチオニン錯体の溶液は高温で安定である。しかしながら、静置すると、該メチオニンは、その低い水溶性のため、結晶を形成し始め、結果としてさらに該錯体が分解して、メチオニン結晶及び金属−メチオニン錯体を含む上清及び金属の無機塩からなる不均質の混合物を形成する。これは実施例1で証明される。米国特許第6,012,608号での本発明者らの記述により、亜鉛メチオニンなどの飼料栄養補助剤が通常過飽和液体(20%以上の固体物)であり、若し運動のない状態に維持するならば、それは「沈殿し」、他の飼料成分に液体として循環して添加することが極めて困難な部分的固体を形成することが証明されたように、液体栄養補助剤の不均質産物の形成は米国特許第5,702,718号で予測された。本発明者らは米国特許第5,702,718号が対象とする幾つかの標識産物の市販試料を調べた。実施例2はこれらの産物の一つの典型分析を記載する。実施例2の結果は、実際にこれらの産物が主にメチオニンから成る不溶性沈殿並びに亜鉛及びメチオニンを含む液相を含む不均質混合物であることを示している。
【0009】
水溶性の金属アミノ酸錯体を含む安定で均質な組成物の調製には、アミノ酸を注意深く選択する必要がある。このような産物の製剤化には、その安定性に影響を及ぼすことなく該錯体の溶解度を最適化しなければならない。このような組成物のpHは最適な範囲内に維持されなければならない。該錯体の分解並びに該金属及び/又は該アミノ酸の沈殿を起こしうる又は促進しうる物質は全て該産物から除かなければならない。本発明の目的は動物栄養の飼料添加物として使用される金属アミノ酸錯体の安定な水溶液の組成及び調製方法を記載することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明は動物栄養の飼料添加物として使用される微量金属アミノ酸錯体の安定な水溶液の開発に関する。これらの組成物は、飼料添加物が飲料水の液体として又は水薬として動物に投与される状況での使用に適している。本発明に記載する錯体は無機塩より動物の食餌必要量を満たすことに効果的である。本発明に記載する組成物は安定であるため商業的な可能性を有し、実用的方法により妥当な価格で得ることができ、動物栄養の分野で重要な必要量を満たす。これらは制御されたpHの工程、好ましくはL−リシン及び/又はグリシン、時にはクエン酸等のヒドロキシル酸など、溶解度増進剤の使用を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
必須金属は該金属の無機の形態からよりもアミノ酸錯体からの方が生体利用率が高いことは今日では充分に確立されている。莫大な数の金属−アミノ酸錯体が固体飼料に添加するための固体混合物として市販されている。これらの固体は担体を含まない製品か或いは該物質が担体と混合されている製品である。幾つかの給餌作業において、微量金属添加物は水性液体単独として又は電解質などの他の栄養物と組み合わせて投与される。しかしながら、金属−アミノ酸錯体の液体組成物の調製は、とりわけ安定な溶液が必要な場合、これらの錯体の基本的な化学性質のため、特別な課題となる。必須金属の塩がアミノ酸溶液と混合されると、金属−アミノ酸錯体を含む多様なアミノ酸種間で平衡が確立される。これらの種の相対濃度は、該溶液のpH、アミノ酸濃度、金属濃度及び金属−アミノ酸錯体の安定度定数及びアミノ酸のpKaに依存する。高い水素イオン濃度、即ち低いpHで、アミノ酸のプロトン化形が優勢であり、金属−アミノ酸錯体は比較的低濃度でのみ存在する。金属−アミノ酸錯体の濃度が実用的価値を失う場合の水素イオン濃度の正確な下限は、アミノ酸及び金属のpKaに依存する。しかしながら、本発明者らは、pH>2の溶液が一般的に測定可能な濃度の金属−アミノ酸錯体を含むことを見出した。銅−アミノ酸錯体のみがpH<2でも実用的レベルで存在する。低い水素イオン濃度、即ち高いpHでは、1:2の金属−アミノ酸錯体が金属水酸化物と同様に形成を開始する。金属水酸化物及び1:2の金属−アミノ酸錯体は水に殆ど溶解しない。上述した金属−アミノ酸錯体の挙動は、1:1の金属−アミノ酸錯体が最適な濃度で存在する狭いpHの範囲があることを示している。この範囲は大部分の金属及びアミノ酸についてpH2からpH6の間である。
【0012】
金属−アミノ酸錯体の水溶液の調製、配送及び貯蔵を困難にさせる他の課題は水中におけるアミノ酸の両性イオン形の溶解度である。pH2からpH5であるように調剤された金属−アミノ酸錯体の溶液は、アミノ酸の沈殿のため、安定でないかもしれない。このような溶液では、アミノ酸の両性イオン形は金属−アミノ酸錯体と平衡して非常に低い濃度で存在する。この形態のアミノ酸が低い水溶性を有する場合、過飽和溶液が形成される。冷却又は結晶形成用の種として役立ち得る粒状物質の導入など、条件が変化するにつれ、飽和レベルを上回って存在するアミノ酸の量は沈殿という形で結晶化し始める。これは平衡におけるシフトを生じ、これは金属−アミノ酸錯体の分解をもたらし、更なる量の遊離のアミノ酸及び金属を形成し、異なる種の濃度に戻って平衡を維持する。これは更なるアミノ酸の沈殿をもたらす。
【0013】
亜鉛−メチオニン錯体の均質な液体組成物を調製する努力は、メチオニンの沈殿及び該錯体の分解のため、成功しなかった。得られた不均質な液体は主として結晶メチオニンと亜鉛塩及び低濃度の亜鉛−メチオニン錯体を含有する溶液との混合物であった。同様に、他の金属のメチオニン錯体は不安定であり、不均質な液体を生成した。実施例1は亜鉛−メチオニンの液体組成物の調製のための実験で得られた結果を要約する。
【0014】
金属−アミノ酸錯体を含む幾つかの液体組成物は市販されている。本発明者らは、これらの市販製品の幾つかの試料を入手し、慎重にそれらの内容物を分析した。実施例2はこのような分析の結果を要約する。本発明者らの実験室で調製された試料と同様に、これらの製品は結晶メチオニンと亜鉛塩及び亜鉛−メチオニン錯体の溶液との混合物である。
【0015】
本発明は動物栄養物で使用する安定で且つ水溶性の金属−アミノ酸錯体を含む組成物を記載する。これらの組成物の製剤は三つの重要因子の検討を必要とした。これらの因子は、アミノ酸の選択、最終溶液のpH調整及び金属−アミノ酸錯体の溶解度又は安定度を増すための添加剤の使用である。本発明の対象となる個々の組成物の製剤は、最適な結果を与える条件を特定するために多数の実験を必要とした。
【0016】
アミノ酸の選択においては、水に対する溶解度、市場からの入手性、費用、溶液における安定性及び必須金属との錯体の安定性を含む幾つかの因子が検討された。二つの天然アミノ酸、L−リシン及びグリシンが最良の結果を与えることが見出された。これは、これらのアミノ酸が2.5〜4.5という最も望ましいpH範囲で容易に水に溶解するからである。その上、これらの二つのアミノ酸は妥当な価格で容易に市場で入手できる。また、適する他のアミノ酸にはロイシン及びセリンが含まれるが、これらのアミノ酸は現時点では妥当な価格で容易に市場で入手できない。
【0017】
本発明に記載される組成物のpHは2.0と6.0の間に維持されたが、pH2.5と4.5の間が最も好ましい。これは1:1金属−アミノ酸錯体の最適な安定性の範囲である。2.5より低いpHでは、該アミノ酸が主にプロトン化形であり、金属−アミノ酸錯体の濃度は低い。4.5より高いpHでは、1:2の金属−アミノ酸錯体が測定可能な濃度で形成を開始し、その結果沈殿を形成しうる。必要な場合、溶液のpHは希釈塩基を注意深く添加することにより調整した。一般に、水酸化アンモニウムなどの塩基は水酸化ナトリウムなどの強塩基より適することが見出された。他の適切な塩基には、リシンなどの塩基性アミノ酸及びエタノールアミンなどのアルキルアミンが含まれる。溶液の温度は、再分割が困難な金属水酸化物の沈殿の形成を防止するために、該塩基の添加中制御しなければならない。一般的に、該温度は50℃未満に維持されなければならず、好ましくは30℃と40℃の間である。
【0018】
少数例において、該錯体の安定度及び溶解度を増すために添加剤を使用せず安定で且つ水溶性の金属−アミノ酸溶液を得ることはできなかった。鉄(III)の金属錯体は特にそうであった。クエン酸は本発明者らが見出した最も効果的な添加剤であった。酒石酸、グルコン酸及びグルコヘプタン酸などの他のヒドロキシル酸も有効であったがその程度はより低かった。添加したヒドロキシル酸の量は使用する金属量に対して0.5から1.0モル当量までで、好ましくは0.6から0.8モル当量までであるべきである。
【0019】
下記の実施例は、これらの組成物を得る実用的方法、それらの物理的及び化学的特性、並びに動物栄養における微量元素資源としての使用を説明するために提供する。
【実施例1】
【0020】
亜鉛−メチオニン錯体溶液の調製の試み
硫酸亜鉛(92.371 g, 0.32モル)を水(90 ml)に溶解した溶液を、穏やかな加熱及び撹拌の助けを借りて調製した。この溶液にDL−メチオニン(48.656 g, 0.32モル)を添加し、撹拌加熱を透明な溶液が形成されるまで続けた。該溶液を冷却し200 mlとした。静置すると白色の結晶が形成し始めた。この混合物を室温で72時間静置し減圧濾過した。沈殿物を80℃のオーブンで18時間乾燥した。濾過物は慎重に250 ml容量フラスコに移し、濾過フラスコは20 ml分の水で3回連続して洗浄した。洗浄液は容量フラスコに移し250 mlとした。沈殿物及び濾過物の亜鉛及びメチオニンの含量は個別に測定した。結果を表1に要約する。臭化カリウム・ペレット中での沈殿物のFTIRを記録した。
【0021】
【表1】

【0022】
試料の濾過後得られる乾燥沈殿物のFTIRスペクトルを調べた。FTIRスペクトルはシマズFTIR−8300フーリエ変換赤外線分光光度計を用いて臭化カリウム・ペレットで記録した。該スペクトルは、2948.9(s), 2914.2(s), 2729.1(m), 2619.1(m), 2102.3(w), 1654.8(s), 1620.1(s), 1583.4(vs), 1515.9(m), 1415.7(s), 1338.5(s), 1163.0(m), 1082.0(m), 925.8(w), 及び551.6(m)cm-1で吸収を示した。このスペクトルはDL−メチオニンの基準試料の値と同一であった。
【0023】
これらの結果は、亜鉛−メチオニン錯体がこの調製品中で安定でないことを示す。該産物は亜鉛塩及び亜鉛−メチオニン錯体の溶液中にメチオニンが懸濁している懸濁液である。
【実施例2】
【0024】
亜鉛−メチオニン液体の市販製品の評価
液体亜鉛−メチオニン錯体の市販試料の部分標本を、相違まで正確に秤量し、タール被覆されたワットマン・フィルターカップ・真空濾過漏斗(ワットマン#1600004、直径70 mm、#4等級セルロース濾紙を付けた250 ml容量)を通して吸引濾過した。沈殿物は70〜75℃のオーブンで12時間乾燥した。濾液は慎重に250 ml容量フラスコに移した。濾過フラスコは25 mlの水で3回連続して洗浄し、洗浄液を容量フラスコに添加した。濾液は水で250 mlとした。沈殿物及び希釈した濾液の亜鉛及びメチオニンの含量を測定した。その結果は表2に要約する。
【0025】
【表2】

【0026】
試料の濾過後に得られた乾燥沈殿物のFTIRスペクトルを測定した。このFTIRスペクトルはシマズFTIR−8300フーリエ変換赤外線分光光度計を用いて臭化カリウム・ペレットで記録した。このスペクトルは、2956.7(s), 2914.2(s), 2736.8(m), 2626.9(m), 2092.6(w), 1654.8(s), 1620.1(s), 1579.6(vs), 1515.9(m), 1415.7(s), 1338.5(s), 1280.6(m), 1157.2(m), 1107.1(m),1082.0(m), 925.8(w), 619.1(w)及び551.6(m)cm-1で吸収を示した。このスペクトルはDL−メチオニンの標準試料の値と同一であった。
【0027】
濾過物の一部をFTIR等級の臭化カリウムと混合し熱風炉で乾燥した。ペレットは乾燥混合物から形成し、そのスペクトルはシマズFTIR−8300分光光度計を用いて記録した。このスペクトルは、3508.3(s), 3161.1(s), 2152.4(w), 2092.6(w), 1633.6(s), 1616.2(s), 1473.5(m), 1409.9(m), 1334.6(m), 1153.3(vs), 1103.2(vs), 1010.6(s), 657.7(m), 611.4(s)cm-1で吸収を示した。このスペクトルはメチオニンと亜鉛−メチオニン錯体の混合物と一致する。3508.3、3161.1、1633.6、1473.5、1409.9、及び1334.6 cm-1のピークは亜鉛−メチオニン錯体に特徴的である。2092.6、1616.2及び1103.2 cm-1のピークは遊離メチオニンの存在によるものである。
【0028】
これらの結果は、この市販品が可溶性の亜鉛塩及び亜鉛−メチオニン錯体の溶液に懸濁しているメチオニンの懸濁液から構成されることを示す。亜鉛−メチオニン錯体の最大量は試料中の総亜鉛の20〜23%である。
【実施例3】
【0029】
亜鉛−L−リシン錯体の溶液の調製及び評価
硫酸亜鉛・7水和物(59.287 g, 0.2モル)を穏やかな加熱撹拌の助けにより80 mlの水に溶解した。L−リシン一塩酸塩(36.722 g, 0.196モル)を硫酸亜鉛溶液に添加した。加熱撹拌は透明な溶液が得られるまで継続した。溶液を冷却し125 mlとした。
【0030】
分析 理論値 検出値
pH 4.449
比重 1.3165
亜鉛含量(EDTA滴定)% 10.55 10.92
リシン含量(HPLC)% 23.58 24.25
【0031】
上記の溶液を蓋付きのポリエチレン瓶に18ヶ月間保存し、再試験した。この調製物は18ヶ月後変化しなかった。それは依然透明であり、10.97%の亜鉛を含有していた。
【実施例4】
【0032】
マンガン−L−リシン錯体の溶液の調製及び評価
塩化マンガン・4水和物(40.189 g, 0.2モル)を穏やかな加熱撹拌の助けにより60 mlの水に溶解した。L−リシン一塩酸塩(36.719 g, 0.196モル)を塩化マンガン溶液に添加した。加熱撹拌は透明な溶液が得られるまで継続した。溶液を冷却し、104 mlとした。
【0033】
分析 理論値 検出値
pH 4.804
比重 1.2789
マンガン含量(EDTA滴定)% 10.63 10.66
リシン含量(HPLC)% 28.27 31.46
【0034】
上記の溶液を蓋付きのポリエチレン瓶に18ヶ月間保存し、再試験した。この調製物は18ヶ月後変化しなかった。それは依然透明であり10.62%のマンガンを含有していた。
【実施例5】
【0035】
銅−L−リシン錯体の溶液の調製及び評価
L−リシン一塩酸塩(21.562 g, 0.1151モル)を80 mlの水に添加した。この混合物を撹拌しながら40℃まで加熱した。水酸化ナトリウム(25%溶液の12.805 g, 0.08モル)を添加した。混合物の温度は<40℃に維持し撹拌を継続した。硫酸銅・5水和物(30.265 g, 0.12モル)を添加した。加熱撹拌は透明な溶液が得られるまで継続した。溶液を冷却し、115 mlとした。
【0036】
分析 理論値 検出値
pH 3.030
比重 1.2060
銅含量(ヨウ素還元滴定)% 6.71 6.81
銅リシン含量(HPLC)% 21.53 21.40
【0037】
上記の溶液を蓋付きのポリエチレン瓶に18ヶ月間保存し、再試験した。この調製物は18ヶ月後変化しなかった。それは依然透明であり、6.81%の銅を含有していた。
【実施例6】
【0038】
銅−グリシン錯体の溶液の調製及び評価
硫酸銅・5水和物(50.997 g, 0.2モル)を穏やかな加熱撹拌の助けにより60 mlの水に溶解した。グリシン(15.328 g, 0.2モル)をこの硫酸銅溶液に添加した。加熱撹拌は透明な溶液が得られるまで継続した。溶液を冷却し、100 mlとした。
【0039】
分析 理論値 検出値
pH 3.084
比重 1.3536
銅含量(ヨウ素還元滴定)% 12.73 12.78
【0040】
上記の溶液を蓋付きのポリエチレン瓶に18ヶ月間保存し、再試験した。この調製物は18ヶ月後変化しなかった。それは依然透明であり、13.20%の銅を含有していた。
【実施例7】
【0041】
鉄−L−リシン錯体の溶液の調製及び評価
硫酸鉄・5水和物(55.608 g, 0.2モル)を穏やかな加熱撹拌の助けにより60 mlの水に溶解した。L−リシン一塩酸塩(36.718 g, 0.2モル)をこの硫酸鉄溶液に添加した。加熱撹拌は透明な溶液が得られるまで継続した。溶液を冷却し、106 mlとした。
【0042】
分析 理論値 検出値
pH 4.328
比重 1.3334
鉄含量(比色検定)% 10.54 10.64
【0043】
上記の溶液を蓋付きのポリエチレン瓶に18ヶ月間保存し、再試験した。この調製物は18ヶ月後変化しなかった。それは依然透明であり、9.33%の鉄を含有していた。
【実施例8】
【0044】
鉄−グリシン錯体の溶液の調製及び評価
塩化鉄・4水和物(39.772 g, 0.2モル)を穏やかな加熱撹拌の助けにより50 mlの水に溶解した。グリシン(15.329 g, 0.2モル)をこの塩化鉄溶液に添加した。加熱撹拌は透明な溶液が得られるまで継続した。溶液を冷却し、100 mlとした。
【0045】
分析 理論値 検出値
pH 3.893
比重 1.2952
鉄含量(比色検定)% 12.41 12.95
【0046】
上記の溶液を蓋付きのポリエチレン瓶に18ヶ月間保存し、再試験した。この調製物は18ヶ月後変化しなかった。それは依然透明であり、12.28%の鉄を含有していた。
【実施例9】
【0047】
金属−L−リシン錯体の溶液の調製及び評価
L−リシン一塩酸塩(35.481 g, 0.1894モル)を50 mlの水に添加した。この混合物は撹拌しながら40℃まで加熱した。硫酸亜鉛・1水和物(17.761 g, 0.096モル)、硫酸マンガン・1水和物(17.546 g, 0.063モル)及び硫酸銅・5水和物(9.075 g, 0.036モル)を逐次添加した。加熱撹拌は透明な紺色の溶液が得られるまで継続した。塩化コバルト溶液(1.82 gの12.3%コバルト溶液、0.0038モル)をグルコヘプタン酸ナトリウム(1.737 g、0.007モル)と混合し、この混合物は金属−リシン溶液に添加した。溶液を冷却し、130 mlとした。
【0048】
分析 理論値 検出値
pH 3.416
比重 1.3077
亜鉛含量(ICP/AES)% 4.83 4.83
マンガン含量(ICP/AES)% 2.66 2.68
銅含量(ICP/AES)% 1.76 1.80
コバルト含量(ICP/AES)% 0.17 0.17
【0049】
上記の溶液を蓋付きのポリエチレン瓶に18ヶ月間保存し、再試験した。この調製物は18ヶ月後変化しなかった。それは依然透明であり、1.80%の銅を含有していた。
【実施例10】
【0050】
亜鉛−リシン錯体溶液を用いた牛の連日処置が乳の品質に及ぼす効果についての評価
60頭のフリージアン牛を、乳の品質及び生殖に及ぼす亜鉛L−リシン錯体の連日経口投与の影響を測定するための研究に割り当てた。出産1ヶ月前に、処置群の牛は一日当たり一頭当たり400 mgの亜鉛L−リシンからの亜鉛を服用し始めた。出産時に、牛は集約放牧下で管理され、亜鉛L−リシンの連日経口水剤から一日当たり400 mgの亜鉛を服用した。対照の牛は栄養補助剤の亜鉛を除いて処置牛と同様な飼料及び栄養補助剤を服用した。出産後21週まで牛は食餌療法を受けた。乳の生産、組成及び品質に及ぼす亜鉛L−リシン投与の影響は表3に要約する。
【0051】
【表3】

【0052】
表3に要約した結果は、液体亜鉛L−リシン錯体を服用した牛は、亜鉛L−リシン錯体を服用しなかった牛と比べて、0.9 kg/日多く、体細胞数が41.38%少ない乳を生産したことを示す。
【実施例11】
【0053】
活発に放牧され且つ多金属−リシン錯体溶液で連日処置された牛の乳分泌、乳腺炎、生殖、及び爪の完全性に及ぼす効果についての評価
商業用酪農場での555頭の授乳していないホルスタイン−フリージアン牛を、乳分泌及び生殖能力に及ぼす多金属L−リシン錯体群の溶液の効果を測定する研究に割り当てた。これらの溶液は、亜鉛L−リシン錯体から360 mgの亜鉛、マンガンL−リシン錯体から200 mgのマンガン、銅L−リシン錯体から125 mgの銅、及びグルコヘプタン酸コバルトから12 mgのコバルトを供給した。出産の35日前に、牛を2つの群に分配し、別々の小放牧場で活発に放牧した。牛には0.5 kg/日の市販の濃縮物を給餌した。処置群の牛は、多金属L−リシン錯体を含有することを除いて、同じ濃縮物の投与を受けた。出産後、多金属L−リシン錯体溶液は処置牛の水に添加された。この処置の効果は表4に要約する。
【0054】
【表4】

【0055】
表4の結果は、可溶性の多金属L−リシン錯体群を服用する牛が、5.4%多い乳、5.8%多いエネルギー補正乳及び6.3%多い脂肪補正乳を生産したことを示す。これらの牛はまた、6.1%多い脂肪、6.9%多いタンパク質及び6.1%多い固形物も生産した。乳腺炎の症例は減少し、非周期牛に施されたプロゲステロン膣移植は38.5%減少した(制御された体内薬物放出、CIDR)。肝臓及びマンガンの濃度に影響はなかったが、分娩の45日後及び165日後での肝臓の銅濃度及び血清のビタミンB12濃度は増加した。
【0056】
上記の実施例から分かるように、これらの金属アミノ酸錯体の効果的で且つ安定な溶液が調製された。これは容易に投与され、処置を施された家畜の飼い主に経済的利益のある成果をもたらす。従って、本発明は少なくとも記載の目的を達成する。
【0057】
工程条件及び投与教示の一部の変更が本発明の精神及び範囲から逸脱することなく為され得ることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量元素の安定な水性溶液錯体を調製する方法であって、微量元素塩を水に溶解する工程、L−リシン、グリシン、ロイシン及びセリンより成る群から選択され且つ錯体を形成するのに十分な量のアミノ酸を該微量元素塩の水溶液に添加する工程、及び温度を約50℃未満に維持しながらpHを2.0から6.0の範囲内に調整する工程を含む方法。
【請求項2】
該微量元素が亜鉛、鉄、マンガン、クロム、及び銅より成る群から選択されるものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該温度が30℃と40℃の間に維持されるものである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
追加工程が小さな可溶化を増大させるのに効果的な量のヒドロキシ酸の添加である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
該ヒドロキシ酸がクエン酸、酒石酸、グルコン酸及びグルコヘプタン酸より成る群から選択されるものである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ヒドロキシ酸の量が金属の量に対して0.5モル当量から1.0モル当量までである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
ヒドロキシ酸の量が金属の量に対して0.6モル当量から0.8モル当量までである、請求項5記載の方法。
【請求項8】
pHの調整が水酸化アンモニウム及び塩基性アミノ酸より成る群から選択される弱塩基を用いるものである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
微量元素の補給の必要がある動物を治療する方法であって、選択される微量金属とL−リシン、グリシン、ロイシン及びセリンより成る群から選択されるアミノ酸との1:1金属アミノ酸錯体である微量元素錯体の安定な水溶液を動物の飲料又は水剤投与システムに添加する工程を含み、該溶液が2.0と6.0の間のpHを有し、温度が約50℃未満である工程、を含む方法。
【請求項10】
該動物が家畜及び家禽より成る群から選択されるものである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
該pHが2.5と4.5の間である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
該溶液の温度が30℃と40℃の間である、請求項9記載の方法。

【公表番号】特表2006−513248(P2006−513248A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−566915(P2004−566915)
【出願日】平成15年10月28日(2003.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2003/034197
【国際公開番号】WO2004/064536
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(504107292)ジンプロ コーポレーション (3)
【Fターム(参考)】