説明

急性音響外傷の治療方法

本発明は、急性音響外傷(AAT)を含むがそれに限定されない感音難聴を治療するための方法および組成物を提供する。組成物は、フェニルブチルニトロン(PBN)のようなフリーラジカル捕捉剤、エダラボン、レスベラトロール、エブセレンおよび鉄キレート剤などのフリーラジカル消去剤として機能する化合物、ならびにN-アセチルシステイン(NAC)、アセチル-L-カルニチン(ALCAR)、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニンおよびカルバマチオンを含むがそれらに限定されない抗酸化化合物群由来の化合物を含む。本発明の組成物は、注射によってまたは経口で送達されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年7月25日に出願された米国仮特許出願第60/833,114号および2006年7月26日に出願された米国仮特許出願第60/833,452号に基づく優先権を主張し、そのすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府による助成金を受けた研究についての記載
本出願は、一部、海軍研究事務所との契約:契約番号N 00014-05-1-0526によって支援された。合衆国政府は、この助成により本出願に権利を有しうる。
【背景技術】
【0003】
急性音響外傷(AAT)は永続的な難聴の原因となることが知られている。AATによる難聴はまた、低濃度の一酸化炭素またはアクリロニトリルのような他の毒物への同時暴露によっても増強される。最近の研究は、フリーラジカル作用がAATによる難聴に関与することを示唆する。現時点では、AATまたは感音難聴(SNHL)の他の原因を治療するためのFDAに認可された治療法は存在しない。従って、AAT事象の被害者の治療に適した治療方法および化合物について、大きな必要性が存在する。更に、すべての種類のSNHLの治療法について、必要性が存在する。
【発明の概要】
【0004】
1つの実施形態では、本発明は、感音難聴を治療するための方法を提供する。本発明の方法では、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンの誘導体、およびフェニル-N-tert-ブチルニトロンからなる群より選択される医薬上有効な量の組成物が、感音難聴を患っている生物に投与される。任意選択で、組成物は更に、N-アセチルシステイン、アセチル-L-カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニン、カルバマチオン(carbamathione)およびSzeto-Schiller ペプチド、ならびにそれらの機能的類似体からなる群より選択される1以上の化合物を含有しうる。好ましくは、感音難聴を治療するための組成物は、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、N-アセチルシステインおよびアセチル-L-カルニチンを含有する。本発明の化合物は、AATによる難聴を治療する場合、特に有用である。
【0005】
別の実施形態では、本発明は、感音難聴を治療するための組成物を提供する。組成物は、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンの誘導体、およびフェニル-N-tert-ブチルニトロンからなる群より選択される医薬上有効な量の化合物を含む第一成分を含有する。組成物はまた、アセチル-L-カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニン、カルバマチオンおよびSzeto-Schiller ペプチド、ならびにそれらの機能的類似体からなる群より選択される医薬上有効な量の化合物を含む第二成分を含有する。最後に、組成物は、医薬上有効な量のN-アセチルシステインを含む第三成分を含有する。
【0006】
別の実施形態では、本発明は、感音難聴を治療するための組成物を提供する。この組成物は、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンの誘導体、およびフェニル-N-tert-ブチルニトロンからなる群より選択される医薬上有効な量の化合物を含有する。任意選択で、組成物は、N-アセチルシステイン、アセチル-L-カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニン、カルバマチオンおよびSzeto-Schillerペプチド、ならびにそれらの機能的類似体などの少なくとも1つの抗酸化剤を含有しうる。これらの化学物質は、異なる固定最適比率で2以上の化学物質が単一の溶液、カプセル、錠剤、マトリックス、または粒子中に含まれ、治療対象に一度に摂取、注入または送達されるように、調合され、製剤化されうる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、AATおよび酸化ストレス、プログラム細胞死、または炎症過程に関連する他の考えられる難聴の原因によって生じる、感音難聴の治療方法を提供する。SNHLの他の原因の例は、加齢に伴う難聴すなわち老人性難聴、毒物による難聴、外傷による難聴、難聴を引き起こすウイルス感染または細菌感染、未成熟による難聴、蝸牛虚血による難聴、先天性難聴、遺伝的難聴、メニエール病、突発性難聴、および甲状腺疾患または糖尿病に関連する難聴を含むが、それらに限定されない。本発明は、AATの治療において、フェニルブチルニトロン(PBN)のようなフリーラジカル捕捉剤、エダラボン、レスベラトロール、エブセレンおよび鉄キレート剤などのフリーラジカル消去剤として機能する化合物、ならびにN-アセチルシステイン(NAC)、アセチル-L-カルニチン(ALCAR)、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニンおよびカルバマチオンを含むがそれらに限定されない抗酸化化合物群由来の化合物の機能性を実証する。
【0008】
加えて、ミトコンドリアを標的とする抗酸化ペプチドは、本発明において有用である。これらの化合物は、酸化ストレスおよびミトコンドリアの損傷を引き起こす細胞内の活性酸素種(ROS)の生成を妨げる。ミトコンドリアの酸化的損傷は、細胞死を引き起こすアポトーシスおよび壊死の原因となることが知られている。好ましい抗酸化ペプチドは、Szeto-Schiller(SS)ペプチドおよびそれらの機能的類似体である。これらの化合物は、交互に並ぶ芳香族残基および塩基性アミノ酸を有する。詳細には、チロシン(Tyr)またはジメチルチロシン(Dmt)類似体を有するペプチドは、オキシラジカルを除去し得る。これらの化合物は、低密度リポタンパク質の酸化を阻害する。SS-ペプチドは、SS-31(D-Arg-Dmt-Lys-Phe-NH2)およびSS-02(Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2)などの化合物を含む。TyrおよびDmtを含むSS-ペプチドに加えて、トリプトファンを含むSS-ペプチドもまた、本発明において有用である。最後に、SS-ペプチドに見いだされるアミノ酸はLまたはDであってよく、天然型アミノ酸、非天然型アミノ酸、および天然型アミノ酸の誘導体でありうる。詳細には、PCT 公開された出願WO 2005/072295に開示されるSS-ペプチドが、本発明での使用に適している。2005年8月11日に公開されたWO 2005/072295の全開示は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0009】
したがって、本発明は、言及された聴覚疾患の治療に適した方法および組成物を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、AAT を治療するために、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン(4-OHPBN)もしくは4-OHPBNの誘導体を単独で、または少なくとも1つの抗酸化剤と併用して用いる。加えて、フェニル-N-tert-ブチルニトロン(PBN)およびその誘導体は、本発明において有用であろう。治療薬は、経口、静脈内、皮下(subcutaneously)、吸入、舌下、皮下(subdermally)、または耳内に局所的に投与されてもよく、ナノ粒子またはデンドリマー製剤として投与されてもよく、ナノ粒子は多官能性であってよく、内耳のような所望の標的への薬物の送達を補助するために外部から磁力を適用できるように、ポリマーと常磁性酸化鉄粒子から構成されうる。加えて、4-OHPBNの誘導体は、経口吸収を向上させるために、生体利用性動態を変化させるために製剤化されてもよく、および/または1以上の上記化合物と併用して製剤化されうる。好ましくは、AATを治療するための組成物は経口投与されるであろう。しかし、AATを治療するための組成物を全身に送達する他の方法は、同様によく機能するであろう。
【0010】
本発明者らは、永続的な難聴を引き起こしたであろうと思われる6時間の騒音暴露(AAT事象)の4時間後に、抗酸化剤N-アセチルシステイン(NAC)とともに投与されるニトロン、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン(4-OHPBN)が、いかなる聴力障害をも完全に予防することを発見した。更に、添付図によって示されるように、AATの4時間後の4-OHPBN投与は、通常予期される永続的な難聴を予防した。理論により制限されることを望まないが、本発明者らは、4-OHPBNの機能性の少なくとも一部は、誘導型一酸化窒素合成酵素(INOS)の活性または増加を阻害するその能力に起因すると確信する。INOSは、内耳組織に対する酸化ストレスまたは他の損傷の影響を増加させうる神経炎症の活性化に関与する。
【0011】
表1-A、1-B、1-C、2および3は、本発明の組成物を用いて得られた結果を図示する。表1-Aは、AATとなるのに十分な騒音に暴露した4時間後に腹腔内(i.p.)注射として投与された場合、用量効果的な4-OHPBNの使用がチンチラにおいて難聴を予防することを示す。表1-Bおよび1-Cは、4-OHPBN処理と比較して、抗酸化剤ALCARおよびNACにより達成される効果を示す。表3は、NAC(lOOmg/kg)と4-OHPBN(50 mg/kg)との組合せを用いて、AAT事象の4時間後に投与した場合の結果を示す。図示されるように、この処理は実験動物の難聴を完全に予防した。いずれの場合も、投与量は被験体のkgあたりのmgで与えられた。更に、下記の実験結果は、NACとALCARとの併用以上に、4-OHPBN単独および他の化合物と併用した4-OHPBNによってもたらされる改善を示す。
【0012】
下記の実験データは、本発明の利点を示す。まず表1-A、1-Bおよび1-Cに関して、実験は各実験群および対照群に6匹のチンチラを用いて実施された。これらの実験において、動物は、4 kHzオクターブ帯域騒音、105 dB SPLで6時間の騒音暴露によって生じるAATを受けた。4-OHPBN(10、20、50、および75 mg/kgの投与量)、ALCAR(0、20、30、および50 mg/kgの投与量)、ならびにNAC(50、100、および200 mg/kg)を用いた処理は、AATの4時間後、腹腔内注射により投与された。聴力レベルはAAT事象前(ベースライン)および注射後21日目の聴性脳幹反応(ABR)によって測定された。
【表1】


【0013】
注記、表1-Aでは、棒グラフは、示されたそれぞれの周波数について順に、下記の投与量:対照0.0 mg/kg、10 mg/kg、20 mg/kg、50 mg/kgおよび75 mg/kgを表す。表1-Bでは、棒グラフは、示されたそれぞれの周波数および日数について順に、下記の投与量:0 mg/kg、20 mg/kg、30 mg/kgおよび50 mg/kgを表す。最後に、表1- Cでは、棒グラフは、示されたそれぞれの周波数について順に、下記の投与量:対照(生理食塩水)、0日目の50 mg/kg、0日目の10 mg/kg、0日目の200 mg/kg、21日目の対照(生理食塩水)、21日目の50 mg/kg、21日目の10 mg/kg、21日目の200 mg/kgを表す。
【0014】
表1-Aは、対照と比較した際の、それぞれの投与量レベルでの4-OHPBNの有効性を実証する。特に、50 mg/kgおよび75 mg/kgの投与量で統計的に有意な結果が得られた。表1-Aで*によって表されるように、二元配置分散分析およびポストホック検定を用いた統計解析は、75mg/kg の投与量について、0.5 kHz以外の試験されたすべての周波数でp<0.05を示した。0.05未満のpは統計的に真の効果を示し、偶然の結果を示すものではないので、表1-Aに反映される改善は明らかに4-OHPBNの投与によって生じた。有効な結果は、4-OHPBN について1 mg/kg〜約150 mg/kgの投与量で実現されるはずである。
【0015】
表1-Bは、対照と比較した際の、それぞれの投与量レベルでのALCARの有効性を実証し、30 mg/kgおよび50 mg/kgの投与量によってもたらされる有意な利点を有する。表1-Bで*によって表されるように、二元配置分散分析およびポストホック検定を用いた統計解析は、30 mg/kgおよび50 mg/kgの投与量について、試験されたすべての周波数でp<0.05を示した。従って、表1-Bに反映される改善は明らかにALCARの投与によって生じた。
【0016】
表1-Cは、対照と比較した際のNACの有効性を実証し、100 mg/kgおよび200 mg/kgの投与量によってもたらされる有意な利点を有する。表1-Cで*によって表されるように、二元配置分散分析およびポストホック検定を用いた統計解析は、100 mg/kgおよび200 mg/kgの投与量について、試験されたすべての周波数でp<0.05を示した。従って、表1-Cに反映される改善は明らかにNACの投与によって生じた。
【0017】
表2aは、騒音による閾値変動におけるALCARおよび/またはNACの効果を実証する。数値は、ベースライン値から騒音暴露3週間後の値までの閾値変動の平均値±SE dB SPLである。*はp<0.05(処理 対 対照)の有意差を表す。**はp<0.01(処理 対 対照)の有意差を表す。***はp<0.001(処理 対 対照)の有意差を表す。
【表2】

【0018】
表2aおよび2bに示される試験結果は、無騒音対照(n=2)以外は各群6匹の5群に無作為に選ばれた200〜30OgのオスのSprague-Dawleyラットを用いて作成された。これらの群は下記のように分類された。すなわち、1)無騒音対照(データは示さない)、2)生理食塩水の注射を受けた騒音暴露群、3)NAC(200mg/kg)の注射を受けた騒音暴露群、4)ALCAR(100mg/kg)の注射を受けた騒音暴露群、5)NAC(200mg/kg)+ALCAR(100mg/kg)の注射を受けた騒音暴露群である。
【0019】
試験動物は、ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)麻酔を用いて、試験のために準備された。動物は、ベースライン聴力、騒音暴露直後、騒音暴露の1、2、および3週間後について、Intelligent Hearing System ABR systemを用いてABR検査された。頭部の皮膚下に設置された皮下針電極からABR閾値が得られた。記録電極は右耳に隣接して設置され、不関電極は左耳に隣接して設置され、接地電極はつむじ(vortex)に設置された。高周波変換器(2〜32 kHzの範囲)を介して、4、8、15、および30 kHzの純音が刺激として与えられた。記録された誘発反応は、試験された各レベルについて平均1024 スウィープ(sweeps)であった。聴力閾値は、閾値付近までは10 dB刻みで減少させて検査され、その後、閾値を決定するためには5 dB刻みで行った。閾値は、明確な反応の最低レベルと反応が観察されなかった次のレベルとの中間点として定義された。
【0020】
騒音暴露は、Industrial Acoustics Companyの隔離防音室において実施された。Tucker Davis Technologyの音響システムによってフィルターをかけて減衰され、その後、Parasoundの高消費電力増幅器によって増幅されたTucker-Davis Technologiesの リアルタイムプロセッサー(RP2)によって狭帯域騒音を発生させ、2つのVifaの8Ωスピーカーを駆動した。覚醒ラットをスピーカーの5インチ下に位置する金網ケージに入れ、13.6 kHz、105 dB SPLを中心とする狭帯域騒音に80分間暴露させた。それぞれの騒音暴露前にB&Kの2209騒音計を用いて騒音レベルを測定した。
【0021】
試験動物は、騒音暴露の48時間前、1時間後、および更なる2日間は1日2回、腹腔内注射を受けた。NAC については、市販溶液であるBristol-Myers Squibbのムコミストを注射のために使用した。ALCARはそれぞれの注射前に(滅菌生理食塩水に溶解して)用時調製された。
【0022】
グラフに示された結果は、二元配置分散分析の統計解析を用いて得られた。LSDポストホック検定を用いて、対照群と実験群との間の有意差を決定した。
【表3】

【0023】
表2bは、騒音による閾値変動におけるALCARおよび/またはNACの効果を示し、すべての周波数の平均閾値変動データを用いて表される。数値は、ベースライン値から騒音暴露3週間後に観察された値までの閾値変動の平均値±SE dB SPLである。騒音のみの対照と比較した各処理間の差は、p<0.001で有意であった(t検定を用いた)。NACとNAC+ALCARとの差は、p<0.01で有意であった(t検定を用いた)。上記の試験は特定の投与量で実施されたが、有効な結果は、単独で使用される場合のNACについて約5 mg/kg〜約500 mg/kgの投与量、単独で使用される場合のALCARについて約5 mg/kg〜約300 mg/kgの投与量、NACとALCARが併用して使用される場合、NACについて約5 mg/kg〜約500 mg/kg、ALCARについて約5 mg/kg〜約500 mg/kgの投与量で実現されるはずである。
【0024】
表3は、本発明の好ましい実施形態による治療によってもたらされる結果を示す。この実施形態では、AAT治療には、4-OHPBN(50 mg/kg)とNAC(100 mg/kg)との組合せを用いた。治療は、AAT 事象4時間後の、4-OHPBNおよびNACの同時腹腔内注射で構成された。この場合、各試験群に6匹のチンチラを用いた。動物は、4 kHzオクターブ帯域騒音、105 dB SPLで6時間の騒音暴露によって生じるAAT事象を受けた。表3において報告される聴力レベルは、AAT事象の前およびAATの21日後にABR法を用いて測定された。表3に示されるように、AATの21日後、試験動物は、あるにしてもごくわずかな難聴しか認められなかった。*によって示されるように、それぞれの結果は、統計的に有意であり、4-OHPBNとNACとの併用による治療に起因することが決定された。統計解析は一元配置分散分析およびポストホック検定を用いて行われた。上記の試験は特定の投与量で実施されたが、有効な結果は、NACと4-OHPBNとが併用して使用される場合、NACについて約5 mg/kg〜約300 mg/kg、4-OHPBNについて約5 mg/kg〜約150 mg/kgの投与量で実現されるはずである。
【表4】

【0025】
表4は、本発明の別の好ましい実施形態による治療によってもたらされる結果を示す。この実施形態についての試験には、それぞれ6匹のチンチラからなる3つの試験群を用いた。チンチラは、6時間、4 kHzを中心とする105 dBの狭帯域騒音によって生じるAAT 事象を受けた。この実施形態では、AAT治療には、4-OHPBN(20 mg/kg)とNAC(50 mg/kg)およびALCAR(20 mg/kg)との組合せを用いた。治療は、騒音暴露4時間後から始まり、次の2日間は1日2回繰り返される、4-OHPBN、NACおよびALCARの同時腹腔内注射で構成された。対照群は担体溶液を注射された。表4において報告される聴力レベルは、AAT事象の前、AAT事象の直後、およびAAT事象の21日後にABR法を用いて測定された。
【表5】

【0026】
表4に示されるように、AATの21日後、試験動物には、まったく難聴が認められなかった。平均ABR閾値変動が得られ、二元配置分散分析法を用いて統計解析された。このように、この実施形態の薬剤の併用は、永続的な閾値変動を完全に解消し、それによって難聴を防止した。
【0027】
3つの薬剤の併用におけるそれぞれの薬剤の有効量は、2つの薬剤4-OHPBN/NACの併用の有効量の約半分であった。更に、3つの薬剤の併用における個々の薬剤の濃度は、それぞれの化合物が単独に使用される場合に必要な濃度より有意に低かった。このように、これらの結果は、抗酸化剤の併用が急性音響外傷を効果的に治療し得ることを実証する。更に、試験結果は、示された化合物の併用による相乗効果を示唆する。従って、併用療法は治療の有効性を増加させ、必要とされる薬物用量を減少させるであろう。
【0028】
上記の試験は特定の投与量で実施されたが、有効な結果は、ALCAR、NACおよび4-OHPBNが併用して使用される場合、NACについて約5 mg/kg〜約300 mg/kg、4-OHPBNについて約5 mg/kg〜約150 mg/kg、ALCARについて約5 mg/kg〜約500 mg/kgの投与量で実現されるはずである。
【0029】
一般的に、AAT難聴の治療はできる限り早く開始されるべきであると予想される。他の種類の感音難聴の治療のために、本明細書に記載された方法および組成物を用いた治療は、難聴の原因によって変更されるであろう。例えば、加齢による難聴は、難聴の性質に応じて、毎日、隔日または週1回のような定期的な治療計画で、上述の組成物の1つの投与を必要としうる。毒物または放射線による難聴に関する場合、治療はできる限り早く開始されるべきであり、聴力の回復の際に完了するであろう。
【0030】
本開示は、AATによる難聴の予防における4-OHPBN単独およびNACと併用した4-OHPBNの有効性を実証する。加えて、単独または互いに併用したNACおよびALCARの有効性が実証された。更に、本開示は、ALCAR、4-OHPBNおよびNACの併用の有効性を実証する。本開示の一読から当業者は、同様に十分な結果をもたらす関連化合物を認識するであろう。更に、上述の実施例はAATの4時間後に被験体を治療したが、より短期間内に行われる治療は有効なはずであり、好ましいであろう。加えて、AAT、ストレスまたは損傷の24時間後より長い期間内に行われる治療もまた、効果的でありうる。このように上述の開示は単に本発明の典型的な例と考えられ、本発明の真の範囲は特許請求の範囲によって定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感音難聴を治療するための方法であって、感音難聴を患っている生物に、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンの誘導体、およびフェニル-N-tert-ブチルニトロンからなる群より選択される医薬上有効な量の組成物を送達することを含む方法。
【請求項2】
送達のステップが、経口、静脈内、皮下(subcutaneously)、吸入、舌下、皮下(subdermally)、および耳内への局所注入からなる群より選択される方法によって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
更に、前記組成物に抗酸化剤を組み込むことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抗酸化剤が、N-アセチルシステイン、アセチル-L-カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニン、カルバマチオン、およびSzeto-Schillerペプチド、ならびにそれらの機能的類似体からなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンおよびN-アセチルシステインを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が急性音響外傷を治療するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が急性音響外傷事象の4時間以内に最初に投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
更に、24時間に2回前記組成物を送達することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が約1 mg/kg〜約150 mg/kgの4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンを含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が約5 mg/kg〜約300 mg/kgのN-アセチルシステインを含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が更にアセチル-L-カルニチンを含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が約5 mg/kg〜約500 mg/kgのアセチル-L-カルニチンを含有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
感音難聴を治療するための方法であって、感音難聴を患っている生物に、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンの誘導体、およびフェニル-N-tert-ブチルニトロンからなる群より選択される医薬上有効な量の化合物を含む第一成分、アセチル-L-カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニン、カルバマチオン、およびSzeto-Schiller ペプチド、ならびにそれらの機能的類似体からなる群より選択される医薬上有効な量の化合物を含む第二成分、ならびにN-アセチルシステインを含む第三成分を含有する医薬上有効な量の組成物を送達することを含む方法。
【請求項14】
前記組成物が、約5 mg/kg〜約150 mg/kgの4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、約5 mg/kg〜約300 mg/kgのN-アセチルシステイン、および約5 mg/kg〜約500 mg/kgのアセチル-L-カルニチンを含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が急性音響外傷を治療するために使用される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が急性音響外傷事象の4時間以内に最初に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
更に、24時間に2回前記組成物を送達することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が毎日経口送達される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
感音難聴を治療するための方法であって、感音難聴を患っている生物に、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンの誘導体、およびフェニル-N-tert-ブチルニトロンからなる群より選択される医薬上有効な量の化合物を含む第一成分、ならびにN-アセチルシステインを含む第二成分を含有する医薬上有効な量の組成物を送達することを含む方法。
【請求項20】
前記組成物が、約5 mg/kg〜約150 mg/kgの4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンおよび約5 mg/kg〜約300 mg/kgのN-アセチルシステインを含有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が急性音響外傷を治療するために使用される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が急性音響外傷事象の4時間以内に最初に投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
更に、24時間に2回前記組成物を送達することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が毎日経口送達される、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
感音難聴を治療するための組成物であって、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンの誘導体、およびフェニル-N-tert-ブチルニトロンからなる群より選択される医薬上有効な量の組成物を含有する組成物。
【請求項26】
感音難聴を治療するための組成物であって、
4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンの誘導体、およびフェニル-N-tert-ブチルニトロンからなる群より選択される医薬上有効な量の化合物を含む第一成分と、
N-アセチルシステイン、アセチル-L-カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニン、カルバマチオン、およびSzeto-Schillerペプチド、ならびにそれらの機能的類似体からなる群より選択される医薬上有効な量の化合物を含む第二成分
とを含有する組成物。
【請求項27】
前記組成物が4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンおよびN-アセチルシステインを含有する、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記組成物が、約5 mg/kg〜約150 mg/kgの4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンおよび約5 mg/kg〜約300 mg/kgのN-アセチルシステインを含有する、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
更に約5 mg/kg〜約500 mg/kgのアセチル-L-カルニチンを含有する、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
感音難聴を治療するための組成物であって、
4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンの誘導体、およびフェニル-N-tert-ブチルニトロンからなる群より選択される医薬上有効な量の化合物を含む第一成分と、
アセチル-L-カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニン、カルバマチオン、およびSzeto-Schillerペプチド、ならびにそれらの機能的類似体からなる群より選択される医薬上有効な量の化合物を含む第二成分と、
医薬上有効な量のN-アセチルシステインを含む第三成分
とを含有する組成物。
【請求項31】
前記組成物が、約5 mg/kg〜約150 mg/kgの4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロン、約5 mg/kg〜約300 mg/kgのN-アセチルシステイン、および約5 mg/kg〜約500 mg/kgのアセチル-L-カルニチンを含有する、請求項30に記載の組成物。

【公表番号】特表2009−544712(P2009−544712A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521824(P2009−521824)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【国際出願番号】PCT/US2007/016758
【国際公開番号】WO2008/013866
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(509024112)ハフ イヤ インスティテュート (2)
【Fターム(参考)】