説明

感光性組成物および感光性平版印刷版材料

【課題】400nm〜900nmの波長範囲のレーザー光露光に対して高感度であり、特に感光性組成物を支持体上に塗布するための塗布液の経時安定性が改良された感光性組成物、および耐刷性と地汚れが改善された感光性平版印刷版材料を与えること。
【解決手段】(A)一般式Iで示される有機ホウ素塩、(B)トリハロアルキル置換化合物、(C)400nm〜900nmの波長範囲に吸収を有するシアニン系色素、および(D)重合性二重結合基を有する化合物を含んでなる感光性組成物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性が改良された、400nm〜900nmの波長範囲のレーザー光露光に対して高感度である感光性組成物およびこれを利用した感光性平版印刷版材料に関する。特に、感光性組成物を溶解した溶液中における安定性が改良された感光性組成物およびこれを利用した感光性平版印刷版材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高感度な感光性組成物を利用してレーザー光照射により光重合を行い、迅速にかつ簡便に光硬化を行うことで様々な基板上にパターニングを行う方法が広く用いられている。特に印刷版材料として、例えば親水性基板上に、アルカリ性現像液により現像可能な感光性組成物からなる光硬化性感光層を設け、レーザー光照射と引き続くアルカリ現像液による現像処理により、該基板上に光硬化した層をパターン状に形成して、これを平版印刷版材料として利用することが広く行われている。
【0003】
例えば、特開2001−290271号公報(特許文献1)等には、レーザー光として830nm付近に発光する近赤外光半導体レーザーや、あるいは405nm付近の青紫色半導体レーザーを利用し、これらのレーザー光に高感度である感光性組成物と、これを利用した感光性平版印刷版材料の例が開示されている。さらには、特に近赤外光に高感度である系として、特開平7−292014号公報(特許文献2)には、シアニン系色素、s−トリアジン化合物および有機ホウ素塩を含む近赤外光に高感度である感光性組成物の例が開示されている。あるいは、特開平9−100306号公報(特許文献3)には、特定のピリジニウム塩と有機ホウ素塩を含む同じく近赤外光に高感度である感光性組成物の例が開示されている。あるいは、特開平9−3109号公報(特許文献4)には、可視光露光に高感度である感光性組成物の例として、クマリン系色素とs−トリアジン化合物および有機ホウ素塩を含む系が開示されている。
【0004】
これらの例では、高感度であるものの、こうした感光性組成物を基板上に塗設するために作製する塗布液の安定性が著しく悪く、塗布液を作製してからの経時により、塗布液中に含まれる感光性成分の分解が顕著に発生し、これを用いて塗設した光硬化性感光層の露光感度が著しく低下する問題があった。特に本発明に関わる400nm〜900nmの波長範囲のレーザー光露光に対して高感度である感光性組成物を利用する系では、高感度であるが故にこうした感光性組成物の保存安定性を高いレベルで維持することが非常に困難であった。
【0005】
上記の感光性組成物を利用した感光性平版印刷版材料に関しては、先の特許文献1〜4以外にも特開2002−278066号公報(特許文献5)、特開2003−43687号公報(特許文献6)等において、側鎖に重合性二重結合基を有するポリマーを光硬化性感光層に使用することで、高感度でかつ耐刷性に優れたレーザー露光に高感度であるアルカリ性現像液で現像が可能である感光性平版印刷版材料の例が開示されている。
【0006】
さらには、現像液としてアルカリ性現像液を用いるのではなく、例えば特開2008−265297号公報(特許文献7)では、水により現像が可能である感光性平版印刷版材料の例が開示されており、これによると特定の支持体上に、有機ホウ素塩とs−トリアジン化合物を含んだ光硬化性感光層を設けた、レーザー光露光に対して高感度である感光性平版印刷版材料の例が開示されている。
【0007】
こうした感光性平版印刷版材料においては、光硬化性感光層の種々の現像液に対する溶解性が塗布液の経時で変化することが度々発生し、経時変化に伴う現像性の低下による印刷物上への印刷地汚れなどの影響や、耐刷力の低下等の悪影響が現れる問題があった。
【0008】
こうした種々の現像液に対する現像性の変化などの問題は、感光性組成物を支持体上に塗設するための塗布液を作製して感光性平版印刷版材料を製造する場合において、該溶液が経時変化を起こし、保存中に感光性成分の分解が生じることで、これを使用して製造した感光性平版印刷版材料の現像性の低下が製造直後から発生する場合があり大きな問題であった。特に製造時において塗布液は、その作製から塗布工程に給されるまでの保管時間が時として数日間にわたる場合が多々あり、さらには作製した塗布液が全量塗布工程で消費されるのではなく、塗布液が残る場合がある。この場合に塗布液が後日の塗布工程で再利用できる場合は問題ないが、塗布液の経時安定性が低い場合には残液を廃棄せざるを得ない場合があり、製造コストを引き上げる要因となっていた。さらに、塗布液の安定性が悪いことと、製造される感光性平版印刷版の特性の経時変化、即ち長期保管による品質安定性の低下とは密接に相関しており、塗布液の経時安定性を高めることはそのまま製品としての感光性平版印刷版そのものの安定性を向上させることに繋がっているのが現状である。実際の製造条件においては、塗布液の保管条件として、例えば室温(25℃)において少なくとも2週間程度保管して於いても性状に変化がなく、これを使用して製造する感光性平版印刷版の特性にも異常が認められないことが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−290271号公報
【特許文献2】特開平7−292014号公報
【特許文献3】特開平9−100306号公報
【特許文献4】特開平9−3109号公報
【特許文献5】特開2002−278066号公報
【特許文献6】特開2003−43687号公報
【特許文献7】特開2008−265297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、400nm〜900nmの波長範囲のレーザー光露光に対して高感度であり、特に感光性組成物を支持体上に塗布するための塗布液の経時安定性が改良された感光性組成物、および耐刷性と地汚れが改善された感光性平版印刷版材料を与えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題は、(A)下記一般式Iで示される有機ホウ素塩、(B)トリハロアルキル置換化合物、(C)400nm〜900nmの波長範囲に吸収を有するシアニン系色素、および(D)重合性二重結合基を有する化合物を含んでなる感光性組成物により基本的には解決される。
【0012】
【化1】

【0013】
一般式Iにおいて、R、R、R、Rは下記一般式IIで表されるアリール基を表し、Aはカチオンを形成し得る基を表す。一般式II中、R、R、R、R、Rは各々独立して水素原子または炭素数が1〜10の範囲であるアルキル基、アルキレン基、アルコキシ基、あるいはアリール基から選ばれる基を表し、これらの内幾つかが結合して環を形成していても良い。
【0014】
【化2】

【発明の効果】
【0015】
400nm〜900nmの波長範囲のレーザー光露光に対して高感度であり、特に感光性組成物を支持体上に塗布するための塗布液の経時安定性が改良された感光性組成物、および耐刷性と地汚れが改善された感光性平版印刷版材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
最初に、上記一般式Iで示される有機ホウ素塩について説明を行う。一般式Iの有機ホウ素塩はホウ素原子に結合する4個の置換基の全てがアリール基であるテトラアリールボレート錯塩であることが特徴である。ホウ素原子に結合する4個の置換基であるR、R、R、Rは各々構造が異なっていても良く、あるいは、これらの内幾つかが同一構造であっても良く、さらには全てが同一構造の置換基であっても良い。また、本発明に関わる有機ホウ素塩はこれらの置換基の組み合わせが異なる複数の構造を有する有機ホウ素塩の混合物であっても良い。一般式Iで示される有機ホウ素塩の好ましい例をカチオン部分Aを除いた下記化学式で例示する。
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
上記に例示したような種々の有機ホウ素塩の内、さらに好ましい例が存在し、ホウ素原子に結合したアリール基の内少なくとも1つが置換基を有し、該置換基として、炭素数が1〜10の範囲であるアルキル基、アルキレン基、アルコキシ基、あるいはアリール基から選ばれる基であり、これらの内幾つかが結合して環を形成していても良い場合が挙げられる。特に好ましいアリール基の例として、トリル基、ブチルフェニル基、キシリル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、フルオレニル基、アセナフチル基などの例が挙げられる。これらの置換基が結合したアリール基は中心のホウ素原子に対して1〜4個の範囲で含まれている場合が何れも好ましい。また、これらの置換基の結合した数が異なる複数の構造の有機ホウ素塩の混合物である場合であっても良い。
【0020】
上記に例示したような様々な有機ホウ素塩は、後述する様々なカチオン部分Aとの任意の組み合わせで用いることができる。
【0021】
従来から光重合開始剤として用いることのできる有機ホウ素塩としては、例えば、米国特許第4772530号公報、米国特許第4772541号公報、米国特許第5151520号公報、米国特許第505537号公報などに記載される例では、ホウ素原子に少なくとも1個のアルキル基と3個のアリール基が結合した化合物が好ましく利用されてきた。しかしながらこれらの有機ホウ素塩は高感度であるが、一方で安定性に問題があり、特に種々の溶液中やバインダーと共に固相で用いられる場合において徐々に分解が生じ、感度が低下し、光重合開始剤としての機能が失われる問題があった。特にカルボキシル基などの酸性基を有する成分を有する媒体中において顕著に不安定となり、該媒体中においては光重合開始剤として使用され得ないことが例えば特開2000−319283号公報に記載されている。特開平9−188686号公報にはトリアリールアルキルボレート錯塩中のアリール基に電子吸引性基を導入することで有機ホウ素塩としての安定性が向上することが記載されているが、反面、光重合開始剤としての感度が大きく低下するため実用的には問題があった。
【0022】
本発明で用いるテトラアリールボレート錯塩である一般式Iの有機ホウ素塩は、これを単独で光重合開始剤として使用した場合に、従来から知られている様々な有機ホウ素塩と比較して感度は同等もしくは同等以上であり、種々の溶液中やバインダーと共に固相で用いられる場合においても分解することなく安定性が改良され、従来から困難であった酸性基を有する成分を有する媒体中でも安定であることを見出したものである。さらには後述するトリハロアルキル置換化合物、400nm〜900nmの波長範囲に吸収を有するシアニン系色素、および重合性二重結合基を有する化合物と併用して用いることで極めて高感度であり、かつ上記のような安定性を実現することを見出したものである。
【0023】
従来からの知見では、例えば特開昭62−143044号公報や、あるいは学術文献として、Macromolecules,1998,31,951,Macromolecules,1998,31,6476,Macromolecules,1998,32,328,等に記載されるように、一般にホウ素原子に4個のアリール基が結合したテトラアリールボレート錯塩は低感度であり、ホウ素原子に少なくとも1個のアルキル基と3個のアリール基が結合した化合物がより高感度であることが知られていた。本発明ではホウ素原子に特定の置換基を有するアリール基を結合したテトラアリールボレート錯塩をトリハロアルキル置換化合物、400nm〜900nmの波長範囲に吸収を有するシアニン系色素、および重合性二重結合基を有する化合物と併用して用いることで、実用的に十分高感度であり、従来から困難であった感光性組成物の溶液中での安定性を改良できることを見出したものである。
【0024】
本発明に使用する一般式Iで示される有機ホウ素塩のカチオン部分Aについて説明を行う。Aはカチオンを形成する基であれば任意の基を用いることができる。好ましい基の一つの例としてテトラアルキルアンモニウムが挙げられ、例えばテトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、フェニルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム等の基を挙げることができる。
【0025】
あるいは別のAの例として、テトラアリールホスホニウム、トリアリールアルキルホスホニウムが挙げられ、具体的にはテトラフェニルホスホニウム、トリフェニルメチルホスホニウム、トリフェニルエチルホスホニウム、トリフェニルブチルホスホニウムなどが挙げられる。
【0026】
さらには別のAの例として様々なヨードニウムおよびスルホニウムも好ましい例として挙げることができ、ジフェニルヨードニウム、トリフェニルスルホニウムなども好ましく使用することができる。
【0027】
本発明で用いることのできる一般式Iで示される有機ホウ素塩の最も好ましい例を下記に示す。
【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】
上記に示した様々な有機ホウ素塩は、これを単独で使用するよりも以下に説明するトリハロアルキル置換化合物と併用して使用することで極めて高感度でかつ塗布液の経時安定性が改良された感光性組成物を与えることが本発明の特徴の一つである。
【0033】
トリハロアルキル置換化合物の例としては、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、米国特許第3,954,475号明細書、米国特許第3,987,037号明細書、米国特許第4,189,323号明細書、特開昭61−151644号公報、特開昭63−298339号公報、特開平4−69661号公報、特開平11−153859号公報等に記載のトリハロメチル−s−トリアジン化合物、特開昭54−74728号公報、特開昭55−77742号公報、特開昭60−138539号公報、特開昭61−143748号公報、特開平4−362644号公報、特開平11−84649号公報等に記載の2−トリハロメチル−1,3,4−オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。また、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環あるいは含窒素複素環に結合した、特開2001−290271号公報等に記載のトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0034】
トリハロアルキル置換化合物の特に好ましい例を下記に示す。
【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
上記のような種々のトリハロアルキル置換化合物を本発明に使用する一般式Iの有機ホウ素塩と共に用いる場合には両者の割合には好ましい範囲が存在する。一般式Iの有機ホウ素塩のモル数1に対して、トリハロアルキル置換化合物の好ましい使用量は0.05モルから5モルの範囲である。さらに好ましくは、0.1モルから2モルの範囲である。この範囲のモル比で両者を混合して使用することで、極めて高感度であり、かつ良好な保存安定性が両立できることを見出したことも本発明の特徴の一つである。
【0038】
本発明の感光性組成物中にはさらに400nm〜900nmの波長範囲に吸収を有するシアニン系色素が含まれる。ここでいうシアニン系色素とは、窒素原子、酸素原子、または硫黄原子等の複素原子がポリメチン(−CH=)鎖で結合された構造を基本構造とするものであり、その複素原子が複素環を形成し、ポリメチン鎖を介して複素環が結合された構造を基本構造とする広義の所謂シアニン系色素を指す。
【0039】
本発明の目的の一つに、400nm〜900nmの波長範囲のレーザー光露光に対して高感度であることを挙げているが、この目的を達成するために上記シアニン系色素は上記波長範囲に吸収を有し、本発明の有機ホウ素塩と上述したトリハロアルキル置換化合物を含む感光性組成物においてこれらの光重合開始剤系を増感する作用を有することが好ましい。特にレーザー光露光を利用する場合には照射されるレーザー光の波長において極めて高感度であることが好ましく、用いることのできるシアニン系色素として好ましい例が存在する。
【0040】
例えば、400〜600nmの波長範囲のレーザー光露光について好ましく用いることのできるシアニン系色素の例を下記に挙げる。
【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
【化13】

【0044】
あるいは、例えば、600〜900nmの波長範囲のレーザー光露光について好ましく用いることのできるシアニン系色素の例を下記に挙げる。
【0045】
【化14】

【0046】
【化15】

【0047】
【化16】

【0048】
【化17】

【0049】
上記のような400nm〜900nmの波長範囲に吸収を有するシアニン系色素を含む感光性組成物において、該シアニン系色素が含まれる割合については好ましい範囲が存在する。本発明の感光性組成物に含まれる有機ホウ素塩1質量部に対して、シアニン系色素は0.01質量部から1質量部の範囲で含まれることが好ましく、さらに0.05質量部から0.5質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0050】
本発明の感光性組成物中にはさらに重合性二重結合基を有する化合物が含まれる。こうした化合物の好ましい例としては、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−カルボキシスチレン、4−アミノスチレン、クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アリールエステルあるいはアルキルアリールエステル類、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、あるいは、リン酸基を有するモノマーとしてビニルホスホン酸等、あるいは、アリルアミン、ジアリルアミン等のアミノ基含有モノマー類、あるいは、ビニルスルホン酸およびその塩、アリルスルホン酸およびその塩、メタリルスルホン酸およびその塩、スチレンスルホン酸およびその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩等のスルホン酸基を有するモノマー類、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、あるいは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、あるいはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、またアクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等のアクリルアミドもしくはメタクリルアミド誘導体、さらにはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート、あるいは多官能性モノマーとして、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールグリセロールトリアクリレート、グリセロールエポキシトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能性アクリル系モノマー、あるいは、アクリロイル基、メタクリロイル基を導入した各種重合体としてポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等各種モノマーを挙げることができる。
【0051】
上記のような重合性二重結合基を有する化合物を含む感光性組成物において、該重合性二重結合基を有する化合物が含まれる割合については好ましい範囲が存在する。本発明の感光性組成物に含まれる有機ホウ素塩1質量部に対して、重合性二重結合基を有する化合物は0.5質量部から50質量部の範囲で含まれることが好ましく、さらに1質量部から30質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0052】
本発明の感光性組成物中にはさらにバインダーポリマーが含まれることも好ましく行うことができる。基本的には任意のポリマーをバインダーポリマーとして使用することができるが、用いることのできるバインダーとしてのポリマーの例を挙げると、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩ビ樹脂、ポリカーボネート樹脂等の種々の疎水性樹脂や、あるいは、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシルメチルセルロース等セルロース誘導体、各種変性澱粉その他の水溶性ポリマーを加えて使用することも可能である。
【0053】
さらに好ましいバインダーポリマーの例としては、側鎖にカルボキシル基を有するアルカリ水溶液に可溶性であるポリマーを挙げることができる。例えば特開昭59−44615号公報、特公昭54−34327号公報、特公昭58−12577号公報、特公昭54−25957号公報、特開昭54−92723号公報、特開昭59−53836号公報、特開昭59−71048号公報等に記載されている各種カルボキシル基含有ポリマー、即ち、メタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらのポリマーはアルカリ水溶液に可溶性であり、アルカリ性現像液を使用する場合において好ましく用いることができる。
【0054】
側鎖にカルボキシル基を有するアルカリ水溶液に可溶性であるポリマーとして、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、部分エステル化マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として含む共重合体であることが特に好ましい。こうした共重合体を形成するための共重合モノマーとして、例えば、スチレン、4−メチルスチレン、4−アセトキシスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの種々のアルキル(メタ)アクリレート、あるいは4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、あるいは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、あるいはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、またアクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等のアクリルアミドもしくはメタクリルアミド誘導体、さらにはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン等各種モノマーを適宜共重合モノマーとして使用することができる。
【0055】
この場合、共重合体組成に於けるカルボキシル基含有モノマーの割合として、全組成100質量%中においてカルボキシル基含有モノマーは20質量%以上60質量%以下であることが好ましく、これ未満の割合では共重合体がアルカリ水溶液に溶解しない場合がある。さらに、共重合体中におけるカルボキシル基含有モノマーの割合が60質量%を超えて含まれる場合には、本発明の感光性平版印刷版材料を用いて印刷を行う場合に十分な耐刷力が得られない場合がある。
【0056】
上記の種々の共重合体モノマーの中でも特に好ましい例が挙げられる。本発明に使用できるカルボキシル基を有するアルカリ水溶液に可溶性であるバインダーポリマーがある程度疎水性である構造を有している場合において、該バインダーポリマーを含んでなる感光性平版印刷版材料のインキ乗り性が向上することが好ましい効果として挙げられる。即ち、該バインダーポリマーに疎水性構造を与えるための共重合モノマーの例として、スチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、c−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの種々の(メタ)アクリル酸エステルが極めて好ましく使用することができる。さらに好ましい該バインダーポリマーの例として、側鎖に重合性二重結合基を併せて有するポリマーを挙げることができる。この場合、該バインダーポリマーを含んでなる感光性平版印刷版材料において、画像部(露光部)において効率的に光重合による架橋構造の形成が生じるため、耐刷性に極めて優れた印刷版を与えることから極めて好ましく使用することができる。これらの側鎖に導入した重合性二重結合基の共重合体ポリマー中に占める割合としては、カルボキシル基含有モノマーの全体に対する質量比が20質量%以上である範囲であれば任意の割合で導入することができる。
【0057】
本発明において極めて好ましく使用することのできる側鎖に重合性二重結合基を併せて有するカルボキシル基を有するアルカリ可溶性バインダーポリマーの例を下記に示す。図中の数値は共重合組成比(質量比)を表す。
【0058】
【化18】

【0059】
側鎖に重合性二重結合基を併せて有するカルボキシル基を有するアルカリ可溶性バインダーポリマーの最も好ましい例として、例えば特開2001−290271号公報(特許文献1)に記載される、カルボキシル基と、ヘテロ環を介してビニル基が結合したフェニル基の両方を側鎖に有するポリマーが挙げられる。こうした最も好ましい該バインダーポリマーの例を下記に示す。図中の数値は共重合組成比(質量比)を表す。
【0060】
【化19】

【0061】
本発明の感光性組成物に使用されるバインダーポリマーとしては、上記のカルボキシル基を有するアルカリ可溶性バインダーポリマーに換えて、以下に述べるスルホン酸塩基を有するバインダーポリマーも極めて好ましく使用することができ、この場合、得られる感光性組成物は中性付近の水により現像が可能であることが特徴である。
【0062】
こうした目的で使用できるバインダーポリマーとしては、スルホン酸塩基を有する任意のポリマーが使用可能であるが、本発明において最も好ましく使用できるスルホン酸塩基を有するバインダーポリマーとしては、下記一般式IIIで示される構造のスルホン酸塩基を有するモノマーを重合して得られるポリマーである。
【0063】
【化20】

【0064】
式中、Lはなくても良い任意の原子または基からなる連結基を表し、酸素原子、硫黄原子、置換していても良い直鎖あるいは分岐のアルキレン基、アリーレン基、−NH−、−COO−、−CONH−、−CO−、およびこれらの任意の組み合わせからなる基を表す。R10は、水素原子、またはメチル基を表す。Bはカチオンを表す。
【0065】
こうしたスルホン酸塩基を有するモノマーの例として、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩およびそのアミン塩、4級アンモニウム塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩およびそのアミン塩、4級アンモニウム塩、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のアルカリ金属塩およびそのアミン塩、4級アンモニウム塩、アリルスルホン酸のアルカリ金属塩およびそのアミン塩、4級アンモニウム塩、メタリルスルホン酸のアルカリ金属塩およびそのアミン塩、4級アンモニウム塩、メタクリル酸3−スルホプルピルエステルのアルカリ金属塩およびそのアミン塩、4級アンモニウム塩等が好ましい例として挙げられる。ここでいうアルカリ金属塩とはナトリウム塩、カリウム塩およびリチウム塩であり、アミン塩とはアミンとしてアンモニア、トリエチルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、n−ブチルジエタノールアミン、t−ブチルジエタノールアミン等のアミン類、あるいは4級アンモニウム塩とは、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロキサイド、コリン、フェニルトリメチルアンモニウムハイドロキサイド、ベンジルトリメチルアンモニウムハイドロキサイドを用いて形成される塩を意味する。
【0066】
本発明において好ましく使用できるスルホン酸塩基を有するバインダーポリマーとしては、上記の種々のスルホン酸塩基を有するモノマーを各々単独もしくは数種を組み合わせて重合して得られるポリマーを使用しても良いが、さらに好ましくは、上記のスルホン酸塩基を有するモノマーと共に、以下の各種共重合モノマーとの組み合わせで得られる共重合体ポリマーである場合がさらに好ましい。
【0067】
上記の目的で使用することのできる共重合モノマーの例としては、例えば、スチレン、4−メチルスチレン、4−アセトキシスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの種々のアルキル(メタ)アクリレート、あるいは4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、あるいは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、あるいはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、またアクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等のアクリルアミドもしくはメタクリルアミド誘導体、さらにはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン等各種モノマーを適宜共重合モノマーとして使用することができる。これらの共重合モノマーの共重合体ポリマー中に占める割合としては、全体に対して最大でも90質量%未満であり、共重合体中に含まれるスルホン酸塩基を有するモノマーの全体に対する割合が10質量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、これらの共重合体モノマーが含まれる場合であっても、全体に対する割合が最大でも70質量%未満であり、スルホン酸塩基を有するモノマーの全体に対する割合が30質量%以上である場合においては、該バインダーポリマーの水に対する溶解性が良好であり、好ましい。
【0068】
上記の共重合体モノマーの中でも特に好ましい例が挙げられる。本発明に使用できるスルホン酸塩基を有するバインダーポリマーがある程度疎水性である構造を有している場合において、該バインダーポリマーを含んでなる感光性平版印刷版材料のインキ乗り性が向上することが好ましい効果として挙げられる。即ち、該スルホン酸塩基を有するバインダーポリマーに疎水性構造を与えるための共重合モノマーの例として、スチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、c−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの種々の(メタ)アクリル酸エステルが極めて好ましく使用することができる。
【0069】
本発明において好ましく使用することのできる該スルホン酸塩基を有するバインダーポリマーの例を下記に示す。図中の数値は共重合組成比(質量比)を表す。
【0070】
【化21】

【0071】
さらに好ましい該スルホン酸塩基を有するバインダーポリマーの例として、側鎖に重合性二重結合基を併せて有するポリマーを挙げることができる。この場合、該バインダーポリマーを含んでなる感光性平版印刷版材料において、画像部(露光部)において効率的に光重合による架橋構造の形成が生じるため、耐刷性に極めて優れた印刷版を与えることから極めて好ましく使用することができる。これらの側鎖に導入した重合性二重結合基の共重合体ポリマー中に占める割合としては、スルホン酸塩基を有するモノマーの全体に対する質量比が10質量%以上である範囲であれば任意の割合で導入することができる。
【0072】
本発明において好ましく使用することのできる側鎖に重合性二重結合基を併せて有する該スルホン酸塩基を有するバインダーポリマーの例を下記に示す。図中の数値は共重合組成比(質量比)を表す。
【0073】
【化22】

【0074】
側鎖に重合性二重結合基を併せて有する該スルホン酸塩基を有するバインダーポリマーの最も好ましい例として、例えば特開2008−265297号公報(特許文献7)に記載される、スルホン酸塩基と、ヘテロ環を介してビニル基が結合したフェニル基の両方を側鎖に有するポリマーが挙げられる。こうした最も好ましい該バインダーポリマーの例を下記に示す。図中の数値は共重合組成比(質量比)を表す。
【0075】
【化23】

【0076】
【化24】

【0077】
前記の本発明に使用する一般式Iの有機ホウ素塩と共に用いるバインダーポリマーの光硬化性感光層中における両者の量的な割合には最適な範囲が存在する。即ち、バインダーポリマーを100質量部とした場合に、一般式Iの有機ホウ素塩は1質量部から30質量部の範囲で含まれていることが好ましい。
【0078】
本発明の感光性組成物を構成するその他の要素として、画像の視認性を高める目的で種々の染料、顔料を添加することや、感光性組成物のブロッキングを防止する目的等で無機物微粒子あるいは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0079】
本発明の感光性組成物を構成するその他の要素として、長期にわたる保存に関して、熱重合による暗所での硬化反応を防止するために重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。こうした目的で好ましく使用される重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、カテコール類、ナフトール類、クレゾール類等の各種フェノール性水酸基を有する化合物やキノン類化合物、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル類、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩類等が好ましく使用される。この場合の重合禁止剤の添加量としては、本発明の光重合性組成物の総固形分質量100質量部に対して0.01質量部から10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0080】
本発明の感光性組成物を用いて支持体上に光硬化性感光層を設けた感光性平版印刷版材料を作製するための支持体としては各種プラスチックフィルムおよびアルミニウム板が挙げられる。プラスチックフィルム支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、硝酸セルロースなどが代表的に挙げられ、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく用いられる。これらのフィルムは表面に本発明の感光性組成物を用いた層を設ける前にフィルム表面に親水化加工が施されていることが好ましい。
【0081】
こうした親水化加工としては、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。さらなる親水化加工としてフィルム上に種々の水溶性ポリマーを含む層を設けることも好ましく行うことができる。例えば、特開2008−265297号公報(特許文献7)等に記載される水溶性ポリマー、コロイダルシリカおよび架橋剤から構成される親水性層を上記フィルム上に形成することが好ましく行われる。さらには、設ける親水性層との接着性を高めるためフィルム上にあらかじめ下引き層を設けても良い。下引き層としては、親水性樹脂を主成分とする層が有効である。親水性樹脂としては、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン)、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の親水性樹脂が好ましい。特に好ましくは、ゼラチン、ポリビニルアルコールが挙げられる。こうした下引き層を介してフィルム支持体と親水性層を形成することで、多部数にわたるロングラン印刷条件での耐刷性が向上するため好ましく利用される。
【0082】
支持体としてアルミニウム板を使用する場合には、粗面化処理され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板が好ましく用いられる。さらに、表面をシリケート処理したアルミニウム板も好ましく用いることができる。あるいは、さらに表面に上記の親水性層を形成したアルミニウム板を用いることもできる。
【0083】
上記のような支持体を用いて本発明の感光性平版印刷版材料を作製するためには、本発明の感光性組成物を用いた塗布液を支持体上に塗布、乾燥を行うことで光硬化性感光層を形成することが必要である。この光硬化性感光層は支持体表面あるいは上記の親水性層を介して支持体表面に形成することが好ましい。この場合の光硬化性感光層自体の乾燥固形分塗布量に関しては、乾燥質量で1平方メートルあたり0.3gから10gの範囲の乾燥固形分塗布量で形成することが好ましく、さらに0.5gから3gの範囲であることが良好な解像度を発揮し、かつ細線画像や微小網点画像の耐刷性を確保し、同時にインキ乗り性を大幅に向上させるために極めて好ましい。光硬化性感光層は上述の種々の要素を混合した光重合性組成物の水系分散液を作製し、公知の種々の塗布方式を用いて支持体表面あるいは親水性層上に塗布、乾燥される。
【0084】
本発明の感光性平版印刷版材料においては、本発明の感光性組成物からなる光硬化性感光層の上に、さらに保護層を設けることも好ましく行われる。保護層は、感光層中で露光により生じる画像形成反応を阻害する大気中に存在する酸素や塩基性物質等の低分子化合物の感光層への混入を防止し、大気中での露光感度をさらに向上させる好ましい効果を有する。さらには感光層表面を傷から防止する効果も併せて期待される。従って、このような保護層に望まれる特性は、酸素等の低分子化合物の透過性が低く力学的強度に優れ、さらに、露光に用いる光の透過は実質阻害せず、感光層との密着性に優れ、かつ、露光後の現像工程で容易に除去できることが望ましい。本発明の水現像可能な感光性平版印刷版材料においては、水現像の過程においてこうした保護層と光硬化性感光層の未露光部の除去が同時に行うことも可能であるため、特に保護層の除去工程を設ける必要がないことが特徴である。さらに、先に述べたような光硬化性感光層に含まれる該重合体が水溶性であるが故に大気中の水分を吸湿しブロッキングを発生したり、保存中に感度変化等の問題を生じる場合があるが、保護層を光硬化性感光層の上部に設けることでこうしたブロッキングや感度変化の問題を解消することが可能である。加えて、特にレーザーを使用して記録を行う場合、特に高感度であることが要求されるため、保護層を設けることで感度が上昇するため特に好ましく適用することができる。
【0085】
このような、保護層に関する工夫が従来よりなされており、米国特許第3,458,311号明細書、特開昭55−49729号公報等に詳しく記載されている。保護層に使用できる材料としては例えば、比較的結晶性に優れた水溶性高分子化合物を用いることが良く、具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸などのような水溶性ポリマーが知られているが、これらの内、ポリビニルアルコールを主成分として用いることが、酸素遮断性、現像除去性といった基本特性的に最も良好な結果を与える。保護層に使用するポリビニルアルコールは、必要な酸素遮断性と水溶性を有するための未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテル、およびアセタールで置換されていても良い。また、同様に一部が他の共重合成分を有していても良い。こうした保護層を適用する際の乾燥固形分塗布量に関しては好ましい範囲が存在し、感光層上に乾燥質量で1平方メートルあたり0.1gから10gの範囲の乾燥固形分塗布量で形成することが好ましく、さらには0.2gから2gの範囲が好ましい。保護層は、公知の種々の塗布方式を用いて光硬化性感光層上に塗布、乾燥される。
【0086】
上記のようにして支持体上に形成された光硬化性感光層を有する材料を印刷版として使用するためには、これに密着露光あるいはレーザー走査露光を行い、露光された部分が架橋することで水または現像液に対する溶解性が低下することから、種々の現像液により未露光部を溶出することでパターン形成が行われる。
【0087】
本発明において、水を用いた現像に使用される中性付近の水とは、pHが5〜8の範囲であり、純水もしくはこれに各種無機、有機イオン性化合物が含まれても良く、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムイオンなどが含まれる水であっても良い。あるいは水中に公知である各種界面活性剤などが含まれていても良い。また、水には各種アルコール類として、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メトキシエタノール、ポリエチレングリコールなどの溶剤が含まれていても良い。あるいは、水現像の際に、市販される各種ガム液を添加して現像することも、版面を指紋汚れ等から保護する目的で好ましく用いることができる。
【0088】
本発明の感光性平版印刷版材料は上記の水以外にもpHが9以上であるアルカリ性現像液を使用しても印刷版としての良好な性能を発揮できる。こうしたアルカリ性現像液には、界面活性剤とアルカリを含有することができる。現像液には、さらに有機溶剤、緩衝剤、キレート剤等を含有することができる。適当なアルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、第三リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム等の無機アルカリ剤、あるいは、トリメチルアミン、ジエチルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン類などの有機アミン化合物などが挙げられ、これらは単独もしくは組み合わせて使用できる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、モノグリセリドアルキルエステル類等のノニオン系界面活性剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキル硫酸塩類、アルキルスルホン酸塩類、スルホコハク酸エステル塩類等のアニオン界面活性剤;アルキルベタイン類、アミノ酸類等の両性界面活性剤が使用可能である。アルカリ現像液のpHは通常9〜12であることが好ましい。また、有機溶剤としては例えば、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、プロピレングリコール、ジアセトンアルコール等を必要により含有させることが可能である。
【0089】
さらには、特開2006−39177号公報や特開2006−64952号公報等に記載されるような水酸化テトラアルキルアンモニウムを含有するpH10〜12の現像液を用いることも好ましく行うことができる。この場合の水酸化テトラアルキルアンモニウムのアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特に炭素数が1〜4のアルキル基が好ましい。これらのアルキル基はさらにヒドロキシ基、メトキシ基のようなアルコキシ基等で置換されていてもよい。
【0090】
現像方法としては特に限定されないが、現像液に浸積する方法や物理的にブラシなどで現像液により溶解しかかった非画像部を除去する方法や、現像液をスプレー状に吹き付けて非画線部を除く方法などが挙げられる。現像時間は、上記現像方法に応じて未露光部が十分に除去できる時間を選定すれば良く5秒〜10分の範囲から適宜選ばれる。現像後は、特に印刷版において必要に応じてアラビアガムなどの親水化処理などを適宜行っても良い。また、必要に応じて現像前にあらかじめ酸素遮断層を水洗しても良い。
【実施例】
【0091】
(合成例1)有機ホウ素塩BA−1の合成例
温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えたフラスコ内に、窒素気流下でマグネシウム(シグマアルドリッチジャパン株式会社製試薬、グリニァール反応用)21グラムを投入し、無水テトラヒドロフラン250mlを加えて攪拌を行った。50℃に調節した水浴上にフラスコを移し、これに滴下漏斗からブロモベンゼン(東京化成工業株式会社製試薬)31.4グラムと4−ブロモトルエン(東京化成工業株式会社製試薬)102.6グラムを混合した液を、穏やかに還流が継続する程度に滴下速度を調節しながら30分にわたって徐々に加えた後、還流温度でさらに1時間攪拌を行った。次いで、水浴の温度を65℃に下げ、上記の反応溶液中に、攪拌しながら三フッ化ホウ素・エーテル錯体(東京化成工業株式会社製試薬)28.4グラムを30mlの無水テトラヒドロフランに溶解した溶液を45分間にわたり徐々に滴下した。滴下終了後さらに3時間攪拌を続けた後、反応溶液を濾過した。得られた溶液を次いで、攪拌しながら水酸化ナトリウム256グラムを750mlの水に溶解した溶液中に冷却を行いながら滴下した。有機層をデカンテーションにより分離し、さらに水層にテトラヒドロフラン150mlを加えて抽出を行った。あわせたテトラヒドロフラン溶液をエバポレートし、残渣を500mlのメタノールに溶解し、濾過を行った。これにテトラブチルアンモニウムブロマイド(東京化成工業株式会社製試薬)64.4グラムを添加し、さらに蒸留水100mlを添加すると直ちに白色の固体が析出した。生成物を濾過し、水/メタノール混合溶媒で洗浄を行い、次いで真空乾燥を行い、収率約80%で目的とする有機ホウ素塩BA−1を得た。生成物の構造はプロトンNMRを用いて解析を行い、BA−1で示す構造であることを確認した。また生成物の純度は、HPLCにより分析を行うことでほぼ純粋に目的とする化合物が得られていることを確認した。BA−1以外の、他の有機ホウ素塩BA−2〜BA−12も同様な方法で、各々対応する臭素化合物を原料に用いて反応を行い、同様な収率で目的とする化合物を得た。
【0092】
(合成例2)有機ホウ素塩BA−13の合成例
合成例1と同様にして、合成例1で用いたブロモベンゼンに換えて、1−ブロモナフタレン(東京化成工業株式会社製試薬)83グラムを使用し、これと4−ブロモトルエン(東京化成工業株式会社製試薬)68.4グラムをマグネシウムを分散した無水テトラヒドロフラン中に滴下した。合成例1と同様にして水酸化ナトリウム水溶液上に反応溶液を滴下し、分離したテトラヒドロフラン溶液の有機層を分離し、エバポレートした。残渣をメタノールに溶解し、合成例1で使用したテトラブチルアンモニウムブロマイドに換えてベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド(東京化成工業株式会社製試薬)46グラムを加えて白色固体を得た。先の合成例1と同様に生成物の解析を行い、目的とする有機ホウ素塩BA−13が得られていることを確認した。同様にして、他の有機ホウ素塩BA−14〜16も、各々対応するオニウム塩を加えることで同様にして合成を行った。
【0093】
(実施例1〜8および比較例1〜3)感光性組成物の実施例と比較例
感光性組成物中に含まれる有機ホウ素塩の溶液中での安定性を評価した。即ち、下記感光性組成物溶液処方1の構成からなる感光性組成物溶液を作製した。比較として下記構造の有機ホウ素塩CB−1〜3を使用して同様に比較例1〜3を作製した。以下処方中、部とは質量部を表す。
【0094】
(感光性組成物溶液処方1)
有機ホウ素塩(表1) 0.15部
トリハロアルキル置換化合物(T−8) 0.10部
シアニン色素(S−7) 0.04部
重合性二重結合基を有する化合物 0.50部
(ペンタエリスリトールトリアクリレート:アルドリッチケミカル社製試薬)
テトラヒドロフラン 10部
【0095】
【化25】

【0096】
【表1】

【0097】
得られた感光性組成物溶液を、密閉した褐色ガラス容器中に入れ、50℃に調節した乾燥機内に2週間保存を行い、保存前後の感光性組成物中の構成成分の濃度をHPLCにより定量を行った。HPLCによる定量分析方法として、感光性組成物溶液原液を15倍にテトラヒドロフランにより希釈し、カラムとして東ソー株式会社製有機溶媒系SEC用カラムTSKゲルG2000HXLを3本連結したものを使用して、溶離液としてテトラヒドロフランを使用し、1ml/分の流速で分離を行った。検出器として紫外可視分光光度計および屈折率計(RI)を使用した。こうした分析条件では、有機ホウ素塩および他の構成成分は良好に分離され、各々のピーク面積を保存前後で比較することで各成分の濃度変化を測定し、保存後のピーク面積を保存前のピーク面積で除し、その割合(百分率)を以て安定性を評価した。その結果、比較として用いた有機ホウ素塩(比較例1〜3)では、保存後において有機ホウ素塩に帰属されるピークの面積が大きく減少する一方で、本発明に関わる有機ホウ素塩を用いた場合には表2に示す結果のように、ピーク面積は変化しておらず、HPLCによる定量分析結果では有機ホウ素塩および他の何れの構成成分も変化が認められなかった。
【0098】
【表2】

【0099】
さらに感光性組成物の感度について以下のようにして評価を行った。即ち上記の感光性組成物溶液をポリエステルフィルム上に乾燥塗布質量で1平方メートル当たり2.0gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。得られた試料を透過波長405nmの干渉フィルターを通して超高圧水銀灯ランプを搭載した紫外線照射装置(ウシオ電機株式会社製スポットキュアSP−V)からの紫外光を、試料表面上で1mW/cmになるように照度を調節して露光を行った。露光後の試料が硬化してテトラヒドロフランに露光後の感光性組成物からなる光硬化性感光層が溶解しなくなるまでに必要な露光量を以て感度とした。即ち、硬化に要する露光量が小さいほど感度が高いことになる。結果を表3に示した。感度に関しては、有機ホウ素塩の構造による影響が大きいものの、比較例に用いた有機ホウ素塩と本実施例に用いた有機ホウ素塩については適当な構造の有機ホウ素塩を選択することで同等の感度が実現できることから、大きな差は認められないと結論づけられる。
【0100】
【表3】

【0101】
(実施例9〜12および比較例4〜8)感光性平版印刷版材料の実施例と比較例
厚みが0.24mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板に、さらに定法に従い、珪酸ナトリウムを使用してシリケート処理を行ったアルミニウム板を支持体として使用した。光重合開始剤として、本発明の一般式Iの有機ホウ素塩とトリハロアルキル置換化合物を下記表4に示すように組み合わせて使用し、さらにAP−4で示される構造を有するバインダーポリマーを用いて下記感光性組成物溶液処方2の塗布液を作製した。作製した直後の該塗布液および作製後に室温(25℃)にて2週間保存した後の塗布液をそれぞれ上記アルミニウム板の上に、塗布、乾燥することで、各々の感光性平版印刷版材料を作製した。比較例4および5ではトリハロアルキル置換化合物を加えないで同様に感光性組成物溶液を作製し、該塗布液作製直後および室温2週間経時後の両方で同様にアルミニウム板上に塗布乾燥することで比較感光性平版印刷版材料を作製した。比較例6〜8では有機ホウ素塩として比較化合物CB−1〜3を使用して表4に示すトリハロアルキル置換化合物との組み合わせで同様に塗布液を作製し、先の場合と同様に該アルミニウム板の上に、塗布、乾燥して比較感光性平版印刷版材料比較例6〜8を作製した。上記感光性組成物溶液を塗布、乾燥して形成する光硬化性感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり2gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。さらに、これらの光硬化性感光層の上に保護層としてポリビニルアルコール(クラレ株式会社製PVA−105)を使用して乾燥塗布質量で1平方メートル当たり2gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で10分間加熱して乾燥を行った。
【0102】
(感光性組成物溶液処方2)
バインダーポリマー(AP−4) 1.10部
トリメチロールプロパントリアクリレート 0.40部
有機ホウ素塩(表4) 0.20部
トリハロアルキル置換化合物(表4) 0.15部
シアニン色素(S−3) 0.04部
フタロシアニンブルー(着色用顔料) 0.05部
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩 0.02部
ジオキサン 20部
エタノール 5部
【0103】
【表4】

【0104】
上記のように作製した各々の感光性平版印刷版材料は、作製直後の塗布液および室温2週間経時後の塗布液の各々で作製した感光性平版印刷版材料の品質を比較するため以下の種々の評価を行った。
【0105】
(露光試験)
上記のようにして作製した感光性平版印刷版材料について、以下のようにして露光試験を行った。露光は波長が405nmの半導体レーザーを搭載したCTP用イメージセッターVIPLAS(三菱製紙株式会社製)を使用し、この装置を用いて版面上の露光エネルギーが180μJ/cmになるように設定し、走査露光方式により描画を行った。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の1%から97%までの網点面積率を示す網点階調パターンと10〜100μmの細線を出力した。露光された感光性平版印刷版材料を下記の構成で作成された現像液を用いて現像を行った。
【0106】
(現像液処方)
ジメチルアミノエチルアルコール 30部
水酸化テトラメチルアンモニウム 15部
ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム 10部
水を加えて全量を1000部に調整し、さらに85%リン酸を加えてpHを11.5に調整した。
【0107】
(現像性評価)
上記の現像液を用いて処理を行った場合の現像性評価として、以下のようにして試験を行った。現像は三菱製紙株式会社製自動現像装置P−1310Tを使用して処理を行った。現像温度を28℃および30℃の2条件に設定し、各々の温度で処理時間を10秒、および15秒の2条件で処理を行い、非画像部の溶出性(完全に残膜がなくなる場合を○とし、僅かに残膜が認められる場合を△、明確に残膜が発生し、溶出不良である場合を×とした)を評価した。結果を表5に纏めた。但し、表5中、比較例4および5では感度が低く殆ど画像が形成できていなかったため、評価から除外した。
【0108】
【表5】

【0109】
(解像性評価)
上記の現像液を用いて処理を行った場合の解像性評価として、10μm細線および1%網点が明瞭に再現されている場合を○とし、これらが部分的に欠落しているが、20μm以上の細線および2%以上の網点が明瞭に再現されている場合を△、これ以下の再現性である場合を×とした。結果を表6に纏めた。
【0110】
【表6】

【0111】
上記の結果より、実施例9および10の場合は作製直後および保存後の両方の試料について、細線再現性がやや劣るが保存前後で変化のない結果を得た。実施例11および12では保存前後で変化ない良好な画像が確認できた。比較例4および5では感度が低く殆ど画像が形成できていなかった。比較例6および7では作製直後では大凡良好な画質が確認できたが、保存後においては細線再現性に劣り、しかも残膜が生じる結果となった。比較例8では細線再現性が保存後に劣る結果であり、さらに保存後における残膜の発生が顕著に認められた。
【0112】
(印刷性評価)
先の現像処理後の試料の内、比較例4および5は画像が形成されなかったため印刷性評価から除外した。それ以外の試料については、各々30℃15秒の条件で現像された試料を用い、通常のオフセット印刷を行うため、印刷機はリョービ560を使用し、印刷インキはオフセット印刷用墨インキを使用し、吸湿液は東洋インキ株式会社製オフセット印刷用吸湿液アクワユニティWKKの1%水溶液を使用した。印刷性評価として、耐刷性について印刷開始から5万枚まで通して20μm細線および網点面積率が2%の微小網点部分が印刷物上で再現されている場合を○とし、部分的にかけている場合を△とし、ほぼ完全に欠落した場合を×とした。また、地汚れ性については、印刷を通して印刷物上に明らかに地汚れが発生した場合を×とし、それ以外を○とした。結果を表7に纏めた。
【0113】
【表7】

【0114】
上記の結果より、耐刷性に関しては実施例および比較例共に差異は殆ど認められなかったが、地汚れ性については実施例が明確に優れている結果を得た。
【0115】
(実施例13〜16および比較例9〜13)感光性平版印刷版材料の実施例と比較例
バインダーポリマーとしてSP−13を使用した以外は実施例9〜12および比較例4〜8と同様にして各々感光性組成物溶液塗布液の実施例13〜16および比較例9〜13を作製した。
【0116】
上記のようにして作製した感光性組成物溶液塗布液を用いて先の実施例9〜12および比較例4〜8と同様にして、塗布液作製直後および室温2週間経時後の塗布液の各々で作製した感光性平版印刷版材料の品質を比較するため、先の実施例と同様に露光を行った。露光後に、現像液としてイオン交換水を使用して、自動現像装置P−1310Tを使用して処理を行った。現像温度を25℃および30℃の2条件に設定し、各々の温度で処理時間を15秒、および20秒の2条件で処理を行い、先の実施例と同様に現像性評価、解像性評価および印刷性評価を実施し、それぞれ表8、表9および表10に示す結果を得た。但し、表8中、比較例9および10では感度が低く殆ど画像が形成できていなかったため、評価から除外した。
【0117】
【表8】

【0118】
【表9】

【0119】
【表10】

【0120】
上記の結果より、実施例13〜16は保存前後で現像性(表8)、解像性(表9)および印刷性(表10)に変化は認めず、特に実施例14〜16は評価した全ての項目で極めて優れた特性を示した。比較例9および10はこの場合も感度が低く殆ど画像が形成されなかったため印刷評価は除外した。比較例11〜13は保存後に残膜が生じやすく、また地汚れ性に劣り、耐刷性も劣る結果であった。
【0121】
(実施例17〜20および比較例14〜18)感光性平版印刷版材料の実施例と比較例
厚みが0.3mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板に、さらに定法に従い珪酸ナトリウムを使用してシリケート処理を行ったアルミニウム板を支持体として使用した。有機ホウ素塩として、本発明に関わる一般式Iの有機ホウ素塩を下表に示すように使用し、さらにSP−14で示される構造を有するバインダーポリマーを用いて下記感光性組成物溶液処方3の塗布液を作製した。作製した直後の該塗布液および作製後に室温(25℃)にて2週間保存した後の塗布液をそれぞれ上記アルミニウム板の上に、塗布、乾燥することで、各々の感光性平版印刷版材料を作製した。比較例14および15ではトリハロアルキル置換化合物を加えないで同様に感光性組成物溶液を作製し、該塗布液作製直後および室温2週間経時後の両方で同様にアルミニウム板上に塗布乾燥することで比較感光性平版印刷版材料を作製した。比較例16〜18では有機ホウ素塩として比較化合物CB−1〜3を使用して表11に示すトリハロアルキル置換化合物との組み合わせで同様に塗布液を作製し、先の場合と同様に該アルミニウム板の上に、塗布、乾燥して比較感光性平版印刷版材料比較例16〜18を作製した。上記感光性組成物溶液を塗布、乾燥して形成する光硬化性感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり2gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。先の実施例および比較例とは異なり、これらの光硬化性感光層の上部には保護層は設けなかった。
【0122】
(感光性組成物溶液処方3)
バインダーポリマー(SP−14) 1.00部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 0.50部
有機ホウ素塩(表9) 0.20部
トリハロアルキル置換化合物(表9) 0.15部
シアニン色素(S−34) 0.04部
フタロシアニンブルー(着色用顔料) 0.05部
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩 0.02部
ジオキサン 20部
エタノール 5部
【0123】
【表11】

【0124】
上記のように作製した各々の感光性平版印刷版材料は、作製直後の塗布液および室温2週間経時後の塗布液の各々で作製した感光性平版印刷版材料の品質を比較するため以下の種々の評価を行った。
【0125】
(露光試験)
得られた感光性平版印刷版材料を大日本スクリーン製造株式会社製サーマルプレート用イメージセッターPT−R4000(830nmのレーザーを搭載した描画装置)を使用して、版面に照射される露光量を180mJ/cmに合わせて露光を行った。露光された感光性平版印刷版材料をイオン交換水のみである現像液を用いて種々の条件で現像を行った。
【0126】
(現像性試験)
上記のようにして露光した試料を用いて、以下のようにして現像性試験を行った。現像は三菱製紙株式会社製自動現像装置P−1310Tを使用して処理を行った。現像温度を25℃および30℃の2条件に設定し、各々の温度で処理時間を15秒、および20秒の2条件で処理を行い、非画像部の溶出性(完全に残膜がなくなる場合を○とし、僅かに残膜が認められる場合を△、明確に残膜が発生し、溶出不良である場合を×とした)を評価した。結果を表12に纏めた。但し、表12中、比較例14および15では感度が低く殆ど画像が形成できていなかったため、評価から除外した。
【0127】
【表12】

【0128】
(解像性評価)
上記の現像液を用いて処理を行った場合の解像性評価として、10μm細線および1%網点が明瞭に再現されている場合を○とし、これらが部分的に欠落しているが、20μm以上の細線および2%以上の網点が明瞭に再現されている場合を△、これ以下の再現性である場合を×とした。結果を表13に纏めた。
【0129】
【表13】

【0130】
(印刷性試験)
先の現像処理後の試料の内、比較例14および15は画像が形成されなかったため印刷性評価から除外した。それ以外の試料については、各々30℃20秒の条件で現像された試料を用い、先の実施例と同様に評価を行った。結果を表14に纏めた。
【0131】
【表14】

【0132】
全ての本発明の感光性平版印刷版を使用した場合(実施例17〜20)には、全ての評価項目に対して良好な結果が得られた。比較例16〜18では作製直後では良好な特性を示したが、保存後に残膜が発生し、印刷時に地汚れが発生し、また比較例17を除き耐刷性も低下する結果であった
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明で与えられる感光性組成物は、400〜900nmのレーザー光に高感度であり、水もしくはアルカリ性水溶液で現像可能であるため、これを利用したCTP用印刷版のみならず画像形成材料として、プリント配線基板作製用レジストや、カラーフィルター、蛍光体パターンの形成等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式Iで示される有機ホウ素塩、(B)トリハロアルキル置換化合物、(C)400nm〜900nmの波長範囲に吸収を有するシアニン系色素、および(D)重合性二重結合基を有する化合物を含んでなる感光性組成物。
【化1】


一般式Iにおいて、R、R、R、Rは下記一般式IIで表されるアリール基を表し、Aはカチオンを形成し得る基を表す。一般式II中、R、R、R、R、Rは各々独立して水素原子または炭素数が1〜10の範囲であるアルキル基、アルキレン基、アルコキシ基、あるいはアリール基から選ばれる基を表し、これらの内幾つかが結合して環を形成していても良い。
【化2】

【請求項2】
さらに、側鎖にカルボキシル基を有し、アルカリ性現像液に可溶であるバインダーポリマーを含む請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項3】
さらに、側鎖にスルホン酸塩基を有し、中性付近の水に可溶であるバインダーポリマーを含む請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項4】
支持体上に請求項1〜3に記載の感光性組成物からなる光硬化性感光層を有する感光性平版印刷版材料。

【公開番号】特開2011−186367(P2011−186367A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54118(P2010−54118)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】