説明

感性評価装置、感性評価方法、及び感性評価プログラム

【課題】感性を定量的に精度良く評価する。
【解決手段】被検者50に感性に対応した異なる刺激を与えたときに、被検者50の複数の部位から感性に影響する生体情報を検出し、検出された生体情報の各々を学習用生体情報として取得し、学習用生体情報に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、学習用生体情報の各々を1つの統合データに統合し、統合データを主成分空間にプロットし、統合データの主成分空間上の分布、及び統合データの基になった学習用生体情報の各々が検出されたときに被検者50に与えられていた刺激に対応する感性に基づいて、主成分空間に複数の感性の各々に対応した領域を設定する。被検者の感性を評価するための生体情報の各々を対象生体情報として取得し、対象生体情報の各々に対して同様に主成分分析を行って得た統合データを感性毎の領域が設定された主成分空間にプロットして被検者50の感性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感性評価装置、感性評価方法、及び感性評価プログラムに係り、特に、被検者の生体情報に基づいて感性を評価する感性評価装置、感性評価方法、及び感性評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検者から取得した生体情報を用いて、被検者の感性を評価することが行われている。
【0003】
例えば、赤外線カメラと、この赤外線カメラからの熱画像をデジタル変換する赤外線装置と、この赤外線装置からのデータに基づいて、顔面放射熱量を計測するパーソナルコンピュータとを備えた装置で、人の顔面放射熱量を連続的に測定し、これを平均値と比較することにより、人の心理的変化を推定する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、被検者の画像情報を取得して、被検者の心理状態を分類し、被検者の生理的情報を取得して、生理的情報と心理状態分類結果とに基づいて、被検者の心理状態のレベルを算出する心理状態計測装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、複数の生体情報の入力を受け付けて、これらの複数の生体情報を元に解析処理を行ない、感情データとして、例えば2軸モデル、3軸モデル、6軸モデル等の感情モデルで定義される複数の感情パラメータ値を出力する感情の可視化装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3記載の技術では、例えば、学習済み、あるいは、ユーザ個別に再学習を行った3層バックプロパゲーション、自己組織化マップ(SOM:Self Organizing Map)等のニューラルネットワークの手法を利用して、入力として受け付けた複数種類の生体情報から、その生体情報の発信元である人の感情の解析処理を行って、その解析結果として求められた感情を表わす感情データとしての感情パラメータ値を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-54836号公報
【特許文献2】特開2007−68620号公報
【特許文献3】特開2005−58449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2の技術では、体表温度を用いて被検者の心理状態やそのレベルを評価しているが、評価の基準として、被検者の体表温度の平均値や測定開始時の温度を用いているため、精度良く感性を評価することができない、という問題がある。
【0008】
また、特許文献3の技術も、感性を定量的に評価するには十分な精度を有しているとはいえない。
【0009】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、感性を定量的に精度良く評価することができる感性評価装置、感性評価方法、及び感性評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、感性評価は、従来のように個々のパラメータ間の比較だけでは得られなかった、相互に連関性を持つ非常に多くの生体情報を統合することにより初めて得られる新たな数値動態によって可視化することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の感性評価装置は、被検者の複数の部位の各々から、前記被検者の感性に影響する生体情報を検出する複数の検出手段と、被検者に複数の感性の各々に対応した異なる刺激の各々を与えたときに前記検出手段で検出された生体情報の各々を学習用生体情報として、該学習用生体情報に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記学習用生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記主成分分析に応じた主成分空間に投影する投影手段と、前記投影手段により投影された統合データの前記主成分空間上の分布、及び前記統合データの基になった学習用生体情報の各々が検出されたときに前記被検者に与えられていた刺激に対応する感性に基づいて、前記主成分空間に前記複数の感性の各々に対応した領域を設定する設定手段と、前記検出手段で検出された前記被検者の感性を評価するための生体情報の各々を対象生体情報として、該対象生体情報の各々に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記対象生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記設定手段により領域が設定された主成分空間に投影し、投影された前記統合データ、及び設定された前記領域に基づいて、前記被検者の感性を評価する評価手段と、を含んで構成されている。
【0012】
本発明の感性評価装置によれば、複数の検出手段が、被検者の複数の部位の各々から、被検者の感性に影響する生体情報を検出する。感性に影響する生体情報としては、脳波、眼筋電位、心拍、体表温度等がある。これらの生体情報を検出する検出手段としては、脳波測定器、眼筋電位測定器、心拍測定器、デジタル体温計、サーモグラフィ装置等がある。
【0013】
そして、投影手段が、被検者に複数の感性の各々に対応した異なる刺激の各々を与えたときに検出手段で検出された生体情報の各々を学習用生体情報として、学習用生体情報に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、学習用生体情報の各々を1つの統合データに統合し、統合データを主成分分析に応じた主成分空間に投影する。これにより個々に検出された生体情報の各々を、1つの指標である統合データに再合成する。
【0014】
そして、設定手段が、投影手段により投影された統合データの主成分空間上の分布、及び統合データの基になった学習用生体情報の各々が検出されたときに被検者に与えられていた刺激に対応する感性に基づいて、主成分空間に複数の感性の各々に対応した領域を設定する。主成分分析を行った統合データの分布は、感性毎に明瞭に分類された領域となる。このように複数の感性の各々に対応した領域が設定された主成分空間を学習モデルとして、感性の評価に用いる。
【0015】
感性を評価する際には、評価手段が、検出手段で検出された被検者の感性を評価するための生体情報の各々を対象生体情報として、対象生体情報の各々に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、対象生体情報の各々を1つの統合データに統合し、統合データを設定手段により領域が設定された主成分空間に投影し、投影された統合データ、及び設定された領域に基づいて、被検者の感性を評価する。
【0016】
このように、生体情報の各々を相関行列に基づく主成分分析によって統合した統合データを主成分空間に投影することにより、主成分空間上に感性毎に明瞭に分類された領域を設定することができるため、感性を定量的に精度良く評価することができる。
【0017】
また、前記設定手段は、分散楕円近似法により、前記複数の感性の各々に対応した楕円形状の領域を設定するようにすることができる。
【0018】
また、前記複数の検出手段は、前記生体情報として前記被検者の複数の部位から体表温度を検出するサーモグラフィ装置を含んで構成され、前記評価手段は、前記サーモグラフィ装置により検出された体表温度を用いて前記感性の種類を評価するようにすることができる。生体情報の主成分分析により、感性毎に設定された領域を分離する方向に伸びる因子負荷量ベクトルが、体表温度によるものであることが解析結果から判明したため、感性の種類の評価にサーモグラフィ装置により検出された体表温度を用いるものである。これにより、被検者に対してストレスフリーで感性の種類を評価することができる。
【0019】
また、通常モードと、該通常モードより詳細に前記感性の評価を行う詳細モードとを選択するための選択手段を含み、前記複数の検出手段は、前記生体情報として前記被検者の複数の部位から脳波を検出する脳波検出器をさらに含んで構成され、前記評価手段は、前記選択手段により通常モードが選択された場合には、前記サーモグラフィ装置により検出された体表温度を用いて前記感性の種類を評価し、前記詳細モードが選択された場合には、前記脳波検出器により検出された脳波、及び前記サーモグラフィ装置により検出された体表温度を用いて前記感性の種類、及び該感性の微細な変動を評価するようにすることができる。
【0020】
生体情報の主成分分析により、体表温度の因子負荷量ベクトルと直交する方向であり、感性の微細な変動方向に伸びる因子負荷量ベクトルが、脳波の因子負荷量ベクトルであることが解析結果から判明したため、詳細モードが選択された場合には、脳波検出器により検出された脳波を用いて、感性の微細な変動も評価するものである。通常モードでは、上記と同様に、サーモグラフィ装置により検出された体表温度を用いて、ストレスフリーな感性の種類を評価することができる。このように、通常モードか詳細モードかを選択することにより、必要に応じた柔軟な評価結果を得ることができる。
【0021】
また、前記異なる複数の感性を、快、不快、及び矛盾とすることができる。快でもなく不快でもない、または快でもあり不快でもあるというような「矛盾」の感性についても、主成分空間上で、「快」の領域、及び「不快」の領域とは明瞭に分類された領域として設定することができる。
【0022】
また、本発明の感性評価方法は、感性に影響する生体情報を、前記被検者の複数の部位の各々から複数の検出手段により検出し、被検者に異なる複数の感性の各々に対応した刺激を与えたときに前記検出手段で検出された生体情報の各々を学習用生体情報として、該学習用生体情報に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記主成分分析に応じた主成分空間に投影し、投影された統合データの前記主成分空間上の分布、及び前記統合データの基になった学習用生体情報の各々が検出されたときに前記被検者に与えられていた刺激に対応する感性に基づいて、前記主成分空間に前記異なる複数の感性の各々に対応した領域を設定し、前記検出手段で検出された前記被検者の感性を評価するための生体情報の各々を対象生体情報として、該対象生体情報の各々に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記対象生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記設定手段により領域が設定された主成分空間に投影し、投影された前記統合データ、及び設定された前記領域に基づいて、前記被検者の感性を評価する方法である。
【0023】
また、本発明の感性評価プログラムは、コンピュータを、感性に影響する生体情報を、前記被検者の複数の部位の各々から検出する複数の検出手段で検出された前記生体情報を取得する取得手段、被検者に異なる複数の感性の各々に対応した刺激を与えたときに前記検出手段で検出された生体情報の各々を学習用生体情報として、該学習用生体情報に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記主成分分析に応じた主成分空間に投影する投影手段、前記投影手段により投影された統合データの前記主成分空間上の分布、及び前記統合データの基になった学習用生体情報の各々が検出されたときに前記被検者に与えられていた刺激に対応する感性に基づいて、前記主成分空間に前記異なる複数の感性の各々に対応した領域を設定する設定手段、及び前記検出手段で検出された前記被検者の感性を評価するための生体情報の各々を対象生体情報として、該対象生体情報の各々に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記対象生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記設定手段により領域が設定された主成分空間に投影し、投影された前記統合データ、及び設定された前記領域に基づいて、前記被検者の感性を評価する評価手段として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の感性評価装置、感性評価方法、及び感性評価プログラムによれば、生体情報の各々を相関行列に基づく主成分分析によって統合した統合データを主成分空間に投影することにより、主成分空間上に感性毎に明瞭に分類された領域を設定することができるため、感性を定量的に精度良く評価することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態の感性評価装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態の感性評価装置における学習処理ルーチンの内容を示すフローチャートとである。
【図3】学習用生体情報の検出を説明するための図である。
【図4】学習用生体情報を検出する際に、被検者に与えられる感性に対応した刺激を示す図である。
【図5】複数の生体情報を主成分分析した結果を示すグラフである。
【図6】第1の実施の形態の感性評価装置における感性評価処理ルーチンの内容を示すフローチャートとである。
【図7】第2の実施の形態の感性評価装置における感性評価処理ルーチンの内容を示すフローチャートとである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の感性評価装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
図1に示すように、第1の実施の形態の感性評価装置10は、被検者から生体情報を検出する検出部12、キーボードやマウス等で構成された、各種情報を入力操作するための操作部13、感性の評価結果を表示するための表示部14、及び感性の評価処理を実行するコンピュータ16を備えている。
【0028】
コンピュータ16は、感性評価装置10全体の制御を司るCPU20、後述する学習処理及び感性評価処理等の各種プログラムを記憶した記憶媒体としてのROM22、ワークエリアとしてデータを一時的に格納するRAM24、各種情報が記憶された記憶手段としてのハードディスク(HDD)26、入出力ポート(I/Oポート)28、ネットワークインターフェース(ネットワークI/F)30、及びこれらを接続するバスを含んで構成されている。I/Oポート28には、検出部12、操作部13、及び表示部14が接続されている。
【0029】
検出部12は、被検者の頭皮の複数の部位に装着された電極から脳波を検出する脳波検出器、被検者の右眉毛上及び眼下部位に装着された電極から眼筋電位を検出する眼筋電位検出器、心拍を検出する心拍検出器、被検者の所定部位に装着された熱電対から体表温度を検出するデジタル体温計、並びに、サーモグラフィカメラ及びサーモグラフィカメラで撮影された画像を解析するコンピュータで構成され、被検者の体表温度を検出するサーモグラフィ装置を含んで構成されている。検出部12で検出されたデータは、各々デジタルデータとしてコンピュータ16に入力される。
【0030】
ここでは、脳波は、国際標準脳波電極配置10−20法に従い、19極を被検者の頭皮上に配置する。また、デジタル体温計は、被検者の手首、及び鎖骨上部に配置する。
【0031】
なお、脳波検出器、眼筋電位検出器、心拍検出器、及びデジタル体温計は、被検者に電極等を装着して生体情報を検出するものであり、これらを接触式検出器という。一方、サーモグラフィ装置は、被検者に電極等を装着する必要がないものであり、これを非接触式検出器という。
【0032】
次に、図2を参照して、第1の実施の形態の感性評価装置10における学習処理ルーチンについて説明する。本実施の形態では、感性の種類を「快」、「不快」及び「矛盾」とした場合について説明する。
【0033】
ステップ100で、被検者に「快」、「不快」及び「矛盾」の各々に対応した刺激として各種の映像及び音声を与えたときに検出された生体情報を、学習用生体情報として取得する。具体的には、図3に示すように、被検者50に対して映像を提示するスクリーン52、及び音声を提示するスピーカ54の前に、被検者50を配置する。被検者50から事前に提供された被検者50本人が嗜好及び忌避する静止画、映像、音楽、環境音等の情報や、他の感性誘導が期待される情報を用いて編集した約30分の映像及び音声を、スクリーン52及びスピーカ54から被検者50に提示する。提示される映像及び音声は、「快」に対応した刺激、「不快」に対応した刺激、及び「矛盾」に対応した刺激が、十数秒〜数十秒単位で切り替わるように編集されている。
【0034】
図4に示すように、「快」に対応した刺激は、スクリーン52から嗜好する映像、及びスピーカ54から嗜好する音声を提示するものである。また、「不快」に対応した刺激は、スクリーン52から忌避する映像、及びスピーカ54から忌避する音声を提示するものである。また、「矛盾」に対応した刺激は、スクリーン52から嗜好する映像、及びスピーカ54から忌避する音声を提示するか、またはスクリーン52から忌避する映像、及びスピーカ54から嗜好する音声を提示するものである。
【0035】
また、図3に示すように、被検者50の頭皮には、脳波検出器12aの複数の電極を装着する。また、被検者50を撮影可能な位置にサーモグラフィ装置12bのサーモグラフィカメラを設置して、被検者50を撮影する。さらに、図示は省略するが、被検者50には、眼筋電位検出器、心拍検出器、及びデジタル体温計が装着されている。そして、上記に示すような刺激が被検者50に与えられているときに、検出部12で被検者50の生体情報を30分計測する。各々の生体情報の検出間隔は、生体情報の特性やその検出器の特性等によって、適切な時間間隔を設定する。例えば、脳波は2m秒毎、体表温度は10秒毎等の時間間隔を設定することができる。このように検出された生体情報の各々を取得する。
【0036】
次に、ステップ102で、取得した生体情報を処理する。脳波は、500Hzデジタル信号として取得して、50Hzローパスフィルター処理後、4.096秒毎に高速フーリエ変換(FFT)し、そのパワースペクトルを周波数成分(δ波:1−4、θ波:4−8、α波:8−13、β波:13−40[Hz])毎に解析処理する。眼筋電位は、500Hzデジタル信号として取得して、4秒毎にパワースペクトラム解析を行う。心拍は、R−R間隔(ピーク値間隔)変動のスペクトル解析により、高周波成分(HF:0.15Hz以上)、及び低周波成分(LF:0.04〜0.15Hz)のパワースペクトル解析により、HFとLF/HFを導出する。また、体表温度は、例えば10秒間隔の検出値の間を線形補完により計算して、脳波等の処理の時間幅(4秒)と整合させる。
【0037】
次に、ステップ104で、生体情報を検出した30分のうち、事後に被検者50本人のアンケート回答により、「快」、「不快」及び「矛盾」のいずれかの感性が認められた代表的な各1分間の生体情報を抽出し、抽出された生体情報に対して、相関行列に基づく主成分分析を行って、生体情報の各々を1つの統合データに統合し、統合データを図5に示すような主成分分析の第1、第2主成分空間にプロット(投影)する。
【0038】
なお、生体情報の代表的な部分を抽出することなく、取得した全ての時間の生体情報を用いるようにしてもよい。また、生体情報を検出中の被検者50の様子、すなわち刺激を与えられているときの被検者50の様子をカメラ等を用いて記録しておき、代表的な各1分間を抽出する際に、被検者50本人のアンケート回答のみでなく、記録された被検者50の様子を確認して、感性表現が認められた時間の生体情報を抽出するようにしてもよい。
【0039】
次に、ステップ106で、分散楕円近似法により、主成分空間に感性毎の楕円形状の領域を設定する。具体的には、プロットされた統合データの主成分空間上の分散を分散楕円で近似する。すなわち、感性毎の統合データのプロットについて分散共分散行列による主成分分析を行い、統合データの分布の平均を中心に、第1主成分固有値の1/2乗値を乗じた第1固有ベクトル正負方向の両端を長軸とし、第2主成分固有値の1/2乗値を乗じた第2固有ベクトル正負方向の両端を短軸とする分散楕円を得て、分散楕円で分散の空間位置と広がりを近似する。このように近似された分散楕円が、感性毎の領域として主成分空間に設定されて、処理を終了する。なお、この感性毎に楕円形状の領域が設定された主成分空間を感性評価用学習モデルという。
【0040】
図5は、上記ルーチンに従った処理で、主成分空間に設定された感性毎の楕円領域の一例である。主成分空間上に「快」、「不快」及び「矛盾」の各々の楕円領域が明瞭に分類されているのがわかる。なお、図5に示す因子負荷量と主成分空間との関係については後述する。
【0041】
次に、図6を参照して、第1の実施の形態の感性評価装置10における感性評価処理ルーチンについて説明する。
【0042】
ステップ120で、被検者50から検出された複数の生体情報を、対象生体情報として取得する。生体情報は、被検者50に対して既知の刺激が与えられていないことを除いて、上記学習処理のステップ100と同様の処理により検出される。検出部12は、学習処理で用いた脳波検出器、眼筋電位検出器、心拍検出器、デジタル体温計、及びサーモグラフィ装置の全てを用いてもよいし、この中からいくつかを選択して用いてもよい。特に、脳波検出器、デジタル体温計、及びサーモグラフィ装置は、各々1つで被検者50の複数の部位の生体情報を検出可能であるため、各々1つを用いるようにしてもよい。なお、詳細は後述するが、脳波検出器、及びデジタル体温計またはサーモグラフィ装置を組み合わせて用いることが好ましい。
【0043】
次に、ステップ122で、上記学習処理のステップ102と同様に、取得した生体情報を処理する。
【0044】
次に、ステップ124で、上記学習処理のステップ104と同様に、取得及び処理した生体情報に対して、相関行列に基づく主成分分析を行って、生体情報の各々を1つの統合データに統合し、統合データを、上記学習処理で生成した感性評価用学習モデル(例えば、図5)にプロットする。
【0045】
次に、ステップ126で、プロットされた統合データ、及び感性評価用学習モデルが示す主成分空間に設定された領域に基づいて、被検者50の感性を評価し、評価結果を表示部14に表示する。例えば、図5に示すようなグラフを評価結果として出力したり、プロットされた統合データがどの感性の楕円領域に含まれるか、または近いかにより、「快」、「不快」及び「矛盾」のいずれかを出力したりすることができる。また、逐次検出される生体情報に基づく統合データを、図5に示すグラフに時々刻々と表示して、感性の変化を評価するようにしてもよい。
【0046】
以上説明したように、第1の実施の形態の感性評価装置10によれば、生体情報の各々を相関行列に基づく主成分分析によって統合した統合データを主成分空間にプロットすることにより、主成分空間上に感性毎に明瞭に分類された領域を設定することができるため、感性を定量的に精度良く評価することができる。
【0047】
次に、第2の実施の形態の感性評価装置210について説明する。第2の実施の形態は、通常モードと、通常モードより詳細に感性の評価を行う詳細モードとを選択可能に構成されている点が第1の実施の形態と異なる。なお、第2の実施の形態の感性評価装置210の構成は、第1の実施の形態の感性評価装置10の構成と同一であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
まず、第2の実施の形態の感性評価装置210における感性評価処理の原理について説明する。
【0049】
図5に示すように、主成分空間に寄与する各パラメータの因子負荷量を、平均中心から伸びるベクトルとして表示した因子負荷量のグラフと照らし合わせて、主成分空間にプロットされた統合データ及び設定された感性毎の領域を考察すると、感性毎の領域を分離する方向に伸びる因子負荷量ベクトルが、サーモグラフィ装置12bで検出された体表温度によるものであることがわかる。一方、体表温度の因子負荷量ベクトルと直交する方向に伸びる因子負荷量ベクトルが、脳波の因子負荷量ベクトルであることがわかる。これは、「快」、「不快」及び「矛盾」の分離表出のように分オーダーの感性(感性の種類)の評価には、生体情報として体表温度を用いることが有効であり、秒オーダーのきめ細かい感性(感性の微細な変動)の評価には、生体情報として脳波を用いることが有効であることを示している。
【0050】
そこで、第2の実施形態の感性評価装置210では、分オーダーの感性の評価を通常モード、秒オーダーの感性の評価を詳細モードとして、通常モードと詳細モードとを選択可能にしたものである。
【0051】
次に、図7を参照して、第2の実施の形態の感性評価装置210における感性評価処理ルーチンについて説明する。なお、第2の実施形態の学習処理は、第1の実施の形態の学習処理(図2)と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
ステップ200で、感性評価のモードとして、通常モードが選択されているか、詳細モードが選択されているかを判定する。この判定は、操作部13により通常モードと詳細モードとのいずれかを選択して設定可能に構成しておき、この設定を読み込んで行う。通常モードが選択されている場合には、ステップ202へ移行し、詳細モードが選択されている場合には、ステップ212へ移行する。
【0053】
ステップ202では、サーモグラフィ装置12bにより被検者50の複数の部位から検出された体表温度を、対象生体情報として取得する。サーモグラフィ装置12bは、非接触式検出器であるため、被検者50に対してストレスフリーな検出を行うことができる。
【0054】
次に、ステップ204で、取得した生体情報に対して、相関行列に基づく主成分分析を行って、生体情報の各々を1つの統合データに統合し、統合データを、上記学習処理で生成した感性評価用学習モデルにプロットする。
【0055】
次に、ステップ206で、プロットされた統合データ、及び感性評価用学習モデルが示す主成分空間に設定された領域に基づいて、プロットした統合データが「快」、「不快」及び「矛盾」のいずれの領域に属するか、または、いずれの領域に最も近いかを判定することにより、被検者50の感性の種類を評価し、ステップ210へ移行して、評価結果を表示部14に出力する。
【0056】
一方、詳細モードが選択されていると判定されて、ステップ212へ移行した場合には、サーモグラフィ装置12bにより被検者50の複数の部位から検出された体表温度、及び脳波検出器により被検者50の複数の部位から検出された脳波を、対象生体情報として取得する。
【0057】
次に、ステップ214で、取得した生体情報に対して、相関行列に基づく主成分分析を行って、生体情報の各々を1つの統合データに統合し、統合データを、上記学習処理で生成した感性評価用学習モデルにプロットする。
【0058】
次に、ステップ216で、プロットされた統合データ、及び感性評価用学習モデルが示す主成分空間に設定された領域に基づいて、プロットした統合データが「快」、「不快」及び「矛盾」のいずれの領域に属するか、または、いずれの領域に最も近いかを判定することにより、被検者50の感性の種類を評価すると共に、被検者50の感性の微細な変動を評価する。感性の微細な変動とは、感性毎の楕円領域内またはその近傍領域における、脳波の因子負荷量ベクトルの伸びる方向への変化を見るものである。例えば、感性「快」の楕円領域内における脳波の因子負荷量ベクトル方向への変化は、「快」の度合い(レベル)を表している可能性もあるが、単純に「快」の度合いの強弱や高低を表しているとは限られない。従って、ここでは、脳波の因子負荷量ベクトルの伸びる方向の感性の変化を、ある感性の中の更に微細な感性の揺らぎを表すものとして取り扱う。そして、ステップ210へ移行して、評価結果を表示部14に出力する。
【0059】
以上説明したように、第2の実施の形態の感性評価装置210によれば、分オーダーの感性の評価に有効な体表温度による感性の評価を通常モードとし、秒オーダーの感性の評価に有効な脳波による感性の評価を詳細モードとして、通常モードが選択された場合には、ストレスフリーな状態で感性の種類を評価することができ、また、詳細モードが選択された場合には、微細な感性の変化を評価することができるため、必要に応じて柔軟な評価結果を得ることができる。
【0060】
なお、第2の実施の形態では、通常モードと詳細モードとを選択可能な場合について説明したが、いずれか一方のモードのみを行うように構成してもよい。
【0061】
また、第2の実施の形態では、詳細モードにおいて、サーモグラフィ装置12bで検出した体表温度、及び脳波検出器12aで検出した脳波の両方を用いる場合について説明したが、脳波のみを用いるようにしてもよい。
【0062】
また、第1及び第2の実施の形態では、学習用生体情報として、脳波、眼筋電位、心拍、及び体表温度を用いる場合について説明したが、これら全ての生体情報を用いる必要はない。また、これらの生体情報に限定されず、感性に影響する他の生体情報を用いてもよい。ただし、主成分分析の因子負荷量ベクトルの方向が、感性の種類毎に分離する方向となる生体情報と、それに直交する方向で、感性の微細な変化方向となる生体情報とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0063】
また、第1及び第2の実施の形態では、評価結果を出力して表示部に表示する場合について説明したが、ネットワークI/F30を介して接続された外部装置に評価結果を出力するようにしてもよい。例えば、エアコンディショナーや照明機器の制御装置等の外部装置へ評価結果を出力して、評価結果に基づいて、被検者50の感性に応じた温度制御や調光制御等を行うようにしてもよい。
【0064】
また、第1及び第2の実施の形態では、分散楕円近似法を用いて、感性毎の領域を設定する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、主成分空間が感性毎に分類されるような境界線を設定するような方法でもよい。
【符号の説明】
【0065】
10、210 感性評価装置
12 検出部
12a 脳波検出器
12b サーモグラフィ装置
13 操作部
14 表示部
16 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の複数の部位の各々から、前記被検者の感性に影響する生体情報を検出する複数の検出手段と、
被検者に複数の感性の各々に対応した異なる刺激の各々を与えたときに前記検出手段で検出された生体情報の各々を学習用生体情報として、該学習用生体情報に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記学習用生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記主成分分析に応じた主成分空間に投影する投影手段と、
前記投影手段により投影された統合データの前記主成分空間上の分布、及び前記統合データの基になった学習用生体情報の各々が検出されたときに前記被検者に与えられていた刺激に対応する感性に基づいて、前記主成分空間に前記複数の感性の各々に対応した領域を設定する設定手段と、
前記検出手段で検出された前記被検者の感性を評価するための生体情報の各々を対象生体情報として、該対象生体情報の各々に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記対象生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記設定手段により領域が設定された主成分空間に投影し、投影された前記統合データ、及び設定された前記領域に基づいて、前記被検者の感性を評価する評価手段と、
を含む感性評価装置。
【請求項2】
前記設定手段は、分散楕円近似法により、前記複数の感性の各々に対応した楕円形状の領域を設定する請求項1記載の感性評価装置。
【請求項3】
前記複数の検出手段は、前記生体情報として前記被検者の複数の部位から体表温度を検出するサーモグラフィ装置を含んで構成され、
前記評価手段は、前記サーモグラフィ装置により検出された体表温度を用いて前記感性の種類を評価する
請求項1または請求項2記載の感性評価装置。
【請求項4】
通常モードと、該通常モードより詳細に前記感性の評価を行う詳細モードとを選択するための選択手段を含み、
前記複数の検出手段は、前記生体情報として前記被検者の複数の部位から脳波を検出する脳波検出器をさらに含んで構成され、
前記評価手段は、前記選択手段により通常モードが選択された場合には、前記サーモグラフィ装置により検出された体表温度を用いて前記感性の種類を評価し、前記詳細モードが選択された場合には、前記脳波検出器により検出された脳波、及び前記サーモグラフィ装置により検出された体表温度を用いて前記感性の種類、及び該感性の微細な変動を評価する
請求項3記載の感性評価装置。
【請求項5】
前記異なる複数の感性を、快、不快、及び矛盾とした請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の感性評価装置。
【請求項6】
感性に影響する生体情報を、前記被検者の複数の部位の各々から複数の検出手段により検出し、
被検者に異なる複数の感性の各々に対応した刺激を与えたときに前記検出手段で検出された生体情報の各々を学習用生体情報として、該学習用生体情報に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記主成分分析に応じた主成分空間に投影し、
投影された統合データの前記主成分空間上の分布、及び前記統合データの基になった学習用生体情報の各々が検出されたときに前記被検者に与えられていた刺激に対応する感性に基づいて、前記主成分空間に前記異なる複数の感性の各々に対応した領域を設定し、
前記検出手段で検出された前記被検者の感性を評価するための生体情報の各々を対象生体情報として、該対象生体情報の各々に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記対象生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記設定手段により領域が設定された主成分空間に投影し、投影された前記統合データ、及び設定された前記領域に基づいて、前記被検者の感性を評価する
感性評価方法。
【請求項7】
コンピュータを、
感性に影響する生体情報を、前記被検者の複数の部位の各々から検出する複数の検出手段で検出された前記生体情報を取得する取得手段、
被検者に異なる複数の感性の各々に対応した刺激を与えたときに前記検出手段で検出された生体情報の各々を学習用生体情報として、該学習用生体情報に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記主成分分析に応じた主成分空間に投影する投影手段、
前記投影手段により投影された統合データの前記主成分空間上の分布、及び前記統合データの基になった学習用生体情報の各々が検出されたときに前記被検者に与えられていた刺激に対応する感性に基づいて、前記主成分空間に前記異なる複数の感性の各々に対応した領域を設定する設定手段、及び
前記検出手段で検出された前記被検者の感性を評価するための生体情報の各々を対象生体情報として、該対象生体情報の各々に対して相関行列に基づく主成分分析を行って、前記対象生体情報の各々を1つの統合データに統合し、該統合データを前記設定手段により領域が設定された主成分空間に投影し、投影された前記統合データ、及び設定された前記領域に基づいて、前記被検者の感性を評価する評価手段
として機能させるための感性評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−120824(P2011−120824A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282884(P2009−282884)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年10月17日 社団法人 電子情報通信学会発行の「信学技報 Vol.109 No.253」に発表
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】