感知装置
【課題】水晶振動子とトランジスタ増幅回路で構成したコルピッツ発振回路で、十分な負性抵抗を確保して安定発振を得るとともに、振幅制御回路を不要にし、さらに温度変化に対する安定化も可能とする。
【解決手段】トランジスタのコレクタに設ける同調回路のインピーダンスが発振周波数において誘導性を呈する構成にする。トランジスタのベース・エミッタ間に接続されるコンデンサC2とエミッタ・GND間に接続されるコンデンサC3との発振周波数におけるインピーダンス比が3対1以上、かつベース・エミッタ間に接続される容量C2の発振周波数におけるインピーダンスが300Ω以上とする。トランジスタのコレクタ・ベース間に接続されるバイアス抵抗R1が3kΩ以下とする。トランジスタのベース・GND間に温度補償用ダイオードD1を直列に介挿する。
【解決手段】トランジスタのコレクタに設ける同調回路のインピーダンスが発振周波数において誘導性を呈する構成にする。トランジスタのベース・エミッタ間に接続されるコンデンサC2とエミッタ・GND間に接続されるコンデンサC3との発振周波数におけるインピーダンス比が3対1以上、かつベース・エミッタ間に接続される容量C2の発振周波数におけるインピーダンスが300Ω以上とする。トランジスタのコレクタ・ベース間に接続されるバイアス抵抗R1が3kΩ以下とする。トランジスタのベース・GND間に温度補償用ダイオードD1を直列に介挿する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子の電極表面に感知対象物を吸着するための吸着層を形成し、吸着層への感知対象物の吸着による水晶振動子の固有振動数変化から感知対象物を検知、定量する感知装置に係り、特に水晶振動子とトランジスタ増幅回路で構成するコルピッツ発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の感知装置は、例えば、免疫反応である抗原抗体反応を利用し、被測定物質とその被測定物質が免疫反応する抗体と結合させ、その反応量により被測定物質を検知、定量する装置として実用化されている。
【0003】
図8は感知装置の基本構成図を示す。水晶基板Aにはその表裏面に電極B,Cを形成して水晶振動子を構成し、容器D内に固定する。電極B、Cにはリード線E,Fによって発振回路Gに接続し、発振回路Gに水晶振動子の固有振動数による発振を得る。この発振出力は周波数カウンタHで周波数信号として検出し、表示器Iにより周波数表示を得る。抗体は水晶振動子の一方の電極B面に塗布しておき、この電極B面を被測定物質を含有する溶液に晒すことで、被測定物質と抗体との結合を発振回路Gの発振周波数の変化として計測する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ここで、水晶振動子を使用した発振回路Gは、一般には水晶振動子と増幅器によって発振動作を得るコルピッツ発振回路やハートレー発振回路に構成し、増幅器には反転論理素子の入出力間に帰還回路を設けたアナログ増幅器、またはトランジスタとコンデンサや抵抗で組み立てたトランジスタ増幅回路が使用される。
【0005】
【特許文献1】特開2001−83154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水晶振動子の固有振動数の変化を利用した感知装置は、気体中の物質あるいは液体中の物質を測定できることから、1台の装置で広い適用範囲を確保するためには、感知対象物を測定する測定系として気体及び液体の両方に適用できる装置とすることが得策である。例えば、感知装置により空気中におけるダイオキシン、サリンなどの毒性物質を測定することができ、また液中におけるダイオキシンや農薬などを測定できると共に血液や尿などに含まれる疫病マーカの測定にも使用できるように構成すれば、使用価値の高い装置となる。
【0007】
この場合、水晶振動子を液中で発振させる回路調整にすると、例えば、大気中の成分を測定する場合に、液体に比べて気体の粘性が極端に小さいことから、水晶振動子の振動の振幅が大きくなって副振動を伴い、周波数が不安定になってしまう。逆に、水晶振動子を大気中で発振させて回路を調整すると、液体中で使用するときに周波数信号の振幅レベルが大気中における使用時に比べて可成り大きくなってしまい、後段の信号処理部において正しい周波数計測ができなくなってしまう。
【0008】
またこのような問題は液体中で使用する場合においても起こりうる。例えば、測定系が河川などの水である場合と、液状のタンパク質あるいは血清などの場合とでは粘性が異なり、どちらか一方の液体中で回路を調整すると、他方の液体中で水晶センサを使用するときに周波数信号の振幅が大きく変わってしまう。
【0009】
このように感知対象物の測定を行う測定系(流体)の粘度が変わると周波数信号の振幅が変わってしまうため、測定系の適用範囲が限られてしまうという課題があり、例えば、気液両用の感知装置を構築することが困難である。更にまた発振回路からの周波数信号を例えばディジタル処理して周波数を計測しようとすると、周波数信号の振幅レベルが限られた狭い範囲から外れると測定誤差が大きくなってしまうということを把握しており、こうした処理を行う場合には、特に測定系の適用範囲を広げにくいという課題がある。
【0010】
これら課題を解決する感知装置として、図11に示す感知装置を既に提案している。図11中、水晶振動子1を発振させるための発振回路2の後段には、第1のバッファアンプ3、ローパスフィルタ4及び第2のバッファアンプ5を接続すると共に、第1のバッファアンプ3の出力側と発振回路2との間には、当該第1のバッファアンプ3の振幅を設定値に維持するための振幅制御回路6を設ける。
【0011】
また、第2のバッファアンプ5の後段には、発振回路2の出力、詳しくは当該バッファアンプ5の発振出力の周波数に関する信号を測定して、例えば感知対象物の濃度を得るための信号を作成する測定部7を接続する。
【0012】
各部の具体的な回路構成を図12に示す。発振回路2はコルピッツ型発振回路として構成され、増幅素子としてのトランジスタ21のベースにはコンデンサ22を介して水晶振動子1を接続する。また、トランジスタ21のベース、接地間には、分割容量成分をなすコンデンサ23,24の直列回路を接続し、コンデンサ23,24の中間点はトランジスタ21のエミッタに接続している。トランジスタ21のエミッタ、接地間には帰還抵抗25を接続し、コレクタはインダクタ26及びコンデンサ27の並列回路を介して電源Vcに接続している。
【0013】
電源Vcとトランジスタ21のベースとの間には、ブリーダ抵抗28を接続している。なお、発振回路2の出力端V0はコレクタから取り出す。発振回路2と第1のバッファ回路3との間、及び第1のバッファ回路3とローパスフィルタ4との間には、夫々コンデンサ30及び40を介し、また第2のバッファアンプ5の出力端にもコンデンサ50を接続している。また第1のバッファアンプ3及び第2のバッファアンプ5は夫々トランジスタ31,51を用いて構成し、いずれもエミッタから出力を取り出す。32〜34及び52〜54は抵抗である。
【0014】
振幅制御回路6は、発振回路2のトランジスタ21のベースとアースとの間に接続した抵抗61及びトランジスタ62の直列回路を備え、抵抗61はトランジスタ21側に設けると共にトランジスタ62のコレクタ及びエミッタを夫々抵抗61及びアースに接続している。抵抗61は、発振回路2の一部をもなすものであり、ブリーダ抵抗として設ける。
【0015】
また、第1のバッファアンプの出力端と前記トランジスタ62のベースとの間には、当該出力端側から抵抗63及びダイオード64を接続し、抵抗63とダイオード64との中間点と、アースとの間には、抵抗65を接続し、当該中間点と電源Vcとの間には抵抗66を接続している。
【0016】
この構成において、発振回路2が発振動作を行っているときに振幅制御回路6は次のような動作を行う。即ち第1のバッファアンプ3の発振出力をダイオード64で整流し、その整流出力をトランジスタ62のベースに供給する。このため発振出力の振幅が大きいと、トランジスタ62のベース電位が大きくなり、当該トランジスタ62のコレクタ、エミッタ間の抵抗値が小さくなるので発振回路2のトランジスタ21のベース電位が小さくなり、発振回路2の発振出力、詳しくはトランジスタ21の発振出力の振幅が小さくなろうとする。また、逆に第1のバッファアンプ3の発振出力の振幅が小さいと、トランジスタ62のベース電位が小さくなるので発振回路2のトランジスタ21のベース電位が大きくなり、発振回路2の発振出力の振幅が大きくなろうとする。
【0017】
このようにして発振出力の振幅が制御されるため、即ち増幅素子であるトランジスタ21の増幅度が制御されるため、第1のバッファアンプ3の発振出力の振幅は回路定数で決まる値(設定値)に維持されるようにコントロールされる。このため測定部7には振幅がほぼ一定の発振出力が入力されることになる。
【0018】
そしてこの感知装置は、気体中の特定の物質を感知するために用いてもよく、この場合には、気体中例えば大気中で水晶振動子1の発振出力が測定されることになる。気体は液体よりも粘性が小さいことから、水晶振動子1の振幅は大きくなろうとするが、既述のように振幅制御が働くことから、測定部7に入力される発振出力の振幅は、液体を測定系とした場合と同じになる。更にまた測定系が液体であっても、粘度の高い液体を測定系とする場合、例えば血液中の疫病マーカなどを感知するためにこの感知装置が用いられる場合には、水晶振動子1の振幅は小さくなろうとするが、やはり既述の振幅制御の作用により測定部7に入力される発振出力の振幅は先の例の場合と同じになる。
【0019】
したがって、発振回路2の発振出力の振幅を一定化するように制御しているので、感知対象物質の濃度測定や存在の有無を調べる測定系が例えば液体であっても気体であっても、また粘性の小さい液体であってもあるいは粘性の大きい液体であっても、予め設定した振幅で発振する。
【0020】
以上のような感知装置において、発振回路にはその発振出力の振幅の一定制御のほか、高い周波数(数MHz〜数十MHz)で安定した発振動作が要求され、さらには温度変化に対する安定した周波数特性が要求される。
【0021】
例えば、被測定物質が水晶振動子の電極面の抗体と結合すると、水晶振動子の等価直列抵抗は数百Ωに達する。即ち、この損失分を補うだけの負性抵抗が、発振回路部に存在していなければ、発振が停止し、抗原抗体反応による周波数変化量を計測できなくなる。このため、発振回路には、発振周波数帯域で数百Ω以上の高い負性抵抗を呈するものが要求される。
【0022】
図13に図11および図12の回路における負性抵抗の周波数特性を示す(発振周波数30.8MHzを想定)。この回路では、水晶振動子の損失分に応じて(実際には、第一のバッファアンプ3後の発振出力振幅に応じて)、発振回路側の負性抵抗を振幅制御回路により補っていたものの、十分に高い負性抵抗が得られていない。
【0023】
さらに、発振回路の発振出力の振幅が設定値になるように発振回路内の増幅素子の増幅度を制御する振幅制御回路6を必要とする。しかし、振幅制御回路6を付加することは、回路規模の増加となるため、回路の小型化ができない、製造コストが増加してしまうという問題があった。
【0024】
本発明の目的は、感知装置に要求される高い負性抵抗を呈し、しかも振幅制御回路を不要にして感知装置の小型化と製造コストの低減を実現し、さらに温度変化に対する安定発振を図ることができる感知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明では、発振回路の定数を最適化することにより、発振回路に十分な負性抵抗を確保して安定発振を得るとともに、振幅制御回路を不要にし、さらに温度変化に対する安定化も可能とするものであり、以下の構成を特徴とする。
【0026】
(1)水晶振動子とトランジスタ増幅回路でコルピッツ発振回路を構成し、水晶振動子の電極表面に感知対象物を吸着するための吸着層を形成し、吸着層への感知対象物の吸着による水晶振動子の固有振動数変化を発振回路の発振周波数変化として計測し、この発振周波数変化を基に感知対象物を検知、定量する感知装置であって、
前記トランジスタ増幅回路の出力部に設ける同調回路のインピーダンスが発振周波数において誘導性を呈する構成にしたことを特徴とする。
【0027】
(2)前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのベース・エミッタ間に接続される第1の容量成分とエミッタ・GND間に接続される第2の容量成分とについて、第2の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスに対する第1の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスの比が3以上であり、かつ第1の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスが300Ω以上となる構成にしたことを特徴とする。
(3)前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのコレクタ・ベース間に接続されるバイアス抵抗が3kΩ以下であることを特徴とする。
(4)前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのベース・GND間に接続される抵抗に、温度補償用ダイオードを直列に介挿した構成を特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
以上のとおり、本発明によれば、水晶振動子とトランジスタ増幅回路で構成するコルピッツ発振回路の定数を最適化することにより、感知装置に要求される高い負性抵抗を確保して安定発振を得るとともに、振幅制御回路を不要にして感知装置の小型化と製造コストの低減を実現できる。さらに、温度変化に対する安定発振が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態を示す感知装置のブロック図であり、図9と異なる部分は振幅制御回路6および第2のバッファアンプ5を省いた構成にある。このブロック構成にした発振回路の構成を図2に示し、以下、各部の機能構成を詳細に説明する。
まず、本実施形態では、発振周波数が30.8MHzの感知装置を想定しており、この発振周波数において、コルピッツ発振回路2の発振用増幅素子の出力部に接続される同調回路のインピーダンスが発振周波数において誘導性をもつ回路定数とする。具体的には、トランジスタTr(BJT−NPN)のコレクタと電源Vc間に設ける同調回路として、インダクタL1,コンデンサC5はそれぞれ4.7uH,3pFとすることで、発振周波数において誘導性を呈する同調回路とする。
【0030】
図3は、同調回路のインダクタL1,コンデンサC5の共振周波数を発振周波数(30.8MHz)に合わせた場合の負性抵抗特性を示し、この場合の負性抵抗のピークは発振周波数よりも低い周波数側にずれ、発振周波数で高い負性抵抗が得られず、発振不能、停止に陥ることが予想される。この周波数シフトの原因としては、第1の容量成分である容量分割用のコンデンサC2、第2の容量成分である容量分割用のコンデンサC3や水晶振動子の電極容量、浮遊容量の影響を受けるためと推測される。
【0031】
したがって、本実施形態では、同調回路のインダクタL1,コンデンサC5の共振周波数は発振周波数よりも高くし(誘導性をもたせ)、負性抵抗のピークを発振周波数に一致させ、安定発振を図る。
【0032】
(実施形態2)
図3の負性抵抗のピークは400Ω程度であるが、この負性抵抗をより大きくする手法について以下に例を挙げる。本実施形態では、実施形態1の同調回路を誘導性にしたコルピッツ発振回路において、容量分割用の一対のコンデンサC2、C3の容量比と発振周波数におけるインピーダンスを制限することで、負性抵抗の向上を図る。具体的には、発振用増幅素子としてのトランジスタTrのベース・エミッタ間に接続されるコンデンサC2と、エミッタ・GND間に接続されるコンデンサC3とにおいて、コンデンサC3の発振周波数例えば30.8MHzにおけるインピーダンスに対するコンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスの比が3以上であり、言い換えればコンデンサC3の容量に対するコンデンサC2の容量の比が1/3以下であり、かつエミッタ・ベース間に接続されるコンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスを300Ω以上とする。例えば、コンデンサC2の容量を12pFとし、コンデンサC3の容量を68pFとする。なお以下の記述においては、コンデンサCの「C」を便宜上当該コンデンサの容量をも表すことにする。
【0033】
図4は前記の同調回路を誘導性にしたコルピッツ発振回路において、容量C2と容量C3の比を変化させた場合の負性抵抗特性を示す。ただし、このときの試験条件としてはコンデンサC2は発振周波数において300Ωのインピーダンスを有し、抵抗R1は3kΩとする。
同図中、特性AはC2/C3=1/2、特性BはC2/C3=1/3、特性CはC2/C3=1/4の場合である。この特性から、発振周波数において1kΩ以上の負性特性を得るには、特性Aは負性抵抗が不足する。また、特性B、Cでは負性抵抗が十分に高いものになり、つまりC2/C3≦1/3にすることで十分な負性抵抗が得られる。
【0034】
図5は上記の同調回路を誘導性にしたコルピッツ発振回路において、コンデンサC2のインピーダンスを変化させた場合の負性抵抗特性を示す。ただし、このときの試験条件はC2/C3=1/3、抵抗R1は3kΩとする。
同図中、特性Aは発振周波数におけるコンデンサC2のインピーダンスが200Ω、特性Bは300Ω、特性Cは400Ωの場合である。この特性から、発振周波数において1kΩ以上の負性特性を得るには、特性Aは負性抵抗が不足する。また、特性B、Cでは負性抵抗が十分に高いものになり、つまりコンデンサC2のインピーダンスを300Ω以上にすることで十分な負性抵抗が得られる。
【0035】
以上のことから、本実施形態では、コンデンサC3の発振周波数例えば30.8MHzにおけるインピーダンスに対するコンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスの比が3以上、コンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスを300Ω以上とすることで、十分に高い負性抵抗特性を得る。この高い負性抵抗を得ることにより、従来の振幅制御回路の削減も可能となる。
【0036】
上記の容量C2と容量C3との発振周波数におけるインピーダンス比を3対1、かつエミッタ・ベース間に接続される容量C2の発振周波数におけるインピーダンスを300Ωとした場合の負性抵抗特性を図6に示す。
【0037】
また図4及び図5の特性を調べた試験条件では、抵抗R1は3kΩとしているが、抵抗R1を4kΩとした場合の負性抵抗特性を調べた結果を図7及び図8に示す。抵抗R1を変更した以外は全く同一条件で試験をしており、図7は図4の試験結果に対応し、また図8は図5の試験結果に対応している。抵抗R1を4kΩとした場合にも、抵抗R1は3kΩとした場合と同様の傾向にあるが、発振周波数における負性抵抗値が少し小さくなっている。この結果から抵抗R1の抵抗値が負性抵抗に影響を及ぼしていること分かる。そこで大きな負性抵抗を得るためには、抵抗R1の抵抗値をより適正化することが必要であり、適正化を図った実施の形態を次ぎに記載する。
【0038】
(実施形態3)
本実施形態では、実施形態1と同様に同調回路を誘導性にし、実施形態2と同様にコンデンサC2とC3の容量比およびコンデンサC2のインピーダンスを制限したコルピッツ発振回路において、発振用増幅素子のコレクタ・ベース間に接続されるバイアス抵抗を3kΩ以下とすることで、負性抵抗の低下を防止する。例えば、図2のバイアス抵抗R1を1.2kΩとする。
【0039】
図9は、バイアス抵抗R1を変化させた場合の負性抵抗特性を示す。ただし、このときの試験条件としては、コンデンサC2は発振周波数におけるインピーダンスが300Ω、C2/C3=1/3とする。
同図中、特性AはR1=2kΩ、特性BはR1=3kΩ、特性CはR1=4kΩの場合である。この特性から、発振周波数において1kΩ以上の負性特性を得るには、特性Cは負性抵抗が不足する。また、特性A、Bでは負性抵抗が十分に高いものになり、つまりR1=3kΩ以下にすることで十分な負性抵抗が得られる。
【0040】
(実施形態4)
従来回路では、温度安定度に関する補償がなかったため、外気温の変動によって発振用増幅素子のバイアス電圧が変動し、発振周波数が変動し、感知装置としての温度安定性能が十分ではなかった。
これを改善するために、本実施形態では外気温の変動による発振用増幅素子のバイアス変動を補償するための温度補償用ダイオードD1を発振用増幅素子としてのトランジスタのベース・GND間に介挿した構成とする。
このダイオードD1は、温度によって順方向電圧が変化することを利用したもので、これらを複数直列接続して所期の温度−電圧特性を得ること、同様の作用を呈する感温素子としてのサーミスタとすることもできる。
【0041】
(変形例)
以上までの各実施形態において、実施形態2〜4を適宜組み合わせた構成とすることで負性抵抗を一層高めた構成、および安定化発振動作を得る構成とすることができる。
また、バッファアンプ部に関しては、発振回路部と測定部との実現したいアイソレーションに応じて、複数使用した構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態を示す感知装置のブロック図。
【図2】図1の発振回路の構成図。
【図3】同調回路の共振周波数を発振周波数に合わせた発振回路の負性抵抗特性。
【図4】同調回路を誘導性にした発振回路の負性抵抗特性。
【図5】同調回路を誘導性にし、コンデンサC2のインピーダンスを変化させた場合の負性抵抗特性。
【図6】コンデンサのC2、C3の容量比を1/3、かつコンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスを300Ωとした場合の負性抵抗特性。
【図7】同調回路を誘導性にし、コンデンサC2のインピーダンスを変化させた場合の負性抵抗特性。
【図8】コンデンサのC2、C3の容量比を1/3、かつコンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスを300Ωとした場合の負性抵抗特性。
【図9】バイアス抵抗R1を変化させた場合の負性抵抗特性。
【図10】感知装置の基本構成図。
【図11】従来の感知装置のブロック図。
【図12】従来の具体的な回路構成図。
【図13】従来の負性抵抗特性。
【符号の説明】
【0043】
1 水晶振動子
2 発振回路
3 第1のバッファアンプ
4 ローパスフィルタ
5 第2のバッファアンプ
6 振幅制御回路
7 測定部
Tr トランジスタ
R1 バイアス抵抗
C2 第1の容量成分であるコンデンサ
C3 第2の容量成分であるコンデンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子の電極表面に感知対象物を吸着するための吸着層を形成し、吸着層への感知対象物の吸着による水晶振動子の固有振動数変化から感知対象物を検知、定量する感知装置に係り、特に水晶振動子とトランジスタ増幅回路で構成するコルピッツ発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の感知装置は、例えば、免疫反応である抗原抗体反応を利用し、被測定物質とその被測定物質が免疫反応する抗体と結合させ、その反応量により被測定物質を検知、定量する装置として実用化されている。
【0003】
図8は感知装置の基本構成図を示す。水晶基板Aにはその表裏面に電極B,Cを形成して水晶振動子を構成し、容器D内に固定する。電極B、Cにはリード線E,Fによって発振回路Gに接続し、発振回路Gに水晶振動子の固有振動数による発振を得る。この発振出力は周波数カウンタHで周波数信号として検出し、表示器Iにより周波数表示を得る。抗体は水晶振動子の一方の電極B面に塗布しておき、この電極B面を被測定物質を含有する溶液に晒すことで、被測定物質と抗体との結合を発振回路Gの発振周波数の変化として計測する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ここで、水晶振動子を使用した発振回路Gは、一般には水晶振動子と増幅器によって発振動作を得るコルピッツ発振回路やハートレー発振回路に構成し、増幅器には反転論理素子の入出力間に帰還回路を設けたアナログ増幅器、またはトランジスタとコンデンサや抵抗で組み立てたトランジスタ増幅回路が使用される。
【0005】
【特許文献1】特開2001−83154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水晶振動子の固有振動数の変化を利用した感知装置は、気体中の物質あるいは液体中の物質を測定できることから、1台の装置で広い適用範囲を確保するためには、感知対象物を測定する測定系として気体及び液体の両方に適用できる装置とすることが得策である。例えば、感知装置により空気中におけるダイオキシン、サリンなどの毒性物質を測定することができ、また液中におけるダイオキシンや農薬などを測定できると共に血液や尿などに含まれる疫病マーカの測定にも使用できるように構成すれば、使用価値の高い装置となる。
【0007】
この場合、水晶振動子を液中で発振させる回路調整にすると、例えば、大気中の成分を測定する場合に、液体に比べて気体の粘性が極端に小さいことから、水晶振動子の振動の振幅が大きくなって副振動を伴い、周波数が不安定になってしまう。逆に、水晶振動子を大気中で発振させて回路を調整すると、液体中で使用するときに周波数信号の振幅レベルが大気中における使用時に比べて可成り大きくなってしまい、後段の信号処理部において正しい周波数計測ができなくなってしまう。
【0008】
またこのような問題は液体中で使用する場合においても起こりうる。例えば、測定系が河川などの水である場合と、液状のタンパク質あるいは血清などの場合とでは粘性が異なり、どちらか一方の液体中で回路を調整すると、他方の液体中で水晶センサを使用するときに周波数信号の振幅が大きく変わってしまう。
【0009】
このように感知対象物の測定を行う測定系(流体)の粘度が変わると周波数信号の振幅が変わってしまうため、測定系の適用範囲が限られてしまうという課題があり、例えば、気液両用の感知装置を構築することが困難である。更にまた発振回路からの周波数信号を例えばディジタル処理して周波数を計測しようとすると、周波数信号の振幅レベルが限られた狭い範囲から外れると測定誤差が大きくなってしまうということを把握しており、こうした処理を行う場合には、特に測定系の適用範囲を広げにくいという課題がある。
【0010】
これら課題を解決する感知装置として、図11に示す感知装置を既に提案している。図11中、水晶振動子1を発振させるための発振回路2の後段には、第1のバッファアンプ3、ローパスフィルタ4及び第2のバッファアンプ5を接続すると共に、第1のバッファアンプ3の出力側と発振回路2との間には、当該第1のバッファアンプ3の振幅を設定値に維持するための振幅制御回路6を設ける。
【0011】
また、第2のバッファアンプ5の後段には、発振回路2の出力、詳しくは当該バッファアンプ5の発振出力の周波数に関する信号を測定して、例えば感知対象物の濃度を得るための信号を作成する測定部7を接続する。
【0012】
各部の具体的な回路構成を図12に示す。発振回路2はコルピッツ型発振回路として構成され、増幅素子としてのトランジスタ21のベースにはコンデンサ22を介して水晶振動子1を接続する。また、トランジスタ21のベース、接地間には、分割容量成分をなすコンデンサ23,24の直列回路を接続し、コンデンサ23,24の中間点はトランジスタ21のエミッタに接続している。トランジスタ21のエミッタ、接地間には帰還抵抗25を接続し、コレクタはインダクタ26及びコンデンサ27の並列回路を介して電源Vcに接続している。
【0013】
電源Vcとトランジスタ21のベースとの間には、ブリーダ抵抗28を接続している。なお、発振回路2の出力端V0はコレクタから取り出す。発振回路2と第1のバッファ回路3との間、及び第1のバッファ回路3とローパスフィルタ4との間には、夫々コンデンサ30及び40を介し、また第2のバッファアンプ5の出力端にもコンデンサ50を接続している。また第1のバッファアンプ3及び第2のバッファアンプ5は夫々トランジスタ31,51を用いて構成し、いずれもエミッタから出力を取り出す。32〜34及び52〜54は抵抗である。
【0014】
振幅制御回路6は、発振回路2のトランジスタ21のベースとアースとの間に接続した抵抗61及びトランジスタ62の直列回路を備え、抵抗61はトランジスタ21側に設けると共にトランジスタ62のコレクタ及びエミッタを夫々抵抗61及びアースに接続している。抵抗61は、発振回路2の一部をもなすものであり、ブリーダ抵抗として設ける。
【0015】
また、第1のバッファアンプの出力端と前記トランジスタ62のベースとの間には、当該出力端側から抵抗63及びダイオード64を接続し、抵抗63とダイオード64との中間点と、アースとの間には、抵抗65を接続し、当該中間点と電源Vcとの間には抵抗66を接続している。
【0016】
この構成において、発振回路2が発振動作を行っているときに振幅制御回路6は次のような動作を行う。即ち第1のバッファアンプ3の発振出力をダイオード64で整流し、その整流出力をトランジスタ62のベースに供給する。このため発振出力の振幅が大きいと、トランジスタ62のベース電位が大きくなり、当該トランジスタ62のコレクタ、エミッタ間の抵抗値が小さくなるので発振回路2のトランジスタ21のベース電位が小さくなり、発振回路2の発振出力、詳しくはトランジスタ21の発振出力の振幅が小さくなろうとする。また、逆に第1のバッファアンプ3の発振出力の振幅が小さいと、トランジスタ62のベース電位が小さくなるので発振回路2のトランジスタ21のベース電位が大きくなり、発振回路2の発振出力の振幅が大きくなろうとする。
【0017】
このようにして発振出力の振幅が制御されるため、即ち増幅素子であるトランジスタ21の増幅度が制御されるため、第1のバッファアンプ3の発振出力の振幅は回路定数で決まる値(設定値)に維持されるようにコントロールされる。このため測定部7には振幅がほぼ一定の発振出力が入力されることになる。
【0018】
そしてこの感知装置は、気体中の特定の物質を感知するために用いてもよく、この場合には、気体中例えば大気中で水晶振動子1の発振出力が測定されることになる。気体は液体よりも粘性が小さいことから、水晶振動子1の振幅は大きくなろうとするが、既述のように振幅制御が働くことから、測定部7に入力される発振出力の振幅は、液体を測定系とした場合と同じになる。更にまた測定系が液体であっても、粘度の高い液体を測定系とする場合、例えば血液中の疫病マーカなどを感知するためにこの感知装置が用いられる場合には、水晶振動子1の振幅は小さくなろうとするが、やはり既述の振幅制御の作用により測定部7に入力される発振出力の振幅は先の例の場合と同じになる。
【0019】
したがって、発振回路2の発振出力の振幅を一定化するように制御しているので、感知対象物質の濃度測定や存在の有無を調べる測定系が例えば液体であっても気体であっても、また粘性の小さい液体であってもあるいは粘性の大きい液体であっても、予め設定した振幅で発振する。
【0020】
以上のような感知装置において、発振回路にはその発振出力の振幅の一定制御のほか、高い周波数(数MHz〜数十MHz)で安定した発振動作が要求され、さらには温度変化に対する安定した周波数特性が要求される。
【0021】
例えば、被測定物質が水晶振動子の電極面の抗体と結合すると、水晶振動子の等価直列抵抗は数百Ωに達する。即ち、この損失分を補うだけの負性抵抗が、発振回路部に存在していなければ、発振が停止し、抗原抗体反応による周波数変化量を計測できなくなる。このため、発振回路には、発振周波数帯域で数百Ω以上の高い負性抵抗を呈するものが要求される。
【0022】
図13に図11および図12の回路における負性抵抗の周波数特性を示す(発振周波数30.8MHzを想定)。この回路では、水晶振動子の損失分に応じて(実際には、第一のバッファアンプ3後の発振出力振幅に応じて)、発振回路側の負性抵抗を振幅制御回路により補っていたものの、十分に高い負性抵抗が得られていない。
【0023】
さらに、発振回路の発振出力の振幅が設定値になるように発振回路内の増幅素子の増幅度を制御する振幅制御回路6を必要とする。しかし、振幅制御回路6を付加することは、回路規模の増加となるため、回路の小型化ができない、製造コストが増加してしまうという問題があった。
【0024】
本発明の目的は、感知装置に要求される高い負性抵抗を呈し、しかも振幅制御回路を不要にして感知装置の小型化と製造コストの低減を実現し、さらに温度変化に対する安定発振を図ることができる感知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明では、発振回路の定数を最適化することにより、発振回路に十分な負性抵抗を確保して安定発振を得るとともに、振幅制御回路を不要にし、さらに温度変化に対する安定化も可能とするものであり、以下の構成を特徴とする。
【0026】
(1)水晶振動子とトランジスタ増幅回路でコルピッツ発振回路を構成し、水晶振動子の電極表面に感知対象物を吸着するための吸着層を形成し、吸着層への感知対象物の吸着による水晶振動子の固有振動数変化を発振回路の発振周波数変化として計測し、この発振周波数変化を基に感知対象物を検知、定量する感知装置であって、
前記トランジスタ増幅回路の出力部に設ける同調回路のインピーダンスが発振周波数において誘導性を呈する構成にしたことを特徴とする。
【0027】
(2)前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのベース・エミッタ間に接続される第1の容量成分とエミッタ・GND間に接続される第2の容量成分とについて、第2の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスに対する第1の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスの比が3以上であり、かつ第1の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスが300Ω以上となる構成にしたことを特徴とする。
(3)前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのコレクタ・ベース間に接続されるバイアス抵抗が3kΩ以下であることを特徴とする。
(4)前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのベース・GND間に接続される抵抗に、温度補償用ダイオードを直列に介挿した構成を特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
以上のとおり、本発明によれば、水晶振動子とトランジスタ増幅回路で構成するコルピッツ発振回路の定数を最適化することにより、感知装置に要求される高い負性抵抗を確保して安定発振を得るとともに、振幅制御回路を不要にして感知装置の小型化と製造コストの低減を実現できる。さらに、温度変化に対する安定発振が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態を示す感知装置のブロック図であり、図9と異なる部分は振幅制御回路6および第2のバッファアンプ5を省いた構成にある。このブロック構成にした発振回路の構成を図2に示し、以下、各部の機能構成を詳細に説明する。
まず、本実施形態では、発振周波数が30.8MHzの感知装置を想定しており、この発振周波数において、コルピッツ発振回路2の発振用増幅素子の出力部に接続される同調回路のインピーダンスが発振周波数において誘導性をもつ回路定数とする。具体的には、トランジスタTr(BJT−NPN)のコレクタと電源Vc間に設ける同調回路として、インダクタL1,コンデンサC5はそれぞれ4.7uH,3pFとすることで、発振周波数において誘導性を呈する同調回路とする。
【0030】
図3は、同調回路のインダクタL1,コンデンサC5の共振周波数を発振周波数(30.8MHz)に合わせた場合の負性抵抗特性を示し、この場合の負性抵抗のピークは発振周波数よりも低い周波数側にずれ、発振周波数で高い負性抵抗が得られず、発振不能、停止に陥ることが予想される。この周波数シフトの原因としては、第1の容量成分である容量分割用のコンデンサC2、第2の容量成分である容量分割用のコンデンサC3や水晶振動子の電極容量、浮遊容量の影響を受けるためと推測される。
【0031】
したがって、本実施形態では、同調回路のインダクタL1,コンデンサC5の共振周波数は発振周波数よりも高くし(誘導性をもたせ)、負性抵抗のピークを発振周波数に一致させ、安定発振を図る。
【0032】
(実施形態2)
図3の負性抵抗のピークは400Ω程度であるが、この負性抵抗をより大きくする手法について以下に例を挙げる。本実施形態では、実施形態1の同調回路を誘導性にしたコルピッツ発振回路において、容量分割用の一対のコンデンサC2、C3の容量比と発振周波数におけるインピーダンスを制限することで、負性抵抗の向上を図る。具体的には、発振用増幅素子としてのトランジスタTrのベース・エミッタ間に接続されるコンデンサC2と、エミッタ・GND間に接続されるコンデンサC3とにおいて、コンデンサC3の発振周波数例えば30.8MHzにおけるインピーダンスに対するコンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスの比が3以上であり、言い換えればコンデンサC3の容量に対するコンデンサC2の容量の比が1/3以下であり、かつエミッタ・ベース間に接続されるコンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスを300Ω以上とする。例えば、コンデンサC2の容量を12pFとし、コンデンサC3の容量を68pFとする。なお以下の記述においては、コンデンサCの「C」を便宜上当該コンデンサの容量をも表すことにする。
【0033】
図4は前記の同調回路を誘導性にしたコルピッツ発振回路において、容量C2と容量C3の比を変化させた場合の負性抵抗特性を示す。ただし、このときの試験条件としてはコンデンサC2は発振周波数において300Ωのインピーダンスを有し、抵抗R1は3kΩとする。
同図中、特性AはC2/C3=1/2、特性BはC2/C3=1/3、特性CはC2/C3=1/4の場合である。この特性から、発振周波数において1kΩ以上の負性特性を得るには、特性Aは負性抵抗が不足する。また、特性B、Cでは負性抵抗が十分に高いものになり、つまりC2/C3≦1/3にすることで十分な負性抵抗が得られる。
【0034】
図5は上記の同調回路を誘導性にしたコルピッツ発振回路において、コンデンサC2のインピーダンスを変化させた場合の負性抵抗特性を示す。ただし、このときの試験条件はC2/C3=1/3、抵抗R1は3kΩとする。
同図中、特性Aは発振周波数におけるコンデンサC2のインピーダンスが200Ω、特性Bは300Ω、特性Cは400Ωの場合である。この特性から、発振周波数において1kΩ以上の負性特性を得るには、特性Aは負性抵抗が不足する。また、特性B、Cでは負性抵抗が十分に高いものになり、つまりコンデンサC2のインピーダンスを300Ω以上にすることで十分な負性抵抗が得られる。
【0035】
以上のことから、本実施形態では、コンデンサC3の発振周波数例えば30.8MHzにおけるインピーダンスに対するコンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスの比が3以上、コンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスを300Ω以上とすることで、十分に高い負性抵抗特性を得る。この高い負性抵抗を得ることにより、従来の振幅制御回路の削減も可能となる。
【0036】
上記の容量C2と容量C3との発振周波数におけるインピーダンス比を3対1、かつエミッタ・ベース間に接続される容量C2の発振周波数におけるインピーダンスを300Ωとした場合の負性抵抗特性を図6に示す。
【0037】
また図4及び図5の特性を調べた試験条件では、抵抗R1は3kΩとしているが、抵抗R1を4kΩとした場合の負性抵抗特性を調べた結果を図7及び図8に示す。抵抗R1を変更した以外は全く同一条件で試験をしており、図7は図4の試験結果に対応し、また図8は図5の試験結果に対応している。抵抗R1を4kΩとした場合にも、抵抗R1は3kΩとした場合と同様の傾向にあるが、発振周波数における負性抵抗値が少し小さくなっている。この結果から抵抗R1の抵抗値が負性抵抗に影響を及ぼしていること分かる。そこで大きな負性抵抗を得るためには、抵抗R1の抵抗値をより適正化することが必要であり、適正化を図った実施の形態を次ぎに記載する。
【0038】
(実施形態3)
本実施形態では、実施形態1と同様に同調回路を誘導性にし、実施形態2と同様にコンデンサC2とC3の容量比およびコンデンサC2のインピーダンスを制限したコルピッツ発振回路において、発振用増幅素子のコレクタ・ベース間に接続されるバイアス抵抗を3kΩ以下とすることで、負性抵抗の低下を防止する。例えば、図2のバイアス抵抗R1を1.2kΩとする。
【0039】
図9は、バイアス抵抗R1を変化させた場合の負性抵抗特性を示す。ただし、このときの試験条件としては、コンデンサC2は発振周波数におけるインピーダンスが300Ω、C2/C3=1/3とする。
同図中、特性AはR1=2kΩ、特性BはR1=3kΩ、特性CはR1=4kΩの場合である。この特性から、発振周波数において1kΩ以上の負性特性を得るには、特性Cは負性抵抗が不足する。また、特性A、Bでは負性抵抗が十分に高いものになり、つまりR1=3kΩ以下にすることで十分な負性抵抗が得られる。
【0040】
(実施形態4)
従来回路では、温度安定度に関する補償がなかったため、外気温の変動によって発振用増幅素子のバイアス電圧が変動し、発振周波数が変動し、感知装置としての温度安定性能が十分ではなかった。
これを改善するために、本実施形態では外気温の変動による発振用増幅素子のバイアス変動を補償するための温度補償用ダイオードD1を発振用増幅素子としてのトランジスタのベース・GND間に介挿した構成とする。
このダイオードD1は、温度によって順方向電圧が変化することを利用したもので、これらを複数直列接続して所期の温度−電圧特性を得ること、同様の作用を呈する感温素子としてのサーミスタとすることもできる。
【0041】
(変形例)
以上までの各実施形態において、実施形態2〜4を適宜組み合わせた構成とすることで負性抵抗を一層高めた構成、および安定化発振動作を得る構成とすることができる。
また、バッファアンプ部に関しては、発振回路部と測定部との実現したいアイソレーションに応じて、複数使用した構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態を示す感知装置のブロック図。
【図2】図1の発振回路の構成図。
【図3】同調回路の共振周波数を発振周波数に合わせた発振回路の負性抵抗特性。
【図4】同調回路を誘導性にした発振回路の負性抵抗特性。
【図5】同調回路を誘導性にし、コンデンサC2のインピーダンスを変化させた場合の負性抵抗特性。
【図6】コンデンサのC2、C3の容量比を1/3、かつコンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスを300Ωとした場合の負性抵抗特性。
【図7】同調回路を誘導性にし、コンデンサC2のインピーダンスを変化させた場合の負性抵抗特性。
【図8】コンデンサのC2、C3の容量比を1/3、かつコンデンサC2の発振周波数におけるインピーダンスを300Ωとした場合の負性抵抗特性。
【図9】バイアス抵抗R1を変化させた場合の負性抵抗特性。
【図10】感知装置の基本構成図。
【図11】従来の感知装置のブロック図。
【図12】従来の具体的な回路構成図。
【図13】従来の負性抵抗特性。
【符号の説明】
【0043】
1 水晶振動子
2 発振回路
3 第1のバッファアンプ
4 ローパスフィルタ
5 第2のバッファアンプ
6 振幅制御回路
7 測定部
Tr トランジスタ
R1 バイアス抵抗
C2 第1の容量成分であるコンデンサ
C3 第2の容量成分であるコンデンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子とトランジスタ増幅回路でコルピッツ発振回路を構成し、水晶振動子の電極表面に感知対象物を吸着するための吸着層を形成し、吸着層への感知対象物の吸着による水晶振動子の固有振動数変化を発振回路の発振周波数変化として計測し、この発振周波数変化を基に感知対象物を検知、定量する感知装置であって、
前記トランジスタ増幅回路の出力部に設ける同調回路のインピーダンスが発振周波数において誘導性を呈する構成にしたことを特徴とする感知装置。
【請求項2】
前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのベース・エミッタ間に接続される第1の容量成分とエミッタ・GND間に接続される第2の容量成分とについて、第2の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスに対する第1の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスの比が3以上であり、かつ第1の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスが300Ω以上となる構成にしたことを特徴とする請求項1に記載の感知装置。
【請求項3】
前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのコレクタ・ベース間に接続されるバイアス抵抗が3kΩ以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の感知装置。
【請求項4】
前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのベース・GND間に接続される抵抗に、温度補償用ダイオードを直列に介挿した構成を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の感知装置。
【請求項1】
水晶振動子とトランジスタ増幅回路でコルピッツ発振回路を構成し、水晶振動子の電極表面に感知対象物を吸着するための吸着層を形成し、吸着層への感知対象物の吸着による水晶振動子の固有振動数変化を発振回路の発振周波数変化として計測し、この発振周波数変化を基に感知対象物を検知、定量する感知装置であって、
前記トランジスタ増幅回路の出力部に設ける同調回路のインピーダンスが発振周波数において誘導性を呈する構成にしたことを特徴とする感知装置。
【請求項2】
前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのベース・エミッタ間に接続される第1の容量成分とエミッタ・GND間に接続される第2の容量成分とについて、第2の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスに対する第1の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスの比が3以上であり、かつ第1の容量成分の発振周波数におけるインピーダンスが300Ω以上となる構成にしたことを特徴とする請求項1に記載の感知装置。
【請求項3】
前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのコレクタ・ベース間に接続されるバイアス抵抗が3kΩ以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の感知装置。
【請求項4】
前記トランジスタ増幅回路のトランジスタのベース・GND間に接続される抵抗に、温度補償用ダイオードを直列に介挿した構成を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の感知装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−35409(P2008−35409A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208854(P2006−208854)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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