説明

慢性C型肝炎を治療するための医薬組成物

本発明は、IL−15、ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子(例えば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド,GM−CSF,IL−4,LPS,CD40L,polyI:C,TNF−αおよびIFN−γ)及びレクチン結合物質(例えば,マンノース炭水化物,フコース炭水化物および抗レクチン抗体)からなる群から選択される1種以上の活性成分を含有することを特徴とする,慢性C型肝炎を治療するための医薬組成物、そのような活性成分を用いる慢性C型肝炎の治療方法等を提供する。これらの医薬組成物及び治療方法においては,上記活性成分に、IFN−αを併用して用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は,慢性C型肝炎を治療するための方法ならびに医薬組成物に関する。
【背景技術】
C型肝炎ウイルス(HCV)は,フラビウイルスファミリーに属する一本鎖プラスセンスRNAウイルスであり,感染した患者の70%以上で持続的感染を引き起こす。HCVの持続感染の最も重要な特徴は,穏和な肝炎から肝硬変および肝細胞癌へと肝臓疾患が進行する可能性があることである。HCV陽性肝細胞癌患者の数は世界的に増加しており,慢性HCV感染は深刻な問題となりつつある。
肝臓疾患の進行およびその後の肝細胞癌の発症を予防するためには,HCV感染患者からHCVを根絶する必要がある。この目的のために,現在,慢性HCV感染の標準的な治療法としてIFN−αとリバビリンとの組み合わせ療法が用いられている(特開平11−152231)。この療法はIFN−αによる単独療法と比較してHCV根絶の確率を著しく改善したが,なお患者の半分以上はこの組み合わせ療法により治癒しない。
HCV持続感染のメカニズムの1つは,HCVが宿主の免疫応答から逃れる能力を有していることである(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92(7):2755−9,1995;Science 258(5079):135−40)。これまでの研究から,慢性HCV感染患者においては免疫応答性細胞の機能障害が見られることが明らかにされており(J.Immunol.,169(6):3447−3458,2002;Clin.Exp.Immunol.,109(3):451−457,1997),HCVは種々の方法で免疫応答を抑制していると考えられる。HCVは,例えば,抗原提示機能を作用させなくすることにより(J.Immunol.162:5584−5591,1999),またはCD4およびCD8T細胞応答を阻害することにより(J.Immunol.169:3447−3458,2002;Hepatology 33:267−276,2001),免疫サーベイランスシステムから逃れる戦略を有していることが示唆されている。
HCVの持続感染の重要な特徴の1つは、HCVが樹状細胞(DC)機能を抑制していることである。樹状細胞は最も強力な抗原提示細胞であり,種々の免疫応答を担っている(Banchereau,et al,Nature 392(6673):245−252,1998;Blood,90(9):3245−3287,1997)。血液樹状細胞は,主としてミエロイド系樹状細胞とプラズマ細胞系樹状細胞の2つのサブセットから構成される。ミエロイド系樹状細胞(MDC)は,ウイルスに対する一次および二次T−細胞応答の両方について強力な免疫刺激特性を有することを特徴としており,刺激を受けるとIL−12またはTNF−αを放出し,優先的にTh1応答を誘導する。プラズマ細胞系(リンパ球系)樹状細胞(PDC)は,ウイルスに感染すると大量のI型IFNを放出し,主としてTh2極性化を誘導する。
慢性HCV感染においては,樹状細胞のT細胞刺激能力に欠陥があることが示されており(J.Immunol.162:5584−5591,1999;Gastroenterology 120:512−524,2001),このことから,樹状細胞がHCVにより誘導される免疫機能障害に関与していることが示唆されている。逆転写(RT)−PCRを用いたいくつかの研究により,樹状細胞を含む血液細胞にHCVゲノムが存在することが示されている。しかし,この方法では,HCVが細胞内に侵入しているのか,その表面に付着しているだけであるのかを明確にすることはできない。HCVが血液樹状細胞に直接感染することが,樹状細胞の機能不全に何らかの関与をしていることが示唆されていたが,これまでのところ,いずれの樹状細胞サブセットがHCVに感受性であるかは不明であった。
樹状細胞はIFNαで刺激するとMICA/Bを発現し,NK細胞を活性化することができる。MHCクラスI関連A鎖およびB鎖(MICA/B)は,NK細胞においてポジティブの細胞内シグナルを伝達するNKG2Dのリガンドである。NK細胞は,感染した細胞を直接殺すことにより,種々の病原体に対する防御の最前線に立つ先天免疫の主要成分である。NK細胞の活性化はまた,種々のサイトカイン,例えばIFNγを放出することにより,続く適応免疫応答に影響を及ぼす。MICA/Bは,伝統的なクラスIMHCとは異なり,ほとんどの正常細胞において発現されないが,多くの上皮腫瘍細胞,ヒトサイトメガロウイルスに感染した細胞,”ストレスを受けた”細胞においてアップレギュレートされている。したがって,MICA/BはNK細胞を活性化することにより,トランスフォームした細胞ならびに感染した細胞の排除に重要な役割を果たしていると考えられる。
C型肝炎ウイルス(HCV)感染を有する患者においては,IFNα刺激によるMICA/Bの誘導が大きく欠損していることが報告されている(J.Immunol.170:1249−1256,2003)。すなわち,慢性HCV感染患者においては,樹状細胞におけるMICA/B発現の欠陥がNK細胞の活性,および続くT細胞に影響を及ぼしていると考えられるが,これまでのところそのメカニズムは明らかではない。
本発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。
【特許文献1】 特開平11−152231
【非特許文献1】 J.Immunol.162:5584−5591,1999
【非特許文献2】 Gastroenterology 120:512−524,2001
【非特許文献3】 J.Immunol.170:1249−1256,2003
【発明の開示】
本発明は,HCVの持続感染のメカニズム,特に樹状細胞におけるIFNαにより誘導されるMICA/B発現のメカニズムを明らかにすることにより,慢性HCV感染患者において免疫系の機能を増強し,慢性C型肝炎を治療し、肝硬変および肝細胞癌の発症を予防するための方法ならびに医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは,慢性HCV感染患者の樹状細胞をIL−15で刺激すると,MICA/Bの発現が誘導され,NK細胞が活性化されることを見いだした。また,本発明者らは,シュードタイプ水疱性口内炎ウイルス(VSV)は,未成熟のMDCに感染するが,成熟刺激因子を与えることにより成熟させたMDCには感染しないこと,さらにはMDC上のレクチン含有分子がシュードタイプVSV侵入に対して重要な役割を果たしていることも明らかにした。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
すなわち,本発明は,IL−15,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子及びレクチン結合物質からなる群より選択される1種以上の活性成分を含有する,慢性C型肝炎を治療するための医薬組成物を提供する。好ましくは,このような医薬組成物は,慢性C型肝炎の治療においてIFN−αと併用される。
本発明の好ましい態様によれば,IL−15を含有する,慢性C型肝炎を治療するための医薬組成物が提供される。好ましくは,IL−15を含有する本発明の組成物は,慢性C型肝炎の治療においてIFN−αと併用される。
慢性C型肝炎の治療とは,持続感染C型肝炎ウイルスを減少させること,好ましくは根絶させることを意味し,このことにより,慢性HCV感染患者において肝硬変および肝癌の発症を予防することができる。
また別の観点においては,本発明は,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子を含有する,慢性C型肝炎を治療するための医薬組成物を提供する。好ましくは,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子を含有する本発明の組成物は,慢性C型肝炎の治療においてIFN−αと併用される。好ましくは,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子は,CpGオリゴデオキシヌクレオチド,GM−CSF,IL−4,LPS,CD40L,polyI:C,TNF−αおよびIFN−γからなる群より選択される。
また,別の観点においては,本発明は,レクチン結合物質を含有する,慢性C型肝炎を治療するための医薬組成物を提供する。好ましくは,レクチン結合物質を含有する本発明の組成物は,慢性C型肝炎の治療においてIFN−αと併用される。また好ましくは,レクチン結合物質は,マンノース炭水化物,フコース炭水化物および抗レクチン抗体からなる群より選択される。
また,本発明は,IL−15,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子及びレクチン結合物質からなる群より選択される1種以上の活性成分を含有する,肝硬変および肝細胞癌を予防するための医薬組成物も提供する。
また,本発明は,IL−15,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子及びレクチン結合物質から選択される1種以上の活性成分の有効量を患者に投与することを含む慢性C型肝炎を治療する方法も提供する。
さらに,本発明は,慢性C型肝炎を治療するための医薬の製造のためのIL−15,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子及び/又はレクチン結合物質の使用をも提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は,樹状細胞における種々のサイトカインによるMICA/Bの発現の誘導を示す。
図2は,IL−15およびIFNαによるMICA/Bの発現の誘導を示す。
図3は,IFNαまたはIL−15で刺激した樹状細胞によるNK細胞活性化を示す。
図4は,IFNαまたはIL−15で刺激した樹状細胞によるNK細胞活性化を示す。
図5は,IL−15によるNK細胞活性化を調べた実験の結果を示す。
図6は,IL−15で刺激した樹状細胞とNK細胞とをトランスウエル系で共培養した実験の結果を示す。
図7は,抗MICA/B抗体によるNK細胞活性化の阻害を示す。
図8は,抗MICA/B抗体によるNK細胞活性化の阻害を示す。
図9は,IFNαで刺激した樹状細胞によるIL−15の産生を示す。
図10は,抗IL−15抗体または抗IL−15Rα抗体によるMICA/B発現の阻害を示す。
図11は,IL−15で刺激した樹状細胞によるIFNα/βの産生を示す。
図12は,抗IFNα/βR抗体によるIL−15誘導性MICA/Bの発現の阻害を示す。
図13は,HCV感染患者および対照者の血中における樹状細胞の数を示す。
図14は,MDCおよびPDCにシュードタイプVSV−E1E2を接種した結果を示す。
図15は,Mo−DCにシュードタイプVSV−E1E2を接種した結果を示す。
図16は,MDC,Mo−DCおよびPDCにおけるHCV RNAのコピー数を示す。
図17は,シュードタイプVSVのMDCへの感染に及ぼす種々のMDC成熟刺激剤の影響を示す。
図18は,シュードタイプVSVのMDCへの感染に及ぼすマンナンの影響を示す。
図19は,シュードタイプVSVのMDCへの感染に及ぼすマンナンの影響を示す。
図20は,HepG2細胞に対するシュードタイプVSV感染に及ぼすマンナンの影響を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
慢性HCV感染患者においては,樹状細胞におけるMICA/B発現に欠陥があることが知られていたため,本発明者らは,健康なドナーおよび慢性HCV感染患者からの樹状細胞を種々のサイトカインで刺激してMICA/Bの発現を調べた。実施例1に示されるように,健康なドナーの樹状細胞においては,IFNα,IFNβまたはIL−15によりMICA/Bの発現が誘導されるが,HCV感染患者の樹状細胞においては,IL−15によりMICA/Bの発現が誘導されるが,IFNαまたはIFNβによっては誘導されないことが見いだされた。さらに,HCV感染患者の樹状細胞をIL−15で刺激すると,NK細胞の細胞障害活性およびIFNγ産生が増強した。さらに,実施例4において示されるように,健康なドナーの樹状細胞をIFNαで刺激するとIL−15の産生が誘導されるが,HCV感染患者の樹状細胞では誘導されないことが明らかとなった。これらの結果から,HCV感染患者からの樹状細胞は,IFNαの刺激によりIL−15を産生する能力が障害を受けているため,MICA/Bの発現を誘導することができず,したがってNK細胞を活性化することができないことがわかった。このことが,慢性HCV感染患者においてIFNα療法によりHCVの根絶が困難であった理由の1つであると考えられる。
すなわち,本発明は,IL−15を含むことを特徴とする,慢性C型肝炎を治療するための医薬組成物を提供する。
IL−15は,T細胞株の増殖を促進する因子として最初に単離され,ヒトIL−15のcDNAの配列は報告されている(Science 264:965−968,1994)。IL−15は,免疫応答に関与するサイトカインの1つであり,B細胞,T細胞,ナチュラルキラー(NK)細胞,およびリンパ球活性化キラー(LAK)細胞の増殖および分化を刺激し,CTL活性を誘導することができるT細胞増殖因子である。IL−15のmRNAは多くの組織において発現されているが,特に単球,マクロファージにおいて多く発現されている。インビボにおいては,IL−15は,各種の免疫細胞に対して多面的な作用を及ぼし,生体の免疫応答の増強に役割を果たしている。
最近の研究により,IL−15が樹状細胞の成熟プロセスならびに機能を正に制御して,有効な病原体特異的または腫瘍特異的CTL応答を生ずることが示されている(J.Immunol.,169:4928,2002;J.Exp.Med.,194:1013,2001;Nature Immunol.,12:1138,2001)。さらに,樹状細胞は炎症性刺激に応答してIL−15を産生し,このことにより免疫制御機能を発揮する(J.Immunol.,167:1179,2001;J.Immunol.,169:4279,2002)。しかしながら,樹状細胞がNK細胞機能を調節する能力に対してIL−15が何らかの影響を及ぼすか否かは全く不明であった。本発明においては,樹状細胞はIL−15により刺激されるとMICA/Bを発現し,静止NK細胞を活性化すること,およびこの作用は完全にMICA/B−NKG2D相互作用に依存していることが示された。IL−15はNK細胞刺激因子として作用することが知られていたが,本発明においては,IL−15それ自体はNK細胞機能に対して二義的な影響しか有していないことが明らかとなった。
本発明で用いるIL−15は種々の方法により得ることができる。例えば,IL−15を産生する初代培養細胞や細胞株を培養し,培養物からIL−15を単離精製することができる。あるいは,IL−15は,既知の遺伝子配列(例えば,上述したScience 264:965−968,1994に記載の配列)に基づいて,当該技術分野において知られる方法により組換え的に製造することができる。このようにして得られるIL−15は,樹状細胞を刺激する能力を保持する限り,そのアミノ酸配列の一部(例えば,1〜30個,1〜20個,1〜10個,1〜数個(例,5個),1〜2個のアミノ酸残基)が欠失または置換されていてもよく,他のアミノ酸配列が一部(例えば,1〜30個,1〜20個,1〜10個,1〜数個(例,5個),1〜2個のアミノ酸残基)挿入されていてもよい。また,天然の糖鎖とは異なる糖鎖を有していてもよい。IL−15をコードする配列,またはその一部(例えば,1〜30個,1〜20個,1〜10個,1〜数個(例,5個),1〜2個の塩基)が欠失または置換されている配列を有するDNAを適当な発現ベクターに中に組み込み,これを真核生物または原核生物細胞のいずれかに導入して,IL−15蛋白質を発現させることができる。組換え蛋白質を発現させるために用いることができる宿主細胞の例としては,限定されないが,大腸菌,枯草菌等の原核生物宿主,および酵母,真菌,昆虫細胞,哺乳動物細胞等の真核生物宿主が挙げられる。好ましくは哺乳動物細胞が用いられる。
ベクターは,遺伝子の発現を駆動するプロモーター領域を含み,さらに転写および翻訳の制御配列,例えばTATAボックス,キャッピング配列,CAAT配列,3’非コード領域,エンハンサー等を含んでいてもよい。プロモーターの例としては,原核生物宿主中で用いる場合には,blaプロモーター,catプロモーター,lacZプロモーター,真核生物宿主中で用いる場合には,ヘルペスウイルスのTKプロモーター,SV40初期プロモーター,酵母解糖系酵素遺伝子配列プロモーター等が挙げられる。ベクターの例には,限定されないが,pBR322,pUC118,pUC119,λgt10,λgt11,pMAM−neo,pKRC,BPV,ワクチニア,SV40,2−ミクロン等が含まれる。さらに,シグナル配列を用いて組換え蛋白質を分泌発現させるように,あるいは,組換え蛋白質を別の蛋白質との融合蛋白質の形で発現させるように,ベクターを構築することができる。そのような発現ベクターの構築は当該技術分野においてよく知られている。
IL−15を発現するよう構築されたベクターは,トランスフォーメーション,トランスフェクション,コンジュゲーション,プロトプラスト融合,エレクトロポレーション,粒子銃技術,リン酸カルシウム沈澱,直接マイクロインジェクション等により,適当な宿主細胞中に導入することができる。ベクターを含む細胞を適当な培地中で成長させて組換え蛋白質を産生させ,細胞または培地から所望の組換え蛋白質を回収し,精製することにより,IL−15蛋白質を得ることができる。精製は,サイズ排除クロマトグラフィー,HPLC,イオン交換クロマトグラフィー,および免疫アフィニティークロマトグラフィー等を用いて行うことができる。
本発明の別の観点においては,慢性HCV感染患者において,MDCおよびPDCの数が減少しており,その機能に欠陥があることが見いだされた。後述の実施例7において示されるように,総DCおよびPDC,ならびにこれらの前駆細胞の絶対数は,HCV感染患者において,対照ドナーにおけるより低く,特に肝炎を発症している患者において低かった。インビボで樹状細胞がどのようにして前駆細胞から発生するかはまだ明らかにされていないが,これらの結果から,慢性C型肝炎患者の血液で樹状細胞の数が少ないことは,少なくとも部分的には,樹状細胞前駆細胞または前駆体の減少に起因すると考えられる。
本発明のさらに別の観点においては,本発明者らは,キメラHCVエンベロープ糖蛋白質で被覆したシュードタイプ水疱性口内炎ウイルス(VSV)を樹状細胞に接種し,ウイルスが細胞内に侵入するか否かを調べた。シュードタイプVSVは,グリーン蛍光蛋白質(GFP)レポーター遺伝子をそのゲノム中に有するため,蛍光により感染した細胞を識別することができる。実施例9に示されるように,シュードタイプVSVは,HCVネガティブのドナーに由来するMDCおよび単球由来樹状細胞(MoDC)には侵入するが,PDCには侵入しないことが明らかとなった。さらに,実施例10に示されるように,シュードタイプVSVは,未成熟のMDCに感染するが,成熟刺激因子を与えることにより成熟させたMDCには感染しないことが明らかとなった。
すなわち,本発明においては,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子を投与することにより,慢性C型肝炎を治療することが可能であることが見いだされた。好ましくは,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子は,慢性C型肝炎の治療においてIFN−αと併用して用いられる。「ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子」は,ミエロイド系樹状細胞の成熟を刺激できる限り特に限定されないが,例えば,CpGオリゴデオキシヌクレオチド,GM−CSF,IL−4,LPS,CD40L,polyI:C,TNF−αおよびIFN−γが挙げられる。CpGオリゴデオキシヌクレオチドは,非メチル化CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドであり,免疫応答,特にTh1応答を刺激し,B細胞,NK細胞,抗原提示細胞の活性化を誘導する能力を有することが知られている。本発明においては,CpGオリゴデオキシヌクレオチドがMDCを刺激して成熟させ,シュードタイプVSVに対するMDCの感受性を低下させたことが明らかになった。GM−CSF,IL−4,TNF−αおよびIFN−γはいずれも,前駆細胞から樹状細胞を誘導することができる因子として一般に用いられるものである。LPSは(グラム陰性菌細胞壁の成分であるリポポリサッカライド),CD40LおよびpolyI:Cは,樹状細胞の活性化因子としてよく知られている。これらの因子のいずれも,CpGオリゴデオキシヌクレオチドの代わりに用いることができる。2以上のミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子を組み合わせて用いてもよい。さらに,上述のミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子は,慢性C型肝炎の治療において,IFN−αまたはリバビリンと組み合わせて用いることができる。
本発明者らはさらに,MDC上のレクチン含有分子がシュードタイプVSV侵入に対して重要な役割を果たしていることを明らかにした。実施例12に示されるように,シュードタイプVSV−E1E2のMDCへの侵入は,マンナンにより阻害された。すなわち,レクチン結合物質を用いてHCVとMDC上のレクチン含有分子との相互作用を阻害することにより,慢性C型肝炎を治療することが可能であることが見いだされた。「レクチン結合物質」は,MDC上のレクチン含有分子と結合して,HCVとMDC上のレクチン含有分子との相互作用を阻害する物質であれば特に限定されないが,例えば,マンノース炭水化物,フコース炭水化物および抗レクチン抗体等を用いることができる。2以上のレクチン結合物質を組み合わせて用いてもよい。さらに,上述のレクチン結合物質は,慢性C型肝炎の治療において,IFN−αまたはリバビリンと組み合わせて用いることができる。
本発明の医薬組成物を製造するためには,IL−15,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子及び/またはレクチン結合物質,さらに必要に応じてIFN−αを加えて,当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体とともに,混合,溶解,顆粒化,錠剤化,乳化,カプセル封入,凍結乾燥等により,製剤化することができる。医薬組成物として処方する場合は,例えば,その組成物中に活性成分を0.1〜99.9重量%配合する。なお,本発明で用いる活性成分が薬学的に許容できる塩を形成する場合は,そのような塩形態の使用も本発明の範囲内である。
経口投与用には,IL−15,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子,またはレクチン結合物質を,薬学的に許容しうる溶媒,賦形剤,結合剤,安定化剤,分散剤等とともに,錠剤,丸薬,糖衣剤,軟カプセル,硬カプセル,溶液,懸濁液,乳剤,ゲル,シロップ,スラリー等の剤形に製剤化することができる。
非経口投与用には,IL−15,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子,またはレクチン結合物質を,薬学的に許容しうる溶媒,賦形剤,結合剤,安定化剤,分散剤等とともに,注射用溶液,懸濁液,乳剤,クリーム剤,軟膏剤,吸入剤,座剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては,本発明の医薬組成物を水性溶液,好ましくはハンクス溶液,リンゲル溶液,または生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに,組成物は,油性または水性のベヒクル中で,懸濁液,溶液,または乳濁液等の形状をとることができる。あるいは,医薬組成物を粉体の形態で製造し,使用前に滅菌水等を用いて水溶液または懸濁液を調製してもよい。吸入による投与用には,本発明の治療剤を粉末化し,ラクトースまたはデンプン等の適当な基剤とともに粉末混合物とすることができる。座剤処方は,本発明の治療剤をカカオバター等の慣用の坐剤基剤と混合することにより製造することができる。さらに,本発明の医薬組成物は,ポリマーマトリクス等に封入して,持続放出用製剤として処方することができる。
本発明の医薬組成物を投与する投与量および投与計画は,患者の年齢,疾病の状態および程度により様々であることができ,当業者が決定することができる。特に,好ましい投与の方法は,IL−15,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子,またはレクチン結合物質の特定の医薬処方,および治療べき患者の免疫状態により様々でありうる。
さらに,本発明の医薬組成物は,INF−αとの組み合わせ投与において用いるのに特に有用である。INF−αとの組み合わせ治療においては,INF−αと,IL−15,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子,またはレクチン結合物質とが,慢性C型肝炎の治療において相乗的な効果を奏することができるよう,同時に,または逐次的に投与される。各投与の間に数日から数ヶ月のインターバルがあってもよい。投与は,経口的であっても,非経口的であっても,これらの組み合わせであってもよい。非経口的とは,例えば,静脈内,皮下,皮膚内または筋肉内投与を意味する。また,本発明の組成物はデポ処方の形で投与してもよい。
投与量および投与回数は,剤形および投与経路,ならびに患者の症状,年齢,体重によって異なるが,一般に,本発明の医薬組成物は,各活性成分の量が1日あたり体重1kgあたり,約0.001mgから1000mgの範囲,好ましくは約0.01mgから10mgの範囲となるよう,1日に1回から数回投与することができる。
本発明の組成物はまた,INF−αと,INF−αとの組み合わせ合わせ治療に有用なIL−15,ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子,またはレクチン結合物質とを含むキットまたは1回包装物の形で提供してもよい。キットまたは包装物はまた,本発明にしたがって医薬組成物を使用するための指針を含むことができる。
【実施例】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1−6においては以下の材料および方法を用いた。
(A)PBMCからの単球由来DCの調製
15名の健康なボランティアおよび20名の慢性HCV感染患者を被験者とした。すべてのHCV感染患者は,血清抗HCV抗体およびHCV−RNAの両方にポジティブであり,他のタイプのウイルス感染または肝臓疾患の証拠を示さなかった。また,定期的に血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルを測定して,HCV感染患者を壊死炎症性肝臓疾患の程度により2つの群に分類した。持続的または変動的なALT上昇を示した患者(n=10)はCH−1群と定義し,2年以上正常なALTを持続的に示した他の患者(n=10)はCH−2と定義した。健康なボランティアおよび慢性HCV感染患者の末梢静脈血液から単球由来DCを生成した。簡単には,フィコール・ハイパーク密度遠心分離により単離したPBMCをパーコール(Sigma Aldrich,St Louis,MO)の3層の密度勾配(1.076,1.059,および1.045g/mL)で遠心分離した。高度に精製された単球を含む中層画分を24ウエル培養皿に5.0x10個/ウエルの密度で播種した。45分間インキュベートした後,非接着細胞を除去し,接着細胞を,10%PCS,10U/mLのペニシリン/ストレプトマイシン,2mmol/LのL−グルタミンを含み,GM−CSF(1000U/mL,キリンビール),およびIL−4(500U/mL:Strathmaim Biotech.,Hannover,Germany)を補充したアイスコーブ改変イーグル培地(Gibco−BRL Life Technologies,Inc.,Gaithersberg,MD)中で培養した。DCの刺激には以下の試薬を用いた:IFNα(住友製薬),IFNβ(東レ),IL−15,IL−12,IL−18およびTNFα(R&D Systems,Mineapolis,MN)。
(B)DCにおけるMICA/B発現のフローサイトメトリ分析
DC(5x10)を,抗MICA/Bモノクローナル抗体(6D4)
(Science 279:1737,1998)とともに4℃で30分間インキュベートした。次に細胞を洗浄し,FITC
−標識マウス抗ヤギIgG(BD−Pharmingen,San Diego,CA)を二次抗体として4℃で30分間インキュベートした。次に細胞を2回洗浄し,2%パラホルムアルデヒド溶液で固定した。細胞はFACScanシステム(BD−Pharmingen)を用いてフローサイトメトリで分析し,CELLQuest(商標)ソフトウエアを用いてデータ分析を行った。
(C)RT−PCRによるDCでのmRNA発現の分析
ISOGEN(ニッポンジーン)を用いて総RNA(1μg)を抽出し,80pmolのランダムプライマー(宝酒造)および10mmol/Lの各デオキシヌクレオチド三リン酸を加え,95℃で5分間インキュベートし,氷上で急冷した。混合物を50mmol/LのTris−HCl,75mmol/LのKCl,10mmol/LのDTT,3mmol/LのMgClおよび100Uのモロニーネズミ白血病ウイルスリバーストランスクリプターゼ(Gibco−BRL)と混合し,37℃で50分間インキュベートした。
70℃で15分間加熱することにより反応を停止させた。得られたcDNAを,10pmolの各センスおよびアンチセンスプライマー,10mmol/LのTris−HCl,50mmol/LのKCl,1.5mmol/LのMgCl,各2.5mmol/Lのデオキシヌクレオチド三リン酸,および2.5UのTaqDNAポリメラーゼ(宝酒造)を含む反応混合物中で用いた。
以下のプライマーを用いた:MICセンス:5’−ACACCCAGCAGTGGGGGGAT−3’(配列番号1);MICAアンチセンス:5’−GCAGGGAATTGAATCCCAGCT−3’(配列番号2);MICBアンチセンス:5’−AGCAGTCGTGAGTTTGCCCAC−3’(配列番号3);IL−15センス:5’−TAAAACAGAAGCCAACTG−3’(配列番号4);IL−15アンチセンス:5’−CAAGAAGTGTTGATGAACAT−3’(配列番号5);IL−15Rαセンス:5’−GTCAAGAGCTACAGCTTGTAC−3’(配列番号6);IL−15Rαアンチセンス:5’−GGTGAGCTTTCTCCTGGAG−3’(配列番号7)
増幅プロトコルは以下のとおりである:変性(MIC:35サイクル,95℃,60秒間,IL−15:30サイクル,99℃,60秒間,IL−15Rα:35サイクル,99℃,60秒間),次に,アニーリング工程(MIC:56℃,60秒間,IL−15:60℃,30秒間,IL−15Rα:55℃,30秒間)および伸長(MIC:90秒間,72℃,IL−15およびIL−15Rα:60秒間,72℃)。
対照として,G3PDHに特異的なプライマー:センス:5’−GCCACCCAGAAGACTGTGGATGGC−3’(配列番号8)およびアンチセンス:5’−CATGTAGGCCATGAGGTCCACCAC−3’(配列番号9)を用いた。
(D)統計学的分析
データは平均+SDで表し,ANOVAを用いてボンフェロニテストにより比較した。
p値が<0.01であるとき,相違が有意であると考えた。
[実施例1−1]サイトカインによるMICA/B発現の誘導
健康なドナーおよびALT異常を有するかまたは有しないHCV感染患者に由来するDCにおいて,種々のサイトカインによりMICA/Bが誘導されるか否かを調べた。健康なドナー(N−DC)またはHCV感染患者(HCV−DC)からの単球由来DCを調製し,培養第6日にIFNα(1000U/mL),IFNβ(1000U/mL),TNFα(10ng/mL),IL−12(10ng/mL),IL−15(50ng/mL),およびIL−18(20ng/mL)で24時間刺激した。次に,フローサイトメトリによりMICA/B発現について分析した。結果を図1に示す。
正常なドナーからのDC(N−DC)は,IFNαまたはIFNβに応答してMICA/Bを発現したが,HCV感染患者からのDC(HCV−DC)はいずれの場合もMICA/Bを発現しなかった。IL−15は,N−DCおよびHCV−DCにおいて,明らかにMICA/Bを誘導することができた。これに対し,TNFα,IL−12,またはIL−18はMICA/B発現を誘導しなかった。
[実施例1−2]MICA/B mRNAのRT−PCR分析
刺激していないDC,IL−15(50ng/mL)で刺激したDCおよびIFNα(1000U/mL)で刺激したDCからそれぞれ総RNAを単離し,RT−PCRによりMICAmRNAおよびMICBmRNAの発現を分析したところ,上述のフローサイトメトリの結果と一致する結果が得られた。
[実施例1−3]ALT異常の有無によるMICA/B発現の相違
健康なドナー(n=15)(HV),異常なALTを示す慢性HCV感染患者(n=10)(CH−1),および持続的な正常ALTレベルを有する慢性HCV感染患者(n=10)(CH−2)の間のMICA/B発現を比較した。IFNαまたはIL−15で刺激したDCのMICA/B発現をフローサイトメトリにより調べ,ポジティブ細胞のパーセントとして表した。結果を図2に示す。図中,水平バーは平均を,垂直バーはSDを表し,*はp<0.01を表す。HCV−DCは,IFNαで刺激したとき,ALT異常の状態にかかわらずMICA/Bを発現しなかった。このことは,HCV−DCにおいてIFNαまたはIFNβに応答するMICA/B発現が見られないことは,肝臓の慢性的炎症が原因ではないことを示唆する。
[実施例2]IL−15で刺激したDCによるNK細胞活性化の評価
細胞溶解アッセイおよびIFNγ発現アッセイを用いて,DCによるNK細胞の活性化を評価した。
健康なドナーのPBMCからNK細胞を単離し,NK細胞用の濃縮抗体カクテルで標識し,次に磁気コロイドで標識した(StemCell Technologies(Vancouver,BC,Canada))。細胞の90%以上はCD56+CD3−リンパ球であった。濃縮したNK細胞を,24ウエル培養皿(5.0x10個/ウエル)で,10%FCSおよび10U/mLのペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI1640培地中で培養した。健康な個体(N−DC)またはHCV感染個体(HCV−DC)からのDCを,IFNα(1000U/mL)またはIL−15(50ng/mL)で24時間刺激し,1.0x10個/mLの濃度でウエルに加え,NK細胞とともに24時間共培養した。
細胞溶解アッセイは以下のようにして行った。51Crで標識した標的細胞(K562)をNK/DC共培養(トランスウエルシステムで,またはなしで),またはNK細胞単独培養で,種々のエフェクター/標的比で4時間インキュベートした。インキュベートの後に上清を回収し,γ計数を行った。最大放出または自然放出は,それぞれ5%Triton−Xまたは培地のみでインキュベートしたサンプルからの計数として定義した。細胞溶解活性は,以下の式にしたがって計算した:
%溶解=(放出の実験値−自発的放出)X100/(最大放出−自発的放出)
すべてのアッセイにおいて,自発的放出は最大放出の20%未満であった。
NK細胞の細胞内IFNγ発現は以下のようにしてアッセイした。上述のようにDCとともに24時間培養したNK細胞を,10ng/mlのPMAおよび1μmol/Lのイオノマイシン(Sigma Aldrich)とともにインキュベートした。次に,1μl/mLのGolgiPlug(登録商標)(BD−Phanmngen)の存在下で37℃で4時間インキュベートした後,NK細胞をPE標識CD56モノクローナル抗体で4℃で30分間染色した。細胞を,Cytofix/Cytoperm(登録商標)緩衝液(BD−Pharmingen)で室温で15分間処理し,次にFITC標識−抗IFNγモノクローナル抗体(マウスIgG1)で染色した。染色した細胞をフローサイトメトリで分析した。フローサイトメトリにおける右上象限の数はIFNγを発現するCD56ポジティブ細胞を示す。
IL−15刺激N−DCとともに共培養したNK細胞,ならびにIFNα刺激DCとともに共培養したNK細胞は,同様の程度でK562細胞に対する細胞溶解活性ならびにIFNγ産生が増加していた。これに対し,IL−15で刺激したHCV−DCはNK細胞を活性化したが,IFNαで刺激した場合にはNK細胞活性化を示さなかった(図3および4)。
比較のために,新たに単離したNK細胞を,50ng/mLのIL−15とともに24時間培養し,次にK562細胞溶解活性およびIFNγ産生をアッセイしたところ,IL−15それ自身はNK細胞を活性化することができなかった(図5)。したがって,IL−15がNK細胞に直接的効果を及ぼすのではないことが確認された。
次に,新たに単離したNK細胞とIL−15(50ng/mL)で刺激したN−DCとを,0.4μmの挿入膜を用いて分離して共培養し,NK細胞とDCとが共培養系中で直接接触することを妨げた(トランスウエル実験)。24時間培養した後にK562細胞溶解活性をアッセイしたところ,NK細胞は細胞溶解能力の増加を示さなかった。このことは,IL−15で刺激されたN−DCによるNK細胞の活性化には,細胞と細胞との直接の接触が必須であることを示す(図6)。
[実施例3]NK細胞活性化におけるMICA/B−NKG2D相互作用の関与
IL−15で刺激されたDCで発現されるMICA/BがNK細胞活性化に関与しているか否かを調べた。
NK細胞を,N−DCまたはL−15で刺激したN−DCとともに,抗MICA/Bモノクローナル抗体(6D4),抗NKG2Dモノクローナル抗体(1D11)(Science 285:727,1999;Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96:6879,1999)または対照IgGの存在下で24時間共培養し,NK細胞の細胞溶解活性およびIFNγ産生を調べた。
抗MICA/Bモノクローナル抗体の存在下でIL−15で刺激したN−DCと共培養したNK細胞は,細胞溶解能力の増加を示さなかった(図7)。また,IL−15で刺激したDCによるNK細胞のIFNγ産生の増加は,NK/DC共培養の間に抗MICA/Bモノクローナル抗体または抗NKG2Dモノクローナル抗体を加えたときには完全になくなった(図8)。N−DCの代わりにHCV−DCを用いた場合にも同様の結果が得られた(データ示さず)。これらの結果は,IL−15で刺激されたDCによるNK細胞の活性化は,MICA/B−NKG2D相互作用に依存することを示す。
[実施例4]HCV−DCにおけるIFNα/βに応答したIL−15の産生の欠陥
N−DCおよびHCV−DCを,IFNα(1000U/mL)で24時間刺激した(各群につきn=5)。各培養上清中のIL−15,IL−12p70,TNFαおよびIL−1βを,特異的モノクローナル抗体の対および組換えサイトカイン標準物を用いて,固相サンドイッチELISAにより測定した(IFNα/β,IL−12p70,TNFα,およびIL−1β,Endogen,Wobum,MA;IL−15,BD−Pharmingen)。これらのELISA系の検出の限界閾値は以下のとおりである:IL−15,3.7pg/mL;IFNα/β,17.5pg/mL;IL−12p70,TNFαおよびIL−1β,8.8pg/mL。
IFNαは,N−DCにおいて明らかにIL−15の産生を誘導したが,HCV−DCにおいてはIL−15の産生を誘導することができなかった。IL−12,TNFα,IL−6およびIL−1βの産生は,N−DCとHCV−DCとの間でほとんど相違しなかった(図9)。RT−PCRによりIL−15mRNAの発現を測定した場合にも同様の結果が得られた(データ示さず)。
これらの結果は,N−DCではIFNαの刺激によりIL−15の産生が誘導されるが,HCV−DCでは誘導されないことを示す。
[実施例5]IFNαで刺激したDCのMICA/B発現におけるオートクリンIL−15の関与
IL−15は,IL−15のための特異的α鎖(IL−15Rα),IL−2レセプターβ鎖および共通のγ鎖から構成されるトリマーIL−15レセプター複合体に結合することにより,その生物学的作用を発揮することが知られている。IFNαがヒトDCにおけるIL−15Rαの発現を調節するか否かを調べるために,半定量的RT−PCRによりIL−15RαのmRNA発現を調べた。IL−15RαmRNAはIFNαで刺激しないDCでも発現されているが,IFNαで刺激するとN−DCおよびHCV−DCのいずれにおいても,IL−15RαmRNAがアップレギュレートされた(データ示さず)。このことから,HCV−DCにおいては,IFNαに応答するIL−15の発現には欠陥があるが,IL−15Rαの発現はそうではないことを示す。
N−DCを,抗IL−15抗体(30μg/mL)または抗IL−15Rα中和抗体(30μg/mL)の存在または非存在下で,1000U/mlのIFNαとともに24時間培養した後,フローサイトメトリによりMICA/B発現について分析した。結果を図10に示す。図中,各ヒストグラム中の数字はMICA/B発現の平均蛍光強度を示す。
IFNαで刺激したN−DCにおけるMICA/Bの発現は,いずれの抗体によっても完全に阻害された。
これらの結果は,DCにおいて,IFNαにより誘導されるMICA/B発現には,オートクリンIL−15により媒介されるIL−15Rαの活性化が必須であることを示す。すなわち,HCV−DCがIFNαに応答してMICA/Bを発現することができず,したがってNK細胞を活性化しないことは,IL−15の産生の欠陥が原因であると考えられる。
[実施例6]DCのIL−15媒介性MICA/B発現におけるオートクリンIFNα/βの関与
IL−15で刺激されたDCにおけるMICA/Bの誘導にオートクリンIFNα/βが関与しているか否かを調べた。
N−DCおよびHCV−DCを,50ng/mlのIL−15とともに,抗−IFNα
/βR中和抗体(30μg/mL)の存在または非存在下で24時間培養した(各群につきn=5)。各培養上清中のIFNαおよびIFNβをELISAにより測定した。結果を図11に示す。
N−DCおよびHCV−DCのいずれも,IL−15で刺激するとIFNαおよびIFNβの両方が産生された。さらに,抗IFNα/βR抗体の存在下でDCをIL−15で刺激すると,IFNαの産生が実質的に抑制されるが,IFNβの産生は抑制されなかった(図11)。このことは,DCをIL−15で刺激するとIFNβが産生され,次にIFNα/βR依存的様式でIFNαが産生されることを示唆する。
次に,N−DCおよびHCV−DCを,抗IFNα/βR中和抗体(30μg/mL)の存在または非存在下で,50ng/mlのIL−15で24時間刺激し,次にフローサ
イトメトリによりMICA/B発現について分析した。結果を図12に示す。図中,各ヒストグラム中の数字は,MICA/B発現の平均蛍光強度を表す。DCにおけるIL−15誘導性MICA/B発現は,抗IFNα/βRマスキング抗体の存在下で完全に抑制された。同様の結果は,RT−PCRによるMICA/BmRNA発現の分析においても示された(データ示さず)。
このことから,DCにおけるIL−15に応答したMICA/Bの発現にはオートクリンIFNα/βが必要であり,これはHCV感染患者においても保存されていることを示す。この結果は,HCV−DCもIL−15で刺激するとMICA/Bを発現しうるという実施例1の結果と一致する。すなわち,IL−15はDCを活性化してIFNα/βを産生させ,これがMICA/B発現に必要なオートクリン作用を有すると考えられる。
実施例7−12においては,以下の試薬を用いた:組換えヒトIL−4およびGM−CSFはPeproTech(London,UK)から,組換えヒト可溶CD40リガンド(CD40L),ヒトTNF−αおよびIL−3はR&D Systems(Minneapolis,MN)から,LPS,polyI:C,マンナンおよびガラクトースはSigma(St.Louis,MO)から,組換えヒトIFN−γは,Strathman Biotech GmbH(Hamburg,Germany)から,ヒトリンパ芽球様IFN−αはSumitomo Pharmaceuticals(Osaka,Japan)から,非メチル化CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)2006はSigma Genosys(Hokkaido,Japan)から,それぞれ入手した。また,以下のFITC−,PE−,PerCP−またはPC5−コンジュゲート化抗ヒトモノクローナル抗体を用いた:Lineage(Lin)(CD3,CD14,CD16,CD19,CD20,CD56)(Becton Dickinson),CD1a(NA1/34;DAKO,Glostrup,Denmark),CD11c(KB90;DAKO),CD14(M5E2;Becton Dickinson),CD40(5C3;BD Pharmingen,San Diego,CA),CD80(L307.4;BD Pharmingen),CD83(HB15a;Immunotech,Marseille,France),CD86(IT2.2;B70/B7−2,BD Pharmingen),CDw123(7G3;IL−3レセプターα鎖,BD Phaimingen),CD206(マンノースレセプター,3.29B1,10;Imunotech),CD207(ランジェリン,DCGM4;Imunotech),DC−SIGN(120507;R&D Systems)およびHLA−DR(L243;Becton Dickinson)。
[実施例7]HCV感染患者の抹消血中のMDC,PDCおよびDC前駆細胞の数の測定
66名のHCV感染患者についてDC数を調べた。これらの患者は,血清抗−HCV抗体およびHCV−RNAの両方が陽性であり,他のウイルス感染,例えば,B型肝炎ウイルス(HBV)およびHIVについては陰性であることを確認した。いずれの患者も抗ウイルス剤,例えばIFN−αまたはリバビリン治療を受けたことはなかった。なお,肝臓疾患の他の原因,例えば,自己免疫,アルコール性,代謝性肝疾患を有する患者は除外した。すべての患者において,生化学および超音波検査またはCATスキャン分析の組み合わせにより,肝硬変ならびに肝臓腫瘍がないことを確認した。対照として,HCV,HBVおよびHIVについてすべて陰性の年齢のマッチした19名の健康なドナーについても調べた。
患者は,1−2ヶ月ごとにその疾病状態を評価した。肝機能試験異常のパターンから,これらの患者を2つの群に分類した。2年以上正常なアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルが持続している患者は,無症状キャリア(ASC)群と定義した。残りの患者は持続的または変動するALT異常を示し,慢性肝炎(CH)群と定義した。これらの患者の何人かにおいては,肝臓生検を実施して,組織学的活性および線維症の等級を診断した。ASC患者においては,門脈部位に最小の単核細胞浸潤しか認められず,見かけ上の小葉炎症または壊死はなかった。これらの知見は,CH患者と明確な対照を示し,CH患者は,門脈から静脈部位に広がって生じ,点状の小葉壊死を有するより高い程度の炎症を示した。HCV−RNAの量は,分岐DNAプローブアッセイ(ChronHCV−RNA,Emeryville,CA)によりアッセイした。HCV血清型タイピングは,既知の方法により行った。患者プロファイルを表1に示す。

患者および健康ドナーから10−12mlのヘパリン添加静脈血を得た。PBMCは,Ficoll−Hypaqueクッション上の密度勾配遠心分離により末梢血単核球(PBMC)を回収した。生きたPBMCを計数し,次に細胞を抗体で染色した。血液DCは,ライニージマーカー(Lin)(CD3,CD14,CD16,CD20,およびCD56)陰性およびHLA−DR細胞として定義した。これらの細胞のゲートを設定した後,MDCおよびPDCはさらにCD11cおよびCD123発現のパターンにより定義した。MDCはLin,HLA−DR,CD11c,CD123low細胞であり,PDCはLin,HLA−DR,CD11cおよびCD123high細胞である。MDCおよびPDCは,共通の造血幹細胞に由来し,続いてそれぞれ骨髄性およびリンパ球様DC前駆細胞に分化し,そのプロセスの間の中間的PDC前駆細胞の表現型が決定されている。CD34前駆細胞は,Lin,HLA−DR,CD123およびCD34細胞として定義した。PDCの初期前駆細胞および後期前駆細胞は,それぞれLin,CD34,CD123,CD45RA,およびLin,CD34,CD123およびCD45RAとして定義した。FACS分析により決定されたこれらの細胞のパーセンテージから,PBMCの数を乗ずることにより,末梢血におけるDCサブセットの絶対数を計算した。
機能的分析のために,BDCA−1およびBDCA−4分離キット(MiltenyiBiotec,Bergisch,Germany)により,ある程度の改変を加えて(19),MDCおよびPDCをPBMCまたはバフィーコート(大阪赤十字血液センター)から分離した。あるいは,Lin細胞をCD3,CD14,CD16,CD20,CD56およびグリコホリン(Stem Cell Technoloies,Vancouver,Canada)を含むカクテル抗体で磁気的に涸渇させた後,FACS Vantage SE(Becton Dickinson Immunocytometry Systems,San Jose,CA)でMDCおよびPDCを別々にソートした。
結果を図13に示す。グラフ中,横線は中央値を表す。CH群におけるDCおよびPDCの総数は正常ボランティア(NV)における総数より低かったが,ASC群における総数は相違しなかった。CH群のMDCは,ASCおよびNVにおけるより少ない傾向にあった。DCサブセットの減少がHCV感染患者における総PBMCの減少に起因する可能性を排除するために,群間のPBMC,CD4および単球の数を比較したところ,相違は認められなかった(データ示さず)。したがって,血液DCの数が少ないことは,単にPBMCが低いためではなく,CH患者においてDCが選択的に減少しているためである。
次に,DCサブセットの前駆細胞の数を分析した。Blomら(J.Exp.Med.192:1785−1796,2000)により報告されている表現型にしたがって,PBMC中で,CD34前駆細胞(Lin,HLA−DR,CD123,CD34),初期前駆細胞(Lin,CD123,CD34,CD45RA)および後期前駆細胞(Lin,CD123,CD34,CD45RA)を識別した。CH群におけるCD34前駆細胞および初期前駆細胞の数は,ドナー群におけるより有意に低かったが,ASC群におけるものはドナーのものと異ならなかった。これらの結果は,慢性C型肝炎患者において血液DCおよびその前駆細胞が減少していることを示す。
[実施例8]末梢血単核球(PBMC)からのDC細胞の分離および培養
健康なボランティアの静脈血からバフィコートを単離し,Ficoll−Hypaque密度勾配遠心分離によりバフィコートからPBMCを回収した。単球,B細胞,MDCおよびPDCは,それぞれ,CD14−マイクロビーズ,CD19−マイクロビーズ,BDCA−1またはBDCA−4 DC単離キット(Miltenyi Biotec,Bergish−Gladbach,Germany)を用いて,磁気的に単離した。CD4,CD8T細胞およびNK細胞は,PBMCから,それぞれ対応するStem−Sepキット(Stem Cell Technologies Inc,Vancouver,BC)を用いて分離した。CD34+造血前駆体細胞は,CD34−マイクロビーズ(Miltenyi)を用いて臍帯血単核細胞から単離した。
DC上の表面分子の発現はFACS Caliber(Becton Dickinson,San Jose,CA)を用いるフローサイトメトリにより分析した。染色のためには,DCを,2%BSAおよび0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS中で特異的抗体またはアイソタイプ抗体とともに4℃で30分間保存した。MCDは,Lin,HLA−DR,CD11c,CD123lowであり,PDCは,Lin,HLA−DR,CD11c,CD123highであり,これらの細胞におけるCD40,CD80およびCD83の発現は低かった。すべての単離した細胞の純度は,90%より高かった。
単離した単球またはMDCは,10%のFCS,50lU/mlのペニシリン,50μg/mlのストレプトマイシン,2mMのL−グルタミン,10mMのHepes緩衝液および10μMの非必須アミノ酸を補充し(完全培地,CM),50ng/mlのGM−CSFを含み,10ng/mlのIL−4を含むかまたは含まないIMDM(GIBCO Laboratories,Grand Island,NY)中で4−7日間培養した。PDCは,CM中で50ng/mlのIL−3の存在下で4日間培養した。
[実施例9]シュードタイプVSVの細胞への侵入の評価
いずれの血球がHCV感染に感受性であるかを明らかにするために,シュードタイプVSV含有キメラHCVE1およびE2蛋白質を用いた。シュードタイプVSVは,糖蛋白質(G)遺伝子がGFPをコードするレポーター遺伝子で置き換えられている組換えVSVから構成され,エンベロープとしてキメラHCVE1およびE2蛋白質を有する(VSV−E1E2)(J.Exp.Med.;197(1):121−127,2003)。
【0069】
ウイルスは,SW28ローター(Beckman Coulter Inc.,Fullerton,CA)で,20%(v/w)−60%(v/w)の非連続的ショ糖勾配で25,000rpmで4℃で2時間遠心分離することにより精製し,−80℃で保存した

ウイルスサンプル中のRNAのコピー数を決定するためには,,TaqManEZ RT−PCRキット(PE Applied Biosystems,FosterCity,CA)を用いた。シュードタイプVSV RNAの323−bpセグメントを増幅するフォワードプライマー(5’−cattattatcattaaaaggctc−3’(配列番号10))およびリバースプライマー(5’−gatacaaggtcaaatattccg−3’(配列番号11)),および二重蛍光団標識プローブ[5’−(6−カルボキシ−フルオレセイン)−atccagtggaatacccggcagattac−(6−カルボキシ−テトラメチル−ローダミン)−3’(配列番号12)]を用いた。配列検出装置(ABI Prism7000,PE Applied Biosystems)により,PCR増幅の間の蛍光放出をモニ
ターし,既知量のインビトロ合成シュードタイプVSV RNAから作成した標準曲線に基づいてサンプル中のコピー数を決定した。
シュードタイプVSVをPBMCまたは臍帯血から分離した種々の細胞に接種した。負対照としては,エンベロープ蛋白質を有しないVSVΔGを用いた。正対照としては,VSV−G蛋白質を補足したVSVΔG−Gを用いた。分離した種々の血球細胞を,96ウエル培養プレート中にCM中で5X10細胞/ウエルで調製した。次に,これにシュードタイプウイルスであるVSV−E1E2(1X1012RNAコピー/ウエル),VSVΔG(1X1012RNAコピー/ウエル)またはVSVΔG−G(1x1011RNAコピー/ウエル)を接種し,37℃で16時間インキュベートした。蛍光顕微鏡で感染細胞(GFP細胞)を観察し,FACS分析により陽性のパーセンテージを求めた。感染細胞の正味パーセンテージは,次のようにして表した:%感染=(VSV−E1E2またはVSVΔG−Gを用いたときのGFP細胞の%)−(VSV−ΔGを用いたときのGFP細胞の%)
この結果,VSVΔG−Gは,MDC,PDC,単球およびCD34+造血前駆細胞に感染したがVSV−E1E2はこれらの細胞に感染しなかった。すなわち,末梢血から新たに単離したDCはシュードタイプVSV−E1E2に対して感受性ではなかった。
[実施例10]シュードタイプVSVに対する感受性に及ぼすDCの分化または成熟の影響
シュードタイプVSVに対する感受性に及ぼすDCの分化または成熟の影響を調べるために,MDCまたは単球をGM−CSFの存在下でIL−4とともにまたはIL−4なしで培養した。4日目に表現型を分析したところ,GM−CSFおよびIL−4とともに培養したMDCは,GM−CSFのみとともに培養したものと比較して,CD1a,CD83およびCD86の高い発現を有していた。このことは,IL−4がDC分化因子として作用したことを示す。MoDCにおいては,GM−CSFとともに培養した細胞と,GM−CSFおよびIL−4の組み合わせで培養した細胞との間に同様の表現型の相違が認められた。また,IL−3の存在下での培養の4日目に,PDCは0日目と比較して,CD40,CD80,CD83およびCD86の発現が高かった。
これらのDCにシュードタイプVSV−E1E2を接種した結果を図14および図15に示す。図中、右下象限の数字はGFP細胞のパーセンテージを示す。4日目のMDCおよび4日目および7日目のMoDCにおいてGFP+細胞が認められたが,4日目のPDCにおいては認められなかった。VSVΔG−Gを接種した場合には,用いたサイトカインの相違にかかわらず,4日目のMDC,4日目のPDC,4日目および7日目のMoDCから陽性シグナルが得られた。また,GM−CSFのみとともに培養した4日目のMDCにおいては,GFP細胞の割合(n=3,中央値および範囲)は1.5%(0.5−2.27%)であったが,GM−CSFおよびIL−4とともに培養したものにおいては,より高いパーセンテージのGFP細胞が観察された23.3%(12.3−27.0%)。MoDCは,培養の持続時間にしたがってVSVΔG−GおよびVSV−E1E2に対して,種々の感受性を示した。4日目のMoDCは7日目のMo−DCより比較的高いパーセンテージのVSV−E1E2含有GFP+細胞を示した。以上の結果から,未成熟MDCおよび単球由来のDCは,シュードタイプVSVに感受性であることが示された。
E1E2−媒介性ウイルス侵入の評価におけるシュードタイプVSV系の信頼性を確認するために,C型肝炎患者からのウインドウピリオドの血清を接種した後の各DCにおけるHCV−RNAをリアルタイムPCRにより定量した。実験には,市販のHCVセロコンバージョンパネルを接種物として用いた。これは,高いHCV RNAタイター(1X10コピー/μl)を有し,抗HCV抗体を含まない(Bio Clinical Partners,Inc,USA)。3μl/ウエルの接種物を96ウエルプレートのDCに加え,37℃で24時間インキュベートした。DCを回収し,1%FCSを補充したIMDMで3回洗浄し,次にRNeasy Mini Kit(QIAGEN,Germany)を用いてDCから総RNAを抽出した。
HCV RNAを測定するためには,TaqMan EZ RT−PCR kit(PEApplied Biosystems)を用いた。HCV RNAの5’−非コーディング領域の161−bpセグメントを増幅するフォワードプライマー(5’−cgggagagccatagtgg−3’(配列番号13))およびリバースプライマー(5’−cgaaaggccttgtggtact−3’(配列番号14)),および,二重蛍光団標識プローブ[5’−(6−カルボキシ−フルオレセイン)−ctgcggaaccggtgagtacac−(6−カルボキシ−テトラメチル−ローダミン)−3’(配列番号15)]を用いた。配列検出装置(ABI Prism7000)を用いて,PCR増幅の間の蛍光放出をモニターし,既知量のインビトロ合成HCV RNAから作成した標準曲線に基づいてサンプル中のコピー数を決定した
。調べた細胞のうち,最も高いHCV RNAタイターは,GM−CSFのみで培養した4日目のMDCにおいて検出された(図16)。これは,シュードタイプVSVを用いて得られた結果と一致した。したがって,シュードタイプVSV系を用いるデータは,真正HCVに対する細胞の感受性を正しく反映していることが確認された。
[実施例11]シュードタイプVSV感染に及ぼすMDC成熟刺激剤の影響
DCをHCV感染から防御する物質を見いだすために,接種実験においてMDCを種々の成熟因子で処理した。DCをHCV感染から保護する可能性のある物質を見いだすために,IFNα,IFNγ,CpG ODN 2006,CD40L,polyI:C,TNFαまたはLPSで処理した細胞と処理していない細胞について,VSV−E1E2の細胞内への侵入を調べた。DCを分離し,同じ日に,IFNα(100U/ml),IFNγ(1000U/ml),IL−3(50ng/ml)またはIL−4(10ng/ml)をそれぞれDCに加えた。CpG ODN 2006(10μM),CD40L(1μg/ml),polyI:C(50μg/ml),TNFα(20μg/ml)またはLPS(10μg/ml)は,シュードウイルスを接種する24時間前にDCに加えた。
結果を図17に示す。IL−4およびCpGODN2006を培地に添加すると,GM−CSF中で培養したMDCと比較して,VSVΔG−Gに対する感受性に影響を及ぼさずに,VSV−E1E2含有GFP細胞のパーセンテージが優位に減少することが明らかになった。一方,IFN−α,polyI:C,LPSおよびTNF−αは,VSV−E1E2およびVSVΔG−Gの両方についてGFP細胞のパーセンテージを減少させた。表現型分析により,CpGODNは,GM−CSFとともに培養したMDCにおけるCD83およびCD86の発現をアップレギュレートしたことが明らかとなった。これらの結果は,MDCを成熟刺激することにより,シュードタイプVSV−E1E2に対する感受性を喪失させたことを示す。
[実施例12]シュードタイプVSV感染に及ぼすレクチン結合物質の影響
DC上のレクチン含有分子がHCV感染に関与しているか否かを調べるために,マンナンおよびガラクトースをVSV−E1E2侵入の阻害について試験した。GM−CSFとともに培養したMDCを4日目に種々の濃度のマンナンまたはガラクトースとともに37℃で180分間インキュベートし,シュードタイプVSVを接種した。また,シュードタイプVSV接種の前にDCをEDTA(5mM)で処理した。DCと肝芽腫細胞株であるHepG2とを比較するために,シュードタイプVSV接種の前にHepG2を5μg/mlのマンナンで処理した。
MDCをマンナンで前処理すると,VSV−E1E2を有するGFP細胞のパーセンテージは用量依存的様式で減少したが,VSVΔG−Gの侵入には影響を及ぼさなかった(図18)。マンナンのこのような阻害効果は,真正HCVを接種したMDCにおいて確認された(図19)。これに対し,ガラクトースはVSV−E1E2またはVSVAG−GのいずれにもMDCにおける感染に影響を及ぼさなかった。興味深いことに,EDTAはVSV−E1E2の感染性を低下させなかったが,VSVΔG−Gの感染性を完全に排除した。これらのデータは,マンノース型の炭水化物がCaZ+非依存的様式でDCとVSV−E1E2との相互作用に関与していることを示す。これに対し,HepG2細胞においては,マンナンはVSV−E1E2の感染を阻害しなかった(図20)。このことは,VSV−E1E2の侵入を担う分子は,HepG2とMDCとでは異なることを示唆しており,さらに,マンナンがMDC上の分子に影響を及ぼすが,VSV−E1E2上の分子には影響しないことを示す。
DCにおけるレクチンの発現がVSV−E1E2に対するその感受性と平行であるか否かを調べるために,GM−CSFとともに培養したMDCとGM−CSFとIL−4との組み合わせで培養したMDCについて,DC−SIGN,マンノースレセプター(MR)およびランジェリンの発現を比較した。DC−SIGNの発現は,GM−CSFおよびIL−4とともに培養したMDCにおいて,GM−CSFとともに培養したものより高かったが,MRおよびランジェリンの発現は異ならなかった。これらの結果は,DC上におけるレクチンの発現はVSV−E1E2の感染に直接関与していないことを示唆する。
【産業上の利用可能性】
本発明は、慢性C型肝炎の治療に有効な新規活性成分(IL−15、ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子及び/またはレクチン結合物質)を含有する慢性C型肝炎を治療するための医薬組成物,及びこれらの活性成分を用いる慢性C型肝炎の治療方法を提供する。本発明の医薬組成物及び治療方法によって,持続感染C型肝炎ウイルスを減少させることが可能となり,このことにより,慢性HCV感染患者において肝硬変および肝癌の発症を予防することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL−15、ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子及びレクチン結合物質からなる群より選択される1種以上の活性成分を含有する,慢性C型肝炎を治療するための医薬組成物。
【請求項2】
IL−15を含有する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
IL−15を含有する,慢性C型肝炎の治療においてIFN−αと併用するための請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子を含有する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子を含有する,慢性C型肝炎の治療においてIFN−αと併用するための請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子が,CpGオリゴデオキシヌクレオチド,GM−CSF,IL−4,LPS,CD40L,polyI:C,TNF−αおよびIFN−γからなる群より選択される,請求項4または5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
レクチン結合物質を含有する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項8】
レクチン結合物質を含有する,慢性C型肝炎の治療においてIFN−αと併用するための請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
レクチン結合物質が,マンノース炭水化物,フコース炭水化物および抗レクチン抗体からなる群より選択される,請求項7または8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
IL−15、ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子及びレクチン結合物質からなる群より選択される1種以上の活性成分を含有する,肝硬変又は肝細胞癌を予防するための医薬組成物。
【請求項11】
IL−15、ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子及びレクチン結合物質から選択される1種以上の活性成分の有効量を患者に投与することを含む慢性C型肝炎を治療する方法。
【請求項12】
慢性C型肝炎を治療するための医薬の製造のためのIL−15、ミエロイド系樹状細胞成熟刺激因子及び/又はレクチン結合物質の使用。

【国際公開番号】WO2005/023289
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513737(P2005−513737)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013283
【国際出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(503328506)株式会社インテレクチャル・プロパティ・コンサルティング (4)
【出願人】(303063366)
【Fターム(参考)】