説明

成分濃度測定装置及び成分濃度測定装置の制御方法

【課題】本発明は、温度依存性による測定精度の低下を防止し、被測定物の成分濃度を高精度に測定可能な成分濃度測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る成分濃度測定装置100は、異なる波長の2波の光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ電気的に強度変調する光変調手段110と、光変調手段110で変調された2波の光を合波する光合波手段120と、光合波手段で合波された光を被測定物199に出射する光出射手段140と、被測定物199の温度を測定する温度測定手段200と、光出射手段140からの光によって被測定物199から発生する光音響信号を検出し、温度測定手段200が測定する被測定物199の温度から被測定物199の温度変化を求め、温度変化に基づいて補正を行う音波検出手段150と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間、動物又は果実等の被測定物の非侵襲な成分濃度測定装置及びその成分濃度測定装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化が進み、成人病に対する対応が大きな課題になりつつある。血糖値などの検査においては血液の採取が必要なために患者にとって大きな負担となるので、血液を採取しない非侵襲な成分濃度測定装置が注目されている。現在までに開発された非侵襲な成分濃度測定装置としては、皮膚内に電磁波を照射し、測定対象とする血液成分、例えば、血糖値の場合はグルコース分子に吸収され、局所的に加熱して熱膨張を起こして生体内から発生する音波を観測する、光音響法が注目されている。
【0003】
しかし、グルコースと電磁波との相互作用は小さく、また生体に安全に照射し得る電磁波の強度には制限があり、生体の血糖値測定においては、十分な効果をあげるに至っていない。
【0004】
図7および図8は、従来例として、光音響法による従来の血液成分濃度測定装置の構成例を示す図である。図7は光パルスを電磁波として用いた第1の従来例である(例えば、非特許文献1参照。)。本例では血液成分として血糖、すなわちグルコースを測定対象としている。図7において、駆動回路604はパルス状の励起電流をパルス光源616に供給し、パルス光源616はサブマイクロ秒の持続時間を有する光パルスを発生し、発生した光パルスは被測定物610に照射される。光パルスは被測定物610の内部にパルス状の光音響信号と呼ばれる音波を発生させ、発生した音波は超音波検出器613により検出され、さらに音圧に比例した電気信号に変換される。
【0005】
変換された電気信号の波形は波形観測器620により観測される。この波形観測器620は上記励起電流に同期した信号によりトリガされ、変換された電気信号は波形観測器620の管面上の一定位置に表示され、変換された電気信号は積算及び平均して測定することができる。このようにして得られた電気信号の振幅を解析して、被測定物610の内部の血糖値、すなわちグルコースの量が測定される。図7に示す例の場合はサブマイクロ秒のパルス幅の光パルスを最大1kHzの繰り返しで発生し、1024個の光パルスを平均して、前記電気信号を測定しているが十分な精度が得られていない。
【0006】
そこで、より精度を高める目的で、連続的に強度変調した光源を用いる第2の従来例が開示されている。図8に第2の従来例の装置の構成を示す(例えば、特許文献1参照。)。本例も血糖を主な測定対象として、異なる波長の複数の光源を用いて、高精度化を試みている。説明の煩雑さを避けるために、図8により光源の数が2の場合の動作を説明する。図8において、異なる波長の光源、即ち、第1の光源601及び第2の光源605は、それぞれ駆動回路604及び駆動回路608により駆動され、連続光を出力する。
【0007】
第1の光源601及び第2の光源605が出力する光は、モータ618により駆動され一定回転数で回転するチョッパ板617により断続される。ここでチョッパ板617は不透明な材質により形成され、モータ618の軸を中心とする第1の光源601及び第2の光源605の光が通過する円周上に、互いに素な個数の開口部が形成されている。
【0008】
上記の構成により、第1の光源601及び第2の光源605の各々が出力する光は互いに素な変調周波数f及び変調周波数fで強度変調された後、合波部609により合波され、1の光束として被測定物610に照射される。
【0009】
被測定物610の内部には第1の光源601の光により周波数fの光音響信号が発生し、第2の光源605の光により周波数fの光音響信号が発生し、これらの光音響信号は、音響センサ619により検出され、音圧に比例した電気信号に変換され、その周波数スペクトルが、周波数解析器621により観測される。本例においては、複数の光源の波長は全てグルコースの吸収波長に設定されており、各波長に対応する光音響信号の強度は、血液中に含まれるグルコースの量に対応した電気信号として測定される。
【0010】
ここで、予め光音響信号の測定値の強度と別途採血した血液によりグルコースの含有量を測定した値との関係を記憶しておいて、前記光音響信号の測定値からグルコースの量を測定している。
【特許文献1】特開平10−189号公報
【非特許文献1】オウル大学(University of Oulu、Finland)学位論文「Pulsed photoacoustic techniques and glucose determination in human blood and tissue」(IBS 951−42−6690−0、http://herkules.oulu.fi/isbn9514266900/、2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の従来例においては以下のような課題がある。光音響法による成分濃度の測定では、断続的な光の出射によって被測定物の被出射部位に局所的な温度変化が生じる。被測定物に含まれる測定対象となる成分には温度依存性があるため、被測定物が発生する光音響信号にも温度依存性が生じる。光音響信号の温度依存性によって成分濃度測定装置の測定精度が著しく低下する問題がある。
【0012】
本発明は、温度依存性による測定精度の低下を防止し、被測定物の成分濃度を高精度に測定可能な成分濃度測定装置及びその成分濃度測定装置の制御方法を提供することを目的とする。
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明に係る成分濃度測定装置は、被測定物の温度変化を求め、その温度変化に基づいて補正を行うことを特徴とする。
【0014】
具体的には、本発明に係る成分濃度測定装置は、互いに異なる波長の2波の光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ電気的に強度変調する光変調手段と、前記光変調手段で変調された前記2波の光を合波する光合波手段と、前記光合波手段で合波された光を被測定物に出射する光出射手段と、前記被測定物の温度を測定する温度測定手段と、前記光出射手段からの光によって前記被測定物から発生する光音響信号を検出し、前記温度測定手段が測定する前記被測定物の温度から前記被測定物の温度変化を求め、前記温度変化に基づいて補正を行う音波検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
上記の成分濃度測定装置は、前記被測定物の局所的な前記温度変化を求め、前記温度変化に基づいて算術的な補正を行うことで、温度依存性による測定精度の低下を防止し、前記被測定物の成分濃度を高精度に測定することができる。
【0016】
本発明に係る成分濃度測定装置では、前記温度測定手段は、前記光出射手段からの光を透過させる窓、前記被測定物の温度を測定する温度測定器、及び、前記窓を保持し、前記温度測定器を搭載する窓枠を有し、前記窓枠が内部に固定され、前記窓及び前記温度測定器を収容する筐体をさらに備えることが好ましい。
【0017】
上記の成分濃度測定装置は、前記窓が前記被測定物への光の出射を妨げることなく、前記窓を前記被測定物に接触させることが可能となり、前記温度測定器が前記被測定物の温度をより正確に測定できる。
【0018】
本発明に係る成分濃度測定装置では、前記窓及び前記窓枠は、熱伝導率が230W/m・K以上の材料で形成されていることが好ましい。
【0019】
上記の成分濃度測定装置は、前記窓及び前記窓枠が前記被測定物の熱を伝えやすく、前記温度測定器が前記被測定物の温度をより正確に測定できる。
【0020】
本発明に係る成分濃度測定装置では、前記窓は、表面に、前記被測定物で反射又は散乱された光を反射する光反射膜が、前記光出射手段からの光の光路に交わらないように形成されていることが好ましい。
【0021】
上記の成分濃度測定装置は、前記被測定物で反射又は散乱された光が前記窓を透過して前記窓枠に吸収されて発熱する事態を低減でき、前記温度測定器が前記被測定物の温度をより正確に測定できる。
【0022】
本発明に係る成分濃度測定装置では、前記窓は、前記光出射手段からの光を透過する直線偏光板又は光アイソレータが、前記光出射手段からの光の光路に交わるように装着されていることが好ましい。
【0023】
上記の成分濃度測定装置は、前記被測定物で反射又は散乱された光が前記窓を透過して前記窓枠に吸収されて発熱する事態を低減でき、前記温度測定器が前記被測定物の温度をより正確に測定できる。
【0024】
本発明に係る成分濃度測定装置では、前記窓枠は、表面に、前記被測定物で反射又は散乱された光を吸収する吸光体が装着されていることが好ましい。
【0025】
上記の成分濃度測定装置は、前記被測定物で反射又は散乱された光が前記窓枠に吸収されて発熱する事態を低減でき、前記温度測定器が前記被測定物の温度をより正確に測定できる。
【0026】
本発明に係る成分濃度測定装置では、前記光出射手段からの光の光路に交わらないように前記窓の表面を覆い及び/又は前記窓枠の表面を覆う断熱材を備えることが好ましい。
【0027】
上記の成分濃度測定装置は、前記断熱材が前記窓及び/又は前記窓枠を伝わる熱の影響を低下させ、前記温度測定器が前記被測定物の温度をより正確に測定できる。
【0028】
上記の課題を解決するために、本発明に係る成分濃度測定装置の制御方法は、被測定物の温度変化を求め、その温度変化に基づいて補正を行うことを特徴とする。
【0029】
具体的には、本発明に係る成分濃度測定装置の制御方法は、光変調手段が互いに異なる波長の2波の光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ電気的に強度変調し、光合波手段が前記光変調手段で変調された前記2波の光を合波し、光出射手段が前記光合波手段で合波された光を被測定物に出射し、温度測定手段が前記被測定物の温度を測定し、音波検出手段が、前記光出射手段からの光によって前記被測定物から発生する光音響信号を検出し、前記温度測定手段で測定する前記被測定物の温度から前記被測定物の温度変化を求め、前記温度変化に基づいて補正を行うことを特徴とする。
【0030】
上記の成分濃度測定装置の制御方法は、前記被測定物の局所的な前記温度変化を求め、前記温度変化に基づいて算術的な補正を行うことで、温度依存性による測定精度の低下を防止し、前記被測定物の成分濃度を高精度に測定することができる。
【0031】
本発明に係る成分濃度測定装置の制御方法では、前記温度測定手段が前記被測定物の温度を測定している間、前記温度測定手段を前記被測定物に接触させていることが好ましい。
【0032】
上記の成分濃度測定装置は、前記温度測定手段を前記被測定物に接触させることで、前記被測定物の温度が前記温度測定手段に伝わりやすくなり、前記温度測定手段が前記被測定物の温度をより正確に測定できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、温度依存性による測定精度の低下を防止し、被測定物の成分濃度を高精度に測定可能な成分濃度測定装置及びその成分濃度測定装置の制御方法を提供することができる。
【0034】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。また、各実施形態に係る成分濃度測定装置において、電源、あるいは全体の動作を制御する制御部などの通常の技術により実現できる部分は図示せず、同一部材及び同一部位には同一符号を付した。
【0035】
図1に、本実施形態に係る成分濃度測定装置の概略図を示す。本実施形態に係る成分濃度測定装置100は、互いに異なる波長の2波の光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ電気的に強度変調する光変調手段110と、光変調手段110で変調された2波の光を合波する光合波手段120と、光合波手段120で合波された光を被測定物199に出射する光出射手段140と、被測定物199の温度を測定する温度測定手段200と、光出射手段140からの光によって被測定物199から発生する光音響信号を検出し、温度測定手段200が測定する被測定物199の温度から被測定物199の温度変化を求め、温度変化に基づいて補正を行う音波検出手段150と、を備えることを特徴とする。さらに、図1の光変調手段110は、2個の駆動回路111a,111b、2個の光源112a,112b、遅延調整器113及び発信器114を有する。図1の音波検出手段150は、音波検出器151、前置増幅器152、位相検波増幅器153、光音響信号出力端子154及び成分濃度算出部155を有する。図1の温度測定手段200は、窓210、温度測定器220及び温度信号出力端子230を有する。
【0036】
光源112としては、例えば、分布帰還型半導体レーザ(DFB−LD)がある。ここでは、光源112a,112bは、互いに波長が異なり、かつ、被測定物199の吸収波長となる光を出力することが好ましい。図1の成分濃度測定装置100では、光源112aの発振波長が1.38μmであり、光源112bの発振波長が1.61μmである。また、光源112は、ヒーター又はペルチェ素子で加熱又は冷却することにより出力する光の波長を変化できることが好ましい。光源112は、例えば、波長安定度が0.1nmであり、0.1℃単位で光源112の温度を安定化できる。
【0037】
例えば、光源112aに電力を供給する駆動回路111aが光源112aに接続され、光源112bに電力を供給する駆動回路111bが光源112bに接続される。駆動回路111は、例えば、500kHzの周波数で光源112が出力する光を直接変調する。また、発信器114は、任意の周波数、例えば、周波数が1kHz〜1MHzのパルス列を発生させ、これを駆動回路111a,111bに出力する。遅延調整器113は、例えば、0.1n秒単位の精度で遅延を付与でき、光源112a,112bを逆位相で駆動するために、発信器114が発生させたパルス列に周期の半分の遅延を付与するように調整する。
【0038】
光伝搬手段130aは、例えば、光源112aと光合波手段120の光入力端子(不図示)との間を接続する。また、光伝搬手段130bは、例えば、光源112bと光合波手段120の光入力端子との間を接続する。光合波手段120としては、例えば、光カプラがある。また、光伝搬手段130としては、例えば、光ファイバ又は光導波路がある。
【0039】
光出射手段140は、例えば、光合波手段120の光出力端子(不図示)に接続される。ここで、光出射手段140は、先端に出射口141が装着されることが好ましい。出射口141としては、例えば、光ファイバコリメータ、材料がBK7(登録商標)、SFL−11(登録商標)、石英又はサファイアの全反射プリズム、或いは、フェルールがある。
【0040】
被測定物199は、光出射手段140から光が光熱変換され、熱が発生する。被測定物199としては、人体又は人体の一部、例えば、指がある。被測定物199が指であれば、成分濃度測定装置100は、血液中のグルコースの濃度を測定できる。また、被測定物199としては、例えば、実験用ラット、みかん等の果実、或いは、人体又は実験用ラットから採取した採取物もある。被測定物199が果実であれば、成分濃度測定装置100は、果実の糖度、すなわち、果実の甘さを測定できる。
【0041】
被測定物199で発生する熱は、例えば、窓210を通じて温度測定器220で測定される。温度測定器220は、例えば、測定した被測定物199の温度を温度信号出力端子230に出力する。また、温度信号出力端子230には、例えば、成分濃度算出部155が接続される。成分濃度算出部155は、例えば、温度信号出力端子230が出力する温度信号に基づいて被測定物199の温度変化を求め、温度変化に基づいて補正を行う。この補正値S’は、数1で示される。
【0042】
【数1】

ここで、sは光音響信号の強度、χは2波長の光の吸光度差温度係数、及び、ΔTは被測定物199の温度変化である。
【0043】
光出射手段140から光を出射された被測定物199は、光音響効果によって光音響信号を発生する。音波検出器151は、例えば、被測定物199が発生する光音響信号を検出して電気信号に変換する。ここで、音波検出器151は、検出感度が最高となる共振周波数を、光変調手段110の変調周波数に合せた周波数、例えば、500kHzに合せることが好ましい。音波検出器151としては、例えば、超音波センサがある。前置増幅器152は、例えば、音波検出器151からの電気信号を増幅して出力する。位相検波増幅器153は、例えば、光変調手段110の変調周波数と同一周波数成分となる電気信号を抽出し、光音響信号出力端子154に出力する。光音響信号出力端子154には、例えば、成分濃度算出部155が接続される。成分濃度算出部155は、例えば、光音響信号出力端子154が出力する電気信号に基づいて被測定物199の成分濃度を算出する。被測定物199の成分濃度Mは、数2で示される。
【0044】
【数2】

ここで、α(W)は背景(主に水)の吸光度、α(g)は測定対象となる成分(例えば、血液)の吸光度、sは1波長の光音響信号の強度、及び、s’は数1の補正値である。
【0045】
成分濃度測定装置100は、以下のように制御することができる。本実施形態に係る成分濃度測定装置の制御方法は、光変調手段110が互いに異なる波長の2波の光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ電気的に強度変調し、光合波手段120が光変調手段110で変調された2波の光を合波し、光出射手段140が光合波手段120で合波された光を被測定物199に出射し、温度測定手段200が被測定物199の温度を測定し、音波検出手段150が、光出射手段140からの光によって被測定物199から発生する光音響信号を検出し、温度測定手段200で測定する被測定物199の温度から被測定物199の温度変化を求め、温度変化に基づいて補正を行う。以上のように、本実施形態に係る成分濃度測定装置及び成分濃度測定装置の制御方法は、被測定物199の局所的な温度変化を求め、温度変化に基づいて算術的な補正を行うことで、温度依存性による測定精度の低下を防止し、被測定物199の成分濃度を高精度に測定することができる。
【0046】
ここで、本実施形態に係る成分濃度測定装置の制御方法では、温度測定手段200が被測定物199の温度を測定している間、温度測定手段200を被測定物199に接触させていることが好ましい。図1では、温度測定手段200の窓210を被測定物199に接触させている。成分濃度測定装置100は、温度測定手段200を被測定物199に接触させることで、被測定物199の温度が温度測定手段200に伝わりやすくなり、温度測定手段200が被測定物199の温度をより正確に測定できる。
【0047】
以下、本実施形態に係る成分濃度測定装置をより詳細に説明する。図2に、筐体を備える形態の成分濃度測定装置の縦断面図を示した。図2に示すように、本実施形態に係る成分濃度測定装置では、温度測定手段は、光出射手段140からの光を透過させる窓210、被測定物(不図示)の温度を測定する温度測定器220、及び、窓210を保持し、温度測定器220を搭載する窓枠240を有し、窓枠240が内部に固定され、窓210及び温度測定器220を収容する筐体300をさらに備えることが好ましい。筐体300は、例えば、ネジ310及びバネ320を有する挟み込み機構300c及び筐体本体300a,300bからなるプラスチック製のクリップ型筐体である。筐体300は、例えば、筐体本体300aの側に音波検出器151を収容し、筐体本体300bの側に光出射手段140、窓210及び温度測定器220を収容する。ネジ310を締めることで、筐体本体300a,300bで被測定物を挟み込むことができる。
【0048】
温度測定器220は、窓210及び被測定物の近くに配置することが好ましい。温度測定器220としては、例えば、白金抵抗体、サーミスタ等の温度センサがある。また、コード220aは、例えば、温度測定器220に接続され、温度測定器220が測定する温度信号を伝える。光出射手段140は、例えば、先端に、出射口141としての直角プリズムが装着される。また、コード151aは、例えば、音波検出器151に接続され、音波検出器151が検出する光音響信号を伝える。
【0049】
成分濃度測定装置100は、窓210が被測定物への光の出射を妨げることなく、窓210を被測定物に接触させることが可能となり、温度測定器220が被測定物の温度をより正確に測定できる。このとき、筐体300から温度測定器220をわずかに隆起させることが好ましい。被測定物からの熱伝導を良くでき、被測定物を挟み込みやすく、被測定物を窓210により強く押し当てることができる。
【0050】
本実施形態に係る成分濃度測定装置では、窓210及び窓枠240は、熱伝導率が230W/m・K以上の材料で形成されていることが好ましい。このような窓210の材料としては、例えば、サファイアがある。また、窓枠240の材料としては、アルミ、銅、金又は銀がある。窓210及び窓枠240として用いる材料の中で熱伝導率が最も高いのは銀であり、銀の熱伝導率は420W/m・Kである。また、被測定物が接触してから窓210の温度が一定になるまでの時間を短縮するため、窓枠240は、体積を小さく、例えば、3cm以下にすることが好ましい。成分濃度測定装置100は、窓210及び窓枠240が被測定物の熱を伝えやすく、温度測定器220が被測定物の温度をより正確に測定できる。
【0051】
被測定物で反射又は散乱された光が窓210を透過すると、窓枠240に吸収されて発熱することがある。この熱によって、温度測定器220が被測定物の温度を正確に測定できなくなる場合がある。本実施形態に係る成分濃度測定装置では、窓210は、光出射手段140からの光を透過する直線偏光板250が、光出射手段140からの光の光路に交わるように装着されていることが好ましい。図2では、出射口141と窓210との間に位置するように直線偏光板250を装着している。また、直線偏光板250の代わりに光アイソレータ(不図示)を装着しても良く、消光比が最も優れるファラデー回転子を用いた光アイソレータを装着することが好ましい。直線偏光板250が被測定物で反射又は散乱された光を透過せず、成分濃度測定装置100は、被測定物で反射又は散乱された光が窓210を透過して窓枠240に吸収されて発熱する事態を低減でき、温度測定器220が被測定物の温度をより正確に測定できる。
【0052】
本実施形態に係る成分濃度測定装置では、窓枠240の表面を覆う断熱材270を備えることが好ましい。断熱材270としては、例えば、筐体300及び外気からの熱を断熱する特性を有するゴム、繊維又は発泡スチロールがある。成分濃度測定装置100は、断熱材270が窓枠240を伝わる熱の影響を低下、例えば、外気或いは被測定物で反射又は散乱された光が窓枠240に吸収されて発生した熱を断熱でき、温度測定器220が被測定物の温度をより正確に測定できる。図2は、窓枠240の表面を断熱材で覆った場合であるが、光出射手段140からの光の光路に交わらないように窓210の表面を断熱材270で覆っても良い。また、窓枠240の表面を断熱材270で覆い、かつ、光出射手段140からの光の光路に交わらないように窓210の表面を断熱材270で覆っても良い(不図示)。
【0053】
図3に、窓枠の縦断面図を示した。本実施形態に係る成分濃度測定装置では、窓210は、表面に、被測定物で反射又は散乱された光を反射する光反射膜280が、光出射手段140からの光の光路に交わらないように形成されていることが好ましい。図3では、窓210の下面に光反射膜280が形成されているが、窓210の上面に光反射膜280を形成しても良い。光反射膜280は、例えば、アルミ、銅、銀又は金等の金属を蒸着して形成できる。光反射膜280が被測定物で反射又は散乱された光をさらに反射するので、成分濃度測定装置100は、被測定物で反射又は散乱された光が窓210を透過して窓枠240に吸収されて発熱する事態を低減でき、温度測定器220が被測定物の温度をより正確に測定できる。
【0054】
図4に、窓枠の上面図を示した。例えば、溝241を窓枠240に設け、温度測定器220は、熱伝導性の高い接着剤で溝241に接着される。図4では窓210の形状が円盤状であるが、特に限定されない。
【0055】
図5に、吸光体を装着した形態の窓枠の縦断面図を示した。また、図6に、吸光体を装着した形態の窓枠の上面図を示した。本実施形態に係る成分濃度測定装置100では、窓枠240は、表面に、被測定物で反射又は散乱された光を吸収する吸光体290が装着されていることが好ましい。吸光体290は、例えば、光出射部141の下部に位置するように、窓枠240の表面に装着される。吸光体290としては、例えば、黒色ゴム又は黒色繊維がある。また、吸光体290が黒色ゴムの場合は、吸光による熱を窓枠240に伝えにくくするため、低熱伝導率を有する発泡ゴムを用いることが好ましい。さらに、窓枠240の表面と吸光体290との間に断熱材を挟んでも良い(不図示)。吸光体290が被測定物で反射又は散乱された光を吸収するので、成分濃度測定装置100は、被測定物で反射又は散乱された光が窓枠240に吸収されて発熱する事態を低減でき、温度測定器220が被測定物の温度をより正確に測定できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る成分濃度測定装置は、日常の健康管理や美容上のチェックに利用することができる。また、人間ばかりでなく、動物についても健康管理に利用することができる。また、本発明に係る成分濃度測定装置は、人間や動物だけではなく、液体中の成分濃度を測定する分野、例えば果実の糖度測定にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】成分濃度測定装置の概略図である。
【図2】筐体を備える形態の成分濃度測定装置の縦断面図である。
【図3】窓枠の縦断面図である。
【図4】窓枠の上面図である。
【図5】吸光体を装着した形態の窓枠の縦断面図である。
【図6】吸光体を装着した形態の窓枠の上面図である。
【図7】従来の光音響法による従来の血液成分濃度測定装置の構成例を示す図である。
【図8】従来の光音響法による従来の血液成分濃度測定装置の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
100:成分濃度測定装置
110:光変調手段
111,111a,111b:駆動回路
112,112a,112b:光源
113:遅延調整器
114:発振器
120:光合波手段
130,130a,130b:光伝搬手段
140:光出射手段
141:出射口
150:音波検出手段
151:音波検出器
151a、220a:コード
152:前置増幅器
153:位相検波増幅器
154:光音響信号出力端子
155:成分濃度算出部
199:被測定物
200:温度測定手段
210:窓
220:温度測定器
230:温度信号出力端子
240:窓枠
241:溝
250:直線偏光板
270:断熱材
280:光反射膜
290:吸光体
300:筐体
300a、300b:筐体本体
300c:挟み込み機構
310:ネジ
320:バネ
601:第1の光源
604:駆動回路
605:第2の光源
608:駆動回路
609:合波部
610:被測定物
613:超音波検出器
616:パルス光源
617:チョッパ板
618:モータ
619:音響センサ
620:波形観測器
621:周波数解析器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる波長の2波の光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ電気的に強度変調する光変調手段と、
前記光変調手段で変調された前記2波の光を合波する光合波手段と、
前記光合波手段で合波された光を被測定物に出射する光出射手段と、
前記被測定物の温度を測定する温度測定手段と、
前記光出射手段からの光によって前記被測定物から発生する光音響信号を検出し、前記温度測定手段が測定する前記被測定物の温度から前記被測定物の温度変化を求め、前記温度変化に基づいて補正を行う音波検出手段と、を備える成分濃度測定装置。
【請求項2】
前記温度測定手段は、前記光出射手段からの光を透過させる窓、前記被測定物の温度を測定する温度測定器、及び、前記窓を保持し、前記温度測定器を搭載する窓枠を有し、
前記窓枠が内部に固定され、前記窓及び前記温度測定器を収容する筐体をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の成分濃度測定装置。
【請求項3】
前記窓及び前記窓枠は、熱伝導率が230W/m・K以上の材料で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の成分濃度測定装置。
【請求項4】
前記窓は、表面に、前記被測定物で反射又は散乱された光を反射する光反射膜が、前記光出射手段からの光の光路に交わらないように形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の成分濃度測定装置。
【請求項5】
前記窓は、前記光出射手段からの光を透過する直線偏光板又は光アイソレータが、前記光出射手段からの光の光路に交わるように装着されていることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の成分濃度測定装置。
【請求項6】
前記窓枠は、表面に、前記被測定物で反射又は散乱された光を吸収する吸光体が装着されていることを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の成分濃度測定装置。
【請求項7】
前記光出射手段からの光の光路に交わらないように前記窓の表面を覆い及び/又は前記窓枠の表面を覆う断熱材を備えることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の成分濃度測定装置。
【請求項8】
光変調手段が互いに異なる波長の2波の光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ電気的に強度変調し、
光合波手段が前記光変調手段で変調された前記2波の光を合波し、
光出射手段が前記光合波手段で合波された光を被測定物に出射し、
温度測定手段が前記被測定物の温度を測定し、
音波検出手段が、前記光出射手段からの光によって前記被測定物から発生する光音響信号を検出し、前記温度測定手段で測定する前記被測定物の温度から前記被測定物の温度変化を求め、前記温度変化に基づいて補正を行う成分濃度測定装置の制御方法。
【請求項9】
前記温度測定手段が前記被測定物の温度を測定している間、前記温度測定手段を前記被測定物に接触させていることを特徴とする請求項8に記載の成分濃度測定装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−125542(P2008−125542A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310242(P2006−310242)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】