説明

成形ロール、薄膜形成装置および薄膜形成方法

【課題】簡単な構造によりクラウン調整可能な成形ロール、薄膜形成装置および薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】本発明の成形ロールは、外セル1は外セル1の両端部に中空構造の中空軸6が設けられ、中空軸6は成形ロール20の両側に配置された軸受36により回転可能に支持され、少なくとも、成形ロール20を駆動する駆動手段が接続された駆動側の軸受36は軸受箱39に収納されている。内ロール2は偏心半径R2の2つのボス部44を有する内ロール軸4の各ボス部44で回転可能に支持され、内ロール軸4の両端は、偏心半径R1の穴12aが形成されたクラウン調整カム12の穴12aに挿通している。各クラウン調整カム12は、中空軸6内の、軸受36と同心の軸受38により回転可能に支持されている。各クラウン調整カム12の回転角度を変更することで、内ロール2の軸心位置が半径方向に調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材の成形加工等に用いられる成形ロールに関し、特にクラウン調整可能な成形ロールに関する。また、当該成形ロールを有する薄膜形成装置および当該薄膜形成装置を用いた薄膜形成方法とに関する。
【0002】
なお、本発明に関して、「線圧」とは1対のロールを押し当てた時の長さ1(cm)あたりの力(N)をいい、ニップ圧ともいう。また本発明に関して、「クラウン」とは、1対のロールを押し当てるとロールがたわみ、ロール幅の中心の線圧が小さくなるので、ロール外径をあらかじめ中央を端部より太くすることをいう。クラウン加工することにより、荷重をかけたときに幅方向に均一な線圧が得られる。ロールの中央と端部の直径をD1,D2とするとクラウンC=D1−D2(直径の差)となる。従って、半径分のクラウンはC/2となる。
【背景技術】
【0003】
従来、長尺のシート状材料を1対のロールで加圧成形するロールとしては、油圧均等圧を利用したロールや多数の油圧ピストンを利用したクラウン調整ロールなどが開示されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
また、樹脂フィルム・シート製造用のロールとしては、特許文献3に、弾性変形可能な薄い金属薄膜からなる外円筒と、外円筒内部に弾性変形及び回転可能な弾性体ロールを備えた成形用ロールが開示されている。また、特許文献4には薄肉外筒厚さtをロール半径の0.03以下にした2重管ロールが開示されている。
【0005】
また、特許文献5にはロールクラウン量を偏心カムで調整してゴム被覆ロールの曲がりを調整し、搬送シートの蛇行やシワの発生を防止するロールが開示されている。
【特許文献1】特公昭58−46599号公報
【特許文献2】特開平6−65889号公報
【特許文献3】特許3422798号公報
【特許文献4】特開平11−235747号公報
【特許文献5】特開平2−255211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示されたロールの場合、均一ニップを得ることができるが、油圧装置が必要で装置が大型になりコストが高価な設備になる。
【0007】
また、特許文献3に開示されたロールの場合、外筒を1mm程度の薄いセルとして相手成形ロールに柔らかく巻きつくような成形ができ、薄肉シートが成形できるが、図15、16において具体的な外セルの駆動手段がない。また内ロールで外セルをバックアップする図16において線圧を大きくすると外セルの変形が大きくなり寿命が短くなる。あらかじめ内ロールを外セルに押しつけておくとゴムや外セルが部分的に永久変形して精密成形シートを形成することができない。
【0008】
特許文献4に開示されたロールの場合、薄肉精密シート成形用として、2重管ロールで外筒を薄肉厚さにした成形ロールであるが線圧(ニップ圧)を変えた場合、幅方向に均等な圧力が得られない問題点がある。また、線圧を2倍にすると外セルの応力は幅方向で異なるが平均して2倍になり、またロール端部分では6倍にもなり、耐久性が悪くなるので線圧の調整幅が狭い。従って成形するシートの厚さ、材料の変化に応じてニップ圧を変更する要求に適応できない。また、線圧荷重を外筒の端部で負担するので線圧を大きくできない。また、クラウン調整もできない。
【0009】
特許文献5に開示されたロールの場合、ゴムの熱伝導率が悪く、ロール内部の熱が伝達できないのでシート材料をゴムロール側から冷却・加熱できない。またセルの駆動手段がない。
【0010】
そこで本発明は、簡単な構造によりクラウン調整可能な成形ロール、薄膜形成装置および薄膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明の成形ロールは、外セルと、外セル内に設けられた内ロールと、内ロールを被覆するゴムとを有する二重管構造の成形ロールにおいて、外セルは外セルの両端部に中空構造の中空軸が設けられており、中空軸は成形ロールの両側に配置された軸受によって回転可能に支持されており、少なくとも、成形ロールを駆動する駆動手段が接続された駆動側の軸受は、軸受箱に収納されており、内ロールは偏心半径R2の2つのボス部を有する内ロール軸の各ボス部で回転可能に支持されており、内ロール軸の両端は、偏心半径R1の穴が形成されたクラウン調整カムの穴に挿通しており、各クラウン調整カムは、中空軸内に設けられた、軸受と同心の軸受により回転可能に支持されており、各クラウン調整カムの回転角度を変更することで、内ロールの軸心位置が半径方向に調整されることを特徴とする。
【0012】
上記の通りの本発明の成形ロールは、クラウン調整カムを内ロール軸の両端に備えており、これらクラウン調整カムによって内ロールの軸心位置を半径方向に調整することでクラウン量を調整することができる。このため、クラウン調整のための油圧装置を外セル内に設ける必要がなく、簡単な構造でクラウン量の調整が可能となる。また、外セルの幅方向に均一な線圧を得るために、内ロール軸の両端のクラウン調整カムを個別に調整することも可能である。
【0013】
また、本発明の成形ロールのクラウン調整カムは、穴の半径方向に延びたカムレバーと、カムレバーの先端部に、内ロール軸の軸方向に摺動可能な固定ピンとを有し、軸受箱には、固定ピンが差し込まれる複数の穴が内ロール軸の周方向に形成されており、カムレバーを回転させることでクラウン調整カムの回転角度が変更され、固定ピンを穴に差し込むことでクラウン調整カムの回転角度が位置決めされるものであってもよい。
【0014】
あるいは本発明の成形ロールのクラウン調整カムは、その外周にはクラウン調整ギアが設けられており、クラウン調整ギアをモータで回転駆動することでクラウン調整カムの回転角度が変更されるものであってもよい。
【0015】
また、本発明の成形ロールの内ロール軸は、内ロール軸自体の回転を阻止する回転固定装置を有するものであってもよい。
【0016】
また、本発明の成形ロールの内ロール軸には温調液が流れる流路と、温調液が流出入する穴とが形成されているものであってもよい。本構成の場合、外セルの内部は温調液が巡回して満たされるので外セルの温度を一定に保つことができる。よって、内ロールに被覆されたゴムの熱伝導率に影響されることなく、シート材料を冷却・加熱することができる。
【0017】
また、本発明の成形ロールの軸受は、成形ロールの両側に配置された軸受箱に収納されており、駆動側とは反対側となる操作側に設けられた軸受は、軸受と同心かつ軸芯方向で成形ロール側にずらした位置であるとともにクラウン調整カムの外周および中空軸の内周に接する位置に配置されているものであってもよい。
【0018】
本発明の薄膜形成装置は、Tダイから押し出される溶融樹脂を複数の成形ロールで狭圧することで薄膜を形成する薄膜形成装置において、本発明の成形ロールと、成形ロールに対向して固定配置された成形ロールとを有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の薄膜形成装置は、成形ロールを回転支持する各軸受箱を、成形ロールの方向に摺動させる押付け調整装置を有するものであってもよい。
【0020】
本発明の薄膜形成装置は、また、中空軸を直接駆動するダイレクトドライブモータを有するものであってもよい。この構成の場合、外セルを駆動できるので、ニップロール2本共に駆動するのが条件となる厚いシートの成形に好適であり、また、樹脂成形シートの厚さ方向にせん断ひずみを与えずに成形でき、光学用途のシートが成形できる。
【0021】
本発明の薄膜形成方法は、Tダイから押し出される溶融樹脂を複数の成形ロールで狭圧することで薄膜を形成する薄膜形成方法において、本発明の薄膜形成装置の成形ロールのクラウンおよび線圧分布を各クラウン調整カムの回転角度を変更することで調整する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の成形ロールはクラウン調整カムを内ロール軸の両端に備えており、これらクラウン調整カムによって内ロールの軸心位置を半径方向に調整することでクラウン量を調整することができる。このため、簡単な構造でクラウン量の調整が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1に本実施形態の成形ロールの適用例であるフィルム成形機の構成を示す。また、図2に図1に示す成形ロール20のA−A線における断面図を、図3にクラウン調整用の穴の配置を示す図2におけるBB方向の矢視図を、それぞれ示す。
【0024】
本実施形態のフィルム成形機は、Tダイ24と、本発明の特徴を備えた成形ロール20と、成形ロール21、22とを有する。各成形ロール20、21、22は並列配置されている。
【0025】
Tダイ24は押出機(不図示)からの樹脂材料をシート状に押し出し、1対の成形ロール21、20のニップ隙間に導く。シート25としては0.05mmから3mm程度までの透明クリアシートでPC(ポリカーボネイト)、PMMA(ポロメタクリル酸メチル)樹脂材料が例として挙げられる。成形ロール21は固定設置され、その他の成形ロールは押付け装置で水平方向に移動できる。また、成形ロール21、20は通常同速度で回り、ロール幅に均一の圧力で一定厚さに成形する。シート25は成形ロール21側に巻きつけて、成形ロール22でニップ成形した後、下流に流して冷却した後、巻き取りまたはシート切断してシートを製造する。
【0026】
成形ロール20の主要仕様の一例を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
本実施形態の成形ロール20は、DD(ダイレクトドライブ)モータ27で駆動される外セル1と、外セル1内に二重管構造で設けられた高剛性の内ロール2とを有する。
【0029】
外セル1は、その両端にボルト43で固定された中空軸6を有し、これら中空軸6は、軸受箱39に設けた軸受36により回転可能に支持されている。サポート18により軸受箱39に保持されているDDモータ27は、その中空穴45内に挿通された中空軸6を直接回転駆動する。DDモータは軸受36に支持されているのでロールと共に相手ロール21方向へスライド移動できユニバーサルジョイントなどの駆動軸が不要であり、また、減速機も不要である。DDモータ27は市販のものを利用可能である。市販のDDモータの軸の穴直径が小さい場合はクラウン調整カム12の軸57の部分に中空軸6の穴及び外直径を小さくしてDDモータを設置する。
【0030】
外セル1は図2に示すように駆動側は外フランジ式を採用し、操作側は内フランジ式を採用している。駆動側はフランジが外セル1に突出していないので、内ロール2を抜きやすい構造となっている。また、外セル1は、表面にキズ、ヘコミが生じた場合は外セル1のみ交換できる。外セル1は操作側(DDドライブ27が設けられている駆動側とは反対側)に抜き取り、交換する。外セル1のセル厚さはシートが薄い場合(例えば0.5mm以下)は柔軟性があったほうがよいので薄く造り(0.2〜4mm程度)、厚いシートを成形する場合は線圧も大きくなるのでセル厚さは大きくするのが好ましい。
【0031】
内ロール2は、その外周はゴム3で被覆され、図4に示すようにゴム表面は通常、内ロール2の曲がり分のクラウンが設けられる。ゴムは柔らかいので鉄などの金属より大きくたわみ、ニップ部のシートをロール幅にわたって均一な線圧分布にできる。また線圧は外セル1を介して与えるので外セル1が薄い場合はより均一な線圧分布にできる。内ロール2のタワミは線圧の大きさに応じて大きくなるが、線圧が大きい場合はゴム3にクラウンをつけてもよい。また線圧が1000N/cmと大きい場合はゴム強度を増し、外セル1を厚くする。
【0032】
また、内ロール2は荷重を支えるべく高剛性の構造を有しており、内ロール2が高剛性であるため、外セル1は上述したように一般的なロールより薄くすることが可能である。
【0033】
また軸受け36の軸受箱39は、レール41上をスライダ40でスライドさせることができ(図4参照)、成形ロール21方向に前後進移動できる。移動は押付け装置26によって行われ、成形ロール20、21間のシートにニップ(線圧荷重)を与えることができる。
【0034】
外セル1内部に配置された内ロール2は内ロール軸4に対して回転可能に軸支されている。内ロール2の両端内部には、外セル1中心から偏心した、かつ内ロール軸4を中心とした2個の軸受け37が嵌め込まれており、内ロール2はフリー回転可能である。
【0035】
内ロール軸4は、偏心したボス部44を2つ有しており、これらボス部44に内ロール2の各軸受け37が取り付けられている。内ロール軸4とボス部44の偏心量はR2である。
【0036】
内ロール軸4の両端にはクラウン調整カム12が各々設けられている。すわなち、クラウン調整カム12には偏心した穴12aが形成されており、この穴12aに内ロール軸4が嵌合している。クラウン調整カム12は、中空軸6内に嵌め込まれた軸受36によって軸支されている。クラウン調整カム12の偏心量はR1であり、クラウン調整カム12を回すことで内ロール軸4をわずかにロール半径方向に移動させる機能がある。クラウン調整カム12には半径方向に伸びたカムレバー13が溶接されている。カムレバー13の先端には固定ピン14が軸方向にスライド可能に設けられている。固定ピン14は、図3に示すように、軸受箱39の、周方向に配置された穴15に嵌め込まれることでクラウン調整カム12を所定の回転位置で固定し位置決めする。穴15は円周の上止点と下止点を結ぶ片側に10箇所程度設けられている。
【0037】
クラウン調整カム12による偏心量の変更は、カムレバー13を回転させることで行うが、まず、固定ピン14を穴15から抜いて後述するように目盛り56で偏心量がわかるので目盛り56を参照しつつカムレバー13を回転させ目的の穴15に固定ピンをセットする。なお、カムレバー13の操作は運転停止時に手動で行い、摩擦が大きい場合はテコのレバー治具を利用する。
【0038】
なお、図2に示すように、駆動側のクラウン調整カム12には軸57がボルト留めされており、この軸57からカムレバー13が半径方向に延び、その先端に固定ピン14がスライド可能に設けられている。クラウン調整カム12と内ロール軸4とは偏心調整のために回転するので、給脂、あるいはドライタイプのすべりブシュを設けて滑らかに回転できるようにしている。なお、内ロール軸4の両側に設けられたクラウン調整カム12のカム調整量は、基本的には両側とも同じとするが、個々に異なった調整量とすることも可能である。
【0039】
また内ロール軸4は操作側の端部には半径方向に延びたレバー形状の回転固定装置11が取り付けられている。回転固定装置11の先端には固定ピン10が軸方向にスライド可能に設けられている。この回転固定装置11は駆動側には設けられていない。図3に示すように、回転固定装置11の固定ピン14が、軸受箱39に形成された長穴23に嵌め込まれることで内ロール軸4が回転しないように固定される。なお、長穴23はニップ方向に延びて形成されているので、内ロール軸4は長穴23に規制された範囲内でニップ方向に移動可能である。なお、後述するように内ロール軸4はわずかであるがニップ方向に垂直な方向にも移動する(図5に示すニップポイントのずれ)。
【0040】
内ロール軸4はクラウン調整カム12外周に設けた軸受38に支えられ、軸受38と軸受36とは重ねて配置されている。内ロール軸4の軸受38は自動調心式の軸受とし、左右の偏心量が変化してもモーメントが生じない構造とする。
【0041】
内ロール軸4の内部には操作側から出入りできる2系列の流路9a、9bが形成されており、それぞれ操作側と駆動側まで外セル1内部に貫通している。また成形ロール20を冷却または加熱する温調液16は外部に設けた温調装置に接続されており、温度調整される。温調液16は操作側の内ロール軸4の流路9aから流入し、駆動側軸の穴をとおり、外セル1内表面に接触しながら内ロール2外側を流れ、操作側の流路9bから流出する。従って、外セル1の内部は温調液16が巡回して満たされて、外セル1の温度を一定に保つことができる。ロール内部には温調液16があるため軸受への流入や、外部への漏れを防ぐシール8a、8b、8cが設けられている。また各軸受36、37、38には外部から給脂できる給脂穴を設けている。また内ロール2内部には空気抜き穴59を内ロール軸4に設けてシール8bが破損した場合に温調液が外部に漏れるようにしている。また、空気抜き穴59は、ロール温度の変化に伴う内部空気圧の変動を避けるための空気の出入りをさせる穴でもある。このような構造とすることでベアリング損傷事故を未然に防止し、感知できる。
【0042】
次に、クラウン調整カム12による偏心量の調整について説明する。
【0043】
図4は、各部の偏心量を説明するための図であり、図5はさらに詳細に各部の偏心量を説明するための図である。図4は、ロールを軸方向に見た断面図であり、各軸やロール、カムの位置関係を示している。外セル1の中心O1は、軸受36、38、クラウン調整カム12の各中心と一致する。
【0044】
図4は内ロール2が外セル1の内面に接する位置で、外セル1への内ロール2のバックアップ(線圧荷重負担)が開始する状態である。この位置から内ロール2をさらに外セル1側に近づければバックアップが大きくなり、逆に遠ざけるとバックアップがなくなる。この位置は図3で説明すればカムレバー13がF0(クラウンゼロポイント)の位置である。カムレバー13をさらにF1、F2へと回せば、クラウン調整カム12が回り偏心量Eが大きくなり、クラウンが増す。カムレバー13をF6(最大クラウンポイント)にすると、偏心量Eが最大になり、最大クラウンになる。逆にカムレバー13を−F3(休止ポイント)にすると、偏心量Eが最小になり、内ロール2が外セル1内面から離れ、休止状態になる。休止状態では内ロール2に荷重がかからないのでゴム3の永久変形が防止できる。ロール両側の軸受箱39の穴15周りには偏心量を示す目盛り56を刻んでいる。これによって外部から偏心量が判別でき所定の偏心量に調整できる。
【0045】
次に、図5を用いて偏心量に関してさらに詳細に説明する。
【0046】
クラウン調整カム12を回すと内ロール軸4も連れ回ろうとするが、内ロール軸4は回転固定装置11の固定ピン10が軸受箱39の長穴23に入っているので内ロール軸4自体は回転しない。しかし、内ロール軸4の中心Pはクラウン調整カム12の偏心半径R1で示される円の円周上を移動する。これに伴い固定ピン10は長穴23内を直線的に移動する。
【0047】
クラウン調整カム12の回転角度を角度αとすると偏心量E=R2+R1cosαで表される。なお、角度αは最大クラウン位置で0となる。
【0048】
内ロール軸4は上述したようにその中心Pが偏心半径R1で示される円の円周上を移動するため、内ロール軸4の中心Pと固定ピン10の中心とを結ぶ直線と、ニップ方向との間に微小角度θを生じる。しかしながら、この微小角度θは小さく、ニップ方向と交差する方向へのニップポイントのずれδは無視できる。表1の形状では、θ=0.6°、ニップポイントのずれδは3.3mm程度となり、いずれもその値は小さい。
【0049】
外セル1はクラウン付きセルでもよいし、通常の円筒型セルでもよい。内ロール2のゴム層のバネ常数はゴム硬度、耐強度および厚さに基づき計算し、決定する。
【0050】
ロール押付け装置26は軸受箱39をニップ方向に移動させる装置であり、ロール押付け装置26により軸受箱39のスライダ40がレール41に沿って移動する。ロール押付け装置26により相手ロール21にニップ荷重を加えたり、後退してロール20を開放移動することができる。
【0051】
以上のようなクラウン調整機能を備えた本実施形態の成形ロールは、薄肉クリアシートの成形に好適である。
【0052】
シート厚さが2mm程度と厚い場合は線圧を大きくしても残留応力は少ない。一方、シートが薄いと厚さムラ、線圧ムラで残留応力が残りやすく、シート厚が0.5mm以下になるとシートの厚さムラによりロールプレスできない部分が生じ易い。この部分は鏡面にならないのでロールの一方にフレキシブルな追従性があったほうがよい。
【0053】
本実施形態の成形ロール20はゴムロールの弾力性を利用して線圧を10倍以上変化させてもほぼ均一な線圧が得られ(図8の(a)線、(d)線参照)、線圧を大きくすることでシート厚さムラに対応できる。また、クラウン調整カム12でシート幅方向の線圧分布を調整でき、薄い部分を重点的に押圧でき、シート不良が減少できる。また、外セル1厚さを薄くすれば外セル表面の柔軟性が増し、相手ロール21の変形やシート材料の厚みムラに追従し易くなり、冷却の早い薄いシートでもムラ無く押圧成形できる。
【0054】
また、本実施形態の成形ロール20は、低い線圧で成形できるのでシートに過大な残留応力を与えることなく成形でき、液晶用途などで問題になるシート屈折率、レタデーション等の性質をムラなく均一に成形でき、光学用途のシートが成形できる。
(実施例1)
図6に内ロール軸4を最大偏心状態にして過度なクラウンを外セル1に与えた変形モデル1を示す。
【0055】
カムレバー13は固定ピン14をF6の位置の穴15に差し込んで位置決めしている。表1でR1=2mmとしたのでクラウン半径分は2mmとなり、外セル1は成形ロール21側では内ロール2と競り合い凸形に変形する。内ロール軸4はロール内部で凹形に曲がっている。表1での実際の運転ではクラウン半径分は0.5mm程度でよく、残りの1.5mmは余裕値である。
【0056】
図7に休止時の変形モデル2を示す。
【0057】
カムレバー13は固定ピン14を−F3の位置の穴15に差し込んで位置決めしている。穴15はF0がクラウンゼロポイントなので、−F3では内ロール2と外セル1間にスキマ2mmが生じる。ロール装置を長時間休止する場合はカムレバー13をF0から−F3にセットする。
【0058】
次に、本発明の成形ロールにおいてクラウン調整した場合の種々のニップ分布を図8および図9に示す。
に調整できる。
・図8、均一ニップ(a)
(a)は設定した線圧で内ロール2がフラットになるゴムクラウンにして、カムレバー13をF1〜F6に調整することで得られる均一ニップを示す。線圧は押付け装置26の荷重を所定の力にする。また操作側、駆動側の力を等しくする。ロールのたわみやゴム変形を計算してセットするが線圧検出紙でロール20、21のニップ部に挟み込み実際の線圧状態を確認してセットするのがよい。
・図8、凸形線圧分布(b)
(b)は上記(1)の均一ニップより多くクラウンをつけた場合に得られる凸形線圧分布を示す。ロール中央は膨らむ傾向になるが外セルが薄い場合は軸6の外セル1への力が中央まで及ばず、中央はフラット気味になる。
・図8、凹形線圧分布(c)
(c)は上記(1)より少なくクラウンをつけた場合に得られる凹形線圧分布を示す。
・図8、線圧を変えた均一ニップ分布(d)
(d)は(a)の場合より押付け装置26の荷重を小さくして得られる均一ニップを示す。なお、(a)線は(d)線に対して約10倍の荷重がかけられた例を示している。すわなち、(d)線は(a)線の荷重に対して約10分の1の荷重をかけた例である。操作側、駆動側の力を等しく、かつカムレバー13をF1側にシフト調整する。また線圧検出紙でロール20、21のニップ部に挟み込みテストしてカムレバー13の位置を確認する。内ロール2のゴム硬度が柔らかく、また厚さが大きいとゴム弾性係数が小さくなり、設計ポイントを外れた場合でも均一ニップが得られる。また内ロール2セル肉厚を大きくすると内ロール2撓みが小さくなり均一ニップが得られる。表1の例では設計線圧50N/cmと小さいのでタワミが小さく10〜100N/cmでも充分均一ニップが得られる。
・図9、傾斜線圧分布(e)
(e)は操作側を低く、駆動側を高く線圧設定した線圧分布を示す。操作側は押付け装置26の力を小さくし、偏心量も少なくする。駆動側は逆にする。また偏心量は左右同じにして、押付け装置26の力のみを左右変えてもかまわない。
・図9、波形線圧分布(f)
(f)は線圧の平均は操作側、駆動側とも等しくして、全体を波形にした分布である。押付け装置26の力は左右同じにして、偏心量を左右変える。操作側は偏心量を大きくし、駆動側は偏心量を小さくする。このように偏心量を左右変えると内ロール軸4軸心が傾くが軸受38を自動調心型軸受箱39にしているのでかじりやコジリなどは生じない。
(実施例2)
図10に本発明の他の実施例の成形ロールにおけるクラウン調整カム部分の一部拡大断面図を示す。以下、上述した実施形態と同じ部品については同じ符号を用いて説明する。
【0059】
図10に示すクラウン調整カム12は、その外周にクラウン調整ギア51を嵌め込みケース53に収納している。ケース53はクラウン調整カム12に回転自在に支持され、回止めピン54で軸受箱39に回転止めされている。クラウン調整カム12にはブシュ58があり、内ロール軸4との摩擦を少なくしている。モータ50の軸に嵌め込まれたピニオンギア52がクラウン調整ギア51と噛み合い、モータ50を駆動することでクラウン調整カム12を連続的に細かく調整することができる。なお、クラウン調整ギア51とピニオンギアは回り止め機能があるウォームホイールとウォームギアの組み合わせでもよい。
【0060】
また内ロール軸4の偏心方向が判別できるようにクラウン調整カム12の偏心方向に矢印55を設置し、ケース53には偏心量を示す目盛り56を刻んでいる。これによって外部から偏心量が判別でき所定の偏心量を調整できる。また同様な装置は駆動側にもあり、左右の偏心量を個別に設定できる。またロール運転中でも偏心量を調整できる。
(実施例3)
図11に本実施例の成形ロールにおける、操作側のクラウン調整カム部分の一部拡大断面図を示す。なお、上述した各実施例と同様の部品については同じ符号を用いている。
【0061】
図11に示す外セル1の中空軸6を支持する操作側の軸受36は、軸受箱39に収納された軸受38から寸法Lだけ成形ロール20側に離れた位置に配置されている。そして、軸受36は、クラウン調整カム12の外周かつ中空軸6の内周となる位置で中空軸6を支持している。なお、駆動側の軸受36、その他の構造は図2に示す構造と同じである。
【0062】
操作側では、外セル1の駆動を中空軸6を介して伝達する必要がないこと、低荷重ロールでは外セル1の荷重が小さく内ロール軸4の剛性も高いので内ロール軸4の曲がりは小さく、ロール機能に影響は少ない。よって、図11に示すような構成としても図2の例と同じクラウン調整機能が得られ、ロール幅方向に均一なニップを得ることができる。
【0063】
以上、本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
1.線圧を変更してもロール幅全体に均一な線圧を得ることができる。
【0064】
図8に例示したが本発明の成形ロールを用いることで線圧を約10倍に変更しても均一線圧(ニップ)が得られる。線圧の変更倍率は内ロール2の曲り影響とゴム弾性の限界内で調整できる。
2.クラウン量の微調整が可能である。
【0065】
本発明の成形ロールは内ロール軸4の両端に設けられた左右のクラウン調整カム12と、左右の押付け装置26の位置、力を変えることでクラウン量の概調整が可能である。
3.成形材料への冷却、加熱能力が高い。
【0066】
本発明の成形ロールは温調機能が必要な樹脂フィルム・シート成形用途では成形ロール20内部に温調液16を流すことで外セル1と直接に温調液16が接しているのでシートの冷却、加熱能力が高い。よって、シートを急冷または徐冷でき、シートの透明度や屈折率などの物性を改良できる。
4.ロール駆動できる。
【0067】
外セル1を駆動できるので、樹脂成形シートの厚さ方向にせん断ひずみを与えずに成形でき、光学用途のシートが成形できる。特に厚いシートの成形はニップロール2本共に駆動するのが条件となるが、このような場合、本発明の成形ロールは好適である。
5.クラウン調整のための油圧装置が不要である。
【0068】
本発明の成形ロールは内ロール軸4の両端に設けられた左右のクラウン調整カム12によって内ロール偏心量を変えることでクラウン量を調整する。このため、ロール内部に高価な油圧装置が不要となる。
6.軽荷重ロールでロール面長が長い成形ロールとすることができる
本発明の成形ロールは、高剛性の内ロール2で荷重を支えるので外セル1は一般ロールより薄くすることが可能である。よって、軽荷重ニップロールで面長が長い成形ロールとすることができる。なお、外セル1の厚さ、内ロール2の剛性を変更することで大荷重ロールとすることも可能である。
7.薄いクリアシートが成形できる
本発明の成形ロールは、0.2〜4mm程度の薄い外セル1と、本発明のクラウン調整機構による線圧の調整によって、0.5mm以下の薄いクリアシートが成形可能である。
8.薄い外セルの長寿命化を図ることができる。
【0069】
薄い外セルに対して内ロール位置を調整できるので、ニップ部の薄い外セルの変形を少なくでき、薄い外セルの長寿命化を図ることができる。
9.休止時の内ロールゴムの変形を防止できる。
【0070】
外セルに対して内ロール位置を後退できるので、ゴムの永久変形を防止できる。
10.低い線圧で成形できる。
【0071】
本発明の成形ロールは、高剛性の内ロール2で荷重を支えるので外セル1は一般ロールより薄くすることが可能である。外セル1を薄くすることで、低い線圧による成形が可能となるのでシートに過大な残留応力を与えることなく成形できる。このため、液晶テレビ用途などで問題になるシート屈折率、レタデーション等の性質をムラなく均一に成形でき、光学用途のシートが成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の成形ロールの適用例であるフィルム成形機の一構成を示す図である。
【図2】図1に示す、本発明の成形ロール20のA−A線における断面図である。
【図3】クラウン調整用の穴の配置を示す図2におけるBB方向の矢視図である。
【図4】各部の偏心量を説明するための図である。
【図5】さらに詳細に各部の偏心量を説明するための図である。
【図6】内ロール軸を最大偏心状態にして過度なクラウンを外セルに与えた変形モデルを示す図である。
【図7】休止時の変形モデル2を示す図である。
【図8】本発明の成形ロールの線圧分布図である。
【図9】本発明の成形ロールの線圧分布図である。
【図10】本発明の他の実施例の成形ロールにおけるクラウン調整カム部分の一部拡大断面図である。
【図11】本発明のさらに他の実施例の成形ロールにおけるクラウン調整カム部分の一部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 外セル
2 内ロール
3 ゴム(ゴム被覆)
4 内ロール軸
5 軸回転固定装置
6 中空軸
8a、8b、8c シール
9a、9b 流路
10、14 固定ピン
11 回転固定装置(軸レバー)
12 クラウン調整カム
13 カムレバー
15 穴
16 温調液
17 流路
18 サポート
19 偏心穴
20、21、22 成形ロール
23 長穴
24 Tダイ
25 シート
26 押付け装置
27 DDモータ
35 外セルジク
36、37、38 軸受
39 軸受箱
40 スライダ
41 レール
43 ボルト
44 ボス部
45 中空穴
50 モータ
51 クラウン調整ギア
52 ピニオンギア
53 ケース
54 回止めピン
55 矢印
56 目盛
57 軸
58 ブシュ
59 空気抜き穴
C/2 クラウン(半径分)
E 偏心
−F3 休止ポイント
F0 クラウンゼロ位置
F1−F6 クラウン調整ポイント
R1 カム偏心半径
R2 軸偏心半径
α 角度
P 内ロール中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外セル(1)と、前記外セル(1)内に設けられた内ロール(2)と、前記内ロール(2)を被覆するゴム(3)とを有する二重管構造の成形ロール(20)において、
前記外セル(1)は前記外セル(1)の両端部に中空構造の中空軸(6)が設けられており、
前記中空軸(6)は前記成形ロール(20)の両側に配置された軸受(36)によって回転可能に支持されており、
少なくとも、前記成形ロール(20)を駆動する駆動手段が接続された駆動側の前記軸受(36)は、軸受箱(39)に収納されており、
前記内ロール(2)は偏心半径R2の2つのボス部(44)を有する内ロール軸(4)の前記各ボス部(44)で回転可能に支持されており、
前記内ロール軸(4)の両端は、偏心半径R1の穴(12a)が形成されたクラウン調整カム(12)の前記穴(12a)に挿通しており、
前記各クラウン調整カム(12)は、前記中空軸(6)内に設けられた、前記軸受(36)と同心の軸受(38)により回転可能に支持されており、
前記各クラウン調整カム(12)の回転角度を変更することで、前記内ロール(2)の軸心位置が半径方向に調整されることを特徴とする成形ロール。
【請求項2】
前記クラウン調整カム(12)は、前記穴(12a)の半径方向に延びたカムレバー(13)と、前記カムレバー(13)の先端部に、前記内ロール軸(4)の軸方向に摺動可能な固定ピン(14)とを有し、前記軸受箱(39)には、前記固定ピン(14)が差し込まれる複数の穴(15)が前記内ロール軸(4)の周方向に形成されており、前記カムレバー(13)を回転させることで前記クラウン調整カム(12)の回転角度が変更され、前記固定ピン(14)を前記穴(15)に差し込むことで前記クラウン調整カム(12)の回転角度が位置決めされる、請求項1に記載の成形ロール。
【請求項3】
前記クラウン調整カム(12)の外周にはクラウン調整ギア(51)が設けられており、前記クラウン調整ギア(51)をモータ(28)で回転駆動することで前記クラウン調整カム(12)の回転角度が変更される、請求項1に記載の成形ロール。
【請求項4】
前記内ロール軸(4)は、前記内ロール軸(4)自体の回転を阻止する回転固定装置(11)を有する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の成形ロール。
【請求項5】
前記内ロール軸(4)には温調液(16)が流れる流路(9a、9b)と、温調液(16)が流出入する穴とが形成されている、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の成形ロール。
【請求項6】
前記軸受(38)は、前記成形ロール(20)の両側に配置された前記軸受箱(39)に収納されており、前記駆動側とは反対側となる操作側に設けられた前記軸受(36)は、前記軸受(38)と同心かつ軸芯方向で前記成形ロール(20)側にずらした位置であるとともに前記クラウン調整カム(12)の外周および前記中空軸(6)の内周に接する位置に配置されている、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の成形ロール。
【請求項7】
Tダイ(24)から押し出される溶融樹脂を複数の成形ロールで狭圧することで薄膜を形成する薄膜形成装置において、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の成形ロール(20)と、
前記成形ロール(20)に対向して固定配置された成形ロール(21)とを有することを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項8】
前記成形ロール(20)を回転支持する前記各軸受箱(39)を、前記成形ロール(21)の方向に摺動させる押付け調整装置(26)を有する、請求項7に記載の薄膜形成装置。
【請求項9】
前記中空軸(6)を直接駆動するダイレクトドライブモータ(27)を有する、請求項7または8に記載の薄膜形成装置。
【請求項10】
Tダイ(24)から押し出される溶融樹脂を複数の成形ロールで狭圧することで薄膜を形成する薄膜形成方法において、
請求項7ないし9のいずれか1項に記載の薄膜形成装置の前記成形ロール(20)のクラウンおよび線圧分布を前記各クラウン調整カム(12)の回転角度を変更することで調整する工程を含むことを特徴とする薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−138782(P2008−138782A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325956(P2006−325956)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】