説明

成形体、ダイヤフラム弁、ダイヤフラムポンプ及びその製造方法

【課題】流体中の粒子等が付着滞留しにくく、洗浄が容易であり、ピンホールやクラックの発生がないポリテトラフルオロエチレン樹脂の成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリテトラフルオロエチレン樹脂の成形体であって、上記成形体は、表面の一部又は全部の表層に熱流動層を有するものであり、上記熱流動層を有する表面は、表面粗度がRa0.2μm以下、Ry2.0μm以下であることを特徴とする成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体、ダイヤフラム弁、ダイヤフラムポンプ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕成形体はその優れた耐薬品性、耐熱性、非粘着性からバルブ、パッキン、弁体等に使用されている。さらに近年では、PTFE成形体に流体の付着停滞性の低減や、洗浄性の向上の要求がある。
【0003】
また特にダイヤフラム弁などは、流体中の粒子が成形体表面の凹凸に停滞し、弁体が屈曲運動することでその停滞粒子が成形体に埋没し、そこが起点となりピンホールに至るといった問題がある。
【0004】
PTFE成形体を作成する方法としては、圧縮成形で得られた予備成形品を焼成するフリーベーキング法、予備成形したプレフォームを金型内に残したまま無加圧下で焼成炉にてPTFEが溶融するまで加熱した後、溶融状態のまま焼成炉から金型ごと取り出し、溶融状態のまま再び加圧下に保持し、水冷するホットコイニング法が知られている。
【0005】
フリーベーキング法の場合、PTFE成形体の表面粗度を小さくする手段として、原料PTFEの粒径を小さくすることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、成形体表面粗度は、せいぜいRa0.7μmとすることが限界である。
【0006】
また、フリーベーキング法により得られた焼成体を二次金型に装着し、加熱処理し、その後高温プレスするフッ素系樹脂性ダイヤフラムの製造法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この製造法では焼成体全体を金型ごと加熱する必要がある。
【0007】
ホットコイニング法により成形する場合、金型面の表面粗度を小さくすることで成形体の表面粗度を小さくすることができる。しかしながらホットコイニング法は、原料粉体の均一充填が困難な事から薄肉成形体が安定的に出来ない上、生産性に乏しいという欠点がある。
【0008】
また、成形体表面を機械(切削)加工することにより成形体の表面粗度をある程度小さくすることもできるが、充分な表面粗度が得られず、また、スカイブマーク(切削痕)と呼ばれる凹凸が残る問題がある。
【0009】
【特許文献1】国際公開第03/35724号パンフレット
【特許文献2】特開平5−10444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、流体中の粒子等が付着滞留しにくく、洗浄が容易であり、ピンホールやクラックの発生がないポリテトラフルオロエチレン樹脂の成形体、ダイヤフラム弁、ダイヤフラムポンプ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の成形体であって、上記成形体は、表面の一部又は全部の表層に熱流動層を有するものであり、上記熱流動層を有する表面は、表面粗度がRa0.2μm以下、Ry2.0μm以下であることを特徴とする成形体である。
【0012】
本発明は、弁本体に形成された弁座と、前記弁座に圧接又は離間するダイヤフラム弁膜が取り付けられたダイヤフラムとを有するダイヤフラム弁において、上記ダイヤフラム弁膜が上記成形体であることを特徴とするダイヤフラム弁である。
【0013】
本発明は、ダイヤフラム弁膜の往復動によって流体を送り出すダイヤフラムポンプにおいて、上記ダイヤフラム弁膜が上記成形体であることを特徴とするダイヤフラムポンプである。
【0014】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン粉末を予備成形して焼成することにより焼成体を得る工程、表面粗度がRa0.2μm以下、Ry1.5μm以下である金型の金型面を330℃以上に加熱する工程、及び、上記金型面により面圧0.2MPa以上で上記焼成体の表面の一部又は全部を処理する工程を含み、表面の一部又は全部の表層に熱流動層を有し、上記熱流動層を有する表面の表面粗度が、Ra0.2μm以下、Ry2.0μm以下であるポリテトラフルオロエチレン樹脂の成形体を製造することを特徴とする成形体の製造方法である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕樹脂の成形体は、表面の一部又は全部の表層に熱流動層を有するものであり、上記熱流動層を有する表面は、表面粗度がRa0.2μm以下、Ry2.0μm以下であることを特徴とする。このように、本発明の成形体は、熱流動層を有し、表面粗度が小さいため、発塵しにくく、また、流体中の粒子等が付着滞留しにくく、洗浄が容易であり、ピンホールやクラックの発生がないという優れた効果を奏する。
【0016】
上記熱流動層とは、加熱されたことによってその結晶状態を変化させた樹脂の層をいう。本発明の成形体の表面のうち、特定の表面粗度と表面温度とを有する金型面により処理された表面には、表層に熱流動層が形成される。上記熱流動層は、偏光顕微鏡で観察することにより成形体中の他の層と区別することができる。
【0017】
上記熱流動層は、成形体中の他の層と比較すると結晶化度が低い。特に、本発明の成形体が後述の焼成体から切削加工して得られたものである場合、当該成形体の処理前の表面は当該焼成体の内部の結晶状態を反映したものとなる。焼成体内部は焼成体全体を急冷しても焼成体表面の結晶状態の変化に追従しておらず、比較的結晶化度の高い状態にある。このような結晶化度の高い表面が露出した処理前の成形体を、特定の表面粗度と表面温度とを有する金型面により処理することで、成形体の表面のみを短時間で熱処理することから、表面が再溶融した後急冷され、結晶化度が処理前より低下する。
【0018】
上記熱流動層は、成形体内部の熱流動層以外の層と熱履歴が異なるということもできる。すなわち、上記熱流動層は、熱流動層以外の層よりも熱履歴回数が1回多い。
【0019】
上記熱流動層は、微小な空隙や粒界を含まないため、クラックやピンホールが発生しにくい。上記熱流動層は、表面平滑性に優れる点で、機械(切削)加工により形成される切削痕の深さよりも厚くなるように形成することが好ましい。
【0020】
本発明の成形体において、熱流動層を有する表面、すなわち、金型の金型面により処理された表面は、成形体の全面でなく、任意の一面の表面又は任意の複数の面の表面であってよいが、少なくとも流体が接触する表面について熱流動層を有するように処理されたものであることが好ましい。また、生産効率や生産コストを考慮すると、成形体の全面ではなく、必要な面のみが処理されたものであることが好ましい。
【0021】
本発明の成形体は、成形体の全面を処理する必要がないため、成形体全体を加熱する方法に比べて、生産効率及び生産コスト面で有利である。また、本発明の成形体は、熱流動層が表層にのみ存在すればよいため、肉厚の成形体であっても、本発明の効果を充分に奏することができる。
【0022】
上記表面粗度は、Ra0.2μm以下、Ry2.0μm以下である。本発明の成形体は、表面粗度がこのように小さいため、流体中の粒子等が付着滞留しにくく、付着した粒子に起因するピンホールやクラックの発生が低減される。
上記Ryは、1.5μm以下であることが好ましい。
【0023】
上記表面粗度Raは、表面粗度測定機(Mitutoyo製SURFTEST SV−600)を使用し、JIS B 0601−1994に準拠して、測定点数5点の測定を3回繰り返し、得られた測定値を平均して算出する値である。上記Ryは、上記測定により得られた測定値の最大値である。
【0024】
本発明の成形体の表面粗度は、機械(切削)加工により得られる表面粗度と比較しても小さい。機械(切削)加工によって達成される表面粗度はRa0.3μmが限界であり、またRy2.0μmを超える。このように、本発明の成形体は、表層に熱流動層を有し、表面粗度が小さいものであるため、機械(切削)加工された成形体と比べて、屈曲時の切削表面からの発塵やクラック発生を低減することができる。
【0025】
金型の金型面による処理の前に焼成体を機械加工することについては何ら制限されない。本発明の成形体は、機械加工により所望の形状としたのち金型面により処理することができるので、樹脂粉末を直接金型成形することにより表面粗度を小さくした成形体と比べて、形状に制限がないにも関わらず表面粗度が小さいという点で有利である。上記焼成体とは、PTFE粉末を予備成形して焼成することにより得られるものである。
【0026】
本発明の成形体は、表面の一部又は全部が金型の金型面により面圧0.2MPa以上で処理されたものであり、上記金型面は、表面粗度がRa0.2μm以下、Ry1.5μm以下であり、且つ、表面温度330℃以上である。本発明の成形体は、表面の一部又は全部を、特定の表面粗度と表面温度とを有する金型面により処理したものであるので、熱流動層と極めて小さい表面粗度とを有し、機械(切削)加工した成形体表面に観察されるスカイブマーク(切削痕)を有しない。
【0027】
上記スカイブマークは、流体に含まれる粒子の付着滞留の原因となるが、本発明の成形体の表面にはスカイブマークがないため、機械(切削)加工された成形体と比べて付着滞留性が格段に小さい。
【0028】
上記金型面による処理は、特定の表面粗度を有する金型の金型面を330℃以上に加熱し、加熱した金型面を成形体の表面に特定の面圧で接触させることにより行うことができる。
【0029】
上記面圧は0.2MPa以上である。上記面圧が0.2MPa未満であると、成形体表面を充分に平滑にすることが困難である。上記面圧の上限は特に限定されないが、30MPaであることが好ましい。
【0030】
上記金型面の表面温度は330℃以上である。表面温度が330℃未満であると、熱流動層を形成できない。また、成形体表面が充分に融解せず、成形体表面を充分に平滑にすることが困難である。上記金型面の表面温度の上限は特に限定されないが、400℃であることが好ましい。
【0031】
上記金型面の表面粗度は、Ra0.2μm以下、Ry1.5μm以下である。Raが0.2μmを超え、又は、Ryが1.5μmを超えると、成形体表面を充分に平滑にすることが困難である。上記Raは、0.1μm以下であることが好ましい。また、上記Ryは、1.2μm以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の成形体におけるPTFE樹脂は、テトラフルオロエチレン〔TFE〕の単独重合体〔TFEホモポリマー〕からなるものであってもよいし、変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕からなるものであってもよい。
【0033】
上記PTFE樹脂は、溶融粘度が低く成形加工しやすい点及び耐クリープ性等の機械的強度に優れた成形体が得られる点で、変性PTFEからなる変性PTFE樹脂であることが好ましい。
【0034】
上記変性PTFEとは、TFEと、TFE以外の微量単量体との共重合体であって、非溶融加工性であるものを意味する。
【0035】
上記微量単量体としては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のフルオロオレフィン;フルオロ(アルキルビニルエーテル);フルオロジオキソール;パーフルオロアルキルエチレン;ω−ヒドロパーフルオロオレフィン等が挙げられる。
【0036】
上記フルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、例えば、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。
【0037】
上記PAVEとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0038】
上記PAVEとしては、熱的安定性の点で、PPVE、PEVE、PMVEであることが好ましく、PPVEであることがより好ましい。
【0039】
上記変性PTFEにおいて、上記微量単量体は1種であってもよいし2種以上であってもよい。
【0040】
上記変性PTFEにおいて、上記微量単量体に由来する微量単量体単位の全単量体単位に占める含有率は、通常2モル%以下の範囲である。
【0041】
本明細書において、「全単量体単位に占める微量単量体単位の含有率(モル%)」とは、上記「全単量体単位」が由来する単量体、即ち、変性PTFEを構成することとなった単量体全量に占める、上記微量単量体単位が由来する微量単量体のモル分率(モル%)を意味する。
【0042】
本明細書において、上記微量単量体単位は、赤外分光分析を行うことにより得られる値である。
【0043】
本発明の成形体は、PTFE樹脂に加えて、熱溶融加工性を有する熱可塑性樹脂をポリテトラフルオロエチレン樹脂の0.5〜30質量%含有してもよい。
【0044】
上記熱可塑性樹脂としては、熱溶融加工性を有するものであれば特に限定されないが、熱溶融加工可能なフッ素樹脂であることが好ましく、上記フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体〔PFA〕、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕等が挙げられる。
【0045】
本発明の成形体は、PTFE粉末を予備成形して焼成することにより焼成体を得る工程、表面粗度がRa0.2μm以下、Ry1.5μm以下である金型の金型面を330℃以上に加熱する工程、及び、上記金型面により面圧0.2MPa以上で上記焼成体の表面の一部又は全部を処理する工程を含む製造方法により好適に製造することができる。
【0046】
上記製造方法は、一旦焼成して焼成体を得た後、焼成体の所望の面のみを処理することから、生産効率や生産コストに優れる。また、焼成体を得た後、表面処理の前に機械(切削)加工してもよく、この場合、成形体の形状に制限がなく、スカイブマークが消失する点で有利である。
【0047】
上記PTFE粉末は、懸濁重合又は乳化重合によって得られるTFEホモポリマー又は上記変性PTFEの粉末であることが好ましく、平均粒径が小さいPTFE粉末を調製できる点で、懸濁重合により得られるものがより好ましい。平均粒径が小さいPTFE粉末は、ボイドが少ない成形体を得ることができる点で好ましい。上記懸濁重合及び乳化重合は、従来公知の方法により行うことができる。
【0048】
上記PTFE粉末は、懸濁重合又は乳化重合後に得られる重合反応液から乾燥して得た粉末そのもの、該粉末を適宜粉砕してなる微粉末、又は、該粉末若しくは微粉末を造粒したものの何れであってもよい。
【0049】
上記PTFE粉末は、PTFE粉末のみからなるものであってもよいが、PTFE粉末の性質を損なわない範囲で、着色剤、帯電防止剤等の添加剤を配合したものであってもよい。
【0050】
上記予備成形としては圧縮成形が挙げられる。上記圧縮成形は、0.1MPa〜100MPaの加圧下で行うことが好ましい。上記圧力は、より好ましい下限が1MPa、より好ましい上限が80MPaである。
【0051】
上記焼成は、上記予備成形により得られた予備成形体を焼成炉に入れ、一定速度で室温から焼成温度まで昇温させた後、該焼成温度を維持して行ってもよいし、上記予備成形体を予め後述の焼成温度に調温した焼成炉内に入れることによって行うこともできる。
【0052】
上記焼成は、予備成形体の厚み、焼成時間等にもよるが、345〜400℃の温度にて加熱することにより行うことが好ましい。上記焼成温度は、より好ましい下限が360℃、より好ましい上限が390℃である。
【0053】
上記焼成体は、板状、円盤、円柱、円筒等、何れの形状であってもよいが、厚みが0.1μm〜30mmであるものが好ましい。
【0054】
本発明の成形体は、機械的特性、特に耐屈曲性及び耐クリープ性に優れているので、例えば、ベロース、ダイヤフラム、ホース、ピストンリング、バタフライバルブ等の耐屈曲性が求められる成形体;ボールバルブシート、パッキン、ガスケット、ピストンリング、ベロース、ダイヤフラム、バタフライバルブシート等の耐クリープ性が求められる成形体;とすることができる。また、空隙や粒界が少ないことを利用して、電気絶縁用フィルム、離型フィルム、ラッピング用フィルム等、種々の用途に適用することができる。
【0055】
本発明の成形体は、ダイヤフラム弁のシートとして好適に使用でき、ダイヤフラム弁の弁膜、または、ダイヤフラムポンプの弁膜として好適に使用できる。本発明の成形体をダイヤフラム弁の弁膜、または、ダイヤフラムポンプの弁膜として用いる場合、熱流動層を有する表面が接液側であることが好ましい。本発明の成形体は、熱流動層を有する表面が接液側であることにより、発塵量が少なく、流体中の粒子等が付着滞留しにくいという効果を充分に発揮することができる。
【0056】
上記ダイヤフラム弁膜は、接液膜部、シール部(弁座圧着部)、及び、取り付け部を有する弁膜であってもよいし、シート状の弁膜であってもよい。上記接液膜部、シール部、及び、取り付け部を有するダイヤフラム弁膜は、ダイヤフラム弁に好適に用いることができる。また、上記シート状のダイヤフラム弁膜は、ダイヤフラムポンプに好適に用いることができる。
【0057】
本発明は、弁本体に形成された弁座と、上記弁座に圧接又は離間するダイヤフラム弁膜が取り付けられたダイヤフラムとを有するダイヤフラム弁において、上記ダイヤフラム弁膜が上記成形体であるダイヤフラム弁でもある。本発明のダイヤフラム弁は、本発明の成形体をダイヤフラムの接液面に使用するものであるので、発塵量を大きく低減できる。
【0058】
本発明のダイヤフラム弁は、半導体製造工場のCMPスラリー供給配管に設置される弁などに好適に使用することができる。
【0059】
本発明は、ダイヤフラム弁膜の往復動によって流体を送り出すダイヤフラムポンプにおいて、上記ダイヤフラム弁膜が上記成形体であるダイヤフラムポンプでもある。本発明のダイヤフラムポンプは、本発明の成形体をダイヤフラム弁膜の接液面に使用するものであるので、発塵量を大きく低減できる。
【発明の効果】
【0060】
本発明の成形体は、上記構成よりなるものであるので、発塵しにくく、流体中の粒子等が付着滞留しにくく、洗浄が容易であり、滞留粒子に起因するピンホールやクラックの発生がない。
【0061】
本発明の成形体の製造方法は、上記の成形体を得ることができ、生産効率や生産コストに優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0063】
実施例及び比較例における各評価は以下の方法により行った。
【0064】
熱流動層の厚み
Victor製カラービデオヘッド(型番:TK1283)を搭載したNikon製偏光顕微鏡(型番:OPTIPHOT2−POL)を用いて、ガラス製プレパラートに固定し、100μmにスライスしたシートの熱流動層の厚みを測定した。
【0065】
表面粗度Ra
表面粗度Raは、表面粗度測定機(Mitutoyo製SURFTEST SV−600)を使用し、JIS B 0601−1994に準拠して、測定点数5点の測定を3回繰り返し、得られた測定値の平均値をRaとした。
【0066】
表面粗度Ry
表面粗度Ryは、表面粗度測定機(Mitutoyo製SURFTEST SV−600)を使用し、JIS B 0601−1994に準拠して、測定点数5点の測定を3回繰り返し、得られた測定値の最大値をRyとした。
【0067】
接触角
協和界面科学製全自動接触角計(型番:DM700)を使用し測定した。
【0068】
実施例1
変性PTFE粉末(商品名:ニューポリフロンPTFE M−731、ダイキン工業製)200gを、金型内径50φ、金型長さ500mmの圧縮成形用金型に投入し、室温にて29.4MPaに加圧した後、上記金型から取り出した。続いて、得られた予備成形体を電気炉で50℃/時間の速度にて370℃に昇温した後、370℃にて焼成し、電気炉で50℃/時間の速度にて室温にまで降温し、変性PTFE焼成体を得た。更に、上記変性PTFE焼成体を切削して直径約47mm、厚さ0.5mmの変性PTFE焼成体のダイヤフラム弁膜(シート)を作成した。切削後の弁膜の表面粗度はRa0.43μm、Ry2.71μmであった。
【0069】
処理を施す側の弁膜の表面に接触する金型の表面粗度をRa0.10μm、Ry1.19μmに調整した。弁膜の表面に接触する金型面を有する金型のみを、表面温度が360℃となるように加熱し、該金型面を面圧0.3MPaで90秒間弁膜に押し付けて、処理された弁膜1を得た。
【0070】
得られた弁膜1をミクロトーム(MICROM GmbH製ミクロトーム(型番:HM330))と専用カッター(S22Type)を使用し加熱面に対して直角に厚み100μmにスライスし偏光顕微鏡で観察することで、熱流動層の厚みを測定した。表面粗度測定機で加熱面の表面粗度、接触角計で加熱面の接触角を測定した。結果を表1に表す。また、偏光顕微鏡による観察写真を図1に示す。
【0071】
得られた弁膜1をスラリー液(日本キャボット・マイクロエレクトロニクス製SEMI−SPERSE 25−E)中で6時間攪拌した後、弁膜を取り出し付着したスラリー液滴を除去し1分間風乾した。次にスポイトを用いて50mlの純水をスラリー付着部に流した後、付着した水分を除去しビデオマイクロスコープ(キーエンス製デジタルマイクロスコープ VHX−900)で観察し撮影した。撮影した写真を図8に示す。
【0072】
実施例2〜4、比較例2〜3
金型面の表面温度及び面圧を表1のように変更した以外は実施例1と同様に処理した弁膜を得た。結果を表1に表す。また、偏光顕微鏡による観察写真を図2〜4、6、7に示す。
【0073】
比較例1
実施例1において得られた切削後の弁膜について、熱流動層の厚み、表面粗度、接触角を測定した。結果を表1に表す。また、偏光顕微鏡による観察写真を図5に示す。更に、切削後の弁膜について、実施例1と同様にしてスラリー液に浸し、表面をビデオマイクロスコープにより撮影した。撮影した写真を図9に示す。
【0074】
比較例4
金型面の表面温度及び面圧を表1のように変更し、金型面による処理を10分間行った以外は実施例1と同様に処理した弁膜を得た。金型面による処理によって弁膜全体が溶融し、形状が変形した。結果を表1に表す。
【0075】
実施例5、6及び8
金型面の表面温度及び面圧を表1のように変更し、熱流動層の厚みを測定しなかった以外は実施例1と同様に処理した弁膜を得た。結果を表1に表す。
【0076】
実施例7、比較例5〜6
金型面の表面温度及び面圧を表1のように変更した以外は実施例1と同様に処理した弁膜を得た。結果を表1に表す。
【0077】
比較例7
実施例1において得られた切削後の弁膜(Ra0.43μm、Ry2.71μm)を電気炉に入れて、350℃で90秒間加熱した。弁膜全体が溶融し、形状が変形した。得られた弁膜の各種物性を実施例1と同様の方法で測定した。結果を表1に表す。
【0078】
【表1】

【0079】
実施例1〜8の結果から、金型の表面温度が330℃以上であり、かつ、金型面による処理の面圧が0.2MPa以上であると、表面粗度が小さい表面を有する成形体が得られることが分かった。比較例4の結果から、金型の表面温度が330℃以上であっても、金型面による処理の面圧が0MPaであると、弁膜全体が溶融するだけで、熱流動層が得られず、表面が平滑な成形体を得ることができないことが分かった。比較例7の結果から、単に弁膜材料の融点以上に加熱した場合、弁膜全体が溶融するだけで、熱流動層が得られず、表面が平滑な成形体を得ることができないことが分かった。
【0080】
パーティクル個数の測定
実施例9
クリーンブース内において、PFA製ニードルバルブ、PFA製3/4inchチューブ、実施例5で得られた弁膜を備えるダイヤフラムバルブ(東邦化成社製ダイヤフラムバルブ:型番AV−013、接液部の弁膜は実施例5で得られた弁膜、弁座を備える本体はホモPTFE製)、PFA製3/4inchチューブを順に接続して、超純水供給ラインを作製した。この超純水供給ラインに、ダイヤフラムバルブを開いた状態で超純水を一定時間流し、流出する水に含まれるパーティクル数が超純水と同等になったことを確認した。
【0081】
次に超純水を流量1L/分で超純水供給ラインに流した。バルブを開いた状態を2秒間保持し、次にバルブを閉じた状態を2秒間保持することを1サイクルとし、超純水を流し始めてから30サイクル後(2分後)から、15サイクル分(1分間)の超純水をサンプリングした。サンプリングした超純水それぞれに含まれる1ml中のパーティクル数をパーティクルカウンター(リオン社製)で測定した。パーティクル数は粒径が0.1μm以上のパーティクルの個数を総計して表した。結果を表2に表す。
【0082】
比較例8
実施例5で得られた弁膜を備えるダイヤフラムバルブを比較例1で得られた弁膜と同等の表面粗度を持つ弁膜を備えるダイヤフラムバルブに変更した以外は実施例9と同様の方法でパーティクル数を測定した。結果を表2に表す。
また、図10にバルブ開閉数と超純水1ml中のパーティクル個数との関係を表すグラフを示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2の結果から、実施例5で得られた弁膜を備えるダイヤフラムを用いた実施例9は、比較例1で得られた弁膜と同等の表面粗度を持つ弁膜を備えるダイヤフラムを用いた比較例8よりも、パーティクル発生個数が少ないことが分かった。
【0085】
付着量の測定
実施例10及び比較例9
CMPスラリーを入れるポリエチレン製容器(容量1L)、スラリーポンプ、ストップバルブを順にPFA製1/2inchチューブを用いて接続した。ストップバルブの次に、実施例6で得られた弁膜を備えるダイヤフラムバルブ(東邦化成社製ダイヤフラムバルブ:型番AV−013、接液部の弁膜は実施例6で得られた弁膜、弁座を備える本体はホモPTFE製)、及び、比較例1で得られた弁膜と同等の表面粗度を持つ弁膜を備えるダイヤフラムバルブ(東邦化成社製ダイヤフラムバルブ:型番AV−013、接液部の弁膜は比較例1で得られた弁膜と同等の表面粗度を持つ弁膜、弁座を備える本体はホモPTFE製)を並列に接続し、各ダイヤフラムバルブの出口を上記のポリエチレン製容器に接続して循環ラインを作製した。
【0086】
CMPスラリー(Cabot Microelectronics社製Semi−Sperse25、平均凝集体サイズ:130−180nm、最大500nm以下)約1Lをポリエチレン製容器に入れ、2つのダイヤフラムバルブを2秒間隔で開閉しながらスラリーポンプ(吐出圧:0.1MPa、流量:1L/分)を作動させて循環ラインにスラリー液を循環させた。2つのダイヤフラムバルブを14時間、100時間、200時間開閉させた後、ダイヤフラムバルブを取り外し、各ダイヤフラムバルブの弁膜に付着したCMPスラリーの付着量を測定した。
実施例6で得られた弁膜を備えるダイヤフラムバルブを実施例10、比較例1で得られた弁膜と同等の表面粗度を持つ弁膜を備えるダイヤフラムバルブを比較例9として、結果を表3に表す。
【0087】
【表3】

【0088】
表3の結果から、実施例6で得られた弁膜を備えるダイヤフラムを用いた実施例10は、比較例1で得られた弁膜と同等の表面粗度を持つ弁膜を備えるダイヤフラムを用いた比較例9よりもスラリーの付着量が少ないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の成形体は、ベロース、ダイヤフラム等の耐屈曲性が求められる成形体や、絶縁フィルム、離型フィルム、ラッピング用フィルム等として好適に利用可能である。
【0090】
本発明の成形体の製造方法は、耐屈曲性が求められる成形体や、絶縁フィルム、離型フィルム、ラッピング用フィルム等の成形体を製造する方法として好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施例1で得られた弁膜1の偏光顕微鏡による観察写真である。
【図2】実施例2で得られた弁膜の偏光顕微鏡による観察写真である。
【図3】実施例3で得られた弁膜の偏光顕微鏡による観察写真である。
【図4】実施例4で得られた弁膜の偏光顕微鏡による観察写真である。
【図5】比較例1で得られた切削後の弁膜の偏光顕微鏡による観察写真である。
【図6】比較例2で得られた弁膜の偏光顕微鏡による観察写真である。
【図7】比較例3で得られた弁膜の偏光顕微鏡による観察写真である。
【図8】実施例1で得られた弁膜1をスラリー液に浸した後の表面写真である。スラリーの付着が少ないことが分かる。
【図9】比較例1の切削後の弁膜をスラリー液に浸した後の表面写真である。
【図10】バルブ開閉数と超純水1ml中のパーティクル個数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン樹脂の成形体であって、
前記成形体は、表面の一部又は全部の表層に熱流動層を有するものであり、
前記熱流動層を有する表面は、表面粗度がRa0.2μm以下、Ry2.0μm以下である
ことを特徴とする成形体。
【請求項2】
熱流動層を有する表面は、金型の金型面により面圧0.2MPa以上で処理されたものであり、
前記金型面は、表面粗度がRa0.2μm以下、Ry1.5μm以下であり、且つ、処理時の表面温度が330℃以上である請求項1記載の成形体。
【請求項3】
熱流動層は、成形体内部の前記熱流動層以外の層よりも熱履歴回数が1回多いものである請求項1又は2記載の成形体。
【請求項4】
ポリテトラフルオロエチレン樹脂は、変性ポリテトラフルオロエチレン樹脂である請求項1、2又は3記載の成形体。
【請求項5】
ポリテトラフルオロエチレン樹脂は、懸濁重合又は乳化重合で得られたポリテトラフルオロエチレンからなる請求項1、2、3又は4記載の成形体。
【請求項6】
更に、熱溶融加工性を有する熱可塑性樹脂をポリテトラフルオロエチレン樹脂の0.5〜30質量%含有する請求項1、2、3、4又は5記載の成形体。
【請求項7】
ダイヤフラム弁膜であり、熱流動層を有する表面が接液側である請求項1、2、3、4、5又は6記載の成形体。
【請求項8】
弁本体に形成された弁座と、前記弁座に圧接又は離間するダイヤフラム弁膜が取り付けられたダイヤフラムとを有するダイヤフラム弁において、
前記ダイヤフラム弁膜が請求項1、2、3、4、5又は6記載の成形体である
ことを特徴とするダイヤフラム弁。
【請求項9】
ダイヤフラム弁膜の往復動によって流体を送り出すダイヤフラムポンプにおいて、
前記ダイヤフラム弁膜が請求項1、2、3、4、5又は6記載の成形体である
ことを特徴とするダイヤフラムポンプ。
【請求項10】
ポリテトラフルオロエチレン粉末を予備成形して得られる予備成形体を焼成することにより焼成体を得る工程、
表面粗度がRa0.2μm以下、Ry1.5μm以下である金型の金型面を330℃以上に加熱する工程、及び、
前記金型面により面圧0.2MPa以上で前記焼成体の表面の一部又は全部を処理する工程を含み、
表面の一部又は全部の表層に熱流動層を有し、前記熱流動層を有する表面の表面粗度がRa0.2μm以下、Ry2.0μm以下であるポリテトラフルオロエチレン樹脂の成形体を製造する
ことを特徴とする成形体の製造方法。

【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−154534(P2009−154534A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309135(P2008−309135)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】