説明

成形体およびその製造方法

【課題】100nm以上の平均間隔を有し、かつ配列に規則性がない凸部が表面に形成された硬化膜を有する成形体、および該成形体を簡便に製造できる方法を提供する。
【解決手段】表面に凸部が形成された成形体であって、凸部が成形体の表面に形成された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる複数の突起であり、該突起間の平均間隔が400nm以下である突起が2つ以上集合してなり、集合した突起の割合が60%以上である成形体;表面に細孔を有するモールドの表面に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を接触、硬化させた後、該組成物の平滑硬化膜の弾性率が1GPa未満となる温度にて硬化膜とモールドとを分離する方法;または表面にアスペクト比(深さ/周期)が3.1以上の細孔を有するモールドの表面に前記組成物を接触、硬化させた後、該組成物の平滑硬化膜の弾性率が1GPa以上となる温度にて硬化膜とモールドとを分離する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に微細な凸部が形成された硬化膜を有する成形体およびその製造方法に
関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光の波長以下の周期の微細凹凸構造を表面に有する材料は、反射防止機能、Lotus効果等の機能性を発現することから、その有用性が注目されている。特に、略円錐形状、三角錐形状、四角錐形状等の突起を並べたMoth−Eye構造と呼ばれる微細凹凸構造は、空気の屈折率から材料の屈折率に連続的に増大していくことで有効な反射防止の手段となることが知られている。
【0003】
材料表面に微細凹凸構造を形成する方法としては、下記方法が知られている。
(1)電子ビームリソグラフィー法を用いてモールドを作製して、該モールドの反転構造を転写する方法。
(2)レーザー光干渉法によって、微細凹凸構造に対応した反転構造を有するモールドを作製し、該モールドの反転構造を転写する方法(特許文献1)。
(3)アルミニウムを陽極酸化して得られた、表面に細孔を有する陽極酸化アルミナ(以下、単に陽極酸化アルミナという。)をモールドとして用い、該モールドの細孔を転写して突起を形成する方法(特許文献2)。
【0004】
(1)、(2)の方法によれば、周期、高さ、形状を変えたモールドを作製することは可能だが、大面積化が困難であるだけでなく、転写して得られた微細凹凸構造の規則性が高いため、干渉色が生じ、例えば反射防止膜等の用途で外観上の問題となる。
【0005】
(3)の方法は、モールドの大面積化、大型化が可能である点、継ぎ目のないロール状モールドの作製が容易である点から、他の方法に比べ、工業的に生産性よく材料表面に微細凹凸構造を形成できる方法である。また、自己組織化的に細孔が形成されるため長距離の規則性はなく、転写面に干渉色も生じない。
【0006】
陽極酸化アルミナは、シュウ酸を電解液として用い、化成電圧40Vでアルミニウムを陽極酸化した場合、周期が100nm程度の規則性の高い細孔が表面に形成され、硫酸を電解液として用い、化成電圧25Vでアルミニウムを陽極酸化した場合、周期が63nm程度の規則性の高い細孔が表面に形成されることが知られている(非特許文献1)。
【0007】
しかしながら、前記電解液と化成電圧との組み合わせ以外でアルミニウムを陽極酸化した場合、細孔の規則性が低下するだけでなく、細孔の直行性が低下したり、細孔が分岐したりするため、周期が100nm程度、63nm程度以外の細孔を有し、反射防止等の光学用途に使用する成形体のモールドとして使用できる陽極酸化アルミナは、事実上得ることができなかった。そのため、周期が100nm程度、63nm程度以外の突起を有する成形体、特に、100nmより大きい周期の突起を有する成形体を得ることはできなかった。
【0008】
なお、アルミニウムの陽極酸化に先立ち、電子ビームリソグラフィー等で作製した突起有する基板を、アルミニウム表面に押し付けて微細な窪みを形成し、該窪みを陽極酸化の細孔発生点にすることで、周期が100nm程度、63nm程度以外の細孔を形成する方法が提案されている(特許文献3)。
【0009】
しかしながら、該方法では、突起を有する基板を電子ビームリソグラフィー等で作製する必要があるため、モールドのような大面積化には対応できない。仮に、小面積で得られたものをモールドとして用いたとしても、転写によって得られた微細凹凸構造は、規則性が非常に高く、干渉色が生じ、反射防止膜等への適用には問題があった。
したがって、上述のように従来知られている(1)〜(3)の方法では、周期が100nm以上の規則性のない突起構造を形成することは困難であった。
【特許文献1】特開2001−264520号公報
【特許文献2】特開2005−156695号公報
【非特許文献1】益田、「高規則性陽極酸化ポーラスアルミナの作製とナノファブリケーションへの応用」、応用物理、2000年、第69巻、第5号、p.558
【特許文献3】特開平10−121292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって、本発明の目的は、100nm以上の平均間隔を有し、かつ配列に規則性がない凸部が表面に形成された硬化膜を有する成形体、および該成形体を簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の成形体は、表面に凸部が形成された成形体であって、前記凸部が、下記突起が2つ以上集合してなるものであり、集合して凸部を形成している突起の割合が、60%以上であることを特徴とする。
(突起)
前記成形体の表面に形成された、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる複数の突起であり、該突起間の平均間隔が、400nm以下である突起。
前記凸部の配列には規則性がなく、前記凸部の平均間隔が400nm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の成形体の製造方法は、表面に凸部が形成された硬化膜を有する成形体の製造方法であって、(i)表面に細孔を有するモールドの表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を接触させる工程と、(ii)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が前記モールドの表面に接触した状態で、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させて、前記細孔に対応する突起を有する硬化膜を形成する工程と、(iii)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の平滑硬化膜の弾性率が1GPa未満となる温度にて、前記硬化膜と前記モールドとを分離することによって、前記硬化膜の表面の突起が2つ以上集合してなる凸部を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の成形体の製造方法は、表面に凸部が形成された硬化膜を有する成形体の製造方法であって、(iv)表面にアスペクト比(深さ/周期)が3.1以上の細孔を有するモールドの表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を接触させる工程と、(v)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が前記モールドの表面に接触した状態で、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させて、前記細孔に対応する突起を有する硬化膜を形成する工程と、(vi)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の平滑硬化膜の弾性率が1GPa以上となる温度にて、前記硬化膜と前記モールドとを分離することによって、前記硬化膜の表面の突起が2つ以上集合してなる凸部を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0014】
前記モールドは、陽極酸化アルミナであることが好ましい。
本発明の成形体は、前記硬化膜が反射防止膜とされた反射防止部材であることが好ましい。
本発明の成形体は、エレクトロルミネッセンスまたは発光ダイオードの光取り出し効率を向上させる部材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の成形体は、100nm以上の平均間隔を有し、かつ配列に規則性がない凸部が表面に形成された反射防止等の光学用途に使用できる硬化膜を有する。
本発明の成形体の製造方法によれば、100nm以上の平均間隔を有し、かつ配列に規則性がない凸部が表面に形成された硬化膜を有する成形体を、簡便に製造でき、大面積化も容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。また、活性エネルギー線は、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)等を意味する。
【0017】
<成形体>
本発明の成形体は、図1に示すような、突起が2つ以上集合してなる凸部(集合体)が表面に形成された硬化膜を有する成形体である。凸部は、成形体の一部の面に形成されていてもよく、全表面に形成されていてもよい。
【0018】
突起は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる複数の突起であり、該突起間の平均間隔は、400nm以下である。突起は、陽極酸化アルミナのモールドを使用して成形した場合には、突起間の平均間隔はせいぜい100nm程度となることから、200nm以下が好ましく、150nm以下が特に好ましい。
【0019】
突起のアスペクト比(高さ/周期)は、凸部を形成せずに独立していると仮定した場合、1.1以上が好ましく、1.3〜7がより好ましく、1.5〜5が特に好ましい。突起のアスペクト比が1.1未満では、突起の弾性率が低くても凸部を形成せずに1本で存在している突起(以下、単独突起と記す。)の割合が多くなる。突起のアスペクト比が7を超えるとモールドからの剥離性が著しく低下する。
【0020】
単独突起の割合は、凸部(集合体)を形成している突起および単独突起の合計(100%)のうち、40%以下であり、20%未満がより好ましく、10%未満が特に好ましい。単独突起の割合が40%超では、凸部間の間隔の広い成形体で得られる性能(具体的には、全反射界面からの−1次の回折による光取り出し性能)を発現しにくくなる。
【0021】
凸部を形成している突起の割合は、凸部(集合体)を形成している突起および単独突起の合計(100%)のうち、60%以上であり、80%超がより好ましく、90%超が特に好ましい。凸部を形成している突起の割合が60%未満では、凸部間の間隔の広い成形体で得られる性能(具体的には、全反射界面からの−1次の回折による光取り出し性能)を発現しにくくなる。
【0022】
凸部を形成している突起の数は、2つ以上であり、2〜10がより好ましく、2〜7が最も好ましい。凸部を形成している突起の数が増えるほど、凸部間の間隔が大きくなる。全ての凸部が同じ本数の突起の集合体でなくてもよいが、その分布はなるべく狭い方がよい。また、凸部を形成している突起同士は、融着していてもよく、融着していなくてもよい。
【0023】
凸部の形状は、本発明の成形体を反射防止部材として用いる場合、高さ方向と直交する方向の凸部断面積が最表面から深さ方向に連続的に増加する形状、すなわち、凸部の高さ方向の断面形状が、三角形、台形、釣鐘型等の形状が好ましい。
【0024】
凸部間の平均間隔は、400nm以下が好ましく、350nm以下がより好ましく、300nm以下が特に好ましい。凸部間の平均間隔が400nmを超えると、可視光の散乱が起こるため、反射防止部材等の光学用途に適さない。
凸部間の平均間隔は、100nm以上が好ましく、130nm以上がより好ましく、150nm以下が特に好ましい。凸部間の平均間隔が100nm未満以下では、凸部間の間隔の広い成形体で得られる性能(具体的には、全反射界面からの−1次の回折による光取り出し性能)を発現しにくくなる。
凸部間の平均間隔は、電子顕微鏡観察によって隣接する凸部間の間隔(凸部の中心から隣接する凸部の中心までの距離)を50点測定し、これらの値を平均したものである。
【0025】
凸部の高さは、凸部の底辺の1/2倍〜4倍が好ましい。凸部の高さが凸部の底辺の1/2倍未満では、反射防止効果が低い。凸部の高さが凸部の底辺の4倍を越えると、耐擦傷性等の機械的強度が弱くなる。
凸部の配列には、規則性がない。つまり、突起の集合は、ランダムに発生する。規則性があると干渉色が生じて反射防止膜等の最表面で使用する用途においては、外観上の問題となる。
【0026】
硬化膜は、透明基材の表面に設けられていてもよい。透明基材としては、前記透明基材が挙げられる。
硬化膜の屈折率と透明基材の屈折率との差は、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下が特に好ましい。屈折率差が0.2を超えると、硬化膜と透明基材との界面の反射が大きくなり、反射防止部材として用いたとき、Moth−Eye構造によって硬化膜と空気との界面での反射を低く抑えたとしても、反射防止部材全体としての反射率が十分に低くならない。
【0027】
本発明の成形体は、反射防止フィルム、反射防止膜、反射防止物品、光導波路、レリーフホログラム、レンズ、偏光分離素子、光取り出し効率向上フィルム、1/2波長板、ローパスフィルター、水晶デバイス、太陽電池等の光学物品;細胞培養シート、超撥水性フィルム、超親水性フィルム等としての用途展開が期待でき、特に、反射防止部材(反射防止フィルム、反射防止膜、反射防止物品)としての用途に適している。
反射防止部材としては、例えば、画像表示装置(液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、陰極管表示装置等。)、自動車メーターカバー、レンズ、ショーウィンドー、眼鏡、1/2波長板、ローパスフィルター等の表面に設けられる反射防止膜、反射防止フィルム、反射防止シート等が挙げられる。
画像表示装置に用いる場合は、最表面上に反射防止膜を貼り付けてもよく、直接最表面を形成する材料上に反射防止膜を形成してもよく、画像表示装置の前面板に反射防止膜を設けてもよい。
【0028】
<成形体の製造方法1>
本発明の成形体の製造方法は、表面に凸部が形成された硬化膜を有する成形体の製造方法であって、下記工程を有する方法である。
(i)表面に細孔を有するモールドの表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を接触させる工程。
(ii)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が前記モールドの表面に接触した状態で、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させて、前記細孔に対応する突起を有する硬化膜を形成する工程。
(iii)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の平滑硬化膜の弾性率が1GPa未満となる温度にて、前記硬化膜と前記モールドとを分離することによって、前記硬化膜の表面の突起が2つ以上集合してなる凸部を形成する工程。
【0029】
(i)工程:
モールドは、特に限定されず、電子ビーム描画で作製されたもの、レーザー光干渉法によって作製されたもの、陽極酸化アルミナ等が挙げられ、大面積化が可能であり、ロールモールドの作製が簡便である点から、陽極酸化アルミナが好ましい。
【0030】
(陽極酸化アルミナ)
陽極酸化アルミナは、アルミニウムの多孔質の酸化皮膜(アルマイト)である。
【0031】
陽極酸化アルミナは、例えば、下記(a)〜(e)工程を経て製造できる。
(a)アルミニウムを電解液中、定電圧下で陽極酸化して酸化皮膜を形成する工程。
(b)酸化皮膜を除去し、陽極酸化の細孔発生点を形成する工程。
(c)アルミニウムを電解液中、再度陽極酸化し、細孔発生点に細孔を有する酸化皮膜を形成する工程。
(d)細孔の径を拡大させる工程。
(e)前記(c)工程と(d)工程を繰り返し行う工程。
【0032】
(a)工程:
アルミニウムの純度は、99%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.8%以上が特に好ましい。アルミニウムの純度が低いと、陽極酸化した時に、不純物の偏析により可視光を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で得られる細孔の規則性が低下したりすることがある。
電解液としては、硫酸、シュウ酸等が挙げられる。
【0033】
シュウ酸を電解液として用いる場合:
シュウ酸の濃度は、0.7M以下が好ましい。シュウ酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて酸化皮膜の表面が粗くなることがある。
化成電圧が30〜60Vの時、周期が100nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。電解液の温度が60℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0034】
硫酸を電解液として用いる場合:
硫酸の濃度は0.7M以下が好ましい。硫酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
化成電圧が25〜30Vの時、周期が63nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向がある。
電解液の温度は、30℃以下が好ましく、20℃以下がよりに好ましい。電解液の温度が30℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0035】
(b)工程:
酸化皮膜を一旦除去し、これを陽極酸化の細孔発生点にすることで細孔の規則性を向上することができる。
【0036】
酸化皮膜を除去する方法としては、アルミニウムを溶解せず、アルミナを選択的に溶解する溶液に溶解させて除去する方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、クロム酸/リン酸混合液等が挙げられる。
【0037】
(c)工程:
図2に示すように、酸化皮膜を除去したアルミニウム12を再度、陽極酸化すると、円柱状の細孔14を有する酸化皮膜16が形成される。
陽極酸化は、(a)工程と同様な条件で行えばよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0038】
(d)工程:
図2に示すように、細孔14の径を拡大させる処理(以下、細孔径拡大処理と記す。)を行う。細孔径拡大処理は、アルミナを溶解する溶液に浸漬して陽極酸化で得られた細孔の径を拡大させる処理である。このような溶液としては、例えば、5質量%程度のリン酸水溶液等が挙げられる。
細孔径拡大処理の時間を長くするほど、細孔径は大きくなる。
【0039】
(e)工程:
図2に示すように、(c)工程の陽極酸化と、(d)工程の細孔径拡大処理を繰り返すと、直径が開口部から深さ方向に連続的に減少する形状の細孔14を有する陽極酸化アルミナ(モールド10)が得られる。
繰り返し回数は、合計で3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。繰り返し回数が2回以下では、非連続的に細孔の直径が減少するため、このような細孔を有する陽極酸化アルミナを用いて製造された硬化膜(反射防止膜)の反射率低減効果が劣る。
【0040】
陽極酸化アルミナの表面は、硬化膜との分離が容易になるように、離型剤で処理されていてもよい。処理方法としては、例えば、シリコーン系ポリマーまたはフッ素ポリマーをコーティングする方法、フッ素化合物を蒸着する方法、フッ素系シランカップリング剤またはフッ素シリコーン系シランカップリング剤をコーティングする方法等が挙げられる。
陽極酸化アルミナの形状は、平板状、円柱状、円筒形状等が挙げられる。円柱状または円筒形状のモールドは、円柱状または円筒形状のアルミニウムからなるモールド、または円柱状または円筒形状の支持体の表面にアルミニウム層を有するモールドが挙げられる。
【0041】
モールドの細孔の形状としては、円錐形状、角錐形状、円柱形状等が挙げられ、本発明の成形体を反射防止部材として用いる場合、円錐形状、角錐形状等のように、深さ方向と直交する方向の細孔断面積が最表面から深さ方向に連続的に減少する形状が好ましい。
図2に示すような細孔14を有するモールド10を用いて製造された硬化膜の表面は、いわゆるMoth−Eye構造となり、有効な反射防止の手段となる。
【0042】
モールドの細孔の深さは、60nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。細孔の深さが90nm以上であれば、得られる硬化膜(反射防止膜)の反射率が十分に低くなる。
モールドの細孔のアスペクト比(深さ/周期)は、1.1以上が好ましく、1.3〜7がより好ましく、1.5〜5が特に好ましい。細孔のアスペクト比が1.1未満では、突起の弾性率が低くても単独突起の割合が多くなる。細孔のアスペクト比が7を超えるとモールドからの剥離性が著しく低下する。
【0043】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)
活性エネルギー線硬化性組成物は、重合性化合物および重合開始剤を含む。
重合性化合物としては、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマー等が挙げられる。
活性エネルギー線硬化性組成物は、非反応性のポリマー、活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物を含んでいてもよい。
【0044】
ラジカル重合性結合を有するモノマーとしては、単官能モノマー、多官能モノマーが挙げられる。
単官能モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート誘導体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリルアミド、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
多官能モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,2−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,4−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド等の二官能性モノマー;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート等の三官能モノマー;コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸の縮合反応混合物、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等の四官能以上のモノマー;二官能以上のウレタンアクリレート、二官能以上のポリエステルアクリレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
カチオン重合性結合を有するモノマーとしては、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基等を有するモノマーが挙げられ、エポキシ基を有するモノマーが特に好ましい。
【0047】
オリゴマーまたは反応性ポリマーとしては、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールとの縮合物等の不飽和ポリエステル類;ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物、側鎖にラジカル重合性結合を有する上述のモノマーの単独または共重合ポリマー等が挙げられる。
【0048】
非反応性のポリマーとしては、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物としては、例えば、アルコキシシラン化合物、アルキルシリケート化合物等が挙げられる。
【0049】
アルコキシシラン化合物としては、下記式(1)の化合物が挙げられる。
Si(OR’) ・・・(1)。
ただし、R、R’は、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基を表し、x、yは、x+y=4の関係を満たす整数を表す。
【0050】
アルコキシシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルブトキシシラン等が挙げられる。
【0051】
アルキルシリケート化合物としては、下記式(2)の化合物が挙げられる。
O[Si(OR)(OR)O] ・・・(2)。
ただし、R〜Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基を表し、zは、3〜20の整数を表す。
【0052】
アルキルシリケート化合物としては、メチルシリケート、エチルシリケート、イソプロピルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、n−ペンチルシリケート、アセチルシリケート等が挙げられる。
【0053】
光硬化反応を利用する場合、光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
電子線硬化反応を利用する場合、重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン;ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド;メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
熱硬化反応を利用する場合、熱重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物;前記有機過酸化物にN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等のアミンを組み合わせたレドックス重合開始剤等が挙げられる。
【0056】
重合開始剤の量は、重合性化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。重合開始剤の量が0.1質量部未満では、重合が進行しにくい。重合開始剤の量が10質量部を超えると、硬化膜が着色したり、機械強度が低下したりすることがある。
【0057】
活性エネルギー線硬化性組成物は、必要に応じて、帯電防止剤、離型剤、防汚性を向上させるためのフッ素化合物等の添加剤;微粒子、少量の溶剤を含んでいてもよい。
【0058】
モールドの表面に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を接触させる方法としては、下記(I)〜(III)の方法が挙げられる。
(I)図3に示すように、モールド10と透明基材24との間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物20を供給し、ニップロール等で圧延する方法。
(II)図3に示すように、モールド10の表面に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物20を塗布する方法。モールド10の表面に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物20を塗布した後、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物20の塗膜を透明基材24で覆ってもよい。
(III)図4に示すように、透明基材24上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物20を塗布した後、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物20の塗膜にモールド10を押し付ける方法。
【0059】
塗布方法としては、ローラーコート法、バーコート法、エアーナイフコート法等が挙げられる。
透明基材24としては、活性エネルギー線を透過できる基材、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース等)、ポリオレフィン、脂環式ポリオレフィン、水晶、ガラス等が挙げられる。
透明基材24の形状としては、フィルム、シート、射出成形品、プレス成形品等の溶融成形品等が挙げられる。
透明基材24の表面には、密着性を上げるための層、ハードコート層が形成されていてもよい。
【0060】
(ii)工程:
活性エネルギー線の照射は、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用いて行い、モールド10の表面に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物20が接触した状態(モールド10の表面に形成された細孔に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物20が充填された状態)で行う。
光照射エネルギー量は、100〜10000mJ/cmが好ましい。
【0061】
(iii)工程:
硬化膜とモールドとを分離する際の温度は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の平滑硬化膜の弾性率が1GPa未満となる温度であればよく、0〜100℃が好ましい。平滑硬化膜とは、表面に突起および凸部を有さない、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させてなる平滑な硬化膜を意味する。平滑硬化膜の弾性率は、例えば、フィッシャー・インストルメンツ製の超微小硬さ計等で測定できる。
【0062】
硬化膜とモールドとを分離する際の温度における、平滑硬化膜の弾性率は1GPa未満であり、0.01GPa〜0.8GPaがより好ましく、0.08GPa〜0.6GPaが最も好ましい。平滑硬化膜の弾性率が0.01GPa以上であれば、硬化膜の耐摩擦性等が十分となる。平滑硬化膜の弾性率が1GPa未満であれば、硬化膜とモールドとを分離した際に、硬化膜の表面の突起が2つ以上集合して、凸部が形成される。
【0063】
以上説明した本発明の成形体の製造方法にあっては、平滑硬化膜の弾性率が1GPa未満となる温度にて、硬化膜とモールドとを分離しているため、硬化膜の表面の突起が2つ以上集合してなる凸部が形成され、その結果、100nm以上の平均間隔を有し、かつ配列に規則性がない凸部が表面に形成された硬化膜を有する成形体が簡便に得られる。
【0064】
<成形体の製造方法2>
本発明の成形体の他の製造方法は、下記工程を有する方法である。
(iv)表面にアスペクト比(深さ/周期)が3.1以上の細孔を有するモールドの表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を接触させる工程。
(v)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が前記モールドの表面に接触した状態で、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させて、前記細孔に対応する突起を有する硬化膜を形成する工程。
(vi)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の平滑硬化膜の弾性率が1GPa以上となる温度にて、前記硬化膜と前記モールドとを分離することによって、前記硬化膜の表面の突起が2つ以上集合してなる凸部を形成する工程。
【0065】
(iv)工程:
モールドの細孔のアスペクト比以外は、上述の(i)工程と同様である。
モールドの細孔のアスペクト比(深さ/周期)は、3.1以上であり、3.1〜7がより好ましく、3.1〜5が特に好ましい。細孔のアスペクト比が1.1未満では、突起の弾性率が低くても単独突起の割合が多くなる。細孔のアスペクト比が7を超えるとモールドからの剥離性が著しく低下する。
【0066】
(v)工程:
上述の(ii)工程と同様である。
【0067】
(vi)工程:
平滑硬化膜の弾性率以外は、上述の(iii)工程と同様である。
硬化膜とモールドとを分離する際の温度における、平滑硬化膜の弾性率は1GPa以上であり、1GPa〜8GPaがより好ましく、1GPa〜5GPaが最も好ましい。平滑硬化膜の弾性率が高すぎると、モールドからの剥離時に硬化膜にクラックが入ることがある。平滑硬化膜の弾性率が1GPa以上でもアスペクト比が3.1以上であれば、硬化膜とモールドとを分離した際に、硬化膜の表面の突起が2つ以上集合して、凸部が形成される。
【0068】
以上説明した本発明の成形体の製造方法にあっては、モールドの細孔のアスペクト比が3.1以上であれば、平滑硬化膜の弾性率が1GPa以上でも、硬化膜の表面の突起が2つ以上集合してなる凸部が形成され、その結果、100nm〜400nmの平均間隔を有し、かつ規則性がない凸部が表面に形成された硬化膜を有する成形体が簡便に得られる。
【実施例】
【0069】
以下に本発明の実施例を示す。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例中における各種測定、評価は、下記方法にしたがって行った。
【0070】
(陽極酸化アルミナの細孔)
陽極酸化アルミナの一部を削り、断面にプラチナを1分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−7400F)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて、断面を観察し、細孔の周期、細孔の深さを測定した。
【0071】
(硬化膜の凸部)
成形体の破断面にプラチナを10分間蒸着し、陽極酸化アルミナと同様に断面を観察し、凸部(または単独突起)の平均間隔、凸部(または単独突起)の高さを測定した。各測定は、それぞれ50点について行い、平均値を求めた。
【0072】
(加重平均反射率)
透明基材の裏面を粗面化した後、つや消し黒色に塗った成形体について、分光光度計(日立製作所社製、U−4000)を用い、入射角5°、波長380〜780nmの範囲で相対反射率を測定し、JIS R3106に準拠して算出した。
【0073】
(平滑硬化膜の弾性率)
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をアルミニウム鏡面板とフィルムの間に充填してフィルム側から所定の積算光量の紫外線を照射することによって得られた、表面に凸部を有さない硬化膜について、超微小硬さ計(フィッシャー・インストルメンツ社製、フィッシャースコープHM2000)を用い、下記条件にて20℃で測定した。照射する紫外線の積算光量はモールド転写時の紫外線の積算光量と同様にした。
荷重速度:1mN/10秒、
保持時間:10秒、
荷重除荷速度:1mN/10秒、
圧子:ビッカース。
【0074】
(光取り出し効率向上率)
有機EL表示装置の最表面に本発明のフィルムを屈折率1.47の光学用両面テープで貼り付け5Vの電圧で全面駆動させ、輝度を測定した。
【0075】
〔モールドの製造〕
純度99.99%のアルミニウム圧延板を、過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨した。
(a)工程:
該アルミニウム板について、0.5Mシュウ酸水溶液中で、直流40V、温度16℃の条件で6時間陽極酸化を行った。
(b)工程:
酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に6時間浸漬して、酸化皮膜を除去した。
【0076】
(c)工程:
該アルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で陽極酸化を表1に示す時間行った。
(d)工程:
酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、32℃の5質量%リン酸に表1に示す時間浸漬して、細孔径拡大処理を行った。
【0077】
(e)工程:
前記(c)工程および(d)工程を合計で5回繰り返し、表1に示す周期、深さを有する略円錐形状の細孔を有する陽極酸化アルミナa〜eを得た。
陽極酸化アルミナを、オプツールDSX(ダイキン化成品販売社製)の0.1質量%希釈溶液に浸漬し、一晩風乾して、酸化皮膜表面のフッ素化処理を行った。
【0078】
【表1】

【0079】
〔活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の調整〕
表2、表3に示す割合で各成分を混合し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物A〜Fを調製した。
【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
〔フィルムの製造〕
メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、1,3−ブタジエンおよびメタクリル酸アリルを重合してなるゴム含有多段重合体の75質量部、およびアクリル樹脂(三菱レイヨン社製、BR80)の25質量部をあらかじめ溶融押し出しした後、製膜して、厚さ200μmのアクリル樹脂フィルムを得た。
【0083】
〔実施例1〕
(i)工程:
陽極酸化アルミナbの表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Aを数滴垂らし、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製、A4300)(以下、PETフィルムと記す。)を被せ、陽極酸化アルミナb全面に行き渡るようローラーで押し広げた。
(ii)工程:
PETフィルム側から、積算光量3200mJ/cmの紫外線を、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Aの塗膜に照射し、硬化性樹脂組成物Aの硬化を行った。
【0084】
(iii)工程:
20℃で硬化膜と陽極酸化アルミナbとを分離し、表面に凸部が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、凸部の構造、凸部間の平均間隔、凸部の高さ、反射率を表4に示す。
【0085】
〔実施例2〕
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Bを用いた以外は、実施例1と同様にして、表面に凸部が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、凸部の構造、凸部間の平均間隔、凸部の高さ、反射率を表4に示す。
【0086】
〔実施例3〕
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Cを用いた以外は、実施例1と同様にして、表面に凸部が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、凸部の構造、凸部間の平均間隔、凸部の高さ、反射率を表4に示す。
【0087】
〔実施例4〕
陽極酸化アルミナaを用いた以外は、実施例1と同様にして、表面に凸部が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、凸部の構造、凸部間の平均間隔、凸部の高さ、反射率を表4に示す。
【0088】
〔実施例5〕
陽極酸化アルミナc、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Cを用いた以外は、実施例1と同様にして、表面に凸部が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、凸部の構造、凸部間の平均間隔、凸部の高さ、反射率を表4に示す。
【0089】
〔実施例6〕
陽極酸化アルミナd、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Dを用いた以外は、実施例1と同様にして、表面に凸部が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、凸部の構造、凸部間の平均間隔、凸部の高さ、反射率を表4に示す。
【0090】
〔実施例7〕
陽極酸化アルミナe、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Eを用いた以外は、実施例1と同様にして、表面に凸部が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、凸部の構造、凸部間の平均間隔、凸部の高さ、反射率を表4に示す。
【0091】
〔実施例8〕
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Fを用いた以外は、実施例7と同様にして、表面に凸部が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、凸部の構造、凸部間の平均間隔、凸部の高さ、反射率を表4に示す。
【0092】
〔実施例9〕
PETフィルムの代わりに、アクリル樹脂フィルムを用い、紫外線の積算光量を400mJ/cmにした以外は、実施例1と同様にして、表面に凸部が形成された硬化膜とアクリル樹脂フィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、凸部の構造、凸部間の平均間隔、凸部の高さ、反射率、光取り出し効率向上率を表4に示す。
【0093】
〔実施例10〕
PETフィルムの代わりに、アクリル樹脂フィルムを用い、紫外線の積算光量を400mJ/cmにした以外は、実施例2と同様にして、表面に凸部が形成された硬化膜とアクリル樹脂フィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、凸部の構造、凸部間の平均間隔、凸部の高さ、反射率を表4に示す。
【0094】
〔比較例1〕
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Eを用い、紫外線の積算光量を400mJ/cmにした以外は、実施例1と同様にして、表面に単独突起が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、単独突起間の平均間隔、単独突起の高さ、反射率を表5に示す。
【0095】
〔比較例2〕
陽極酸化アルミナcを用いた以外は、比較例1と同様にして、表面に単独突起が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、単独突起間の平均間隔、単独突起の高さ、反射率を表5に示す。
【0096】
〔比較例3〕
陽極酸化アルミナdを用いた以外は、比較例1と同様にして、表面に単独突起が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、単独突起間の平均間隔、単独突起の高さ、反射率を表5に示す。
【0097】
〔比較例4〕
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Fを用いた以外は、比較例3と同様にして、表面に単独突起が形成された硬化膜とPETフィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、単独突起間の平均間隔、単独突起の高さ、反射率を表5に示す。
【0098】
〔比較例5〕
PETフィルムの代わりに、アクリル樹脂フィルムを用いた以外は、比較例1と同様にして、表面に単独突起が形成された硬化膜とアクリル樹脂フィルムとからなる成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、単独突起の割合、単独突起間の平均間隔、単独突起の高さ、反射率、光取り出し効率向上率を表5に示す。
【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の製造方法で製造された成形体は、反射防止フィルム、反射防止膜、反射防止物品、光導波路、レリーフホログラム、レンズ、自動車メーターカバー、偏光分離素子、有機エレクトロルミネッセンスの光取り出し効率向上フィルム、1/2波長板、ローパスフィルター、水晶デバイス等の光学物品;細胞培養シート、超撥水性フィルム、超親水性フィルム等としての用途展開が期待でき、特に、反射防止フィルム、反射防止膜、反射防止物品としての用途に適している。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例1で得られた成形体の断面の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】陽極酸化アルミナの製造工程の一部を示す断面図である。
【図3】本発明の成形体の製造方法の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の成形体の製造方法の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0103】
10 モールド
14 細孔
20 活性エネルギー線硬化性樹脂組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凸部が形成された成形体であって、
前記凸部が、下記突起が2つ以上集合してなるものであり、
集合して凸部を形成している突起の割合が、60%以上である、成形体。
(突起)
前記成形体の表面に形成された、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる複数の突起であり、該突起間の平均間隔が、400nm以下である突起。
【請求項2】
前記凸部の配列には規則性がなく、前記凸部の平均間隔が400nm以下である、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
表面に凸部が形成された硬化膜を有する成形体の製造方法であって、
(i)表面に細孔を有するモールドの表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を接触させる工程と、
(ii)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が前記モールドの表面に接触した状態で、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させて、前記細孔に対応する突起を有する硬化膜を形成する工程と、
(iii)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の平滑硬化膜の弾性率が1GPa未満となる温度にて、前記硬化膜と前記モールドとを分離することによって、前記硬化膜の表面の突起が2つ以上集合してなる凸部を形成する工程と
を有する、成形体の製造方法。
【請求項4】
表面に凸部が形成された硬化膜を有する成形体の製造方法であって、
(iv)表面にアスペクト比(深さ/周期)が3.1以上の細孔を有するモールドの表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を接触させる工程と、
(v)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が前記モールドの表面に接触した状態で、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させて、前記細孔に対応する突起を有する硬化膜を形成する工程と、
(vi)前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の平滑硬化膜の弾性率が1GPa以上となる温度にて、前記硬化膜と前記モールドとを分離することによって、前記硬化膜の表面の突起が2つ以上集合してなる凸部を形成する工程と
を有する、成形体の製造方法。
【請求項5】
前記モールドが、陽極酸化アルミナである、請求項3または4に記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
前記硬化膜が反射防止膜とされた反射防止部材である、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項7】
エレクトロルミネッセンスまたは発光ダイオードの光取り出し効率を向上させる部材である、請求項1または2に記載の成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−189914(P2008−189914A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2333(P2008−2333)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】