説明

成形体の加熱方法及び加熱装置

【課題】繊維が複数の方向に巻かれている場合にも、均一に且つ熱効率良く誘導加熱して成形体の樹脂を熱硬化させることができる、成形体の加熱方法及び加熱装置を提供すること。
【解決手段】樹脂11を含浸したカーボン繊維12がヘリカル巻き及びフープ巻きされた未硬化のタンクを加熱して樹脂11を熱硬化する際、誘導加熱コイル30の巻き方向をヘリカル巻きの方向に合わせた状態にして、誘導加熱コイル30による加熱を行う。その後、同じ誘導加熱コイル30を用いて、誘導加熱コイル30の巻き方向をフープ巻きの方向に合わせた状態にして、誘導加熱コイル30による加熱を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製タンクなど、導電性を有し且つ樹脂を含浸した繊維を巻き回した成形体を加熱する方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CFRP製タンクは、例えば燃料電池自動車に搭載される水素供給源として使用されている。CFRP製タンクは、略円筒状の内容器の外周面に、熱硬化性樹脂を含浸したカーボン繊維を巻き付けた後、加熱により熱硬化性樹脂を熱硬化させることで製造される。この熱硬化の方法として、従来から様々な方法が検討されており、そのうちの一つに高周波誘電加熱方法がある。
【0003】
特許文献1では、高周波誘導加熱炉内に未硬化の成形体(繊維強化樹脂積層体)をセットし、その成形体の周囲に配置した誘導加熱コイルにより誘導加熱することで、成形体の樹脂を硬化させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−335973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、誘導加熱の場合、誘導加熱コイルにおけるコイルの巻き方向が成形体における繊維の巻き方向に合っていないと、成形体を効率的に又は均一に加熱することができない。これは、繊維がカーボン繊維といった異方性の材料である場合、繊維の長手方向にしか誘導電流が流れにくく、加熱されにくいからである。この点、特許文献1では、両者の巻き方向の関係について何ら考慮されていなかった。
【0006】
一般的なCFRP製タンクでは、フープ巻き及びヘリカル巻きといった複数の方向にカーボン繊維が巻かれている。このため、仮に、フープ巻きに対応したコイル形状の誘導加熱コイルを用いたとしても、ヘリカル巻きのカーボン繊維は誘導加熱されにくく、全体として均一に加熱することができない。
【0007】
そこで、本発明は、繊維が複数の方向に巻かれている場合にも、均一に且つ熱効率良く誘導加熱して成形体の樹脂を熱硬化させることができる、成形体の加熱方法及び加熱装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するべく、本発明の成形体の加熱方法は、導電性を有し且つ樹脂を含浸した繊維が第1の方向及び第2の方向に巻き回された成形体を、成形体の周囲に配置した誘導加熱コイルにより加熱することで樹脂を熱硬化するものであって、誘導加熱コイルの巻き方向を第1の方向に合わせた状態で、誘導加熱コイルによる加熱を行う第1の工程と、第1の工程と同じ誘導加熱コイルを用い、誘導加熱コイルの巻き方向を第2の方向に合わせた状態で、誘導加熱コイルによる加熱を行う第2の工程と、を備えたものである。
【0009】
また、上記目的を達成するべく、本発明の成形体の加熱装置は、導電性を有し且つ樹脂を含浸した繊維が第1の方向及び第2の方向に巻き回された成形体を加熱することで樹脂を熱硬化するものであって、成形体の周囲に配置されて成形体を加熱する誘導加熱コイルと、誘導加熱コイルの巻き方向が第1の方向に合わさるように誘導加熱コイルを成形体に対して相対的に移動させると共に、誘導加熱コイルの巻き方向が第2の方向に合わさるように誘導加熱コイルを成形体に対して相対的に移動させる移動装置と、を備えたものである。
【0010】
本発明によれば、誘導加熱コイル及び繊維の両方の巻き方向を合わせた状態で誘導加熱できるので、繊維に渦電流が生じ易くなり、熱効率よく樹脂を熱硬化させることができる。また、繊維の巻き方向である第1の方向と第2の方向とのそれぞれに、誘導加熱コイルの巻き方向を合わせているので、全体を均一に誘導加熱することができる。さらに、単一の誘導加熱コイルを用いて、複数の繊維の巻き方向に対応した誘導加熱を行うことができる。このため、全ての巻き方向に対応した複雑なコイル形状の誘導加熱コイルを用意したり、あるいは、個々の巻き方向に対応したコイル形状の誘導加熱コイルを2個用意したりしなくて済み、誘導加熱コイルを簡素化し得る。
【0011】
ここで、誘導加熱コイル及び繊維の両方の巻き方向を合わせるとは、誘導加熱コイルが一回巻き回したときになす面と繊維が一回巻き回したときになす面とが平行になるという意味であり、両方の面が完全に平行となる場合のみならず、僅かな交差角度(例えば10°)があっても加熱効率の観点からは実質的に平行であると言い得る場合をも含むものである。
【0012】
好ましくは、第1の工程と第2の工程とを繰り返し行うとよい。こうすることで、両方の巻き方向の繊維を繰り返し誘導加熱するため、均一で効率的な誘導加熱を促進することができる。
【0013】
より好ましくは、第1の工程と第2の工程とを繰り返す際、成形体に対して誘導加熱コイルを回転させることで、誘導加熱コイルの巻き方向を第1の方向に合わせた状態と第2の方向に合わせた状態とをそれぞれ設定するとよい。こうすることで、成形体を回転させる場合に比べて、両者の巻き方向を容易に合わせることができる。
【0014】
好ましくは、成形体はタンクであり、第1の方向はヘリカル巻きの方向であり、第2の方向はフープ巻きの方向であるとよい。これにより、フープ巻きとヘリカル巻きとが混在するタンクであっても、熱効率良く誘導加熱することができる。
【0015】
より好ましくは、第1の工程は、誘導加熱コイルによる加熱中、誘導加熱コイルを不動にした状態でタンクをその軸線回りに回転させるとよい。こうすることで、ヘリカル巻きの繊維を短時間で誘導加熱することができる。
【0016】
より好ましくは、タンクは、互いに対向する両端部のうち一方の端部のみが軸線回りに回転可能に軸支されているとよい。こうすることで、タンクを回転させる軸が誘導加熱コイルに干渉することを回避し易い構成とすることができる。
【0017】
別の好ましい一態様によれば、第1の工程及び第2の工程の少なくとも一方では、誘導加熱コイルによる加熱中、誘導加熱コイルを不動にした状態で成形体を回転させるとよい。
【0018】
また、別の好ましい一態様によれば、成形体は、互いに対向する両端部のうち一方の端部のみが軸支されたタンクであり、第1の方向はヘリカル巻きの方向であり、第2の方向はフープ巻きの方向であり、第1の工程は、誘導加熱コイルによる加熱中、誘導加熱コイルを不動にした状態でタンクをその軸線回りに回転させるとよい。上述したように、ヘリカル巻きの繊維を短時間で誘導加熱することができる。
【0019】
好ましくは、繊維は、カーボン繊維であるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係るタンクを搭載した燃料電池自動車を示す模式図である。
【図2】実施形態に係るタンクの製造装置における繊維巻付け装置の概略を、当該タンクの一部の断面とともに示す図である。
【図3】実施形態に係るタンクにおける繊維の巻き方向を示す図であり、(a)はフープ巻きを示す図であり、(b)はヘリカル巻きを示す図である。
【図4】実施形態に係るタンクの製造装置における加熱装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。ここでは、成形体として、常圧よりも高い圧力で内容物を貯留可能な高圧タンクを例に説明する。
【0022】
図1に示すように、燃料電池自動車100は、例えば3つのタンク1を車体のリア部に搭載する。各タンク1は、燃料電池システム101の一部を構成し、ガス供給ライン102を通じて燃料電池104に燃料ガスを供給する。タンク1に貯留される燃料ガスは、可燃性の高圧ガスであり、例えば20MPaの圧縮天然ガス、又は、例えば35MPaあるいは70MPa水素ガスである。なお、タンク1は、車両のみならず、各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置設備(住宅、ビルなど)にも適用することができる。
【0023】
図2に示すように、タンク1は、内部に貯留空間2が画成されるように中空状に形成されたライナー3と、ライナー3の外表面を覆う補強繊維層4と、を有する。また、タンク1を全体形状の観点から見れば、タンク1は、円筒状の胴部6aと、胴部6aから離れるにつれて縮径する略半球体状の一対のドーム部6b、6bと、を有し、胴部6a及び一対のドーム部6b、6bによって、全体として例えば略楕円体状に形成されていると言える。一対のドーム部6b、6bの少なくとも一方の端部中央には、ライナー3の開口部を画定する口金8(参照:図3)が設けられており、この口金8に接続するバルブアッセンブリ(図示省略)を介して、貯留空間2とガス供給ライン102との間で燃料ガスの供給/排出がなされる。
【0024】
ライナー3は、タンク1の内容器とも換言される部分である。ライナー3は、ガスバリア性を有し、貯留ガスの外部への透過を抑制する。ライナー3の材質は、特に制限されるものではなく、例えば、金属を用いることができるが、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂その他の硬質樹脂を用いるのが好適である。
【0025】
補強繊維層4は、タンク1の外容器とも換言される部分である。補強繊維層4は、ライナー3の外表面のほぼ全面(口金8を除いた部分)に形成され、タンク1を補強する役割を果たす。補強繊維層4は、マトリックス樹脂11(以下、単に「樹脂11」という。)を含浸した繊維12をライナー3の外表面に巻回した後で、その樹脂を熱硬化してなるものである。
【0026】
樹脂11は、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などであり、ここでは絶縁性及び熱硬化性のエポキシ樹脂を用いている。
繊維12は、絶縁性を有するものであり、例えば、金属繊維、カーボン繊維などである。ここでは、カーボン繊維を用いている。
したがって、本実施形態の補強繊維層4は、エポキシ樹脂11がカーボン繊維12で補強されたCFRPである。
【0027】
樹脂11と繊維12との含有割合としては、樹脂及び繊維の種類、繊維強化方向、厚さ等に依存するが、通常、好ましくは樹脂11:繊維12=10〜80体積%:90〜20体積%、より好ましくはその比が25〜50体積%:75〜50体積%とされる。なお、補強繊維層4は、これらの構成材料の他に適宜の添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
次に、タンク1の製造方法、特に補強繊維層4を形成するプロセスについて説明する。
【0029】
このプロセスでは、樹脂11を含浸した繊維12をライナー3の外表面に巻回する巻付け工程と、巻き付けた繊維12に含浸している樹脂11を熱硬化することで補強繊維層4を形成する加熱工程と、が行われる。そのため、タンク1の製造装置20は、巻付け工程を実行する繊維巻付け装置22(参照:図2)と、加熱工程を実行する加熱24(参照:図4)と、を有する。なお、図2では補強繊維層4を示しているが、上述のとおり、補強繊維層4は、加熱工程を経ることで形成されるものである。
【0030】
図2に示すように、繊維巻付け装置22は、ボビン24から繊維12を繰り出し、その張力を張力調整部25で調整して、液状の樹脂11を貯留した樹脂槽26に浸す。これにより、繊維12に樹脂11を含浸させる。その後、繊維巻付け装置22は、樹脂11を含浸した繊維12を、所定の張力でライナー3の外表面に巻き付ける。この巻き付けは、シャフト27にライナー3を取り付け、シャフト27と共にライナー3を軸回りに回転させ、回転中のライナー3に対し、供給ユニット28から繊維12を供給することで行う。なお、他の実施態様では、供給ユニット28からライナー3に供給される繊維12は、プリプレグ状態のものであってもよい。
【0031】
ここで、巻き付け方法としては、例えば、フィラメントワインディング法(FW法)やテープワインディング法等が挙げられるが、その中でも、FW法を用いると好適である。本実施形態では、FW法により繊維12の巻き方向を異ならせた複数の巻付け、具体的にはフープ巻き及びヘリカル巻きを行っている。それゆえ、熱硬化後の補強繊維層4は、繊維12の巻き方向が異なる複数層(例えば、内側の層はフープ巻きによる層で、外側の層はヘリカル巻きによる層)から構成される。なお、その層の数、並びにフープ巻き及びヘリカル巻きの順番及び実施回数は任意である。
【0032】
図3(a)に示すように、フープ巻きとは、タンク軸線Y−Yに対し略直角(例えば89°)の巻回角度で、ライナー3の胴部6aに繊維12を周方向に巻回することをいう。また、図3(b)に示すように、ヘリカル巻きとは、タンク軸線Y−Yに対して斜めの巻回角度(例えば10°)で、ライナー3の胴部6a及びドーム部6b、6bに繊維12をらせん状に巻回することをいう。ヘリカル巻きの巻回角度(繊維12の配向角度)は、ライナー3の全長によって異なり、タンク軸線Y−Yに対して例えば10°〜350°の範囲での任意の角度が考えられる。なお、ヘリカル巻きには、巻回角度の大きさによって高角度ヘリカル巻きや低角度ヘリカル巻きと称されるものもあるが、本明細書におけるヘリカル巻きとは、そのいずれをも含む概念である。
【0033】
以下では、繊維12がフープ巻き(巻回角度:89°)とヘリカル巻き(巻回角度:10°)されている場合を例に、その加熱方法を説明する。
【0034】
図4(a)に示すように、加熱装置24は、ライナー3の周囲に配置された誘導加熱コイル30と、誘導加熱コイル30を回転させるためのコイル回転機構32と、ライナー3を軸支するシャフト34と、を備える。なお、図4(b)及び(c)では、コイル回転機構32及びシャフト34を省略している。
【0035】
誘導加熱コイル30は、ライナー3の外表面を囲うようなコイル形状36を有する。コイル形状36は、一続きのコイルが枠状に複数回巻き回されたものであり、ライナー3の外表面に対向して配置可能に構成されている。コイル形状36における一巻き部分は、互いに対向する一対の比較的長い部分と、互いに対向する一対の比較的短い部分とで構成される。コイル形状36におけるコイルの径・巻き数は、ライナー3の大きさ、肉厚、硬化時間等により適宜決定することができる。誘導加熱コイル30は、図示省略した高周波発生器から高周波電流を供給されることで、ライナー3の外表面を加熱する。
【0036】
コイル回転機構32は、図4(c)に示す如く誘導加熱コイル30の巻き方向がフープ巻きの方向に合わさるように、また、図4(b)に示す如く誘導加熱コイル30の巻き方向がヘリカル巻きの方向に合わさるように、誘導加熱コイル30を回転させるように構成されている。例えば、コイル回転機構32は、誘導加熱コイル30のうち、コイル形状36が画定する枠の外側へと延びた部分38を支持しており、この部分38を回転中心としてコイル形状36を回転させる。これにより、コイル形状36の巻き方向を、繊維12のフープ巻き及びヘリカル巻きのいずれの方向にも個々に合わせることができるようになっている。
【0037】
シャフト34は、ライナー3の一端部の口金8に取り付けられており、シャフト34の回転によって、ライナー3はタンク軸線Y−Y回りに回転する。なお、ライナー3の両端部に口金8を設けた場合であっても、シャフト34はライナー3の片側の口金8にのみ取り付けられる。これは、仮にシャフト34をライナー3の両側に取り付けると、コイル回転機構32による誘導加熱コイル30の回転がシャフト34に阻害されることになるからである。
【0038】
ここで、加熱装置24による加熱手順を具体的に説明する。
まず、図4(a)に示すように、加熱装置24にライナー3(未硬化のタンク1)をセットし、シャフト34をライナー3に取り付ける。この初期状態では、誘導加熱コイル30におけるコイル形状36の巻き方向は、ライナー3上の繊維12のフープ巻き及びヘリカル巻きのいずれの方向とも合わされていない。
【0039】
次に、図4(b)に示すように、コイル回転機構32によって誘導加熱コイル30を回転させ、コイル形状36の巻き方向を繊維12のヘリカル巻きの方向に合わせた状態に設定する。そして、この状態で、誘導加熱コイル30に高周波電流を供給する。すると、ヘリカル巻きされた繊維12に誘導電流が流れ、この繊維12が発熱する。これにより、ヘリカル巻きの繊維12に含浸されている樹脂11が加熱され、熱硬化されていく。なお、この場合、フープ巻きの繊維12には誘導電流が流れにくいため、これに含浸されている樹脂11は加熱されにくい。
【0040】
次いで、図4(c)に示すように、コイル回転機構32によって誘導加熱コイル30をさらに回転させ、コイル形状36の巻き方向を繊維12のフープ巻きの方向に合わせた状態に設定する。この状態で誘導加熱コイル30に高周波電流を供給すると、フープ巻きされた繊維12に誘導電流が流れ、この繊維12が発熱する。これにより、フープ巻きの繊維12に含浸されている樹脂11が加熱され、熱硬化されていく。なお、この場合、ヘリカル巻きの繊維12には誘導電流が流れにくいため、これに含浸されている樹脂11は加熱されにくい。
【0041】
ここで、図4(b)に示す状態での誘導加熱と図4(c)に示す状態での誘導加熱とは、繰り返し行うことが望ましい。その理由は、一方の誘導加熱を長時間行ってから他方の誘導加熱を長時間行うよりも、ヘリカル巻き及びフープ巻きの両方向の繊維12を繰り返し誘導加熱する方が、均一で熱効率の良い誘導加熱を促進することができるからである。したがって、両状態での誘導加熱が繰り返し行われるように、誘導加熱コイル30は、誘導加熱中、図4(b)に示す角度位置(すなわち10°)と図4(c)に示す角度位置(すなわち89°)との間で回動するサイクルを繰り返すとよい。なお、誘導加熱コイル30が図4(b)及び図4(c)に示す角度位置に留まる時間は、誘導加熱コイル30が両者の角度一間を移動する時間よりも長いことが好ましい。
【0042】
また、誘導加熱中は、シャフト34によってライナー3をタンク軸線Y−Y回りに回転させるとよい。特に、図4(b)に示す状態では、誘導加熱コイル30を不動にした状態で、ライナー3を回転させるとよい。こうすることで、ヘリカル巻きの繊維12を短時間で誘導加熱することができる。なお、誘導加熱中は、ライナー3と誘導加熱コイル30との干渉を阻止できる条件であれば、ライナー3をタンク軸線Y−Y方向に往復移動させることも可能である。こうすることで、コイル形状36の巻き数が少ない場合であっても、ライナー3の外表面の全体を加熱することができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、一つの単純形状の誘導加熱コイル30をコイル配向(巻き方向)と略90°ずれた方向に回転させることで、コイル形状36の巻き方向をヘリカル巻き及びフープ巻きの両方向に合わせることができ、且つ、これらの状態で両者の繊維12をそれぞれ熱効率良く誘導加熱することができる。したがって、フープ巻きとヘリカル巻きとが混在する未硬化のタンクであっても、熱効率良く均一に誘導加熱して樹脂11を熱硬化させることができ、熱硬化したタンク1を製造することができる。
【0044】
加えて、加熱装置24の設備を簡素化することができる。すなわち、本実施形態と異なり、フープ巻きとヘリカル巻きのそれぞれに対応したコイル形状の誘導加熱コイルを2つ用意したのでは、誘導加熱コイルとしての部品点数が増えると共に、加熱途中で誘導加熱コイルを交換する必要が生じる。また、本実施形態と異なり、フープ巻きとヘリカル巻きの両方に対応したコイル形状の誘導加熱コイルでは、コイル形状が複雑となり、ハンドリングが困難となり得る。この点、本願実施形態によれば、単一の誘導加熱コイル30を用いて繊維12の両方の巻き方向に対応させているので、誘導加熱コイル30を簡素化して、そのハンドリング性を向上することができる。また、本実施形態の如く枠状のコイル形状36とすることで、加熱装置24に対するワーク(未硬化のタンク・硬化後のタンク)の搬入出が容易となる。
【0045】
<変形例>
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、当業者であれば、後記の特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0046】
誘導加熱中、ライナー3に対して誘導加熱コイル30を所定範囲(上記の例では、10°〜89°の範囲)で回動させるのではなく、ライナー3を回動させることで繊維12の巻き方向と誘導加熱コイル30の巻き方向とを合わせることも可能である。すなわち、誘導加熱コイル30をライナー3に対して相対的に移動させる移動機構があれば足り、その一例が上記のコイル回転機構32である。ただし、上記実施形態の如く、誘導加熱コイル30を回動させる方が容易である。
【0047】
また、フープ巻きとヘリカル巻きの二つの巻回方向を例に説明したが、これら以外の第3の方向に繊維12を巻き回してもよい。この場合にも、誘導加熱中に、第3の方向の巻回方向に導加熱コイル30の巻き方向が合うようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本実施形態は、複数の方向に繊維を巻いている成形体であれば適用することができ、タンク1以外のそのようなものとしては、配管や管継手の他、車両などの移動体のボディを挙げることができる。
【符号の説明】
【0049】
1:タンク、 3:ライナー、 4:補強繊維層、 11:樹脂、 12:繊維、 20:製造装置、 22:繊維巻付け装置、 24:加熱装置、 30:誘導加熱コイル、 32:コイル回転機構(移動機構)、 Y−Y:タンク軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有し且つ樹脂を含浸した繊維が第1の方向及び第2の方向に巻き回された成形体を、当該成形体の周囲に配置した誘導加熱コイルにより加熱することで前記樹脂を熱硬化する、成形体の加熱方法であって、
前記誘導加熱コイルの巻き方向を前記第1の方向に合わせた状態で、当該誘導加熱コイルによる加熱を行う第1の工程と、
前記第1の工程と同じ誘導加熱コイルを用い、当該誘導加熱コイルの巻き方向を前記第2の方向に合わせた状態で、当該誘導加熱コイルによる加熱を行う第2の工程と、を備えた、成形体の加熱方法。
【請求項2】
前記第1の工程と前記第2の工程とを繰り返し行う、請求項1に記載の成形体の加熱方法。
【請求項3】
前記第1の工程と前記第2の工程とを繰り返す際、前記成形体に対して前記誘導加熱コイルを回転させることで、当該誘導加熱コイルの巻き方向を前記第1の方向に合わせた状態と前記第2の方向に合わせた状態とをそれぞれ設定する、請求項2に記載の成形体の加熱方法。
【請求項4】
前記成形体は、タンクであり、
前記第1の方向は、ヘリカル巻きの方向であり、
前記第2の方向は、フープ巻きの方向である、請求項3に記載の成形体の加熱方法。
【請求項5】
前記第1の工程は、前記誘導加熱コイルによる加熱中、当該誘導加熱コイルを不動にした状態で前記タンクをその軸線回りに回転させる、請求項4に記載の成形体の加熱方法。
【請求項6】
前記タンクは、互いに対向する両端部のうち一方の端部のみが前記軸線回りに回転可能に軸支されている、請求項5に記載の成形体の加熱方法。
【請求項7】
前記第1の工程及び前記第2の工程の少なくとも一方では、前記誘導加熱コイルによる加熱中、当該誘導加熱コイルを不動にした状態で前記成形体を回転させる、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の成形体の加熱方法。
【請求項8】
前記成形体は、互いに対向する両端部のうち一方の端部のみが軸支されたタンクであり、
前記第1の方向は、ヘリカル巻きの方向であり、
前記第2の方向は、フープ巻きの方向であり、
前記第1の工程は、前記誘導加熱コイルによる加熱中、当該誘導加熱コイルを不動にした状態で前記タンクをその軸線回りに回転させる、請求項1に記載の成形体の加熱方法。
【請求項9】
前記第1の工程と前記第2の工程とを繰り返し行う、請求項8に記載の成形体の加熱方法。
【請求項10】
前記繊維は、カーボン繊維である、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の成形体の加熱方法。
【請求項11】
導電性を有し且つ樹脂を含浸した繊維が第1の方向及び第2の方向に巻き回された成形体を加熱することで前記樹脂を熱硬化する、成形体の加熱装置であって、
前記成形体の周囲に配置され、当該成形体を加熱する誘導加熱コイルと、
前記誘導加熱コイルの巻き方向が前記第1の方向に合わさるように前記誘導加熱コイルを前記成形体に対して相対的に移動させると共に、前記誘導加熱コイルの巻き方向が前記第2の方向に合わさるように前記誘導加熱コイルを前記成形体に対して相対的に移動させる移動装置と、を備えた、成形体の加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−192621(P2012−192621A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58184(P2011−58184)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】