説明

成形体の製造方法

【課題】ポリオレフィン樹脂とアクリル系樹脂とを密着性よく積層した耐候性、形態保持性に優れた成形体の製造法を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂基材(A)上に、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルを少なくとも含む重合性アクリル系樹脂原料をラジカル重合させてアクリル系樹脂層(B)を形成することを特徴とする成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂基材を用いた成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系単量体の重合体であるポリオレフィン系樹脂は、機械的性質や耐薬品性に優れる上に、低コストで成形加工が容易であることから、多種の用途に幅広く利用されている。さらに、ポリオレフィン系樹脂は、リサイクル性にも優れることから、近年の地球環境問題を背景としてその用途はより一層拡大しつつある。
【0003】
一方、ポリオレフィン系樹脂は、表面硬度、耐侯性に劣るという欠点を有している。この欠点を改良するため、ポリオレフィン系樹脂上に表面硬度、耐侯性に優れた樹脂組成物を積層しようとする試みがなされている。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は非極性であることから、ポリオレフィン系樹脂基材表面に、ポリオレフィン系樹脂以外の他種ポリマー樹脂を塗装や接着等によって積層することは困難であった。そのため、ポリオレフィン系樹脂基材表面に、ポリオレフィン系樹脂以外の他種ポリマーを積層する場合には、ポリオレフィン系樹脂基材表面にプラズマ処理、火炎処理、紫外線照射処理、クロム酸処理などの表面処理を施し、その表面を活性化させて、その付着性を改良する方法が一般に採用されている。
【0004】
しかしながら、このような表面処理は付加的な処理であるため、他種ポリマー樹脂の塗装等の表面処理工程が複雑になり、多額の設備費や時間を要していた。また、成形物の形や大きさ、樹脂中に含まれる顔料や添加物の影響により、表面処理効果にバラつきが生じやすいという不都合を有していた。
そこで、前述した表面処理を施さずにポリオレフィン系樹脂に他種ポリマーを積層する方法が提案されている。その方法としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂に対して強い付着力を有する塩素化ポリオレフィンを積層する方法(例えば、特許文献1参照)や、長鎖アルキル(メタ)アクリレートを粘着性付与成分とし、これに脂環式(メタ)アクリレートを凝集モノマーとして共重合した接着剤を用いる方法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法においては、含塩素化合物を用いているため、耐候性に劣り、また、昨今の環境問題への関心の高まりから、塩素化ポリオレフィンの使用を回避する傾向がある上に、近年では、塩素を含まない積層体の要求が急速に高まっている。
また、特許文献2に記載の方法においては、粘着性付与成分である長鎖アルキル(メタ)アクリレートと、凝集モノマーである脂環式(メタ)アクリレートとの共重合体のガラス転移温度が室温以下であるため、室温において形態保持できず成形できなかった。また、当該樹脂を接着剤として使用する場合、室温以上の環境下においてポリオレフィン系樹脂との密着性が低下してしまう問題点があった。
【0006】
【特許文献1】特公昭63−24628号公報
【特許文献2】特開平6−128544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、簡便に製造され、塩素原子を含む化合物を使用することなく、室温以上の環境下においてもポリオレフィン系樹脂とアクリル系樹脂の密着性が良好であり、なおかつ耐候性、形態保持性に優れた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述した従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の(メタ)アクリル酸エステル単量体を含有する重合性原料をアクリル系樹脂原料をポリオレフィン樹脂上でラジカル重合させて得られた成形体が、ポリオレフィン系樹脂とアクリル系樹脂の密着性に優れ、なおかつ耐候性、形態保持性に優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、ポリオレフィン系樹脂基材(A)上に、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルを少なくとも含む重合性アクリル系樹脂原料をラジカル重合させて、アクリル系樹脂層(B)を形成することを特徴とする成形体の製造方法、及び2つのポリオレフィン系樹脂基材の間に、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルを少なくとも含む重合性アクリル系樹脂原料を注入して、ラジカル重合させて、アクリル系樹脂層(B)を形成することを特徴とする成形体の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明において得られる成形体は、簡便に製造され、塩素原子を含む化合物を使用することなく、室温以上の環境下においてもポリオレフィン系樹脂基材とアクリル系樹脂との密着性が良好であり、かつ、耐候性、形態保持性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
ポリオレフィン系樹脂基材(A)は、ポリオレフィン系樹脂を、射出成形、圧縮成形、中空成形、押出成形、回転成形等、公知の成形法によって成形したものである。その形状としては、フィルム、シート、円柱など任意の形状であってよい。
ここで、ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、高圧法ポリエチレン、中低圧法ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、ポリスチレン等のポリオレフィン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体等が好適に用いられる。
【0012】
本発明において重合性アクリル系樹脂原料とは、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルとラジカル重合開始剤が含有されるものをいう。(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルはそのまま使用してもよいし、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルの一部が予め重合されているものを使用してもよい。重合性アクリル系樹脂原料は、他の単量体を含んでいてもよい。
室温以上の環境下において、ポリオレフィン系樹脂基材(A)への良好な密着性を得るためには、重合性アクリル系樹脂原料中の単量体は(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体が50〜100質量%であることが好ましい。より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体が50質量%未満の場合、(メタ)アクリル系樹脂層(B)がポリオレフィン系樹脂基材に対し、十分な密着性を得られない場合がある。
また、他の単量体としては、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルとラジカル共重合できるものであれば、特に制限なく使用することができる。
【0013】
他の単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロペプチル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル、(メタ)アクリル酸3,3,5−トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸シクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジフェニルメチル、(メタ)アクリル酸トリフェニルメチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸t−アミル、(メタ)アクリル酸ジプロピルメチル、(メタ)アクリル酸トリプロピルメチル、(メタ)アクリル酸ジイソプロピルメチル、(メタ)アクリル酸トリイソブチルメチル、(メタ)アクリル酸ジ−t−ブチルメチル、(メタ)アクリル酸トリ−t−ブチルメチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ビシクロ[2,2,1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物等のα,β−不飽和カルボン酸類;N−フェニルマレイミド,N−シクロヘキシルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド等のマレイミド類;カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル等のビニルエステル類;ブタジエン、イソプレン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン等のジエン類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート等の窒素含有単量体;アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有単量体;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o,p−ジメチルスチレン等のモノ若しくはポリアルキルスチレン等の芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
これらは単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
また、重合性アクリル系樹脂原料は、架橋剤、分子量調整剤などを含んでいてもよい。
【0014】
架橋剤の具体例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ジ(メタ)アクリル酸ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸テトラメチロール、(メタ)アクリル酸アリル、トリアリルシアヌレートなどを挙げられる。これらの架橋剤は単独で用いることも、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0015】
また、分子量調整剤としては,通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いればよく、例えば炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノールあるいはそれらの混合物などのメルカプタン系連鎖移動剤が挙げられ、これらが1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0016】
重合性アクリル系樹脂原料に含まれるラジカル重合開始剤は(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルに相溶できるものであれば、特に制限なく使用することができ、このようなラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物あるいはアゾ化合物がある。有機過酸化物の具体例としては、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
【0017】
一方、アゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)等が挙げられる。
これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂基材(A)に対し、アクリル樹脂層(B)の良好な密着性を得るには、有機過酸化物であることが好ましい。
これらラジカル重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
ラジカル重合開始剤量は、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルを含有する単量体100質量部に対して0.001〜20質量部の範囲内であることが好ましい。ラジカル重合開始剤が少なすぎると、重合反応が円滑に進まない場合があり、多すぎると、ポリオレフィン系樹脂基材(A)表面部が分子開裂により低分子化してしまう。ラジカル重合開始剤量は、より好ましくは0.01〜15質量部であり、さらに好ましくは0.1〜10質量部である。
【0019】
ラジカル重合させる温度は、使用したラジカル重合開始剤が分解する範囲であれば特に制限ないが、通常30〜150℃である。
【0020】
本発明において重合性アクリル系樹脂原料は、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、耐放射線剤、熱安定剤などの各種安定剤;無機顔料、染料等の着色剤;カーボンブラック、フェライト等の導電性付与剤;その他、無機充填剤、滑剤、可塑剤、中和剤、架橋剤などをさらに含有してもよい。
また、ラジカル重合して得られるアクリル系樹脂層(B)のアクリル系樹脂は、形成されるアクリル系樹脂層(B)の強度、及び形態保持性の点から、その数平均分子量が5000〜500000であることが好ましく、10000〜300000であることがより好ましい。
【0021】
次に、ポリオレフィン系樹脂基材(A)にアクリル系樹脂層(B)を形成する方法について具体的に説明する。
ポリオレフィン系樹脂基材(A)に重合性アクリル系樹脂原料を塗布する方法としては、重合性アクリル系樹脂原料をスプレーガンにより基材に吹きつけるスプレー法や、基材に流延させて塗布する流延法など公知の方法が使用できる。また、任意に型どられたポリオレフィン系樹脂基材(A)中や、対向させた2つのポリオレフィン樹脂基材の間に重合性アクリル系樹脂原料を注入することもできる。
【0022】
重合性アクリル系樹脂原料をポリオレフィン系樹脂基材(A)上へ流延する場合、均一な厚みのアクリル系樹脂層(B)を得るために、重合性アクリル系樹脂原料は好適な有機溶剤などで希釈して用いることもできる。用いられる有機溶剤としては、重合性アクリル系樹脂原料が相溶できるものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、トルエン、キシレン、スワゾール#1000(丸善石油化学(株)製)、ソルベッソ#150(エクソン化学(株)製)などの芳香族系炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート;DBE(デュポン(株)製)などのようなエステル類;n−ブタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノールなどのようなアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのようなグリコール系溶剤;ミネラルターペン、アイソパーE(エクソン化学(株)製)などのような脂肪族炭化水素類が挙げられる。これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂基材(A)に対し、アクリル系樹脂層(B)の良好な密着性を得るには、芳香族系炭化水素であることが特に好ましい。
【0023】
アクリル系樹脂層(B)は、重合性アクリル系樹脂原料を塗布したポリオレフィン系樹脂基材(A)を大気中、または窒素雰囲気下中で一般に加温下、所定時間保持することで形成される。
【0024】
このようにして製造された成形体の中でも積層体が適している。積層体においては、ポリオレフィン系樹脂層の片面にアクリル系樹脂が形成されていてもよいが、ポリオレフィン系樹脂層の両面にアクリル系樹脂層が形成されていれば、積層体の耐候性がより高くなる。また、アクリル系樹脂層の両面にポリオレフィン系樹脂層が形成されていれば、アクリル系樹脂層がポリオレフィン系樹脂同士を接着させる際の強力な接着層となる。
【0025】
以上、説明した通り、本発明においては塩素原子を含む化合物を使用していないので、環境への負荷が小さく、耐候性に優れている。また、アクリル系樹脂層(B)は、ポリオレフィン系樹脂基材(A)上で、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルを少なくとも含む重合性アクリル系樹脂原料をラジカル重合させて得られるため、ポリオレフィン系樹脂に対する密着性が高い。さらに、アクリル系樹脂の通常のガラス転移温度は室温を越えているため、形態保持性に優れている。しかも、特殊な処理を要さないで簡便に製造できる。
【0026】
このような成形体は、自動車部品用成形体、家電製品用成形体、食品包装などの各種フィルム積層体として特に好適に用いることができる。
なお、このような成形体のアクリル系樹脂層は、ポリオレフィン系樹脂基材以外の他の樹脂基材に対しても高い密着性で密着できる。ここで、ポリオレフィン系樹脂基材以外の他の樹脂基材としては、例えば、ポリメチルメタクリレートなどからなるアクリル樹脂板、ポリプロピレンと合成ゴムからなる成形体、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂等からなる自動車バンパーなどの自動車部品用成形体、家電製品用成形体、食品包装などの各種フィルム積層体などが挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。なお、以下の記載において「質量部」は「部」と、「質量%」は「%」と略記する。
なお、実施例及び比較例においては、以下の評価を行った。
【0028】
(1)密着性試験
碁盤目(1mm間隔、100マス)にカットした基材上のアクリル系樹脂層に粘着テープを貼り付けた後に、そのテープを引き剥がす剥離テストにより付着率(基材に残ったマスの数)を求めて評価した(JIS K 5400)。その結果は、(基材に残ったマスの数)/100マス)で表される。
(2)耐候性試験
カーボンアーク式のサンシャインウェザーメーター(SWOM)を用いて2000時間試験後、試験体である積層体の表面観察及び上記(1)の密着性試験を行い評価した。その際の評価は、積層体の表面にクラック及び白化等が目視で認められる場合を×、認められない場合を○とした。
(3)接着剥離強度測定
テンシロンUTM−1−2500(東洋ホールディング(株)製)を用いて行った。具体的には、図2に示すように、接着試験片の上側の基材1の両端を固定治具3,3上に載せ、下側の基材1の2箇所に力(矢印で示す)を加え、剥離速度を2mm/minにて試験片を剥離し、その際の応力を接着剥離強度として測定した。
【0029】
(参考例1)
アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル100部とベンゾイルパーオキサイド1部の混合物を窒素バブリングすることにより窒素置換し、重合性アクリル系樹脂原料(A−1)を得た。
(参考例2)
アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル100部の代わりにメタクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル100部を用いた以外は参考例1と同様に操作して、重合性アクリル系樹脂原料(A−2)を得た。
(参考例3)
アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル100部の代わりにアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル80部とメタクリル酸メチル20部の混合物を用いた以外は参考例1と同様に操作して、重合性アクリル系樹脂原料(A−3)を得た。
(参考例4)
ベンゾイルパーオキサイド1部の代わりにベンゾイルパーオキサイド3部を用いた以外は参考例1と同様に操作して、重合性アクリル系樹脂原料(A−4)を得た。
(参考例5)
アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル100部の代わりに、アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル99部とジメタクリル酸1,3−ブチレングリコール0.5部とn−オクチルメルカプタン0.5部の混合物を用いた以外は、参考例1と同様に操作して、重合性アクリル系樹脂原料(A−5)を得た。
【0030】
(参考例6)
アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル100部の代わりに、アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル90部とアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル重合体10部の混合物を用いた以外は、実施例1と同様に操作して、重合性アクリル系樹脂原料(A−6)を得た。なお、アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル重合体として合成例1で得られたものを用いた。
(合成例1)
1L冷却管付フラスコにアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル100部と、トルエン100部とを仕込み、窒素バブリングにより雰囲気を窒素置換した。次いで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.1部を加えた後、内温が70℃になるまで昇温させ、同温度で5時間保持し重合を完結させた。得られた重合溶液にトルエン200部を添加して、重合体を完全に溶解させた後、メタノール5000部中に投じ、沈殿物をろ過して白色固体を得た。この白色固体をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して精製し、アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル重合体を得た。この重合体の数平均分子量は98000であった。
(参考例7)
アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル100部の代わりにメタクリル酸メチル100部を用いた以外は、参考例1と同様に操作して、重合性アクリル系樹脂原料(A−7)を得た。
【0031】
(実施例1〜6)
参考例1〜6で得られた重合性アクリル系樹脂原料(A−1)〜(A−6)を、射出成形により作製したポリプロピレン樹脂板(PP;日本ポリケム(株)製ノバテックPP TX1810A、平板、3mm厚)の片面に厚さ10μmとなるように流延法にて塗布し、イナートオーブン(ヤマト科学(株)製、DN63HI)中で85℃、窒素雰囲気下に240分保持して重合を完結させ、アクリル系樹脂層を形成させた。ポリプロピレン樹脂板に対する密着性試験の結果、ならびに耐候性試験の結果を表1に示す。
【0032】
(比較例1)
重合性アクリル系樹脂原料(A−1)〜(A−6)の代わりに参考例7で得られた重合性アクリル系樹脂原料(A−7)を用いた以外は実施例1と同様に操作してアクリル系樹脂層を形成させた。ポリプロピレン樹脂板に対する密着性試験の結果、ならびに耐候性試験の結果を表1に示す。
【表1】

【0033】
(実施例7〜12)
参考例1〜6で得られた重合性アクリル系樹脂原料(A−1)〜(A−6)を、ポリプロピレン樹脂製基材(日本ポリケム(株)製、ノバテックPP、TX1810A、64×12.6×6mm)の中央部分に、20μl塗布し、図1のように、ポリプロピレン樹脂製基材1同士を十字になるよう重ね合わせた(接着面2のサイズ:1.26cm×1.26cm)。500gの荷重下、室温で15分間放置後、イナートオーブン(ヤマト科学(株)製、DN63HI)中に100℃、窒素雰囲気下にて60分保持して重合を完結させ、ポリプロピレン樹脂製基材1、1の間にアクリル系樹脂層2が挟み込まれた計3層の積層体を得た。ポリプロピレン製基材に対する接着剥離強度測定の結果を表2に示す。
【0034】
(比較例2)
重合性アクリル系樹脂原料(A−1)〜(A−6)の代わりに参考例7で得られた重合性アクリル系樹脂原料(A−7)を用いた以外は実施例1と同様に操作してポリプロピレン製基材の間にアクリル系樹脂層が挟み込まれた計3層の積層体を得た。ポリプロピレン製基材に対する接着剥離強度測定の結果を表2に示す。
【表2】

【0035】
実施例1〜6の積層体では、ポリプロピレン基材上で(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルを少なくとも含む重合性アクリル系樹脂原料がラジカル重合されてアクリル系樹脂層が形成されているため、密着性、耐候性ともに優れていた。しかも、アクリル系樹脂のガラス転移温度は室温を越えていたため、形態保持性に優れ、取り扱いやすかった。一方、比較例1では、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルではないメチルメタクリレートを用いたので密着性が低かった。また、実施例7〜12では、ポリプロピレン製基材が(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルを少なくとも含む重合性アクリル系樹脂原料により重合接着されているため、接着剥離強度が高かった。一方、比較例2では(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルではないメチルメタクリレートを用いたので接着剥離強度が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明で得られる成形体は、ポリオレフィン樹脂と各種樹脂とを組合せ、自動車部品用成形体、家電製品成形体、食品包装等の各種フィルム積層体として広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】接着剥離試験に供しようとする接着試験片(1)を示す斜視図である。
【図2】接着剥離試験の様子を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1 接着剥離試験片
2 アクリル樹脂層
3 固定治具
矢印は力を加える方向を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂基材(A)上に、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルを少なくとも含む重合性アクリル系樹脂原料をラジカル重合させて、アクリル系樹脂層(B)を形成することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項2】
2つのポリオレフィン系樹脂基材(A)の間に、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルを少なくとも含む重合性アクリル系樹脂原料を注入してラジカル重合させてアクリル系樹脂層(B)を形成することを特徴とする成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−257229(P2006−257229A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75412(P2005−75412)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】