説明

成形体及び成形体の製造方法

【課題】軽量性、断熱性、剛性、クッション性及びリサイクル性のいずれにも優れた成形体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を発泡させることにより形成された成形体1であって、複数の気泡2aを含有し、気泡2aの長径が400〜800μm、かつアスペクト比が2.0以上である中央層2と、複数の独立気泡3a,4aを含有し、独立気泡3a,4aの気泡径が30〜300μm、かつアスペクト比が1.0以上、2.0未満である第1,第2の独立気泡層3,4と、第1,第2の非発泡層5,6とを備え、第1の非発泡層5と、第1の独立気泡層3と、中央層2と、第2の独立気泡層4と、第2の非発泡層6とがこの順で積層されている成形体1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を発泡させることにより形成された成形体及び該成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費を向上させるために、自動車の内装部品の軽量化が求められている。特に、内装部品が大型であったり、多数の内装部品が用いられたりする場合には、該内装部品の軽量化が強く求められている。さらに、環境負荷を小さくするために、上記内装部品を構成する材料の使用量を少なくすることが求められている。
【0003】
内装部品を軽くでき、かつ内装部品を構成する材料の使用量を少なくすることができるので、内装部品として発泡成形体が用いられている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、発泡成形体を用いて得られた自動車用ドアトリムが開示されている。この自動車用ドアトリムの芯材は、ビーズ状の発泡剤を含有する樹脂粒子を、型内で発泡させることにより形成された発泡成形体である。上記樹脂粒子は、加熱されると発泡し、膨張し、表面が溶融状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−229024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発泡成形体は、発泡構造を有しない成形体に比べて、軽量であり、かつ原材料の使用量も低減できる。また、上記発泡成形体の断熱性は比較的高い。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の発泡成形体の剛性は比較的低かった。このため、上記発泡成形体の取り付けの際に、上記発泡成形体が変形することがあった。
【0008】
上記発泡成形体の肉厚を厚くすることにより、剛性を高くすることができる。しかしながら、上記発泡成形体の肉厚を厚くした場合、発泡成形体の体積が大きくなり、かつ発泡成形体が重くなる。
【0009】
また、上記内装部品には、軽量性、断熱性及び剛性に優れているだけでなく、クッション性及びリサイクル性が高いことも求められている。
【0010】
本発明の目的は、軽量性、断熱性、剛性、クッション性及びリサイクル性のいずれにも優れた成形体及び該成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を発泡させることにより形成された成形体であって、複数の気泡を含有し、前記気泡の長径が400〜800μm、かつアスペクト比が2.0以上である中央層と、複数の独立気泡を含有し、前記独立気泡の気泡径が30〜300μm、かつアスペクト比が2.0未満である第1,第2の独立気泡層と、第1,第2の非発泡層とを備え、前記第1の非発泡層と、前記第1の独立気泡層と、前記中央層と、前記第2の独立気泡層と、前記第2の非発泡層とがこの順で積層されている、成形体が提供される。
【0012】
本発明に係る成形体のある特定の局面では、成形体が厚み方向に切断されたときの全断面積100%に占める、前記中央層の断面積は40〜70%、前記第1,第2の独立気泡層の合計の断面積は10〜30%、かつ前記第1,第2の非発泡層の合計の断面積は10〜20%である。
【0013】
本発明に係る成形体の他の特定の局面では、前記第1,第2の非発泡層の少なくとも一部の領域の比重は、発泡前の前記熱可塑性樹脂組成物の固体状態での比重と略同一である。
【0014】
本発明に係る成形体の他の特定の局面では、前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂と、前記ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して3〜15重量部のポリエチレン系樹脂とを含む。
【0015】
本発明の別の特定の局面では、成形体は、厚み0.1〜1.5mmの発泡前の熱可塑性樹脂組成物を、発泡後の厚みが発泡前の厚みの2.5倍以上となるように発泡させることにより形成されている。
【0016】
本発明に係る成形体の別の特定の局面では、前記中央層の気泡の長さ方向は、成形体の厚み方向と略同一である。
【0017】
また、本発明によれば、厚み0.1〜1.5mmの発泡前の熱可塑性樹脂組成物を、発泡後の厚みが発泡前の厚みの2.5倍以上となるように発泡させる、成形体の製造方法が提供される。
【0018】
本発明に係る成形体の製造方法のある特定の局面では、前記中央層の気泡の長さ方向が、成形体の厚み方向と略同一となるように、発泡前の熱可塑性樹脂組成物が発泡される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る成形体は、長径400〜800μm、かつアスペクト比2.0以上の複数の気泡を含有する中央層と、気泡径30〜300μm、かつアスペクト比2.0未満の第1,第2の独立気泡層と、第1,第2の非発泡層とが積層された構造を有するため、軽量化でき、かつ断熱性、クッション性及びリサイクル性を高くすることができる。さらに、成形体を取り付ける際に成形体が変形しない程度に、成形体の剛性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る成形体を示す部分切欠断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を発泡させることにより形成された発泡体では、該発泡体に含まれる気泡の直径が小さいほど、断熱性が高くなることは明らかである。また、発泡体の比重が小さいほど、発泡体が軽くなる傾向にあることは明らかである。しかし、同じ比重であっても、発泡体の気泡径が小さいほど気泡のセル壁が増えて、それによって発泡体の剛性が向上し、発泡体が硬くなったり、又は発泡体のクッション性が低下したりすることがある。
【0023】
射出成形による発泡方法として、金型キャビティ体積に対して、発泡性の溶融樹脂を体積比で30〜80%充填した後、溶融樹脂の発泡により、キャビティ形状に成形する方法がある。しかし、この方法では、キャビティの全体に対して均一な発泡は困難であり、また、気泡の長さ方向が、成形品の厚みに対して垂直な方向になる。
【0024】
そこで、溶融樹脂をキャビティ体積と略同一量充填し、その後、第1の金型に対して、第2の金型を離間するように移動させてキャビティに空間を設け、発泡性溶融樹脂を発泡させる方法が有効であると考えられる。しかし、射出成形の場合、ポリプロピレン樹脂単体では、断熱性を発現するような3倍以上の高倍率発泡では、発泡過程において一部の気泡壁が破壊し、発泡体にアスペクト比が1〜1.5であるような大きな空洞ができる場合がある。このような発泡体では、空洞内部で空気の対流が生じ、断熱性が低下する。
【0025】
本願発明者は、発泡体の性状、特に発泡体に含まれる気泡のアスペクト比に着目し、該気泡のアスペクト比を検討するとともに、その樹脂配合についても検討した。この結果、気泡のアスペクト比が所定値を超えると、高いクッション性を発現することを見出した。また、それを実現するためには、ポリエチレン系樹脂を配合することで、アスペクト比が小さい1〜1.5であるような大きな空洞を発生させず、アスペクト比を高い所定値まで制御できることを見出した。さらに、気泡径が大きくても、該気泡のアスペクト比が比較的大きいと、高い断熱性を発現することも見出した。また、隣接する気泡が連通化されていない独立気泡ではなく、例えば隣接する気泡が連通化された繊維状の気泡が発泡体に含まれている場合に、断熱性を高くすることができ、かつクッション性を良好にできることを見出した。
【0026】
このような観点等から、長径400〜800μm、かつアスペクト比2.0以上の複数の気泡を含有する中央層と、気泡径30〜300μm、かつアスペクト比1.0以上、2.0未満の第1,第2の独立気泡層と、第1,第2の非発泡層とが積層された構造を採用にすることにより、軽量性、断熱性、剛性、クッション性及びリサイクル性のいずれにも優れている成形体を提供できることを本願発明者は見出した。
【0027】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る成形体を示す部分切欠断面図である。
【0029】
図1に示すように、成形体1は、中央層2と、第1,第2の独立気泡層3,4と、第1,第2の非発泡層5,6とを備える。
【0030】
第1,第2の非発泡層5,6は最表層である。第1,第2の独立気泡層3,4は、中央層3と、第1,第2の非発泡層5,6との間に配置されている。従って、成形体1は、第1の非発泡層5と、第1の独立気泡層3と、中央層2と、第2の独立気泡層4と、第2の非発泡層6とがこの順で積層された構造を有する。
【0031】
成形体1は、熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を発泡させることにより形成されている。成形体1は、単一の熱可塑性樹脂組成物を用いて形成されている。
【0032】
中央層2は、複数の気泡2aを含有する。中央層2に含まれる複数の気泡2aはそれぞれ、熱可塑性樹脂組成物を発泡させる際に生じた複数の気泡が連通化されることにより形成されている。すなわち、発泡の際に、隣接する気泡が互いに結びつくことにより、連続気泡としての気泡2aが形成されている。気泡2aの形状は、例えば繊維状である。
【0033】
中央層2に含まれる気泡2aの長径は400〜800μmの範囲内にある。また、中央層2に含まれる気泡2aのアスペクト比は2.0以上である。中央層2は、断熱層又はクッション層としての役割を果たす。従って、このような中央層2を成形体1が備えることによって、成形体の断熱性及びクッション性を高めることができる。なお、上記アスペクト比は、長径と短径との比を示す。
【0034】
気泡2aの長径が400μm未満であると、成形体のクッション性が低下し、かつ剛性が高くなりすぎることがある。気泡2aの長径が800μmを超えると、成形体のクッション性が低下し、成形体が柔らかくなりすぎることがある。気泡2aの長径の好ましい下限は500μmであり、好ましい上限は750μmである。気泡2aの長径が500μm以上又は750μm以下である場合には、成形体のクッション性をより一層高めることができる。成形体を構成する熱可塑性樹脂の主成分がポリプロピレン系樹脂の場合、気泡2aの長径が500〜750μmの範囲内にあることにより、クッション性により一層優れた成形体を得ることができる。
【0035】
中央層2に含まれる気泡2aのアスペクト比の好ましい下限は7であり、好ましい上限は16である。気泡2aのアスペクト比が7以上又は16以下である場合には、成形体1の断熱性及びクッション性をより一層高めることができる。
【0036】
中央層2の気泡2aの長さ方向は、成形体1の厚み方向と略同一であることが好ましい。この場合には、成形体の断熱性及びクッション性をより一層高めることができる。
【0037】
中央層2に含まれる複数の気泡2aは、成形体1の厚み方向と直交する方向に並ぶように配置されていることが好ましい。この場合には、断熱性及びクッション性により一層優れた成形体を得ることができる。
【0038】
第1の独立気泡層3は、複数の独立気泡3aを含有する。また、第2の独立気泡層4は、複数の独立気泡4aを含有する。第1,第2の独立気泡層3,4に含まれる複数の独立気泡3a,4aは、熱可塑性樹脂組成物を発泡させる際に生じた複数の気泡が連通化されていない気泡である。すなわち、発泡の際に、独立気泡3a,4aは、隣接する気泡が互いに結びつかずに独立した気泡のままで存在している。
【0039】
第1,第2の独立気泡層3,4に含まれる独立気泡3a,4aの気泡径は30〜300μmの範囲内にある。また、第1,第2の独立気泡層3a,4aに含まれる独立気泡3a,4aのアスペクト比は1.0以上、2.0未満である。このような第1,第2の独立気泡層3,4を成形体1が備えることによって、成形体の剛性を高めることができ、かつ成形体を軽量化できる。
【0040】
独立気泡3a,4aの気泡径の好ましい上限は100μmである。独立気泡3a,4aのアスペクト比の好ましい上限は1.2である。独立気泡3a,4aの気泡径及びアスペクト比が上記好ましい範囲内にある場合、成形体の剛性を高めることができ、かつ成形体を軽量化できる。
【0041】
第1,第2の非発泡層5,6は最表層である。第1,第2の非発泡層5,6は、熱可塑性樹脂組成物を発泡させる際に、該熱可塑性樹脂組成物が発泡されていない層すなわち発泡構造を有しない層である。このような第1,第2の非発泡層5,6を成形体1が備えることによって、成形体の剛性を充分に高めることができる。
【0042】
第1,第2の非発泡層5,6は、発泡されていない層であるため、上記気泡2a又は上記独立気泡3a,4aのような比較的大きな気泡を含有しない。第1,第2の非発泡層5,6は、気泡径20μm以上の気泡を含有しないことが好ましく、気泡を含有しないことがより好ましい。
【0043】
第1,第2の非発泡層5,6は発泡されていない層であるため、通常、第1,第2の非発泡層5,6の多くの領域の比重は、発泡前の熱可塑性樹脂の固体状態での比重とほぼ等しい。第1,第2の非発泡層5,6の少なくとも一部の領域の比重は、成形体を構成するのに用いられる発泡前の熱可塑性樹脂組成物の固体状態での比重と略同一であることが好ましい。この場合には、成形体1の剛性をより一層高めることができる。第1,第2の非発泡層5,6の少なくとも一部の領域の比重が、発泡前の熱可塑性樹脂組成物の固体状態での比重と略同一である範囲の具体例として、例えば、第1,第2の非発泡層5,6の少なくとも一部の領域の比重が、発泡前の熱可塑性樹脂の固体状態での比重の0.95〜1.0倍の範囲が挙げられる。
【0044】
成形体1を構成するのに用いられる上記熱可塑性樹脂は特に限定されない。上記熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂又はポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0045】
上記熱可塑性樹脂の主成分はポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。また、上記熱可塑性樹脂100重量%中の50重量%以上が、ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。これらの場合には、成形体の剛性をさらに一層高めることができる。
【0046】
上記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とを含有することが好ましい。ポリプロピレン系樹脂単体では、成形体1の内部に気泡構造を形成することは困難である。ポリプロピレン系樹脂とともに、ポリエチレン系樹脂を含有させることで、アスペクト比の高い気泡を含む中央層2をより一層容易に形成でき、軽量性、発泡性、クッション性及びリサイクル性のバランスにより一層優れた成形体を得ることができる。ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、ポリエチレン系樹脂は3〜15重量部の範囲内で含まれることが好ましい。この場合には、軽量性、発泡性、クッション性及びリサイクル性のバランスにさらに一層優れた成形体を得ることができる。
【0047】
上記熱可塑性樹脂組成物を発泡させる際には、発泡剤が用いられる。上記発泡剤は特に限定されない。上記発泡剤として、射出成形又は押出発泡成形で通常使用できる発泡剤を用いることができる。上記発泡剤の具体例として、化学発泡剤又は物理発泡剤等が挙げられる。上記発泡剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0048】
上記化学発泡剤として、無機系化学発泡剤又は有機系化学発泡剤を使用できる。上記無機系化学発泡剤として、重炭酸ナトリウム又は炭酸アンモニウム等が挙げられる。上記有機系化学発泡剤として、アゾジカルボンアミド等が挙げられる。
【0049】
上記物理発泡剤はガス状又は超臨界流体として、成形機のシリンダー又はスクリューより、溶融樹脂に注入され、分散され、溶解される。その後、熱可塑性樹脂組成物を金型内に射出した後、圧力を開放することにより、熱可塑性樹脂組成物を発泡させることができる。上記物理発泡剤の具体例として、脂肪族炭化水素類、脂環式炭化水素類又は無機ガス等が挙げられる。上記脂肪族炭化水素類として、ブタン等が挙げられる。上記脂環式炭化水素類として、シクロブタン等が挙げられる。上記無機ガスとして、窒素、炭酸ガス又は空気等が挙げられる。
【0050】
成形体1が厚み方向に切断されたときの全断面積100%に占める、中央層2の断面積は40〜70%、第1,第2の独立気泡層3,4の合計の断面積は10〜30%、第1,第2の非発泡層5,6の合計の断面積は10〜20%であることが好ましい。各層の断面積が上記範囲内にあることにより、軽量性、断熱性、剛性、クッション性及びリサイクル性のバランスに優れた成形体を得ることができる。
【0051】
成形体1の各層の断面積は、成形体1を厚み方向に切断した後、切断部分の断面を観察することにより求めることができる。例えば、光学式顕微鏡を用いて、切断部分の断面を観察し、画像を分析し、面積を算出することにより、各層の断面積を求めることができる。中央層2と、第1,第2の独立気泡層3,4との境界は、アスペクト比が2以上の気泡を含有する部分と、アスペクト比が2未満の独立気泡を含有する部分との境界である。上記断面を観察する際には、成形体1の厚み×幅10mmの領域の断面を観察することが好ましい。上記光学式顕微鏡として、マイクロスコープ等が挙げられる。
【0052】
成形体1は、発泡前の熱可塑性樹脂組成物を厚みが厚くなるように発泡させることにより形成されていることが好ましい。発泡前の熱可塑性樹脂組成物の厚みは、0.1〜1.5mmの範囲内にあることが好ましい。これらの場合には、軽量性、断熱性、剛性、クッション性及びリサイクル性のバランスに優れた成形体を得ることができる。
【0053】
また、成形体1は、発泡後の厚みが発泡前の厚みの2.5倍以上となるように、発泡前の熱可塑性樹脂組成物を発泡させることにより形成されていることが好ましい。成形体1は、発泡後の厚みが発泡前の厚みの2.5〜10倍の範囲内となるように、発泡前の熱可塑性樹脂組成物を発泡させることにより形成されていることがより好ましい。これらの場合には、軽量性、断熱性、剛性、クッション性及びリサイクル性のバランスに優れた成形体を得ることができる。
【0054】
成形体を得る際に、発泡前後の厚みを制御する方法として、第1の金型に対して、第2の金型を離間するように移動させて、キャビティの厚みを変化させる方法が好ましい。この方法により、成形体の中央部から端部にかけて均一に発泡させることができ、安定して成形体の厚みを制御することが可能になる。
【0055】
また、熱可塑性樹脂を発泡させる際に、中央層2の気泡2aの長さ方向が、成形体1の厚み方向と略同一となるように、発泡前の熱可塑性樹脂組成物を発泡させることが好ましい。この場合には、断熱性及びクッション性により一層優れた成形体を得ることができる。中央層2の気泡2aの長さ方向が、成形体1の厚み方向と略同一となるようにする方法として、例えば、溶融樹脂の温度より低くなるように所定の温度に金型温度を制御した状態で、金型キャビティ体積に対して、同量の溶融樹脂を充填し、その後、所定の時間、溶融樹脂を冷却した後に、所定の速度で、金型を離間するように移動させる方法が好ましい。
【0056】
成形体1の厚みは、2.5〜10mmの範囲内にあることが好ましい。成形体1の厚みのより好ましい下限は3mmであり、より好ましい上限は8mmである。成形体の厚みがこの好ましい範囲内にある場合、軽量性、断熱性、剛性、クッション性及びリサイクル性のいずれにも優れた成形体を容易に得ることができる。
【0057】
本実施形態の成形体1の製造方法は特に限定されない。成形体1の製造方法の一例として、公知の射出成形法等が挙げられる。
【0058】
射出成形に用いられる射出成形装置は、一般的に、固定型と可動型と射出機とを備える。固定型には樹脂の通路となるスプルーが形成されている。スプルーブッシュに射出機が接続されている。可動型は、固定型に対して近接及び離間させることができる。金型内に樹脂を充填した後に、可動型は、樹脂が充填された後の樹脂体積を拡張できるように移動され得る。
【0059】
成形体1を製造する際には、例えば、熱可塑性樹脂と発泡剤とを含有する熱可塑性樹脂組成物を用意する。次に、固定型と可動型とを備える金型内に、熱可塑性樹脂組成物を射出し、充填する。所定の時間が経過した後、所定の速度で可動型を固定型から離間させる。可動型を固定型から離間させ、熱可塑性樹脂組成物を発泡させることにより、成形体1を得ることができる。
【0060】
発泡剤を含有する熱可塑性樹脂組成物の溶融物を金型内に射出する際には、シルバーストリーク又はスワールマークと呼ばれる外観不良が生じやすい。この外観不良を生じ難くする方法として、射出前の金型内を予め、不活性ガス等の加圧流体で満たす方法、又は金型の内壁面を通常の温度すなわち冷却水の温度よりも15〜25℃程度高い温度にして、高速で射出する方法等が挙げられる。これらの方法により射出成形することにより、外観の良好な成形体を得ることができる。
【0061】
熱可塑性樹脂のメルトインデックス、射出成形機の種類、金型の形状に対応して、成形体を製造する際の条件は適宜調整される。ポリプロピレン系樹脂が用いられる場合、通常、射出成形機のシリンダーの温度は160〜210℃、金型温度は10〜80℃、成形サイクルは30〜120秒、射出速度は50〜500mm/秒の各条件で、成形体が製造される。
【0062】
成形体1は、自動車の内装部品として好適に用いられる。自動車の内装部品は、自動車内の側壁部又は天井部、又はドアの内側等に装着される。自動車の内装部品には、様々な形態がある。
【0063】
ところで、従来知られている樹脂ビーズ発泡成形体は、軽量性及び断熱性が比較的高いものの、剛性が低い。発泡樹脂シートと樹脂骨材との積層体は、軽量性、断熱性、剛性及びクッション性が比較的高いものの、リサイクル性及び生産性が低く、かつ製造コストが高い。また、一般的な射出成形法により得られた発泡成形体は、軽量性、剛性及びリサイクル性が比較的高いものの、クッション性及び断熱性が低いことがあった。
【0064】
また、押出成形法により、発泡倍率が2〜10倍となるように樹脂を発泡させることにより得られた発泡成形体は、断熱性が比較的高いものの、剛性及びクッション性が低いことがあった。押出成形法により、発泡倍率が10〜20倍となるように樹脂を発泡させることにより得られた発泡成形体は、断熱性及びクッション性が比較的高いものの、剛性がかなり低いことがあった。また、内装部品としての固定冶具を後加工で取り付ける必要等があり、結果として、コストが高くなることも多い。
【0065】
これに対し、本実施形態に係る成形体1は、軽量性、断熱性、剛性、コスト、クッション性及びリサイクル性のいずれにも優れている。
【0066】
以下、本発明について、実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0067】
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂(グレードJ830HV、プライムポリマー社製)100重量部と、化学発泡剤(EE275F、永和化成工業社製)10重量部と、ポリエチレン樹脂(グレード15150J、プライムポリマー社製)3重量部とからなる熱可塑性樹脂混合物を、射出機ホッパーよりスクリュー内に投入し、スクリュー内で溶融混練した。その後、スプルーを経由して、金型温度50℃及び溶融樹脂温度200℃の各条件で、キャビティの厚みが1mmの金型内に、溶融樹脂を充填した。1.0秒経過した後、キャビティの厚みが3.5mmになるように50mm/秒の速度で可動型を移動させ、溶融樹脂を冷却した。このようにして、厚み1mmの発泡前の熱可塑性樹脂組成物を、発泡後の厚みが発泡前の厚みの3.5倍となるように発泡させることにより、厚み3.5mmの成形体を形成した。
【0068】
得られた成形体を厚み方向に切断し、厚み3.5mm×幅10mmの領域における断面を観察した。この結果、第1の非発泡層と、第1の独立気泡層と、中央層と、第2の独立気泡層と、第2の非発泡層とがこの順で積層されていることを確認した。
【0069】
また、上記断面の観察の結果、第1の非発泡層の厚みは350μm、第1の独立気泡層の厚みは400μm、中央層の厚みは2000μm、第2の独立気泡層の厚みは400μm、第2の非発泡層の厚みは350μmであった。また、成形体の全断面積100%に占める中央層の断面積は57%、第1,第2の独立気泡層の合計の断面積は23%、第1,第2の非発泡層の合計の断面積は、20%であった。
【0070】
また、中央層に含まれる気泡の長径は600μm、アスペクト比は12であった。また、中央層に含まれる気泡の長さ方向は、成形体の厚み方向と略同一であった。第1,第2の独立気泡層に含まれる独立気泡の気泡径は150μm、アスペクト比は1.1であった。
【0071】
また、第1,第2の非発泡層の少なくとも一部の領域の比重は、発泡前の熱可塑性樹脂組成物の固体状態での比重と同一であった。
【0072】
(実施例2)
ポリプロピレン樹脂(グレードJ830HV、プライムポリマー社製)100重量部と、化学発泡剤(EE275F、永和化成工業社製)10重量部と、ポリエチレン樹脂(グレード15150J、プライムポリマー社製)3重量部とからなる熱可塑性樹脂混合物を、射出機ホッパーよりスクリュー内に投入し、スクリュー内で溶融混練した。その後、スプルーを経由して、金型温度50℃及び溶融樹脂温度200℃の各条件で、キャビティの厚みが1mmの金型内に、溶融樹脂を充填した。0.8秒経過した後、キャビティの厚みが3.0mmになるように50mm/秒の速度で可動型を移動させ、溶融樹脂を冷却した。このようにして、厚み1mmの発泡前の熱可塑性樹脂組成物を、発泡後の厚みが発泡前の厚みの3.0倍となるように発泡させることにより、厚み3.0mmの成形体を形成した。
【0073】
得られた成形体を厚み方向に切断し、厚み3.0mm×幅10mmの領域における断面を観察した。この結果、第1の非発泡層と、第1の独立気泡層と、中央層と、第2の独立気泡層と、第2の非発泡層とがこの順で積層されていることを確認した。
【0074】
また、上記断面の観察の結果、第1の非発泡層の厚みは300μm、第1の独立気泡層の厚みは450μm、中央層の厚みは1500μm、第2の独立気泡層の厚みは450μm、第2の非発泡層の厚みは300μmであった。また、成形体の全断面積100%に占める中央層の断面積は50%、第1,第2の独立気泡層の合計の断面積は30%、第1,第2の非発泡層の合計の断面積は、20%であった。
【0075】
また、中央層に含まれる気泡の長径は500μm、アスペクト比は10であった。また、中央層に含まれる気泡の長さ方向は、成形体の厚み方向と略同一であった。第1,第2の独立気泡層に含まれる独立気泡の気泡径は120μm、アスペクト比は1.1であった。
【0076】
また、第1,第2の非発泡層の少なくとも一部の領域の比重は、発泡前の熱可塑性樹脂組成物の固体状態での比重と同一であった。
【0077】
(実施例3)
ポリプロピレン樹脂(グレードJ830HV、プライムポリマー社製)100重量部と、化学発泡剤(EE275F、永和化成工業社製)10重量部と、ポリエチレン樹脂(グレード15150J、プライムポリマー社製)4重量部とからなる熱可塑性樹脂混合物を、射出機ホッパーよりスクリュー内に投入し、スクリュー内で溶融混練した。その後、スプルーを経由して、金型温度50℃及び溶融樹脂温度200℃の各条件で、キャビティの厚みが1mmの金型内に、溶融樹脂を充填した。1.0秒経過した後、キャビティの厚みが3.5mmになるように50mm/秒の速度で可動型を移動させ、溶融樹脂を冷却した。このようにして、厚み1.0mmの発泡前の熱可塑性樹脂組成物を、発泡後の厚みが発泡前の厚みの3.5倍となるように発泡させることにより、厚み3.5mmの成形体を形成した。
【0078】
得られた成形体を厚み方向に切断し、厚み3.5mm×幅10mmの領域における断面を観察した。この結果、第1の非発泡層と、第1の独立気泡層と、中央層と、第2の独立気泡層と、第2の非発泡層とがこの順で積層されていることを確認した。
【0079】
また、上記断面の観察の結果、第1の非発泡層の厚みは300μm、第1の独立気泡層の厚みは400μm、中央層の厚みは2100μm、第2の独立気泡層の厚みは400μm、第2の非発泡層の厚みは300μmであった。また、成形体の全断面積100%に占める中央層の断面積は60%、第1,第2の独立気泡層の合計の断面積は23%、第1,第2の非発泡層の合計の断面積は、17%であった。
【0080】
また、中央層に含まれる気泡の長径は500μm、アスペクト比は9であった。また、中央層に含まれる気泡の長さ方向は、成形体の厚み方向と略同一であった。第1,第2の独立気泡層に含まれる独立気泡の気泡径は150μm、アスペクト比は1.1であった。
【0081】
また、第1,第2の非発泡層の少なくとも一部の領域の比重は、発泡前の熱可塑性樹脂組成物の固体状態での比重と同一であった。
【0082】
(比較例1)
実施例1と同様の熱可塑性樹脂組成物を用いて、押出機により熱可塑性樹脂組成物を均一に押出し、発泡倍率が5倍となるように発泡させ、成形体を得た。
【0083】
得られた成形体の厚みは、実施例1,3と同様に3.5mmである。しかし、成形体は積層構造を有しない均一かつ独立気泡の構造を有し、アスペクト比の2以上の気泡も有していなかった。断熱性や軽量性は、実施例と同様に良好であるが、剛性やクッション性に関しては、断面の気泡が均一であり、発泡倍率が高すぎるため、内装部品に対しては不適切である。
【0084】
(比較例2)
キャビティの厚みが1.5mmの金型内に溶融樹脂を充填し、かつキャビティの厚みが3mmになるように可動型を移動させたこと以外は実施例1と同様にして、成形体を得た。比較例2では、厚み1.5mmの発泡前の熱可塑性樹脂組成物を、発泡後の厚みが発泡前の厚みの2倍となるように発泡させることにより、厚み3mmの成形体を形成した。
【0085】
得られた成形体は、非発泡層と独立気泡層と中央層が実施例と同様の積層構造を有していたが、中央層がアスペクト比2.0以上の気泡を含有していなかった。
【0086】
(比較例3)
キャビティの厚みが2mmの金型内に溶融樹脂を充填し、かつキャビティの厚みが6mmになるように可動型を移動させたこと以外は実施例1と同様にして、成形体を得た。比較例3では、厚み2mmの発泡前の熱可塑性樹脂組成物を、発泡後の厚みが発泡前の厚みの3倍となるように発泡させることにより、厚み6mmの成形体を形成した。
【0087】
得られた成形体は、非発泡層と独立気泡層と中央層が実施例と同様の積層構造を有し、同様の発泡倍率であるが、中央層がアスペクト比2.0以上の気泡を含有していなかった。実施例1の結果との違いは、冷却により形成されるスキン層を除いた発泡可能樹脂層の厚さが異なることで生じると思われる。
【0088】
(評価)
(1)断熱性
熱伝導率測定装置HC−074(英弘精機社製)を用いることにより、得られた成形体の熱伝導率を測定した。熱伝導率が0.08W/mK以下の場合を「良好」と、熱伝導率が0.08W/mKを超える場合を「不適」として、成形体の断熱性を評価した。
【0089】
(2)剛性
テンシロン万能材料試験機RTF(エーアンドディ社製)を用いて、材料の曲げ試験をすることにより、曲げ弾性勾配を測定した。曲げ弾性勾配が35〜60N/cmの範囲内にある場合を「良好」、曲げ弾性勾配が35N/cm未満又は60N/cmを超える場合を「不適」として、成形体の剛性を評価した。
【0090】
(3)クッション性
圧縮永久歪を測定することにより、クッション性を評価した。圧縮永久歪が10%未満を「良好」とし、10%以上の場合を「不適」として、成形体を評価した。
【0091】
(4)軽量性
成形体の目付量(g/m)を測定した。目付量とは単位面積に対する成形体の重量を示し、発泡前の溶融樹脂の厚みで決まる。測定方法は、成形品の重量(A)を測定するとともに成形体の投影面積(B)を調べ、A/Bにより求める。目付量が1350g/m以下の場合を「良好」、目付量が1350g/mを超える場合を「不適」として、成形体の軽量性を評価した。
【0092】
結果を下記の表1に示す。また、下記の表1では、リサイクル性の評価結果も記載した。実施例1及び比較例1〜3では、上記熱可塑性樹脂が用いられているため、リサイクル性は良好であった。
【0093】
【表1】

【符号の説明】
【0094】
1…成形体
2…中央層
2a…気泡
3…第1の独立気泡層
3a…独立気泡
4…第2の独立気泡層
4a…独立気泡
5…第1の非発泡層
6…第2の非発泡層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を発泡させることにより形成された成形体であって、
複数の気泡を含有し、前記気泡の長径が400〜800μm、かつアスペクト比が2.0以上である中央層と、
複数の独立気泡を含有し、前記独立気泡の気泡径が30〜300μm、かつアスペクト比が2.0未満である第1,第2の独立気泡層と、
第1,第2の非発泡層とを備え、
前記第1の非発泡層と、前記第1の独立気泡層と、前記中央層と、前記第2の独立気泡層と、前記第2の非発泡層とがこの順で積層されている、成形体。
【請求項2】
成形体が厚み方向に切断されたときの全断面積100%に占める、前記中央層の断面積が40〜70%、前記第1,第2の独立気泡層の合計の断面積が10〜30%、かつ前記第1,第2の非発泡層の合計の断面積が10〜20%である、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記第1,第2の非発泡層の少なくとも一部の領域の比重が、発泡前の前記熱可塑性樹脂組成物の固体状態での比重と略同一である、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂と、前記ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して3〜15重量部のポリエチレン系樹脂とを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項5】
厚み0.1〜1.5mmの発泡前の熱可塑性樹脂組成物を、発泡後の厚みが発泡前の厚みの2.5倍以上となるように発泡させることにより形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項6】
前記中央層の気泡の長さ方向が、成形体の厚み方向と略同一である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形体の製造方法であって、
厚み0.1〜1.5mmの発泡前の熱可塑性樹脂組成物を、発泡後の厚みが発泡前の厚みの2.5倍以上となるように発泡させる、成形体の製造方法。
【請求項8】
前記中央層の気泡の長さ方向が、成形体の厚み方向と略同一となるように、発泡前の熱可塑性樹脂組成物を発泡させる、請求項7に記載の成形体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−158866(P2010−158866A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3646(P2009−3646)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】