説明

成形品から芳香族ポリカーボネート又はそのアロイを回収し、成形する方法

【課題】 成形品から芳香族ポリカーボネート又はこれを含有するポリマーアロイを回収し、表面欠陥、外観不良、二次加工における密着不良等の表面特性に関係した故障を起こさず、高品質で、安価に、かつ安定して成形することができる芳香族ポリカーボネート又はこれを含有するポリマーアロイ、及び、これらの成形方法を提供すること。
【解決手段】 成形品から回収した芳香族ポリカーボネート又はそのポリマーアロイに分岐芳香族ポリカーボネートを配合して得られる混合芳香族ポリカーボネート(ポリマーアロイ)の溶融緩和時間を、初期原料である芳香族ポリカーボネートの溶融緩和時間の0.7倍以上、又は、回収したポリカーボネート(ポリマーアロイ)の溶融緩和時間の1.05倍以上になるように調整した後に、成形することができる芳香族ポリカーボネート(ポリマーアロイ)、これらの成形方法、及び、これらの成形方法により成形してなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品から芳香族ポリカーボネート又は芳香族ポリカーボネートを含有するポリマーアロイを回収し、成形する改善された成形方法、及び、改善された芳香族ポリカーボネート又は芳香族ポリカーボネートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、近年いろいろな成形品に使用されている。CD−ROM、DVD、DVD−R等の光学材料は、ポリカーボネート基材に色素記録層や反射層が設けられている。また、自動車のバンパー、ダッシュボード、ヘッドランプ、リヤーランプにも熱可塑性樹脂を基材として塗膜や金属反射層を設けた成形品が広く使用されるようになっている。また、高速道路にも透明な防音壁としてポリカーボネート板に紫外線防止層及びハードコート層を設けた成形板を使用する傾向が増えている。
さらに、ポリカーボネート(PC)とアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂(ABS)とからなるポリマーアロイは、衝撃強度、寸法安定性、非ハロゲン難燃剤の適用可能であることから、パソコン、テレビ、複写機、プリンターなどの電気・電子・光学ハウジングとして使用されている。これらは商品価値を向上させるための塗装が表面に施されており、裏面では電磁波シールドのための塗装、めっき、スパッタなどの表面処理が施されている。
これらの成形品に関して、製造工程において発生する不良品、又は、使用済みの製品の取り扱いが関心を集めている。従来のように、廃棄物として埋め立てたり、焼却するのではなく、資源として再活用することが重要である。近年、使用済みの製品を回収し、該当成形品を分別し、使用されている熱可塑性樹脂を回収し、リサイクルする努力がなされている(特許文献1、2参照)。また、行政面からも家電リサイクル法等に規定されているように、当該製品のリサイクルが要求されている。
【0003】
しかし、PC若しくはPCアロイをバージン樹脂から射出成形する場合も、又は、回収したPC若しくはPCアロイを射出成形する場合には特に、従来からの方法では、流動末端での外観不良や、塗装、めっき、蒸着などの二次加工を施す際に密着不良が発生し易く、また、中空成形の場合では、パリソンのドローダウンが大きく、シート成形の場合には、ネックインが大きくなる等の問題点があった。
【0004】
【特許文献1】特開2001−287225号公報
【特許文献2】特開2004−027072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、成形品から芳香族ポリカーボネート又はこれを含有するポリマーアロイを回収し、表面欠陥、外観不良、二次加工における密着不良等の表面特性に関係した故障を起こさず、高品質で、安価に、かつ安定して成形することができる芳香族ポリカーボネート又はこれを含有するポリマーアロイ、及び、これらの成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は以下の手段(1)、(2)、(9)及び(10)により達成された。
(1)芳香族ポリカーボネート(A)よりなる基材上に異物を有するか又は異質の層を設けた成形品から芳香族ポリカーボネート(B)を回収し、上記芳香族ポリカーボネート(B)に分岐芳香族ポリカーボネート(C)を配合して得られる混合芳香族ポリカーボネート(D)の溶融緩和時間を、芳香族ポリカーボネート(A)の溶融緩和時間の0.7倍以上、又は、上記芳香族ポリカーボネート(B)の溶融緩和時間の1.05倍以上になるように調整した後に、成形することを特徴とする芳香族ポリカーボネートの成形方法、
(2)芳香族ポリカーボネート(A)を20重量部以上100重量部未満、及び、芳香族ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂(E)を80重量部以下含有するポリマーアロイ(F)よりなる基材上に異物を有するか又は異質の層を有する成形品からポリマーアロイ(G)を回収し、上記ポリマーアロイ(G)に分岐芳香族ポリカーボネート(H)を配合して得られる混合ポリマーアロイ(I)の溶融緩和時間を、芳香族ポリカーボネート(A)の溶融緩和時間の0.7倍以上、又は、上記ポリマーアロイ(G)の溶融緩和時間の1.05倍以上になるように調整した後に、成形することを特徴とする芳香族ポリカーボネートポリマーアロイの成形方法。
(9)芳香族ポリカーボネート(A)よりなる基材上に異物を有するか又は異質の層を設けた成形品から芳香族ポリカーボネート(B)を回収し、上記芳香族ポリカーボネート(B)に分岐芳香族ポリカーボネート(C)を配合して得られる混合芳香族ポリカーボネート(D)であって、その溶融緩和時間が、芳香族ポリカーボネート(A)の溶融緩和時間の0.7倍以上、又は、上記芳香族ポリカーボネート(B)の溶融緩和時間の1.05倍以上である混合芳香族ポリカーボネート(D)。
(10)芳香族ポリカーボネート(A)を20重量部以上100重量部未満、及び、芳香族ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂(E)を80重量部以下含有するポリマーアロイ(F)よりなる基材上に異物を有するか又は異質の層を有する成形品からポリマーアロイ(G)を回収し、上記ポリマーアロイ(G)に分岐芳香族ポリカーボネート(H)を配合して得られる、混合ポリマーアロイ(I)であって、その溶融緩和時間が、芳香族ポリカーボネート(A)の溶融緩和時間の0.7倍以上、又は、上記ポリマーアロイ(G)の溶融緩和時間の1.05倍以上である混合ポリマーアロイ(I)。
【0007】
上記本発明の好ましいいくつかの実施態様を以下に列挙する。
(3)分岐芳香族ポリカーボネート(C又はH)が、芳香族ジヒドロキシ化合物のモノマー1,000単位あたり1.5〜10の分岐度を有する上記(1)又は(2)に記載の成形方法、
(4)分岐芳香族ポリカーボネート(C又はH)が、芳香族ジヒドロキシ化合物のモノマー1,000単位あたり2.5〜5.0の分岐度を有する上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の成形方法、
(5)前記熱可塑性樹脂(E)が、アクリロニトリル・ブタジエン・ビニル芳香族共重合体、アクリロニトリル・ビニル芳香族重合体、アクリロニトリル・エチレンプロピレン共重合体・ビニル芳香族重合体及びポリブタジエン含有ビニル芳香族重合体よりなる群から選ばれた少なくとも1つのスチレン系樹脂である上記(2)〜(4)のいずれか1つに記載の成形方法、
(6)異質の層が、色素含有層、金属反射層、感光層、保護層、下塗層、塗膜層、ハードコート層、反射防止層、防眩層、視野角拡大層、紫外線防止層、熱線吸収層、熱線反射層、電磁波吸収層、電磁波反射層、接着剤層、粘着剤層及びセルロース誘導体層よりなる群から選ばれた上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の成形方法、
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の成形方法であって、射出成形することを特徴とする成形方法、
(8)上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の成形方法により得られる成形品。
【発明の効果】
【0008】
上記(1)、(2)、(9)及び(10)に記載の発明によれば、成形品から回収した芳香族ポリカーボネート又はそのポリマーアロイを、表面特性に関係した上記の故障を起こさず、高品質で、安価に、かつ、安定して成形することができる芳香族ポリカーボネート又はこれを含有するポリマーアロイ、及び、これらの成形方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、回収した芳香族ポリカーボネート(PC)又は芳香族ポリカーボネートポリマーアロイ(PCポリマーアロイ)に、成形品の表面特性を改良するために分岐芳香族ポリカーボネートを適量配合したPC又はPCポリマーアロイ、及び、これらの成形方法に係る。
【0010】
「芳香族ポリカーボネート」とは、ポリカーボネートを構成するジオール成分として、ビスフェノールA等の芳香族基を含むジオール成分を使用したポリカーボネートを言う。芳香族基を含むジオール成分のみを使用したポリカーボネートが好ましい。
「芳香族ポリカーボネートポリマーアロイ」とは、芳香族ポリカーボネート、及びこれ以外の相溶性のある熱可塑性樹脂とのポリマーアロイを言う。
「成形品の表面特性」とは、PC又はPCポリマーアロイ(この両者を「ポリカーボネート(ポリマーアロイ)」ともいう)を成形した成形品の表面に関する化学的又は物理的な性質を言う。表面特性には、表面欠陥、外観不良、二次加工における密着不良等が含まれる。
「分岐芳香族ポリカーボネート」とは、分岐を有する芳香族ポリカーボネートをいう。
以下に、本発明の成形方法を詳細に説明する。
【0011】
(溶融緩和時間)
溶融緩和時間とは、溶融粘弾性の緩和時間であり、樹脂等の溶融物における応力緩和の緩和時間を表す。
樹脂に一定のひずみを与えた状態に保って応力を測定すると、応力は時間と共に減少する。この現象を応力緩和といい、この時間と共に変化する応力をひずみで除した値を緩和弾性率という。緩和時間とは、その応力が1/eまで減少する時間である。
上記溶融緩和時間τは、ひずみに対して位相遅れのない応力に対応する弾性率(貯蔵弾性率:G’)、ひずみ速度に対応した応力に対応する弾性率(損失弾性率:G”)、及び、上記2つの弾性率を測定する際に用いる周波数ωの値により、下記式(1)で求められる。
【0012】
【数1】

【0013】
(芳香族ポリカーボネート)
本発明で用いられる芳香族ポリカーボネートは、芳香族ジヒドロキシ化合物等を原料とし、溶融法又は界面法等の公知の方法により製造できる。
溶融法とは、原料として芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを用い、エステル交換触媒存在下、溶融重縮合させる方法を言う。
界面法とは、原料として芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩とホスゲンとを用い、生成するポリカーボネートを溶解する有機溶剤とアルカリ水溶液との界面で重縮合させる方法を言う。
【0014】
〔溶融法〕
以下に溶融法に用いる芳香族ジヒドロキシ化合物、炭酸ジエステル及びエステル交換触媒を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<芳香族ジヒドロキシ化合物>
芳香族ジヒドロキシ化合物は、下記式(2)で示される化合物を用いることができる。
【0015】
【化1】

(式(2)中、Aは、単結合、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基、又は、−O−、−S−、−CO−若しくは−SO2−で示される2価の基であり、X及びYは、ハロゲン原子又は炭素数1〜6の炭化水素基であり、p及びqは、0又は1の整数である。なお、XとY及びpとqは、それぞれ、同一でも相互に異なるものでもよい。)
【0016】
代表的な芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールAとも言う。)が好ましい。
【0017】
<炭酸ジエステル>
本発明で用いる炭酸ジエステルとしては、下記式(3)で示される化合物が用いることができる。
【0018】
【化2】

(式(3)中、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜18の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基であり、2つのRは、同一でも相互に異なるものでもよい。)
【0019】
代表的な炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート又は置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0020】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0021】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸のエステルを含む。以下同じ。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、過剰に用いられる。すなわち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して1.001〜1.3、好ましくは1.01〜1.2の範囲内のモル比で用いられる。モル比が上記範囲であると、熱安定性、耐加水分解性が良好で、エステル交換反応の速度も低下せず、所望の分子量を有するポリカーボネートの製造が容易である。
また、ポリカーボネートは必要に応じて、アリロキシ化合物、モノカルボキシ化合物などの末端封止剤で処理されたものであってもよい。
【0022】
<エステル交換触媒>
本発明のポリカーボネート製造方法においては、触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が使用される。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。触媒の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して0.05〜5μmol、好ましくは0.08〜4μmol、さらに好ましくは0.1〜2μmolの範囲内で用いられる。触媒の使用量が上記範囲であると、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性が十分な得られ、また、ポリマー色相が良好であり、成型時の流動性が低下しない。
【0023】
<溶融重縮合>
本発明の溶融重縮合は、公知の方法が適用され、芳香族ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステル及びエステル交換触媒等の使用量比、温度及び反応時間等の反応条件も目的に応じ任意に設定してもよい。
【0024】
〔界面法〕
以下に、界面法に用いる芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩、ホスゲン及び有機溶媒を説明する。
【0025】
<芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩>
芳香族ジヒドロキシ化合物は、前記溶融法で用いられるものが好ましい。
芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩は、芳香族ジヒドロキシ化合物をアルカリ水溶液に溶解させ、アルカリ金属塩としたものを用いるのが好ましく、アルカリ金属塩として単離したものを用いてもよい。
【0026】
<ホスゲン>
ホスゲンとしては、できるだけ純粋のものがよく、四塩化炭素や塩化メチレン等の不純物を含有しないものが好ましい。
【0027】
<有機溶媒>
有機溶媒としては、生成する芳香族ポリカーボネートを溶解するものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0028】
<界面重縮合>
本発明の界面重縮合は、公知の方法が適用され、芳香族ジヒドロキシ化合物に対するホスゲン及びアルカリ等の使用量比、反応溶液の濃度、温度及び反応時間等の反応条件も目的に応じ任意に設定してもよい。
【0029】
(分岐芳香族ポリカーボネート(C又はH))
本発明の分岐芳香族ポリカーボネートは、芳香族ジヒドロキシ化合物のモノマー1,000単位あたり1.5〜10の分岐度を有するものが好ましく、2.5〜5.0の分岐度を有するものがより好ましい。
【0030】
本発明の分岐芳香族ポリカーボネートは、配合する芳香族ポリカーボネート又はそのアロイより溶融緩和時間が長いものでなくてもよい。低分子量であるため溶融緩和時間が短い分岐芳香族ポリカーボネートであっても、他の芳香族ポリカーボネートに配合し、全体としてある程度の分子量となることで、分岐性能が発揮され、溶融緩和時間が長くなることもあるからである。
【0031】
溶融法による分岐芳香族ポリカーボネートの製造に用いる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、前記の芳香族ジヒドロキシ化合物に、式(4)で表される2,4’−ビスフェノール化合物を適量添加したものを用いることが好ましい。
【0032】
【化3】

(式(4)中、A’は、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基又は、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2−で示される2価の基からなる群から選ばれるものである。)
【0033】
2,4’−ビスフェノール化合物の適量は、2,4’−ビスフェノール化合物の量が、通常芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、100〜50,000重量ppmの範囲内に、好ましくは100〜10,000重量ppmの範囲内に、より好ましくは200〜7,000重量ppm、特に好ましくは300〜3,000重量ppmの範囲内に設定するのがよい。2,4’−ビスフェノール化合物の量が上記範囲であると、分岐度及び高荷重での流動性が十分であり、また、ゲル化も起こらず、ポリマーの成形が容易である。
また、上記2,4−ビスフェノール化合物の代わりに、下記式(5)に示す多官能性化合物を分岐剤として用いてもよい。
【0034】
溶融法で製造される分岐芳香族ポリカーボネートは、重合反応途中で一部転位反応を伴って得られるものである。この転位反応は、フリース転位ともいい、炭酸エステル結合を形成するカルボニル基が、芳香族環の2位又は4位に転位するものである。
溶融法で製造される分岐芳香族ポリカーボネートは、粘度平均分子量16,000以上であることが好ましい。機械的強度の点から18,000以上のものがより好ましい。また、著しく粘度平均分子量が大きいと流動性が悪くなる傾向にあるので、60,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましい。
【0035】
本発明の溶融法による分岐芳香族ポリカーボネートの製造方法としては、例えば、特開2001−302780号公報、特開2002−308976号公報及び特開2003−119369号公報等の公知の方法を用いることができる。
【0036】
界面法による分岐芳香族ポリカーボネートは、原料として前記の芳香族ポリカーボネートでの原料に加え、多官能性化合物を分岐剤として用いる以外は、公知の界面重合法により製造することができる。
上記多官能性化合物は、以下の式(5)に示される化合物であって、フェノール性水酸基、カルボキシル基、エステル基、酸ハロゲン化物基又は酸無水物基よりなる群から3個以上の官能基を有する化合物が好ましい。
(HO−)nA”Y12 (5)
(式中、A”は芳香族環を含む有機残基を、HO−はA”の芳香族環に直接結合するフェノール性水酸基を、nは1,2,3又は4のいずれかの自然数を示す。また、Y1及びY2は共にA”の芳香環に直接結合する水素原子、カルボキシル基、エステル基、酸ハロゲン化物基又は酸無水物基を示す。)
【0037】
式(5)で示される多官能性化合物において、nとしては3又は4が好ましく、また、上記多感能性化合物が三官能性化合物であることがより好ましい。
また、上記A”で表される芳香族環を含む有機残基とは、単一の芳香族環、複数の芳香族環が炭素−炭素単結合で連結した構造、あるいは複数の芳香族環が任意の非芳香族構造で連結された構造を意味し、これらは、本発明の効果を妨害しない限りにおいてアルキル基やハロゲン原子等の任意の置換基を結合していても良い。
このような多官能化合物は、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、0.01モル%以上、通常は1モル%以下、好ましくは0.05〜0.8モル%、特に好ましくは0.1〜0.6モル%の量を添加して用いるのが好ましい。
【0038】
本発明の界面法による分岐芳香族ポリカーボネートの製造方法としては、例えば、特開平10−212346号公報及び特公平3−15658号公報等の公知の方法を用いることができる。
【0039】
以下に、芳香族ポリカーボネート又はそのアロイに、溶融緩和時間の長い分岐芳香族ポリカーボネートを配合し、成形する理由を示す。
芳香族ポリカーボネート(PC)を成形する場合、表面特性に関係した前記の故障が発生しやすいという問題がある。特に回収したPCを用い、成形する場合は、前記の故障がより顕著に発生する。
この原因としては、分子量や流動性では検知できない分子構造の形によるものであると考えられる。成形品より回収したポリカーボネート(ポリマーアロイ)では、糸鞠状態の高分子が溶融状態において広がっているが、成形過程においてその広がりが小さくなっていると考えられる。
上記の分子構造の形及びその変化を検出する目安として、溶融粘弾性の緩和時間が挙げられる。溶融緩和時間が長いほど、高分子鎖の広がりが大きいことを示す。成形品から回収したポリカーボネート(ポリマーアロイ)では、溶融緩和時間が初期原料よりも短いと考えられる。また、一般に直鎖状のPCより、分岐を有するPCの方が、溶融緩和時間が長い。
本発明では、回収した芳香族ポリカーボネート又はそのアロイに、溶融緩和時間の長い分岐芳香族ポリカーボネートを配合することで、表面特性に関係した故障ない高品質な成形品を得ることができる。
【0040】
回収したポリカーボネート(B)に配合する分岐芳香族ポリカーボネート(C)の配合量は、成形前の芳香族ポリカーボネート(A)を基準とした場合、得られる混合芳香族ポリカーボネート(D)の溶融緩和時間を、成形前の芳香族ポリカーボネート(A)の溶融緩和時間の0.7倍以上になるように配合するのが好ましく、0.7〜5.0倍がより好ましく、1.0〜2.5倍が特に好ましい。また、回収した芳香族ポリカーボネート(B)を基準とした場合、得られる混合芳香族ポリカーボネート(D)の溶融緩和時間を、回収した芳香族ポリカーボネート(B)の溶融緩和時間の1.05倍以上になるように配合するのが好ましく、1.05〜5.0倍がより好ましく、1.25〜3.0倍が特に好ましい。
【0041】
回収したポリマーアロイ(G)に配合する分岐芳香族ポリカーボネート(H)の配合量は、成形前の芳香族ポリカーボネート(A)を基準とした場合、得られる混合ポリマーアロイ(I)の溶融緩和時間を、成形前の芳香族ポリカーボネート(A)の溶融緩和時間の0.7倍以上になるように配合するのが好ましく、0.7〜5.0倍がより好ましく、1.0〜2.5倍が特に好ましく、また、回収したポリマーアロイ(G)を基準とした場合、得られる混合ポリマーアロイ(I)の溶融緩和時間を、回収したポリマーアロイ(G)の溶融緩和時間の1.05倍以上になるように配合するのが好ましく、1.05〜5.0倍がより好ましく、1.25〜3.0倍が特に好ましい。
【0042】
本発明の分岐芳香族ポリカーボネートは、芳香族ジヒドロキシ化合物等を原料とし、溶融法又は界面法等の公知の方法により製造できる。また、分岐芳香族ポリカーボネートの好ましい具体例として、三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックスM7022A、ノバレックスM7027A、ノバレックスM7020A、SYK T6181等を挙げることができる。
【0043】
(分岐度の測定方法)
GPC−RI/Viscometer/MALLSを用いて、分子量で分離した各フラクションで重量平均分子量、平均二乗半径、粘度、示差屈折率を測定し、以下の手法により芳香族ジヒドロキシ化合物のモノマー1,000単位あたりの分岐度λwを求めた。
【0044】
【数2】

0:溶媒の屈折率
dn/dc:ポリマー濃度変化に対する屈折率の変化
λ0:真空中のレーザー光の波長
A:アボガドロ数(6.022×1023
c:ポリマーの濃度
R(θ):散乱角θにおける散乱光の相対強度
Mw:重量平均分子量
2:第2ビリアル係数
P(θ):散乱光の角度依存性を表すファクター
【0045】
【数3】

<Rg2>:平均二乗半径
上式(7)(Zimmの式)より、縦軸にK・c/R(θ)、横軸にsin2(θ/2)を濃度別にプロットし、θ→0の外挿点を求めると、式(7)は、下式(8)のようになる。
【0046】
【数4】

c→0への外挿点が1/Mwで、傾きが2A2である。よって、切片よりMwを、傾きより第2ビリアル係数A2を求めた。
次に、縦軸にK・c/R(θ)、横軸にcを取り、同測定角度での測定値をプロットし、c→0への外挿点を求めると、式(7)は下式(9)のように表される。
【0047】
【数5】

θ→0の外挿点が1/Mwで、傾きの値より平均二乗半径<Rg2>を求めた。
また、分岐パラメーター(Shrink Parameter):g0、G0は、下式(10)及び(11)により求めた。
【0048】
【数6】

<Rg2b、<Rg2lは、それぞれ直鎖ポリマー、分岐ポリマーの平均二乗半径を表す。
[η0b、[η0lは、それぞれ直鎖ポリマー、分岐ポリマーの固有粘度を表す。
0とG0は、下式(12)の関係を満たす。
0=g0ε (12)
ε=2−α(α:マーク・ホーウインク・桜田の式の指数)
分岐パラメーターg0は、三官能性分岐、かつ、分子量分布の狭いポリマーの場合、下式(12)で表される。
【0049】
【数7】

3M:三官能性分岐で分子量分布の狭いポリマー1分子あたりの分岐度
また、固有粘度[η]は下式(13)で表され、
[η]=K・Mα・gε (13)
K:マーク・ホーウインク・桜田の式の定数
M:ポリマーの(相対)分子量
さらに、三官能性分岐、かつ、分子量分布の狭いポリマーの場合、下式(14)で表される。
【0050】
【数8】

λ:1ダルトンあたりの分岐度
λは、下式(15)を満たす。
3M=λ・Mβ (15)
β=k・λ(k:定数)
【0051】
上記式(7)〜(15)より、各フラクションiでの1分子あたりの分岐度niを求めた。
各フラクションiでの芳香族ジヒドロキシ化合物のモノマー1,000単位あたりの分岐度λiを下式(16)で求めた。
λi=1,000×ni×Mi/M0 (16)
i:各フラクションiでのポリマーの重量平均分子量
0:芳香族ジヒドロキシ化合物のモノマーの重量平均分子量
芳香族ジヒドロキシ化合物のモノマー1,000単位あたりの分岐度λwを下式(17)で求めた。
λw=Σ(λi×wi)/Σwi (17)
i:各フラクションiでのポリマーの質量
【0052】
(芳香族ポリカーボネートとポリマーアロイを形成する熱可塑性樹脂(E))
本発明に適用できる芳香族ポリカーボネートとポリマーアロイを形成する熱可塑性樹脂を列挙すると、スチレン系樹脂、ポリオレフィン、ポリエステルが代表的である。以下にこれらの樹脂について、詳述する。
【0053】
〔スチレン系樹脂〕
スチレン系樹脂とは、スチレン系単量体と必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体およびゴム質重合体より選ばれる1種以上を重合して得られるスチレン系樹脂である。スチレン系樹脂は、これらを単独で用いても良いし、2以上を併用することもできる。
【0054】
前記スチレン系樹脂成分に用いられるスチレン単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等のスチレン誘導体であり、特にスチレンが好ましい。これらは単独または2種以上用いることができる。
前記スチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、フェニルアクリレートベンジルアクリレート等のアクリル酸のアリールエステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等のアクリル酸のアルキルエステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸アリールエステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα、β−不飽和カルボン酸およびその無水物が挙げられる。好ましくは、アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
スチレン系単量体及び(メタ)アクリロニトリルと共重合可能な単量体としては、前記スチレン系単量体と共重合可能な単量体と同じものが使用できる。
【0055】
一方、前記スチレン系単量体と共重合可能なゴム質重合体としては、ガラス転移温度が10℃以下のゴムが適当である。ゴムの具体例としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン・プロピレンゴム、シリコンゴム、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造を有している複合ゴム(IPN型ゴム)等が挙げられ、好ましくは、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム等が挙げられる。
ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエンランダム共重合体及びブロック共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン・イソプレン共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体等のエチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー、ブタジエン・(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体、ブタジエン・スチレン・(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。
ブタジエン・(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体又はブタジエン・スチレン・(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体における(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルの割合は、ゴム重量の30重量%以下であることが好ましい。
【0056】
アクリル系ゴムとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステルゴムが挙げられ、アルキル基の炭素数は好ましくは1〜8である。アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル等が挙げられる。アクリル酸アルキルエステルゴムには、任意に、エチレン性不飽和単量体が用いられていてもよい。そのような化合物の具体例としては、ジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。アクリル系ゴムとしては、更に、コアとして架橋ジエン系ゴムを有するコア−シェル型重合体が挙げられる。
【0057】
本発明で用いられるスチレン系樹脂としては、例えば、スチレンの単独重合体、スチレンと(メタ)アクリロニトリルとの共重合体、スチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体、スチレンと(メタ)アクリロニトリルと他の共重合可能な単量体との共重合体、ゴムの存在下スチレンを重合してなるグラフト共重合体、ゴムの存在下スチレンと(メタ)アクリロニトリルとをグラフト重合してなるグラフト共重合体等が挙げられる。さらに、具体的には、ポリスチレン、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS樹脂)、水添スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(水添SBS)、水添スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SEPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(MABS樹脂)、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン共重合体(AES樹脂)及びスチレン・IPN型ゴム共重合体等の樹脂、又は、これらの混合物が挙げられる。また、さらにシンジオタクティックポリスチレン等のように立体規則性を有するものであってもよい。
また、上記のスチレンに代えて、広く芳香族ビニル系モノマーを用いることができる。これらの中でも、アクリロニトリル・ブタジエン・ビニル芳香族共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル・ビニル芳香族共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・エチレンプロピレン共重合体・ビニル芳香族共重合体(AES樹脂)、ポリブタジエン含有ビニル芳香族共重合体が好ましい。
これらスチレン系樹脂の製造方法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の公知の方法が挙げられる。
【0058】
スチレン・(メタ)アクリロニトリル系共重合体としては、好ましくは、ゴムの存在下少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとをグラフト重合してなるグラフト共重合体、ゴムの存在下少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとを重合してなるグラフト共重合体及び少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとを重合してなる共重合体からなる共重合体組成物等が挙げられる。
【0059】
〔ポリオレフィン〕
ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリヘキセン、ポリ−3−メチル−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・オクテン共重合体、プロピレン・ブテン共重合体、プロピレン・オクテン共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体等が挙げられる。
【0060】
〔ポリエステル〕
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0061】
(回収方法)
以下に、本発明のポリカーボネート(ポリマーアロイ)よりなる成形品から、ポリカーボネート(ポリマーアロイ)を回収する方法を説明する。
本発明の成形方法を適用するポリカーボネート(ポリマーアロイ)の回収方法は、成形品を破砕して破砕物にする破砕工程、該破砕物中の熱可塑性樹脂基材から異質の層を洗浄タンク内で除去し該熱可塑性樹脂を回収する回収工程、及び、必要に応じて、該破砕物又は該回収熱可塑性樹脂が大きさ0.71mm以下の微粒子を実質的に含まないように制御する微粒子除去工程からなる。また、全工程の最後に乾燥工程を含んでいてもよい。
回収工程において破砕物に実質的に微粒子を含まないように制御し、また該回収熱可塑性樹脂にも実質的に微粒子を含まないように制御する工程を含むことが好ましい。「回収工程において破砕物に実質的に微粒子を含まない」とは、微粒子が混入しても微粒子の全くない場合よりもアルカリ洗浄時間が10%以上長くならないことを意味する。「該熱可塑性樹脂にも実質的に微粒子を含まない」とは、微粒子が混入しても、微粒子の全くない該熱可塑性樹脂を成形する場合と同様に均質な成型物が得られる程度を意味する。
この微粒子含有量を制御する工程は、破砕工程において微粒子を含まないように制御しても良く、破砕後洗浄タンク外において種々の分級手段により微粒子を除去する工程であってもよく、また、洗浄タンク内において、界面活性剤水溶液、アルカリ水溶液、過酸化物水溶液又は洗浄水等の排液操作に伴って微粒子を除去する工程であっても良い。該熱可塑性樹脂から微粒子を除去する操作を行っても良い。
【0062】
〔異質の層〕
回収の対象となる熱可塑性樹脂よりなる基材(以下、単に「樹脂基材」ともいう。)上に設けられる「異質の層」とは、樹脂基材とはその化学組成が異なる層である。多くの場合、基材上に設ける「異質の層」は、特定の機能を有する機能層であることが多い。機能層の例を列挙すると、記録材料、特に光記録材料として有用なデジタル記録のための塗布層又は蒸着層があり、色素含有層、金属反射層、感光層、保護層及び下塗層等が例示でき、また、その他の機能層として、塗膜層、ハードコート層、反射防止層、防眩層、視野角拡大層、紫外線防止層、熱線吸収層、熱線反射層、電磁波吸収層、電磁波反射層、接着剤層、粘着剤層及びセルロース誘導体層等も例示できる。
【0063】
色素含有層には、シアニン系色素等が広く用いられ、金属反射層には、反射特性に優れた金や銀又は安価なアルミニウムの蒸着層等が多用される。また、感光層としては、ハロゲン化銀乳剤層、又はフォトポリマー層や感光性ジアゾ化合物層などの非銀塩感光層が用いられる。
保護層、下塗層などには、光学特性に優れた熱可塑性アクリル系エステル、アクリル酸エステルモノマーやメタクリル酸エステルモノマーなどの共重合体が用いられる。さらに、保護層には、紫外線吸収剤としてベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サルチル酸フェニルなどのサルチル酸系化合物が用いられ、また紫外線硬化剤も用いられる。下塗層としては、硬化ゼラチンや熱硬化製樹脂などを用いることもできる。
異質の層は、その機能によりその厚さは多岐にわたるが、好ましくは150μm以下、より好ましくは0.5〜100μm以下の厚さを有することが好ましい。
【0064】
〔破砕工程〕
上記の破砕工程は、熱可塑性樹脂に異質の層を設けてなる成形品を破砕して破砕物にする工程である。
この破砕工程により成形品を予め適当な大きさの粉砕物に破砕することにより洗浄効率を向上させることができる。また、適当な大きさの破砕物から樹脂を回収することにより、回収された熱可塑性樹脂断片を再利用しやすくすることができる。即ち回収樹脂の再ペレット化を容易にすることができ、またこの再ペレット化工程を経ることなく熱成形することができる。
なお、粉砕物に0.71mm以下の微粒子が含まれていると、洗浄工程が非効率となり、また回収樹脂の熱成形に好ましくない。
【0065】
〔洗浄工程〕
上記の洗浄は、破砕した上記成形品を洗浄する工程である。ここで、「洗浄」とは樹脂基材を洗い清めることであるが、樹脂基材の異物(汚染物質)を除去するに止まらず、樹脂基材上に設けられた異質の層を除去することをも含む意味である。
【0066】
以下、樹脂基材上に異質の層を有する成形品からポリカーボネート(ポリマーアロイ)を回収する方法について説明する。
上記の回収方法では、予め破砕された成形品の樹脂基材上に設けられた異質の層、通常は特定の機能を有する機能層を、好ましくは、アルカリ水溶液中で除去する洗浄工程を採用し、通常は、使用したアルカリ水溶液を樹脂基材等から除去するための工程(通常は水により洗い流すために「水洗工程」ともいう。)、及び、乾燥工程を含む。
【0067】
洗浄工程に好ましく使用するアルカリ水溶液の調製には、苛性アルカリを使用することができる、ここで、「苛性アルカリ」とは、アルカリ金属の水酸化物や炭酸塩を意味し、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。苛性アルカリの他に、界面活性剤、過酸化物を必要に応じて併用しても良い。
【0068】
上記のアルカリ水溶液による洗浄工程は、好ましくは、pH10〜14のアルカリ液を使用する。pHの調節には、pH計を使用するか、pH計の替わりに、伝導度計を使用して調節することもできる。
水酸化ナトリウムの濃度は、一般に0.1重量%以上の濃度であれば良いが、0.1〜30重量%であることが好ましく、0.4〜20重量%であることがより好ましい。
使用する水酸化ナトリウムの濃度は、回収する樹脂基材の種類と洗浄温度等に依存する。例えば、ポリカーボネート基材の洗浄処理においては、一般に、0.1〜20重量%の水酸化ナトリウムが好ましく、0.1〜10重量%の水酸化ナトリウムがより好ましい。また、ポリエステル基材の洗浄処理においては、0.1〜4重量%が好ましく、0.1〜3重量%がより好ましい。
ポリオレフィン基材の洗浄処理においては、1〜20重量%の水酸化ナトリウムが好ましく使用できる。ポリアミド基材の洗浄処理においては、1〜20重量%の水酸化ナトリウムが好ましい。スチレン系樹脂基材の洗浄処理においては、1〜10重量%の水酸化ナトリウムが好ましい。
同じpH値に調節できるならばイオン強度が低い苛性アルカリの使用が好ましい。
【0069】
アルカリ水溶液中で熱可塑性樹脂から異質の層を除去する工程は、75℃以上、通常は75〜180℃のアルカリ水溶液を使用することが好ましく、105℃以上、通常は105〜160℃のアルカリ水溶液を使用することが特に好ましい。
【0070】
異質の層(被膜)除去の際に界面活性剤を用いてもよい。界面活性剤にはノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤があるが、使用される界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールエーテル系、特に、高級アルコールのポリエチレングリコールエーテル、アルキルフェノールのポリエチレングリコールエーテルなどが好ましく用いられる。また、アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられ、好ましくはノニオン性界面活性剤と併用される。界面活性剤の濃度は、好ましくは0.001〜10重量%、さらに好ましくは0.001〜5重量%、特に好ましくは0.01〜1重量%である。界面活性剤は、回収原料としての廃棄物に付着した又は処理液中に除去され再付着した色素や微小異物を除去するのに有用である。
【0071】
塗料や染料などを除去するために、有機溶剤、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、グリセリン、メチルソロソルブなど基材に対する貧溶剤を併用することができる。
【0072】
また、樹脂基材上の被膜の除去方法は、縦型筒状胴部、該胴部内部下方に設けられ胴部中心軸に垂直な平面と10〜30度の狭角を有する液切り板、及び、該液切り板の上方に液切り板に近接して設けられた撹拌羽根を有する洗浄容器中に、表面に被膜を有する樹脂基材を入れ、洗浄容器内に堆積する樹脂基材の最上部よりも高い液面となる量のアルカリ性水溶液と該樹脂基材とを75〜180℃において撹拌羽根の先端の回転速度2〜100m/secで撹拌する被膜除去工程、及び、該樹脂基材からアルカリ水溶液を除去する工程とすることが好ましい。
【0073】
洗浄処理において、機能層を実質的に除去するとは、基材から機能層を50重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは95重量%以上除去することをいう。
【0074】
洗浄液を100℃以上、好ましくは105℃以上に加熱するためには、通常1気圧以上の水蒸気または熱水、バーナーや電熱により加熱する。この場合、加圧式洗浄装置を使用することが好ましく、耐高圧(0.2〜0.5MPa=2〜5kgf/cm2)の洗浄装置を用いることが好ましい。洗浄時間は5〜150分(5分以上150分以下)であり、5〜100分が好ましく、10〜60分がさらに好ましい。
【0075】
さらに、100℃未満の洗浄処理の場合も適用できるが、105℃以上のアルカリ水溶液による洗浄処理は、2段以上、好ましくは2段ないし3段に分割して実施することができる。105℃以上のアルカリ洗浄と100℃未満のアルカリ洗浄工程を組み合わせて使用しても良い。
最初のアルカリ洗浄工程に続いて、別のアルカリ洗浄工程により異質の層を除去する2段のアルカリ洗浄工程を採用することにより、比較的短時間の合計洗浄時間により、再利用可能な高品質の合成樹脂等を回収することができる。2段以上の苛性アルカリの処理においては、各段のアルカリ水溶液のアルカリ濃度、温度またはチップの密度を変えて洗浄することもできる。複数のアルカリ洗浄工程の間に、必要に応じて、液切り又は水洗処理を入れることができる。
【0076】
上記回収方法において、アルカリ洗浄に引き続き、過酸化物を含有する水溶液により樹脂基材を洗浄することが好ましい。この場合において、洗浄に用いられる過酸化物には、−O−O−結合をもつ酸化物や多価原子価をもつ金属の酸化物が挙げられる。好ましくは、過酸化水素及びその塩、オゾン、過硫酸及びその塩などである。過酸化物の濃度は、0.1〜10重量%であることが好ましい。また、過酸化物水溶液の温度は65〜95℃であることが好ましく、80〜90℃であることがさらに好ましい。過酸化物は残留金属や染料の完全除去に有用である。過酸化水素の0.1〜10重量%の液は、そのpHが2〜5(弱酸性)であり、痕跡のアルカリ洗浄液を除去する最終洗浄液として好ましく使用できる。
【0077】
〔乾燥工程〕
処理済チップを、50〜200℃、好ましくは80〜120℃の温度に加熱して、水分を好ましくは2質量%以下さらには1質量%以下になるまで乾燥する処理をいう。再熔融し、再生ペレットを作成するためには、真空乾燥し水分を0.2重量%以下にする方がよい。
【0078】
上記回収方法は、熱可塑性樹脂基材上に異質の層が設けられていないが、熱可塑性樹脂基材に異物の付着した成形品に対しても適用できる。
ここで、異物とは、熱可塑性樹脂基材とは異なる物質であり、油などの基材を汚染する物質を含む。また、異物を除去するために必ずしもアルカリ洗浄は必須ではなく、汚染物質を溶解ないし可溶化しうる界面活性剤水溶液等による処理で足りる場合も含まれる。
【0079】
(成形方法)
本発明の成形方法は、熱可塑性樹脂組成物について一般に用いられている成形法を適用でき、例えば、射出成形、射出ブロー成形、射出圧縮成形、ブロー成形、押出成形、熱成形、回転成形、中空成形、シート成形等の何れをも適用出来る。特に射出成形、中空成形、シート成形等の用途に好適である。また必要に応じ、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤又は着色剤等の添加剤を添加し、成形してもよい。
【実施例】
【0080】
(回収方法)
油などの異物が付着した成形品をロータリー式の破砕機を利用し破砕したのち、ノニオン性界面活性剤水溶液により洗浄し、加熱乾燥して芳香族ポリカーボネート(ポリマーアロイ)を回収した。
【0081】
(成形方法)
東芝機械(株)製射出成形機IS100GN(型締力1010kN)を用い、下記の肉厚が3段階に変化する角型シート金型を用いて成形温度280℃、金型温度80℃で、回収樹脂を成形した。
上記角型シート金型の形状は、全体が150×150角型で、流れ方向に肉厚がゲートサイド手前から3mm(甲部)、中央部2mm(乙部)、先端1mm(丙部)の肉厚分割の形状である。
【0082】
(評価方法)
射出成形して得られた成形品を120℃で3時間減圧乾燥した後、プライマー無しに直接アルミニウム膜を蒸着した。アルミニウムの蒸着には、アルバック社製UEPを使用した。即ち、8×10-5Pa(パスカル)の真空状態に保たれた真空槽内で、電子ビーム方式によって、アルミニウム(純度99.99%)を加熱し、成形品上に100μmの厚さで蒸着させた。
処理後室温に24時間静置したのち、JIS K5400に準拠する碁盤目テープ法を行い、蒸着膜の生地との密着性の評価を行った。すなわち、剃刀歯を有する碁盤目ノッチ付け器で表面を一片が3mm間隔で50マスノッチした後、粘着テープを貼付し、テープを垂直方向に引き取ることで剥離をし、上記評価を行った。
【0083】
(溶融緩和時間の測定方法)
測定試料を直径50mmの専用スペーサーを用い、300℃で5分予熱した後、50kg/mm2で3分プレスし、その後水冷プレス機で冷却し、試料ペレットを成形した。次に上記ペレットを、真空下120℃で5時間乾燥させた。
続いて試料ペレットを、メカニカルスペクトロメーターRMS800型(レオメトリックス(株)製)を用い、パラレルプレート:直径50mm、歪み:5%、周波数:0.015〜100rad/sec、サンプルギャップ:1.5mmの条件で、温度230℃に保持し、貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”を測定した。
【0084】
上記測定方法により得られた貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、及び測定に用いた周波数ω(rad/sec)より、溶融緩和時間τ(sec/rad)は下式(6)で求めた。
【0085】
【数9】

【0086】
(分岐度の測定方法)
GPC−RI/Viscometer/MALLS(Aliance 2000CV:日本ウォーターズ(株)、DAWN−DSP:Wyatt Technology社)を用い、移動相:クロロホルム、流速:1.0ml/min、温度:40℃、カラム:TSKgel GMHHR−H、注入量:0.332ml、濃度:約2mg/mlの条件で、分子量で分離した各フラクションで重量平均分子量、平均二乗半径、粘度、示差屈折率を測定し、各フラクションiでの1分子あたりの分岐度ni及び芳香族ジヒドロキシ化合物のモノマー1,000単位あたりの分岐度λiを求め、芳香族ジヒドロキシ化合物のモノマー1,000単位あたりの分岐度λwを求めた。
【0087】
(比較例1:試料1)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネート「ユーピロンH3000R」(分子量:19700、溶融緩和時間:0.034rad/sec)を、上記成形方法で成形し、成形品<1>を得た。
成形品<1>に対し、上記の条件でアルミニウム蒸着を施し、蒸着膜と生地との密着性の評価を行った。
その結果、成形品<1>の場合、甲及び乙部では剥離ゼロ箇所、丙部では剥離が1箇所観測された。
このときの分子量は、初期原料の分子量19700に対して、成形品<1>の分子量は19300であり、成形による分子量劣化が起こることが判る。
【0088】
(比較例2:試料2)
次に、回収した成形品<1>を、比較例1と同様に射出成形を実施し、成形品<2>を得た。
その結果、成形品<2>の場合、成形品<1>と同様に甲部では剥離ゼロ箇所であったが、乙部では5箇所の剥離が、丙部では、20箇所の剥離が観測された。
このときの分子量は、初期原料の分子量19700に対して、成形品<2>の分子量は19100であり、成形品<1>と同様、成形による分子量劣化が起こることが判る。
【0089】
(比較例3:試料3)
回収した成形品<1>50部に対して、分子量調整用原料として成形品<1>よりも分子量の大きい三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネート「ユーピロンML300」(分子量:22000)を50部配合して、分子量を初期原料の分子量である19700程度に調整し、比較例1と同様の実験を行ったところ、剥離は甲部でゼロ箇所、乙部で7箇所、丙部で15箇所観測された。
【0090】
(実施例1:試料4)
回収した成形品<1>50部に対して、溶融緩和時間調整用原料として三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネート「ノバレックスM7022A」(分子量:22000)を50部配合することで、溶融緩和時間が成形品<1>程度になるように調整し、上記の成形及び評価を行ったところ、甲及び乙部での剥離はゼロ箇所で、丙部では3箇所の剥離が観測された。
【0091】
(実施例2:試料5)
回収した成形品<1>75部に対して、溶融緩和時間調整用原料として三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネート「ノバレックスM7027A」(分子量:27000)を25部配合することで、溶融緩和時間が成形品<1>程度になるように調整し、上記の成形及び評価を行ったところ、甲、乙及び丙部いずれも剥離は観測されなかった。
【0092】
(実施例3:試料6)
回収した成形品<1>50部に対して、溶融緩和時間調整用原料として三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネート「ノバレックスM7020A」(分子量:16800)を50部配合することで、溶融緩和時間が成形品<1>程度になるよう配合し、上記の成形及び評価を行ったところ、甲及び乙部での剥離はゼロ箇所で、丙部では3箇所の剥離が観測された。
【0093】
(実施例4:試料7)
回収した成形品<1>75部に対して、溶融緩和時間調整用原料として三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネート「SYK T6181」(分子量:27500)を25部配合することで、溶融緩和時間が成形品<1>程度になるよう配合し、上記の成形及び評価を行ったところ、甲及び乙部での剥離はゼロ箇所で、丙部では1箇所の剥離が観測された。
【0094】
(比較例4:試料8)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネート「ユーピロンS2000」80重量部と三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリブチレンフタレート「ノバデュール5010」20重量部とを、日本製鋼所製同方向2軸混練機にTEX44を用い、260℃の温度で混練し、上記の成形方法により成形品<3>を得た。
成形品<3>に対し、上記評価を行ったところ、剥離は甲部で1箇所、乙部で10箇所、丙部で15箇所観測された。
【0095】
(比較例5:試料9)
回収した成形品<3>を、比較例2と同様な方法で破砕したのち、上記の成形方法により成形品<4>を得た。
成形品<4>に対し、上記評価を行ったところ、剥離は甲部で3箇所、乙部で27箇所、丙部で33箇所観測された。
【0096】
(実施例5:試料10)
次に、回収した成形品<4>60重量部に、分岐ポリカーボネート「ノバレックスM7027A」32部と、ポリブチレンテレフタレート「ノバデュール5010」8重量部とを配合混練し、上記の成形方法により成形品<5>を得た。
成形品<5>に対し、上記評価を行ったところ、剥離は甲部で1箇所、乙部で5箇所、丙部で14箇所観測された。
【0097】
(比較例6:試料11)
「ノバレックスM7027A」を「S2000」に代えた以外は実施例5と同様の方法により、成形品<6>を得た。
成形品<6>に対し、上記評価を行ったところ、剥離は甲部で3箇所、乙部で20箇所、丙部で25箇所観測された。
【0098】
以下、表1に実施例1〜5及び比較例1〜6(試料1〜11)の結果を、また、表2に用いた原料の分岐度を示す。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
以上の結果から、成形品から回収したポリカーボネート又はそのポリマーアロイに分岐芳香族ポリカーボネートを配合し、得られる混合芳香族ポリカーボネート(ポリマーアロイ)の溶融緩和時間を、初期原料である芳香族ポリカーボネート(A)の溶融緩和時間の0.7倍以上、又は、回収したポリカーボネート(ポリマーアロイ)の溶融緩和時間の1.05倍以上になるように調整した後に、成形することで、成形品における蒸着膜の生地との密着性が改善された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート(A)よりなる基材上に異物を有するか又は異質の層を設けた成形品から芳香族ポリカーボネート(B)を回収し、
上記芳香族ポリカーボネート(B)に分岐芳香族ポリカーボネート(C)を配合して得られる混合芳香族ポリカーボネート(D)の溶融緩和時間を、芳香族ポリカーボネート(A)の溶融緩和時間の0.7倍以上、又は、上記芳香族ポリカーボネート(B)の溶融緩和時間の1.05倍以上になるように調整した後に、
成形することを特徴とする
芳香族ポリカーボネートの成形方法。
【請求項2】
芳香族ポリカーボネート(A)を20重量部以上100重量部未満、及び、芳香族ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂(E)を80重量部以下含有するポリマーアロイ(F)よりなる基材上に異物を有するか又は異質の層を有する成形品からポリマーアロイ(G)を回収し、
上記ポリマーアロイ(G)に分岐芳香族ポリカーボネート(H)を配合して得られる混合ポリマーアロイ(I)の溶融緩和時間を、芳香族ポリカーボネート(A)の溶融緩和時間の0.7倍以上、又は、上記ポリマーアロイ(G)の溶融緩和時間の1.05倍以上になるように調整した後に、
成形することを特徴とする
芳香族ポリカーボネートポリマーアロイの成形方法。
【請求項3】
分岐芳香族ポリカーボネート(C又はH)が、芳香族ジヒドロキシ化合物のモノマー1,000単位あたり1.5〜10の分岐度を有する請求項1又は2に記載の成形方法。
【請求項4】
分岐芳香族ポリカーボネート(C又はH)が、芳香族ジヒドロキシ化合物のモノマー1,000単位あたり2.5〜5.0の分岐度を有する請求項1〜3のいずれか1つに記載の成形方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(E)が、アクリロニトリル・ブタジエン・ビニル芳香族共重合体、アクリロニトリル・ビニル芳香族重合体、アクリロニトリル・エチレンプロピレン共重合体・ビニル芳香族重合体及びポリブタジエン含有ビニル芳香族重合体よりなる群から選ばれた少なくとも1つのスチレン系樹脂である請求項2〜4のいずれか1つに記載の成形方法。
【請求項6】
異質の層が、色素含有層、金属反射層、感光層、保護層、下塗層、塗膜層、ハードコート層、反射防止層、防眩層、視野角拡大層、紫外線防止層、熱線吸収層、熱線反射層、電磁波吸収層、電磁波反射層、接着剤層、粘着剤層及びセルロース誘導体層よりなる群から選ばれた請求項1〜5のいずれか1つに記載の成形方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の成形方法であって、
射出成形することを特徴とする
成形方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の成形方法により成形してなる成形品。
【請求項9】
芳香族ポリカーボネート(A)よりなる基材上に異物を有するか又は異質の層を設けた成形品から芳香族ポリカーボネート(B)を回収し、
上記芳香族ポリカーボネート(B)に分岐芳香族ポリカーボネート(C)を配合して得られる混合芳香族ポリカーボネート(D)であって、その溶融緩和時間が、芳香族ポリカーボネート(A)の溶融緩和時間の0.7倍以上、又は、上記芳香族ポリカーボネート(B)の溶融緩和時間の1.05倍以上である混合芳香族ポリカーボネート(D)。
【請求項10】
芳香族ポリカーボネート(A)を20重量部以上100重量部未満、及び、芳香族ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂(E)を80重量部以下含有するポリマーアロイ(F)よりなる基材上に異物を有するか又は異質の層を有する成形品からポリマーアロイ(G)を回収し、
上記ポリマーアロイ(G)に分岐芳香族ポリカーボネート(H)を配合して得られる、混合ポリマーアロイ(I)であって、その溶融緩和時間が、芳香族ポリカーボネート(A)の溶融緩和時間の0.7倍以上、又は、上記ポリマーアロイ(G)の溶融緩和時間の1.05倍以上である混合ポリマーアロイ(I)。

【公開番号】特開2006−89509(P2006−89509A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272722(P2004−272722)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(591056938)パナック工業株式会社 (7)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】