説明

成形型

【課題】固定型と可動型双方の貫通孔成形部の損傷を解消することができ、形成された貫通孔端部から成形品の表面外側へバリが突出することを防止できる成形型を提供すること。
【解決手段】固定型1と可動型2とからなり、貫通孔W1を有するフロアスペーサWを成形するための成形型10であって、固定型1および可動型2により形成されたキャビティには、貫通孔W1を成形するための第1の凸部12と第2の凸部22がそれぞれ対応する箇所に設けられており、固定型1と可動型2とが型締めされた姿勢において、第1の凸部12と第2の凸部22との間に隙間Gが形成されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定型と可動型とを備えて貫通孔を有する成形品を成形するための成形型に係り、特に、固定型と可動型双方の貫通孔成形部の損傷を解消することができ、さらには、形成された貫通孔端部から成形品の表面外側へバリが突出することを防止できる成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の床面の平坦性を確保するために、あるいは吸音性能を向上させるために、車両内外で発生する衝撃に対して乗員を保護するために、さらには、車両の軽量化等の目的のために、車両のフロアフレーム上に発泡樹脂成形体からなるフロアスペーサが設置されている。
【0003】
このフロアスペーサの成形方法は多岐に亘るが、上記吸音性能を付与すべく多数の貫通孔が設けられたフロアスペーサの成形方法として、例えば特許文献1に開示の技術を挙げることができる。この成形方法を図7aに基づいて説明すると、1組の金型a,bのうちの少なくともエジェクタピンを備えたキャビティ型aに、吸音孔を成形するための吸音孔成形部a1を形成しておき、キャビティ型aに対するフロアスペーサwの離型抵抗をエジェクタピンを備えていないコア型bの離型抵抗よりも大きく設定しておくことにより、フロアスペーサwの離型を容易とした成形方法である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−340858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の成形型および成形方法によれば、型内成形されたフロアスペーサの離型が容易となる。しかし、型締めの際に吸音孔成形部a1とコア型bとが当接(密着)する構成となっているため、図7bに示すように、最終的に離型されたフロアスペーサwの貫通孔w1の端部(吸音孔成形部a1とコア型bとのパーティングライン)には、フロアスペーサの外側に突出するバリBが生じ易くなる。このバリは、フロアスペーサの輸送時等において他のフロアスペーサや梱包材、作業員の手と接触して剥れ落ち、ゴミとなってしまったり、見た目の悪さから後加工して取り除いたりする必要があり、生産性を悪化させる要因でもある。したがって、バリが生じた場合でもそれがフロアスペーサの外側に突出しなければ、他の製品や人手との接触がなくなり、バリが剥がれ落ちたり、後加工で取り除くという問題も生じ得ない。
【0006】
また、貫通孔を具備するフロアスペーサを成形する成形型が、上記するようにその型締めの際に吸音孔成形部とコア型とが当接する構成の場合には、双方の金型の当接部がその繰り返し使用によって劣化し易くなり、金型のメンテナンス費用や取替え費用が嵩んでしまうという問題もある。
【0007】
本発明の成形型は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、貫通孔を具備するフロアスペーサ等の成形品において、貫通孔端部から成形品の外側に突出するバリを発生させることなく、さらには、成形型を構成する固定型および可動型の貫通孔形成部の劣化が生じ難い成形型を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による成形型は、固定型と可動型とを備え、貫通孔を有する成形品を成形するための成形型であって、前記固定型および可動型により形成されたキャビティには、前記貫通孔を成形するための第1の凸部と第2の凸部がそれぞれ対応する箇所に設けられており、固定型と可動型とが型締めされた姿勢において、第1の凸部と第2の凸部との間に隙間が形成されることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の成形型は、吸音性能を付与すべく設けられた複数の貫通孔を有する成形品、より具体的には車両用フロアスペーサの製造に好適な成形型であり、その構成は、固定型と可動型とを少なくとも具備するものである。なお、車両用フロアスペーサには、車両の衝突時の衝撃から乗員を保護するための下肢部衝撃吸収パッドや車室空間を調整する水平パッドのほか、それらが一体に成形された製品を包含するものである。
【0010】
固定型、可動型を型締めした姿勢において成形品形状のキャビティが画成されるが、双方の型により形成されたキャビティには貫通孔形成用の凸部がそれぞれ対応する箇所に設けられている。例えば一つの成形品に4箇所の貫通孔が形成される場合には、固定型、可動型の双方の対応箇所に4つずつの凸部が設けられることになる。この対応する2つの凸部は、双方の断面寸法が同じであってもよいし、相対的に一方が大きな寸法であってもよい。さらには、その断面形状は円形のほか、正方形、矩形を始めとする多角形状であってもよい。貫通孔がその途中で断面寸法の異なる形状に成形されている場合には、小寸法の孔が車室内側となるようにしてフロアスペーサを車室内に設置することで、吸音性能を一層高めることができる。
【0011】
ここで、成形型が型締めされた際に双方の凸型先端が当接しない、すなわち凸部間に所定の隙間が形成されるようになっている。この隙間は、成形品の貫通孔内部に形成されるバリとなるものであるが、双方の凸部同士が当接しない構成であることから以下の効果が得られる。その一つは、固定型および可動型の双方に凸部が設けられていることで、バリが貫通孔に形成される箇所は該貫通孔の内部となり、バリが成形品の外部に突出した場合の剥がれ落ちや後加工による取り除きに起因した上記問題が解消されることである。また、他の一つは、成形型の型締め時に対応する凸部同士が当接しないため、その繰り返し使用によって該当接に起因した凸部の劣化を完全に解消できることである。
【0012】
なお、上記する成形型にて成形される成形品は発泡性樹脂粒子からなるもので、該発泡性樹脂粒子として熱可塑性樹脂粒子を使用する場合は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などを使用することができ、発泡性樹脂として熱硬化性樹脂を使用する場合は、ポリウレタン系樹脂などを使用することができる。中でも、ポリエチレン系樹脂粒子にスチレン系単量体を含浸重合させて得られるスチレン改質ポリエチレン系樹脂の樹脂粒子発泡成形体は、ポリエチレン系樹脂粒子の発泡成形体やポリプロピレン系樹脂粒子の発泡成形体に比べて、寸法安定性と形状保持性に優れていること、ポリスチレン系樹脂粒子の発泡成形体に比べて擦れによる粉が出難いことの理由から特に好ましい。また、スチレン改質ポリエチレン系樹脂におけるスチレン成分の割合は40〜90重量%、好ましくは50〜85重量%、より好ましくは55〜75重量%である。
【0013】
下肢部衝撃吸収パッドの成形に際しては、例えば上記するスチレン改質ポリエチレン系樹脂をはじめとする熱可塑性樹脂に、発泡剤を含浸させて発泡性の熱可塑性樹脂とし、該発泡性の熱可塑性樹脂を加熱水蒸気等で予備発泡させることで予備発泡粒子を製造する。次いで、かかる予備発泡粒子を上記成形型内に充填し、発泡成形すればよい。ここで、フロアスペーサの発泡倍率は、例えば3〜70倍の範囲内で調整した予備発泡粒子により成形するのがよい。
【0014】
また、本発明による成形型の他の実施の形態は、固定型と可動型とを備え、貫通孔を有する成形品を成形するための成形型であって、前記固定型および可動型により形成されたキャビティには、前記貫通孔を成形するための第1の凸部と第2の凸部がそれぞれ対応する箇所に設けられており、前記第1の凸部と第2の凸部のいずれか一方の先端には、他方の凸部が遊嵌する凹溝が形成されており、固定型と可動型とが型締めされた姿勢において、前記凹溝と前記他方の凸部の間に隙間が形成されることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の成形型においては、固定型および可動型の双方の対応する箇所に凸部が設けられている構成は既述する成形型と同様であるが、一方の凸部の先端には成形型の型締めの際に他方の凸部が遊嵌される凹溝が形成されている形態となっている。
【0016】
また、前記他方の凸部が相対的に大断面の凸部とその先端に設けられた相対的に小断面の凸部とからなる多段状を呈していて、この小断面の凸部が前記凹溝に遊嵌されるようになっており、固定型と可動型とが型締めされ、前記小断面の凸部が前記凹溝に遊嵌された姿勢において、第1の凸部と第2の凸部との間に隙間が形成されるような形態であってもよい。かかる形態においても、凹溝とそれに遊嵌される凸部との間に所定の隙間が形成されるようになっており、双方が当接することによる劣化損傷の問題が生じない構成となっている。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から理解できるように、本発明の成形型よれば、固定型および可動型の双方の対応する位置に設けられた凸部同士が成形型の型締め時に当接しないようになっていることで、成形品に形成される貫通孔の内部にバリを形成することができ、該バリが他の製品や人手と接触した場合の剥がれ落ちや後加工による取り除きという問題を解消できる。また、双方の凸部同士が当接しないことから、該凸部の劣化を生じ難くすることができ、メンテナンス費用等を可及的に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の成形型の一実施の形態の断面図であり、図2は図1のII―II矢視図であり、図3は図1の成形型によって成形されたフロアスペーサである。図4,5は本発明の成形型の他の実施の形態の断面図であり、図6は図5の成形型によって成形されたフロアスペーサである。
【0019】
図1は、成形型の一実施の形態の断面図であり、型締め時の状態を示している。また、図2は図1のII―II矢視図である。この成形型10は、下方に開放された箱型の固定型1と、上方に開放された箱型の可動型2とから大略構成されており、型締め時には双方の外周側11,21の端部同士が当接した状態となって内部に成形品に応じたキャビティ空間が形成されるようになっている。
【0020】
固定型1、可動型2の双方の対応する位置には図示するように凸部12,22が設けられており、型締め時には凸部12,22の間に所定の隙間Gが形成されるようになっている。なお、図示する成形型10は4つの吸音用の貫通孔を具備するフロアスペーサを成形するための形態であり、図2に示すように固定型1、可動型2の双方に4つずつの凸部12,…、22,…が設けられている。なお、成形される貫通孔の基数やフロアスペーサの形状が図示以外の形態であってもよいことは勿論のことである。
【0021】
例えばポリスチレン系樹脂を加熱水蒸気等で30倍の発泡倍率で予備発泡させることで予備発泡粒子Rを製造し、この予備発泡粒子Rを成形型10内に充填し、成形型10を数秒加熱した後に、成形体の一方面を5秒程度蒸気加熱し、その後に他方面を5秒程度蒸気加熱し、さらに両面を10秒程度加熱し、最後に150秒程度放冷し、型開きしながら離型することで、図3に示すフロアスペーサWが成形される。なお、各工程に要する時間等は、所望の空隙率を有するフロアスペーサとなるように適宜調整される。
【0022】
フロアスペーサWには4つの貫通孔W1,…が形成されるが、それぞれの貫通孔W1内には図1で示す型締め時の隙間Gに入り込んだ予備発泡粒子によって成形されたバリBが形成されることになる。
【0023】
しかし、このバリBは貫通孔W1の内部に形成されるものであって決してフロアスペーサWの外側に突出するものではない。
【0024】
一方、図4は、成形型の他の実施の形態を示している。この成形型10Aは、固定型1Aに設けられた凸部13が可動型2A側に向って縮径してなる2段の凸部13a,13bから構成されており、可動型2Aには上記凸部13aと同径の凸部23が設けられており、その先端には型締め時に凸部13bが遊嵌される凹溝23aが開設されている。この凹溝23aと凸部13bとの間、および凸部13aと凸部23の先端面との間にも隙間Gが形成されるようになっており、したがって型締め時に双方の凸部同士が当接することはない。
【0025】
このキャビティ内にも上記と同様の予備発泡粒子Rが充填され、所定の発泡成形を経て図3に示すフロアスペーサが形成されることになる。ただし、この成形型10Aによる場合には、隙間Gの大きさによってはその内部にまで予備発泡粒子が入り込まないこともあり、この場合には形成される貫通孔内でその内部に突出したリング状のバリが形成される。
【0026】
図5は、成形型のさらに他の実施の形態を示している。この成形型10Bでは、固定型1Bに設けられた凸部14がその先端が縮径した切頭円錐形を呈しており、少なくともこの切頭円錐形の部分を収容する凹溝24aを有する凸部24が可動型2Bに設けられた成形型である。図示する実施の形態では、凸部14の外径に対して凸部24のそれが相対的に大径となっている。この凹溝24aと凸部14との間にも隙間Gが形成され、型締め時に双方が当接することはない。
【0027】
なお、図中、隙間Gの大きさt1は0.5mm程度に、凸部24における凹溝24aの外側の厚みt2は2mm程度またはそれ以上に、凸部14における縮径していない部分が凹溝24a内に入り込んでいる長さ(すり合わせ長さ)t3は1mm程度またはそれ以上に設定することができる。
【0028】
この成形型10Bによって成形されたフロアスペーサWAを図6に示している。フロアスペーサWAに形成される貫通孔WA1は、凸部14,24の外径が相異することによって多段状(2段)に成形される。このフロアスペーサWAを車室内に設置する場合には、図示する状態、すなわち、貫通孔WA1の小径部分が車室内側となるように設置することで吸音性能をより一層高めることができる。
【0029】
上記する成形型10,10A,10Bによって成形されるフロアスペーサW,WAによれば、形成される貫通孔W1,WA1の内部にバリBが形成されるため、バリが剥がれ落ちてゴミが生じる問題や、見た目の悪さから後加工して取り除いたりする必要から生産性を悪化させるといった問題を解消することができる。
【0030】
さらには、成形型の型締め時において固定型、可動型双方の対応する凸部同士が当接することがないため、繰り返し使用のたびに双方の凸部が当接して該凸部が摩耗劣化し易くなるといった問題も生じ得ない。したがって、従来の成形型のように、成形型のメンテナンス費用や貫通孔成形部の劣化にともなう型の取替え費用などが嵩むといった問題も解消することができる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の成形型の一実施の形態の断面図である。
【図2】図1のII―II矢視図である。
【図3】図1の成形型によって成形されたフロアスペーサである。
【図4】本発明の成形型の他の実施の形態の断面図である。
【図5】本発明の成形型のさらに他の実施の形態の断面図である。
【図6】図5の成形型によって成形されたフロアスペーサである。
【図7】(a)は従来の成形型の貫通孔成形部を拡大した断面図であり、(b)は成形された成形品の一部の断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1,1A,1B…固定型、11…外周側、12,13,14…凸部、2,2A,2B…可動型、21…外周側、22,23,24…凸部、23a,24a…凹溝、W,WA…フロアスペーサ、W1,WA1…貫通孔、R…予備発泡粒子、G…隙間11


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と可動型とを備え、貫通孔を有する成形品を成形するための成形型であって、
前記固定型および可動型により形成されたキャビティには、前記貫通孔を成形するための第1の凸部と第2の凸部がそれぞれ対応する箇所に設けられており、
固定型と可動型とが型締めされた姿勢において、第1の凸部と第2の凸部との間に隙間が形成されることを特徴とする成形型。
【請求項2】
固定型と可動型とを備え、貫通孔を有する成形品を成形するための成形型であって、
前記固定型および可動型により形成されたキャビティには、前記貫通孔を成形するための第1の凸部と第2の凸部がそれぞれ対応する箇所に設けられており、
前記第1の凸部と第2の凸部のいずれか一方の先端には、他方の凸部が遊嵌する凹溝が形成されており、
固定型と可動型とが型締めされた姿勢において、前記凹溝と前記他方の凸部の間に隙間が形成されることを特徴とする成形型。
【請求項3】
前記他方の凸部は、相対的に大断面の凸部とその先端に設けられた相対的に小断面の凸部とからなる多段状を呈しており、かつ、該小断面の凸部が前記凹溝に遊嵌されるようになっており、
固定型と可動型とが型締めされ、前記小断面の凸部が前記凹溝に遊嵌された姿勢において、第1の凸部と第2の凸部との間に隙間が形成されることを特徴とする請求項2に記載の成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−93931(P2008−93931A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277433(P2006−277433)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】