説明

成形支援システム

【課題】熱媒体の適切な温度調節が可能で、始動時の金型の昇温のための捨てショットを少なくすることができ、また、成形サイクルの時間短縮を図ることが可能な成形支援システムを提供する。
【解決手段】熱媒体を温度調節して金型に循環させる温調機と、温調機の外部に設けられた外部温度センサと、温調機とは別に熱媒体を加熱する加熱補助機からなり、外部温度センサにより金型から温調機へ戻る熱媒体の温度を検知して、加熱補助機の制御を行うようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金型に循環させる熱媒体の温度を調節することで、金型による成形を支援するようにしたシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の成形支援システムとしては、非特許文献1に記載の金型温調機を使用したものがある。この金型温調機は、図5に示したような構成で、内部に循環ポンプ、ヒータ等を備え、水等の熱媒体を金型に送り、金型から戻ってきた熱媒体を温度調節して、また金型に送って循環させるようにしたものであり、内部に温度センサを備えており、温度センサによって熱媒体の温度を検知し、金型に送る熱媒体の温度調節を行うことができるようになっている。
【0003】
しかし、前記温度センサは、金型から離れた温調機の内部で熱媒体の温度を検知するものであるため、十分に適切な温度調節ができないおそれがあった。
【0004】
また、金型においては、金型が一定の温度にまで昇温した後に、順に型閉、樹脂充填、保圧、樹脂凝固、型開、取出の成形サイクルが実施されるのであるが、従来の成形支援システムでは、始動時の金型の昇温に時間がかかるとともに、捨てショットを多用する必要があり、また、成形サイクルにおいて最も長い時間を要する樹脂凝固の時間短縮を図ることが困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】株式会社ニッコーが平成22年に発行したパンフレット「金型調温機 MAX.160℃温水」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、熱媒体の適切な温度調節が可能で、始動時の金型の昇温のための捨てショットを少なくすることができ、また、成形サイクルの時間短縮を図ることが可能な成形支援システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、この発明は次のような技術的手段を講じている。
【0008】
この発明の成形支援システムは、熱媒体を温度調節して金型に循環させる温調機と、温調機の外部に設けられた外部温度センサと、温調機とは別に熱媒体を加熱する加熱補助機からなり、外部温度センサにより金型から温調機へ戻る熱媒体の温度を検知して、加熱補助機の制御を行うようにしている。
【0009】
外部温度センサは、温調機よりも金型に近い位置に設けられたものとすることができる。
【0010】
また、加熱補助機が温調機の始動時に作動することにより、金型を早期に昇温させられるようにしたものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の成形支援システムは、上述のような構成を有しており、熱媒体の適切な温度調節が可能となっている。また、加熱補助機の利用により、始動時の金型を早期に昇温させたり、捨てショットを少なくしたりでき、成形サイクルの時間短縮を図ることも可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施形態の成形支援システムの、全体構成に関する説明図である。
【図2】加熱補助機の構成の説明図である。
【図3】温度調節に関する説明図である。
【図4】温度調節の手順に関する流れ図である。
【図5】従来の金型温調機の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の好適な実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
〔本システムの概要〕
この成形支援システムは、熱媒体を温度調節して金型に循環させる温調機と、温調機の外部に設けられた外部温度センサと、温調機とは別に熱媒体を加熱する加熱補助機からなり、外部温度センサにより金型から温調機へ戻る熱媒体の温度を検知して、加熱補助機の制御を行うようにしたものである。
【0015】
金型は、固定型(図1中、左側)と可動型(右側)からなるプラスチックの射出成形を行うものとしており、温調機との間に設けられた配管を循環する熱媒体により、所望の温度に調節されるようにしている。熱媒体の温度は、40〜160℃の間で調節されるものとすることができる。
【0016】
〔温調機〕
温調機は、内部に循環ポンプ、ヒータ等を備え、水等の熱媒体を金型に送り、金型から戻ってきた熱媒体を温度調節して、また金型に送って循環させるようにしたものである点では従来のものと同様であるが、外部に設けられた外部温度センサと、温調機とは別に熱媒体を加熱する加熱補助機と通信ケーブルを介して通信可能に接続されたものとなっている。温調機は、内部のヒータの制御や、外部に接続された機器との通信、制御を行う機能を備えた制御部(図示せず)を有している。
【0017】
熱媒体は、温調機と金型との間の配管を流れるようにしている。図1中、先端が矢印となった直線が熱媒体の流れを示しており、T1が温調機から金型に送られる熱媒体の温度、T2が金型出口温度(金型から温調機へ戻る配管中の熱媒体の温度)である。
【0018】
温調機のヒータは、熱媒体の温度設定を多段階に調節可能なものとすることができる。この実施形態では、「通常運転設定温度」(SV)、「過冷却設定温度」(SV−γ)、「第1段設定温度」(SV+α)、「第2段設定温度」(SV+β)の各段階の温度設定を可能なものとしている(図3参照)。
【0019】
第1段設定温度SV+α及び第2段設定温度SV+βは、温調機の始動時に加熱補助機を作動させることにより達せられる温度であり、後の成形サイクルにおいては、通常運転設定温度SVを基準として、加熱補助機のオン・オフを制御しつつ、通常運転設定温度よりも高い温度SV+ΔT(ΔTは1℃程度とすることができる)と過冷却設定温度SV−γの間で調節できるようにしている。
【0020】
〔外部温度センサ〕
外部温度センサは、金型から温調機へ戻る配管中の熱媒体の温度を検知するように設けられている。外部温度センサは、温調機よりもなるべく金型に近い位置に設けることが望ましい。この外部温度センサで検知した熱媒体の温度T2に基づき、前述の温調機での温度調節がなされる。
【0021】
〔加熱補助機〕
加熱補助機は、前記温調機と同一の熱媒体経路に直結し、熱媒体を直接加熱するものであり、図2に示したような構成のもので、熱媒体が温調機から金型へ送られる配管の途中に設けられており、その内部のヒータで、前記配管を流れる熱媒体を加熱するようにしている。ヒータは、温調機によりオン・オフの制御がなされるようにしている。
【0022】
また、加熱補助機は、温調機からの信号を受けて、金型を擁する成形機に対して射出成形OK信号を発するようにしている。
【0023】
加熱補助機を設けず、温調機のみで温度制御を行おうとすると、温調機のヒータ出力を大きくしなければならず、それに見合ったタンク容量を必要とするため、温度精度及び熱負荷応答性が阻害されるおそれがあるが、加熱補助機を設けた本システムではそのような問題が生じない。
【0024】
なお、この実施形態では、金型の固定型、可動型のそれぞれに対応して1つずつ外部温度センサ及び加熱補助機が設けられているが、この構成には限定されず、金型全体に対して1つの外部温度センサ及び加熱補助機を設けてもよい。
【0025】
〔温度制御〕
このシステムでは、温調機は、制御部によって多段階の温度調節がなされるようにプログラム運転される。
【0026】
図3中の上段の太い線は、補助加熱機の使用を伴うプログラム運転機能有の場合の金型温度を示しており、細い線は、補助加熱機を使用しない通常運転の場合の金型温度を示している。また、図3中の下段の太い線は、前記プログラム運転機能有の場合の温調機から金型に送られる熱媒体の温度を示しており、細い線は、前記通常運転の場合の熱媒体の温度を示している。
【0027】
従来と同様の通常運転の場合の金型温度は、温調機の始動時においては、図の左端の位置から緩やかに上昇し、その後捨てショットを繰り返すことにより通常運転設定温度SVに達すると、成形サイクル(図中の左右の黒丸の間)が実施される。
【0028】
これに対し、プログラム運転機能有の場合の金型温度は、温調機の始動とともに補助加熱機が作動することにより、通常運転の場合に比べて急に昇温し、通常運転設定温度SVを超える。その後、補助加熱機の作動がオフにされて通常運転設定温度SVにまで低下すると、成形サイクル(図中の白丸の間)が実施される。この場合は、通常運転の場合に比べて早期に成形サイクルを開始でき、捨てショットの回数を大幅に削減することもできる。
【0029】
熱媒体は、図4に示した(A1)〜(A14)の手順で温度調節される。
【0030】
(A1)まず、温調機の始動前に、外部温度センサ使用設定、多段制御温度設定と、外部センサで検知される熱媒体の温度T2が通常運転設定SVより低い状態を保持するように制御する時間S1の設定を行う。
【0031】
(A2)温調機が始動すると、温調機の制御部が加熱補助機のヒータをオンにする。
【0032】
(A3)熱媒体が第1段設定温度SV+αに到達すると、温調機内で熱媒体がこの温度以上になるように、図3中t1の間PID制御を行う。
【0033】
(A4)t1経過後、設定温度を第2段設定温度SV+βに切り替え、加熱補助機のヒータをオフにする。
【0034】
(A5)熱媒体が第2段設定温度SV+βに到達すると、温調機内で熱媒体がこの温度以上になるように、図3中t2の間PID制御を行う。
【0035】
(A6)t2経過後、設定温度を通常運転設定温度SVに切り替え、温調機内で熱媒体がこの温度以上になるようにPID制御を行う。
【0036】
(A7)PID制御中、通常運転設定温度SVの熱媒体を安定吐出する。そして、加熱補助機が温調機の制御部からの信号を受けて、成形機に射出成形OK信号を出し、成形機の金型が射出成型のサイクルを開始する。
【0037】
(A8)成形機において金型が閉状態でかつ通常運転設定温度SVになった状態で金型に樹脂を射出している間、外部センサにより金型出口温度T2を検知する。外部センサにより検知される温度T2が前記温度SV+ΔT以上になるまで温度制御する。
【0038】
(A9)温度T2が前記温度SV+ΔTを超えると、温調機のPID制御により、温度設定を過冷却設定温度SV−γに切り替える。このときから、成形機において成形品が樹脂凝固の段階に入る。
【0039】
(A10)温調機のPID制御により、金型温度が過冷却設定温度SV−γに近づくようにして、成形機における成形品の凝固を促進する。
【0040】
(A11)温調機において熱媒体の温度T2を通常運転設定温度SV以下にする制御を前記A1で設定したS1時間継続する。そして金型を開き、成形品を取り出す。
【0041】
(A12)S1時間経過後、設定温度を第2段設定温度SV+βに切り替え、加熱補助機のヒータをオンにする。
【0042】
(A13)過冷却した金型を通常運転設定温度SVまで急加熱する。
【0043】
(A14)温調機内で測定した熱媒体の温度PVが、通常運転設定温度SVに達したか判断する。通常運転設定温度SVに達した場合は、加熱補助機のヒータをオフにし、前記ステップA8に戻る。加熱補助機は成形機に射出成形OK信号を出し、再び成形機の金型が射出成型のサイクルを開始する。
【0044】
〔本システムの利点〕
本システムは、上述のように、外部温度センサにより検知された金型から温調機へ戻る熱媒体の温度に基づいて、フィードバック制御により温度調節(PID制御)を行うようにしている。外部温度センサは、従来の温調機内部に設けられているものとは異なり、金型出口での熱媒体の温度を検知しているため、金型温度の変化を的確に捉え、熱媒体の温度を、季節や朝晩等、外部環境に左右されることなく、適切に調節することができる。
【0045】
また、温調機から金型へ送られる熱媒体は、前記温調機の制御部によって制御される加熱補助機により加熱できるようになっているため、適切かつ迅速な温度調節が可能である。特に、外部温度センサにより検知された熱媒体の温度に基づいて、適切に急速加熱と冷却の切り替えを行うことができるため、成形サイクル中において最も長い時間を要する樹脂凝固の時間短縮を図ることができる。
【0046】
さらに、加熱補助機が温調機の始動時に作動することにより、金型を早期に昇温させることができるため、捨てショットの回数を大幅に削減することが可能となる。
【0047】
したがって、本システムの利用により、成形サイクルの短縮(生産性向上)と材料歩留り向上を実現することができる。
【0048】
以上がこの発明の好適な実施形態であるが、この発明は上述の実施形態の構成に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体を温度調節して金型に循環させる温調機と、温調機の外部に設けられた外部温度センサと、温調機とは別に熱媒体を加熱する加熱補助機からなり、外部温度センサにより金型から温調機へ戻る熱媒体の温度を検知して、加熱補助機の制御を行うようにしていることを特徴とする成形支援システム。
【請求項2】
外部温度センサが、温調機よりも金型に近い位置に設けられている請求項1記載の成形支援システム。
【請求項3】
加熱補助機が温調機の始動時に作動することにより、金型を早期に昇温させられるようにしている請求項1又は2記載の成形支援システム。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−223939(P2012−223939A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92009(P2011−92009)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000111029)株式会社ニッコー (26)
【Fターム(参考)】