説明

成形条件の調整支援方法および射出成形機

【課題】成形条件出しの作業において、作業者が安心して参考として利用できる参考情報を表示する、射出成形機の成形条件の設定支援方法を提供する。
【解決手段】成形品の重量、射出材料の種類等の成形品に関連する基礎データを、射出成形機のコントローラ20に入力する。コントローラ20は四則演算によって、入力された基礎データから、成形条件を調整するときに参考となる参考情報を計算する。参考情報として、例えば、成形品を射出するためのスクリュ6のストローク、シリンダバレル5内の溶融状態の射出材料の比重、等が挙げられる。参考情報をコントローラ20に設けられている表示装置21に表示する。作業者は、参考情報を参考にして成形条件出しを安全に実施することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機において成形条件を調整するときに、作業者を支援する情報を提供する成形条件の調整支援方法、およびそのような支援方法を実施するコントローラを備えた射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、概略射出ユニットと型盤装置とからなっている。射出ユニットは、従来周知のように、シリンダバレルと、このシリンダバレル内に回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとから構成されている。一方、型盤装置も従来周知であり、固定側金型が取り付けられている固定盤と、可動側金型が取り付けられている可動盤と、可動側金型を固定側金型に対して型開閉する例えばトグル式型締装置とから構成されている。したがってスクリュを回転駆動すると共に、樹脂材料をシリンダバレルに所定量ずつ供給すると、樹脂材料はスクリュの回転による摩擦・剪断作用により生じる熱、シリンダバレルの外周部から加えられる熱等により溶融し、そしてシリンダバレルの先端部の計量室へと送られ、スクリュが後退して所定量蓄えられる。このようにして計量された溶融樹脂を、スクリュを軸方向に駆動して型締めされた金型のキャビティに射出・充填し、そして冷却固化を待って可動金型を開くと、所定形状の成形品が得られる。
【0003】
ところで金型は成形する成形品毎に製作されており、キャビティの形状や容量、ランナの容量等は金型毎に異なっている。また樹脂の種類も成形品毎に異なっている。従って、射出圧力、射出速度、溶融樹脂温度、射出段数、各射出段数毎のスクリュ位置、等の射出条件は、金型毎あるいは成形品毎に変わることになる。このため繰り返し成形条件を変更して射出成形を繰り返し、良品を成形できる適切な成形条件を調整する、いわゆる成形条件出しを実施する必要がある。例えば、成形品によっては射出段数を複数段とし、各射出段数における射出速度を変化させる方が良品が得られる場合があり、この場合には各射出速度やそれぞれのスクリュ位置を決定する成形条件出しが必要になる。射出段数を複数段にするのは、溶融樹脂がゲートを高速で流れる際の摩擦熱によって引き起こされる焼けを防止するためであり、例えば次のように射出段数を3段として射出速度を変化させている。すなわち射出開始直後の1段目は、溶融樹脂がゲートに到達する直前まで、つまりある程度ランナに充填されるまで射出速度を高速にする。ついで2段目として射出速度を低速にして最初にゲートに到達する溶融樹脂がゲートをゆっくり流れるようにする。一旦溶融樹脂がゲートを流れた後は、3段目として射出速度を高速に切り換えて溶融樹脂が短時間でキャビティに充填されるようにする。そうすると焼けが抑制されると共に、フローマークの発生も防止されて良品が得られる。このような射出成形方法を実施するためには、溶融樹脂がランナに充填されるスクリュ位置と、キャビティ内への溶融樹脂の充填が完了するスクリュ位置を正確に確定する必要がある。前者のスクリュ位置は、少量だけ溶融樹脂を射出する試験を繰り返し実施して、ちょうどランナだけが充填される位置を探すようにして確定されている。また後者のスクリュ位置は、成形品にショートショット、ヒケ等が形成されない位置を探すようにして確定されているが、射出する溶融樹脂の量がキャビティの容量に比して多すぎるとバリが発生して高価な金型を傷つけてしまうので、射出する溶融樹脂は少量ずつ注意深く増加するようにして繰り返し試験して確定している。このように成形条件出しは、繰り返し試験を実施しなければならないので煩雑であるし、ミスによって条件を誤ってしまうと高価な金型を傷つけてしまう危険があるので、細心の注意が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−110486号公報
【特許文献2】特開2010−042599号公報
【0005】
特許文献1には、入力された成形条件から、成形品の品質をニューラルネットワークによって予測して、射出成形機を運転する作業者を支援する方法が記載されている。特許文献1に記載の方法によると、対象となる射出成形機と金型において試し成形を繰り返し実施し、良品が得られるような成形条件を複数組得る。そして得られた複数組の成形条件を入力項目とし、それぞれの成形条件における成形品の品質値を出力項目として、ニューラルネットワークに学習させる。このニューラルネットワークに任意の成形条件を入力すると、成形品の品質値を予測できるので、実際に射出成形の試験を実施しなくても、成形品の品質値を容易に予測することができる。従って、未熟練作業者であっても成形条件出しをすることができる。
【0006】
特許文献2には、射出成形における溶融樹脂の流動を解析する射出成形解析ソフトウエアと、最適解を推定することができる、いわゆる多目的遺伝的アルゴリズムとを組み合わせて、最適な成形条件を計算機によって得る方法が記載されている。この方法によると、射出成形解析ソフトウエアにおいて射出条件を与えると仮想的に射出成形を解析することができ、解析された複数の射出成形の中から最適な射出成形を多目的遺伝的アルゴリズムによって推定することができるので、実際に射出成形することなく効率よく成形条件を設定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法によれば、ニューラルネットワークによって任意の成形条件に対する成形品の品質値を予測することができるので、容易に成形条件出しをすることはできる。しかしながら問題も見受けられる。例えば、特許文献1に記載の方法においては、ニューラルネットワークに学習させるためには、良品が得られる成形条件の組を複数組得る必要があり、試し成形を繰り返し実施しなければならないので煩雑である。また試し成形において誤って大量に溶融樹脂を射出してしまうとバリが発生して金型を傷つけてしまうが、このような危険を防止する点については格別に考慮されていない。ニューラルネットワークは少ない計算数で学習でき、容易に品質値を予測できる点は優れているが、必ずしも予測が適切であるとは限らず、予測された品質値に問題がある可能性を排除できない。そうすると、問題のある成形条件が決定されてしまう可能性もあり、高価な金型を傷つけてしまう恐れがある。
【0008】
特許文献2に記載の方法においては、格別に試し成形を実施しなくても成形条件出しをすることはできるが、他に問題が見受けられる。具体的には、多目的遺伝的アルゴリズムは高度な処理によって最適解を推定することができるが、推定された最適解が必ずしも適切であるという保障はないという問題がある。そうすると特許文献2に記載の方法によって得られた成形条件によって射出成形を実施する場合に、過度に溶融樹脂を射出して金型を傷つけてしまう可能性もある。つまり安全を確実に保障することができない。
【0009】
特許文献1に記載の方法も特許文献2に記載の方法も、少ない演算数で計算できるので優れてはいるが、高度な情報処理によって演算されていてブラックボックス化されているので、演算結果が適切であるのか否かを検証することが困難である。成形条件出しは、最終的には射出成形の試験によって微調整を繰り返すようにして実施されることになるが、このように演算結果が適切であるのか否かを検証することができないと、安心して成形条件出しをすることができないし、金型を傷つけてしまう恐れがある。
【0010】
本発明は、上記したような問題点を解決した、射出成形機の成形条件の設定支援方法、およびそのような支援方法を実施するコントローラを備えた射出成形機を提供することを目的としており、具体的には、作業者の成形条件出しを支援する参考情報を提供するようにし、この参考情報を演算するとき、格別に試し成形を実施する必要がなく、ブラックボックス化された複雑な処理によってではなく比較的シンプルな処理によって演算することができ、従って作業者が提供された参考情報を安心して利用して、成形条件出しを実施することができる、射出成形機の成形条件の調整支援方法、およびそのような支援方法を実施するコントローラを備えた射出成形機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、シリンダバレルと該シリンダバレル内に回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとを備え、所定の成形品を成形する金型が取り付けられている射出成形機において、前記射出成形機のコントローラに入力された前記成形品に関連する基礎データから、成形条件を調整する成形条件出しに役立つ参考情報を計算し、該参考情報を前記コントローラの表示装置に表示することを特徴とする射出成形機の成形条件の調整支援方法として構成される。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、前記基礎データは、射出材料の種類と、前記成形品を成形するときに形成されるランナの重量であるランナ重量と、前記成形品の重量である成形品重量とからなり、前記参考情報は、前記ランナと前記成形品のそれぞれを充填するのに必要な前記スクリュのストロークの推定値である推定ランナストロークと推定成形品ストロークとからなり、該推定ランナストロークと該推定成形品ストロークは、前記基礎データと、前記射出材料の常温時と溶融時のそれぞれの比重と、前記シリンダバレルの内径とから計算するように構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、前記基礎データは、前記成形品の重量である成形品重量からなり、前記参考情報は前記射出材料の溶融時の比重からなり、前記射出材料の溶融時の比重は、前記基礎データと、実際に射出された溶融状態の樹脂材料の体積とから計算するように構成される。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、前記基礎データは、前記成形品の重量である成形品重量と、射出材料の種類と、前記射出材料に添加するグラスファイバーの添加率とからなり、前記参考情報は、溶融してグラスファイバーが添加された状態の射出材料の比重と、前記成形品を成形するのに必要な前記スクリュのストロークの推定値である推定成形品ストロークとからなり、前記溶融してグラスファイバーが添加された状態の射出材料の比重と前記推定成形品ストロークは、前記基礎データと、前記射出材料の常温時と溶融時のそれぞれの比重と、前記シリンダバレルの内径とから計算するように構成される。
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、前記基礎データは、成形品の重量である成形品重量と、射出材料の種類とからなり、前記参考情報は、前記スクリュの射出時の速度である射出速度からなり、前記射出速度は、前記基礎データと、射出に要する時間である射出時間とから計算するように構成される。
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、前記基礎データは、成形品の重量である成形品重量と、射出材料の種類とからなり、前記参考情報は、射出に要する時間である射出時間からなり、前記射出時間は、前記基礎データと、前記スクリュの射出時の速度である射出速度とから計算するように構成される。
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれかの項に記載の成形条件の調整支援方法を実施するコントローラを備えた射出成形機として構成される。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によると、成形品に関連する基礎データから、成形条件を調整するときに参考となる参考情報を計算し、該参考情報を射出成形機のコントローラの表示装置に表示するように構成されているので、作業者の成形条件出しの作業が容易になる。そして、このような参考情報を計算するときに、格別に試し成形を実施する必要もない。このような参照情報を参考にして作業者は成形条件出しを実施することができるので、作業者のミスを防ぐことができ、誤った成形条件が決定されることを防止することができる。そして参照情報は参考として提供するだけで、成形条件出しにおいて、作業者の判断が必ず介在することになる。ブラックボックス化された複雑な処理によって最適な成形条件が決定される場合には、処理の不具合によって誤った成形条件が導き出されてしまう可能性もあるが、本発明においては、成形条件出しには必ず作業者の判断が介在するので、誤った成形条件が決定される可能性を十分に小さくできるという本発明に特有の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る射出成形機を模式的に示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る射出成形機の成形条件の調整支援方法を説明するための、各種の基礎データと該基礎データから計算される参考情報を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る射出成形機1も、図1に示されているように、従来周知のように構成されており、概略射出ユニット2と型盤装置3とから構成されている。射出ユニット2は、シリンダバレル5と、このシリンダバレル5内に可塑化方向の回転方向と、射出方向の軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュ6とから構成されている。一方、型盤装置3は概略固定盤8と、型締ハウジング9と、固定盤8と型締ハウジング9を連結しているタイバー10、10、…と、タイバー10、10、…に挿通され固定盤8に対して型開閉する可動盤11と、型締ハウジング9と可動盤11との間に設けられているトグル機構13とから構成されている。そして、固定盤8には固定側金型15が、可動盤11には可動側金型16がそれぞれ取り付けられている。射出ユニット2は、固定盤8に明けられている開口部から挿入され、シリンダバレル5の先端に設けられている射出ノズル18は固定側金型15のスプルに当接している。このような射出成形機1は、コントローラ20によって制御されるようになっており、コントローラ20にはディスプレイすなわち表示装置21が設けられている。
【0016】
本実施の形態に係る射出成形機1も、従来周知の射出成形機と同様に、型盤装置3によって金型15、16を型締めし、射出ユニット2によって射出材料を溶融して金型15、16内のキャビティに射出し、そして射出材料の冷却固化を待って型盤装置3によって型開して成形品を得ることができる。しかしながら、本実施の形態に係る射出成形機1は、成形条件を調整する、いわゆる成形条件出しを容易に実施できるように、作業者の参考となる参考情報を提供する成形条件の調整支援機能を備えている点に特徴がある。本実施の形態に係る成形条件の調整支援機能は次のようになっている。すなわち、作業者がコントローラ20に成形品の重量、射出材料の種類、成形品を成形するときに形成されるランナ等の、成形品に関連するデータを入力する。そうすると、コントローラ20において、四則演算によって入力されたデータから参考情報を計算して、表示装置21に表示するようになっている。作業者は参考情報を適宜参考にして、安全に成形条件を調整することができる。参考情報は、このように四則演算によって計算されているので、作業者が容易に検証することができると共に直感的に適否が把握できる。さらには、四則演算にはソフトウエアバグが混入する可能性がほとんどないし、計算される参考情報に異常値が混入する可能性はない。従って異常な成形条件を設定してしまって金型15、16を傷つける可能性を実質的に零にすることができる。本明細書においては、コントローラ20に入力される成形品に関連する諸データであって、参考情報の計算の基礎となるデータは、基礎データと総称している。成形条件の調整に役立つ参考情報には色々なデータがあり、基礎データは、計算する参考情報に応じて必要となるデータが異なっている。以下、色々な参考情報について説明する。
【0017】
(1)シリンダバレル5内の溶融状態の射出材料の比重を参考情報として提供する。
基礎データ:成形品重量K1
参考情報:射出材料の溶融時の比重S1
図2の(ア)に、その例が示されている。次のようにして参考情報を計算して提供する。射出成形機1において成形品を射出成形する。射出材料を計量したときのスクリュ6の位置と、射出が完了したときのスクリュ6の位置と、シリンダバレル5の内径とから、実際に射出した溶融状態の射出材料の体積である総射出体積T1を計算する。そして、次の計算式によって射出材料の溶融時の比重S1を計算し、表示装置21に表示する。
射出材料の溶融時の比重S1 = 成形品重量K1/総射出体積T1
【0018】
(2)成形品のサンプルが与えられているが、成形条件が不明な場合に、成形品を成形するために必要と推定されるスクリュのストローク、すなわち推定成形品ストロークを参考情報として提供する。なお、成形品には所定の添加率でグラスファイバーが添加されているものとする。
基礎データ:成形品重量K1
射出材料の種類K2
グラスファイバーの添加率K3
参考情報:溶融してグラスファイバーが添加された状態の射出材料の比重S2
推定成形品ストロークS3
図2の(イ)に、その例が示されている。コントローラ20内に保存されている射出材料の比重のデータが格納されている所定のテーブルを参照して、入力された射出材料の種類から、常温時と溶融時のそれぞれの射出材料の比重K4、K5を得る。次の式によって、溶融してグラスファイバーが添加された状態の射出材料の比重S2を得る。
溶融してグラスファイバーが添加された状態の射出材料の比重S2
=(1−グラスファイバー添加率K3)×溶融時の射出材料の比重K5
+グラスファイバー添加率K3×グラスファイバーの比重
ついで、次の式によって推定成形品ストロークS3を得る。
推定成形品ストロークS3=成形品重量K1/溶融してグラスファイバーが添加された状態の射出材料の比重S2/シリンダバレルの断面積
得られた参考情報を表示装置21に表示する。なお上の説明では、射出材料の種類K2から常温時と溶融時のそれぞれの射出材料の比重K4、K5を得るように説明しているが、これらの比重K4、K5は直接基礎データとしてコントローラ20に入力されるようにしてもよい。
【0019】
(3)成形品を成形するときに形成されるランナのサンプルと、成形品のサンプルが与えられているが、成形条件が不明な場合に、ランナと成形品のそれぞれを充填するために必要と推定されるスクリュのストロークすなわち推定ランナストロークと、推定成形品ストロークとを参考情報として提供する。
基礎データ:ランナ重量K6
成形品重量K1
射出材料の種類K2
参考情報:推定ランナストロークS4
推定成形品ストロークS3
図2の(ウ)に、その例が示されている。樹脂材料の種類K2から溶融時の射出材料の比重K5を得る。次の式によって参考情報を得る。
推定ランナストロークS4=ランナ重量K6/溶融時の射出材料の比重K5/シリンダバレルの断面積
推定成形品ストロークS3=成形品重量K1/溶融時の射出材料の比重K5/シリンダバレルの断面積
得られた参考情報を表示装置21に表示する。射出段数を複数段にして射出成形する場合に、推定ランナストロークS4と推定成形品ストロークS3の情報は有用である。なお、溶融時の射出材料の比重K5は、基礎データとして入力されるようにしてもよい。
【0020】
(4)射出に要する射出時間T2が与えられたときに、射出時のスクリュの速度である射出速度を計算して参考情報として提供する。
基礎データ:成形品重量K1
射出材料の種類K2
参考情報:射出速度S5
図2の(エ)に、その例が示されている。射出時間T2がコントローラに入力されると、所定の換算式によって、スクリュの加速/減速を加味して、射出速度S5を計算する。
例えば、次のようにして計算することができる。樹脂材料の種類K2から溶融時の射出材料の比重K5を得、次の式によって推定成形品ストロークS3を得る。
推定成形品ストロークS3=成形品重量K1/溶融時の射出材料の比重K5/シリンダバレルの断面積
スクリュの平均の速度は、推定成形品ストロークS3を射出時間T2で割れば得られるが、これにスクリュの加速/減速を加味した所定の定数を乗じて、射出速度S5を得る。得られた射出速度S5を表示装置21に表示する。
【0021】
(5)射出時のスクリュの速度である射出速度T3が与えられたときに、射出時間S6を計算して参考情報として提供する。
基礎データ:成形品重量K1
射出材料の種類K2
参考情報:射出時間S6
図2の(オ)に射出段数が3段の射出成形の例が示されている。コントローラに次のデータが入力されている。
1〜3の各段における射出速度T3
各段におけるスクリュ位置T4
射出時間S6は、1〜3の各段における射出速度T3とスクリュ位置T4とから、スクリュの加速/減速を加味して演算することができる。しかしながら、3段目の射出が完了した時のスクリュ位置T4、すなわち射出完了時のスクリュ位置T4は入力されない場合もある。この場合には、前記したように樹脂材料の種類K2から溶融時の射出材料の比重K5を得、推定成形品ストロークS3を得て、射出完了時のスクリュ位置T4を決定することができる。そうすると、射出時間S6を演算することができる。射出時間S6を表示装置21に表示する。
【符号の説明】
【0022】
1 射出成形機 2 射出ユニット
3 型盤装置 5 シリンダバレル
6 スクリュ 8 固定盤
9 型締ハウジング 11 可動盤
15 固定側金型 16 可動側金型
20 コントローラ 21 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダバレルと該シリンダバレル内に回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとを備え、所定の成形品を成形する金型が取り付けられている射出成形機において、
前記射出成形機のコントローラに入力された前記成形品に関連する基礎データから、成形条件を調整する成形条件出しに役立つ参考情報を計算し、該参考情報を前記コントローラの表示装置に表示することを特徴とする射出成形機の成形条件の調整支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記基礎データは、射出材料の種類と、前記成形品を成形するときに形成されるランナの重量であるランナ重量と、前記成形品の重量である成形品重量とからなり、
前記参考情報は、前記ランナと前記成形品のそれぞれを充填するのに必要な前記スクリュのストロークの推定値である推定ランナストロークと推定成形品ストロークとからなり、該推定ランナストロークと該推定成形品ストロークは、前記基礎データと、前記射出材料の常温時と溶融時のそれぞれの比重と、前記シリンダバレルの内径とから計算することを特徴とする射出成形機の成形条件の調整支援方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記基礎データは、前記成形品の重量である成形品重量からなり、
前記参考情報は前記射出材料の溶融時の比重からなり、前記射出材料の溶融時の比重は、前記基礎データと、実際に射出された溶融状態の樹脂材料の体積とから計算することを特徴とする射出成形機の成形条件の調整支援方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記基礎データは、前記成形品の重量である成形品重量と、射出材料の種類と、前記射出材料に添加するグラスファイバーの添加率とからなり、
前記参考情報は、溶融してグラスファイバーが添加された状態の射出材料の比重と、前記成形品を成形するのに必要な前記スクリュのストロークの推定値である推定成形品ストロークとからなり、前記溶融してグラスファイバーが添加された状態の射出材料の比重と前記推定成形品ストロークは、前記基礎データと、前記射出材料の常温時と溶融時のそれぞれの比重と、前記シリンダバレルの内径とから計算することを特徴とする射出成形機の成形条件の調整支援方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記基礎データは、成形品の重量である成形品重量と、射出材料の種類とからなり、
前記参考情報は、前記スクリュの射出時の速度である射出速度からなり、前記射出速度は、前記基礎データと、射出に要する時間である射出時間とから計算することを特徴とする射出成形機の成形条件の調整支援方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記基礎データは、成形品の重量である成形品重量と、射出材料の種類とからなり、
前記参考情報は、射出に要する時間である射出時間からなり、前記射出時間は、前記基礎データと、前記スクリュの射出時の速度である射出速度とから計算することを特徴とする射出成形機の成形条件の調整支援方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの項に記載の成形条件の調整支援方法を実施するコントローラを備えた射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−187787(P2012−187787A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52526(P2011−52526)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】