説明

成形用基材シートの少なくとも片面に導電性塗膜層を形成するための塗工液、成形用帯電防止性シート

【課題】成形性に優れたポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートからなる成形用基材シートの少なくとも片面に導電性塗膜層を形成するための塗工液、並びに成形用帯電防止性シートを提供する。
【解決手段】塗工液は、導電性高分子微粒子と、アニオン系界面活性剤と、樹脂バインダとが有機溶媒中に分散されているものであり、前記有機溶媒は、少なくとも組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒であり、前記導電性高分子微粒子:前記樹脂バインダが固形分比で、2乃至15:85乃至98の割合で配合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートからなる成形用基材シートの少なくとも片面に導電性塗膜層を形成するための塗工液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からIC、LSI等の半導体部品(以下、電子部品という)を収納し、搬送するシートとしてキャリアシートが使用されている。このキャリアシートには、電子部品を収納するための凹部(ポケット部)が設けられており、この凹部は例えば真空成形方法を採用することにより設けられる。具体的には、フラット形状の基材シートを軟化するまで加熱し、その後、凹部を有する成形型に該シートを当接させて真空引きし、該シートを延伸させながら成形型に追随させ、凹部を有するキャリアシートを成形する方法である。
そして、該基材シートとしては、比較的低い温度で軟化し、しかも非晶性で延伸し易く、さらには延伸後の強度においても優れるポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートが好適に用いられている。
【0003】
しかしながら、上記基材シートを成形して得たキャリアシートは、電子部品の出し入れ時や、搬送中における製品の振動等が原因で静電気が発生し、この静電気により電子部品が静電破壊される問題があった。
【0004】
そこで、このようなキャリアシートにおける静電気発生を抑制する手段として、成形用基材シート中に界面活性剤を練りこんで、シート表面へ該界面活性剤をブリードアウトさせることにより帯電防止性能を発現させる方法が採用されてきた(非特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、成形用基材シート中に界面活性剤を練りこんだ場合、外気温度、湿度により帯電防止性能にバラツキがでるという問題があった。
【0006】
そこで、特許文献1に記載されているように、導電性高分子と水系のバインダとを含有する塗工液を成形用基材シートに塗工する方法が採用されてきた。
【特許文献1】特開2006−21817号公報
【非特許文献1】「界面活性剤ハンドブック」 工学図書株式会社 昭和43年8月出版 268−275頁 9.2プラスチック帯電防止剤
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の塗工液は、水溶媒中にバインダ樹脂がエマルジョン状態で存在するものであり、水溶媒中にバインダ樹脂が溶解しているものではない。その結果、成形用基材シートに特許文献1に記載の塗工液を塗工し、乾燥することによって得られた膜は、塗膜強度に劣るものであるため、その後の成形において、基材シートを延伸させた場合、塗膜が基材シートに追随せず割れてしまう問題があった。
【0008】
そこで、例えば特許文献1記載の塗工液として、水溶媒の代わりにMEK(メチルエチルケトン)やトルエン等の有機溶媒を採用すれば、有機溶媒中にバインダ樹脂が溶解しているものなので塗膜強度が低下する問題は解決出来る。しかしながら、例えば真空成形等の成形に適したポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートからなる成形用基材シートの塗工面を溶かしてしまい、その結果、基材シートに縦筋が入り外観不良を起こしたり、溶けた基材シートの樹脂が塗膜層中に混入し、塗膜層が有する所望の導電性が得られない問題があった。
【0009】
また、上記基材シートを溶かさない有機溶媒として、IPA(イソプロパノール)やジエチレングリコールモノエチルエーテル、シクロヘキサノール等の有機溶媒が公知であるが、これらの有機溶媒を上記水溶媒の代わりに塗工液の溶媒に含有させた場合、この塗工液自体が凝集する問題があった。
【0010】
一方で、特許文献1には、成形用基材シート上に導電性物質と同系統の樹脂バインダとからなる導電層を有するシートについて記載されており、このシートに電子部品を収納するための凹部を設けるためには、例えばこのシートを加熱し、軟化させた状態で成形型に当接させ、真空引きする方法を採用することが出来るが、シートを真空引きすると成形用基材シートが2乃至3倍近く延伸する。そして、成形用基材シートの延伸に導電層が追随するためには樹脂バインダが多く必要であるが、単に樹脂バインダの量を多くすると導電性物質が少なくなり、所望の帯電防止性が得られない。逆に、導電性物質を多くすると、樹脂バインダが少なくなり成形用基材シートの延伸に追随せず、導電層が割れて所望の帯電防止性が得られない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、1)成形性に優れたポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートからなる成形用基材シート上に導電性塗膜層を形成するための塗工液を塗工しても成形用基材シートを溶かさず、しかもその塗工液を凝集させない特定の有機溶媒を塗工液中の溶媒中に含有し、2)導電性高分子微粒子と界面活性剤との固形分比を特定した塗工液とすることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の請求項1記載の発明は、ポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートからなる成形用基材シートの少なくとも片面に導電性塗膜層を形成するための塗工液であって、前記塗工液は、導電性高分子微粒子と、アニオン系界面活性剤と、樹脂バインダとが有機溶媒中に分散されているものであり、前記有機溶媒は、少なくとも組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒であり、前記導電性高分子微粒子:前記樹脂バインダが固形分比で、2乃至15:85乃至98の割合で配合されてなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項2記載の発明は、前記有機溶媒が、下記一般式であることを特徴とする。
【0014】
【化1】

【0015】
また、本発明の請求項3記載の発明は、前記請求項1又は2に記載の塗工液を、ポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートからなる成形用基材シートの少なくとも片面に塗工したことを特徴とする成形用帯電防止性シート。
【発明の効果】
【0016】
本発明の成形用基材シートの少なくとも片面に導電性塗膜層を形成するための塗工液は、1)ポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートからなる成形用基材シートを溶かさずに導電層を設けることができ、しかも、塗工液自体が凝集し難く、2)導電層を有する成形用基材シートを加熱して軟化させた後、成形型に当接し真空引きさせて、成形用基材シートを2乃至3倍に延伸させても、導電層が成形用基材シートに追随するため延伸前の表面抵抗値と延伸後の表面抵抗値において1桁未満の変化に留めることができ、つまりはシートを成形しても帯電防止性能に優れるものを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
更に、詳細に本発明を説明する。
【0018】
本発明の成形用基材シートの少なくとも片面に導電性塗膜層を形成するための塗工液は、ポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートからなる成形用基材シートの少なくとも片面に導電性塗膜層を形成するための塗工液であって、前記有機溶媒が、組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有するものであり、前記導電性高分子微粒子:前記樹脂バインダが固形分比で、2乃至15:85乃至98の割合で配合されてなる。
【0019】
以下に上記成形用基材シート、導電性高分子微粒子、アニオン系界面活性剤、樹脂バインダ、組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒について説明する。
【0020】
<成形用基材シート>
本発明の成形用帯電防止性シートに使用する成形用基材シートは、ポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートである。
【0021】
これら成形用基材シートの厚みは、0.1乃至1μmの範囲にて好適に用いられる。0.1μm未満では、基材シートを延伸させると基材シートとしての強度が低下し、破損し易い。また、1μmを超えると、基材シートを軟化させることが困難であったり、軟化状態の基材シートを延伸させながら成形型に追随するのが困難である。
【0022】
<導電性高分子微粒子>
本発明の導電性高分子微粒子は、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造される。
【0023】
π−共役二重結合を有するモノマーとしては、導電性高分子を製造するために使用されるモノマーであれば特に限定されないが、例えば、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール、3−フェニルナフチルアミノピロール等のピロール誘導体、アニリン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−メトキシアニリン、m−メトキシアニリン、p−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、m−エトキシアニリン、p−エトキシアニリン、o−メチルアニリン、m−メチルアニリン及びp−メチルアニリン等のアニリン誘導体、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−n−ブチルチオフェン、3−n−ペンチルチオフェン、3−n−ヘキシルチオフェン、3−n−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン、3−n−ノニルチオフェン、3−n−デシルチオフェン、3−n−ウンデシルチオフェン、3−n−ドデシルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−ナフトキシチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体が挙げられ、特に好ましいのはピロールである。
【0024】
<アニオン系界面活性剤>
前記導電性微粒子の製造において使用される前記アニオン系界面活性剤としては、種々のものが使用できるが、有機溶媒に可溶であって疎水性末端を複数個有するものが好ましい。疎水性末端基としては、枝分かれ構造を有するものでもよい。このような疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤を使用することにより、安定したミセルを形成させることができる。
【0025】
疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤の中でも、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端4つ)、スルホコハク酸ジ−2−エチルオクチルナトリウム(疎水性末端4つ)および分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端2つ)が好適に使用できる。
【0026】
反応系中での前記アニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.8mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.05mol〜0.6molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.6mol以上では得られた導電性微粒子に導電性の湿度依存性が生じてしまう場合がある。
【0027】
前記導電性微粒子の製造において使用される前記乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびπ−共役二重結合を有するモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した導電性微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0028】
前記乳化液における有機相と水相との割合は、水相が50体積%以上であることが好ましい。水相が50体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0029】
前記導電性微粒子の製造において使用される酸化剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸およびクロロスルホン酸のような無機酸、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルナフタレンスルホン酸のような有機酸、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過酸化水素のような過酸化物が使用できる。これらは単独で使用しても、二種類以上を併用してもよい。塩化第二鉄等のルイス酸でも重合できるが、生成した粒子が凝集し、微分散できない場合がある。特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
【0030】
反応系中での前記酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、導電微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集して導電性微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性と塗膜の透明性が悪化する。
【0031】
前記導電性微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる。
(a)アニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合させる工程、
(d)有機相を分液し導電性高分子微粒子を回収する工程。
【0032】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0033】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子を入手することができる。
【0034】
上記の製造法により得られる導電性高分子微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体のポリマーよりなり、そしてアニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そして、その特徴は、微細な粒径を有し、有機溶媒中で分散可能である。
【0035】
また、導電性微粒子が有する粒径は、1〜100nmの範囲が挙げられ、好ましくは1〜30nmである。この粒径は、従来の導電性微粒子が有する数百nmの粒径と比較して格段に小さい。また、該導電性微粒子は、平均粒径の±5nmの範囲内に全微粒子の90%以上が含まれるという極めて単分散に近い狭い粒径分布を有するものであり、この点でも、粒径分布が広い従来の導電性微粒子と異なるものである。この非常に小さな粒径が、該導電性微粒子が有する長期にわたる分散安定性の要因の1つであると考えられる。従って、上記に記載した方法により得られる導電性微粒子は、有機溶媒中での分散安定性が高い。
【0036】
本発明の塗工液は、上記に記載した方法により得られた有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子並びにアニオン系界面活性剤に、樹脂バインダ加えた溶液であり、前記有機溶媒には、少なくとも組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒を有するものである。また、この組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒は、導電性高分子微粒子を製造する過程で添加してもよいし、導電性高分子微粒子の製造後に後添加してもよい。以下に樹脂バインダ並びに成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒について記載する。
【0037】
<樹脂バインダ>
本発明の樹脂バインダは、上記導電性高分子微粒子と樹脂バインダの固形分比で、2乃至15:85乃至98の割合にて配合されてなることが必要とされる。導電高分子微粒子の固形分比が2質量%未満では、成形用基材シートを2乃至3倍に延伸させた際、所望の帯電防止性を得ることが出来ない。また、導電性高分子微粒子の固形分比が15質量%を超えると、成形用基材シートを2乃至3倍に延伸させた際、塗膜層が割れ、所望の帯電防止性を得ることが出来ない。
【0038】
また樹脂バインダとしては、特にその種類を限定されるものではない。例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができる。
【0039】
<組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒>
本発明の塗工液には、組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒が必要であり、好ましくは下記一般式からなる有機溶媒であり、特に好ましくは4-ヒドロキシ-2-ブタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンが使用出来る。また、この有機溶媒は、塗工液の凝集を抑制すると共に、成形用基材シートを溶かさない性質を有しており、この有機溶媒は、導電性高分子微粒子を製造する過程で用いる有機溶媒として添加してもよいし、導電性高分子微粒子の製造後に後添加してもよい。
【化1】

【0040】
また、組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒の量は、本発明の塗工液における有機溶媒全体の20乃至80質量%であることが好ましい。20質量%未満であると、該塗工液を基材シートに塗工した場合、基材シートが溶ける虞があった。また、80質量%を超えると、塗工液中に含有されるバインダ樹脂を溶解させることが難しく、得られる塗膜強度が劣るものであり、基材シート延伸時に、塗膜が割れてしまう虞があった。
【0041】
<その他配合可能な各種添加剤>
本発明の成形用帯電防止性シートの塗膜層には、本発明の効果が損なわれない範囲内で各種の添加剤、例えば熱安定剤、耐候剤、上記以外の帯電防止剤、顔料又は染料などの着色剤、有機又は無機微粒子、可塑剤などを加えてもよい。
【0042】
<成形用帯電防止性シートの製造:コーティング方法>
本発明の成形用帯電防止性シートは、上記導電性高分子微粒子、アニオン系界面活性剤及び樹脂バインダとが有機溶媒中に分散した塗工液を調整し、その塗工液を成形用基材シート上に塗工、乾燥することによって形成される。
【0043】
上記塗工液の成形用基材シートへの塗工方法としては特に限定はないが、例えばグラビア印刷機、インクジェット印刷機、ディッピング、スピンコーター、ロールコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。
【0044】
上記方法にて塗工された後、60℃乃至90℃の温度で乾燥され、塗膜層が形成される。
【0045】
また、上述の方法にて形成される塗膜層の厚みは100乃至2000nmであることが望ましい。塗膜層の厚みが100nm未満であると、所望の表面抵抗値や延伸後の表面抵抗値を得にくく、また、2000nmを超えると塗工液の溶媒が乾燥し難く、溶媒の一部が塗膜中に残存し、本発明の諸物性が得られない場合がある。
【実施例】
【0046】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
なお、後述する各Ppy分散液または各Pani分散液、および各塗工液に使用した界面活性剤、樹脂バインダについて表1に記す。
【0048】
【表1】

【0049】
<アニオン系界面活性剤含有ポリピロール(Ppy分散液)分散液の調製>
界面活性剤−1:2.0mmolをトルエン50mLに溶解し、さらにイオン交換水100mLを加え20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー28mmolを加え、次いで0.12M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(6mmol相当)を少量ずつ滴下し、24時間反応を行った。反応終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエン中に分散した状態で黒色の導電性微粒子(平均粒径50nm)を得てアニオン系界面活性剤含有のポリピロール分散液(PPy分散液中のPPy微粒子濃度:0.6%、PPy分散液中の界面活性剤濃度:1.4%)を調製した。
【0050】
<アニオン系界面活性剤含有ポリアニリン(Pani分散液)分散液の調製>
純水1.5Lに界面活性剤−2:0.1molとアニリン0.1molを加え、良く攪拌した。攪拌しながら冷却し、反応槽中の液温が5℃以下になった所で0.25mol/Lの過硫酸アンモニウム水溶液500mLを徐々に滴下し、ポリアニリンを合成した。過硫酸アンモニウム水溶液滴下後、12時間攪拌し反応を完結させた。反応終了後、ポリアニリン合成液300mLを分液ロートに移しそれぞれに200mLのトルエンを加えて混合した。有機層と水層が分離するまで静置した後、下層の水層を除去した。有機層を取り出しトルエン中に分散した状態で緑色の導電性微粒子(平均粒径50nm)を得てアニオン系界面活性剤含有のポリアニリン分散液(Pani分散液中のPani微粒子濃度:0.6%、Pani分散液中の界面活性剤濃度:1.4%)を調製した。
【0051】
<本発明の塗工液の調製>
後述の表2及び表3に示す配合割合に基づき、上記Ppy分散液(或いはPani分散液)、有機溶媒、樹脂バインダを配合し、ディスパーミキサーにて撹拌速度100rpmで30分間撹拌し、実施例及び比較例の帯電防止性シートの作製に用いる塗工液を各々調製した。
【0052】
<成形用帯電防止性シートの作製>
(実施例1乃至7及び比較例1乃至4)
表2及び表3に示す配合割合で調製した各塗工液を、実施例1乃至3、及び6、比較例1乃至4においては、成形用基材シートA(アモルファスPETシート(三菱化学(株)製 商品名:ノバクリア SH046、厚み0.5mm))の片面に、グラビヤロールA(線数95L/inch 深度95μm 格子型)を用い、ダイレクトリバース法にて塗布した後、90℃乾燥炉(4.5m)、速度5m/minで乾燥し、帯電防止性シート(塗膜厚み:1μm)を得た。また、実施例4乃至5、及び7においては、成形用基材シートB(ハイインパクトポリスチレン系シート(RP東プラ(株)製 商品名:NOASTIC−M、厚み0.5mm))の片面に、上記同様の方法により帯電防止性シート(塗膜厚み:1μm)を得た。
【0053】
なお、比較例3においては、塗工液が凝集したため、成形用基材シートに塗工出来なかった。
【0054】
[本発明の塗工液、並びに成形用帯電防止性フィルムの性状評価]
実施例1乃至7及び比較例1乃至4の各塗工液、並びに各帯電防止性シートにおいて行った各特性の測定法及び評価法は下記の通りである。なお、得られた結果を表2及び表3に示す。
【0055】
(1)塗工液の安定性
前述の通り調製した帯電防止剤、有機溶媒、界面活性剤、樹脂バインダからなる塗工液を静置し、4時間経過後の該塗工液の状態を目視にて評価した。評価基準は以下の通りである。
【0056】
○:粒子の凝集が見られない。
×:粒子が凝集し、沈殿が見られる。
【0057】
(2)塗工後の成形用基材シート表面状態
成形用基材シートに、塗工液を塗工後、1時間経過後の成形用基材シートの表面状態を目視にて評価した。評価基準は以下の通りである。
【0058】
○:塗工液を塗布する前の成形用基材シート表面と同等の表面状態である。
×:成形用基材シート表面が溶けてしまい、成形用基材シート表面が凸凹状態である。
【0059】
(3)塗膜の表面抵抗値
表面抵抗値の測定は、室温25℃、湿度40%雰囲気下にて、(株)ダイアインスツルメンツ製 抵抗率計 ハイレスタUP MCP−HT450を用いて測定した。また測定は二端子法にて行い、UAプローブ(MCP−HTP111)を用いた。なお、表面抵抗値1010Ω未満が帯電防止性としての適正範囲である。
【0060】
(4)延伸後の塗膜表面抵抗値
成形用基材シートAの場合、軟化点が100℃である。成形用基材シートBの場合、軟化点が73℃である。したがって、成形用基材シートAを用いて得た帯電防止性シートの場合、130℃×3分加熱し、その後、シートを3倍に延伸し、室温まで冷却し、室温25℃湿度50%の条件下で(3)の装置を用いて測定した。
【0061】
【表2】

※1:Ppy微粒子及び界面活性剤は、Ppy分散液5部に含まれる固形分量(部)を表す。
※2:Pani微粒子及び界面活性剤は、Pani分散液5部に含まれる固形分量(部)を表す。
※3:樹脂バインダの数値は固形分量(部)を表す。
※4:Ppy微粒子と樹脂バインダの固形分比を表す。
※5:Pani微粒子と樹脂バインダの固形分比を表す。
【0062】
【表3】

※1:Ppy微粒子及び界面活性剤は、Ppy分散液5部に含まれる固形分量(部)を表す。
※3:樹脂バインダの数値は固形分量(部)を表す。
※4:Ppy微粒子と樹脂バインダの固形分比を表す。
*1:上記割合で配合した塗工液を、成形用基材シートに塗工したところ、成形用基材シートが溶けてしまい、表面抵抗値の評価ができなかった。
*2:上記割合で配合した塗工液が凝集し、成形用基材シート破壊性や表面抵抗値の評価ができなかった。
【0063】
実施例1乃至7の塗工液並びに成形用帯電防止性シートは、いずれも良好な塗工液安定性、並びに塗工後の成形用基材シート表面状態においても良好であり、表面抵抗値も1010Ω未満と小さい。また、延伸後の塗膜層においてバインダと導電性高分子微粒子とが均一分散した状態であり、その結果、延伸後の表面抵抗値においても延伸前の表面抵抗値と比較して1桁未満の変化しかなく帯電防止性能に優れた結果が得られた。
【0064】
比較例1は、塗工液中においてPpy分散液中のPpy微粒子と樹脂バインダとの固形分比が0.5:99.5の割合で配合されており、その塗工液を成形用基材シートに塗工することによって形成された塗膜層であるため、そのシートを延伸させると、塗膜層において導電性高分子同士の距離が大きくなり、その結果、延伸後の表面抵抗値が1010Ωを超えるものとなり、しかも延伸前の表面抵抗値よりも2桁以上高くなった結果が得られた。
【0065】
比較例2は、塗工液において樹脂バインダを含有しないものであり、その塗工液を成形用基材シートに塗工することによって形成された塗膜層であるため、そのシートを延伸させると、塗膜層においてPpy微粒子が追随せず、塗膜層が割れていまい、その結果、延伸後の表面抵抗値が1010Ωを超えるものとなり、しかも延伸前の表面抵抗値よりも 3桁以上高くなった結果が得られた。
【0066】
比較例3は、塗工液において組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒を用いずに、MEKを後添加したものであり、その結果、成形用基材シートに塗工した際、成形用基材シートが溶けてしまい、表面抵抗値の測定を行えなかった。
【0067】
比較例4は、塗工液において組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒を用いずに、IPAを後添加したものであり、その結果、塗工液が凝集し沈殿が見られた。その結果、塗工液を塗工することが出来ず、塗工後の成形用基材シート表面状態、表面抵抗値の測定を行えなかった。
【0068】
以上より、前記塗工液は、導電性高分子微粒子と、アニオン系界面活性剤と、樹脂バインダとが有機溶媒中に分散されているものであり、前記有機溶媒は、少なくとも組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒であり、前記導電性高分子微粒子:前記樹脂バインダが固形分比で、2乃至15:85乃至98の割合で配合されてなるものであるが故に、塗工液の安定性並びに塗工後の成形用基材シート表面状態においても優れ、しかもこの塗工液により作成した塗膜は、表面抵抗値及び延伸後の表面抵抗値において優れた帯電防止性を示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートからなる成形用基材シートの少なくとも片面に導電性塗膜層を形成するための塗工液であって、
前記塗工液は、導電性高分子微粒子と、アニオン系界面活性剤と、樹脂バインダとが有機溶媒中に分散されているものであり、
前記有機溶媒は、少なくとも組成成分中にCが4乃至12個、Oが2個を含有する有機溶媒であり、
前記導電性高分子微粒子:前記樹脂バインダが固形分比で、2乃至15:85乃至98の割合で配合されてなることを特徴とする塗工液。
【請求項2】
前記有機溶媒が、下記一般式で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の塗工液。
【化1】

(但し、R、R、Rは水素またはメチル基であり、n=1乃至9)
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の塗工液を、ポリスチレン系シート、或いはアモルファスポリエチレンテレフタレートシートからなる成形用基材シートの少なくとも片面に塗工したことを特徴とする成形用帯電防止性シート。

【公開番号】特開2008−297331(P2008−297331A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141610(P2007−141610)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】