説明

成形用金型

【課題】キャビティバランスの調整を可能にする金型を提供する。
【解決手段】 複数のキャビティ6を有する多数個取りの成形用金型であって、各キャビティのゲート5に連通する個々のランナ4に樹脂材料の充填経路の方向を変化させる部分を有し、この充填経路の方向を変化させる部分に材料直進方向に樹脂溜まり部3を設け、この樹脂溜まり部3の少なくとも一つを、その容積を調整可能に構成した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、射出成形用金型、特に、多数個取りの金型でキャビティ間のバランスを微調整可能な射出成形用金型、及び、複数のゲートから一つのキャビティ内に材料を充填させる多点ゲート方式の金型においてゲート間のバランスを微調整可能な射出成形用金型に関するものである。
【0002】
【従来の技術】射出成形は、複雑な形状の部品を安価に大量生産するのに適した部品加工方法として、あらゆる分野の製品を構成する部品の生産に用いられている加工法である。
【0003】射出成形によって、同じ形状の成形品を大量に生産する場合、加工コストを低減するために、一つの金型内に同じ形状の複数のキャビティを設け、成形機1台と金型1型で同時に複数の成形品を成形する「多数個取り」の成形が行われる。
【0004】多数個取りの射出成形を実施する場合のトラブルの一つに、キャビティ間のバランスの問題がある。これは、射出成形機のノズルが接続されるスプルー(通常1カ所)からランナ部分で分岐されて各キャビティに樹脂を充填する際、スプルーやランナが対称形状に設計されていても、金型の加工誤差や組立誤差、金型の温度分布などが原因で複数のキャビティ間で樹脂の充填や保圧のバランスがくずれ、成形品の寸法精度や外観品質等がキャビティによって異なってしまう現象である。キャビティバランスが崩れている場合、特定のキャビティが良品になるように射出速度、射出圧力、金型温度、樹脂温度等の成形条件を調整すると、別のキャビティが不良となってしまい、全キャビティから同時に良品を得ることができない。
【0005】こういったトラブルを改善するためには、金型を修正してキャビティバランスを最適な状態に調整する必要がある。
【0006】キャビティバランスの調整は、各キャビティのゲートの断面形状やランド長さを変更したり、成形機ノズルが接続されるスプル部から各ゲートに向けて樹脂流路が分岐されてからゲートに至るまでのランナの形状を変更することで、各キャビティに至るまでの樹脂の流動抵抗や固化速度・圧力損失のバランスを調整することによって行われる。
【0007】金型設計当初から、キャビティバランス調整が必要と予想される金型では、たとえば特開平7−223242号公報に示されているように、ランナの一部やゲート部分を入子構造にしておき、入子を交換することで流路断面積を調整し、キャビティバランスを調整可能にしておく場合が多い。
【0008】また、特開平5−433号公報に開示されているように、ランナの流路断面積を変化させるためのスライドコアを設け、スライドコアを進退させて流路断面積を変化させることでランナ内の溶融樹脂のキャビティへの圧力伝達を変化させ、キャビティ間のバランスを調整する場合もある。
【0009】以上、「多数個取り金型」におけるキャビティ間のバランス調整に関する従来の技術を説明したが、次に、「多点ゲート金型」におけるゲートバランス調整に関する従来の技術を説明する。
【0010】射出成形を用いて、ある程度の大きさ・重量を持つ成形品や、形状が複雑で充填性の悪い成形品を成形する場合、1点のゲートからだけでは完全充填が困難であるため、2点以上の複数のゲートがら充填する「多点ゲート」の金型を使用することになる。
【0011】多点ゲート金型を使用して射出成形を実施する場合のトラブルの一つに、ゲート間のバランスの問題がある。これは、射出成形機のノズルが接続されるスプルー(通常1カ所)からランナ部分で分岐されて各ゲートからキャビティ内に樹脂を充填する際、ランナの形状や金型の温度分布などが原因で複数のゲート間で樹脂の充填や保圧のバランスが不適切になり、成形品の寸法精度やウエルド等の外観品質が悪くなってしまう現象である。ゲートバランスが崩れている場合、成形品内の特定部分の精度や外観面が良品になるように射出速度、射出圧力、金型温度、樹脂温度等の成形条件を調整すると、同一成形品内の別の部分が不良となってしまい、成形品全体が同時に全てのスペックを満足する良品を得ることができない。
【0012】こういったトラブルを改善するためには、金型を修正してゲートバランスを最適な状態に調整する必要がある。
【0013】ゲートバランスの調整は、各ゲートの断面形状やランド長さを変更したり、成形機ノズルが接続されるスプル部から各ゲートに向けて樹脂流路が分岐されてから個々のゲートに至るまでのランナの形状を変更することで、各キャビティに至るまでの樹脂の流動抵抗や固化速度・圧力損失のバランスを調整することによって行われている。
【0014】金型設計当初から、ゲートバランスの微調整が必要と予想される金型では、たとえば、特開平9−141704号公報に開示されているように、型を分解せずにランナの流動抵抗を調節可能な金型構造にしておき、成形しながらキャビティバランスを調整可能にしておく場合もある。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、以上に説明した従来からの多数個取り金型におけるキャビティバランス調整方法では、以下のような欠点があった。
【0016】従来の多数個取り金型におけるキャビティバランス調整方法は、樹脂が成形機ノズルからキャビティに至る樹脂充填経路上での金型形状を変更し、樹脂充填・保圧のバランスを調整する方法であった。従って、樹脂の流動充填時のキャビティバランスを調整すると同時に、充填後の保圧工程におけるキャビティに加わる保圧力や保圧時間にも同時に影響を与えることになっていた。
【0017】たとえば、図6に示すような、比較的厚肉の形状の一部に薄肉のリブ31を有する成形品を成形する場合、ゲート32から流入した樹脂の流動先端がリブ31の根本まで到達しても直ちに薄肉リブの先端部には充填されず、より流動抵抗の小さい残りの厚肉形状の方に充填され、厚肉部の充填完了後に薄肉リブ根本の樹脂圧が上昇して初めて薄肉リブ31に充填される。
【0018】このような成形品を多数個取りで成形する場合、すべてのキャビティで薄肉リブ31を完全に充填させるには、全キャビティで同時に充填し、同時に薄肉リブ部分に圧力を加える必要がある。もし、あるキャビティだけ充填が早いと、そのキャビティでは厚肉部の充填が完了しても他のキャビティの厚肉部が未充填であるためにそのキャビティ内の圧力はすぐには上昇しないため、そのキャビティの薄肉リブの根本でいったん停止していた流動先端部は、他のキャビティに比較して樹脂流動の停止時間が長くなる。他のキャビティの厚肉部の充填が完了して初めて圧力が上昇することになるが、圧力が上昇した時には充填が早いキャビティのリブ根本で停止していた樹脂流動先端は冷却が進んで粘度が増加しているため樹脂が充填されず、薄肉リブ部分がショート不良を起こすということがあった。
【0019】この場合、このキャビティのゲートの断面積を小さくし、樹脂充填を遅らせて他のキャビティと同時に充填させることでショート不良は解消される(従来のキャビティバランス調整方法)。
【0020】しかしながら、ゲートの断面積を小さくしたためゲート部の圧力損失が大きくなり、ゲートシール時間も短くなるため、充填後の保圧工程で他のキャビティに比較して保圧が小さくなり、実質保圧時間も短くなるので、その結果、厚肉部にヒケが生じたり成形品全体の寸法や反りが他のキャビティと異なってしまい、充填不良が解消されても外観や精度の面で不良となってしまうことがあった。
【0021】このように、多数個取りの成形品において、樹脂の充填時の微妙なバランスが影響する薄肉部のショート不良の問題と、充填後の保圧工程の保圧力や保圧時間の微妙なバランスが影響する寸法や反りの精度不良の問題を有している場合、従来のゲートやランナ形状を調整してキャビティバランスを調整する方法では、同時にすべての問題を解消して、全キャビティ同時に良品を得られないといった問題点があった。
【0022】一方、前述した従来からの多点ゲート金型におけるキャビティバランス調整方法においても、以下のような欠点があった。
【0023】従来の多点ゲート金型におけるゲートバランス調整方法は、樹脂が成形機ノズルからキャビティに至る樹脂充填経路上での金型形状を変更し、樹脂充填・保圧のバランスを調整する方法であった。従って、樹脂の流動充填時のキャビティバランスを調整すると同時に、充填後の保圧工程におけるキャビティに加わる保圧力や保圧時間にも同時に影響を与えることになっていた。
【0024】たとえば、図10に示すような、比較的厚肉の形状の一部に薄肉形状31A及び31Bを有する2点ゲートの成形品を成形する場合、2点のゲート32A及び32Bから流入した樹脂の流動先端が薄肉形状31まで到達しても直ちに薄肉形状部全体には充填されず、より流動抵抗の小さい残りの厚肉形状の方に充填され、厚肉部の充填完了後に樹脂圧が上昇して初めて薄肉形状31に充填される。
【0025】従って、このような成形品を2点ゲート金型で成形する場合、薄肉形状31を完全に充填させるには2点のゲートから同時に充填し、同時に薄肉部分に圧力を加える必要がある。もし、ゲート32Aからの充填が早いと、ゲート32A側の薄肉形状部31Aでは流動先端が薄肉形状に僅かに入ったところでいったん停止し、他のゲート32Bからの充填が進んで厚肉部の充填が完了後に初めて圧力が上昇することになるが、圧力が上昇した時は既に31Aの停止していた流動先端の冷却が進んで樹脂の粘度が増加していて充填が早かったゲート32A側の薄肉形状部分31Aにショート不良を起こすということがあった。
【0026】この場合、このゲート32Aの断面積を小さくし、樹脂充填を遅らせて他のゲート32Bと同時に充填させることでショート不良は解消される(従来のキャビティバランス調整方法)。
【0027】しかしながら、ゲートの断面を小さくしたためゲート部の圧力損失が大きくなり、ゲートシール時間も短くなるため、充填後の保圧工程で他ゲート側に比較して保圧が小さくなり、実質保圧時間も短くなるので、その結果、成形品全体の寸法や反りが二つのゲート間で異なってしまい、充填不良が解消されても精度面で不良となってしまうことがあった。
【0028】このように、多点ゲートの成形品において、樹脂の充填時の微妙なバランスが影響する薄肉部のショート不良の問題と、充填後の保圧工程の保圧力や保圧時間のバランスが影響する寸法や反りの精度不良の問題を有している場合、従来のゲートやランナ形状を調整してゲートバランスを調整する方法では、同時にすべての問題を解消して良品を得ることができないといった問題点があった。
【0029】本発明は、上記した多数個取り金型におけるキャビティバランスの調整における従来の方法の欠点を解決するため、樹脂の各キャビティへの同時充填といった充填工程のバランスのみを調整し、樹脂充填後の保圧工程のバランスは変化させないキャビティバランス調整を可能にする金型を提供し、充填性と同時に精度規格も厳しい成形品の多数個取り成形においても全キャビティ同時に良品を得ることを目的としている。
【0030】さらに本発明は、多点ゲート金型のゲートバランスの調整における上記従来の方法の欠点を解決するため、樹脂の各ゲートからの充填工程のバランスのみを調整し、樹脂充填後の保圧工程のバランスは変化させないゲートバランス調整を可能にする金型を提供し、充填のためのゲートバランスと要求精度が共に厳しい多点ゲートの成形品であっても良品を得ることを目的としている。
【0031】
【課題を解決するための手段】上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係わる成形用金型は、複数のキャビティを有する多数個取りの成形用金型であって、各キャビティのゲートに連通する個々のランナに樹脂材料の充填経路の方向を変化させる部分を有し、該充填経路の方向を変化させる部分に材料直進方向に樹脂溜まり部を設け、該樹脂溜まり部の少なくとも一つを、その容積を調整可能に構成したことを特徴としている。
【0032】また、この発明に係わる成形用金型において、前記樹脂溜まり部を着脱自在な入れ子に形成し、該入れ子の交換によって前記樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴としている。
【0033】また、この発明に係わる成形用金型において、前記樹脂溜まり部に、該樹脂溜まり部の側面の形状を構成し、前記成形用金型のパーティング面の面内方向に進退可能な可動コアを設け、該可動コアの固定位置を調整することによって前記樹脂溜まり部の外形寸法を変化させて該樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴としている。
【0034】また、この発明に係わる成形用金型において、前記樹脂溜まり部に、前記成形用金型の開閉方向に進退可能な可動コアを設け、該可動コアの固定位置を調整することにより、前記樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴としている。
【0035】また、本発明に係わる成形用金型は、複数のゲートから一つのキャビティ内に樹脂材料を充填させる多点ゲート方式の成形用金型であって、前記複数のゲートに各々連通する複数のランナの少なくとも一つに、樹脂材料の充填経路の方向を変化させる部分を有し、該充填経路の方向を変化させる部分に材料直進方向に樹脂溜まり部を設け、該樹脂溜まり部の容積を調整可能としたことを特徴としている。
【0036】また、この発明に係わる成形用金型において、前記樹脂溜まり部を着脱自在な入れ子に形成し、該入れ子の交換によって前記樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴としている。
【0037】また、この発明に係わる成形用金型において、前記樹脂溜まり部に、該樹脂溜まり部の側面の形状を構成し、前記成形用金型のパーティング面の面内方向に進退可能な可動コアを設け、該可動コアの固定位置を調整することによって前記樹脂溜まり部の外形寸法を変化させて該樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴としている。
【0038】また、この発明に係わる成形用金型において、前記樹脂溜まり部に、前記成形用金型の開閉方向に進退可能な可動コアを設け、該可動コアの固定位置を調整することにより、前記樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴としている。
【0039】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0040】本発明の1つの実施形態は、複数のキャビティを有する多数個取り金型において、各キャビティのゲートに連通するランナに材料充填経路の方向が変化する部分があり、この位置に、材料直進方向に樹脂溜まりを設け、樹脂溜まりの少なくとも一つにおいて、樹脂溜まり部の容積を調整可能としたことを特徴とする成形用金型である。
【0041】さらに、本発明の他の実施形態は、複数のゲートから一つのキャビティ内に材料を充填させる多点ゲート方式の金型であって、複数のゲートに各々連通する複数のランナの少なくとも一つに、材料充填経路の方向を変化させる部分があり、この位置に材料直進方向に樹脂溜まりを設けた金型において、該樹脂溜まり部の容積を調整可能としたことを特徴とする成形用金型である。
【0042】一般的に、射出成形用金型においては、コールドスラッグ等の不純物をキャビティ内に充填させない目的や、充填時に樹脂から発生するガスを逃がす目的で、ランナに樹脂溜まりを設けることが多い。本実施形態では、樹脂溜まりは、ランナの材料充填経路の方向が変化する部分に、材料直進方向に設けられる。ランナを流れてきた溶融樹脂は、直進して樹脂溜まり部分を満たした後、キャビティにつながるランナへ流れ込むため、樹脂溜まりの容積が大きいとキャビティへの充填が遅れ、樹脂溜まりの容積が小さいとキャビティへの充填が早くなることになる。また、充填後の保圧工程における保圧力や保圧時間には樹脂溜まりの容積は関係しない。
【0043】従って、多数個取り金型においては、一つの樹脂溜まり部が一つのキャビティのみに対応している金型上で、樹脂溜まり部の容積を一つ一つ個別に調整することにより、樹脂の各キャビティへの同時充填といった充填工程のバランスのみを調整し、樹脂充填後の保圧工程のバランスは変化させないキャビティバランス調整が可能になる。
【0044】また、多点ゲート金型においては、一つの樹脂溜まり部が一つのゲートのみに対応している金型上で、樹脂溜まり部の容積を一つ一つ個別に調整することにより、樹脂の各ゲートからキャビティ内への充填のタイミングといった充填工程のバランスのみを調整し、樹脂充填後の保圧工程のバランスは変化させないゲートバランス調整が可能になる。
【0045】具体的な金型構造については、以下に詳細に説明する。
【0046】(第1の実施形態)図1は、本発明の第1の実施形態の金型を示す図である。スプル1の直下で二つのランナ2に分岐し、さらに二股に分岐する4個取りの金型である。スプル1から充填される樹脂は、ランナ2を通り、樹脂溜まり3を満たしたあと、ゲート手前最終ランナ4を通り、ゲート5を経てキャビティ6に充填される。樹脂溜まり部3はパーティング面から着脱可能な入れ子7で形成されている。入れ子7は、金型を成形機に取り付けた状態でパーティング面から交換可能となっている。
【0047】特定キャビティへの樹脂充填のタイミングを他のキャビティより早くしたい場合は、そのキャビティにつながるランナの樹脂溜まりを形成する入れ子7を樹脂溜まり形状長さの短い入れ子に交換し、逆に、他のキャビティより樹脂充填を遅らせたい場合には入れ子7を樹脂溜まり形状長さの長い入れ子に交換すれば良い。樹脂溜まり形状長さの異なる入れ子をあらかじめ用意しておけば、金型を成形機に取り付けた状態で実際に成形しながら、各キャビティへの樹脂の充填具合を確認しつつ、各樹脂溜まりを形成する入れ子7を適切に選択することで、キャビティの充填バランスを適正にすることができる。
【0048】(第2の実施形態)図2は、本発明の第2の実施形態の金型を示す図である。スプル1の直下で二つのランナ2に分岐し、さらに二股に分岐する4個取りの金型である。スプル1から充填される樹脂は、ランナ2を通り、樹脂溜まり3を満たしたあと、ゲート手前最終ランナ4を通り、ゲート5を経てキャビティ6に充填される。樹脂溜まり部3の側面形状は、パーティング面の面内方向に進退可能な可動コア17によって構成されている。
【0049】図3は、図2の可動コア17の調整方法を説明するための図である。傾斜駒18が高さ調整駒19と型板ポケットの側面20に付き当てられた状態で、図示していないボルトによって固定されている。高さ調整駒19を交換することにより、傾斜駒18の高さが変化して可動コア17が図中の矢印方向に移動し、樹脂溜まり部3の幅寸法が変化することで樹脂溜まり部の容積が調整可能である。金型を成形機に取り付けた状態で実際に成形しながら、各キャビティへの樹脂の充填具合を確認しつつ、高さ調整駒19を適切な高さに調整することで、キャビティの充填バランスを適正にすることができる。
【0050】本実施形態では、可動コア17の位置を、高さ調整駒19の高さ調節によって調節する形態を示したが、もちろん、特開平5−433号公報に示されているように可動コアを進退させるための駆動手段を金型に設けることも有効である。
【0051】(第3の実施形態)図4は、本発明の第3の実施形態の金型を示す図である。スプル1の直下で二つのランナ2に分岐し、さらに二股分岐を2回経てキャビティ6に至る8個取りの金型である。スプル1から充填される樹脂は、ランナ2を通り、ゲート直前の樹脂溜まり3を満たしたあと、ゲート手前最終ランナ4を通り、ゲート5を経てキャビティ6に充填される。樹脂溜まり部3には、金型開閉方向に進退可能な可動コアピン27が突き出ている。
【0052】図5は、図4の可動コア部分の詳細を説明する図である。可動コアピン27が図中の矢印方向に進退可能となっており、図示していない可動コアピン27の根本のねじによって、任意の位置で固定可能となっている。可動コアピン27を突き出せば樹脂溜まり部の容積が減少し、可動コアピン27を引っ込めれば樹脂溜まり部3の容積が増大するため、各キャビティ近くの樹脂溜まりに設けた8個の可動コアピン27の固定位置を調整することにより、キャビティ間の充填バランスを適正にすることができる。
【0053】(第4の実施形態)図7は、本発明の第4の実施形態の金型を示す図である。スプル1の直下で二つのランナ2に分岐し、さらに二股に分岐する2個取りで、各キャビティ2点ゲートの金型である。スプル1から充填される樹脂は、ランナ2を通り、樹脂溜まり3を満たしたあと、ゲート手前最終ランナ4を通り、ゲート5を経てキャビティ6に充填される。樹脂溜まり部3はパーティング面から着脱可能な入れ子7で形成されている。入れ子7は、金型を成形機に取り付けた状態でパーティング面から交換可能となっている。
【0054】特定ゲートからの樹脂充填のタイミングを他のゲートより早くしたい場合は、そのゲートのつながるランナの樹脂溜まりを形成する入れ子7を樹脂溜まり形状長さの短い入れ子に交換し、逆に、他のゲートより樹脂充填を遅らせたい場合には入れ子7を樹脂溜まり形状長さの長い入れ子に交換すれば良い。樹脂溜まり形状長さの異なる入れ子をあらかじめ用意しておけば、金型を成形機に取り付けた状態で実際に成形しながら、各ゲートからの樹脂の充填具合を確認しつつ、各樹脂溜まりに適切な入れ子7を選択することで、ゲートの充填バランスを適正にすることができる。
【0055】(第5の実施形態)図8は、本発明の第5の実施形態の金型を示す図である。スプル1の直下で二つのランナ2に分岐し、さらに二股に分岐する2個取りで各キャビティ2点ゲートの金型である。スプル1から充填される樹脂は、ランナ2を通り、樹脂溜まり3を満たしたあと、ゲート手前最終ランナ4を通り、ゲート5を経てキャビティ6に充填される。樹脂溜まり部3の側面形状は、パーティング面の面内方向に進退可能な可動コア17によって構成されている。
【0056】図3は、図8の可動コア17の調整方法を説明する図である。傾斜駒18が高さ調整駒19と型板ポケットの側面20に付き当てられた状態で図示していないボルトによって固定されている。高さ調整駒19を交換することにより、傾斜駒18の高さが変化して可動コア17が図中の矢印方向に移動し、樹脂溜まり部3の幅寸法が変化することで樹脂溜まり部の容積が調整可能である。金型を成形機に取り付けた状態で実際に成形しがら、各キャビティへの樹脂の充填具合を確認しつつ、高さ調整駒19を適切な高さに調整することで、キャビティの充填バランスを適正にすることができる。
【0057】本実施形態では、可動コア17の位置を、高さ調整駒19の高さ調節によって調節する形態を示したが、もちろん、特開平5−433号公報に示されているように可動コアを進退させるための駆動手段を金型に設けることも有効である。
【0058】(第6の実施形態)図9は、本発明の第6の実施形態の金型のランナ部を示した図である。スプル1の直下で二つのランナ2に分岐し、さらに二股分岐を2回経て8点のピンポイントゲートに分岐される2個取りで各キャビティ4点ゲートの3プレート金型である。スプル1から充填される樹脂は、ランナ2を通り、2次スプル14に流入する直前の樹脂溜まり3を満たしたあと、2次スプル14と図示しいていないゲートを経てキャビティ6に充填される。樹脂溜まり部3には、金型開閉方向に進退可能な可動コアピン27が突き出ている。
【0059】図5は、図4の可動コア部分の詳細を説明する図である。可動コアピン27が図中の矢印方向に進退可能となっており、図示していない可動コアピン27の根本のねじによって、任意の位置で固定可能となっている。可動コアピン27を突き出せば樹脂溜まり部3の容積が減少し、可動コアピン27を引っ込めれば樹脂溜まり部3の容積が増大するため、各ゲート近くの樹脂溜まりに設けた8個の可動コアピン27の固定位置を調整することにより、ゲート間の充填バランスを適正にすることができる。
【0060】以上説明した実施の形態のように、サイドゲートの2プレート金型に限らず、ピンポイントゲートの3プレート金型であってもランナから二次スプルに変化する部分にランナを延長して樹脂溜まりを設け、樹脂溜まりの容積を個別に調整可能にすれば、多数個取り金型のキャビティ間のバランス調整および多点ゲート金型のゲート間バランス調整を行うことが可能である。
【0061】また、本発明を、樹脂の充填経路上のランナやゲート形状を変更する従来のバランス調整方法と併用することで、樹脂の同時充填性と保圧工程の保圧力や保圧時間の両方を考慮したより微妙なバランス調整が可能となり、樹脂の充填性や精度規格が厳しくて成形条件範囲が非常に狭い成形品であっても、多数個取り金型や多点ゲート金型において良品を得ることが可能となる。
【0062】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、多数個取り金型において、樹脂の各キャビティへの同時充填といった充填工程のバランスのみを調整し、樹脂充填後の保圧工程のバランスは変化させないキャビティバランス調整が可能になる。
【0063】また、多点ゲート金型において、樹脂の各ゲートからの充填タイミングのバランスのみを調整し、樹脂充填後の保圧工程のバランスは変化させないゲートバランス調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る金型を説明する図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る金型を説明する図である。
【図3】図2の可動コアの調整方法を説明する図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る金型を説明する図である。
【図5】図4の可動コア部分の詳細を説明する図である。
【図6】成形品形状を説明する図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る金型を説明する図である。
【図8】本発明の第5の実施形態に係る金型を説明する図である。
【図9】本発明の第6の実施形態に係る金型を説明する図である。
【図10】成形品形状を説明する図である。
【符号の説明】
1 スプル
2 ランナ
3 樹脂溜まり
4 ランナ
5 ゲート
6 キャビティ
7 入れ子
17 可動コア
18 傾斜駒
19 高さ調整駒
27 可動コアピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数のキャビティを有する多数個取りの成形用金型であって、各キャビティのゲートに連通する個々のランナに樹脂材料の充填経路の方向を変化させる部分を有し、該充填経路の方向を変化させる部分に材料直進方向に樹脂溜まり部を設け、該樹脂溜まり部の少なくとも一つを、その容積を調整可能に構成したことを特徴とする成形用金型。
【請求項2】 前記樹脂溜まり部を着脱自在な入れ子に形成し、該入れ子の交換によって前記樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴とする請求項1に記載の成形用金型。
【請求項3】 前記樹脂溜まり部に、該樹脂溜まり部の側面の形状を構成し、前記成形用金型のパーティング面の面内方向に進退可能な可動コアを設け、該可動コアの固定位置を調整することによって前記樹脂溜まり部の外形寸法を変化させて該樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴とする請求項1に記載の成形用金型。
【請求項4】 前記樹脂溜まり部に、前記成形用金型の開閉方向に進退可能な可動コアを設け、該可動コアの固定位置を調整することにより、前記樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴とする請求項1に記載の成形用金型。
【請求項5】 複数のゲートから一つのキャビティ内に樹脂材料を充填させる多点ゲート方式の成形用金型であって、前記複数のゲートに各々連通する複数のランナの少なくとも一つに、樹脂材料の充填経路の方向を変化させる部分を有し、該充填経路の方向を変化させる部分に材料直進方向に樹脂溜まり部を設け、該樹脂溜まり部の容積を調整可能としたことを特徴とする成形用金型。
【請求項6】 前記樹脂溜まり部を着脱自在な入れ子に形成し、該入れ子の交換によって前記樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴とする請求項5に記載の成形用金型。
【請求項7】 前記樹脂溜まり部に、該樹脂溜まり部の側面の形状を構成し、前記成形用金型のパーティング面の面内方向に進退可能な可動コアを設け、該可動コアの固定位置を調整することによって前記樹脂溜まり部の外形寸法を変化させて該樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴とする請求項5に記載の成形用金型。
【請求項8】 前記樹脂溜まり部に、前記成形用金型の開閉方向に進退可能な可動コアを設け、該可動コアの固定位置を調整することにより、前記樹脂溜まり部の容積を調整することを特徴とする請求項5に記載の成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2002−192561(P2002−192561A)
【公開日】平成14年7月10日(2002.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−391371(P2000−391371)
【出願日】平成12年12月22日(2000.12.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】