説明

成形装置および成形方法

【課題】熱可塑性素材を成形する成形型部材を効率的に加熱することが可能な成形技術を提供する。
【解決手段】成形面4aおよび成形面8aを対向させて配置された固定型4および移動型8が、周囲に配置された赤外線ランプ14および赤外線ランプ21から照射される輻射熱によって加熱されるようにした成形装置Mにおいて、固定型4および移動型8の各々の側面に、赤外線の陰を生じない形状の受熱部4bおよび受熱部8bを形成し、赤外線ランプ14および赤外線ランプ21(反射ミラー15および反射ミラー22)からの赤外線による輻射熱を効率良く受熱して、固定型4および移動型8を効率よく、均一に加熱することを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形技術に関し、たとえば、熱可塑性素材を用いた光学素子等の成形に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子の製造分野では、ガラスや樹脂等の熱可塑性素材を用いた型成形による製造技術が広く用いられている。
たとえば、特許文献1には、筒状の熱反射部材の内側に電熱線を配置した構成の電気ヒータの内部に、軸方向に対向するように一対の成形型等の成形部材を対向して配置し、この一対の成形部材の各々のレンズ成形面の間にガラス素材を実装し、電気ヒータによって所望の成形温度に加熱した状態で挟圧することで、ガラス素材にレンズ成形面の形状を転写して成形するガラスレンズ成形装置が開示されている。
【0003】
そして、この特許文献1の場合には、電気ヒータによって取り囲まれる一対の成形部材の外周面に、フィン状に複数の受熱部を突設することで、電気ヒータによる成形部材およびガラス素材の加熱効率を向上させようとしている。
【0004】
ところが、特許文献1の技術では、受熱部がフィン状の凸形状を呈するため、表面積は増加するものの、電気ヒータからの放射熱の照射経路の一部を当該受熱部が遮るように作用するため、成形部材の外周部において、電気ヒータからの放射熱に対して陰となる部分生じることとなり、加熱効率が低下するける懸念があった。
【特許文献1】特開2007−210854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱可塑性素材を成形する成形型部材を効率的に加熱することが可能な成形技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、熱可塑性素材を成形する成形型部材と、前記成形型部材を加熱する加熱手段とを含み、前記成形型部材には、前記加熱手段からの放射熱を受ける凹断面形状の複数の受熱部を備えた成形装置を提供する。
【0007】
本発明の第2の観点は、外周面に、外部からの放射熱を受ける凹断面形状の複数の受熱部を形成した成形型部材を用いて熱可塑性素材の成形を行う成形方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱可塑性素材を成形する成形型部材を効率的に加熱することが可能な成形技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態である成形技術の原理の一例を示す略断面図である。
本実施の形態の一態様の成形装置では、成形型部材と、成形型部材を加熱する手段を備え、前記成形型部材に前記加熱手段からの熱を受ける球面の凹型形状の受熱部を具備した構成を開示する。
【0010】
すなわち、図1に例示されるように、成形型部材103の周囲に電熱線102および当該電熱線102の背面側に配置された反射板101からなるヒータ100を配置して加熱する。
【0011】
反射板101には、電熱線102の位置に対応して反射凹部(凹型反射部)101aが設けられ、電熱線102の背面側に放射される熱線102aを成形型部材103に向けて反射する構成となっている。
【0012】
この場合、ヒータ100からの輻射熱によって加熱される成形型部材103の表面には、複数の受熱部103aが設けられている。
個々の受熱部103aは、たとえば、電熱線102に向かって拡開する凹曲面形状を呈している。
【0013】
なお、この成形型部材103における受熱部103aの形状は、たとえば、いわゆるディンプルのような凹欠球面を呈していてもよいし、あるいは、断面が凹曲面形状を呈する溝でもよい。
【0014】
また、成形型部材103の個々の受熱部103aを、ヒータ100の側の反射凹部101aの各々に対向する位置に配置することがより望ましい。
このように、個々の受熱部103aは、たとえば、電熱線102に向かって拡開する凹曲面形状を呈していることにより、電熱線102から出射される熱線102aに対して、個々の受熱部103aでは陰になる領域が発生せず、電熱線102からの放射熱が効率よく成形型部材103に伝達されることとなる。
【0015】
すなわち、成形型部材103の受熱部103aを球面等の凹型形状にしたことにより反射板101からの電熱線102の輻射熱を効率良く受熱する作用がある。
図2は本発明の一実施の形態である成形方法を実施する成形装置の構成例を示す略断面図である。
【0016】
本実施の形態の成形装置Mでは、固定軸1および移動軸5が対向するように上下に配置されている。固定軸1の上端部は、フレーム2の上部に固定されている。固定軸1の下端部には、中空の断熱部材3を介して固定型4(成形型部材)が図示しないボルトによって固定されている。
【0017】
移動軸5は固定軸1と同軸となるように固定軸1の下方に配置されており、移動軸5の上端部には、中空の断熱部材6を介して移動型8(成形型部材)が図示しないボルトによって固定されている。これにより、固定型4の中心軸と移動型8の中心軸とが一致するようにこれらの固定型4および移動型8が配置されている。
【0018】
固定型4と移動型8の各々の対向面には、成形される光学素子に光学機能面を転写するための成形面4aおよび成形面8aが形成されている。
なお、この実施の形態では、断熱部材3および断熱部材6として窒化珪素やジルコニア等のセラミックスを用いた。また、固定型4および移動型8としては、超硬合金等からなる型材の表面にコートを施したものを用いた。
【0019】
移動軸5は、ベース9を貫通して下方へ延びており、移動手段としてのモータ10によって鉛直方向(上下方向)に所定速度で移動可能となっている。
固定軸1には、固定軸1が挿通可能な孔を中央部分に有した円板状の上部ブラケット11が設けられている。上部ブラケット11の下方には、断熱部材3および固定型4を囲むように略円筒形状の上部隔壁13が設けられている。上部隔壁13の外周には、冷却水が循環できる冷却パイプ12が取り付けられている。
【0020】
上部隔壁13の内部には、固定軸1を囲むように加熱源である複数の半円筒形状の固定型用の赤外線ランプ(発熱体)14が設けられている。また、上部隔壁13の内面には、赤外線ランプ14から照射される赤外線を効率良く固定型4に反射させる反射ミラー15(反射板)が形成されている。なお、固定型用の加熱手段は、赤外線ランプ14と反射ミラー15とを備えている。
【0021】
上部隔壁13の下部には、後述する下部隔壁17の外周寸法よりもやや大きい円筒形状のスカート19が設置されている。そして、下部隔壁17をスカート19に嵌合させることにより、成形室18内がほぼ密閉状態となる。
【0022】
移動軸5には、移動軸5が挿通可能な孔を中央部分に有した円板状の下部ブラケット16が設置されている。下部ブラケット16の上方には、断熱部材6および移動型8を囲むように略円筒形状の下部隔壁17が設けられている。下部隔壁17の外周には、冷却水が循環できる冷却パイプ20が取り付けられている。
【0023】
下部隔壁17の内部には、移動軸5を囲むように加熱源である複数の半円筒形状の移動型用の赤外線ランプ(発熱体)21が設けられている。また、下部隔壁17の内面には、赤外線ランプ21から照射される赤外線を効率良く移動型8に反射させる反射ミラー22(反射板)が形成されている。なお、移動型用の加熱手段は、赤外線ランプ21と反射ミラー22とを備えている。
【0024】
この実施の形態では、下部ブラケット16と下部隔壁17とにより連結部材が構成される。すなわち、移動軸5に断熱部材6を介して移動型8が取り付けられる一方、移動型8に下部ブラケット16が取り付けられ、この下部ブラケット16に移動型用の赤外線ランプ21を設けた下部隔壁17が支持されており、これにより、移動型8および赤外線ランプ21がこれらを介して連結される構造となっている。これにより、昇降する移動型8に対して赤外線ランプ21の位置関係が常に同一となるように移動することができる。
【0025】
なお、反射ミラー15および反射ミラー22として金コート、金メッキ、TiNコートしたもののいずれかを用いた。また、上部隔壁13、下部隔壁17、上部ブラケット11、下部ブラケット16およびスカート19の内壁は全て酸化を防止するために耐熱耐酸化処理が施されている。各隔壁13,17と各反射ミラー15,22とは、一体としても良いし、別体としても良い。
【0026】
この実施の形態において、赤外線ランプ14および赤外線ランプ21はいずれも上下に、たとえば2本ずつ配置されている。
本実施の形態の場合、固定型4において赤外線ランプ14に対向する側面には、複数の受熱部4bが設けられている。
【0027】
この受熱部4bは、対向する複数の反射ミラー15の各々と同じ高さ位置に配置することができる。
この受熱部4bは、たとえば、赤外線ランプ14に向かって拡開する凹曲面形状を呈している。
【0028】
同様に、移動型8の側面には、赤外線ランプ21に向かって拡開する凹曲面形状を呈する複数の受熱部8bが設けられている。
この受熱部8bは、対向する複数の反射ミラー22の各々と同じ高さ位置に配置することができる。
【0029】
なお、この固定型4の受熱部4bおよび移動型8の受熱部8bの形状は、たとえば、いわゆるディンプルのような凹欠球面を呈していてもよいし、あるいは、断面が凹曲面形状を呈する溝でもよい。
【0030】
これにより、固定型4および移動型8の側面では、赤外線の照射領域の陰を生じることなく、当該固定型4および移動型8の側面の全体に赤外線ランプ14および反射ミラー22から赤外線が効率よく照射される。
【0031】
以下、本実施の形態の成形装置Mを用いてレンズを成形する方法を説明する。
なお、以下では、一例として、球形のガラス素材24(熱可塑性素材)から、凸レンズ等の光学素子を成形する場合を説明する。
【0032】
まず、ガラス素材24を移動型8の成形面8aの上に載置し、移動軸5をモータ10により上昇させる。これにより、下部隔壁17が上昇して上部隔壁13のスカート19に挿入され、成形室18が密閉されると共に、移動型8上のガラス素材24が固定型4に接触する直前まで移動する。
【0033】
そして、成形室18内に非酸化性ガスである窒素ガスを供給口25から供給することにより、成形室18内の雰囲気を非酸化性ガスで置換する。
その後、赤外線ランプ14および赤外線ランプ21によって、固定型4、移動型8および移動型8に載置されたガラス素材24を加熱する。
【0034】
そして、移動型8をさらに上方に所定の圧力で移動させ、加熱軟化されたガラス素材24が、光軸位置で所望の肉厚になるまで軸方向に押圧して成形する。
このとき、赤外線ランプ21(赤外線ランプ14)から移動型8(固定型4)に照射される赤外線は、陰を生じることなくすべての受熱部8b(受熱部4b)に一様に照射され、移動型8、固定型4およびガラス素材24を効率よく目的の成形温度に一定に加熱することができる。
【0035】
その後、充分な時間および成形温度の状態を保持した後、一定勾配で冷却した後、移動型8を降下させて離型を行い、ガラス素材24に成形面4aおよび成形面8aの形状が転写されて成形された凸レンズ等の光学素子を取り出して成形を終了する。
【0036】
このように、本実施の形態の成形装置Mでは、ガラス素材24を成形する固定型4および移動型8の各々の赤外線ランプ14および赤外線ランプ21に面する側面に、赤外線の陰を生じない形状の受熱部4bおよび受熱部8bを形成したことにより、赤外線ランプ14および赤外線ランプ21(反射ミラー15および反射ミラー22)からの赤外線による輻射熱を効率良く受熱して、固定型4および移動型8を効率よく、均一に加熱することが可能となる。
【0037】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
たとえば、複数の受熱部4bおよび受熱部8bの各々の大きさは、一様でなくてもよい。
【0038】
また、上述の実施の形態では、赤外線ランプ14(反射ミラー15)および赤外線ランプ21(反射ミラー22)を上下分離して配置した例を示したが、両者を一体にし、その内部を移動型8が昇降する構成としてもよい。
(付記1)
成形型部材と、前記成形型部材を加熱する加熱手段を備え、前記成形部材に前記加熱手段からの熱を受ける効率的な形状の受熱部を設けることを特徴とするガラスレンズ成形装置。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施の形態である成形技術の原理の一例を示す略断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態である成形方法を実施する成形装置の構成例を示す略断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 固定軸
2 フレーム
3 断熱部材
4 固定型
4a 成形面
4b 受熱部
5 移動軸
6 断熱部材
8 移動型
8a 成形面
8b 受熱部
9 ベース
10 モータ
11 上部ブラケット
12 冷却パイプ
13 上部隔壁
14 赤外線ランプ
15 反射ミラー
16 下部ブラケット
17 下部隔壁
18 成形室
19 スカート
20 冷却パイプ
21 赤外線ランプ
22 反射ミラー
24 ガラス素材
25 供給口
100 ヒータ
101 反射板
101a 反射凹部
102 電熱線
102a 熱線
103 成形型部材
103a 受熱部
M 成形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性素材を成形する成形型部材と、前記成形型部材を加熱する加熱手段とを含み、前記成形型部材には、前記加熱手段からの放射熱を受ける凹断面形状の複数の受熱部を備えたことを特徴とする成形装置。
【請求項2】
請求項1記載の成形装置において、
前記成形型部材の前記受熱部は、前記加熱手段に向かって拡開する凹曲面形状を呈することを特徴とする成形装置。
【請求項3】
請求項1記載の成形装置において、
前記加熱手段は、発熱体と、前記発熱体の背面に設けられ、個々の前記発熱体に対応した凹型反射部を備えた反射板とからなり、
前記成形型部材の個々の前記受熱部は、前記凹型反射部に対向する位置に配置されていることを特徴とする成形装置。
【請求項4】
外周面に、外部からの放射熱を受ける凹断面形状の複数の受熱部を形成した成形型部材を用いて熱可塑性素材の成形を行うことを特徴とする成形方法。
【請求項5】
請求項4記載の成形方法において、
前記成形型部材の前記受熱部は、外部に向かって拡開する凹曲面形状を呈することを特徴とする成形方法。
【請求項6】
請求項4記載の成形方法において、
発熱体と、前記発熱体の背面に設けられ、個々の前記発熱体に対応した凹型反射部を備えた反射板とからなる加熱手段を用いて前記成形型部材の加熱を行い、
前記成形型部材の個々の前記受熱部を、前記凹型反射部に対向する位置に配置することを特徴とする成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−249251(P2009−249251A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100912(P2008−100912)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】