説明

成形装置及び成形方法

【課題】金型の周囲に位置する型枠を熱可塑性樹脂に確実に当接することが可能な成形装置を提供する。
【解決手段】本実施形態の成形装置(1)は、押出装置(12)からシート状に押し出した熱可塑性樹脂(P)を金型(32)のキャビティ(116)に真空吸引し、熱可塑性樹脂(P)をキャビティ(116)に沿った形状に賦形する成形装置(1)であり、金型(32)の周囲に位置し、当該金型(32)に対して移動可能な型枠(33)を備え、型枠(33)の下側を構成する枠下部(33-2)は、型枠(33)の上側を構成する枠上部(33-1)よりも熱可塑性樹脂(P)側に突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品を成形する成形装置及び成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人による先行技術文献として、例えば、特許文献1(WO2009/157197)には、溶融状態の熱可塑性樹脂シートを用いて樹脂成形品を成形する成形装置について開示されている。
【0003】
上記特許文献1の成形装置100は、図9に示すように、分割金型32の外周部に型枠33を摺動可能に設け、その型枠33を分割金型32に対して相対的に移動し、図10に示すように、熱可塑性樹脂シートPの側面に型枠33を当接し、熱可塑性樹脂シートP、型枠33、キャビティ116により、密閉空間を形成する。次に、図11に示すように、密閉空間内の空気を真空吸引室120から吸引穴122を介して吸引し、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116に吸着させ、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形する。その後は、型枠33と分割金型32とを一体で移動し、分割金型32の型締めを行い、分割金型32のピンチオフ部118により熱可塑性樹脂シートPの周縁部同士を溶着し、2枚の熱可塑性樹脂シートPの接合面にパーティングラインを形成すると共に、2枚の熱可塑性樹脂シートPの内部に密閉中空部を形成する。次に、型枠33と分割金型32とを一体で移動し、分割金型32の型開きを行い、樹脂成形品を取り出し、外周部のバリを除去し、樹脂成形品を成形している。
【0004】
なお、上記特許文献1の成形装置100は、Tダイ28に設けられた所定間隔の押出スリットから、熱可塑性樹脂を単位時間当たり所定の押出量で間欠的に押し出し、溶融状態の熱可塑性樹脂シートPが下方に垂下するように所定の押出速度で熱可塑性樹脂シートPを押し出すようにしている。そして、下方に押し出された熱可塑性樹脂シートPが一対のローラ30の間を通過するようにし、また、一対のローラ30同士の間隔を狭めて熱可塑性樹脂シートPを挟み込み、一対のローラ30の回転により熱可塑性樹脂シートPを下方に送り出すようにしている。この時、熱可塑性樹脂シートPが一対のローラ30に送られている間、一対のローラ30による熱可塑性樹脂シートPの送出速度が、押出スリットから押し出される熱可塑性樹脂シートPの押出速度以上となるように一対のローラ30の回転速度を調整することにしている。これにより、熱可塑性樹脂シートPのドローダウンあるいはネックインを有効に防止し、押出方向に一様な厚みの熱可塑性樹脂シートPを形成することにしている。なお、ドローダウンとは、時間経過と共にシートの自重により溶融状態のシートが引き延ばされてシートの上方ほど薄肉となる現象をいう。また、ネックインとは、ドローダウンに起因してシートの幅方向に収縮してシート幅が小さくなる現象をいう。
【0005】
しかし、上記特許文献1の成形装置100は、Tダイ28から押し出された熱可塑性樹脂シートPを用いて樹脂成形品を形成するため、Tダイ28から押し出された熱可塑性樹脂シートPが波打つ現象(カーテン現象)が発生してしまう場合がある。
【0006】
熱可塑性樹脂シートPにカーテン現象が発生してしまうと、熱可塑性樹脂シートPの側面に型枠33を当接しても、熱可塑性樹脂シートPと型枠33との間に隙間が発生し、熱可塑性樹脂シートP、型枠33、キャビティ116により、密閉空間を形成することができない状況が発生してしまう。これは、型枠33の上側を構成する枠上部と型枠33の下側を構成する枠下部とが同一鉛直線上に位置するように型枠33の側面を構成し、型枠33の側面が熱可塑性樹脂シートPの側面に沿って当接するため、型枠33と熱可塑性樹脂シートPとの間に隙間が発生し、上述した密閉空間を形成することができない状況が発生してしまうことになる。その結果、真空吸引室120から吸引穴122を介して空気を吸引しても、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116に吸着させることができず、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形することができなくなる。なお、熱可塑性樹脂シートPが発泡樹脂シートの場合は、カーテン現象が顕著に発生するため、上述した問題が更に重要視されることになる。
【0007】
このため、熱可塑性樹脂シートPの側面に型枠33を確実に当接し、熱可塑性樹脂シートP、型枠33、キャビティ116により、密閉空間を形成し、真空吸引を安定して行うことが可能な仕組みの開発が必要視されている。
【0008】
なお、特許文献2(特開平6-99474号公報)には、型半体10,20に枠体30,40を設け、型開きした型半体10,20の間に複数のシートパリソン1,2を導入し、その後、枠体30,40を型押圧方向に躍動させ、枠体30,40に包囲された領域のシートパリソン1,2を型半体10,20の型キャビティ13,23に向かって膨張させ、型半体10,20を型閉し、シートパリソン1,2を圧着すると共に、シートパリソン1,2間に気体を吹き込んでブロー成形する技術について開示されている。
【0009】
また、特許文献3(特開昭54-112965号公報)には、二枚のシート状熱可塑性材料7a,7bを溶融軟化状態で垂下し、両金型1a,1bの外周で互いに対向して進退し得る型枠4a,4bによって二枚のシート状熱可塑性材料7a,7bから袋状体を形成し、その二枚のシート状熱可塑性材料7a,7b間で進退自在に配したブロー管13,14及び両金型1a,1b面に配した圧力制御手段によってシート状熱可塑性材料7a,7bの内外面の圧力を制御しつつ両面の厚さが異なる二重壁構造品を成型する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2009/157197
【特許文献2】特開平6−99474号公報
【特許文献3】特開昭54−112965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献2、3には枠体30,40や型枠4a,4bを使用する成形装置の構造が開示されている。
【0012】
しかし、特許文献2の枠体30,40は、特許文献1と同様に、枠体30,40の上側を構成する枠上部と枠体30,40の下側を構成する枠下部とが同一鉛直線上に位置し、枠上部と枠下部とが同時にシートパリソン1,2の側面に当接することになる。このため、特許文献2の枠体30,40も、特許文献1と同様な問題状況が発生するおそれがある。
【0013】
また、特許文献3の型枠4a,4bは、上部と下部の一部が傾斜した形状になっている。しかし、特許文献3の型枠4a,4bも特許文献1、2と同様に、型枠4a,4bの上側を構成する枠上部と型枠4a,4bの下側を構成する枠下部とが同一鉛直線上に位置し、枠上部と枠下部とが同時にシート状熱可塑性材料7a,7bの側面に当接することになる。このため、特許文献3の型枠4a,4bも、特許文献1と同様な問題状況が発生するおそれがある。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、金型の周囲に位置する型枠を熱可塑性樹脂に確実に当接することが可能な成形装置及び成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的を達成するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0016】
<成形装置>
本発明にかかる成形装置は、
押出装置からシート状に押し出した熱可塑性樹脂を金型のキャビティに真空吸引し、前記熱可塑性樹脂を前記キャビティに沿った形状に賦形する成形装置であって、
前記金型の周囲に位置し、当該金型に対して移動可能な型枠を備え、
前記型枠の下側を構成する枠下部は、前記型枠の上側を構成する枠上部よりも前記熱可塑性樹脂側に突出していることを特徴とする。
【0017】
<成形方法>
本発明にかかる成形方法は、
押出装置からシート状に押し出した熱可塑性樹脂と、金型の周囲に位置して当該金型に対して移動可能な型枠と、を当接した後に、前記金型のキャビティに対向する前記熱可塑性樹脂を前記キャビティに真空吸引し、前記熱可塑性樹脂を前記キャビティに沿った形状に賦形する成形方法であって、
前記型枠の下側を構成する枠下部は、前記型枠の上側を構成する枠上部よりも前記熱可塑性樹脂側に突出しており、前記押出装置からシート状に押し出した前記熱可塑性樹脂が前記枠上部と前記枠下部との間で当接し、該当接した前記熱可塑性樹脂が前記型枠の側面形状に沿って下方に垂下した後に、前記金型のキャビティに対向する前記熱可塑性樹脂を前記キャビティに真空吸引することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金型の周囲に位置する型枠を熱可塑性樹脂に確実に当接することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の成形装置1の構成例を示す図である。
【図2】本実施形態の分割金型32及び型枠33の構成例を示す第1の図である。
【図3】本実施形態の分割金型32及び型枠33の構成例を示す第2の図である。
【図4】図1に示す成形装置1においてTダイ28から押し出した熱可塑性樹脂シートPに型枠33を当接した状態を示す図である。
【図5】図4に示す態様から熱可塑性樹脂シートPを分割金型32のキャビティ116に真空吸引させた状態を示す図である。
【図6】図5に示す態様から分割金型32を型締めした状態を示す図である。
【図7】図6に示す態様から分割金型32を型開きした状態を示す図である。
【図8】本実施形態の成形装置1の別の構成例を示す図である。
【図9】本発明と関連する成形装置100の構成例を示す図である。
【図10】本発明と関連する成形装置100の成形方法例を示す第1の図である。
【図11】本発明と関連する成形装置100の成形方法例を示す第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<本実施形態の成形装置1の概要>
まず、図1を参照しながら、本実施形態の成形装置1の概要について説明する。
【0021】
本実施形態の成形装置1は、溶融混練した熱可塑性樹脂Pをシート状に押し出す押出装置12と、押出装置12からシート状に押し出した熱可塑性樹脂Pと、金型32の周囲に位置して当該金型32に対して移動可能な型枠33と、を当接した後に、金型32のキャビティ116に対向する熱可塑性樹脂Pをキャビティ116に真空吸引し、熱可塑性樹脂Pをキャビティ116に沿った形状に賦形し、金型32を型締めし、樹脂成形品を成形する型締装置10と、を有する成形装置1である。
【0022】
本実施形態の成形装置1の型枠33は、金型32に対して移動可能であり、型枠33の下側を構成する枠下部33-2は、型枠33の上側を構成する枠上部33-1よりも熱可塑性樹脂P側に突出している。
【0023】
本実施形態の成形装置1は、上記構成を有することで、押出装置12からシート状に押し出した熱可塑性樹脂Pが型枠33の側面形状100に沿って下方に垂下するため、型枠33を熱可塑性樹脂Pに確実に当接することができる。その結果、型枠33と熱可塑性樹脂Pとの間に隙間が発生することがないため、熱可塑性樹脂Pをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形することができる。以下、添付図面を参照しながら、本実施形態の成形装置1について詳細に説明する。
【0024】
<成形装置1の構成例>
まず、図1を参照しながら、本実施形態の成形装置1の構成例について説明する。
【0025】
本実施形態の成形装置1は、樹脂成形品を成形するための装置であり、押出装置12と、型締装置10と、を有して構成し、押出装置12から溶融状態の熱可塑性樹脂シートPを型締装置10に押し出し、型締装置10で熱可塑性樹脂シートPを型締めし、樹脂成形品を成形する。
【0026】
押出装置12は、ホッパ16が付設されたシリンダ18と、シリンダ18内に設けられたスクリュ(図示せず)と、スクリュに連結された油圧モータ20と、シリンダ18と連通したアキュムレータ22と、アキュムレータ22と連通したプランジャ24と、Tダイ28と、を有して構成する。
【0027】
本実施形態の押出装置12は、ホッパ16から投入された樹脂ペレットが、シリンダ18内で油圧モータ20によるスクリュの回転により溶融、混練され、溶融状態の樹脂(溶融樹脂)を形成する。次に、溶融樹脂がアキュムレータ22に移送されて一定量貯留され、プランジャ24の駆動により、Tダイ28に向けて溶融樹脂を送り、Tダイ28の押出スリット(図示せず)から連続的なシート状の熱可塑性樹脂シートPを押し出す。Tダイ28の押出スリットから押し出された熱可塑性樹脂シートPは分割金型32の間に垂下される。これにより、熱可塑性樹脂シートPが鉛直方向(押出方向)に一様な厚みを有する状態で、分割金型32の間に配置されることになる。
【0028】
押出装置12の押出能力は、成形する樹脂成形品の大きさ、熱可塑性樹脂シートPのドローダウンあるいはネックイン発生防止の観点から適宜選択する。具体的には、実用的な観点から、間欠押出における1ショットの押出量は、好ましくは1〜10kgであり、押出スリットからの熱可塑性樹脂シートPの押出速度は、数百kg/時以上、より好ましくは、700kg/時以上である。また、熱可塑性樹脂シートPのドローダウンあるいはネックイン発生防止の観点から、熱可塑性樹脂シートPの押出は、なるべく短いことが好ましく、樹脂の種類、MFR値、MT値に依存するが、一般的に、押出は、40秒以内、より好ましくは10〜20秒以内に完了するのが好ましい。
【0029】
このため、熱可塑性樹脂の押出スリットからの単位面積(1cm2)、単位時間(h)当たりの押出量は、50kg/h cm2以上、より好ましくは、150kg/h cm2以上である。例えば、スリット間隔が0.5mm、スリットの幅方向の長さが1000mmのTダイ28の押出スリットから、密度0.9g/cm3の熱可塑性樹脂を用いて、厚さ1.0mm、幅1000mm、押出方向の長さが2000mmの熱可塑性樹脂シートPを15秒間で押し出す場合は、1.8kgの熱可塑性樹脂を1ショット15秒間で押し出したことになり、押出速度は432kg/時であり、単位面積当りの押出速度は約86kg/h cm2と算出することができる。
【0030】
なお、Tダイ28に設けられる押出スリットは、鉛直下向きに配置され、押出スリットから押し出された熱可塑性樹脂シートPは、そのまま押出スリットから垂下する形態で、鉛直下向きに送られるようになっている。押出スリットは、スリット間隔を可変にすることで、熱可塑性樹脂シートPの厚みを変更することができる。
【0031】
但し、Tダイ28から押し出された熱可塑性樹脂シートPは、分割金型32間に垂下された状態で、つまり、型締めされる時点において押出し方向の厚みが均一となるように調整することが好ましい。この場合、スリット間隔を押出し開始から徐々に広げ、押出し終了時に最大となるように変動させることもできる。これにより、Tダイ28から押し出される熱可塑性樹脂シートPの厚みは、押出し開始から徐々に厚くなるが、溶融状態で押し出された熱可塑性樹脂シートPは、自重により引き伸ばされてシートの下方から上方へ徐々に薄くなるため、スリット間隔を広げて厚く押し出した分とドローダウン現象により引き伸ばされて薄くなった分とが相殺されて、シート上方から下方にわたって均一な厚みに調整することができる。
【0032】
本実施形態の型締装置10は、分割金型32と、分割金型32を熱可塑性樹脂シートPの供給方向に対して略直交する方向に開位置と閉位置との間で移動させる金型駆動装置(図示せず)と、を有して構成する。
【0033】
分割金型32は、キャビティ116を対向させた状態で配置され、それぞれのキャビティ116が略鉛直方向を向くように配置される。キャビティ116の表面には、溶融状態の熱可塑性樹脂シートPに基づいて成形される樹脂成形品の外形、および表面形状に応じて凹凸部が設けられている。また、分割金型32のキャビティ116の周りには、図2(a)に示すように、ピンチオフ部118が形成されている。図2(a)、(b)は、一方の分割金型32A及び型枠33Aの構成例を示している。なお、他方の分割金型32B及び型枠33Bの構成例もほぼ同様に構成する。
【0034】
ピンチオフ部118は、キャビティ116の周りに環状に形成されており、対向する分割金型32に向かって突出している。これにより、分割金型32を型締めした際に、それぞれのピンチオフ部118の先端部が当接し、樹脂成形品の周縁にパーティングラインPLを形成することができる。
【0035】
また、分割金型32の外周部には、型枠33を有し、型枠駆動装置(図示せず)により型枠33を分割金型32に対して相対的に移動可能にしている。より詳細には、一方の型枠33Aは、分割金型32Bに向かって突出しており、分割金型32間に配置された熱可塑性樹脂シートPに当接可能にしており、また、他方の型枠33Bは、分割金型32Aに向かって突出しており、分割金型32間に配置された熱可塑性樹脂シートPに当接可能にしている。なお、分割金型32と型枠33との間の距離は、型枠33の移動に支障が発生しない程度の距離とし、なるべく隙間がないようにすることが好ましい。分割金型32と型枠33との間の距離は、1mm未満が好ましく、0.5mm未満が更に好ましい。
【0036】
本実施形態の型枠33は、図2(b)に示すように、型枠33Aの下側を構成する枠下部33A-2が型枠33Aの上側を構成する枠上部33A-1よりも前方に突出した側面形状100で構成し、型枠33Aを前方に移動した際に、図4に示すように、型枠33Aの枠下部33A-2が熱可塑性樹脂シートPの垂下位置よりも分割金型32B側に位置するようにしている。これにより、Tダイ28Aから下方に垂下した熱可塑性樹脂シートPが型枠33Aに当接し、当接後は、型枠33Aの側面形状100に沿って熱可塑性樹脂シートPが下方に垂下することになる。その結果、型枠33Aを熱可塑性樹脂シートPに沿って確実に当接することができ、型枠33Aと熱可塑性樹脂シートPとの間に隙間が発生する状態を回避することができる。また、熱可塑性樹脂シートPは、型枠33Aの側面形状100に沿って下方に垂下するため、熱可塑性樹脂シートPと型枠33Aとの間で摩擦が発生する。このため、熱可塑性樹脂シートPにかかる自重が摩擦により減少し、熱可塑性樹脂シートPのドローダウンを抑制することができる。
【0037】
なお、Tダイ28Aから下方に垂下した熱可塑性樹脂シートPに型枠33Aが当接する位置は、枠上部33A-1の最上端ではなく、その枠上部33A-1の最上端よりも下側であることが好ましい。これは、枠上部33A-1の最上端の位置で熱可塑性樹脂シートPに当接した場合は、熱可塑性樹脂シートPの一部の樹脂が枠上部33A-1の最上端から型枠33Aの外部に流出し、枠上部33A-1の最上端に樹脂だまりが発生してしまうおそれがあるためである。このため、枠上部33A-1の最上端よりも下側の位置で熱可塑性樹脂シートPに当接するようにし、樹脂だまりの発生を未然に回避することが好ましい。
【0038】
また、熱可塑性樹脂シートPに当接する型枠33Aの位置は、枠上部33A-1の最上端よりも下側であり、且つ、分割金型32Aの最上端よりも上側であることが更に好ましい。これにより、熱可塑性樹脂シートPが型枠33Aに当接した場合は、その熱可塑性樹脂シートPが型枠33Aの側面形状100に沿って下方に垂下し、熱可塑性樹脂シートP、型枠33A、キャビティ116Aにより、密閉空間を形成することができる。なお、熱可塑性樹脂シートPに当接する型枠33Aの位置が分割金型32Aの最上端よりも下側である場合は、型枠33の枠上部33A-1の下端と熱可塑性樹脂シートPが当接した型枠33Aの位置との間に隙間が発生し、熱可塑性樹脂シートP、型枠33A、キャビティ116Aにより、密閉空間を形成することができないことになる。この場合は、上端のピンチオフ部118A-1を熱可塑性樹脂シートPの側面に当接し、熱可塑性樹脂シートP、上端のピンチオフ部118A-1、キャビティ116A、型枠33Aにより、密閉空間を形成することになる。なお、上端のピンチオフ部118A-1を熱可塑性樹脂シートPの側面に当接する方法としては、分割金型32Aを前方に移動し、上端のピンチオフ部118A-1を熱可塑性樹脂シートPの側面に当接させる方法や、熱可塑性樹脂シートPが当接した型枠33Aを後方に移動し、熱可塑性樹脂シートPの側面を上端のピンチオフ部118A-1に当接させる方法がある。これにより、熱可塑性樹脂シートP、上端のピンチオフ部118A-1、キャビティ116A、型枠33Aにより、密閉空間を形成することができる。
【0039】
なお、図2(b)では、型枠33Aの枠上部33A-1と枠下部33A-2との間の側面形状100を直線形状で構成した。しかし、枠上部33A-1と枠下部33A-2との間の側面形状100は、熱可塑性樹脂シートPが型枠33Aの側面形状100に沿って下方に垂下することが可能であれば直線形状に限定する必要はなく、例えば、図3(a),(b)に示すように側面形状100の一部を曲線形状で構成することも可能である。また、図2(b)に示すように側面形状100を直線形状で構成する場合は、型枠33の側面形状100の傾斜角度(θ)を2〜40°の範囲で構成することが好ましく、5〜15°の範囲で構成することが更に好ましい。これは、側面形状100の傾斜角度(θ)が小さすぎると、側面形状100の長さを長くしなければ、型枠33の枠上部33-1の最上端に熱可塑性樹脂シートPが当接してしまう確率が高くなるためである。また、側面形状100の傾斜角度(θ)が大きすぎると枠下部33-2の突出量が多くなり、熱可塑性樹脂シートP同士が接触してしまう確率が高くなるためである。このため、側面形状100の長さにも依存するが、側面形状100の傾斜角度(θ)を側面形状100の長さに応じた所定の範囲(2〜40°)で構成することが好ましい。なお、側面形状100の傾斜角度(θ)は、熱可塑性樹脂シートPと型枠33Aとの間で発生する摩擦力を考慮して所定の範囲(2〜40°)で構成することが更に好ましい。
【0040】
また、型枠33の枠上部33-1の最上端に樹脂だまりが発生するのを回避するために、図3(c)に示すように、枠上部33-1の最上端に切り欠き部101を設けるようにすることも可能である。これにより、型枠33の枠上部33-1の最上端に熱可塑性樹脂シートPが当接してしまう確率を低減することができる。なお、切り欠き部101の形状は特に限定せず、枠上部33-1の最上端に熱可塑性樹脂シートPが当接しないようにすることが可能であればあらゆる形状で構成することが可能である。
【0041】
また、本実施形態では、型枠33の側面形状100に沿って熱可塑性樹脂シートPが下方に垂下するため、型枠33の枠下部33-2の最上端にも樹脂だまりが発生する場合がある。このため、図3(d)に示すように、枠下部33-2の両端部(型枠33の側面形状100を構成する枠下部33-2の部分)33-2'のみを枠上部33-1よりも前方に突出した形状で構成し、枠下部33-2の両端部33-2'以外の中央部33-2''を内側に窪ませた形状にすることも可能である。これにより、型枠33の側面形状100に沿って熱可塑性樹脂シートPが下方に垂下したとしても、枠下部33-2の両端部33-2'のみに熱可塑性樹脂シートPが当接し、中央部33-2''には熱可塑性樹脂シートPが当接しないので、枠下部33-2に樹脂だまりが発生することを回避することができる。但し、この場合は、熱可塑性樹脂シートPと枠下部33-2の中央部33-2''との間に隙間が発生するため、下端のピンチオフ部118-2を熱可塑性樹脂シートPの側面に当接させる必要がある。
【0042】
また、樹脂だまりの発生を回避する別の方法としては、枠下部33-2の中央部33-2''を型枠33から分離し、中央部33-2''のみを独立して移動できるように構成し、型枠33の側面形状100に沿って熱可塑性樹脂シートPが下方に垂下し、熱可塑性樹脂シートPが枠下部33-2を通過した後に、中央部33-2''を前方に移動し、中央部33-2''を熱可塑性樹脂シートPの側面に当接させるようにすることも可能である。
【0043】
また、型枠33に熱可塑性樹脂シートPを吸引するための吸引穴を設け、吸引穴から空気を吸引し、型枠33に熱可塑性樹脂シートPを吸引させるようにすることも可能である。これにより、型枠33の側面形状100に沿って垂下した熱可塑性樹脂シートPを型枠33に吸引させることができる。なお、吸引穴から熱可塑性樹脂シートPを吸引する開始タイミングとしては、熱可塑性樹脂シートPが型枠33の下枠部33-2から下方に垂下した後が好ましい。これにより、型枠33の側面形状100に沿って熱可塑性樹脂シートPが下方に垂下した後に、熱可塑性樹脂シートPを型枠33の側面形状100に沿って吸引することができる。
【0044】
本実施形態の分割金型32は、金型駆動装置(図示せず)により駆動し、開位置において、分割金型32の間に、溶融状態の熱可塑性樹脂シートPを配置可能にしている。また、閉位置において、分割金型32のピンチオフ部118が互いに当接し、分割金型32内に密閉空間を形成するようにしている。なお、開位置から閉位置への各分割金型32の移動について、閉位置は、溶融状態の熱可塑性樹脂シートPの中心線の位置とし、各分割金型32が金型駆動装置により駆動されてその位置に向かって移動するようにしている。
【0045】
熱可塑性樹脂シートPは、ポリプロピレン、ポリオレフィン系樹脂などから形成する。本実施形態の熱可塑性樹脂シートPは、ドローダウン、ネックインなどにより肉厚のバラツキが発生することを防止する観点から溶融張力の高い樹脂材料を用いることが好ましく、一方で分割金型32への転写性、追従性を良好とするため流動性の高い樹脂材料を用いることが好ましい。
【0046】
具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレンペンテン、メチルペンテン等のオレフィン類の単独重合体あるいは共重合体であるポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン)であって、230℃におけるMFR(JIS K-7210に準じて試験温度230℃、試験荷重2.16kgにて測定)が3.5g/10分以下のものが適用可能である。MFRが3.5g/10分より大きくなると、ドローダウンが激しくなり、薄肉の成形品を成形するのが困難になる。
【0047】
また、平均肉厚が2mm以下であり、且つ、所定以上の角度(60度以上)で屈曲した屈曲部を有する複雑な形状の樹脂成形品を成形する場合には、シリカ、マイカ、タルク、炭酸カルシウム等の粉状の無機フィラー、または、ガラス繊維、カーボン繊維等の繊維状の無機フィラーを添加することが好ましい。これにより、平均肉厚を薄くすることができ、且つ、複雑な形状の樹脂成形品を成形することができる。なお、無機フィラーは、添加量が多くなると、成形品の表面に荒れが発生し、ピンホールが発生し易くなる。このため、成形品の表面の荒れを抑え、且つ、ピンホールを発生し難くするために、無機フィラーは、30重量%未満で添加することが好ましい。
【0048】
なお、樹脂成形品を成形する際は、繊維状のフィラーよりも粉状のフィラーを適用することが好ましい。これは、繊維状のフィラーは、繊維が押出し方向を向くため、押出方向と直交する方向の皺を抑え難いためである。また、粉状のフィラーの中でも、特に、タルクを適用することがより好ましい。これは、タルクは、樹脂中での分散性が良いためである。
【0049】
また、衝撃により割れが生じることを防止するために、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを30wt%未満、好ましくは15wt%未満の範囲で添加することも可能である。水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレンーエチレン・ブチレンースチレンブロック共重合体、スチレンーエチレン・プロピレンースチレンブロック共重合体、水添スチレンーブタジエンゴムおよびその混合物が適用可能である。
【0050】
また、可塑剤、安定剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤等を添加することも可能である。
【0051】
<成型装置1の成型工程例>
次に、図1、図4〜図7を参照しながら、本実施形態の成形装置1を用いた樹脂成形品の成形工程例について説明する。
【0052】
まず、図1に示すように、熱可塑性樹脂シートPをTダイ28から押し出し、その押し出した熱可塑性樹脂シートPを一対の分割金型32の間に垂下させる。
【0053】
また、図4に示すように、分割金型32の周囲に位置する型枠33を熱可塑性樹脂シートPに向かって前方に移動させ、型枠33を熱可塑性樹脂シートPに当接させる。
【0054】
本実施形態の型枠33は、枠下部33-2が枠上部33-1よりも前方に突出しているため、Tダイ28から垂下した熱可塑性樹脂シートPに型枠33を当接させ、その型枠33に当接させた熱可塑性樹脂シートPを型枠33の側面形状100に沿って下方に垂下することができる。その結果、図4に示すように、熱可塑性樹脂シートP、型枠33、キャビティ116により、密閉空間を形成することができる。また、熱可塑性樹脂シートPは、型枠33Aの側面形状100に沿って下方に垂下するため、熱可塑性樹脂シートPと型枠33Aとの間で摩擦が発生する。このため、熱可塑性樹脂シートPにかかる自重が摩擦により減少し、熱可塑性樹脂シートPのドローダウンを抑制することができる。
【0055】
型枠33に当接させた熱可塑性樹脂シートPを型枠33の側面形状100に沿って下方に垂下させ、熱可塑性樹脂シートPが型枠33の枠下部33-2の最下端よりも下側の位置まで到達した場合は、型枠33を後方に移動させ、熱可塑性樹脂シートPをピンチオフ部118に当接させ、図5に示すように、密閉空間内の空気を真空吸引室120から吸引穴122を介して吸引し、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116に吸着させ、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形する。なお、密閉空間内の空気を吸引する際は、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116側に膨らませ、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形することが好ましい。これにより、効率的に熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形することができる。
【0056】
次に、型枠33を後退させた状態で分割金型32のみを前方に移動し、図6に示すように分割金型32が互いに近接するように構成し、分割金型32の型締めを行い、分割金型33のピンチオフ部118により熱可塑性樹脂シートPの周縁部同士を溶着する。これにより、2枚の熱可塑性樹脂シートPの接合面にパーティングラインPLが形成されると共に、2枚の熱可塑性樹脂シートPの内部に密閉中空部151が形成される。
【0057】
次に、図7に示すように、分割金型32を互いに遠ざかるように移動させ、分割金型32の型開きを行い、樹脂成形品を取り出し、外周部のバリを除去する。これにより、樹脂成形品を成形することができる。
【0058】
<本実施形態の成形装置1の作用・効果>
このように、本実施形態の形成装置1は、分割金型32の周囲に位置し、当該分割金型32に対して移動可能な型枠33を備え、型枠33の下側を構成する枠下部33-2は、型枠33の上側を構成する枠上部33-1よりも熱可塑性樹脂シートP側に突出している。
【0059】
これにより、押出装置12から押し出した熱可塑性樹脂シートPが枠上部33-1と枠下部33-2との間で当接し、その当接した熱可塑性樹脂シートPが型枠33の側面形状100に沿って下方に垂下するため、型枠33を熱可塑性樹脂シートPに確実に当接することができる。その結果、型枠33と熱可塑性樹脂シートPとの間に隙間が発生することがなく、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ116の表面に沿った形状に賦形することができる。
【0060】
なお、上述した実施形態は、本発明の好適な実施形態であり、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【0061】
例えば、上述した実施形態は、図1に示す成形装置1を用いて樹脂成形品を成形することにした。しかし、図8に示すローラ30を有する成形装置1を用いて樹脂成形品を成形することも可能である。
【0062】
図8に示す成形装置1では、一対のローラ30を通過させて熱可塑性樹脂シートPの肉厚を調整するため、カーテン現象の発生を低減すると共に、薄い肉の熱可塑性樹脂シートPを形成することができる。しかし、一対のローラ30を通過した後もカーテン現象が発生することがあるため、図8に示す成形装置1を用いて樹脂成形品を成形する際にも、図1に示す成形装置1と同様な型枠33を用いることで、熱可塑性樹脂シートP、型枠33、キャビティ116により、密閉空間を確実に形成することができる。その結果、真空成形を安定して行うことができる。なお、図8に示すようにローラ30を有する成形装置1を用いて樹脂成形品を成形する場合は、平均肉厚が1mm以下の樹脂成形品を成形することも可能である。
【0063】
また、上述する実施形態では、Tダイ28から熱可塑性樹脂シートPを押し出した後に、図4に示すように、分割金型32の周囲に位置する型枠33を熱可塑性樹脂シートPに当接させ、熱可塑性樹脂シートPを型枠33の側面形状100に沿って下方に垂下することにした。しかし、型枠33を予め移動させた後に、Tダイ28から熱可塑性樹脂シートPを押し出し、熱可塑性樹脂シートPを型枠33に当接させ、熱可塑性樹脂シートPを型枠33の側面形状100に沿って下方に垂下することも可能である。即ち、熱可塑性樹脂シートPを型枠33の側面形状100に沿って下方に垂下することが可能であれば、型枠33を移動させるタイミングは特に限定せず、任意のタイミングで行うことが可能である。
【符号の説明】
【0064】
P 熱可塑性樹脂シート
1 成形装置
12 押出装置
10 型締装置
16 ホッパ
18 シリンダ
20 油圧モータ
22 アキュムレータ
24 プランジャ
28 Tダイ
30 ローラ
32 分割金型
33 型枠
33−1 枠上部
33−2 枠下部
100 側面形状
116 キャビティ
118 ピンチオフ部
120 真空吸引室
122 吸引穴
151 密閉中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出装置からシート状に押し出した熱可塑性樹脂を金型のキャビティに真空吸引し、前記熱可塑性樹脂を前記キャビティに沿った形状に賦形する成形装置であって、
前記金型の周囲に位置し、当該金型に対して移動可能な型枠を備え、
前記型枠の下側を構成する枠下部は、前記型枠の上側を構成する枠上部よりも前記熱可塑性樹脂側に突出していることを特徴とする成形装置。
【請求項2】
前記枠上部の上端には、切り欠き部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の成形装置。
【請求項3】
押出装置からシート状に押し出した熱可塑性樹脂と、金型の周囲に位置して当該金型に対して移動可能な型枠と、を当接した後に、前記金型のキャビティに対向する前記熱可塑性樹脂を前記キャビティに真空吸引し、前記熱可塑性樹脂を前記キャビティに沿った形状に賦形する成形方法であって、
前記型枠の下側を構成する枠下部は、前記型枠の上側を構成する枠上部よりも前記熱可塑性樹脂側に突出しており、前記押出装置からシート状に押し出した前記熱可塑性樹脂が前記枠上部と前記枠下部との間で当接し、該当接した前記熱可塑性樹脂が前記型枠の側面形状に沿って下方に垂下した後に、前記金型のキャビティに対向する前記熱可塑性樹脂を前記キャビティに真空吸引することを特徴とする成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−179752(P2012−179752A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42930(P2011−42930)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】