説明

成膜方法および機能性膜、並びに電気光学装置

【課題】 プロファイルの良好な機能性膜およびその成膜方法、当該機能性膜を備えた電気光学装置を提供すること。
【解決手段】 電気光学装置(有機EL表示装置)10は、バンク20によって区画された区画領域19内に、正孔輸送膜22、有機EL膜23を含んでなる発光素子25を備えている。ここで、区画領域19は、素子基板11から開口部19aに向かって断面積を減じるテーパー形状をなしており、正孔輸送膜22および有機EL膜23は、液滴吐出法により所定の機能液を区画領域19内に配置した後、乾燥工程を経て形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相法による成膜方法、および液相法により形成された機能性膜、並びに電気光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電配線や機能性素子の形成において、液滴吐出法(インクジェット法)を用いた成膜技術が利用されている。この成膜技術は、機能性材料を含んだ液状体(機能液)をインクジェットプリンタのような描画装置を用いて基板上にパターン描画し、当該配置された機能液を乾燥等させて膜化するものであり、少量多種生産に対応可能であるなど大変有効であるとされている。例えば、特許文献1には、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELとする)表示装置の発光素子について、液滴吐出法を用いて形成する例が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−63138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記発光素子は、基板上に感光性樹脂等でバンクを形成し、バンクによって区画された区画領域に有機EL材料を含む機能液を液滴吐出法により配置し、その後乾燥工程を経て形成される。この乾燥工程において、機能液の表面は表面張力とバンク内の撥液性によって曲面をなすため、区画領域の中央部と外縁部とでは機能液の蒸発速度に差が生じる。当該外縁部では、液面が基板面に対して傾斜することで、実質的な表面積の増大をもたらすからである。このような蒸発速度のムラは、膜化される機能性膜のプロファイルを乱し、当該機能性膜の機能特性に悪影響をもたらす原因となる。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、プロファイルの良好な機能性膜およびその成膜方法、当該機能性膜を備えた電気光学装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板上においてバンクで区画された区画領域内に機能液を配置する工程と、配置された前記機能液を乾燥させる工程と、を有する成膜方法であって、前記区画領域は、基板から開口部に向かって断面積を減じるテーパー形状をなすことを特徴とする
【0007】
この発明の成膜方法によれば、区画領域の中央部に向かって張り出すように形成されたバンクの内壁によって、外縁部における機能液の蒸発が抑えられるので、区画領域内における蒸発速度のムラが緩和される。かくしてプロファイルの良好な機能性膜を提供することができる。
【0008】
好ましくは前記成膜方法における、前記区画領域内に前記機能液を配置する工程において、前記機能液の液面を、前記区画領域の開口面よりも低位にすることを特徴とする。
この発明の成膜方法によれば、上述した外縁部における蒸発抑制の効果を好適に発揮させることができる。
【0009】
本発明は、基板上においてバンクで区画された区画領域内に液相法により形成された機能性膜であって、前記区画領域は、基板から開口部に向かって断面積を減じるテーパー形状をなすことを特徴とする。
この発明の機能性膜は、区画領域の中央部に向かって張り出すように形成されたバンクの内壁によって、外縁部における機能液の蒸発が抑えられ、区画領域内における蒸発速度のムラが緩和された状態で成膜される。このため、良好なプロファイルを有する。
【0010】
本発明の電気光学装置は、前記機能性膜を備えることを特徴とする。
この発明の電気光学装置は、プロファイルが良好な上記機能性膜を備えているので高品質である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。また、以下の説明で参照する図では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、これらの縮尺を実際のものとは異なるように表している。
【0012】
(電気光学装置)
まずは、図1を参照して、本発明に係る電気光学装置について、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELとする)表示装置を例に説明する。図1は、有機EL表示装置の概略構成を示す要部断面図である。
【0013】
図1に示すように、電気光学装置10は、基板としての素子基板11と、素子基板11上に形成された駆動回路部12と、駆動回路部12上に形成された発光素子部13と、素子基板11と対向して駆動回路部12および発光素子部13を封止するための封止基板14と、を備えている。素子基板11には、透過性を有するガラス基板が好適に用いられる。図示を一部省略した駆動回路部12には、TFT等の駆動素子や駆動配線が形成されている。また、封止基板14によって封止された封止空間15には、不活性ガスが充填されている。
【0014】
発光素子部13は、バンク20で区画された複数の区画領域19を有しており、当該区画領域19内に形成された発光素子25の個々が、画像を形成するための階調要素を構成している。また、バンク20と駆動回路部12との間には、階調要素間の干渉を防ぐための遮光膜26が、クロムやその酸化物等で形成されている。
【0015】
バンク20は、アクリル樹脂やポリイミド樹脂などを用いて形成された区画構造体であり、基板面法線方向(図の上下方向)から見たときに、区画領域19が所定の配列をなすようなパターンで形成されている。また、バンク20は、断面方向(図示方向)から見たときに、区画領域19が、素子基板11から開口部19aに向かって断面積を減じるテーパー形状をなすように形成されている。
【0016】
発光素子25は、駆動回路部12の出力端子であるセグメント電極(陽極)21と、共通電極(陰極)24との間に、機能性膜としての正孔輸送膜22と、機能性膜としての有機EL膜23とが積層されて構成されている。
【0017】
セグメント電極21には、インジウム錫酸化物(ITO)などの光透過性の導電材料が、共通電極24には、カルシウム金属層とそれを保護する銀−マグネシウム合金層の三層膜などが用いられている。正孔輸送膜22は、有機EL膜23に正孔を注入するための機能性膜であり、ポリチオフェン誘導体のドーピング体(以下、PEDOTとする)などの高分子導電体で形成されている。有機EL膜23には、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の有機EL材料、例えば、ポリフルオレン誘導体、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体などが用いられている。
【0018】
上述の構成において、駆動回路部12を介した駆動制御によりセグメント電極21と共通電極24との間に電圧が印加されると、正孔輸送膜22から有機EL膜23に正孔が注入され、当該正孔が共通電極24側からの電子と結合して発光する。この発光は正孔輸送膜22と有機EL膜23の界面付近で発生する。
【0019】
尚、図1に示す発光素子25の構成に加えて、有機EL膜23とセグメント電極21との間に、オキサジアゾール誘導体等から成る電子輸送膜を備えるようにしてもよい。この電子輸送膜は、有機EL膜23に電子を注入するためのものである。
【0020】
(液滴吐出装置)
次に、図2を参照して、液滴吐出法において用いる液滴吐出装置について説明する。図2は、液滴吐出装置の構成の一例を示す模式図である。
【0021】
図2において、液滴吐出装置200は、一面に複数のノズル212を配した吐出ヘッド201と、吐出ヘッド201と対向する位置に基板202を載置するための載置台203とを備えている。また、吐出ヘッド201を、基板202との距離を保ったまま縦横に移動(走査)させる走査手段204と、吐出ヘッド201に機能液を供給する機能液供給手段205と、吐出ヘッド201の吐出制御を行う吐出制御手段206と、を備えている。
【0022】
吐出ヘッド201には、複数に枝分かれした微細な流路が形成されており、当該流路の端部は、圧力室(キャビティ)211、ノズル212となっている。圧力室211の外郭の一面は、圧電素子210によって変形可能となっており、吐出制御手段206からの駆動信号によって圧力室211内に圧力を発生させることで、ノズル212から液滴213が吐出される。尚、吐出技術としては、この例のような電気機械方式の他に、電気信号を熱に変換して圧力を発生させるいわゆるサーマル方式などもある。
【0023】
上述の構成において、吐出ヘッド201の走査と同期したノズル212毎の吐出制御を行うことにより、基板202上に所望のパターンで機能液を配置することが可能となっている。尚、液滴吐出装置200は、一走査中において複数種の機能液を吐出可能なように構成することもできる。
【0024】
(発光素子の形成方法)
次に、図3のフローチャートに沿って、図4を参照して発光素子の形成方法について説明する。図3は、発光素子の形成に係る工程を示すフローチャートである。図4は、発光素子の形成における一過程を示す要部断面図である。
【0025】
まず、発光素子の形成に先立って、各機能性膜に対応した機能液が用意される。具体的には、PEDOTの一種であるバイトロン−P(バイエル社製)を含んだ機能液(以下、PEDOT液とする)が正孔輸送膜22(図1参照)用として、有機EL材料を含んだ機能液(以下、有機EL液とする)が有機EL膜23(図1参照)用として用意される。これらの機能液は、界面活性剤や粘度調整剤、保湿剤などが添加されて、液滴吐出装置200(図2参照)に用いるのに適切な調整がなされている。
【0026】
次に、図4(a)に示すように、駆動回路部12およびセグメント電極21が形成されている素子基板11上に、遮光膜26を、気相法とフォトリソグラフィ法等を用いて形成する(図3の工程S1)。
【0027】
次に、遮光膜26の上にバンク20を形成する(図3の工程S2)。具体的には、スピンコート法を用いて、素子基板11上の全面に感光性樹脂膜を形成し、露光、現像工程を経てパターニングを施す。この際、区画領域19のテーパー形状が得られるように、用いられる感光性樹脂のポジ/ネガの選択や、露光条件の適正化がなされている。
【0028】
次に、素子基板11のバンク20が形成されている側に対して、酸素プラズマ処理法などにより親液化処理を行う(図3の工程S3)。この処理によって区画領域19内におけるセグメント電極21の露出面は一様に清浄化され、濡れ性のムラが低減されると共に濡れ性そのものの向上が図られる。
【0029】
次に、素子基板11のバンク20が形成されている側に対して、テトラフルオロメタン(CF4)プラズマ処理などにより撥液化処理を行う(図3の工程S4)。この処理により、有機材料からなるバンク20の表面にはフッ素基が導入され、撥液性を有するようになる。このとき、無機材料からなるセグメント電極21の露出面もこのプラズマ処理の影響を多少受けるが、親液性に影響を与えるほどではない。尚、バンク20を形成する樹脂材料として、初めから撥液性を有するもの(例えば、ヘキサフルオロポリプロピレン等のフッ素樹脂)を用いることにより、上述の撥液処理を省略するようにしても構わない。
【0030】
次に、図4(b)に示すように、液滴吐出法を用いて、区画領域19内にPEDOT液30を配置し(図3の工程S5)、素子基板11ごと減圧乾燥機等に入れて、あるいは放置するなどして乾燥させる(図3の工程S6)。これにより、PEDOT液30からは、矢印で示すように、揮発成分(水や有機溶剤等)の蒸気が蒸発してゆく。
【0031】
工程S6において、区画領域19の外縁部付近における揮発成分の蒸発は、区画領域19の中央部に向かって張り出すように形成されたバンク20の内壁20aによって、ある程度抑えられることになる。これにより、比較的表面積の大きな外縁部と中央部との間での蒸発速度の均衡が図られ、PEDOT液30は、区画領域19内の全体にわたって均一に膜化される。そして、図4(c)に示すように、プロファイルの良好な正孔輸送膜22が形成される。
【0032】
次に、図4(d)に示すように、液滴吐出法を用いて、区画領域19内の正孔輸送膜22上に有機EL液31を配置し(図3の工程S7)、素子基板11ごと減圧乾燥機等に入れて、あるいは放置するなどして乾燥させる(図3の工程S8)。これにより、有機EL液31が膜化して、有機EL膜23(図1参照)となる。
【0033】
ここで、工程S7において区画領域19内に配置する有機EL液31の液量は、液面31aが開口面19bよりも低位となる程度にすることが好ましい。工程S8において、区画領域19内の領域間における蒸発速度の均衡を図るためには、外縁部における液面31aが、内壁20aによって常に遮られるようになっていることが望ましいからである。このため、設計膜厚に対応する有機EL液31の必要量に合わせて、バンク20を十分高く形成しておくことが好ましい。また、有機EL液31を一度に全量配置せずに、工程S7と工程S8とを複数回繰り返して、多層化により有機EL膜23(図1参照)を形成する方法をとることもできる。
【0034】
最後に、有機EL膜23(図1参照)の上に、気相法等で共通電極24(図1参照)を形成し(図3の工程S9)、発光素子25が完成する。尚、気相法で共通電極24(図1参照)を形成する場合、バンク20の内壁20aにも確実に電極材料を付着させるため、素子基板11の基板面を傾斜させて行うことが好ましい。
【0035】
このように、上述の工程を経て製造された電気光学装置10(図1参照)は、プロファイルの良好な正孔輸送膜22および有機EL膜23(図1参照)を備えているので、高品質である。
【0036】
本発明は上述の実施形態に限定されない。
例えば、本発明に係る電気光学装置ないし機能性膜の別の例として、液晶表示装置におけるカラーフィルタ膜、プラズマディスプレイ装置における蛍光膜などを挙げることができる。
また、上述の実施形態では、液滴吐出法により機能液の配置を行う態様としたが、他の方法(例えば、ディップ法など)によって機能液の配置を行うようにしてもよい。
また、各実施形態の各構成はこれらを適宜組み合わせたり、省略したり、図示しない他の構成と組み合わせたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】有機EL表示装置の概略構成を示す要部断面図。
【図2】液滴吐出装置の構成の一例を示す模式図。
【図3】発光素子の形成に係る工程を示すフローチャート。
【図4】(a)〜(d)は、発光素子の形成における一過程を示す要部断面図。
【符号の説明】
【0038】
10…電気光学装置、11…基板としての素子基板、12…駆動回路部、13…発光素子部、14…封止基板、15…封止空間、19…区画領域、19a…開口部、19b…開口面、20…バンク、20a…内壁、21…セグメント電極、22…機能性膜としての正孔輸送膜、23…機能性膜としての有機EL膜、24…共通電極、25…発光素子、26…遮光膜、30…機能液としてのPEDOT液、31…機能液としての有機EL液、31a…液面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上においてバンクで区画された区画領域内に機能液を配置する工程と、配置された前記機能液を乾燥させる工程と、を有する成膜方法であって、
前記区画領域は、基板から開口部に向かって断面積を減じるテーパー形状をなすことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記区画領域内に前記機能液を配置する工程において、前記機能液の液面を、前記区画領域の開口面よりも低位にすることを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
基板上においてバンクで区画された区画領域内に液相法により形成された機能性膜であって、
前記区画領域は、基板から開口部に向かって断面積を減じるテーパー形状をなすことを特徴とする機能性膜。
【請求項4】
請求項3に記載の機能性膜を備える電気光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−95425(P2007−95425A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281511(P2005−281511)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】