説明

成膜装置

【課題】複合材料からなる膜を成膜する成膜装置において、気体粒子生成温度が異なる複数の気体粒子生成部の温度制御性を改善する。
【解決手段】成膜装置10は、真空チャンバー11内に、第1気体粒子生成部20と、第2気体粒子生成部21と、第1,第2気体粒子生成部20,21の間にそれぞれ配置された2つの仕切り部材25と、被加工基板Dが保持されている成膜部30とを配置して構成されている。仕切り部材25は冷媒によって冷却され、高温側の第2気体粒子生成部21からの輻射熱による第1気体粒子生成部20の温度上昇を抑制している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池などに用いられる薄膜を成膜するための成膜装置に係り、特に複数の気体粒子生成部を備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リチウム二次電池や、半導体素子、光学素子などの電極等の要素として、複合材料からなる薄膜が用いられることも多い。そして、複合材料からなる薄膜を蒸着法やスパッタ法によって形成する際には、複数の気体粒子生成部が設けられることになる。すなわち、スパッタ,蒸発などを行う気体粒子生成部を複数個設置して、複数の気体粒子を蒸発等させて、被加工物に付着させることになる。
【0003】
図4(a),(b)は、特許文献1に記載されている従来の成膜装置の平面図および断面図である。同図に示すように、処理室101を形成する真空チャンバー102内には、ターゲット115と磁石116とを有する3つのスパッタ源112が同心状に配置されている。そして、センターマスク111のベアリング軸受け装置110の中心軸Oの周りに、仮想円Cに中心が位置するように被加工基板Dを回転させながら、3つのターゲット115から相異なる物質をスパッタリングして、気体粒子を生成し、この気体粒子を被加工基板D上に堆積することにより、複合材料からなる膜を成膜するようにしている。被加工基板Dは、搬送ラインLに沿って出し入れされる。
【0004】
【特許文献1】特開平2000−282230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、蒸着法を用いる場合の蒸発温度の相違など、気体粒子を生成するための温度が材料によって異なる場合がある。その場合に、上記従来の成膜装置を利用すると、高温側の気体粒子生成部の温度の影響によって低温側気体粒子生成部の温度が上昇するので、低温側気体粒子生成部における温度制御性が悪化するという不具合がある。
【0006】
本発明の目的は、生成温度が相異なる複数材料の気体粒子を生成する複数の気体粒子生成装置を備えながら、気体粒子生成装置における温度制御性の優れた成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の成膜装置は、生成温度が相異なる複数材料の気体粒子を生成する複数の気体粒子生成部を備えており、複数の気体粒子生成部同士の間に、冷却されている仕切り部材を介設したものである。
【0008】
これにより、生成温度が高温側の気体粒子生成部の輻射熱が仕切り部材で遮られるので、低温側の気体粒子生成部の温度上昇が抑制される。また、各気体粒子生成部からの輻射熱を受けても、冷却されている仕切り部材の温度の上昇が抑制されるので、仕切り部材からの輻射熱に起因する低温側の気体粒子生成部の温度上昇が抑制される。したがって、各気体粒子生成部の温度制御性が向上し、形成される膜の特性も向上することになる。
【0009】
本発明の成膜装置が、以下の限定事項を有していることにより、さらに付加的な効果を得ることができる。
【0010】
仕切り部材が、冷媒が流れる冷却部を有していることにより、さらに効果的に仕切り部材の温度上昇を抑制することができるので、各気体粒子生成部の温度制御性がさらに向上する。
【0011】
複数材料のうちの少なくとも1つが、水分と反応する成分を含んでいる場合には、冷媒が非水冷媒であることにより、信頼性が向上する。
【0012】
形成される膜が蒸着法で形成される固体電解質であることにより、蒸発温度の差が大きい複数の材料を複数の蒸気生成部(気体粒子生成部)で蒸発させる場合にも、低温側の蒸気生成部の温度制御性を良好に保持することができる。
【0013】
特に、固体電解質膜が、リチウム二次電池の一部として用いられるものである場合には、膜の組成比の制御性が向上するので、特性の優れたリチウム二次電池の製造に供することができる。
【0014】
複数の気体粒子生成部の周囲に、冷却されている防着部材をさらに備えることにより、防着機能を備えつつ、防着部材からの輻射熱に起因する気体粒子生成部の温度制御性の悪化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の成膜装置によると、生成温度が相異なる複数材料の気体粒子を生成する複数の気体粒子生成装置を備えながら、各気体粒子生成装置の温度制御性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態における成膜装置10の要部を示す側面図である。同図に示すように、本実施の形態の成膜装置10は、真空チャンバー11内に、2つの第1気体粒子生成部20と、1つの第2気体粒子生成部21と、第1,第2気体粒子生成部20,21の間にそれぞれ配置された2つの仕切り部材25と、各気体粒子生成部20,21および仕切り部材25の横方向を囲む筒状防着板27と、各気体粒子生成部20,21および仕切り部材25の上方に設けられ、開口28aを有する板状防着板28と、真空チャンバー11の天井面に取り付けられ、リチウム二次電池の電極用の被加工基板Dが保持されている成膜部30とを配置して構成されている。
【0017】
第1気体粒子生成部20は、カーボン製のボート20aおよびボート台20bを備えていて、リチウム二次電池の固体電解質膜を形成するためのPの気体粒子(蒸気)(生成温度350°C前後)を生成するものである。第2気体粒子生成部21は、カーボン製のボート21aおよびボート台21bを備えていて、リチウム二次電池の固体電解質膜を形成するためのLiSの気体粒子(蒸気)(生成温度1000°C前後)を生成するものである。本実施の形態における各ボート20aおよび21aは、いずれも抵抗加熱により発熱するものであって、本実施の形態では、抵抗加熱による蒸着法を採用している。ただし、電子ビーム加熱による蒸着法や、加熱を伴うスパッタ法を用いて、気体粒子を生成してもよい。仕切り部材25の高さは、ボート20a,21aの高さ以上であることが必要で、複合材料からなる膜の適正な組成比が得られなくなる高さ未満であることが必要である。
【0018】
成膜部30に保持される被加工基板Dは、銅箔の上にリチウム金属薄膜を形成したものであり、本実施の形態の成膜装置10は、リチウム金属薄膜の上に固体電解質膜であるLiS−P混合膜を成膜する装置である。
【0019】
図2(a),(b)は、仕切り部材25の側面図、およびII-II線における断面図である。図2(a),(b)に示すように、仕切り部材25は、SUS製の平板25aに、断面形状が矩形のSUS製の冷却パイプ25bを溶接して構成されており、冷却パイプ25bの内部を冷媒が流れるようになっている。冷媒としては、たとえばフッ素系の熱媒体である商品名ガルデン(ソルベイソレクシス株式会社製)のような非水冷媒が適している。PおよびLiS等の硫化物は、水分と反応して有毒ガスである硫化水素を発生するおそれがあるので、非水冷媒を用いることにより、万一冷媒が成膜装置内に漏洩しても、かかる事態を回避することができる。非水冷媒としては、アルゴン、フロンなどの不活性ガス、グリコール、商品名フロリナート(住友スリーエム株式会社製)などの液体がある。また、冷却パイプ25bと、圧縮機,凝縮器とを冷媒配管で接続して冷凍回路を構成し、冷凍回路内に冷媒を循環させることができる。その場合には、冷却パイプ25bは冷凍回路の蒸発器として機能することになる。
【0020】
上述のように、Pの気体粒子(蒸気)の生成温度は350°C前後(300°C〜500°C)である。また、LiSの気体粒子(蒸気)の生成温度は1000°C前後(900°C〜1300°C)である。そして、リチウム二次電池の特性上、固体電解質膜であるLiS−P混合膜の組成比LiS/Pは、モル比で「3」程度であることが求められる。
【0021】
このように、第1気体粒子生成部20と第2気体粒子生成部21とでは、気体粒子(蒸気)の生成温度(蒸発温度)が大幅に異なっている。そこで、第1気体粒子生成部20と第2気体粒子生成部21との間に仕切り部材25を設けることにより、高温側気体粒子生成部である第2気体粒子生成部21からの輻射熱に起因する,低温側気体粒子生成部である第2気体粒子生成部21の温度上昇をある程度抑制することができる。ところが、ある程度時間が経過すると、第2気体粒子生成部21からの輻射熱によって仕切り部材25の温度が上昇するので、仕切り部材25からの輻射熱に起因して、第1気体粒子生成部20の温度が上昇するおそれがある。
【0022】
ここで、本実施の形態では、仕切り部材25が、冷媒によって冷却される冷却部である冷却パイプ25bを有しているので、仕切り部材25の温度上昇が抑制され、仕切り部材25からの輻射熱に起因する第1気体粒子生成部20の温度上昇を抑制することができる。したがって、第1気体粒子生成部20の温度を、適正範囲である300°C〜500°Cに収めることができる。
【0023】
なお、本実施の形態においては、仕切り部材25に、冷却部として冷却パイプ25bを設けたが、仕切り部材25の一部(たとえば下端部)がヒートシンクにつながっていて、ヒートシンクとの熱伝導によって冷却される構成となっていてもよい。また、防着板27,28を、冷媒が流れる冷却部を有する構造とするか、あるいはヒートシンクからの熱伝導を利用して冷却する構造にしてもよい。
【0024】
図3(a),(b)は、仕切り部材25および第1,第2気体粒子生成部20,21の構造の変形例を示す上面図である。
【0025】
図3(a)に示す変形例では、仕切り部材25は、二重管によって構成されていて、図示されていないが、二重管の内部を冷媒が流れる構造となっている。そして、第1気体粒子生成部20は二重管からなる仕切り部材25の外方に配置され、第2気体粒子生成部21は、仕切り部材25の内方に配置されている。この場合、第1気体粒子生成部20と、第2気体粒子生成部21とが円筒の内外に隔離して設置されているので、各気体粒子生成部20,21の個別の温度制御が簡単になるという利点がある。
【0026】
なお、図3(a)の破線に示すように、第1気体粒子生成部20が、2カ所だけでなく、4カ所,3カ所など、3カ所以上の複数箇所に配置されていてもよい。また、3つ以上の種類の気体粒子(蒸気など)を生成する場合には、3つ以上の各気体粒子生成部同士の間にそれぞれ仕切り部材を配置することになる。その場合、3つ以上の気体粒子生成部のうちで、生成温度が近い又は等しい2つの気体粒子生成部が隣接している場合に、その間に、仕切り部材が設けられていないか、あるいは、仕切り部材が設けられているとしても仕切り部材が冷却されていない、という構成でもよい。ただし、全ての気体粒子生成部のうち、少なくとも2つの気体粒子生成部の間に、冷却されている仕切り部材が存在する必要がある。
【0027】
図3(b)に示す変形例では、図2(a),(b)に示す構造を有する仕切り部材25の両側に、第1気体粒子生成部20と第2気体粒子生成部21とが1つずつ配置されている。このように、気体粒子生成部の個数が1つずつでもよい。
【0028】
(実施例1)
図1に示すように、本発明の仕切り部材25を配置して、第2気体粒子生成部21の制御目標温度を1000°Cに設定して、LiS−P混合膜(固体電解質膜)を成膜した。この実施例では、防着板27,28は冷却していない。このとき、第1気体粒子生成部20の温度を350°Cに制御することができ、成膜レート0.02μm/sで、組成比LiS/Pが「3」のLiS−P混合膜を形成することができた。成膜されたLiS−P混合膜(硫化物系固体電解質膜)のリチウムイオン伝導度は、1×10−4S/cmであった。
【0029】
(実施例2)
図1に示すように、本発明の仕切り部材25を配置して、固体電解質膜の成膜レートを高くするために、第2気体粒子生成部21の制御目標温度を1200°Cに設定して、LiS−P混合膜(固体電解質膜)を成膜した。この実施例では、第2気体粒子生成部25の温度が実施例1よりも高いので、防着板27,28にも冷媒が流れる冷却パイプを取り付ける構造を採用した。このとき、第1気体粒子生成部20の温度を400°Cに制御することができ、成膜レート0.03μm/sで、組成比LiS/Pが「3」のLiS−P混合膜を形成することができた。成膜されたLiS−P混合膜(硫化物系固体電解質膜)のリチウムイオン伝導度は、1.2×10−4S/cmであった。
【0030】
(比較例)
図1に示す構成において、仕切り部材25を冷却せずに、第2気体粒子生成部21の制御目標温度を1000°Cに設定して、LiS−P混合膜(固体電解質膜)を成膜した。このとき、第1気体粒子生成部20の温度は、ボートが通電されていないにもかかわらず、600°Cに達した。形成されたLiS−P混合膜の組成比LiS/Pは「1」であった。そして、成膜されたLiS−P混合膜(硫化物系固体電解質膜)のリチウムイオン伝導度は、1×10−6S/cmであり、目標値1×10−4S/cmを達成することができなかった。
【0031】
(他の実施の形態)
上記開示された本発明の実施の形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【0032】
上記実施の形態においては、成膜のための硫化物等の気体粒子生成部として、抵抗加熱による真空蒸着設備を用いたが、電子ビーム溶解による蒸着法や、蒸着法以外のスパッタリング法などを用いた構造を採ることができる。
【0033】
上記実施の形態においては、本発明の成膜装置を、リチウム二次電池の固体電解質膜の成膜に適用したが、本発明の成膜装置は、O,Nなどのガスセンサ、燃料電池などの固体電解質膜の成膜にも適用することができる。
【0034】
上記実施の形態では、成膜部30に板状の被加工基板Dを設置するようにしたが、シート状の基材を供給ロール−巻き取りロール間で送りながら、連続的に成膜する構成を採ることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の成膜装置は、リチウム二次電池、ガスセンサ、燃料電池などの固体電解質膜の成膜に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態における成膜装置の要部を示す側面図である。
【図2】(a),(b)は、仕切り部材の側面図およびII-II線における断面図である。
【図3】(a),(b)は、気体粒子生成部および仕切り部材の変形例を示す上面図である。
【図4】(a),(b)は、特許文献1に記載されている従来の成膜装置の平面図および断面図である。
【符号の説明】
【0037】
10 成膜装置
11 真空チャンバー
20 第1気体粒子生成部
20a ボート
20b ボート台
21 第2気体粒子生成部
21a ボート
21b ボート台
25 仕切り部材
25a 平板
2bb 冷却パイプ
27 筒状防着板
28 板状防着板
28a 開口
30 成膜部
D 被加工基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生成温度が相異なる複数材料の気体粒子を生成するための複数の気体粒子生成部と、
前記複数の気体粒子生成部で生成された複数材料の気体粒子から基材状に膜を成膜する成膜部と、
前記複数の気体粒子生成部の間に設けられ、冷却されている仕切り部材と、
を備えている、成膜装置。
【請求項2】
請求項1記載の成膜装置において、
前記仕切り部材は、冷媒が流れる冷却部を有している、成膜装置。
【請求項3】
請求項2記載の成膜装置において、
前記複数材料のうちの少なくとも1つは、水分と反応する成分を含んでおり、
前記冷媒は、非水冷媒である、成膜装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の成膜装置において、
前記膜は、蒸着法で形成される固体電解質膜である、成膜装置。
【請求項5】
請求項4記載の成膜装置において、
前記固体電解質膜は、リチウム二次電池の一部として用いられるものである、成膜装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の成膜装置において、
前記複数の気体粒子生成部の周囲に設けられ、冷却されている防着部材をさらに備えている、成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−19459(P2008−19459A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190100(P2006−190100)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】