説明

成膜装置

【課題】被成膜物の表面近傍での磁場の拡散を抑制し被成膜物の表面近傍に所定の磁場を確保し、表面近傍に到達するプラズマ粒子量を増加させることによって成膜速度を向上させる成膜装置を提供する。
【解決手段】成膜チャンバの側面に一組以上のプラズマ進行管が接続されており、該プラズマ進行管の進行方向に対し被成膜物が垂直に配置されており、プラズマ源より発生したプラズマ粒子が被成膜物の表面に照射されることによって被成膜物の表面に薄膜が形成される。前記プラズマ進行管は、接続されている成膜チャンバより内部に配置されている被成膜物に向かって延出する内部プラズマ導出管に連接され、当該内部プラズマ導出管の外周に内部プラズマ制御用コイルが配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ源よりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ内に配置された被成膜物の表面に堆積させる薄膜生成装置であって、特にFCA(Filtered Cathodic Arc)法におけるハードディスクメディア用のカーボン保護膜に代表されるもの及び他の被成膜物への成膜速度を向上させる成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマ粒子を基材表面に堆積させて薄膜を形成する方法として、PCVD(Plasma Chemical Vapor Deposition)法によってDLC(Diamond-Like Carbon)膜を形成する方法が知られていた。このような方法によって金属イオンや非金属イオンを含むプラズマ粒子を利用して形成された膜は、耐磨耗性・耐食性に優れるため、上記の方法は基材表面の保護膜形成、特に導電性膜の形成に有用である。特に、カーボンプラズマを利用した炭素膜は、ダイヤモンド構造とグラファイト構造のアモルファスからなるDLC膜を形成するものとして有用であった。
また近年では、FCA法によって基材表面に超極薄の保護膜を形成する方法も開発されている(特許文献1〜3)。
【0003】
さらに金属イオンや非金属イオンを含むプラズマ粒子を発生する方法として、真空アークプラズマ法が知られている。真空アークプラズマ法は、プラズマ源において陰極と陽極の間にアーク放電を生起し、陰極表面上に存在する陰極点から陰極材料を蒸発させて、この陰極蒸発物質により形成されるプラズマ粒子を利用するものである。
【0004】
図12は、このような真空アークプラズマ法に用いられる従来の成膜装置の一例を示す概念図である。図12に示す如くプラズマ源Aより発生したプラズマ粒子を供給するために成膜チャンバ1の側面に1台のプラズマ進行管10a,10bが接続されている。かかるプラズマ進行管の上流側10aの外周にはプラズマ照射用コイル3が設けられている。なお、符号8は冷却水口であり、符号9は冷却水溝である。このような構成においては、一回の成膜工程において成膜チャンバ1内に設置された被成膜物2であるディスクの片面のみにプラズマ粒子を成膜することしかできなかった。
【0005】
図13は、プラズマ照射用コイル12に電流を流した際に形成される磁場に関し、磁力線11を用いて説明する概略図である。
図13に示す如く、コイル12に電流を流したときに形成される磁場は、磁力線11がコイル12の外周を回るように分布し、コイル12に近いほど磁束密度が高くなる。
【0006】
そのため、従来の成膜装置において成膜速度を向上させるためには、図12に示す如く被成膜物2に対しプラズマ経路であるプラズマ進行管の下流側10bの外周にプラズマ引出用コイル4を配設し、磁力線11に沿ってプラズマ粒子を引き出す様に磁場を形成することが考えられる。下流側のプラズマ進行管10bの外周にプラズマ引出用コイル4を配設することによって、磁力線11はコイルの配置されていない成膜チャンバ1内で図13に示す如くコイル12の周りを回らずに、プラズマ引出用コイルの形成する磁場に引き込まれるように供給されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3998097号公報
【特許文献2】特開2008−91184号公報
【特許文献3】特開2006−274294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プラズマ源よりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ内に配置された被成膜物の表面に堆積させる方法として、より成膜速度の向上が求められている。
本発明は、上記問題点に照らして、被成膜物の表面近傍での磁場の拡散を抑制することによって、被成膜物の表面近傍に到達するプラズマ粒子量を増加させることによって成膜速度を向上させる成膜装置を提供することを目的とする。
また、被成膜物として磁気記憶媒体が挙げられる。かかる磁気記憶媒体はディスク両面に磁気記録層があるため、両面に保護膜を成膜する必要がある。そこで、一組のプラズマ進行管を成膜チャンバ内に配置された被成膜物を介して対向するように接続する装置構成が検討される。
【0009】
しかし、プラズマ源からの磁力線が向かい合うように配置されると、プラズマ引出用コイルが対向するプラズマ源のプラズマ照射用のコイルとなるために、成膜速度はかえって低下するという問題点が挙げられる。
【0010】
すなわち、図14に示す如く成膜チャンバ1にプラズマ進行管の外周に設置されたプラズマ照射用コイル3と対抗側プラズマ照射用コイル6を向かい合わせに配置することにより、プラズマ源A,Bより発生したプラズマ粒子は成膜チャンバ1内に供給される。その結果、被成膜物2付近で磁場の干渉が起こり、被成膜物2を境界として磁力線11が衝突するように対称の磁場が形成されるという問題点が発生する。
【0011】
本発明者は、形成された磁場は被成膜物2を避けるように分布し、磁力線11に沿って供給されるプラズマ粒子も被成膜物2を避けることから、被成膜物2の表面に到達するプラズマ量が結果的に減少し、成膜速度が低下する原因となっていることを見出した。
そのため本発明は、上記問題点に照らして、被成膜物の表面近傍での磁場の拡散を抑制し被成膜物の表面近傍に所定の磁場を確保し、被成膜物の両面近傍に到達するプラズマ粒子量を増加させることによって成膜速度を向上させる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)プラズマ源よりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ内に配置された被成膜物の表面に堆積させる成膜装置であって、該成膜チャンバの側面に一組以上のプラズマ進行管が接続されており、該プラズマ進行管の進行方向に対し被成膜物が垂直に配置されており、プラズマ源より発生したプラズマ粒子が被成膜物の表面に照射されることによって被成膜物の表面に薄膜が形成されることを特徴とする成膜装置である。
【0013】
(2)前記一組のプラズマ進行管が、成膜チャンバ内に配置された被成膜物を介して対向するように接続されていることを特徴とする上記(1)記載の成膜装置である。
(3)前記一組のプラズマ進行管が、成膜チャンバの同一側面に隣り合わせで接続されていることを特徴とする上記(1)記載の成膜装置である。
(4)前記一組のプラズマ進行管が、成膜チャンバの対向側面に被成膜物を中心線として対角線上に接続されていることを特徴とする上記(1)記載の成膜装置である。
【0014】
(5)プラズマ源よりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ内に配置された被成膜物の表面に堆積させる成膜装置であって、該成膜チャンバの側面にプラズマ進行管が接続されており、該プラズマ進行管の進行方向に対し被成膜物が垂直に配置されており、前記プラズマ進行管が接続されている成膜チャンバ内に配置されている被成膜物に向かって成膜チャンバの周面より内部方向へ延出する内部プラズマ導出管に連接されており、当該内部プラズマ導出管の外周には内部プラズマ制御用コイルが配置され、プラズマ源より発生したプラズマ粒子が被成膜物の表面に照射されることによって被成膜物の表面に薄膜が形成されることを特徴とする成膜装置である。
【0015】
(6)前記プラズマ進行管が成膜チャンバの側面に一組以上接続されており、前記一組のプラズマ進行管が接続されている成膜チャンバ内に配置されている被成膜物に向かって成膜チャンバの周面より内部方向へ延出する内部プラズマ導出管に連接されており、当該内部プラズマ導出管の外周に内部プラズマ制御用コイルが配置されていることを特徴とする上記(5)に記載された成膜装置である。
(7)前記内部プラズマ導出管が、成膜チャンバの周面に設けられた凹部に配置され、内部プラズマ導出管の外周面と成膜チャンバに設けられた凹部の内周面との間に空間を設け、該空間であって内部プラズマ導出管の外周に内部プラズマ制御用コイルを配置することを特徴とする上記(5)又は(6)に記載された成膜装置である。
【0016】
(8)前記内部プラズマ導出管が被成膜物を介して対向するように一組接続されており、一の内部プラズマ導出管の外周に配置された内部プラズマ制御用コイルに電流を印加し被成膜物の表面にプラズマ粒子を照射すると共に、他の内部プラズマ導出管の外周に配置された内部プラズマ制御用コイルに電流を印加し被成膜物の表面にプラズマ粒子を照射するか又は一の内部プラズマ導出管から照射されたプラズマ粒子を引き出すように切替可能に制御されていることを特徴とする上記(5)乃至(7)のいずれか一に記載された成膜装置である。
【0017】
(9)前記一の内部プラズマ導出管の外周に配置された内部プラズマ制御用コイルと他の内部プラズマ導出管の外周に配置された内部プラズマ制御用コイルに電圧を印加し、両方のプラズマ制御用コイルに印加される波形が正弦波、方形波、又は三角波のいずれかであり、両方のプラズマ制御用コイルにおける位相を0°から180°の範囲で変化させることにより成膜速度の低下を抑制することを特徴とする上記(5)乃至(7)のいずれか一に記載された成膜装置である。
前記成膜装置における磁束密度は、例えば、前記成膜チャンバ内に配置された被成膜物の表面から30mm以内において2〜10mTの磁場を確保することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る成膜装置を用いることによって、FCA法におけるハードディスクメディア用のカーボン保護膜等の生産効率を向上させることができるとともに、他の分野への応用も可能である。
また本発明に係る成膜装置は、被成膜物付近での磁場の拡散を抑制し被成膜物表面に到達するプラズマ粒子量を増加させることによって成膜速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る成膜装置の一実施形態を示す概念平面図である。
【図2】本発明に係る成膜装置の他の実施形態を示す概念平面図である。
【図3】本発明に係る成膜装置の更に他の実施形態を示す概念平面図である。
【図4】本発明に係る成膜装置の一実施形態を示す概念正面図である。
【図5】被成膜物からの距離と磁束密度の関係を示すグラフである。
【0020】
【図6】内部プラズマ制御用コイルと対向側内部プラズマ制御用コイルに流す電流の経時変化をグラフ化したものである。
【図7】図6のグラフにおける時間Aでの概念正面図である。
【図8】図6のグラフにおける時間Bでの概念正面図である。
【図9】本発明に係る成膜装置の更に他の実施形態を示す概念正面図である。
【図10】本発明に係る成膜装置の更に他の実施形態を示す概念正面図である。
【図11】本発明に係る成膜装置の更に他の実施形態を示す概念正面図である。
【図12】従来の方法に用いられる成膜装置の一例を示す概念正面図である。
【図13】プラズマ照射用コイルに電流を流した際に形成される磁場について磁力線を用いて説明する概略図である。
【図14】プラズマ照射用コイルと対向側プラズマ照射用コイルを向かい合わせにすることによる問題点を説明するための概念正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る成膜装置についての実施形態を図面に則して説明する。以下の実施形態は、本発明に係る成膜装置の例示であって本発明を限定するものではない。
【0022】
実施形態1
図1は、本発明に係る成膜装置の一実施形態を示す概念平面図である。図1に示す如く、本実施形態1に係る成膜装置は、図示しない四箇所のプラズマ源A,B,C,Dよりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ1内に配置された二枚の被成膜物2a,2bの両面に堆積させる構造を有する。前記成膜チャンバ1の側面には二組のプラズマ進行管10a,10b及び10c,10dが、成膜チャンバ1内に配置された被成膜物2a,2bを介して夫々対向するように接続されている点に特徴を有する。
【0023】
また図1に示す如く、プラズマ進行管10a,10b,10c,10dの進行方向に対し被成膜物2a,2bは夫々プラズマの進行方向に対して垂直に配置されており、プラズマ源A,B,C,Dより発生したプラズマ粒子がプラズマ進行管10a,10b,10c,10dを通って成膜チャンバ1内に供給される。このような構成においては、一回の成膜工程において二体の被成膜物2a,2bの両面にプラズマ粒子を堆積させることができ、成膜後の被成膜物2a,2bを矢印方向へ順次送給することによって、FCA法におけるハードディスクメディア用のカーボン保護膜の生産効率を飛躍的に向上させることができる。なお、設計上、三組以上のプラズマ進行管を設けることも可能である。
【0024】
プラズマ源A〜Dとしては、周知のプラズマ発生装置を用いることができる。例えば、プラズマ発生部は、陰極(カソード)、陽極(アノード)及びトリガ電極等を有している。前記陰極はプラズマ構成物質の供給源であり、この形状や材料は導電性を有するものを広く用いることができ、例えば、金属単体、合金、無機単体等を単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0025】
プラズマ粒子は、陰極表面上から蒸発した陰極材料によって生成される。プラズマ粒子はプラズマ進行管10を通って真空中の成膜チャンバ1内に供給される。この際、プラズマ進行管10の外周にはプラズマ照射用コイル3a,3b,3c,3dが設けられている。かかるプラズマ照射用コイル3は、プラズマ進行管10を通るプラズマ粒子を被成膜物2a,b表面に誘導する作用を補助している。プラズマ進行管10には図示しないバイアス電源が接続され、アース棒又はアース板等によって接地されており、プラズマ進行管10を+電位に設定したり、−電位に設定することができる。プラズマ進行管10が+電位の場合には、プラズマ粒子中の+プラズマイオンを進行管の下流方向へ押し出すように作用する。一方、プラズマ進行管10が−電位の場合には、プラズマ粒子中の電子を押し出す作用がある。
従って、電位を組み合わせることによって磁力線やプラズマ粒子量を調整することが可能となる。例えば、プラズマ進行管10aを+電位に設定すると共にプラズマ進行管10dを−電位に設定することによって、プラズマ粒子をプラズマ源Aから下流側へ押し出すことができる。
【0026】
実施形態2
図2は、本発明に係る成膜装置の他の実施形態を示す概念平面図である。図1に示す成膜装置と同じ機能を有する部材については同じ符号を用いる。図2に示す如く、本実施形態2に係る成膜装置は、図示しない二箇所のプラズマ源A,Bよりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ1内に配置された被成膜物2a,2cの片面に堆積させる構造を有する。かかる成膜チャンバ1の同一側面にはプラズマ進行管10a,10bが隣り合わせで接続されている特徴を有する。また各プラズマ進行管10a,10bは、成膜チャンバ1内に配置された被成膜物2a,2bを介して対向する箇所にプラズマ引出用コイル4a,4bの配設された下流側のプラズマ管10c,10dが設けられている。
【0027】
さらにプラズマ進行管10a,10bの進行方向に対し被成膜物2a,2bが垂直に配置されており、プラズマ源A,Bより発生したプラズマ粒子がプラズマ照射用コイル3a,3b及びプラズマ引出用コイル4a,4bによって、プラズマ進行管10a,10bを通って真空中の成膜チャンバ1内の被成膜物の片面に供給される。ここでプラズマ引出用コイル4a,4bによって、磁力線に沿ってプラズマ粒子を引き出す為の磁場を形成することができ、より高い成膜速度を確保することができる。
【0028】
このような構成においては、一回の成膜工程において二体の被成膜物2a,2bの片面にプラズマ粒子を堆積させることができ、成膜後の被成膜物2a,2bを矢印方向へ順次送給することによって、FCA法におけるハードディスクメディア用のカーボン保護膜の生産効率を飛躍的に向上させることができる。
【0029】
実施形態3
図3は、本発明に係る成膜装置の更に他の実施形態を示す概念平面図である。図2に示す成膜装置と同じ機能を有する部材については同じ符号を用いる。図3に示す如く、本実施形態3に係る成膜装置は、図示しない二箇所のプラズマ源A,Dよりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ1内に配置された被成膜物2a,2bの片面に堆積させる構造を有する。かかる成膜チャンバ1の側面にはプラズマ進行管10b,10dが被成膜物を中心線として対角線上に接続されている。また各プラズマ進行管10b,10dは、成膜チャンバ1内に配置された被成膜物2a,2bを介して対向する箇所にプラズマ引出用コイル4a,4cの配設された下流側のプラズマ管10a,10cが設けられている。
【0030】
下流側のプラズマ管10a,10cにプラズマ引出用コイル4a,4cを配設することによって、磁力線はコイルの配置されていない真空中の成膜チャンバ1内で図10に示す如く、コイル12の周りを回らずに、プラズマ引出用コイル4a,4cの形成する磁場に引き込まれるように引き出される。
【0031】
さらにプラズマ進行管10b,10dに対し被成膜物2a,2bが垂直に配置されており、プラズマ源A,Dより発生したプラズマ粒子がプラズマ照射用コイル3b,3d及びプラズマ引出用コイル4a,4cによって、プラズマ進行管10b,10dを通って成膜チャンバ1内の被成膜物2a,2bの片面に供給される。ここでプラズマ引出用コイル4a,4cによって、磁力線に沿ってプラズマ粒子を引き出す為の磁場を形成することができ、より高い成膜速度を確保することができる。
【0032】
このような構成においては、一回の成膜工程において二体の被成膜物2a,2bの片面にプラズマ粒子を堆積させることができ、成膜後の被成膜物2a,2bを矢印方向へ順次送給することによって、FCA法におけるハードディスクメディア用のカーボン保護膜の生産効率を飛躍的に向上させることができる。
【0033】
実施形態4
図4は、本発明に係る成膜装置の一実施形態を示す概念正面図である。図1に示す成膜装置と同じ機能を有する部材については同じ符号を用いる。図4に示す如く、本実施形態1に係る成膜装置は、図示しない二箇所のプラズマ源A,Bよりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ1内に配置された被成膜物2の両面に堆積させる構造を有する。
【0034】
かかる成膜チャンバ1の側面には二組のプラズマ進行管10a,10bは、成膜チャンバ1内に配置された被成膜物2を介して対向するように接続され、さらに成膜チャンバ1より内部に配置されている被成膜物2に向かって延出する内部プラズマ導出管20a、20bに連接している。
成膜チャンバ1内に延出した内部プラズマ導出管20a,20bの外周には内部プラズマ制御用コイル5及び対向側内部プラズマ照射用コイル7が配置されている。
【0035】
また図4に示す如く、内部プラズマ導出管は、成膜チャンバ1の周面に穴をあけて設置した凹部21a,21bに挿入するように配置され、円筒状の内部プラズマ導出管20a,20bと凹部21a,21bとで丁度二重管の構造となる。そのため、内部プラズマ導出管の外周面と成膜チャンバに設けられた凹部の内周面との間に空間が設けられ、かかる空間であって内部プラズマ導出管20a,20bの外周に内部プラズマ制御用コイル5及び対向側内部プラズマ照射用コイル7が配設される。なお、内管と外管との間に符号8の冷却水口及び符号9の冷却水溝が設けられている。
【0036】
プラズマ進行管10a,10bの進行方向に対し被成膜物2が垂直に配置されており、プラズマ源A,Bより発生したプラズマ粒子がプラズマ照射用コイル3及び対向側プラズマ照射用コイル6によって、プラズマ進行管10a,10bを通って成膜チャンバ1内に供給される。
ここで、本実施形態4に係る成膜装置と、図9に示される従来の装置との被成膜物2付近における磁束密度の相違を計測したところ図5の結果が得られた。
【0037】
図5の横軸は被成膜物2からの距離(mm)を示し、縦軸は磁束密度(mT)を示している。図中、□で示されるグラフは、本実施形態4に係る成膜装置における磁束密度と距離との関係を示すものであり、●は図9に示される従来の装置における磁束密度と距離との関係を示すグラフである。その他のパラメータは以下のとおりである。
【0038】
プラズマ進行管径:135mm
コイル電流値 :8A
被成膜物からコイル5,7の端までの距離:32mm
図5に示す如く、内部プラズマ照射用コイルが配設された内部プラズマ導出管が設けられた成膜装置では、被対象物からの距離10mmにおける磁束密度は3.5mTであり、距離30mmでは9.6mTであり、距離100mmでは22.6mTである。
一方、図9に示される従来の成膜装置では、被対象物からの距離10mmにおける磁束密度は0.45mTであり、距離30mmでは1.5mTであり、距離100mmでは7.2mTである。
【0039】
本実施形態4に係る成膜装置の如く、内部プラズマ照射用コイル5,7を配置することによって、被成膜物付近の磁場を約5mTにすることができる。対向する内部プラズマ照射用コイル5,7の間隔は64mm以上が好ましいが、部材間を調整することによって、被成膜物2表面より30mm以内における磁場を2〜10mTに調整することができる。従来は当業者において被成膜物2付近の磁場を調整するという考え方自体が存在しなかったが、被成膜物2付近の磁場2〜10mTを装置製造上の管理値とすることによって、成膜速度が飛躍的に向上する成膜装置を製造することができることが理解される。
【0040】
本実施形態4に係る成膜装置を採用することにより、磁力線11に沿って運動するプラズマ粒子が被成膜物2を避けることを抑制できることから、内部プラズマ導出管をチャンバ内に連接し、被成膜物の表面近傍に磁場を確保することによって、被成膜物の表面近傍に到達するプラズマ粒子量を増加させ、成膜速度を向上させることができる。
実際に本実施形態4に係る成膜装置を製造し、Siによって形成された被成膜物の表面に成膜を行った。成膜速度を計測したところ被成膜物の片面当たり0.8nm/sであり、従来型のものに比較して成膜速度が落ちないことが分かった。さらに本実施形態4に係る成膜装置を使用することによって、被成膜物の両面を同時に成膜することができることから、成膜の生産効率を大幅に向上させることができる。
【0041】
実施形態5
実施形態5は、上記実施形態4に係る成膜装置と同様の構成を有し、さらに一の内部プラズマ導出管の外周に配置された内部プラズマ制御用コイルに電流を印加し被成膜物の表面にプラズマ粒子を照射すると共に、他の内部プラズマ導出管の外周に配置された内部プラズマ制御用コイルに電流を印加しプラズマ粒子を引き出すように切替可能に制御されている点に特徴を有する。
【0042】
図6は、内部プラズマ制御用コイル5と対向側内部プラズマ制御用コイル7に流す電流の経時変化をグラフ化したものである。内部プラズマ制御用コイル5と対向側内部プラズマ制御用コイル7に流す電流を、それぞれI+Asin(2πft)、I−Asin(2πft)とすることにより位相をずらして磁場の干渉位置をシフトすることができる。
【0043】
図7は、図6のグラフにおける時間Aでの概念正面図である。内部プラズマ制御用コイル5よりも対向側内部プラズマ制御用コイル7の方が低電流であって、このとき磁場は、被成膜物2よりプラズマ源B方向へシフトした位置で干渉している。
【0044】
図8は、図6のグラフにおける時間Bでの概念正面図である。対向側内部プラズマ制御用コイル7は内部プラズマ制御用コイル5よりも大きな電流が流れている。このとき磁場は、被成膜物2よりプラズマ源A方向へシフトした位置で干渉している。
このように内部プラズマ制御用コイル5と対向側内部プラズマ制御用コイル7に流す電流を交互に印加することによって、成膜速度の低下を抑制することができる。
【0045】
実施形態6
図9は、本発明に係る成膜装置の他の実施形態を示す概念正面図である。図4に示す成膜装置と同じ機能を有する部材については同じ符号を用いる。図9に示す如く、本実施形態6に係る成膜装置は、図示しない一箇所のプラズマ源よりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ1内に配置された被成膜物2の片面に堆積させる構造を有する。
【0046】
かかる成膜チャンバ1の側面に接続されたプラズマ進行管10は、成膜チャンバ1より内部に配置されている被成膜物2に向かって延出する内部プラズマ導出管20に連接している。
ここで、プラズマ進行管10の外周にはプラズマ照射用コイル3が配置されている。そして、成膜チャンバ1内に延出した内部プラズマ導出管20の外周には内部プラズマ照射用コイル7が配置されている。
【0047】
また図9に示す如く、内部プラズマ導出管20は、成膜チャンバ1の周面に穴をあけて設置した凹部21に挿入するように配置され、円筒状の内部プラズマ導出管20と凹部21とで二重管の構造を形成している。そのため、内部プラズマ導出管20の外周面と成膜チャンバ1に設けられた凹部21の内周面との間に空間が形成され、かかる空間であって内部プラズマ導出管20の外周に内部プラズマ照射用コイル7が配設される。なお、内管と外管との間に符号8の冷却水口及び符号9の冷却水溝が設けられている。
【0048】
プラズマ進行管10の進行方向に対し被成膜物2が垂直に配置されており、プラズマ源より発生したプラズマ粒子11がプラズマ照射用コイル3及び内部プラズマ照射用コイル7によって、プラズマ進行管10及び内部プラズマ導出管20を通って成膜チャンバ1内に供給される。
このような構造を採用することによって、被成膜物2付近での磁場の拡散を抑制することができるため、被成膜物2表面に到達するプラズマ粒子量を大幅に増加させることができる。
【0049】
実際に本実施形態6に係る成膜装置を製造し、成膜速度を計測したところ被成膜物の片面当たり1.25nm/sであること分かった。一方、図12に示す従来の成膜装置を比較のために製造し、成膜速度を計測したところ被成膜物の片面当たり0.8nm/sであった。この実験結果より、本実施形態6に係る成膜装置を使用することによって、被成膜物の成膜速度を大幅に上げることができた。
【0050】
実施形態7
図10は、本発明に係る成膜装置の他の実施形態を示す概念正面図である。図4に示す成膜装置と同じ機能を有する部材については同じ符号を用いる。図10に示す如く、本実施形態7に係る成膜装置は、図示しない一箇所のプラズマ源よりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ1内に配置された被成膜物2の片面に堆積させる構造を有する。
【0051】
かかる成膜チャンバ1の側面に接続されたプラズマ進行管10は、成膜チャンバ1より内部に配置されている被成膜物2に向かって延出する内部プラズマ導出管20aに連接している。
ここで、プラズマ進行管10の外周にはプラズマ照射用コイル3が配置されている。そして、成膜チャンバ1内に延出した内部プラズマ導出管20aの外周には内部プラズマ照射用コイル7が配置されている。
【0052】
また図10に示す如く、内部プラズマ導出管20aは、成膜チャンバ1の周面に穴をあけて設置した凹部21aに挿入するように配置され、円筒状の内部プラズマ導出管20aと凹部21aとで二重管の構造を形成している。そのため、内部プラズマ導出管20aの外周面と成膜チャンバ1に設けられた凹部21aの内周面との間に空間が形成され、かかる空間であって内部プラズマ導出管20aの外周に内部プラズマ照射用コイル7が配設される。なお、内管と外管との間に符号8の冷却水口及び符号9の冷却水溝が設けられている。
【0053】
さらにプラズマ進行管10及び内部プラズマ導出管20aと被成膜物2を介して対向する側には、内部プラズマ導出管20bが設置されている。内部プラズマ導出管20bは、成膜チャンバ1の周面に穴をあけて設置した凹部21bに挿入するように配置され、円筒状の内部プラズマ導出管20bと凹部21bとで二重管の構造を形成している。内部プラズマ導出管20bの外周面と成膜チャンバ1に設けられた凹部21bの内周面との間に空間が形成され、かかる空間であって内部プラズマ導出管20bの外周に対向側プラズマ引出用コイル6が配設される。なお、内部プラズマ導出管20bの外端部はチャンバ壁15に接続されている。
【0054】
そして、プラズマ進行管10の進行方向に対し被成膜物2が垂直に配置されており、プラズマ源より発生したプラズマ粒子11がプラズマ照射用コイル3及び内部プラズマ照射用コイル7によって、プラズマ進行管10及び内部プラズマ導出管20aを通って成膜チャンバ1内に供給される。この際、対向側プラズマ引出用コイル6の作用によって、内部プラズマ導出管20b側へプラズマ粒子を引き出す方向に制御される。
このような構造を採用することによって、被成膜物2付近での磁場の拡散を抑制することができるため、被成膜物2表面に到達するプラズマ粒子量を大幅に増加させることができる。
実際に本実施形態7に係る成膜装置を製造し、成膜速度を計測したところ被成膜物の片面当たり1.50nm/sであることが分かった。前述の如く、図12に示す従来の成膜装置における成膜速度0.8nm/sなので、本実施形態7に係る成膜装置を使用することによって、被成膜物の成膜速度を大幅に上げることができることが分かった。
【0055】
実施形態8
図11は、本発明に係る成膜装置の他の実施形態を示す概念正面図である。図4に示す成膜装置と同じ機能を有する部材については同じ符号を用いる。図11に示す如く、本実施形態8に係る成膜装置は、図示しない一箇所のプラズマ源よりアーク放電により発生したプラズマ粒子11を成膜チャンバ1内に配置された被成膜物2の片面に堆積させる構造を有する。
【0056】
かかる成膜チャンバ1の側面に接続されたプラズマ進行管10aは、成膜チャンバ1より内部に配置されている被成膜物2に向かって延出する内部プラズマ導出管20に連接している。
ここで、プラズマ進行管10aの外周にはプラズマ照射用コイル3が配置されている。そして、成膜チャンバ1内に延出した内部プラズマ導出管20の外周には内部プラズマ照射用コイル7が配置されている。
【0057】
また図11に示す如く、内部プラズマ導出管20は、成膜チャンバ1の周面に穴をあけて設置した凹部21に挿入するように配置され、円筒状の内部プラズマ導出管20と凹部21とで二重管の構造を形成している。そのため、内部プラズマ導出管20の外周面と成膜チャンバ1に設けられた凹部21の内周面との間に空間が形成され、かかる空間であって内部プラズマ導出管20の外周に内部プラズマ照射用コイル7が配設される。なお、内管と外管との間に符号8の冷却水口及び符号9の冷却水溝が設けられている。
【0058】
プラズマ進行管10aの進行方向に対し被成膜物2が垂直に配置されており、プラズマ源より発生したプラズマ粒子11が内部プラズマ照射用コイル7及びプラズマ進行管10bの外周に配置されているプラズマ引出用コイル4によって、プラズマ進行管10a及び内部プラズマ導出管20を通って成膜チャンバ1内に供給される。
このような構造を採用することによって、被成膜物2付近での磁場の拡散を抑制することができるため、被成膜物2表面に到達するプラズマ粒子量を大幅に増加させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、プラズマ源よりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ内に配置された被成膜物の表面に堆積させる産業分野に有用であって、特にFCA法におけるハードディスクメディア用のカーボン保護膜における産業分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 成膜チャンバ
2a,2b 被成膜物
3a,3b,3c,3d プラズマ照射用コイル
4a,4b プラズマ引出用コイル
5 内部プラズマ制御用コイル
7 対向側内部プラズマ照射用コイル
10a,10b,10c,10d プラズマ進行管
11 磁力線 20a,20b 内部プラズマ導出管
21a、21b 凹部
A,B,C,D プラズマ源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ源よりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ内に配置された被成膜物の表面に堆積させる成膜装置であって、該成膜チャンバの側面に一組以上のプラズマ進行管が接続されており、該プラズマ進行管の進行方向に対し被成膜物が垂直に配置されており、プラズマ源より発生したプラズマ粒子が被成膜物の表面に照射されることによって被成膜物の表面に薄膜が形成されることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記一組のプラズマ進行管が、成膜チャンバ内に配置された被成膜物を介して対向するように接続されていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記一組のプラズマ進行管が、成膜チャンバの同一側面に隣り合わせで接続されていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項4】
前記一組のプラズマ進行管が、成膜チャンバの対向側面に被成膜物を中心点として対角線上に接続されていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項5】
プラズマ源よりアーク放電により発生したプラズマ粒子を成膜チャンバ内に配置された被成膜物の表面に堆積させる成膜装置であって、該成膜チャンバの側面にプラズマ進行管が接続されており、該プラズマ進行管の進行方向に対し被成膜物が垂直に配置されており、前記プラズマ進行管が接続されている成膜チャンバ内に配置されている被成膜物に向かって成膜チャンバの周面より内部方向へ延出する内部プラズマ導出管に連接されており、当該内部プラズマ導出管の外周には内部プラズマ制御用コイルが配置され、プラズマ源より発生したプラズマ粒子が被成膜物の表面に照射されることによって被成膜物の表面に薄膜が形成されることを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
前記プラズマ進行管が成膜チャンバの側面に一組以上接続されており、前記一組のプラズマ進行管が接続されている成膜チャンバ内に配置されている被成膜物に向かって成膜チャンバの周面より内部方向へ延出する内部プラズマ導出管に連接されており、当該内部プラズマ導出管の外周に内部プラズマ制御用コイルが配置されていることを特徴とする請求項5に記載された成膜装置。
【請求項7】
前記内部プラズマ導出管が、成膜チャンバの周面に設けられた凹部に配置され、内部プラズマ導出管の外周面と成膜チャンバに設けられた凹部の内周面との間に空間を設け、該空間であって内部プラズマ導出管の外周に内部プラズマ制御用コイルを配置することを特徴とする請求項5又は6に記載された成膜装置。
【請求項8】
前記内部プラズマ導出管が被成膜物を介して対向するように一組接続されており、一の内部プラズマ導出管の外周に配置された内部プラズマ制御用コイルに電流を印加し被成膜物の表面にプラズマ粒子を照射すると共に、他の内部プラズマ導出管の外周に配置された内部プラズマ制御用コイルに電流を印加し被成膜物の表面にプラズマ粒子を照射するか又は一の内部プラズマ導出管から照射されたプラズマ粒子を引き出すように切替可能に制御されていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一に記載された成膜装置。
【請求項9】
前記一の内部プラズマ導出管の外周に配置された内部プラズマ制御用コイルと他の内部プラズマ導出管の外周に配置された内部プラズマ制御用コイルに電圧を印加し、両方のプラズマ制御用コイルに印加される波形が正弦波、方形波、又は三角波のいずれかであり、両方のプラズマ制御用コイルにおける位相を0°から180°の範囲で変化させることにより成膜速度の低下を抑制することを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一に記載された成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−117072(P2011−117072A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218201(P2010−218201)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000229830)株式会社フェローテック (25)
【Fターム(参考)】