説明

成膜装置

【課題】成膜室内に保持された基板を三次元方向に移動させる機能を有すると共に、その機能に伴って設けられたベローズの内部に侵入する成膜関与物質の量を低減する成膜装置を提供する。
【解決手段】基板2の表面に対して真空状態下で成膜処理する成膜室10と、成膜室10に形成された開口部10aを貫通して基板2を保持する基板保持手段20と、基板保持手段20を介して基板2を三次元方向に移動させる基板駆動手段30と、基板保持手段20の少なくとも一部を収容し、開口部10aに一方の端部60aを連通させるように設けられたベローズ60と、基板保持手段20が摺動可能となるように開口部10aを塞ぐ遮蔽手段80と、遮蔽手段80を成膜室10の上部内壁面10dに押し付ける付勢手段90とを有する成膜装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空条件下で基板に成膜処理する成膜室と、該成膜室に連通するベローズとを備えた成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、真空を用いる成膜装置には、成膜対象である基板上に広い面積の膜を形成するために、前記基板又は成膜用ノズルなどをスキャンして成膜するものがある。すなわち、このような成膜装置においては、前記基板又は成膜用ノズルなどを三次元方向に運動させる機構を有している。
このような機構を有する成膜装置においては、成膜室内に駆動機構全体を入れてしまうのが簡便であるが、摩擦及び摩耗による影響を考えた場合、駆動機構全体を成膜室に入れてしまうのは問題が多い。
【0003】
そこで、駆動機構を成膜装置の外側に設け、かつ前記基板を三次元方向に駆動させる成膜装置が特許文献1に開示されている。
特許文献1に開示された成膜装置は、成膜室内の真空状態を維持しながら前記基板を三次元方向に駆動させるために、前記基板を保持する基板保持手段の運動に追随できるベローズを前記駆動機構と前記成膜室との間に設けている。
【0004】
しかし、特許文献1の成膜装置においては、成膜に関与する物質(以下、成膜関与物質と呼ぶ。)が成膜室内に飛び交うことによって、その一部は成膜室の床や壁に加え、ベローズの内部にも堆積することがある。
ベローズの内側の掃除は、一般に成膜室の床や壁などと比べ非常に困難である。特に、溶接ベローズなどは溶接部分が鋭角になっており、鋭角の先端部分に侵入した粉末は除去が不可能に近く、溶接部分に無理な力を加えると溶接部が破壊され、空気漏れの原因となる。
これは、成膜関与物質が有毒なガスを発生させるものであったり、危険あるいは有毒なものであったりする場合においては、成膜室内に成膜関与物質が残留することは深刻な問題を抱え、その量を極力減少させることが望ましい。
【0005】
また、成膜関与物質が有害性を持つものであるか否かにかかわらず、成膜関与物質を変更した際には、成膜室内等に残留した変更前の成膜関与物質が、変更後の成膜関与物質に対してコンタミネーションとして働くので、この場合も成膜室内やベローズ内部への残留量を極力減少させることが望まれる。
このような問題に対して、ベローズ内部への成膜関与物質の流入、及びベローズ内部から流入するチリ等による成膜室内の汚染を防ぐために、ベローズと真空室との境界部に吸気口を設けてクリーンガスを流入させる方法が特許文献2に記載されている。
【0006】
特許文献2に開示された発明では、前記基板を三次元方向に駆動させる構成を有しないので、前記真空室と前記ベローズとの連通部分を小さく開口させるだけで済み、前記真空室内の成膜関与物質の吸引等には影響が小さいことが予想される。
しかし、前記基板を三次元方向に駆動させるために、前記真空室と前記ベローズとの連通部分を大きく開口させる構成を特許文献2に採用すると、前記真空室内の成膜関与物質を十分に吸引できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3165612号
【特許文献2】特開平11−302829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、前記駆動機構と前記成膜室との間に前記ベローズを設けた成膜装置においては、前記ベローズの中の清掃が困難であるため、前記成膜関与物質が有毒物質であったり、材質を変更する際の前記ベローズ内の汚染の問題は解消されていないのが実情である。
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、成膜室内に保持された基板を三次元方向に移動させる機能を有すると共に、その機能に伴って設けられたベローズの内部に侵入する成膜関与物質の量を低減する成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の請求項1に係る成膜装置は、内部に収容された基板の表面に対して真空状態下で成膜処理する成膜室と、
該成膜室内で前記基板を保持する基板保持手段と、
前記成膜室の外部に設置され、該成膜室に形成された開口部を貫通して前記基板保持手段に接続された接続棒を有し、該接続棒を三次元方向に移動させる基板駆動手段と、
前記接続棒を収容し、前記開口部に一方の端部が連通されるように設けられたベローズとを有する成膜装置であって、
前記接続棒を摺動可能とする貫通穴を有し、前記開口部を塞ぎながら、前記接続棒の前記開口部の開口面に平行な面の移動に追随して前記成膜室の上部内壁面に沿って摺動する遮蔽手段と、
該遮蔽手段を前記上部内壁面に付勢する付勢手段とが設けられたことを特徴としている。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る成膜装置は、請求項1に記載の成膜装置において、前記接続棒の外周面と、前記貫通穴の内周面との間に密封手段が設けられたことを特徴としている。
また、本発明の請求項3に係る成膜装置は、請求項1又は2に記載の成膜装置において、前記成膜室内を大気圧状態に戻すためのリークバルブが前記基板駆動手段に設置されていることを特徴としている。
また、本発明の請求項4に係る成膜装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の成膜装置において、前記開口部の内周面と前記上部内壁面とが面取りされていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に係る成膜装置によれば、接続棒の動きを妨げず、成膜室の開口部にベローズへの成膜関与物質の流出を防ぐ遮蔽手段を設けたので、掃除が困難である前記ベローズの内部に侵入する成膜関与物質の量を低減する成膜装置を提供することができる。
また、前記上部内壁面に付勢する付勢手段を設けたので、遮蔽手段を成膜室の開口部を常に塞ぐように上部内壁面に押し付けることができ、常に確実な開口部の遮蔽を実現することができる。
また、本発明の請求項2に係る成膜装置によれば、遮蔽手段と、該遮蔽手段に形成された貫通穴に対して摺動可能とされた接続棒との密封性が密封手段によって担保されるため、より確実な遮蔽効果を奏する。
【0012】
また、本発明の請求項3に係る成膜装置によれば、前記基板駆動手段にリークバルブが設置されていることにより、成膜室をリークする際に、遮蔽手段と成膜室の上部内壁面との間に侵入した成膜関与物質を成膜室に押し戻すことができる。なお、遮蔽手段と成膜室上部内壁面との間に侵入した成膜関与物質を成膜室に押し戻す効果は、成膜を始めるために成膜室を真空引きするときにも奏する。
また、本発明の請求項4に係る成膜装置によれば、前記開口部の内周面と前記上部内壁面とが面取りされていることにより、前記遮蔽手段の移動によって該遮蔽手段自身が前記開口部の縁部で傷つかないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る成膜装置の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明に係る成膜装置の一実施形態における成膜室内の遮蔽手段の構成を示す部分断面図である。
【図3】本発明に係る成膜装置の他の実施形態における成膜室内の遮蔽手段の構成を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る成膜装置の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る成膜装置の一実施形態の概略構成を示す断面図である。また、図2は、本発明に係る成膜装置の一実施形態における成膜室内の遮蔽手段の構成を示す部分断面図である。また、図3は、本発明に係る成膜装置の他の実施形態における成膜室内の遮蔽手段の構成を示す部分断面図である。
【0015】
<構成>
図1に示すように、成膜装置1は、成膜室10と、基板保持手段20と、基板駆動手段30と、ノズル40と、成膜用真空ポンプ50と、ベローズ60と、リークバルブ70と、遮蔽手段80と、付勢手段90とを有する。
[成膜室]
成膜室10は、例えば、公知のスパッタ装置で通常用いられるようなステンレス製で、略直方体形状あるいは円柱形状をなす中空体である。成膜室10には、開口部10a、及び開口部10bが形成される。また、図示はしないが、成膜室10には、開口部10a及び開口部10bの他に、基板の出し入れや成膜室の清掃のための扉が設けられる。この扉は図1中、成膜室10の手前側のほぼ全面を占める大きさで設けられるのが通例である。
【0016】
開口部10aは、基板保持手段20によって成膜室10の内部に収容された基板2を三次元方向に移動させるために、成膜室10の1つの面に形成された開口部である。開口部10aの形状としては、円形が好ましい。なお、以下の説明において、開口部10aの開口方向をZ方向、該Z方向に直交する面を構成し、互いに直交する方向をX方向及びY方向とする。すなわち、X方向及びY方向によって構成される面は、開口部10aの一辺又は径方向を含む。
また、開口部10bは、成膜用真空ポンプ50の配管51が接続される排気口として機能する開口部である。配管51には、開口部10bの開閉を制御するバルブ(図示せず)が設けられている。
【0017】
[基板保持手段]
基板保持手段20は、成膜対象となる基板2を保持する手段である。そして、基板保持手段20は、基板2を保持した状態で成膜室10内に収容される。基板保持手段20は、保持した基板2を、後述する接続棒31によって成膜室10の内部で三次元方向に移動させることが可能となる。
【0018】
[基板駆動手段]
基板駆動手段30は、基板保持手段20に保持された基板2を成膜室10の内部で三次元方向に移動させるための手段である。基板駆動手段30は、接続棒31と、XY方向基板駆動手段32と、Z方向基板駆動手段33と、架台34と、ベローズ保持手段35とを有する。
接続棒31は、長尺形状をなし、その一端に基板保持手段20が接続される。接続棒31は、開口部10aを貫いて配置される。すなわち、接続棒31は、その長手方向がZ方向(図1参照)に沿うように設置される。
接続棒31の他端には、XY方向基板駆動手段32及びZ方向基板駆動手段33が接続される。Z方向基板駆動手段33は、接続棒31をZ方向に移動させる手段である。XY方向基板駆動手段32は、接続棒31を、X方向及びY方向(図1参照,X方向及びY方向は、互いに直交し、共にZ方向に直交する方向)に移動させる手段である。
【0019】
また、架台34は、XY方向基板駆動手段32及びZ方向基板駆動手段33を成膜室10に固定する手段である。具体的には、図1に示すように、成膜室10の開口部10aが形成された面に架台34が固定される。なお、架台34は、固定された架台としてではなく、Z方向基板駆動手段33の一部として用いられることもある。
ここで、接続棒31は、XY方向基板駆動手段32及びZ方向基板駆動手段33によって三次元方向に移動可能とされるため、開口部10aの大きさは、少なくともXY方向基板駆動手段32によって接続棒31が移動する領域以上の大きさに設定される。例えば、開口部10aのX方向及びY方向の大きさは、接続棒31のX方向及びY方向の移動可能距離の1.5倍に接続棒31の直径(最大寸法)を足したよりも大に設定される。
【0020】
また、ベローズ保持手段35は、後述するベローズ60を基板駆動手段30に固定する部材である。ベローズ保持手段35には、ベローズ60が固定された際にベローズ60の内部と、外部とが連通するように下面及び側面に貫通する貫通穴35aが形成されている。この貫通穴35aの外部に開口する側には配管71を介してリークバルブ70が取り付けられている。
[リークバルブ]
リークバルブ70は、成膜室10内を大気圧状態に戻すために導入される窒素ガスや大気の導入量を調節するために、貫通穴35aに連結された配管71に設けられるバルブである。具体的には、貫通穴35aに一方の端部が連結された配管71に設けられる。なお、配管71の他方の端部は、成膜室10に大気を導入する場合には大気に開放されており、窒素ガスを導入する場合には窒素ガスを供給する窒素ガス供給装置(図示せず)が接続されている。
【0021】
[ノズル]
ノズル40は、基板保持手段20に保持された基板2の表面(成膜面)2aに成膜関与物質を吹きつけるように設置される。すなわち、ノズル40は、その吹き出し口が基板2の表面2aに対向するように成膜室10の内壁面(例えば、開口部10aが形成された内壁面10d(図1参照)に対向する面)に設置されている。ノズル40には、成膜関与物質の駆動を制御するノズル駆動手段(図示せず)が設けられている。
【0022】
[成膜用真空ポンプ]
成膜用真空ポンプ50は、成膜室10内の真空引きを行うために設けられるポンプである。具体的には、成膜室10に設けられた開口部10bと成膜用真空ポンプ50とが配管51によって連結されている。この配管51には、図示しないバルブが設けられ、このバルブの開閉により、成膜室10内の真空引きが制御される。
[ベローズ]
ベローズ60は、接続棒31を収容し、開口部10aに一方の端部60aが連結されて、ベローズ60の内部と開口部10aとを連通させるように設けられる。なお、ベローズ60の他方の端部60bは、接続棒31の三次元方向の移動にベローズ60が追随できるようにベローズ保持手段35に固定される。
【0023】
[遮蔽手段]
遮蔽手段80は、成膜室10の開口部10aを塞ぐ手段である。遮蔽手段80は、例えば、平板形状をなし、接続棒31の周面31aが摺接する貫通穴81がほぼ中央部分に形成されている。遮蔽手段80の大きさは、接続棒31の基板駆動手段30によるXY方向の移動に伴う遮蔽手段80のXY方向の移動によっても開口部10aを常に塞ぐ大きさに設定される。さらに、遮蔽手段31の大きさは、遮蔽手段31自身の移動によって成膜室10の側壁と干渉しない大きさに設定される。例えば、接続棒31のX方向及びY方向の移動可能距離がそれぞれ100mm(±50mm)で、円柱形状の接続棒31が直径20mmであるとすれば、開口部10aの形状は、直径170mm以上の円形が好ましい。
遮蔽手段80は、貫通穴81が形成され、Z方向基板駆動手段33によって接続棒31がZ方向に摺動したり、XY方向基板駆動手段32によって接続棒31がX方向及び/又はY方向に移動してもその移動方向に追随して開口部10aを常に塞ぐように付勢手段90によって上部内壁面10dに押し付けられている(図2及び図3参照)。
【0024】
[付勢手段]
付勢手段90は、成膜装置10の開口部10aを塞ぐように遮蔽手段80に付勢する手段である。
図2に示すように、付勢手段90は、基板保持手段20と遮蔽手段80との間に設置されてもよい。付勢手段90は、例えば、コイルスプリングであり、遮蔽手段80と基板保持手段20との間の接続棒31の周面31aを巻回するように設けられる。付勢手段90は、基板保持手段20及び遮蔽手段80のそれぞれの対向面に付勢するため、接続棒31がZ方向に摺動しても、その弾性力で遮蔽手段80を上部内壁面10dに押し付けて、開口部10aを遮蔽する。
【0025】
また、他の実施形態として、図3に示すように、付勢手段90は、ベローズ60の内部に位置する接続棒31の周面31aに設けられたフランジ部31bと遮蔽手段80との間に設置されてもよい。付勢手段90は、例えば、コイルスプリングであり、遮蔽手段80とフランジ部31bとの間の接続棒31の周面31aを巻回するように設けられる。付勢手段90は、フランジ部31b及び遮蔽手段80のそれぞれの対向面に付勢するため、接続棒31がZ方向に摺動しても、その弾性力で遮蔽手段80を上部内壁面10dに押し付けて、開口部10aを遮蔽する。
【0026】
図2及び図3に示す成膜装置1においては、成膜室10に設置される基板保持手段20と、基板駆動手段30と、ベローズ60と、リークバルブ70と、遮蔽手段80と、付勢手段90とが「成膜関与物質(粉末)侵入防止装置」として機能する。そして、「成膜関与物質(粉末)侵入防止装置」は、既存の成膜室に加工を施すことなく設置することが可能であるので、製作に要するコストを低減することができる。
ここで、図2及び図3に示すように、開口部10aの内周面10c及び成膜室10における開口部10aが形成された面の上部内壁面10dとによって形成されるエッジ部分で遮蔽手段80を傷つけないように、このエッジ部分にはRが形成されることが好ましい。
【0027】
[密封手段]
また、本発明の成膜装置においては、接続棒31と遮蔽手段80の貫通穴81との間に密封手段100が設けられてもよい。
密封手段100は、遮蔽手段80の貫通穴81の内周面81aと、接続棒31の周面31aとの間に設置される手段であり、例えばOリングである。密封手段100は、遮蔽手段80のZ方向の摺動を妨げない程度に貫通穴81の内周面81aと、接続棒31の周面31aとの間に設置されることが好ましい。このように密封手段100が設けられることにより、遮蔽手段80による開口部10aの遮蔽性(密封性)が高まり、ベローズ60の内部への成膜関与物質の汚染をより軽減させることができる。
【0028】
<作用>
次に、以上のように構成された成膜装置1における、成膜準備、成膜中、及び成膜後の成膜関与物質の作用について以下に説明する。
[成膜準備]
成膜準備として、成膜用真空ポンプ50によって、成膜室10内を真空排気するときは、ベローズ60の内部の圧力が成膜室10の内部の圧力より高くなり、ベローズ60の内部の空気、あるいはガスは、遮蔽手段80を押し下げて成膜室10内に流入することとなる。そのため、遮蔽手段80と成膜室10の上部内壁面10dとの間やベローズ60内に侵入した成膜関与物質は、成膜室10内に押し出される。
【0029】
[成膜中]
成膜中には、成膜室10には成膜のためのガスが流される。したがってガスが流れないベローズ60内の方が、圧力が低くなり、この圧力差に起因してベローズ60内に成膜関与物質が流入しやすくなるが、本発明に係る成膜装置においては、流入経路が遮蔽手段80で遮られる。成膜室10の内部とベローズ60の内部との圧力差により、遮蔽手段80は成膜室10の上部内壁面10dに押しつけられ、成膜関与物質の流入のための隙間がふさがれ、成膜関与物質のベローズ60の内部への流入を有効に阻止する。
【0030】
ここで、成膜関与物質が、成膜室10から接続棒31の周囲に設置されるベローズ60に侵入しようとするのは、成膜室10の内部圧力の方がベローズ60の内部圧力より高いときである。このとき、遮蔽手段80は圧力差によって成膜室10の上部内壁面10dに押しつけられ、遮蔽効果は高まる。したがって、付勢手段90による押しつけ力は、最も小さいときで、遮蔽手段80の重量を支える力のみでよいが、安全のため、さらに、数十gf程度の力を前記押しつけ力として加えることが好ましい。押しつけ力が強すぎると、XY方向移動時には遮蔽手段80と成膜室10の上部内壁面10dとの間で発生する摩擦力が大きくなりすぎ、速度ムラを起こしたり、動かなくなったりするので、押しつけ力は大きすぎてはいけない。また、XY方向移動時の押しつけ力による遮蔽手段80と成膜室10の上部内壁面10d間の摩擦力を駆動力の計算時に考慮することが必要である。
【0031】
[成膜後]
成膜後に成膜室10を開けるためには、成膜室10をリークして成膜室10の圧力を大気圧にすることが必要である。本実施形態では、図1に示すように、開口部(リーク孔)71は、ベローズ60を介して遮蔽手段80より上方に設けられている。成膜室10をリークするときには、リークガスは遮蔽手段80を押し下げて成膜室10に流入することとなる。これにより、成膜中に遮蔽手段80と成膜室10の開口部10aとの間や、ベローズ60に侵入した成膜関与物質を成膜室10側に押し出す効果がある。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の成膜装置では、基板保持手段20に追随して移動し、ベローズ60への成膜関与物質の流出を防ぐ遮蔽手段80を、成膜室10の開口部10a近傍に設けたので、掃除が困難であるベローズ60の内部に侵入する成膜関与物質の量を低減する成膜装置1を提供することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明に係る成膜装置の実施例について説明する。
本実施例では、上述の遮蔽手段を備えた成膜装置において、約2週間、アルミナの成膜を基板の表面に対して繰り返し、合計約200gのアルミナ粉をノズルから成膜室に吹き込んだ。吹き込まれたアルミナ粉は、一部が基板上のアルミナ膜になり、一部は真空排気システムに吸い込まれ、一部は成膜室の内面に付着した。約2週間、掃除を行わなかった成膜室の内壁には、白いアルミナの粉末がびっしり付着し、その厚みは厚いところで2mm程度になった。しかし、成膜関与物質のベローズの内部での堆積及び付着は肉眼で見る限り全く見られなかった。
【0034】
このように、遮蔽手段を備えた本発明の成膜装置は、成膜関与物質のベローズの内部での堆積及び付着は肉眼で見る限り全く見られず、ベローズの内部への成膜関与物質の侵入を効果的に防いでいることがわかる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、以上の実施形態は、それぞれ単独に実施することも、あるいは組み合わせて実施することも可能である。また、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。
【符号の説明】
【0035】
1 成膜装置
2 基板
2a 基板の表面(成膜面)
10 成膜室
10a 開口部
10b 開口部
10c 内周面
10d 上部内壁面
20 基板保持手段
30 基板駆動手段
31 接続棒
31a 接続棒の周面
31b フランジ部
32 XY方向基板駆動手段
33 Z方向基板駆動手段
34 架台
35 ベローズ保持手段
35a 貫通穴
40 ノズル
50 真空排気システム
51 配管
60 ベローズ
60a 一方の端部
60b 他方の端部
70 リークバルブ
71 配管
80 遮蔽手段
81 貫通穴
81a 貫通穴の内周面
90 付勢手段
100 密封手段(Oリング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に収容された基板の表面に対して真空状態下で成膜処理する成膜室と、
該成膜室内で前記基板を保持する基板保持手段と、
前記成膜室の外部に設置され、該成膜室に形成された開口部を貫通して前記基板保持手段に接続された接続棒を有し、該接続棒を三次元方向に移動させる基板駆動手段と、
前記接続棒を収容し、前記開口部に一方の端部が連通されるように設けられたベローズとを有する成膜装置であって、
前記接続棒を摺動可能とする貫通穴を有し、前記開口部を塞ぎながら、前記接続棒の前記開口部の開口面に平行な面の移動に追随して前記成膜室の上部内壁面に沿って摺動する遮蔽手段と、
該遮蔽手段を前記上部内壁面に付勢する付勢手段とが設けられたことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記接続棒の外周面と、前記貫通穴の内周面との間に密封手段が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記成膜室内を大気圧状態に戻すためのリークバルブが前記基板駆動手段に設置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記上部内壁面が面取りされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−87357(P2012−87357A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234755(P2010−234755)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】