説明

所望温度における比熱を求めるための校正直線の取得方法、及び比熱測定装置。

【課題】 比熱測定の際に必要となる基準試料の数を低減することができ、かつ、任意の温度での正確な比熱を求めることが可能な比熱測定における校正直線の取得方法及び比熱測定装置を提供する。
【解決手段】 第1の温度における比熱が既知である第1の試料の熱時定数と密度、並びに、第1の温度における比熱が既知である第2の試料の熱時定数と密度を求める。そして、これらの値から、当該第1の温度における密度×比熱と熱時定数との関係を示す第1の校正直線L1を求め、当該第1の校正直線L1において、熱時定数をゼロとしたときの密度×比熱の値を示す第1の切片値を演算する。次に、所望温度における比熱が既知である第3の試料の密度及び熱時定数と、前記第1の切片値とに基づいて、所望温度の校正直線L2を求める。なお、必要に応じて、上記第1の切片値に代えて、所定の温度補償を行った補正値を用いて、所望温度の校正直線L2を求めてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望温度における比熱を求めるための校正直線の取得方法、及び比熱測定装置に関し、特に、所望温度において測定された試料の密度、及び試料の所望温度に至るまでの温度の時間的変化より得られる熱時定数に基づいて、前記所望温度における試料の比熱を求めるための校正直線の取得方法、及びこの方法を採用した比熱測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の比熱を測定することは、当該物質の熱特性を把握する上で非常に有益である。
【0003】
公知のように、比熱は単位質量の物質の温度を単位温度だけ上昇させるのに要する熱量として定義される。しかし、物質に付与された熱量を正確に測定するには厳密な温度制御が必要であるため、測定に多大な時間を要する上、比熱を測定するための装置も非常に大掛かりで高価なものになっている。
【0004】
そこで、本願出願人は、先に出願している特願2004−151978号において、極めて簡便な構成で、かつ高精度に比熱の測定を行うことができる比熱測定方法、及び比熱測定装置を提案した。以下、その測定原理について図6、図7に基づいて簡単に説明する。
【0005】
まず、図6に示すように、第1の温度t1の所定体積の試料Sを、温度t1と異なる温度t0に制御された測定室10に配置された測定セル1に導入し、このときの温度変化を温度測定手段2で測定する。
【0006】
ここで、測定室10の温度が温度制御手段4によって上記温度t0に維持されることを条件とすると、試料は温度t0を終点温度として、所定の時定数に依存して温度変化(上昇あるいは下降)を開始する。このときの時定数(以下、熱時定数という。)は、上記温度測定手段2より得られる温度変化量と経過時間とに基づいて演算手段3によって求めることができ、その値は試料の材質に依存する値となる。
【0007】
また、上記熱時定数は、密度及び比熱と密接に関連しており、密度と比熱が既知の物質(気体と液体)について、横軸を密度×比熱(密度と比熱の積)、縦軸を温度上昇(下降)時の熱時定数としてグラフ化すると、図7に示すように直線性を示す。
【0008】
つまり、図7に示す直線(以下、校正直線という。)が既知であれば、試料の熱時定数と密度の値を取得することで比熱を算出することができる。なお、前記試料の密度は、例えば、本願出願人が後掲の特許文献1に提案している振動密度計を使用することにより容易に取得することが可能である。また、前記試料の熱時定数は、当該振動式密度計において、例えば、温度t1の試料を温度t0の環境下に導入した際の振動周期の変化に基づいて求めることができる。
【特許文献1】特公平07−104249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、特定の温度において、密度×比熱と熱時定数は、物質の種類に関わらず、同一の校正直線上に位置する。逆にいえば、上記校正直線は、比熱が既知で、かつ密度×比熱の値が異なる少なくとも2つの試料(以下、基準試料という。)の密度及び熱時定数を測定することによって求めることができる。
【0010】
また、密度と比熱が温度に依存して変化するため、上記校正直線は温度依存性をもつ。したがって、上述の方法で比熱を求めるには、測定を行う温度に応じた校正直線を予め求めておく必要がある。すなわち、所望の温度における試料の比熱を測定するためには、当該所望温度における比熱が既知である少なくとも2つの基準試料が必要となる。
【0011】
しかしながら、上述のように、比熱が既知である物質(特に、液体や気体)は限られており、所望温度における比熱が既知である複数の基準試料を準備することが困難である場合、当該温度における上述の方法による比熱測定はできないことになる。
【0012】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたのもであって、比熱測定の際に必要となる基準試料の数を低減することができ、かつ、任意の温度での正確な比熱を求めることが可能な比熱測定の校正直線の取得方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために以下の手段を採用している。すなわち、本発明は、所望温度において測定された試料の密度、及び試料の所望温度に至るまでの温度の時間的変化より得られる熱時定数に基づいて、前記所望温度における試料の比熱を求める際に使用される校正直線の取得方法であって、まず、前記所望温度と異なる第1の温度における比熱が既知である第1の試料の熱時定数と密度、並びに、第1の温度における比熱が既知である第2の試料の熱時定数と密度を求める。そして、これらの値から、当該第1の温度における密度×比熱(密度と比熱との積)と熱時定数との関係を示す第1の校正直線を求め、当該第1の校正直線において、熱時定数をゼロとしたときの密度×比熱の値を示す第1の切片値を演算する。
【0014】
次に、所望温度における比熱が既知である第3の試料の熱時定数と密度と、前記第1の切片値とに基づいて、前記所望温度における密度×比熱と熱時定数との関係を示す所望温度の校正直線を取得している。
【0015】
上記手順において、上記第1の切片値に代えて、当該第1の切片値に所定の温度補償を行うことにより求めた前記所望温度に対応する当該第1の切片値の補正値を用いて、前記所望温度の校正直線を求めてもよい。
【0016】
このようにすれば、試料が充填される測定セルの熱容量の温度依存性(測定セルの材質や構造に起因する)の影響を除去した状態で試料の比熱測定を行うことができる。
【0017】
なお、前記所定の温度補償は、例えば、試料の熱時定数を取得する際に内部に前記試料が充填される測定セルの材質の温度依存性に基づいて行えばよい。また、前記所定の温度補償は、上記第1の切片値と、以下で言及する第2の切片値とに基づいて行うこともできる。なお、第2の切片値は、第1の温度とは異なる第2の温度における比熱が既知である第4の試料の熱時定数と密度、並びに、前記第2の温度における比熱が既知である第5の試料の熱時定数と密度に基づいて求められる密度×比熱と熱時定数との関係を示す第2の校正直線において、熱時定数をゼロとしたときの密度×比熱の値である。
【0018】
以上のように、予め当該測定セル(測定系)に対する上記第1の校正直線を取得しておくことで、所望温度における比熱が既知の1つの基準試料が用意できれば、所望温度での校正直線を取得することができ、比熱測定を行うことが可能となる。
【0019】
また、他の観点では、本発明は、上述の校正直線の取得方法を採用する比熱測定装置を提供することができる。
【0020】
すなわち、本発明に係る比熱測定装置は、試料が充填される測定セルと、前記測定セルが内部に配置されるとともに、内部を所定の温度に制御可能な測定室と、前記試料の温度の時間的変化を測定する温度測定手段と、前記試料の所望温度に至るまでの温度の時間的変化に基づいて、前記試料の熱時定数を算出する熱時定数演算手段とを備える。
【0021】
また、第1の温度において比熱がそれぞれ既知である第1の試料及び第2の試料に対して前記熱時定数演算手段が求めた前記第1の温度における熱時定数、並びに、前記各試料の前記第1の温度における密度及び比熱が記憶される第1の記憶手段と、第1の温度とは異なる所望の温度において比熱が既知である第3の試料に対して前記熱時定数演算手段が求めた前記所望温度における熱時定数、並びに、前記第3の試料の前記所望温度における密度及び比熱が記憶される第2の記憶手段とを備える。
【0022】
さらに、前記第1の記憶手段に記憶された情報により定まる、前記第1の温度における密度×比熱(密度と比熱との積)と熱時定数との関係を示す第1の校正直線において熱時定数をゼロとしたときの密度×比熱の値を示す第1の切片値を算出するとともに、当該第1の切片値と前記第2の記憶手段に記憶された情報とに基づいて、前記所望温度での密度×比熱と熱時定数との関係を示す所望温度の校正直線を算出する校正直線演算手段を備える。
【0023】
そして、前記所望温度の校正直線に基づいて、比熱演算手段が、前記所望温度における試料の比熱を算出する。
【0024】
なお、前記校正直線演算手段が、前記第1の切片値に所定の温度補償を行うことで前記所望温度に対応する前記第1の切片値の補正値を求める温度補償手段を備え、前記第1の切片値に代えて、当該補正値に基づいて前記所望温度の校正直線を求める構成であってもよい。
【0025】
また、上記構成において、前記測定セルは、所定体積の試料が充填される振動式密度計の細管で構成することができ、当該細管の振動周期を検出する前記振動式密度計の周期検出手段を前記温度測定手段とすることができる。
【0026】
この場合、前記密度は、前記振動周期に基づいて前記振動式密度計の密度演算手段によって算出されるとともに、前記熱時定数演算手段が、前記振動周期の時間的変化に基づいて前記熱時定数を算出する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、所望の温度における比熱が既知の1つの基準試料により、短時間で正確に当該所望温度における比熱測定に使用する校正直線を得ることができる。
【0028】
すなわち、比熱測定の際に必要となる基準試料の数を低減することができ、かつ、任意の温度での正確な比熱を求めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る校正直線の取得方法を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明に係る校正直線の取得方法を説明するための説明図である。
【0030】
上述したように、温度を同一にした条件下では、物質の密度×比熱の値と、温度上昇(または、下降)時の熱時定数とは直線性を示す(図7)。すなわち、当該温度(第1の温度)における比熱が既知であり、かつ密度×比熱の値が異なる少なくとも2つの基準試料(第1及び第2の試料)の密度、及び熱時定数を測定すれば、図1(a)に示す、点P1と点P2が定まる。これにより、当該第1の温度における校正直線L1の式を求めることができる。
【0031】
ここで、熱時定数をτ、密度をd、比熱をCPとして、上記校正直線L1を式で表すと数1になる。なお、数1においてA、Bはそれぞれ定数である。
【0032】
【数1】

【0033】
例えば、第1の温度が300Kである場合、水とトルエンの比熱Cpと密度dと熱時定数τは表1のようになる。これらの値に基づいて上記数1中のAとBの値を算出すると、上記数1の式は数2に示す式となる。
【0034】
【表1】

【0035】
【数2】

【0036】
さて、本発明に係る校正直線の取得方法では、このようにして求めた校正直線L1において、熱時定数τがゼロとなる点P0を利用している。すなわち、図1(a)に示すように、点P0と、試料の比熱を求めたい温度(以下、所望温度という。)での比熱が既知である1つの基準試料(第3の試料)の密度と熱時定数とを測定することで定まる点P3とに基づいて、所望温度における校正直線L2を求めるのである。
【0037】
ここで、校正直線L1において、熱時定数τがゼロとなる点P0について説明する。
【0038】
図1(a)に示すように、点P0は密度×比熱の値が負である領域に属している。密度×比熱は、試料の密度と試料の比熱との積であり、試料の単位体積あたりの熱容量C1を示す物理量である。つまり、この値が負であるということは、試料が関与しない熱容量、すなわち、試料以外の測定系の熱容量C2を示していると推定される。この推定は、熱時定数τがゼロの物理的意味、つまり「温度変化に対して遅延なく追従する」からも妥当と判断できる。なお、試料以外の測定系とは、熱時定数τを測定する際に試料が充填される測定セル等であり、試料の温度が上昇(または、下降)するときの熱伝導に関与する部分を指す。したがって、点P0は測定系に固有の点であるといえる。もちろん、測定系が物質で構成されている以上、温度依存性を有するため、点P0は温度に依存してその位置が変わることになる。
【0039】
そこで、本発明に係る校正直線の取得方法では、以下に示す手順で所望温度における校正直線L2を求めている。すなわち、図1(a)に示すように、校正直線L1において、熱時定数τがゼロとなる点P0の密度×比熱の値(第1の切片値)を求める。そして、当該第1の切片値に対して、必要に応じて所定の温度補償(後述する)を行って所望温度に対応する点P0’の密度×比熱の値を定め、当該点P0’と上述の点P3とで定まる所定温度での校正直線L2を得る。なお、熱容量C2の温度依存性が小さい場合には、図1(b)に示すように、点P0と点P0’を同一点と看做すことも可能である。
【0040】
図2は、数2に示す式から求められる切片値である−1.41と、表2に示す280K、290K、310K、320Kの各温度における水の比熱、及び当該各温度で測定された密度d及び熱時定数τにより定まる点P3を用いて各温度における校正直線L2を求めた結果を示す図である。なお、この例では、点P0に対する温度補償は行っていない。
【0041】
また、図2には、表3に示す各温度におけるトルエンの比熱(文献値)、及び測定により得た密度dと熱時定数τとに基づいた点をプロットするとともに、表3には、測定により得た密度dと熱時定数τとに基づいて、図2に示す各温度における校正直線から求めた比熱を示している。
【0042】
図2、表3から、本発明により得られた校正直線L2により求めた比熱と、文献上の比熱がよく一致することが確認できる。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
ところで、点P0に対する所定の温度補償としては、例えば、試料の熱時定数τを測定する際に、内部に試料が充填される測定セルの材質の温度依存性に基づいて行うことができる。例えば、図4に示すような、測定セルの材質として使用される物質の密度×比熱(文献値)の温度依存性に基づいて、点P0’の位置を補間により求めることが可能である。なお、表4中のほうけい酸ガラスは、図2の例において使用した測定セルの材料である。
【0046】
【表4】

【0047】
また、点P0に対する他の温度補償としては、例えば、上記第1の切片値とは異なる温度(第2の温度)において、当該温度での比熱が既知の2つの基準試料(第4及び第5の試料)を用いて求めた校正直線(第2の校正直線)において、熱時定数をゼロとしたときの密度×比熱の値を示す第2の切片値を求め、当該第2の切片値と上記第1の切片値とに基づいて、所望温度における切片値の補正値を補間により求めてもよい。
【0048】
なお、温度補償は必ずしも行う必要はなく、測定系の構成や必要とされる比熱の測定精度に応じて、適宜実行すればよい。
【0049】
以上説明したように、点P0は測定系に固有な点であるため1度求めるだけでよい。したがって、本発明によれば、所望温度において比熱の測定を行う際に、当該所望温度での比熱が既知である1つの基準試料の密度dと熱時定数τを測定するだけで、所望温度における校正直線L2を得ることが可能になる。すなわち、比熱測定の際に必要となる基準試料の数を低減することができ、かつ、任意の温度での正確な比熱を求めることが可能となる。
【0050】
なお、上記密度d及び熱時定数τを求める方法は特に限定されるものではなく、公知のいかなる方法により求めてもよい。ただし、熱時定数τを求める際の測定セルは、全ての測定において、同一のものを使用する必要がある。
【0051】
以下、これらの値の測定に好適な振動式密度計について簡単に説明する。図3、図4は、振動式密度計を示す図であり、上述の各測定値も本装置により取得している。
【0052】
振動式密度計は、図3に示すように、測定室10に、測定セルを構成するU字状の細管1を配置し、当該U字状の細管1に液体、あるいは気体の試料を所定体積導入できるようになっている。
【0053】
また、図4に示すように、パルス発生回路13から駆動コイル31にパルス状の駆動電流S2が流されると、細管1の先端に取り付けられた磁性体5を介して細管1に外力が与えられ細管1が振動を開始する。この振動を受けて検出コイル21に発生する正弦波S2を周期検出手段15で処理して上記細管1の振動周期を求め、この結果に基づいて密度演算手段16で試料の密度を求めるようになっている。なお、上記駆動電流S1は、検出された正弦波S2との同期をとりながら所定時間間隔で与えられるようになっている。
【0054】
密度dは測定室10を所定の温度t0に保った状態で細管1(もちろん、試料温度も温度t0に保たれている)に上記した駆動力を駆動手段3(駆動コイル31+磁性体5)によって与えて、そのときの固有振動周期Txから数3に示す式で求めることができる。
【0055】
【数3】

【0056】
ここで試料は、その試料の保存に必要な温度t1に保たれおり、細管1に導入される前には、その温度t1は、上記測定室の温度t0とは異なっているのが通常である。そこで上記温度t1の試料を別の温度t0に保たれた測定室10に導入すると、温度t1から温度t0に熱時定数τに従って温度変化することになる。このとき、上記振動周期も、温度の変化とともに変化することになるが、この振動周期の変化も当然のことながら上記所定の熱時定数τに依存することになる。
【0057】
したがって、温度t1から温度t0への温度変化を規定する熱時定数τは、上記細管1の振動周期の変化を測定することによって求めることができることになる。なお、熱時定数τは、数4に示す式で定義され、細管1の振動周期も数4にしたがって変動する。
【0058】
【数4】

【0059】
また、温度t0での上記振動周期は、温度t0においてのみ求まるものではなく、温度t1の試料が細管1に導入されてからの振動周期の変化(温度変化)を測定すると、最終温度t0でなくても計算によって求めることができる。この計算方法は上述の特許文献1に詳しく記載されている。
【0060】
ところで、上記で説明した振動式密度計を利用することで、上述の校正直線の取得方法を採用した比熱測定装置を構成することができる。
【0061】
すなわち、図5に示すように、この比熱測定装置は、上記細管1を測定セルとして使用するとともに、周期検出手段15が検出した振動周期の時間的変化に基づいて、数4に従って、熱時定数τを算出する熱時定数演算手段17を備える。また、本装置が備える密度演算手段16は、周期検出手段15が検出した振動周期に基づいて数3に示す式に従って、細管1に充填された試料の密度を算出する。
【0062】
さらに、本装置には記憶手段18(第1の記憶手段、兼第2の記憶手段)が設けられており、本装置で予め測定された、上記第1の温度における比熱が既知である2つの基準試料(第1及び第2の試料)の熱時定数と密度とが、各試料の比熱とともに記憶されている。
【0063】
さて、本装置において所望温度における試料の比熱測定を行う場合、まず、当該試料の測定に先立って、当該所望温度における比熱が既知である1つ基準試料(第3の試料)の測定を行い、当該基準試料の熱時定数、密度、及び比熱を記憶手段18に記憶する。
【0064】
次に、校正直線演算手段19が、記憶手段18に記憶された第1の温度における各基準試料の熱時定数、密度、及び比熱に基づいて、上記第1の校正直線L1の第1の切片値を算出する。また、校正直線演算手段19は、当該第1の切片値と記憶手段18に記憶された所望温度における基準試料の熱時定数、密度、及び比熱に基づいて、所望温度の校正直線L2を算出する。
【0065】
そして、所望温度において試料の熱時定数と密度が測定されると、比熱演算手段20が、これらの測定値と、所望温度の校正直線L2に基づいて、当該試料の比熱を算出する。
【0066】
この構成によれば、上述のように、比熱測定の際に必要となる基準試料の数を低減することができ、かつ、任意の温度での正確な比熱を求めることができる。
【0067】
なお、この比熱測定装置において、上述の温度補正を行う場合には、校正直線演算手段19が、上記第1の切片値に所定の温度補償を行って上記第1の切片値の補正値を求める温度補償手段191を備える構成とし、当該温度補償手段191が求めた第1の切片値の補正値に基づいて校正直線演算手段19が、所望温度の校正直線L2を求める構成にすればよい。
【0068】
また、上記細管1(測定セル)は、図3に示すように、内部を所定の温度に制御可能な測定室10の内部に配置されており、上述の各温度のデータは、当該測定室10の温度を制御する温度制御手段4から取得することができることは言うまでもない。加えて、上述の密度演算手段16、熱時定数演算手段17、及び校正直線演算手段19は、マイクロプロセッサ等のハードウエアや、当該ハードウエア上で実行されるプログラム等により構成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、比熱測定の際に必要となる基準試料の数を低減することができ、かつ、任意の温度での正確な比熱を求めることが可能となるという効果を有し、比熱測定に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の原理を説明する説明図。
【図2】本発明により取得した校正直線を示す図。
【図3】振動式密度計の概念図。
【図4】振動式密度計の回路部分を示すブロック図。
【図5】比熱測定装置の回路部分を示すブロック図。
【図6】熱時定数を説明する説明図。
【図7】密度×比熱と熱時定数の関係を示す図。
【符号の説明】
【0071】
1 測定セル(細管)
2 温度測定手段
3 演算手段
15 振動周期検出手段(温度測定手段)
16 密度演算手段
17 熱時定数演算手段
18 記憶手段(第1、及び第2の記憶手段)
19 校正直線演算手段
20 比熱演算手段
1 第1の温度における校正直線
2 所望温度における校正直線
0 第1の切片


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望温度において測定された試料の密度、及び試料の所望温度に至るまでの温度の時間的変化より得られる熱時定数に基づいて、前記所望温度における試料の比熱を求める際に使用される校正直線の取得方法であって、
前記所望温度と異なる第1の温度における比熱が既知である第1の試料の熱時定数と密度、並びに、第1の温度における比熱が既知である第2の試料の熱時定数と密度に基づいて、前記第1の温度における密度×比熱(密度と比熱との積)と熱時定数との関係を示す第1の校正直線を求めるステップと、
前記第1の校正直線において、熱時定数をゼロとしたときの密度×比熱の値を示す第1の切片値を演算するステップと、
前記所望温度における比熱が既知である第3の試料の熱時定数と密度と、前記第1の切片値とに基づいて、前記所望温度における密度×比熱と熱時定数との関係を示す所望温度の校正直線を求めるステップと、
を有することを特徴とする所望温度における比熱を求めるための校正直線の取得方法。
【請求項2】
前記第1の切片値に代えて、当該第1の切片値に所定の温度補償を行うことにより求めた前記所望温度に対応する前記第1の切片値の補正値を用いて、前記所望温度の校正直線を求める請求項1に記載の所望温度における比熱を求めるための校正直線の取得方法。
【請求項3】
前記所定の温度補償が、試料の熱時定数を取得する際に内部に前記試料が充填される測定セルの材質の温度依存性に基づいて行われる請求項2に記載の所望温度における比熱を求めるための校正直線の取得方法。
【請求項4】
前記所定の温度補償が、第2の温度における比熱が既知である第4の試料の熱時定数と密度、並びに、第2の温度における比熱が既知である第5の試料の熱時定数と密度に基づいて求められる密度×比熱と熱時定数との関係を示す第2の校正直線において、熱時定数をゼロとしたときの密度×比熱の値を示す第2の切片値と、前記第1の切片値とに基づいて行われる請求項2に記載の所望温度における比熱を求めるための校正直線の取得方法。
【請求項5】
試料が充填される測定セルと、
前記測定セルが内部に配置されるとともに、内部を所定の温度に制御可能な測定室と、
前記試料の温度の時間的変化を測定する温度測定手段と、
前記試料の所望温度に至るまでの温度の時間的変化に基づいて、前記試料の熱時定数を算出する熱時定数演算手段と、
第1の温度において比熱がそれぞれ既知である第1の試料及び第2の試料に対して前記熱時定数演算手段が求めた前記第1の温度における熱時定数、並びに、前記各試料の前記第1の温度における密度及び比熱が記憶される第1の記憶手段と、
前記第1の温度とは異なる所望の温度において比熱が既知である第3の試料に対して前記熱時定数演算手段が求めた前記所望温度における熱時定数、並びに、前記第3の試料の前記所望温度における密度及び比熱が記憶される第2の記憶手段と、
前記第1の記憶手段に記憶された情報により定まる、前記第1の温度における密度×比熱(密度と比熱との積)と熱時定数との関係を示す第1の校正直線において熱時定数をゼロとしたときの密度×比熱の値を示す第1の切片値を算出するとともに、当該第1の切片値と前記第2の記憶手段に記憶された情報とに基づいて、前記所望温度での密度×比熱と熱時定数との関係を示す所望温度の校正直線を算出する校正直線演算手段と、
前記所望温度の校正直線に基づいて、前記所望温度における試料の比熱を算出する比熱演算手段と、
を備えたことを特徴とする比熱測定装置。
【請求項6】
前記校正直線演算手段が、前記第1の切片値に所定の温度補償を行うことで前記所望温度に対応する前記第1の切片値の補正値を求める温度補償手段を備えるとともに、前記第1の切片値に代えて、当該補正値に基づいて前記所望温度の校正直線を求める請求項5に記載の比熱測定装置。
【請求項7】
前記測定セルが、所定体積の試料が充填される、振動式密度計の細管であり、
前記温度測定手段が、前記細管の振動周期を検出する、前記振動式密度計の周期検出手段であり、
前記密度が、前記振動周期に基づいて前記振動式密度計の密度演算手段により算出されるとともに、前記熱時定数演算手段が、前記振動周期の時間的変化に基づいて前記熱時定数を算出する請求項5または6に記載の比熱測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−118894(P2006−118894A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304874(P2004−304874)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】