説明

扁平形アルカリ一次電池及び扁平形アルカリ一次電池の製造方法

【課題】安価で電池電圧が高く、長時間の使用に耐える信頼性の高い扁平形アルカリ一次電池及び扁平形アルカリ一次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】扁平形アルカリ一次電池1は正極缶2及び負極缶3を有している。正極缶2の円形の開口部2aに、負極缶3を、ガスケット4を装着した開口部3a側から嵌合させ、該正極缶2の開口部2aを該ガスケット4に向かってカシメテ封口することによって、ガスケット4を介して正極缶2と負極缶3の間には、密閉空間が形成される。密閉空間には、正極合剤5、セパレータ6、負極合剤7が収容され、セパレータ6を挟んで、正極缶2側に正極合剤5、負極缶3側に負極合剤7が収容配置されている。この密閉空間には、アルカリ電解液が充填されている。そして、正極合剤を打錠して成型する前に、予めアルカリ電解液として水酸化ナトリウム水溶液を正極合剤の質量に対し0.5%以上、4%以下混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平形アルカリ一次電池及び扁平形アルカリ一次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子腕時計、携帯用電子計算機等の小型電子機器に使用されるコイン形或いはボタン形等の扁平形アルカリ一次電池は、正極缶内に二酸化マンガンを正極活物質とする正極合剤が収容されて、負極缶内には、亜鉛又は亜鉛合金粉末を負極活物質とする負極合剤が配置されている。
【0003】
正極合剤と負極合剤は、セパレータを介して対向しており、電池の内部にはアルカリ電解液が注入されている。正極合剤は、二酸化マンガンに導電剤としてのグラファイト粉末、正極合剤の結着性が低い場合は結着剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂粉末若しくはエマルジョンを混合した後、ペレット状に打錠して正極とする。
【0004】
また、扁平形アルカリ一次電池の正極活物質として酸化銀を用いた、いわゆる酸化銀電池も、広く一般市場に出回っている。酸化銀は、二酸化マンガンと比較し、体積エネルギー密度が高く、かつ、負極活物質を亜鉛とした電池電圧が、1.56ボルト付近で平坦なため、主に、終止電圧が1.2ボルト以上の電子腕時計、携帯用電子計算機等の小型電子計算機の電源として用いられている。
【0005】
しかしながら、酸化銀は、性能的に良好であるものの貴金属である銀が主成分であるため高価であり、銀相場により価格が変動し、製造原価の低減や安定を図る上で使用し難い物質であった。そこで、酸化銀に対し体積エネルギー密度が低く放電に伴う電圧降下が大きいものの、質量当たりの価格が200分の1程度と圧倒的に安価な二酸化マンガンを正極活物質としたいわゆるアルカリマンガン電池が酸化銀電池同様、一般市場に数多く出回っている。
【0006】
このため、二酸化マンガン等の安価な活物質に種々の添加剤を加えることが検討されている(例えば、特許文献1、2、3)。
【特許文献1】特開2003−234107号 公報(第2頁〜第3頁、第1図)
【特許文献2】特開2004−6092号 公報(第2頁〜第3頁、第1図)
【特許文献3】特開2005−19349号 公報(第2頁〜第4頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、二酸化マンガン等の材料を正極活物質として用いた扁平形アルカリ一次電池では、放電に伴い電圧が大幅に降下する問題点を有していた。電子腕時計など終止電圧が酸化銀電池の電池電圧に合わせて高めに設定されている機器においては、二酸化マンガンの放電に伴う電圧降下から、機器の使用時間が極端に短くなってしまうという課題があった。この電圧降下の防止について、種々の検討が行われているが、十分なものではなかった。
【0008】
その解決策として、正極活物質のオキシ水酸化ニッケルを用いる電池が考案されている。この電池の場合、オキシ水酸化ニッケルは、その材料自身の粉体物性として、二酸化マンガン粉末や酸化銀粉末と比較し造粒し難いため、高密度に成型することや高強度に成型することは困難であった。そのため、オキシ水酸化ニッケルを正極活物質とした扁平形電池において、高容量、高信頼性を確保することは非常に困難であった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、安価で電池容量が大きく、信頼性にも優れた扁平形アルカリ一次電池及び扁平形アルカリ一次電池の製造方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、正極缶の開口部に負極缶の開口部を嵌合し、正極缶と負極缶とをガスケットを介して密封して形成された密封空間に、空孔を有するセパレータを配置するとともに、前記セパレータを挟んで、正極側にはオキシ水酸化ニッケルを主成分とした正極合剤を配置し、負極側には亜鉛粉末もしくは亜鉛合金粉末を主成分とした負極合剤を配置し、さらに、その密封空間にアルカリ電解液を充填した扁平形アルカリ一次電池の製造方法であって、前記正極合剤を打錠してペレット状に成型する前に、予め水酸化ナトリウム水溶液を正極合剤の質量に対し0.5%以上、4%以下で混合する。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の扁平形アルカリ一次電池の製造方法において、前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度が、25%以上、35%以下である。
請求項3の発明は、請求項1又2に記載の扁平形アルカリ一次電池の製造方法において、電池組立時、前記正極合剤にアルカリ電解液を滴下する工程を有し、その電解液が水酸化ナトリウム水溶液で、その滴下量が正極合剤に対し質量比で5%以上、8%以下とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1に記載の扁平形アルカリ一次電池の製造方法において、電池組立時、前記セパレータにアルカリ電解液を滴下する工程を有し、その電解液が水酸化ナトリウム水溶液で、その滴下量がセパレータ空孔率の30vol%以上、80vol%以下とする。
【0013】
請求項5の発明は、正極缶の開口部に負極缶の開口部を嵌合し、正極缶と負極缶とをガスケットを介して密封して形成された密封空間に、空孔を有するセパレータを配置するとともに、前記セパレータを挟んで、正極側にはオキシ水酸化ニッケルを主成分とした正極合剤を配置し、負極側には亜鉛粉末もしくは亜鉛合金粉末を主成分とした負極合剤を配置し、さらに、その密封空間にアルカリ電解液を充填した扁平形アルカリ一次電池であって、前記アルカリ電解液電解液を、水酸化ナトリウム水溶液とした。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、正極合剤を打錠してペレット状に成型する前に、予め水酸化ナトリウム水溶液を正極合剤の質量に対し0.5%以上、4%以下添加することにより、この水酸化ナトリウム水溶液がオキシ水酸化ニッケルの造粒助剤となり、正極合剤の高密度成型や高強度成型を促進することを見出した。
【0015】
その結果、正極活物質に高価である酸化銀を使用することなく電子腕時計など電子腕時計など終止電圧が酸化銀一次電池の電池電圧にあわせて高く設定されている機器に適した良好な扁平形アルカリ一次電池を得ることができる。しかも、酸化銀一次電池のように高価な材料を使用しないため、安価に製造することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、正極合剤を打錠してペレット状に成型する前に、予め正極合剤に添加する水酸化ナトリウム水溶液の濃度を25%以上にすることにより、その粘度が低すぎることによる正極合剤の結着力低下を抑制することで、正極合剤の高密度成型や高強度成型を促進することができる。また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を、35%以下とすることにより、その粘性が高すぎることによる正極合剤の秤量性の低下(流動性の低下)を抑制することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、滴下量を正極合剤に対し質量比で5%以上とすることにより、放電に伴う電解液の消費で電解液不足による電池内部抵抗の上昇を抑制することができる。また、滴下量を8%以下とすることにより、電解液が多すぎることによる耐漏液性の低下を抑制することができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、滴下量をセパレータ空孔率の30vol%以下とすることにより、放電に伴う電解液の消費で電解液不足による電池内部抵抗の上昇を抑制することができる。また、滴下量を80vol%以下とすることにより、電解液が多すぎることによる耐漏液性の低下を抑制することができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、アルカリ電解液を水酸化ナトリウム水溶液にするところにより、アルカリ電解液を水酸化カリウム水溶液にした場合に比べて、正極活物質であるオキシ水酸化ニッケルの分解速度が遅くなるため電池長寿命となるとともに、水酸化ナトリウム水溶液は水酸化カリウム水溶液より粘性が低いためハンドリング性がよい。
【0020】
その結果、正極活物質として非常に高価である酸化銀を使用することなく電子腕時計など電子腕時計など終止電圧が扁平形の酸化銀一次電池の電池電圧にあわせて高く設定されている機器に適した良好な扁平形アルカリ一次電池を得ることができる。しかも、偏平形の酸化銀一次電池のように高価な材料を使用しないため、安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した実施形態を、図1に従って説明する。
図1は、ボタン形(扁平形)のアルカリ一次電池の概略断面図を示す。図1において、アルカリ一次電池1は、ボタン形の一次電池であって、有底円筒上の正極缶2及び有蓋円筒状の負極缶3を有している。正極缶2は。鋼板にニッケルメッキを施した構成であって、正極端子を兼ねている。一方、負極缶3は、ニッケルよりなる外表面層と、ステンレススチール(SUS)よりなる金属層と、銅よりなる集電体層との3層クラッド材がカップ状にプレス加工されて構成されている。また、負極缶3は、その円形の開口部3aが折り返し形成され、その折り返し形成された開口部3aには、例えば、ナイロン製のリング状のガスケット4が装着されている。
【0022】
そして、正極缶2の円形の開口部2aに、負極缶3を、ガスケット4を装着した開口部3a側から嵌合させ、該正極缶2の開口部2aを該ガスケット4に向かってかしめて封口することによって、正極缶2と負極缶3は、互いに連結固定されている。正極缶2と負極缶3を連結固定することによって、ガスケット4を介して正極缶2と負極缶3との間には、密閉空間が形成される。
【0023】
この密閉空間には、正極合剤5、セパレータ6、負極合剤7が収容され、セパレータ6を挟んで正極缶2に正極合剤5、負極缶3側に負極合剤7が収容配置されている。この密閉空間には、アルカリ電解液が充填されている。
【0024】
詳述すると、正極合剤5は、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケル、導電剤としてグラファイト、結着剤としてポリアクリル酸ソーダ、電解液として強アルカリ水溶液を混合後、ペレット状に打錠したものである。
【0025】
前記強アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。これは、以下の理由による。まず始めに、正極合剤に水酸化ナトリウム水溶液を混合することにより、グラファイトのような超軽量の粉体が水酸化ナトリウム水溶液を吸収し質量が重くなることで正極合剤混合時のグラファイトやオキシ水酸化ニッケルの微粉の舞いによ
る正極合剤組成バラツキを抑制することができるからである。また、水酸化ナトリウム水溶液は適当な粘度を有するため、オキシ水酸化ニッケルを主成分とする正極合剤の造粒において、粘性が高すぎることによる正極合剤の秤量性の低下(流動性の低下)を抑制しつつ、微粉を結着することにより造粒することができ、正極合剤打錠時、高密度成型や高強度成型を促進することができるからである。
【0026】
最後に、正極合剤打錠前に電解液を混合することにより、打錠後に滴下する電解液量を低減できるため、正極合剤が電解液を吸収しきれないために発生する耐漏液性の低下を抑制することができるからである。その結果、放電容量、容量保存性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0027】
また、前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度が25%以上、35%以下であることが好ましい。
これは、正極合剤打錠前に混合する水酸化ナトリウム水溶液の濃度が25%以上とすることにより、水酸化ナトリウム水溶液の粘性不足で発生する微粉の結着性低下を抑制し、正極合剤打錠時、高密度成型や高強度成型を促進することができるからである。また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を35%以下にすることにより、水酸化ナトリウム水溶液の粘性が高すぎることによる正極合剤の秤量性低下(流動性低下)を抑制することができるからである。
【0028】
また、電池組立時、前記正極合剤にアルカリ電解液を滴下する工程を有し、その電解液が水酸化ナトリウム水溶液で、その滴下量が正極合剤に対し質量比で5%以上、8%以下とすることが好ましい。
【0029】
これは、滴下量を正極合剤に対し質量比で5%以上にすることにより、放電に伴う電解液に消費で発生する電解液不足による電池内部抵抗の上昇を抑制することができるからである。また、滴下量を8%以下とすることにより、正極合剤が電解液を吸収しきれず、その電解液がカシメ時負極缶3とガスケット4に噛み込むことで加速されてしまう漏液を抑制することができるからである。それ故、放電特性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0030】
しかも、アルカリ電解液を水酸化ナトリウム水溶液にしたので、アルカリ電解液を水酸化カリウムにした場合に比べて、正極活物質であるオキシ水酸化ニッケルの分解速度が遅くなるため電池の寿命を長くできる。また、水酸化ナトリウム水溶液は水酸化カリウム水溶液より粘性が低いためハンドリング性がよい。
【0031】
また、電池組立時、前記セパレータ6にアルカリ電解液を滴下する工程を有し、その電解液が水酸化ナトリウム水溶液で、その滴下量がセパレータ空孔率の30vol%以上、80vol%以下とすることが好ましい。
【0032】
これは、滴下量をセパレータ空孔率の30vol%以上とすることにより、放電に伴う電解液の消費で電解液不足による電池内部抵抗の上昇を抑制することができるからである。また、滴下量をセパレータ空孔率の80vol%以下とすることにより、セパレータ6が電解液を吸収しきれず、その電解液がカシメ時負極缶3とガスケット4に噛み込むことで加速されてしまう漏液を抑制することができるからである。それ故、放電特性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0033】
ちなみに、正極合剤に混合・滴下する強アルカリ電解液の種類、混合量、濃度、および、滴下量を変更した実施例を行い検証した。
(実施例1)
図1で示す電池構造で、負極缶3は、ニッケル外表面層と、ステンレススチール(SUS)による金属層と、銅による集電体層の3層による厚さ0.18mmクラッド材をプレス加工によって成型した。正極合剤5は、導電剤としてグラファイト4%、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケル88.8%、結着剤としてポリアクリル酸ソーダ0.2%、
強アルカリ電解液として30%水酸化ナトリウム水溶液2%をブレンダーで混合した後、打錠機にてペレット状に成型した。
【0034】
次に、正極缶2に、30%水酸化ナトリウムを正極合剤質量に対し6.5%滴下後、正極合剤を打錠した正極ペレットを正極缶2内に挿入し、正極ペレットに30%水酸化ナトリウム水溶液を吸収させる。この正極合剤5上に、微多孔膜6aと不織布6bの2層構造の円形状に打ち抜いたセパレータ6を充填する。この充填したセパレータ6に、30%水酸化ナトリウムをセパレータ空孔率の70vol%を滴下して含浸させる。
【0035】
負極合剤7は、負極活物質として、亜鉛粉末もしくは亜鉛合金粉末、アルカリ電解液として、水酸化ナトリウム水溶液、その電解液の増粘剤として、カルボキシメチルセルロース、酸化亜鉛を混合してジェル状とする。次に、この負極合剤7をペレット状に成型してセパレータ6上に載置する。そして、その上に負極缶3を載置した後、負極缶3と正極缶2とをカシメルことで密封されて扁平形アルカリ一次電池1を作製した。このとき、正極缶2と負極缶3の間には、ガスケット4が挟持され密封性を高めている。
(実施例2)
実施例2は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に混合する水酸化ナトリウム水溶液の混合量を2%から0.5%にした。
(実施例3)
実施例3は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に混合する水酸化ナトリウム水溶液の混合量を2%から5.0%にした。
(実施例4)
実施例4は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に混合する水酸化ナトリウム水溶液の濃度を30%から25%にした。
(実施例5)
実施例5は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に混合する水酸化ナトリウム水溶液の濃度を30%から35%にした。
(実施例6)
実施例6は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に滴下する水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を6.5%から5%にした。
(実施例7)
実施例7は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に滴下する水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を6.5%から8%にした。
(実施例8)
実施例8は、実施例1と同様な構成にするものの、セパレータに滴下する水酸化ナトリウム水溶液の滴下量をセパレータ空孔率に対し70vol%から30vol%にした。
(実施例9)
実施例9は、実施例1と同様な構成にするものの、セパレータに滴下する水酸化ナトリウム水溶液の滴下量をセパレータ空孔率に対し70vol%から80vol%にした。
(比較例1)
比較例1は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に混合する強アルカリ電解液を水酸化ナトリウム水溶液から濃度30%の水酸化カリウム水溶液にした。
(比較例2)
比較例2は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に混合する水酸化ナトリウム水溶液の混合量を2%から0.1%にした。
(比較例3)
比較例3は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に混合する水酸化ナトリウム水溶液の混合量を2%から6.0%にした。
(比較例4)
比較例4は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に混合する水酸化ナトリウム水溶液の濃度を30%から20%にした。
(比較例5)
比較例5は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に混合する水酸化ナトリウム水溶液の濃度を30%から40%にした。
(比較例6)
比較例6は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に滴下する水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を6.5%から3%にした。
(比較例7)
比較例7は、実施例1と同様な構成にするものの、正極合剤に滴下する水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を6.5%から10%にした。
(比較例8)
比較例8は、実施例1と同様な構成にするものの、セパレータに滴下する水酸化ナトリウム水溶液の滴下量をセパレータ空孔率に対し70vol%から20vol%にした。
(比較例9)
比較例9は、実施例1と同様な構成にするものの、セパレータに滴下する水酸化ナトリウム水溶液の滴下量をセパレータ空孔率に対し70vol%から90vol%にした。
【0036】
そして、上記した実施例1〜9、比較例1〜9のアルカリ電池を、それぞれ130個作製し、以下の検証を行った。
具体的には、これら10個ずつの正極合剤の質量を測定し、その変動係数(標準偏差/平均値×100)を算出した結果を表1に示す。また、これら10個ずつの電池を30kΩで定抵抗放電させ、1.2Vの終止電圧とした時の放電容量〔mAh〕を表1に示す。また、これら10個ずつの電池を、温度60℃、湿度ドライの過酷環境下で保存し、60日後30kΩで定抵抗放電させ、1.2Vの終止電圧とした時の放電容量〔mAh〕を表1に示す。また、これら10個ずつの電池を−10℃の環境下、初度(放電深度0%)、負荷抵抗2kΩで7.8m秒後の閉路電圧(放電特性)〔V〕を表1に示す。これら100個ずつのアルカリ電池を、温度45℃、相対湿度93%の過酷な環境下で保存し、60日の漏液発生有無についての評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】


(1)はじめに、この表1より、実施例1〜9と比較例1とを比較するに、正極合剤に混合する強アルカリ電解液を水酸化ナトリウム水溶液にすることで、正極合剤の質量バラツキが小さく、放電容量、容量保存性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0038】
これは、正極合剤に水酸化ナトリウム水溶液を混合することにより、グラファイトのような超軽量の粉体が水酸化ナトリウム水溶液を吸収し質量が重くなることで正極合剤混合時のグラファイトやオキシ水酸化ニッケルの微粉の舞いによる正極合剤組成バラツキを抑制することができるためである。
【0039】
また、水酸化ナトリウム水溶液は適当な粘度を有するため、オキシ水酸化ニッケルを主成分とする正極合剤の造粒において、粘性が高すぎることによる正極合剤の秤量性の低下(流動性の低下)を抑制しつつ、微粉を結着することにより造粒することができ、正極合剤打錠時、高密度成型や高強度成型を促進することができる。そのため、密度低下による容量減、および、正極ペレットの強度低下による耐漏液性低下を抑制することができる。
【0040】
(2)次に、この表1により、実施例1〜3と比較例2,3とを比較するに、正極合剤を打錠してペレット状に成型する前に、予め水酸化ナトリウム水溶液を正極合剤の質量に対し0.5%以上、4%以下混合することで、放電容量、容量保存性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0041】
これも、正極合剤を打錠してペレット状に成型する前に、予め水酸化ナトリウム水溶液で、正極合剤の質量に対し0.5%以上、4%以下混合することで、水酸化ナトリウムの混合量が多すぎることによる正極合剤の秤量性の低下(流動性の低下)を抑制しつつ、グラファイトやオキシ水酸化ニッケルの微粉を効果的に結着して造粒を助け、正極合剤打錠時、高密度成型や高強度成型を促進することができる。
【0042】
(3)次に、この表1により、実施例4,5と比較例4,5とを比較するに、正極合剤を打錠してペレットを成型する前に、予め正極合剤に混合する水酸化ナトリウム水溶液の濃度を25%以上、35%以下とすることで、正極合剤の質量バラツキが小さく、放電容量、容量保存性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0043】
これも、正極合剤を打錠してペレット状を成型する前に、予め正極合剤に混合する水酸化ナトリウム水溶液の濃度が25%以上とすることで、その粘性が低すぎることによる正極合剤の結着力の低下を抑制し、正極合剤の高密度成型や高強度成型を促進することができるためである。
【0044】
また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を35%以下にすることで、水酸化ナトリウム水溶液の粘性が高すぎることによる正極合剤の秤量性の低下(流動性の低下)を抑制することができるためである。
【0045】
(4)次に、この表1により、実施例6,7と比較例6,7とを比較するに、正極合剤にアルカリ電解液を滴下する工程を有し、その電解液が水酸化ナトリウム水溶液で、その滴下量が正極合剤に対し質量比で5%以上、8%以下とすることで、放電特性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0046】
これは、電池組立工程で、正極合剤に滴下する水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を5%以上、8%以下とすることで、放電に伴う電解液に消費で発生する電解液不足による電池内部抵抗の上昇を抑制しつつ、正極合剤が電解液を吸収しきれず、その電解液がカシメ時負極缶3とガスケット4に噛み込むことで加速されてしまう漏液を抑制することができるためである。
【0047】
しかも、アルカリ電解液を水酸化ナトリウム水溶液にしたので、アルカリ電解液を水酸化カリウム水溶液にした場合に比べて、正極活物質であるオキシ水酸化ニッケルの分解速
度が遅くなるため電池の寿命を長くできるとともに、水酸化ナトリウム水溶液は水酸化カリウム水溶液より粘性が低いためハンドリング性がよい。
【0048】
その結果、正極活物質として非常に高価である酸化銀を使用することなく電子腕時計など電子腕時計など終止電圧が扁平形の酸化銀一次電池の電池電圧にあわせて高く設定されている機器に適した良好な扁平形アルカリ一次電池を得ることができる。しかも、偏平形の酸化銀一次電池のように高価な材料を使用しないため、安価に製造することができる。
【0049】
(5)最後に、この表1により、実施例8,9と比較例8,9とを比較するに、セパレータ6にアルカリ電解液を滴下する工程を有し、その電解液が水酸化ナトリウム水溶液で、その滴下量がセパレータ空孔率の30vol%以上、80vol%以下とすることで、放電特性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0050】
これも、電池組立工程で、セパレータ6に滴下する水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を30vol%以上、80vol%以下とすることで、放電に伴う電解液の消費で電解液不足による電池内部抵抗の上昇を抑制しつつ、セパレータ6が電解液を吸収しきれず、その電解液がカシメ時負極缶3とガスケット4に噛み込むことで加速されてしまう漏液を抑制することができるためである。
【0051】
次に、上記のように構成した本実施形態の効果を以下に記載する。
(1)本実施形態によれば、扁平形アルカリ一次電池1は、正極缶2の開口部2aに負極缶3に開口部3aを嵌合し、正極缶2と負極缶3とをガスケット4を介して密封して形成された密封空間に、空孔を有するセパレータ6を配置するとともに、前記セパレータ6を挟んで、正極側にはオキシ水酸化ニッケルを主成分とした正極合剤5を配置し、負極側には亜鉛粉末もしくは亜鉛合金粉末を主成分とした負極合剤7を配置し、さらに、その密封空間にアルカリ電解液を充填した扁平形アルカリ一次電池の製造方法であって、前記正極合剤5を打錠してペレット状に成型する前に、予め水酸化ナトリウム水溶液を正極合剤5の質量に対し0.5%以上、4%以下混合するようにしたので、正極合剤の高密度成型や高強度成型を促進することができるため、放電容量、容量保存性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0052】
(2)本実施形態によれば、扁平形アルカリ一次電池1は、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を25%以上、35%以下としたので、正極合剤の高密度成型や高強度成型を促進することができるため、放電容量、容量保存性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0053】
(3)本実施形態によれば、扁平形アルカリ一次電池1は、正極合剤にアルカリ電解液を滴下する工程を有し、その電解液が水酸化ナトリウム水溶液で、その滴下量を正極合剤に対し質量比で5%以上、8%以下としたので、放電に伴う電解液の消費で発生電解液不足による電池内部抵抗の上昇を抑制しつつ、正極合剤が電解液を吸収しきれず、その電解液が電池カシメ時負極缶3とガスケット4に噛み込むことで加速されてしまう漏液を抑制し、放電特性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0054】
(4)本実施形態によれば、扁平形アルカリ一次電池1は、セパレータ6にアルカリ電解液を滴下する工程を有し、その電解液が水酸化ナトリウム水溶液で、その滴下量をセパレータ空孔率の30vol%以上、80vol%以下としたので、放電に伴う電解液の消費で発生する電解液不足による電池内部抵抗の上昇を抑制しつつ、セパレータ6が電解液を吸収しきれず、その電解液が電池カシメ時負極缶3とガスケット4に噛み込むことで加速されてしまう漏液を抑制し、放電特性、かつ、耐漏液性に優れる扁平形アルカリ一次電池を提供できる。
【0055】
(5)本実施形態によれば、正極活物質がオキシ水酸化ニッケルである扁平形アルカリ一次電池1において、アルカリ電解液を水酸化ナトリウム水溶液にしたので、正極活物質であるオキシ水酸化ニッケルの分解速度が遅くなるため電池の寿命を長くすることができる。その結果、正極活物質として非常に高価である酸化銀を使用することなく電子腕時計など電子腕時計など終止電圧が扁平形の酸化銀一次電池の電池電圧にあわせて高く設定されている機器に適した良好な扁平形のアルカリ一次電池を得ることができる。しかも、偏平形の酸化銀一次電池のように高価な材料を使用しないため、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本実施形態の扁平形アルカリ一次電池の概略断面図。
【符号の説明】
【0057】
1…扁平形アルカリ一次電池、2…正極缶、2a…開口部、3…負極缶、3a…開口部、4…ガスケット、5…正極合剤、6…セパレータ、7…負極合剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極缶の開口部に負極缶の開口部を嵌合し、正極缶と負極缶とをガスケットを介して密封して形成された密封空間に、空孔を有するセパレータを配置するとともに、前記セパレータを挟んで、正極側にはオキシ水酸化ニッケルを主成分とした正極合剤を配置し、負極側には亜鉛粉末もしくは亜鉛合金粉末を主成分とした負極合剤を配置し、さらに、その密封空間にアルカリ電解液を充填した扁平形アルカリ一次電池の製造方法であって、
前記正極合剤を打錠してペレット状に成型する前に、予め水酸化ナトリウム水溶液を正極合剤の質量に対し0.5%以上、4%以下で混合することを特徴とする扁平形アルカリ一次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の扁平形アルカリ一次電池の製造方法において、
前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度が、25%以上、35%以下であることを特徴とする扁平形アルカリ一次電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の扁平形アルカリ一次電池の製造方法において、
電池組立時、前記正極合剤にアルカリ電解液を滴下する工程を有し、その電解液が水酸化ナトリウム水溶液で、その滴下量が正極合剤に対し質量比で5%以上、8%以下とすることを特徴とする扁平形アルカリ一次電池の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の扁平形アルカリ一次電池の製造方法において、
電池組立時、前記セパレータにアルカリ電解液を滴下する工程を有し、その電解液が水酸化ナトリウム水溶液で、その滴下量がセパレータ空孔率の30vol%以上、80vol%以下とすることを特徴とする扁平形アルカリ一次電池の製造方法。
【請求項5】
正極缶の開口部に負極缶の開口部を嵌合し、正極缶と負極缶とをガスケットを介して密封して形成された密封空間に、空孔を有するセパレータを配置するとともに、前記セパレータを挟んで、正極側にはオキシ水酸化ニッケルを主成分とした正極合剤を配置し、負極側には亜鉛粉末もしくは亜鉛合金粉末を主成分とした負極合剤を配置し、さらに、その密封空間にアルカリ電解液を充填した扁平形アルカリ一次電池であって、
アルカリ電解液電解液を、水酸化ナトリウム水溶液としたことを特徴とする扁平形アルカリ一次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−54536(P2009−54536A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222652(P2007−222652)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】