説明

手持式工具装置用の深さゲージ

【課題】 固定素子をセットすべく手持式工具装置により形成される有底孔の深さを、固定素子に関連するデータに基づいて規制することのできる深さゲージを提案することである。
【解決手段】 手持式工具装置(2)により形成される有底孔の深さを規制するための深さゲージ(1)は、その有効長(L)を調整し得るよう、工具装置(2)の工具軸線(A)と平行に所定範囲内で可動とされた、座屈荷重に対する十分な曲げ剛性を有するロッド(3)を具える。エネルギ源(4)によりエネルギが供給される制御モータ(5)をロッド(3)に関連させて配置し、その制御モータ(5)を、長さセンサ(10)及び送受信ユニット(7)と共にマイクロプロセッサ(6)に接続する。交信範囲内にある固定素子(9)に設けられている識別手段(8)を送受信ユニット(7)により非接触で識別可能とし、有底孔内にセットされる固定素子(9)に関連してロッド(3)の有効長(L)を、マイクロプロセッサ(6)及び制御モータ(5)により適応制御可能とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】本発明は、石材等の基材内に固定素子をセットするための有底孔を、回転運動及び/又は衝撃運動により形成する手持式工具装置において、その有底孔の深さを規制するための深さゲージに関するものである。本発明は、さらに、そのような深さゲージを対象とする固定素子及び制御方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】手持式工具装置としてドリル装置、ハンマドリル装置等を使用する施工作業に際し、多くの場合には基材に形成される有底孔の深さを正確に規制する必要がある。例えば、その有底孔内に事後的にセットされる固定素子の最適係止値を達成可能とするためである。そのためには、有底孔の基材に対する加工を、所定の深さに達した時点で停止させねばならない。
【0003】所定の深さを有する有底孔を形成するために、手持式工具装置の回転運動及び/又は衝撃運動を停止させると共に、深さゲージを基材の表面に当接させて基材に対する工具の押圧力を除去する必要がある。
【0004】米国特許第4,890,779号は、手持式工具装置の工具ホルダにより把持される工具として、深さゲージが設けられた特殊な専用工具を記載している。このような工具の欠点が、使用頻度の低い場合でも工具自体に特殊性が必要とされる点にあることは、言うまでもない。
【0005】米国特許第3,633,682号は、ハンマドリル用の深さゲージとして、工具軸線に沿って変位させて所望の位置で固定可能としたロッドからなり、好適には補助グリップに固定される深さゲージを記載している。この場合、壁面等の基材に対する深さゲージの機械的な当接により、深さゲージで規制された深さを超えて工具が基材内に押し込まれるのを容易かつ効果的に防止することが可能である。しかし、この深さゲージは手動調整を必要とし、これに付随する人的エラーを確実に回避できるものではない。
【0006】米国特許第4,430,460号は、シリンダ孔の加工に際して工具の位置を加工表面に対して計測し、かつ評価することを記載している。しかし、この特許に記載されている構造は複雑であり、直ちに手持式工具装置に適用できるものではない。
【0007】米国特許第4,717,291号は、手持式工具装置において、工具軸線に沿って変位可能な非回転スリーブ形状のストッパーを、所定の工具長さに対応する駆動ねじ機構を有するモータ制御型の制御ユニットによって制御する構成を記載している。この場合には、ストッパーが工具の残部と機械的に接触することにより、基材に対する工具の押圧が中止される。この構成は、ストッパーを、工具を包囲するスリープ形状に形成する必要があり、駆動ねじ機構も大掛かりな構造となる点で不利である。
【0008】さらに、WIPOで国際公開されたWO86/03314号は識別用のバーコードを記載し、WO86/02186号は識別用の受動型振動フィルム回路を記載し、WO89/05984号は識別し、クエリーに回答し、かつデータを発生させるための、エネルギが外部から供給される能動型のトランスポンダを記載しており、これらは何れも高い生産性をもって大量生産することが可能である。
【発明の課題】
【0009】本発明が解決しようとする課題は、固定素子をセットすべく手持式工具装置により基材に形成される有底孔の深さを、固定素子に関連するデータに基づいて規制することのできる深さゲージを提案することである。
【課題の解決手段】
【0010】上述した課題は、独立請求項に記載された本発明の特徴により解決することができる。また、本発明の有利な実施形態は、従属請求項に記載したとおりである。
【0011】本発明に係る手持式工具装置用の深さゲージにおいては、工具軸線と平行に所定範囲内で可動とされたロッドの有効長を、エネルギ源によりエネルギが供給される制御モータにより制御する。そのために、制御モータは、長さセンサ及び送受信ユニットと共にマイクロプロセッサに接続する。そして、交信範囲内にある固定素子に設けられている識別手段を送受信ユニットにより非接触で識別可能とし、有底孔内にセットされる固定素子に関連してロッドの有効長を、イクロプロセッサ及び制御モータにより適応制御可能とする。
【0012】本発明を実施するにあたり、制御モータは、ロッドの一部に沿って設けられたラックに噛み合うウォームホイールが出力軸に設けられたステップモータで構成するのが有利である。
【0013】長さセンサを有効長の絶対値又は増分値を出力する磁気センサにより構成し、ロッドに設けられた磁気ストリップを磁気センサで読み取ることにより有効長さを計測可能とするのが有利である。
【0014】好適には、固定素子の識別手段は、例えば固定素子における適宜の表面又は内部に設けられた小型バーコード、共振フィルム回路又はトランスポンダで構成し、基材中に形成する有底孔の深さ情報のみならず、関連する孔径、ドリル長さ、又はドリル形式等の情報も記録した担体とする。これらの情報は、マイクロプロセッサによる制御のための入力情報として、送受信ユニット及びマイクロプロセッサを収めたハウジングに配置されたディスプレイ上に表示することができる。
【0015】送受信ユニットは、固定素子に設けられる識別手段の構成に応じて、レーザ・スキャナ/光センサ、又は周波数変化型若しくは搬送周波数変調型の無線送受信器で構成することが可能である。
【0016】深さゲージは工具装置における工具ホルダの近傍に固定可能とし、特に、工具装置における補助グリップにねじ等で固定可能とするのが好適である。
【0017】深さゲージは、工具ホルダ近傍の固定領域でスリップリング若しくは接点プラグを介して、又は接続プラグを有するフレキシブル導体を介して、工具装置に内蔵したエネルギ源に接続するのが有利である。
【0018】エネルギ源は、バッテリー、蓄電池又は放電用コンデンサで構成することが可能であり、これらは工具装置における補助グリップに内蔵するのに好適である。
【0019】蓄電池又は放電用コンデンサで構成するエネルギ源は、整流素子を介してトランスの二次巻線を構成するコイルに接続し、このコイルに一次巻線として機能する電気的駆動手段のコイル、例えばステータコイルが発生する磁束を貫通させ、これにより使用時に深さゲージに対してエネルギを供給可能とすることができる。
【0020】
【実施の形態】以下、本発明を図示の好適な実施形態について更に詳述する。
【0021】図1に示す深さゲージ1は、手持式工具装置2により形成される有底孔の深さを規制するものであり、その有効長Lを調整し得るよう、工具装置2の工具軸線Aと平行に所定範囲内で可動とされた、座屈荷重に対する十分な曲げ剛性を有するロッド3を具えている。エネルギ源4によりエネルギが供給される制御用のステップモータ5をロッド3に関連させて配置する。ステップモータ5に出力軸にウォームホイールを設け、このウォームホイールをロッド3の軸線方向に設けられたラックと噛み合わせる。ステップモータ5は、長さセンサ10及び送受信ユニット7と共に、ロッド3の有効長Lを適応制御可能とするマイクロプロセッサ6に接続する。送受信ユニット7は、周波数変化型の無線送受信器で構成する。この送受信ユニット7により、交信範囲内にあるアンカー等の固定素子に、振動フィルム回路として結合されている識別手段8の情報を読み取る。マイクロプロセッサ6に接続される長さセンサ10は、ロッド3の有効長Lを計測できるよう、ロッド3に関連させて配置する。深さゲージ1は、工具装置2における工具ホルダの近傍で、ねじ等の固定手段により補助グリップ11に固定する。補助グリップ11にエネルギ源4としての蓄電池を内蔵し、この蓄電池は整流素子13を介してトランスの二次巻線として機能するコイル14に接続する。コイル14には、一次巻線として機能する工具装置1のステータコイル15、いわゆる励起コイルが発生する磁束を貫通させる。深さゲージ1のハウジング上にディスプレイ16を配置して、所要の識別データを表示可能とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による手持式工具深さゲージ用の深度ストッパーの好適な実施形態を示す説明図である。
【符号の説明】
1 深さゲージ
2 手持式工具装置
3 ロッド
4 エネルギ源
5 制御モータ
6 マイクロプロセッサ
7 送受信ユニット
8 識別手段
9 固定素子
10 長さセンサ
11 補助グリップ
14,15 コイル
16 ディスプレイ
A 工具軸線
L ロッドの有効長

【特許請求の範囲】
【請求項1】 手持式工具装置(2)により形成される有底孔の深さを規制するための深さゲージであって、その有効長(L)を調整し得るよう、工具装置(2)の工具軸線(A)と平行に所定範囲内で可動とされた、座屈荷重に対する十分な曲げ剛性を有するロッド(3)を具え、エネルギ源(4)によりエネルギが供給される制御モータ(5)を前記ロッド(3)に関連させて配置し、該制御モータ(5)を、長さセンサ(10)及び送受信ユニット(7)と共にマイクロプロセッサ(6)に接続し、交信範囲内にある固定素子(9)に設けられている識別手段(8)を該送受信ユニット(7)により非接触で識別可能とし、前記有底孔内にセットされる固定素子(9)に関連して前記ロッド(3)の有効長(L)を、前記マイクロプロセッサ(6)及び制御モータ(5)により適応制御可能としたことを特徴とする深さゲージ。
【請求項2】 請求項1に記載された深さゲージにおいて、前記送受信ユニット(7)をレーザ・スキャナ/光センサ、又は周波数変化型若しくは搬送周波数変調型の無線送受信器で構成し、前記識別手段(8)をバーコード、共振フィルム回路又はトランスポンダで構成したことを特徴とする深さゲージ。
【請求項3】 請求項1又は2に記載された深さゲージであって、該深さゲージを工具装置(2)における補助グリップ(11)に設けたことを特徴とする深さゲージ。
【請求項4】 請求項1〜3の何れか一項に記載された深さゲージにおいて、前記マイクロプロセッサ(6)に接続されるディスプレイ(16)を、ハウジング上に視認可能に配置したことを特徴とする深さゲージ。
【請求項5】 請求項1〜4の何れか一項に記載された深さゲージにおいて、前記エネルギ源(4)を前記工具装置(2)に配置すると共に、導電性接点及び/又は導体を介して深さゲージに接続したことを特徴とする深さゲージ。
【請求項6】 請求項4記載の深さゲージにおいて、前記エネルギ源(4)を深さゲージ内に一体的に組み込んだことを特徴とする深さゲージ。
【請求項7】 請求項6記載の深さゲージにおいて、前記エネルギ源(4)を前記工具装置(2)における補助グリップ(11)内に一体的に組み込んだことを特徴とする深さゲージ。
【請求項8】 請求項1〜7の何れか一項に記載された深さゲージにおいて、前記エネルギ源(4)に整流素子を介してコイル(14)を接続し、該コイル(14)が発生する磁束を、前記工具装置(2)における励起コイル(15)を貫通させることを特徴とする深さゲージ。
【請求項9】 手持式工具装置(2)により形成される有底孔内にセットされる固定素子(9)であって、該有底孔の深さを規制すべく、請求項1〜8の何れか一項に記載された深さゲージにより識別可能な、バーコード、共振フィルム回路又はトランスポンダ等よりなる識別手段(8)を具えることを特徴とする固定素子。
【請求項10】 請求項1〜8の何れか一項に記載された手持式工具装置用深さゲージの制御方法であって:前記固定素子(9)を非接触で識別する段階と;その固定素子(9)に関連して前記深さゲージの有効長(L)を適応制御する段階と;を具えることを特徴とする制御方法。

【図1】
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【公開番号】特開2002−59306(P2002−59306A)
【公開日】平成14年2月26日(2002.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−178230(P2001−178230)
【出願日】平成13年6月13日(2001.6.13)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【Fターム(参考)】