説明

手術用機器(surgicaldevice)のコーティング

【課題】手術用機器のコーティング方法を提供する。
【解決手段】コーティングは、静電粉体塗装により行う。機器は、介入処置および移植装置を含む外科手術又は診断法において使用される機器である。コーティングは静電的に塗布されるため、従来の液状噴霧コーティングのように噴霧の「視線」に入る部分だけではなく、機器全体に引き付けられる。前記工程は、均一に再現性のある量を付着させることができるため、薬物溶出コーティングを正確にステント及び他の手術用機器に塗布することができ、薬物放出の優れた制御ができる。また、薬物溶出コーティングは一工程で塗布できるが、特定の薬物放出特性を得たい場合には複数層の塗布が容易に可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術用機器のコーティングに関し、限定はされないが、特にステント及び心臓弁のコーティングに関する。他の機器としては、ペースメーカー、カテーテル、整形外科インプラント及び人工歯根、人工股関節及び他の人工関節、人工臓器、神経刺激装置、心臓除細動機、透析チューブ、人工心肺用チューブが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
このような機器は、様々な病状の治療のために身体に挿入されるが、身体には「異物」であり、免疫反応及びその他の反応を引き起こすため、身体の免疫反応及び防御反応を抑える薬物治療が提案されている。しかしながら、このような治療は非常に危険であり、近年、異常な炎症反応を誘発せず、アレルギー又は免疫反応を引き起こさない生体適合性材料の使用の試みが行われている。すなわち、生体適合性材料(生体適合物質(biomaterials))で作られた若しくはコートされた機器の使用は、現代の医療において着実に増加しており、また、身体中の標的部分へ薬物を送る代替薬物送達システムは、広く提供されている。
【0003】
ステントは、弱くなった身体構造を治療するために、体内の管(vessels)、器官の管(tracts)又は管路(ducts)などの身体構造、例えば血管、尿管及び胆管に移植できる小さな機械装置である。血管の場合、ステントは、通常、血管に移植されることで病気が原因で引き起こされる狭窄又は閉塞を治療したり、崩壊しないように血管を補強したり、或いは血管が例えば、動脈瘤のような異常拡張しないように予防したりする。
【0004】
通常、網目又は孔あき管を含むステントは、直接、閉鎖した部位又は狭窄した部位に挿入され、例えば、バルーンによって機械的に拡張させることで閉鎖した部位の管を再び開く。
【0005】
介入心臓病学において、冠動脈ステントの使用は急激に増加しており、主要なセンターでは80%もの症例においてステントを使用している。近年、薬物の局部送達用及び再狭窄の予防用ステントコーティングに非常に関心が集まっており、生体適合性コーティング層は薬物担持層としてしばしば使用される。使用される物質は、合成物質〔例:ポリウレタン、ポリ−L乳酸、ダクロン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(アクリル酸エチル)/ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ塩化ビニル、シリコーン、コラーゲン又は酸化イリジウム〕又は天然素材の物質〔例えば、へパリン、ホスホコリン〕のどちらであってもよい。
【0006】
ステントは一般的には金属構造で、様々なデザインがある。このようなものとしては、自己展開型ステント、バルーン拡張型コイルステント、バルーン拡張型管状ステント及びバルーン拡張型ハイブリッドステントがある。金属は、通常、ステンレス鋼であるが、例えば、コバルト合金、ニチノール(登録商標)及びタンタルもまた使用される。また、心臓弁などの他の機器も金属製であり、一般的に、金属基材へのコーティングを確実に付着させる前処理段階が必要であり、特に、高分子コーティングの場合では必要となる。
【0007】
また、特にステントのデザインは一般的に複雑で、従来の方法では、均一に再現性をもって機器をコートするのは本質的に難しい。通常、コーティングは多層構造であり、薬物含有層は、技術的に単純な噴霧工程により通常塗布される。例えば、含浸コーティング(浸漬コーティング)を伴う工程によって下塗層が形成された後、下塗上に薬物を含んだ物質のエアロゾル吹付を行ってコーティングされる。また、熱収縮又は蒸着がステントへのコーティング物質の塗布に用いられることもある。
【0008】
このような方法により塗布されたコーティングはばらつき、多層が塗布されると、該ばらつきの度合いは大きくなる。このような状況で、コーティングがばらつけば、薬物放出の制御が不十分になる。最適な薬物の送達には均一に再現性のあるコートをされたステントが必要である。基材、特に複合形状の基材の不均一なコーティングに関する類似の問題は、他の手術用機器、例えば、心臓弁の製造に見られる。
【0009】
我々は、活性物質の含有の有無に関わらず均一に再現性のあるコーティングを形成できる見込みがあり、また下塗の必要性がないことから、静電方法によれば、薬学的基準を満たしたコーティングを異なる形状の金属及び他の基材に、十分に塗布できることを発見した。
【発明の開示】
【0010】
従って、本発明は、コーティングを静電粉体塗装により行う手術用機器のコーティング方法を提供する。
【0011】
本発明の方法にはいくつもの利点がある。コーティングは静電的に塗布されるため、従来の液状噴霧コーティングの場合のように噴霧の「視線」に入る部分だけでなく、機器全体に引き付けられる。また、前記工程は制御可能であり、均一に再現できる量を付着させることができる。ゆえに、薬物溶出コーティングは、他の技術によるものより正確に及び一貫してステント及び他の手術用機器に塗布することができ、薬物放出のより良い制御ができる。また、薬物溶出コーティングは一工程で塗布できるので、複数のコーティング層は必要ないが、薬物の放出特性を得たい場合には、複数層の塗布は容易に可能である。
【0012】
機器は、例えば血管内留置のためのような埋め込み型装置のみならず介入装置も含む外科的処置又は診断方法に使用する医療機器、例えば活性物質の局部送達に好適な装置であり、また、記載すべきものとして、人工歯根、神経刺激装置、及び心臓除細動機がある。
【0013】
従って、本発明は、静電粉体塗装によりコートした、人体又は動物の体に移植するための、若しくは医学的介入処置のための医療機器もまた提供する。
【0014】
コーティングに使用した粉体には、留置後、身体へ送達する活性物質が含まれる。活性物質は、例えば診断又は他の検査若しくは介入処置に関連して投与される活性物質と同様、例えば、病気又は他の症状の予防及び/又は治療のための人体又は動物の体への投与用である。
【0015】
機器は、金属製医療機器、或いは絶縁体材料又は半導体材料、例えば、プラスチック、セラミック、石英、生体活性ガラスであるが、このような絶縁体及び半導体材料は一般的に、厚さ1mm未満でなくてはならない。
【0016】
機器のコーティングの厚さは、一般的には100ミクロン未満で、通常、30ミクロン以下となる。
【0017】
例えばステントは、例えばバルーンカテーテル上での送達及び配置に合った小径及び長さで製造した後、必要な部位に留置する際に、例えばバルーンカテーテルのバルーン部分の拡張により大径、大口径に拡張させる。30もの異なるステントデザインが世界で使用されている。これらは、ステントの構造的特徴に従って分類でき、溝付きチューブステント(例:Palmaz-Schatz)、第二世代管状ステント(例:Crown, MultiLink, NIR)、自己拡張型ステント(例Wallstent)、コイルステント(例:Crossflex、Gianturco-Roubin)及びモジュラー式ジグザグステント(例:AVE GFX)が挙げられる。ステントの直径(拡張しない)は、例えば、約1.25mm〜4.75mmの範囲に渡り、長さは約5mm〜60mmで良い。
【0018】
基材への粉体物質の静電塗布は知られている。方法は、電子写真及びレントゲン写真の分野において既に開発されており、適切な方法の実施例については、例えば、カリフォルニア州モーガンヒルのLaplacian Press発行のL.B. Schein著「電子写真及び開発物理学」改訂第二版で説明されている。また、医薬品分野における粉体物質の静電塗布は、例えば、WO92/14451、WO96/35413、及びWO96/35516からも知られている。しかしながら、ステント又は身体に移植する他の機器のこのようなコーティング方法は開示されていない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の方法では、好ましくは粉体が成形した基材上に静電的に付着し、その後、例えば、赤外放射及び/又は対流加熱により処理して基材上に連続層を形成する。
【0020】
特に、手術用機器は金属基材、例えば、ステンレス鋼を含んでもよい。金属担体は高伝導であるため、静電塗装するのに優れた基材を提供する。ステントは、例えば、薄肉金属チューブで作られているのが好ましい。適切な金属としては、生体適合性を有し、放射線不透過性であるステンレス鋼、ニチノール(登録商標)、タンタル、白金、白金/タングステンが挙げられる。その他の基材として、チタニウム合金があり、その他の考えられる機器としては、心臓弁、ペースメーカー、カテーテル、整形外科インプラント、人工関節、人工臓器、カテーテルシース及びカテーテルイントロデューサー、薬物注入カテーテル及びガイドワイヤが挙げられる。
【0021】
粉体物質は静電的に帯電し、電界が機器の領域に存在することで粉体物質が機器上に付着することが好ましい。例えば、粉体物質は、一方の極性の記号で静電的に帯電でき、同じ極性の電位は粉体物質の供給源の領域に維持でき、機器は低電位、接地電位又は反対電位に維持することもできる。例えば、粉体物質は、静電的に正に帯電でき、正の電位は粉体物質の供給源の領域に維持でき、機器は接地電位に維持することもできる。粉体物質は、永久的な正味荷電又は一時的な正味荷電を有することができる。粉体物質を帯電させるためには、いかなる適切な方法も使用できる。有効的には、粉体物質上の静電帯電は、(従来のコピー印刷によくあるように)摩擦電気帯電(triboelectric charging)又はコロナ荷電(corona charging)により印加される。帯電制御剤の使用により、粒子は特定の帯電記号に帯電され、及び特定の帯電量に帯電される。
【0022】
電界は、安定した直流電圧であるバイアス電圧により提供されるのが好ましい。交流電圧は、直流電圧より実質的に高電圧であるが、バイアス電圧上に重ね合わすのが好ましい。交流電圧は、最大振幅値が直流バイアス電圧最大値よりも大きいことが好ましく、2倍を超えて大きいことがより好ましい。直流バイアス電圧は100V〜2,000Vの範囲で、好ましくは200V〜1,200Vの範囲である。交流電圧は、最大振幅値が5,000Vのオーダーで、1〜15kHzの範囲の周波数を有することができる。
【0023】
良好かつ均一なコーティングの達成は、粉体物質の供給源と機器の間隔が比較的小さい場合、つまり、10mm未満の場合、容易であるが、2又は3cmまでの間隔でも可能である。好ましい間隔は、0.3mm〜2〜3cmの範囲で、例えば、5mmまで、より好ましくは0.5mm〜5mmの範囲である。
【0024】
該方法には、バイアス電圧を印加して粉体物質の供給源と機器間に電界を生ぜしめるステップ、粉体物質が電界と帯電した粉体物質との電界相互作用によって機器上へ運ばれ、機器上に帯電した粉体物質が存在することにより機器上に電気帯電を起こし、これにより粉体物質の供給源及び機器間のバイアス電圧により生じた電界が減少して、静電的に帯電した粉体物質を機器に塗布するステップ、 及び静電的に帯電した粉体物質の塗布が、粉体物質の供給源及び機器間の電界が十分に小さくなり、粉体物質が電界により機器上に運ばれることが、実質的に終了するまで継続されるステップを含んでいる。
【0025】
また、帯電物質は、既に部分的にコートした機器上に存在しており、電界の進行を局部的に変え、受入材料を、隣接するコートしていない部分へ誘導する傾向がある。この結果、コートしていない部分が粉体供給源の視線上でないときでも、均一なコーティングができる。また、このような方法を使用することにより、粉体物質の供給源から機器の間隔が、ある部分では他の部分と相違する場合でも、機器の均一なコーティングを促進させる。それは、機器が複雑な形状の場合、特に有利である。また、該方法は、粉体が機器上に付着する比率に関わらず、均一なコーティングを促進し、付着中、機器及び粉体物質の供給源間に相対的な動きがあるときに、採用することができる。一つのコーティング層の厚さが求められる最終的厚さほど厚くない場合、一つ以上の他のコーティング層を付着することができ、所望により、更に層が付着するため直流バイアス電圧は増大し、更に層を塗布する前に、層は融合される。
【0026】
機器のコーティングに採用される物理的な配置の選択は、コートする機器の形状による。例えば、単一機器をコートする別個の複数の粉体物質の供給源を提供でき、及び/又は複雑な形状の供給源を提供でき、及び/又は複雑な形状の電界を提供することが可能である。また、粉体物質の供給源及び/又は機器の配置をし、粉体物質を塗布する過程で、これを動かすことも可能である。機器が一般的な円筒型である場合、粉体物質の供給源は、機器から放射状に間隔をあけて配置することができ、機器は粉体物質の供給源に対して回転することができる。しかしながら、供給源及び機器の異なる部分との間隔の相違は、特に、粉体物質の塗布が、物質の供給源及び機器間の電界が実質的になくなるまで継続される場合、必ずしも不均一なコーティングとなるものではない。
【0027】
また、適切な方法及び装置の更なる詳細に関しては、WO92/14451、WO96/35516、WO01/43727、WO02/49771、WO03/061841及びWO04/24339、並びに、同時係属出願PCT/GB/2004/002618、GB0330171.0及びGB0407312.8、に記載があり、これらは引用例として本文と図面をここに入れ込んでいる。
【0028】
また、本発明は、手術用機器のコーティング装置、帯電した粉体物質の供給源及び粉体物質の供給源と機器間にバイアス電圧を印加して、粉体物質が機器に塗布するようにそれらの間に電界を生じさせる電圧源を含む装置を提供している。装置のその他のオプション機能は、本発明の方法に関して記載している他の箇所から明白となる。装置は、ここに記載のいかなる方法も実行するのに適している。
【0029】
静電塗布に適し、基材上でフィルムコーティング処理可能な粉体コーティング物質及びそれらの使用工程に関しては、例えば、WO96/35413、WO98/20861、WO98/20863及びWO01/57144に記載があり、これらは引用例として本文と図面をここに入れ込んでいる。有効的には、粉体物質は、粉体物質成分の溶融押し出しにより、若しくは、粒子中に異なる成分物質を共に含む粒子の他の製造方法により製造する。
【0030】
通常、粉体物質には可溶性の成分が含まれる。可溶性コーティング材としては、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ{ビス(カルボキシラトフェノキシ)−ホスファゼン}、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(l−リジン)、ポリ(エチレン・グリコール)、ポリ(D−グルコサミン)、ポリ(l−グルタミン酸)、ポリ(ジアリルジメチルアミン)、ポリ(エチレンイミン)、ヒドロキシフラーレン又は長側鎖フラーレン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。また、ポリラクチドは、特にポリ−L−ラクチドが使用でき、(高分子量ポリ−L−乳酸)が生分解可能な特殊な形状である。特に、PLLA(ポリ−L−ラクチド)、PGA(ポリ−グリコリド)、PDLLA/PGA(DL−ラクチド−グリコリド共重合体)、PLLA/PCL(L−ラクチド−カプロラクトン共重合体)、並びにPAA/cys(ポリ−アクリル酸−システイン)は記載すべきである。他の生体適合性コーティングの例示として、ポリウレタン、メタクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ポリカプロラクトン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はテフロン(登録商標)、並びに塩化ホスホリルが挙げられる。
【0031】
他の適切な高分子結合剤成分(樹脂とも呼ばれる)としては、例を挙げるとアクリル重合体、アンモニオ−メタクリル酸エステル共重合体などのメタクリル酸塩重合体、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、多糖類で例えばセルロース・エーテル及びセルロースエステルの例としてヒドロキシプロピル・セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートなど、そしてポリマーのフタル酸誘導体が挙げられる。その他に記載すべきものとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロンなどのポリアミド、ポリウレア、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリスチレンそして生分解性高分子で例えばポリカプロラクトン、ポリ無水化物(polyanhydrides) 、ポリグリコリド、ポリヒドロキシブチラート、ポリヒドロキシバレレートなど、並びにまた、例えば糖アルコールで、例としてラクチトール、ソルビトール、キシリトール、ガラクチトール、マルチトールなど、そして糖で例えばショ糖、ブドウ糖、果糖、キシロース及びガラクトースなど、そして疎水性ワックス及び油脂類で例えば植物油及び硬化植物油(飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸)、例えば硬化ヒマシ油、カルナバ・ワックス並びに蜂ろうなど、そして親水性ワックス、ポリアルケン及びポリアルケン酸化物、ポリエチレン・グリコールなどの高分子でない結合剤が挙げられる。明らかに適切な物質は他にもあり得るため、上記は単なる例示にすぎない。一つ以上の可溶性物質が存在できる。好適な可溶性物質は、一般的に、粉体中の他の成分の結合剤として機能する。使用されるポリマーは、薬物放出速度制御特性(release-rate controlling properties)を有することができる。このようなポリマーの例示としては、ポリメタクリル酸、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、カルボキシメチルセルロース・カルシウム、アクリル酸重合体、ポリエチレン・グリコール、ポリエチレン酸化物、カラギーナン、酢酸セルロース、モノステアリン酸グリセリン、ゼイン等が挙げられる。キシリトール又は他の糖アルコールは、例えば、高分子結合剤が不溶性であるとき、溶解性を促進するために、高分子結合剤に添加することができる。不溶性成分には、所望により、例えば、熱硬化又はガンマ線、紫外線、高周波帯などのエネルギー照射処理の過程で硬化するポリマーを含んでもよい。異なる可溶性物質を使用する場合、それらが共に融合できるように相溶性があることが好ましい。
【0032】
粉体物質は、有効的には、ポリラクチド、ポリカプロラクトン、ポリビニルピロリドン、ポリ(アクリル酸)、メタクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、又はポリウレタンを含む。
【0033】
概して、粉体物質の含有量は、不溶性物質の少なくとも30重量%、通常、少なくとも35重量%、有効的には少なくとも8 0重量%であるべきで、例えば、可溶性物質は粉体の95重量%まで、例えば、85重量%まで構成することができる。ワックスが存在する場合、通常、粉体物質の6重量%以下、特に3重量%以下で、かつ、特に少なくとも1重量%存在し、例えば、1〜6重量%、特に1〜3重量%で存在することになる。
【0034】
塗布後、粉体コーティングは加熱により、好ましくは赤外線放射により被膜にコンバート(converted)できるが、他の形態としては電磁放射又は対流加熱が使用できる。通常、加熱に際するコーティングへの変化は、単なる物理的変化にすぎない。粉体物質は、その軟化点を超える温度まで加熱して、その後、そのガラス転移点(Tg)を下回る温度まで冷却することにより連続した固体コーティング(continuous solid coating)を形成することができる。例えば、150〜250℃の温度まで、例えば、1〜5分間、例えば3〜4分間加熱できる。粉体物質は1平方インチ当たり1001b未満の圧力で、好ましくは常圧で、250度未満の温度で可溶性であるのが好ましい。もう一つの方法として、例えば、粉体コーティングが硬化性ポリマーを含む場合、対流加熱及び/又は赤外線加熱により及び/又はガンマ線、紫外線又は高周波帯におけるエネルギー照射により処理して、連続架橋ポリマーコーティングを形成することができる。
【0035】
また、粉体物質には、例えば、一つ以上の薬物療法用薬又は診断用薬を含有できる。例えば、コーティングには再狭窄の治療用又予防用薬剤、抗凝固剤、抗血栓薬、抗菌剤、抗癌薬、抗血小板薬、免疫抑制剤、代謝拮抗剤、増殖抑制剤又は抗炎症薬を含有できる。また、ステント再狭窄と闘うために放射線(radiation)を管壁へ送達する型枠(platform)としてステントを使用することも記載すべきである。放射能の有効量は、ステント結合型(stent-bound)放射線源から管壁の全般に送達される。
【0036】
また、粉体物質は、有利には、可塑剤を含むことにより適切なレオロジー特性を備えることができる。適切な可塑剤の例示としては、クエン酸エチル及びポリウレタングリコールが挙げられる。可塑剤は、樹脂及び可塑剤の全量の例えば、50重量%まで、有効的には30重量%まで、好ましくは20重量%までの量を樹脂と共に使用できるが、その分量は、とりわけ、使用する特定の可塑剤による。可塑剤は、粉体物質の全重量に対して例えば、少なくとも2重量%、有利には、少なくとも5重量%存在させることができ、2〜30%、特に5〜20%の量が好ましい。
【0037】
好ましくは、粉体物質には、帯電制御機能を有する物質が含まれる。当該機能性は、上記メタクリル酸アンモニオポリマーの場合と同じように、ポリマー構造に組み込む(incorporated)ことができ、及び/又は、帯電速度をより速くするために、別個の帯電制御を有する添加物が備えられる。適切な帯電制御剤としては、例えば、サリチル酸亜鉛、サリチル酸マグネシウム及びサリチル酸カルシウム等のサリチル酸金属、第四アンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、トリメチルテトラデシル臭化アンモニウム(セトリミド)、並びにシクロデキストリン及びそれらの付加化合物が挙げられる。一つ以上の帯電制御剤を使用することができる。帯電制御剤は、粉体物質の全重量に対し、例えば、10重量%までの量で、特に少なくとも1重量%とし、例えば、1〜2重量%存在させることができる。
【0038】
また、粉体物質は、粉体粒子の外表面に存在する流動助剤(flow aid)を含むことにより、粒子間の粘着力及び/又は他の力を減じることができる。適切な流動助剤(表面添加剤としても知られている)例えば、コロイダルシリカ、ヒュームド二酸化チタン、酸化亜鉛又はアルミナ等の金属酸化物、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウム等のステアリン酸金属塩、タルク、機能的及び非機能的ワックス、及びポリメチルメタクリル酸ビーズ、フルオロポリマービーズ等のポリマービーズなどが挙げられる。また、このような物質は摩擦電気の帯電性を向上させることもできる。流動助剤、例えば、シリカ及び二酸化チタンを混合することを特記する必要がある。粉体物質は例えば0〜3重量%、有利には、少なくとも0.1重量%、例えば0.2〜2.5重量%の表面添加流動助剤(surface additive flow aid)を含有できる。
【0039】
また、粉体物質は、例えばレシチン等の分散剤を含むことができる。分散成分は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、又はノニオン性界面活性剤が好ましいが、他にも、通常「界面活性剤」とは呼ばれないが、こと似た効果を有する成分とすることができる。分散成分は、共溶媒とすることができる。分散成分は、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドキュセート・ナトリウム、ツイーン(Tweens)(ソルビタン脂肪酸エステル)、ポリオキサマー及びセトステアリルアルコールの一つ以上である。好適には、粉体物質は、粉体物質の重量に対して分散成分を少なくとも0.5重量%、例えば少なくとも1重量%、例えば2重量%〜5重量%含む。
【0040】
粉体物質は40℃〜180℃の範囲、例えば、40℃〜120℃の範囲のガラス転移点(Tg)を有することが好ましい。有利には、該物質は50℃〜100℃の範囲のガラス転移点を有する。好適な最低ガラス転移点は55℃で、好適な最大ガラス転移点は70℃である。従って、より有利には、該物質は55℃〜70℃の範囲のガラス転移点を有する。
【0041】
該物質粒子の体積の少なくとも50%は100μm以下の粒子径を有するのが好ましい。有利には、該物質粒子の体積の少なくとも50%は、5μm〜40μmの範囲の粒子径を有する。さらに有利には、該物質粒子の体積の少なくとも50%は、10〜25μmの範囲の粒子径を有する。
【0042】
粒子径が狭い範囲の粉体については特記する必要がある。粒子径の分布は、例えば、幾何学的標準偏差(「GSD」)の数値d90/d50又はd50/d10で示すことができる。ここで、d90は、粒子の体積の90%がこの数値より低いところの(及び10%の場合が高いところの)粒子径を示し、d10は、粒子の体積の10%がこの数値より低いところの(及び90%の場合は高いところの)粒子径を示し、d50は粒子径の平均値を示す。有利には、平均値(d50)が5〜40μm、例えば、10〜25μmの範囲である。d90/d50は1.5以下であるのが好ましく、特に1.35以下、より特には1.32以下、例えば、1.2〜1.5、特に1.25〜1.35、より特には1.27〜1.32の範囲であるのが好ましく、粒子径は例えば、粒度測定器(コールター・カウンター)により測定される。従って、例えば、該粉体は、d50=10μm、d90=13μm、d10=7μmであり、d90/d50=1.3及びd50/d10=1.4とすることができる。
【0043】
図1において、帯電した粉体の供給源を組み込んだ粉体供給システムAは、ステントCに隣接しているが、ステントCから離れた間隔で備わっている。電圧源は、この特定の実施例において、粉体供給システムへ正の電圧を印加するためにつながれるが、ステントの支持体は接地電位にて維持される。前述の通り、印加した電位は直流バイアス電位及び交流電位の両方で構成されている。粉体は正電位に帯電される。使用中、電界と帯電した粉体との相互作用の結果として、粉体は、粉体供給システムの粉体供給源側からステントCへ移動する。粉体の横断移動(transferring across)は、図1の矢印Bによって示されている。ステントCは、図示されない手段により回転することにより、ステントのあらゆる側面のコーティングを確実なものとする。帯電した粉体が、ステントCに移送されるのと同様に、粉体供給システム及びステント間の電界が減じられる。所望により、正の電圧は、ステントが回転する状態で、粉体が粉体供給源側より移送されなくなるような低いレベルに電界が減じられるまで維持することができる。
【0044】
塗布後、ステントに付着した粉体が赤外線加熱器(図示されていない)により加熱することで粉体を連続層にコンバートして、冷却させてコートされたステントを提供できる。
【0045】
図2a及び2bは、実施例として、メタクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体を含み、53mm未満の粒子径100%を有する粉体でコートした直径約3mmの銅コイルの拡大像である。コイルと粉体供給源の最も近い部分の間隔が1mmだった。コイルは60秒間3000V直流磁界を使ってコートされ、コートしたコイルは30秒間200℃の温度に設定して温風蒸気の環境下で融合させた。コーティングの厚さは、約50ミクロンであった。この場合、融解温度は、早く融合させるために選ばれた。該物質の融合は、低温、例えば90秒間約120℃の低い温度で得ることができた。また、コーティング時間短縮は、コイルを回転させることによって得られた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
本発明は、下記の添付図面を引用し単なる実施例として、より詳細に説明する。
【0047】
【図1】図1は、本発明の工程を実施するのに適した装置の一部の概略図である。
【0048】
【図2a】図2aは、本発明の静電粉体塗装の工程に従いコートした銅コイル(copper coil)の(拡大)像である。
【図2b】図2bは、本発明の静電粉体塗装の工程に従いコートした銅コイル(copper coil)の(拡大)像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングを静電粉体塗装(electrostatic powder deposition) により行う、手術用機器のコーティング方法。
【請求項2】
塗布後、前記粉体を加熱し、凝集した(coherent)コーティング層を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
人体若しくは動物の体に移植する(implantation)ための機器または医学的介入処置(medical interventional procedure)のための機器のコーティング方法であって、前記コーティングを静電粉体塗装によって行い、その後前記粉体を加熱し、凝集(coherent)したコーティング層を形成する、機器のコーティング方法。
【請求項4】
前記粉体物質がポリラクチド、ポリカプロラクトン、ポリビニルピロリドン、ポリ(アクリル酸)、ポリウレタン、又はメタクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体を含む請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記機器から0.5mm〜5mmの範囲の距離間隔をあけた供給源から前記粉体物質を塗布する、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の方法であって、
バイアス電圧を印加して前記粉体物質の供給源と前記機器の間に電界を生じさせるステップと、
帯電した前記粉体物質と当該電界との相互作用によって前記粉体物質が前記機器上へ移動し、帯電した前記粉体物質が前記機器上に存在することにより前記機器が電気帯電し、これにより前記粉体物質の供給源と前記機器の間のバイアス電圧により生じた前記電界が減少することにより、静電的に帯電した前記粉体物質を前記機器に塗布するステップと、
前記粉体物質の供給源と前記機器の間の電界が十分に小さくなり、前記粉体物質が前記電界により基材(substrate)上へ付着が実質的に終了するまで前記静電的に帯電した粉体物質を、前記機器に塗布し続けるステップとを含む方法。
【請求項7】
前記機器は活性物質を送達するためのものであり、当該活性物質は前記コーティングに含まれる、請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記機器は診断用薬を送達するためのものであり、当該診断用薬は前記コーティングに含まれる、請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記コーティングには放射能源が含まれる、請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記コーティングに再狭窄の治療用薬剤又は予防用薬剤、抗凝血剤、抗血栓剤、抗菌性剤、抗癌薬、抗血小板薬、免疫抑制剤、代謝拮抗剤、抗増殖剤、若しくは抗炎症薬を含む請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記機器がステントである、請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記機器が心臓弁である、請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記機器が、ペースメーカー、カテーテル、整形外科インプラント、人工歯根、人工股関節又は他の人工関節、人工臓器、神経刺激装置、心臓除細動機、透析チューブ、若しくは人工心肺用チューブである請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記機器が金属製である、請求項1乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1及至14のいずれかに記載の方法によりコートした請求項1又は請求項3に記載の機器。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【公表番号】特表2007−501044(P2007−501044A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522412(P2006−522412)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003405
【国際公開番号】WO2005/014069
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(502189797)フォウカス ファーマスーティカルズ リミティド (6)
【住所又は居所原語表記】10 Kings Hill Avenue, Kings Hill, West Malling, Kent ME19 4PQ UNITED KINGDOM
【Fターム(参考)】