説明

手術痛の治療のための麻薬性乳剤

本発明は、対象において手術後疼痛の治療をするための方法及び組成物を提供する。本発明の方法は、手術後疼痛の治療のため、対象に、例えばフェンタニル乳剤のような麻薬性乳剤の有効量を投与することである。特定の具体的態様としては、乳剤は、麻薬活性のある薬剤、油脂、水、及び界面活性剤を含む。また、本乳剤を含む、本発明の乳剤並びにキットの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願のクロスレファレンス
本願は、2008年5月15日に出願された61/053571の米国仮特許出願について、35USC第119条(e)による利益を主張し、その開示は本明細書で参照により引用される。
【0002】
導入
疼痛は、組織の傷害が実際にある、又は可能性があることに関連する、不愉快な感覚及び感情の経験として定義される。これは生理的及び物理的因子の両方により影響される複雑なプロセスによる。疼痛は典型的には主観的であり、多くのヘルスケアの専門家は疼痛を有効に評価又は治療するように訓練されていない。
【0003】
2000万人を超える患者が、毎年外科的手術を受ける。手術後疼痛(切開後の疼痛(post-incisional pain)と交換可能である)、又は手術後又外傷後に起こる疼痛は深刻であり、しばしば解決が困難な問題である。
【0004】
疼痛は通常、手術部位の近くに局在する。手術後疼痛は、2つの臨床的に重要な態様を持ち得、それはすなわち休息痛、つまり患者が動いていない時に起こる疼痛、及び、動きによって悪化する機械的な(咳/くしゃみ、ベッドから起き出すこと、理学療法など)疼痛である。大手術後の手術後疼痛の管理における主要な問題は、現在用いられている薬物が、回復を遅らせ、入院を長引かせ、及び弱っている特定の対象に深刻な合併症のリスクを与える副作用を有することである。
【背景技術】
【0005】
手術後疼痛の治療に用いられていた医薬の3つの大きなクラスは、オピオイド系鎮痛剤、局所麻酔剤及び非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)である。これらの薬物のうち2つのクラス、オピオイド系鎮痛剤及びNSAIDsは、典型的には全身的に投与されるのに対し、局所麻酔剤(例えば、チャネルブロッカー)は手術において非全身的に投与される。
【0006】
手術後の疼痛の緩和のための薬物の全身投与は、しばしば不適当である。例えば、オピオイドの全身投与は、吐き気、腸機能の阻害、尿閉、肺機能の阻害、心血管効果及び鎮静作用を起こしうる。
【0007】
手術後疼痛の治療のために用いられてきたオピオイド系鎮痛剤の1つは、フェンタニルである。フェンタニルの一般名は、N-(-フェネチル-4 ピペリジル)プロピオンアニリドであり、注射可能な用いやすい鎮痛剤である。米国特許第3,164,600を参照されたい。フェンタニルは、オピオイドアゴニストであり、モルヒネ及びメペリジンのようなオピオイドの薬力学的効果の多くを共有する。しかし、これらのオピオイドと比較し、フェンタニルは、ほとんど催眠作用を示さず、ヒスタミン放出をほとんど引き起こさず、呼吸抑制が一時的である。フェンタニルは、静脈内、口腔内(トローチ剤-経粘膜)及び経皮投与として市販されている。
【0008】
これまで様々な注射用フェンタニル製剤が開発されてきた。そのような製剤の1つとしては、クエン酸フェンタニル、注射用USP純水、及びpHを6.5にするための十分な水酸化ナトリウムを含む、商品名SUBLIMAZE(登録商標)として合衆国で販売されているクエン酸フェンタニル組成物がある。異なるクエン酸フェンタニル組成物が欧州では、フェンタニル及びpH調製していないUSP純水を含む、商品名フェンタネスト(登録商標)として販売されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
注射用フェンタニル製剤は実用的であるが、そのような製剤にも欠点はある。例えば、注射用フェンタニル製剤は、例えば、呼吸抑制、鎮静、及び目眩のような望ましくない中枢神経系介在性の副作用を起こしうる。
【0010】
そのため、現在の注射製剤と同様の有効性を有し、中枢神経系介在性の副作用を減少させた、注射製剤を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明は、対象の手術後疼痛を治療する方法及び組成物を提供する。その方法としては、対象に、例えばフェンタニル乳剤である麻薬性乳剤の有効量を投与することにより手術後疼痛を治療する。特定の具体的態様としては、乳剤は、麻薬活性のある薬剤、油脂、水、及び界面活性剤を含む。また、本発明の乳剤並びに乳剤を含むキットの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、マウスにおいて疼痛関連スコア(pain-related score)対時間でフェンタネスト(登録商標)の効果を示す。
【図2】図2は、マウスにおいて疼痛関連スコア対時間でフェンタニル乳剤Aの効果を示す。
【図3】図3は、フェンタネスト(登録商標)及びフェンタニル乳剤Aによる疼痛の阻害を示す。効果は、曲線下面積で示す(フェンタネスト(登録商標)の%)。
【図4】図4は、フェンタネスト(登録商標)及びフェンタニル乳剤Aにより誘導されたストラウブ挙尾反応の持続時間を示す。製剤0.10mLを静脈内に投与した。ストラウブ挙尾反応を投与後1時間観察し、反応の持続時間を合計した。結果は、反応を示した動物について平均±標準誤差で示す。カラムにおける数字は、ストラウブ挙尾反応を示した動物の数を示す。各群6匹とし、フェンタネスト(登録商標)又はフェンタニル乳剤Aを投与した。
【図5】図5は、フェンタネスト(登録商標)により誘導された一方向性(one-direction)自発運動(例えば、巡回行動(round behavior)の持続時間)を示す。フェンタネスト(登録商標)及び担体0.10mLを静脈内に投与した。6動物の結果を平均±標準誤差で示す。p<0.05 (Dunnett多重比較による)。
【図6】図6は、フェンタニル乳剤Aにより誘導された一方向性自発運動(例えば、巡回行動の持続時間)を示す。フェンタニル乳剤A及び担体0.10mLを静脈内に投与した。結果は、6動物の結果を平均±標準誤差で示す。p<0.05 (Dunnett多重比較による)。
【図7】図7は、フェンタネスト及びフェンタニル乳剤Aにより誘導された一方向性自発運動(例えば、巡回行動の持続時間)を示す。フェンタニル乳剤A及び担体0.10mLを静脈内に投与した。結果は、6動物の結果を平均±標準誤差で示す。p<0.05 (Dunnett多重比較による)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、対象に手術後疼痛の治療をするための方法及び組成物を提供する。本発明の方法としては、手術後疼痛の治療のため、対象に、例えばフェンタニル乳剤のような麻薬性乳剤の有効量を投与する。本発明の方法としては、手術後疼痛の治療のため、対象にフェンタニル乳剤のような麻薬性乳剤の有効量を投与する。特定の具体的態様としては、乳剤は麻薬活性のある薬剤、油脂、水、及び界面活性剤を含む。また、本発明は、本発明の乳剤、並びに乳剤を含むキットの製造方法を提供する。
【0014】
本発明を詳述する前に、本発明は、記載された特定の具体的態様に限定されるものではなく、多様であることは当然理解されるであろう。また、本発明の範囲は、添付された請求の範囲においてのみ限定されるため、本明細書中において用いられる用語は、特定の具体的態様を説明する目的で用いられており、限定することを意図するものではない。
【0015】
数値の範囲が与えられる場合、それは、文脈において明らかにその他を示さない限り、下限の10分の1まで、範囲の上限及び下限値、及び示した範囲における他の示した又は間のいかなる数値も、本発明の範囲に含むものと理解する。これらのより小さな範囲の上限及び下限は、示した範囲における、具体的に除外されたあらゆる限界値を除いて、独立してより小さい範囲に含まれていてもよく、また本発明の範囲に含まれる。示した範囲が1つ又は両方の限界値を含む場合には、1つ又は両方の限界値もまた本発明に含まれる。
【0016】
用語「約」が先行する数値は、本明細書中に特定の範囲が示される。用語「約」は、これが先行する文字通りのその正確な数字、並びにその近く又はおおよその数字を表す。具体的に引用されている数字が近く又はおおよその数字であるかの決定には、引用されていない近く又はおおよその数字が、それが存在する文脈から具体的に引用した数字と実質的に等価なものを提供するかで行う。
【0017】
異なることを定義しない限り、本明細書中の全ての技術的、科学的用語は、この発明が属する分野の通常の熟練者により通常理解されている意味と同じことを言う。本明細書中、類似又は等価ないかなる方法及び材料は本発明の実践又は試験の際に用いられるが、代表的な例示的方法及び材料をここに示す。
【0018】
この明細書中に引用される全ての出版物及び特許は、参照として組み込まれるものとして各個々の出版物及び特許が具体的及び個別に示されているように、本明細書に参照として組み込まれ、それらが引用されている出版物と関連して、方法及び/又は材料を開示し及び記載するために参照により組み込まれる。あらゆる出版物の引用は、出願日前の開示のためにあり、本発明が、その出版物の発明のために先行するものではないと認めるものと解釈すべきではない。さらに、提示されている出版日は、実際の出版日は異なっていてもよく、独立して確認する必要があり得る。
【0019】
本明細書中及び添付の請求項において、単数形「ある(a)」、「ある(an)」、及び「その(the)」は、文脈において明らかに他を示さない限り、複数の指示対象を含むことに注意されたい。請求項は、いかなる追加的な要素も除外するように書かれうる。その場合、この言葉は、請求項の構成要件の引用と関連して、「単に(solely)」、「だけ(only)」等の排除的な用語としての使用の先行詞、又は「否定的な」制限の使用を意図する。
【0020】
この開示を読んでいる分野の熟練にとっては、明らかなことであろうが、本明細書中に記載され説明された個々の具体的態様は、本発明の範囲又は精神から外れることなく、他のいくつかの具体的態様のいかなる特徴とも容易に分離又は結合しうる、別々の要素及び特徴を有している。引用された方法は、事象の引用された順に実施され、又は論理的に可能ないかなる他の順で実施されてもよい。
【0021】
以下のセクションでは、乳剤及び乳剤の使用方法を最初に詳しく述べ、続いて製剤及び製剤を含むキットの製造方法を概説する。
【0022】
麻薬性乳剤
本発明の麻薬性乳剤は、麻薬活性のある薬剤を含む。興味深い麻薬活性のある薬剤としては、オピオイド受容体アゴニストである。オピオイド受容体アゴニストには、アヘン剤及びオピオイドを含む。「アヘン剤」及び「オピオイド」は、モルヒネ類似の依存性形成又は依存性持続の性質を有することにより特徴づけられる、又はそのような依存性形成又は依存性持続の性質を有する薬物に変換されうる麻薬性化合物のクラスを一般的に意味する、大まかに言って類似の用語である。具体的には、用語「アヘン剤」は、基本モルヒネ又はテバイン構造、及びオピオイド受容体サブタイプのいずれか又は全てに、いくらかの親和性を有する化合物を意味する。アヘン剤の例はヘロイン、ブプレノルフィン、及びナルトレキソンがある。「オピオイド」は、基本モルヒネ又はテバイン構造を有していなくても、オピオイド受容体サブタイプのいずれか又は全てに、いくらかの親和性を有せば、ペプチド又はその他のいかなる化合物であってもよい。非限定的なリストとしては、アヘン剤及びオピオイドは、モルヒネ、ヘロイン、アヘン、コカイン、フェンタニル、エクゴニン、テバイン等がある。市販で入手可能なアヘン剤及びオピオイド(及び、市販の商品名の例示)としては、以下が含まれる:アルフェンタニル(「アルフェンタ」)、ブプレノルフィン(「テムゲシック」又は「サブテックス」)、カルフェンタニル(「カルフェンタ」)、コデイン、ジヒドロコデイン、ジプレノルフィン、エトルフィン(「イモビロン」)、フェンタニル(「サブリメイズ」又は「フェンタネスト」)、ヘロイン、ヒドロコドン(「バイコジン」)、ヒドロモルホン(「ジラウジッド」)、LAAM(「オラーム(Orlaam)」)、レボルファノール(「レボドロモラン」)、メペリジン(「デメロール」)、メタドン(「ドロフィン」)、モルヒネ、ナロキソン(「ナルカン」)、ナルトレキソン(「トレキサン」)、β-ヒドロキシ 3-メチルフェンタニル、オキシコドン(「ペルコダン」)、オキシモルホン(「ヌモルファン」)、プロポキシフェン(「ダーボン」)、レミフェンタニル(「アルチバ」)、スフェンタニル(「スフェンタ」)、チリジン(「バレロン」)、及びトラマドール(「ウルトラム」)。定義には、天然由来化合物、合成化合物、及び半合成化合物を含むいかなる起源であってもよい全てのアヘン剤及びオピオイドを含む。また、定義には、全ての異性体、立体異性体、エステル、エーテル、塩、及び、立体異性体、エステル、及びエーテルの存在が特定の化学的配置において可能である場合には、そのような異性体、立体異性体、エステル、及びエーテルの塩を含む。
【0023】
麻薬製剤が乳剤であるため、製剤は、第2の液体中、最初の液体が混合しない、第1の液体の小球の懸濁液である。特定の具体的態様としては、本発明の乳剤は、麻薬活性のある薬剤、油脂、水、及び界面活性剤を含む。麻薬活性のある薬剤は、上述の通りオピオイドを含有し、ここである場合には、オピオイドはフェンタニル、すなわちN-(1-フェネチル-4 ピペリジル)プロピオンアニリドを含む。
【0024】
本発明の乳剤の態様は、麻薬活性のある薬剤の有効量を含む。有効量とは、所望の結果を提供するのに十分な用量である。例えば、活性薬剤が麻酔剤である場合、所望の麻酔効果を提供するのに効果的な用量である。当該分野の熟練にとっては明らかなことであろうが、有効量は、用いた特定の活性薬剤、治療される特定の傷等により様々である。本発明の麻薬活性のある乳剤の用量は様々であり、特定の具体的態様は0.01ないし100mg/ml、例えば0.1ないし50mg/ml、及び0.1ないし10mg/mlを含む。特定の具体的態様としては、乳剤は有効量のフェンタニルを含む。フェンタニルは、遊離塩基又はそれらの生理学的に許容される塩として乳剤中に存在し、又はそれらの水和物である。特定の具体的態様としては、フェンタニルは、本組成物中の濃度として、0.05mg/ml以上で存在し、これは0.1mg/ml以上を含み、及び特定の具体的態様としては、0.1ないし10mg/ml、例えば0.1ないし2mg/mlで存在し、これには0.1ないし1mg/mlが含まれる。
【0025】
特定の具体的態様としては、乳剤は、水及び油脂の乳剤である。製剤が乳剤であるため、それらは2つの混ざり合わない(例えば、混合できないunblendable)液体の混合物であり、ここでそれらは、1つの液体(例えば、油脂又は水)(分散層)が他の液体(例えば、先の例の油脂又は水のうちのもう一方)(連続層)に分散している。乳剤に含まれる水は、脱イオン(deinionized)水、注射用USP純水(WFI)等を含み、あらゆる用いやすい水(convenient water)でありうる。
【0026】
また、本発明の乳剤の特定の具体的態様としては、油脂である。興味深い油脂には、生理学的に許容され、及び以下に限定されるのではないが、単純な脂質、誘導脂質、天然の植物油及び植物性脂肪、動物油及び動物性脂肪、及び鉱油から誘導された複合脂質、又はそれらの混合物がある。特定の具体的態様としては、油脂は以下に限定されるのではないが、大豆油、オリーブ油、ゴマ油、ヒマシ油、コーン油、落花生油、サフラワー油、グレープシードオイル、ユーカリ油、中鎖脂肪酸エステル、低級脂肪酸等がある。興味深い動物油及び動物性脂肪は、以下に限られないが、肝油、シールオイル、鰯油、ドコサヘキサエン酸、及びエイコサペンタエン酸がある。興味深い鉱油は、以下に限られないが、流動パラフィン(例えば、ノルマルアルカン由来の油脂)、ナフテン系油(例えば、シクロアルカンに基づく油脂)、及びアロマオイル(例えば、芳香族炭化水素に基づく油脂)がある。1つ又はこれらの型の油脂の1つ以上の組み合わせで用いられ得る。例えば、本願の乳剤のある具体的態様としては、大豆油、オリーブ油、ゴマ油、又はそれらの組み合わせがある。他の具体的態様としては、大豆油、オリーブ油、ゴマ油、又はそれらの組み合わせがある。高度に精製された油脂及び脂肪を特定の具体的態様に用いた。ある例としては、乳剤における油脂の量が、0.05ないし200mg/mlの範囲であり、例えば1ないし200mg/mlであり、これは10ないし100mg/mlを含む。
【0027】
また、本発明の乳剤の特定の具体的態様には、界面活性剤が含まれる。界面活性剤は、リン脂質、精製リン脂質、非イオン性界面活性剤、又はそれらの混合物に限られないが、医薬製剤に用いられ得るあらゆる型の界面活性剤を含みうる。精製リン脂質は、フォスファチジルコリンを主成分とするフォスファチジルイノシトール、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、及びスフィンゴミエリンがある。例えば、精製リン脂質には、卵黄レシチン及び大豆レシチンが含まれる。興味深い非イオン性界面活性剤は、以下に限られないが、ポリエチレングリコール、ポリオキシアルキレン共重合体、及びソルビタン脂肪酸エステルが含まれる。これらの界面活性剤の1つ又は1つ以上の組み合わせを用いることができる。特定の具体的態様としては、乳剤には、界面活性剤が含まれ、精製したリン脂質が用いられる。ある場合には、乳剤は、フォスファチジルコリンを主成分として含む卵黄又は大豆に由来する、精製又は水素化リン脂質を含む。本発明の乳剤における油脂及び界面活性剤の組み合わせの比は、脂質乳剤が得られる限り特に限定されない。例えば、界面活性剤は変化し、0.1ないし50mg/ml、例えば、0.1ないし25mg/mlであり、1ないし20mg/mlを含む。
【0028】
また本乳剤の特定の具体的態様としては、1つ以上の乳化促進剤を含む。乳化促進剤としては、あらゆる型の脂肪酸を用いうる。興味深い脂肪酸は、6から22炭素を含むことである。用いる脂肪酸は、天然であっても合成であっても、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよく、以下に限られないが、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、リノレン酸、ミリスチン酸等がある。特定の具体的態様としては、乳剤は精製脂肪酸であるオレイン酸を含む。乳剤における促進剤の用量は、1ないし10mg/ml、例えば、1ないし5mg/mlの範囲である。
【0029】
加えて、乳剤は生理的に許容されるpHを有する。特定の具体的態様としては、乳剤のpHは、3ないし8の範囲であり、例えば5ないし7.5であり、これは6ないし7を含む。ある例としては、乳剤はpH調節剤を含む。興味深いpH調節剤は、以下に限られないが、水酸化ナトリウム、塩酸、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝溶液等がある。例えば、乳剤のpHは、適当な量のpH調節剤を加えることにより所望の範囲に調節できる。
【0030】
本製剤に存在していてもよい他の添加物には、安定化剤があり、以下に限られないが、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、平均分子量400以下)、D-グルコース及びマルトースがある。そのような薬剤は、本発明の乳剤に、0.1ないし50mg/ml、例えば1ないし25mg/mlの範囲で存在していてもよい。
【0031】
本発明のフェンタニル含有乳剤は、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤(0.1mg/2mL、三共株式会社から入手可能。Tokyo, Japan)に比べて、より大きい効果を示す。興味深い乳剤には、例えばフェンタニル乳剤Aがあり、ここでこれは以下の実験項においても説明するように、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤よりも大きな効果を示す。効果は、疼痛強度(例えば、疼痛関連スコア)の抑制を比較することにより測定される。フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤と本明細書中に記載の乳剤(例えば、フェンタニル乳剤A)を、投与後の様々な時点で比較することにより評価できる。特定の具体的態様としては、本明細書中に記載の乳剤は、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤と比較して、少なくとも同程度の効果を示す。例えば、乳剤は、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤よりも5%以上、例えば10%以上の有効性を示し、これは15%以上を含む。特定の具体的態様としては、図1及び2に説明するとおり、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤及びフェンタニル乳剤Aは、疼痛強度(例えば、疼痛関連スコア)を、投与15分後にそれぞれ61%及び78%、30分後にそれぞれ35%及び49%抑制する。加えて、ある場合には、フェンタニル乳剤Aによる疼痛強度(例えば、疼痛関連スコア)の減少は、曲線下面積で表してフェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤の曲線下面積よりも50%以上、例えば75%、これは100%以上も含み、減少する。ある場合には、本発明の乳剤は、図3に説明するとおり、疼痛強度を曲線下面積で表して、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤と比較して2倍の強度で抑制する。
【0032】
特定の具体的態様としては、本明細書中に記載の乳剤は、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤に比べて中枢神経系介在性副作用を減少する。中枢神経系介在性副作用の減少は、本明細書中に記載の乳剤とフェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤におけるストラウブ挙尾反応を比較することにより観察できる。マウスのストラウブ挙尾反応とは、マウスのしっぽがS字型に背屈することであり、ここでこれはオピオイドのための鋭敏で特異的な生物学的アッセイとして用いられるものである。ストラウブ挙尾反応は、腰仙髄レベルでの後仙尾筋におけるオピオイドの作用により媒介される。特定の場合には、本明細書中に記載の乳剤によって、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤に比べてストラウブ挙尾反応は減少した。例えば、以下の表5に説明するとおり、実験項において報告するアッセイプロトコールを用いて決定した場合、フェンタニル乳剤A 30μg/ml投与では、マウスのストラウブ挙尾反応はフェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤と比べて50%以下であり、例えば33%以下であった。特定の場合には、図4に説明するとおり、ストラウブ挙尾反応の持続時間は、フェンタニル乳剤Aにおいては、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤に比べて80%以下であり、例えば75%以下であり、これは36%以下を含み、減少した。
【0033】
本明細書中に記載の乳剤の態様は、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤に比べて脳介在性副作用(例えば、一方向性自発運動の増加、例えば、巡回行動)を減少させた。図5及び6に説明するように、例えば巡回行動の持続時間は、30μg/ml投与後におけるフェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤又はフェンタニル乳剤Aは、実施例において説明されるアッセイプロトコールを用いて測定し、それぞれ40及び27分であった。特定の具体的態様としては、巡回行動の持続時間は、本乳剤の投与後40分以下、例えば35分以下であり、これは30分以下も含む。
【0034】
本乳剤のさらなる態様としては、貯蔵安定性(storage-stable)を有する乳剤を含むことである。貯蔵安定性とは、医薬組成物が、顕著な層の分離なく及び/又は顕著な活性薬剤の活性の減少なく、長期間保存できることを意味する。特定の具体的態様としては、本発明の組成物は、25℃で維持して、6月以上安定であり、例えば1年又はそれ以上であり、それには3年以上等を含む。語句「活性薬剤の活性の顕著な減少なく」は、保存期間の終了時点において、保存期間の最初において存在した活性薬剤の活性と比べて、活性薬剤の活性の減少が、10%以下、例えば5%以下(これには3%以下を含む)であることを意味する。
【0035】
麻薬性乳剤による手術後疼痛の治療方法
上に概略したとおり、本明細書は対象における手術後疼痛の治療方法を提供する。「手術後疼痛」(用語「切開後」又は「外傷後」は相互に交換可能である)は、個々の組織への、例えば、切断、穿刺、切開、裂傷、又は創傷のような外的な外傷(侵襲的又は非侵襲的であるかを問わず、すべての外科手術から起こるものを含む)の結果起こる疼痛を言う。本明細書中、「手術後疼痛」は外的身体的外傷を伴わない疼痛を含めない。ある具体的態様としては、手術後疼痛は、内的又は外的疼痛、及び創傷、切開、外傷、裂傷又は切開が偶然に起こる(外的創傷のように)又は意図的に(外科的切開のように)起こってもよい。本明細書中、「疼痛」は、疼痛への侵害寛容及び感覚を含み、疼痛は、疼痛スコア及び他の方法、例えば当該分野においてよく知られたプロトコールを用いて、客観的及び主観的に評価できる。手術後疼痛は、本明細書中、異痛症(allodynia)(すなわち、通常は痛みを生じない刺激による疼痛)及び痛覚過敏症(hyperalgesia)(すなわち、通常、疼痛を感じる刺激に対する、反応の増加)を含み、ここでこれは温度的又は機械的(触知性)な性質のものである。ある具体的態様としては、疼痛は熱過敏症、機械的過敏症及び/又は休息痛(例えば、外的な刺激がないのに起こる持続的な痛み)によって特徴づけられる。ある具体的態様としては、手術後疼痛は、機械的誘導性疼痛又は休息痛を含む。他の具体的態様としては、手術後疼痛は休息痛を含む。疼痛は一次的(primary)(例えば、疼痛を生じる現象から直接生じる)又は二次的疼痛(secondary pain)(例えば、疼痛に関連しているが、疼痛を生じる現象から直接生じるのではない)のいずれであってもよい。
【0036】
従って、ある態様としては、本発明は、麻薬活性のある薬剤の乳剤の有効量を投与することを含む、対象における手術後疼痛を治療する方法を提供する。ある具体的態様としては、手術後疼痛は、異痛症、痛覚過敏症、熱誘導性疼痛、機械的に引き起こされた疼痛、又は休息痛の1つ以上を含む。例えば、手術後疼痛は、機械的に引き起こされた疼痛及び/又は休息痛を含む。ある場合には、手術後疼痛は休息痛である。「治療すること(treating)」又は「治療(treatment)」は、少なくとも対象を悩ませる病態に関連する症状の抑制又は改善を意味し、ここで、抑制及び改善とは、少なくともパラメータ(例えば、疼痛のような治療される病態に関連する症状)の大きさを減ずる広い意味を指す。また、そのような治療は、病態が完全に抑制されていることを含み、例えば発生を防ぐ又は停止すること、すなわち例えば対象がその病態をもはや経験しないというような完治することを含む。そのような治療は、病態を防ぐこと及び管理することの両方を含む。特定の具体的態様としては、異痛症が抑制され、改善され、及び/又は予防され、及び、ある具体的態様としては、痛覚過敏症が抑制され、改善され、及び/又は予防される。ある態様としては、痛みは慢性疼痛である。他の場合には、疼痛は外部からの外傷、創傷、又は切開の1つ以上の部位において、隣接して、及び/又は近くで起こる。
【0037】
本発明の方法の追加的な態様としては、対象に本発明の乳剤を投与することにより手術後疼痛の進展又は進行を改善及び/又は予防する方法を含む。特定の具体的態様としては、乳剤は外部からの外傷、創傷、又は切開(例えば手術)が生じそうな活動の前に投与することができる。例えば、乳剤は外部からの外傷、創傷、又は切開(例えば手術)が生じそうな活動の30分、1時間、2時間、5時間、10時間、15時間、24時間又はさらに長時間、例えば1日、数日、又はさらには1週間、2週間、3週間又はそれ以上前に投与することができる。他の具体的態様としては、乳剤は外部からの外傷、創傷、又は切開(例えば手術)が生じている間、及び/又はその後に投与することができる。ある態様としては、乳剤は外部からの外傷、創傷、又は切開(例えば手術)が生じた1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間、30時間、36時間又はそれ以上の後に投与することができる。
【0038】
該方法を実践するには、本明細書中に記載の乳剤は対象に非経口的に投与できる。「非経口投与」とは、例えば手術後疼痛に苦しむ患者に、消化管以外の経路により対象に一定量の乳剤を送達するプロトコールにより投与することを意味する。非経口投与の例は、以下に限られないが、筋肉内注射、静脈内注射、経皮吸収、吸入等がある。特定の具体的態様としては、非経口投与は、注射用装置を用いて注射により行われる。対象に投与される乳剤の量は、例えば、特殊事情、麻薬治療の前歴、疼痛の性質等の様々な因子により変化する。特定の具体的態様としては、投与ごとの活性薬剤の用量は、10ないし250μg/投与の範囲、例えば10ないし150μg/投与であり、これは25ないし100μg/投与を含む。乳剤の用量のガイドラインは、既に当該分野の熟練により発展及び使用されてきており、本発明にも用いられ得る。
【0039】
本方法のさらなる態様には、疼痛の閾値を増加させる方法を含む。本明細書中、「疼痛の閾値の増加(increasing pain threshold)」とは、手術、切開、外傷又は創傷に関連する疼痛を減少、消滅及び又は最小限にすることを言う(対象の疼痛に対する感覚を減少、消滅及び/又は最小限にすることを含む)。さらに他の態様としては、本発明は、創傷、外傷、及び/又は、切開からの回復を促進する方法を提供する。
【0040】
本明細書中の参照には、一般に手術後疼痛を治療又は予防することが挙げられているが、本発明の乳剤は、外部からの外傷(例えば衝撃)、傷害又は創傷の危険が増加する活動の前に投与することができることは理解されるであろう。当該分野の熟練には理解されることであるが、外部からの外傷、傷害又は創傷は、危険な職業、戦闘及び/又はスポーツによるものを含む。
【0041】
特定の具体的態様としては、本発明の方法は診断の段階を含む。個体は、簡便なプロトコールを用いて、本発明の方法を必要とすると診断されうる。加えて、例えば、彼らが標的疾患の病態に苦しんでいる、又は標的疾患の病態に苦しむリスクにあることにより、本方法を実践する前に、個体は本発明の方法が必要であると知られうる。
【0042】
疼痛の診断又は評価は、当該分野において確立されている。評価は、例えば行動の観察、例えは、刺激に対する反応、顔の表情等、客観的尺度に基づいて行われうる。また評価は、様々な疼痛スケールを用いた患者による疼痛の特徴付けのような主観的尺度に基づいて行われてもよい。例えば、 Katz et al, Surg. Clin. North Am. (1999) 79 (2):231-52; Caraceni et al. J. Pain Symptom Manage (2002) 23(3):239-55. 参照のこと。
【0043】
また疼痛の緩和は、時間の流れによる緩和により特徴づけられる。従って、ある具体的態様としては、疼痛の緩和は、主観的又は客観的に1、2又は数時間(そしてある具体的態様としては、12-18時間にピークがくる)後に観察される。他の具体的態様としては、疼痛の緩和は、手術後(又は創傷又は外傷の関わる活動)、24、36、48、60、72又はそれ以上の時間後に主観的又は客観的方法によりなされる。
【0044】
製造方法
本発明の乳剤は、あらゆる簡便な乳化のプロトコールを用いて行うことができる。特定の具体的態様としては、製造方法は活性薬剤、水及び油脂を混合し、及び混合物を乳化させることを含む。例えば注射用溶媒、例えばWFIは適切な油脂の滑らかな混合物に加えることができる。最初に、混合物は粗く乳化される。例えば、粗い乳化には、ホモミクサー(Mizuho Industrial Co., Ltd.)又はHigh Flex Disperser(SMT)が用いられる。混合すると粗い乳化物となり、例えば、高圧乳化機を用いて、混合物は細かく乳化されうる。細かい乳化は、Gaulinホモジナイザー(APV-SMT)及び Microfluidizer (Microfluidics, Newton, MA)を用いることができる。加えて、細かい乳化には、乳剤は、1回以上乳化により処置されなければならず、例えば2ないし50回である(500ないし850kg/cm2)である。製造方法は、室温又は室温よりも冷やして行う。特定の具体的態様としては、製造方法は、乳化機に窒素ガスを流すことを含む。
【0045】
用途
本発明の乳剤及び方法は、手術後疼痛の予防又は治療を含む、様々な適用に用いられる。従って、本発明の乳剤及び方法は、対象における手術後疼痛の治療、進行の遅延、及び/又は予防に用いられ、該対象にはヒト及び非ヒトを含む全てのホ乳類を含み、これには肉食動物(例えば、イヌ及びネコ)、げっ歯類(例えば、マウス、モルモット、及びラット)、ウサギ目(例えば、ウサギ)及び霊長類(例えば、ヒト、チンパンジー、及びサル)を含む。特定の具体的態様としては、対象は、例えば患者はヒトである。さらに、本発明の乳剤及び方法は、内的又は外的いずれでもよい、切断、穿刺又は裂傷による、組織の切開創傷を有する個体に役立つ。そのような切開創傷は、外傷性創傷とともに偶然に、又は手術によって意図的に起こってもよい。
【0046】
キット
また、本発明は上述の通り、本発明の方法を実践するにあたり用途が見出されるキットを提供する。例えば、本発明の方法を実践するためのキットは投与単位形態(例えばアンプル)又は複合投与形態(multi-dosage format)中に一定量の乳剤を含んでいてもよい。そのような特定の具体的態様としては、キットは1つ以上の投与単位形態(例えば、アンプル)を含んでいてもよい。用語「投与単位」は、本明細書中、各ユニットが所望の効果を得るのに十分と計算される量の、予め定められた用量の乳剤を含む、対象のヒト及び動物への投与単位に適切な物理的に分離したユニットを言う。本発明の乳剤の投与単位用量は、様々な因子、例えば、用いた特定の活性薬剤、達成したい効果、及び対象における活性薬剤と関わる薬力学に依存する。さらに他の実施形態では、キットは乳剤の単一の複合投与用量を含んでいてもよい。
【0047】
上述の要素に加え、本発明のキットは、さらに本発明の方法を実践するための説明を含んでいてもよい。これらの説明は、本発明のキットの中に様々な形態で、1つ以上含まれていてもよい。これらの説明が存在しうる1つの形態は、例えば、1枚以上の紙、キットの包装、包装の挿入物等、適切な媒体又は基質への情報の印刷物としてである。説明は、例えばそこに情報が記録された例えば、ディスケット、CD、DVD等コンピュータで読取り可能な媒体に存在していてもよい。説明は、ウェブ上に存在していてもよく、ここでこれはインターネットを介してアクセスして、移動したサイトにおいて用いてもよい。他の便利な手段が可能であり、それらはキットに含まれうる。
【0048】
以下の実施例は、当該分野における通常の熟練を有する者にどのように合成し、使用するかについて完全な開示及び記載し、提供するために書かれたものであり、発明者が彼らの発明であると認識する範囲を限定するものではないし、以下の実施例が全てである、又は行った実験がそれのみであることを意図するものではない。用いた数値(例えば、量、温度等)に関しては正確を期す努力をしたが、いくらかの実験誤差及び偏差があると思われる。その他を示さない限り、部(parts)は重量部であり、分子量は平均分子量、温度は摂氏、及び気圧は大気圧又は大気圧付近である。
【実施例1】
【0049】
I.フェンタニル乳剤及び製造
A.製剤
(乳剤、250ml)
【表1】

【表2】

【0050】
B.フェンタニル乳剤Aの製造方法
内容物を溶解させるために7,000rpmで攪拌しながら、油層の成分をビーカーに加え、60℃で加熱した。
フェンタニル25mgを加えて攪拌した。(このプロセスに約10分かかった。)
この混合物にグリセリン溶液50mLを滴下し、10,000rpmで10分間攪拌した。
溶液をセパラブルフラスコに移した。残りのグリセリン溶液を、12,000rpmで攪拌しながら、乳剤製造器に30分間かけて加えた。
乳濁液の合計容積が250mLとなるように純水を加えた。
混合物を、高圧乳剤製造器LAB-1000(APV, Denmark)を用いて650バール下冷却し、乳濁液を20回乳化した。
乳濁液のpHが6ないし7であれば調整は不要である。そうでなければ、塩酸水溶液又は水酸化ナトリウム水溶液でpHを調整した。この実験ではpHは6.3及び6.7であったので調整はしなかった。
高圧乳化の後、乳濁液を濾過し(ポアサイズ0.4μm)、N2ガスを加えながら乳濁液をアンプルに加えた。
アンプルをオートクレーブ滅菌で滅菌した(121℃、10分間)。
滅菌後、アンプルを冷却し保存した。
滅菌サンプルの平均粒子サイズは、Zetasizer 3000HS(Malvern Instruments, Worcestershire, UK)を用いて光相関分光法により測定した。
【0051】
II.フェンタニル製剤による手術後疼痛アッセイ
マウスにおいて、フェンタネスト(登録商標)及びフェンタニル乳剤Aによる、手術後疼痛の鎮痛効果が確かめられた。
【0052】
A.原材料及び方法
動物
雄性C57BL/6Crを用いた。
試験化合物
1) フェンタネスト(登録商標)注射(クエン酸フェンタニル、0.1mg/2mL フェンタニル)
2) フェンタニル乳剤A (0.1mg/mlフェンタニル;平均粒子経=181nm)
【0053】
投与
各製剤はそれぞれ適切な溶媒を用いて調製した。製剤はそれぞれ、0.05mL/体重10gの用量で静脈内注射した。
【0054】
手術後疼痛モデルの調製
ペントバルビタール(50mg/kg、腹腔内)麻酔下、かかとからつま先にかけて約1cmの切開を行った。もう1つの1cmの切開は、ステンレス鋼の外科用メスを用いて、皮下において血管及び神経を避けて皮膚、膜及び筋肉において、行った。2つの切開領域を、縫合器(第7)を用いて2回縫い合わせ、創傷はイソジン(明治製菓株式会社、Tokyo, Japan)で消毒した。
【0055】
手術後疼痛アッセイ
後肢への機械的刺激に対する反応を手術後疼痛の指標とした。手術後疼痛は、両方の後肢について測定した(すなわち、創傷の同側及び反対側)。測定には、強度1.6mNのVon Frey式フィラメント(North Coast Medical, San Jose, CA, USA)を用いた。後肢の脚の下にVon Frey式フィラメントを適用し、反応を3段階に分類した(0=無反応;1=後肢を上げる;2=後肢をふるわせ後肢をなめる)。Von Frey式フィラメントによる刺激は、創傷の領域を避けて行った。プロセスは6回繰り返し、平均値を疼痛反応スコアとした。
手術後疼痛アッセイは盲検法で行った;実験者は、全ての製剤がフェンタニルを含有することは知っていたが、製剤の特徴の違いは知らなかった。
【0056】
B.結果
概要
手術後疼痛の用量依存的阻害が投与から15分後にピークを迎え、効果を約60分間観察した(図1及び2)。フェンタネスト(登録商標)注射及びフェンタニル乳剤Aのいずれの群についても用量16μg/kg及び48μg/kg(図1及び2)において有意な阻害が見られた。
【0057】
フェンタニル又は製剤を投与した場合の阻害効果の比較
フェンタネスト(登録商標)注射及びフェンタニル乳剤A(二元配置RM ANOVA)投与後、阻害効果において違いは見られなかった(表4)。投与後60分間の曲線下面積において、有意な違いは見られなかった(一元配置ANOVA)(図3)。
【0058】
【表3】



【0059】
フェンタネスト(登録商標)注射及びフェンタニル乳剤Aについて投与後15分において、阻害効果を比較したが、有意な差は見られなかった(図1及び2)。しかし、参照標準と比べると、実質的な阻害効果が見られた(Bonferroni t-検定)(図2)。
【0060】
投与後30分経過すると、フェンタネスト(登録商標)注射及びフェンタニル乳剤Aを投与した後、それぞれ阻害活性を比較した(図1及び図2)。しかし、参照標準と比較すると、フェンタニル乳剤Aの製剤は、持続効果が見られた(Bonferroni t-検定)(図2)。
【0061】
III.フェンタニル乳剤の中枢神経系介在性副作用の評価
A.ストラウブ挙尾反応
マウスにオピオイドを投与すると、しっぽが立ち、前を向く。この反応をストラウブ挙尾反応と呼び、中枢神経系、とりわけ脊髄を介して起こると考えられている。フェンタネスト(登録商標)は、ストラウブ挙尾反応を用量30及び50μg/mlで誘導した(表5)。比較として、フェンタニル乳剤Aを30及び50μg/ml注射した後のストラウブ挙尾反応はフェンタネストよりも小さかった(表5)。同様の結果がストラウブ挙尾反応の持続反応においても見られた(図4)。
【0062】
【表4】

【0063】
B.自発運動効果
マウスに高用量のオピオイドを投与すると、オピオイドの中枢神経系を介して自発運動が増加する。自発運動の増加は、一方向性自発運動(すなわち巡回行動)として観察された。フェンタネスト(登録商標)は、30及び50μg/mlにおいては有意に自発運動が増加したが、10μg/mlにおいては有意には増加しなかった(図5)。フェンタニル乳剤A投与における自発運動の増加は、フェンタネスト(登録商標)に比べると低かった(図6)。フェンタネスト(登録商標)及びフェンタニル乳剤Aの効果を比較し、図7に示す。
【0064】
C.考察
ストラウブ挙尾反応及び自発運動は、主として中枢神経系を介しているため、フェンタニル製剤の中枢神経系介在性副作用が結果から考えられた。フェンタネスト(登録商標)と比較し、フェンタニル乳剤Aの中枢神経系介在性副作用はフェンタネスト(登録商標)よりも軽い。マウスのストラウブ挙尾反応及び巡回行動の持続はフェンタニル乳剤Aよりも短かった。
【0065】
前述の発明は、図及び実施例を明確に理解するための説明の目的で、ある程度詳しく記載したが、これはこの発明を考慮すると、本発明は、添付した請求の範囲の精神から離れることなく、特定の変更及び修飾をなしうることは、当該分野の通常の熟練を有する者にとっては容易にわかることであろう。
【0066】
従って、以上は単に本発明の原理を説明したに過ぎない。当該分野の通常の熟練を有する者は、本明細書中、明確に説明又は示されていないが、本発明の原理を具体化する様々な変更を工夫することができ、それらが本発明の精神及び範囲に含まれることは容易に理解できるであろう。さらに、本明細書中に参照された、全ての実施例及び条件付の文言(conditional language)は、当該分野を促進するために発明者が貢献するための本発明の原理及び概念を理解するために、主として読者を補助することを意図しており、そのような特定の引用された実施例及び条件に限定されないものと解する。さらに、本明細書中に引用している原理、態様、及び具体的態様、並びにそれらの特定の実施例の全ての記述は、構造的及び機能的に等価なものまで含むことを意図する。加えて、そのような等価体は、現在知られている等価体及び、将来開発される等価体、すなわち、構造にかかわらず、同じ機能を示すあらゆる開発された要素の両方を含む。それゆえ、本発明の範囲は、本明細書中に示され、記載された実施例の具体的態様に限定することを意図しない。むしろ、本発明の範囲及び精神は、添付の請求の範囲によって具体化される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
該方法が:
手術後疼痛の治療のために、該対象に麻薬性乳剤の有効量を投与することを含む、対象における手術後疼痛の治療方法。
【請求項2】
該麻薬性乳剤が、オピオイドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該オピオイドが、フェンタニルである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該乳剤が:
フェンタニル;
油脂;
水;及び
界面活性剤
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
フェンタニルが、0.1ないし10mg/mlの範囲で存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該油脂が、0.05ないし200mg/mlの範囲で存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該界面活性剤が、卵黄リン脂質又は大豆リン脂質から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
該乳剤が、乳化促進剤をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
該乳化促進剤が、オレイン酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該乳剤が、さらにグリセリン又はプロピレングリコールを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
該乳剤が、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤と比較して同程度の効果を示す、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
該乳剤が、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤と比較して中枢神経系介在性副作用を減ずる、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
フェンタニル;
油脂;
水;及び
界面活性剤
を含む乳剤。
【請求項14】
フェンタニルが、0.1ないし10mg/mlの範囲で存在する、請求項13に記載の乳剤。
【請求項15】
該油脂が、0.05ないし200mg/mlの範囲で存在する、請求項13に記載の乳剤。
【請求項16】
該界面活性剤が、卵黄リン脂質又は大豆リン脂質から選択される、請求項13に記載の乳剤。
【請求項17】
乳剤が、さらに乳化促進剤を含む、請求項13に記載の乳剤。
【請求項18】
該乳化促進剤がオレイン酸である、請求項17に記載の乳剤。
【請求項19】
該乳剤が、さらにグリセリンを含む、請求項13に記載の乳剤。
【請求項20】
該乳剤が、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤と比較して、同程度の効果を示す、請求項13に記載の乳剤。
【請求項21】
該乳剤が、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤と比較して中枢神経系介在性副作用が少ない、請求項13に記載の乳剤。
【請求項22】
フェンタニル;
油脂;
水;及び
界面活性剤
を含む乳剤を含むキット。
【請求項23】
該フェンタニルが、0.1ないし10mg/mlの範囲で存在する、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
該油脂が、0.05ないし200mg/mlの範囲で存在する、請求項22に記載のキット。
【請求項25】
該界面活性剤が、卵黄リン脂質又は大豆リン脂質から選択される、請求項22に記載のキット。
【請求項26】
該乳剤が、さらに乳化促進剤を含む、請求項22に記載のキット。
【請求項27】
該乳化促進剤がオレイン酸である、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
該乳剤が、さらにグリセリンを含む、請求項22に記載のキット。
【請求項29】
乳剤が、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤と比較して同程度の効果を示す、請求項22に記載のキット。
【請求項30】
該乳剤が、フェンタネスト(登録商標)クエン酸フェンタニル注射製剤と比較して中枢神経系介在性副作用が少ない、請求項22に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−520883(P2011−520883A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509539(P2011−509539)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/041991
【国際公開番号】WO2009/140059
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(502346286)テイコク ファーマ ユーエスエー インコーポレーテッド (26)
【出願人】(300025767)テクノガード株式会社 (7)
【Fターム(参考)】