説明

手足皮膚反応治療のためのアロプリノールの使用

多標的キナーゼ阻害剤(MKI)治療によって誘発される手足皮膚反応を治療または予防するための、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩の使用。アロプリノールまたはその塩が、罹患領域、手のひら、足の裏に、好ましくはクリームの形態で局所投与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療分野に関し、特に、腫瘍学における治療分野に関する。本発明は、多標的キナーゼ阻害剤(MKI)によって誘発される手足皮膚反応(HFSR)を治療または予防するための、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩の使用に関する。さらに、本発明は、HFSRを治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、異常な細胞が制御されずに分裂していく疾患群である。癌細胞は、近くにある組織に侵入することができ、血流およびリンパ系を通って体内の他の部分に広がることができる。癌には、いくつかの主要な型がある。癌腫は、内臓器官と沿うかまたは覆っている皮膚または組織で始まる癌である。肉腫は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管、または他の結合組織または支持組織で始まる癌である。白血病は、骨髄のような造血組織で始まる癌であり、大量の異常な血液細胞が作られ、血流に入り込む。リンパ腫および多発性骨髄腫は、免疫系の細胞で始まる癌である。
【0003】
癌について、局在化した疾患の場合には、外科手術および放射線治療、並びに癌細胞を破壊する薬物(化学療法)など、いくつかの治療法がある。化学療法は、癌の治療において顕著な役割を担っており、それは化学療法が、離れた箇所に転移している進行した癌を治療するために求められ、またしばしば外科手術前に腫瘍を小さくするのに役立つからである(ネオアジュバント療法)。また、化学療法は、術後または放射線治療後に、残った癌細胞を破壊するため、または癌の再発を防ぐために用いられる(アジュバント療法)。
【0004】
種々の作用機序に基づき、多くの抗癌薬が開発されている。DNAに直接作用するアルキル化薬(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ブスルファン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、ダカルバジン);DNAおよびRNAの合成を阻害する代謝拮抗薬(例えば、5−フルオロウラシル、カペシタビン、6−メルカプトプリン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン(ara−C)、フルダラビン);DNA複製に関与する酵素を阻害するアントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン);微小管阻害薬(タキサン、例えば、パクリタキセルおよびドセタキセル、またはビンカアルカロイド、例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチンおよびビノレルビン);トポイソメラーゼ阻害薬(例えば、エトポシド、ドキソルビシン、トポテカンおよびイリノテカン);ホルモン治療薬(例えば、タモキシフェン、フルタミド)、および近年導入された標的治療薬(例えば、EGFR阻害剤であるセツキシマブ、ゲフィチニブ、またはタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤イマチニブ)が最も頻繁に用いられる。
【0005】
ここ数十年の化学療法の開発は、癌の治療法をめざましく向上させ、ある種の癌には有効な治療法が得られており、それ以外の癌でも生存率または生存時間が延びている。現時点で、ほとんどの化学療法は静脈投与であるが、経口化学治療薬は、用途をさらに拡大し続けている。
【0006】
残念なことに、ほとんどの化学治療薬は、癌細胞と健康な細胞とを区別することができない。したがって、化学療法は、体内の正常な組織や臓器に影響を与え、治療の合併症または副作用を引き起こしてしまうことが多い。このような問題が生じることに加え、副作用が、医師に対し、処方用量の化学治療薬の投与をさせず、癌を正しく治療する可能性が低下してしまう場合がある。化学療法で最もよくある副作用は、貧血、好中球減少、血小板減少、疲労、脱毛、吐き気および嘔吐、粘膜炎および疼痛である。
【0007】
ある種の化学療法剤、特に、5−フルオロウラシルおよびそのプロドラッグであるカペシタビンに関連する副作用には、手掌足底感覚異常症(PPE)、手足症候群(HFS)としても知られる手のひらおよび足の裏の紅斑発疹がある。PPEは、特徴的で比較的頻繁に起こる中毒反応である。PPEは、手のひらおよび足のうらに起こる、痛みを伴う腫れおよび紅斑性の発疹であり、通常は、先にチクチクする感覚がして、感覚異常が起こることが多く、浮腫を伴うことが多い。発疹は、水疱となり、傷跡を残さずに落屑し、痛みが徐々に強くなる場合がある。また、紅斑は、爪周囲に生じる場合もある。一般的に、手や足に限定されており、通常、足よりも手の方の症状がひどくなる。
【0008】
組織学的に、PPEには、軽い海綿状態、壊死し、異角化性したケラチノサイトの散在、および基底層の空胞変性がみられる。ほとんどの場合、皮膚の変化としては、表皮にさまざまな程度で見ることができる、拡張した血管、乳頭上の浮腫、まばらな表面血管周囲のリンパ組織球性浸潤が挙げられる。
【0009】
PPEは、他の有害な皮膚反応とは明確に区別され、Nagore E.ら、Am J Clin Dermatol.2000、1(4)、225−234にまとめられている。頻繁に起きるのにもかかわらず、原因はほとんど知られていない。
【0010】
分子標的治療の出現は、ここ数年間で癌の治療法の着眼点を変えた。癌の標的治療の中で、新しい血管が生成するプロセスである血管形成を妨害する薬剤を開発することに大きな関心が寄せられている。血小板由来成長因子受容体(PDGFR)または血管内皮成長因子受容体(VEGFR)のような受容体の活性を遮断することによって、またはこれらのシグナル伝達経路の一部を阻害することによって、腫瘍の血管形成が妨げられるか、ときには逆行させることができる。これらの標的には、血管新生促進経路においてヒトの腫瘍の成長および生存を制御する、偏在するマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路またはRaf/MEK/ERK経路が含まれ、この経路は、MAPKを介してシグナル伝達することも含む。固体腫瘍は、頻繁に、rasにおいて活性化する発癌性変異および/またはRaf−1キナーゼの過剰な活性化を示し、MAPK経路を介するシグナル伝達が制御不能になり、その結果、腫瘍細胞が増殖し、血管が形成される。
【0011】
癌を治療するこのような合理的なアプローチによって、2つ以上の標的および経路を標的とすることが可能な第2世代のチロシンキナーゼ阻害剤が開発された。腫瘍成長の複数の経路を標的とする薬剤は、単一の薬剤で、組み合わせ治療の利点が得られる可能性があるため非常に魅力的である。これらの新しい薬剤の大部分は、2つ以上の受容体チロシンキナーゼを阻害し、固有の阻害プロフィールを有していてもよい。多標的キナーゼ阻害剤(MKI)の中で、ソラフェニブ、スニチニブは、すでに使用が許可されており、バンデタニブ、モテサニブ、ABT−869、いくつかの他の化合物は、まだ開発中である。
【0012】
ソラフェニブ(Nexavar(登録商標))は、腫瘍の成長および血管形成に関与するいくつかの受容体チロシンキナーゼを阻害可能な経口薬である。ソラフェニブは、変異したB−Rafを含むRaf遺伝子産物(セリン−スレオニンキナーゼ)、血小板由来成長因子−ベータ(PDGFR−β)、FLt3、血管内皮成長因子受容体−2および受容体−3(VEGFR−2および−3)を遮断する。ソラフェニブは、転移性腎細胞の癌腫および進行性の肝細胞癌腫治療について、2005年にFDAによって承認され、2006年にEMEAによって承認されている。
【0013】
スニチニブ(Sutent(登録商標))も経口薬であり、VEGFR−1、−2、および−3、PDGFR−αおよび−β、Ret、c−Kit、並びにFLTを遮断する多標的チロシンキナーゼ阻害剤である。難治性またはメシル酸イマチニブに忍容性のない消化管間質腫瘍(GIST)患者、および転移性腎細胞癌腫の患者へのスニチニブの使用が、2006年にFDAおよびEMEAによって承認されている。通常は、スニチニブは、ある種の潜在的な毒性から患者を回復させるために、4週間投与し、2週間休むという計画で投与される。
【0014】
ソラフェニブやスニチニブのようなMKIには副作用があり、もっともしばしば生じるのは、疲労、高血圧、吐き気、下痢である。しかし、これらの安全性プロフィールは、一般的に、多くの標準的な化学療法のプロフィールよりも好ましい。
【0015】
しかし、他のチロシンキナーゼ阻害剤と同様に、MKIは、顕著な皮膚の有害反応と関係がある。手足皮膚反応(HFSR)は、臨床的に最も重要である(Rosenbaum SEら、Support Care Cancer(2008)16:557−566、「Dermatological reactions to the multitargeted tyrosine kinase inhibitor sunitinib」;Robert Cら、J Am Acad Dermatol 2009、第60巻、no.2、299−305「Dermatological symptoms associated with the multikinase inhibitor sorafenib」)。
【0016】
手足皮膚反応(HFSR)は、特に、手のひらおよび/または足の裏に起こる紅斑、無感覚、チクチク感、および感覚異常または錯感覚のいずれかを特徴とする、特徴的で局所的な皮膚反応である。組織学的には、指の屈曲部分に頻繁に起こる、分厚く、十分に明確な角化性病変を特徴とする。手足皮膚反応は、MKIを投与して最初の2〜4週間以内に進行する。数週間後、この病変は、水ぶくれのあるなしにかかわらず、痛みを伴う皮膚硬結に似た厚みのある皮膚または角化性の皮膚の領域になる。
【0017】
HFSRは、Lacouture MEら、The Oncologist 2008、13、no.9、1001−1011:「Evolving Strategies for the management of Hand−Foot Skin Reaction associated with the Multitargeted Kinase Inhibitors Sorafenib and Sunitinib」;Beldner Mら、The Oncologist 2007 12:1178−1182、「Localized Palmar−Plantar epidermal hyperplasia:a previously undefined dermatological toxicity to sorafenib」;Yang CHら、British journal of Dermatology 2008、158 592−596、「Hand−Foot Skin reaction in patients treated with sorafenib:a clinopathological study of cutaneous manifestations due to multitargeted kinase inhibitor therapy」;Porta Cら、Clin Exp Med 2007、7:12−134、「Uncovering Pandora’s vase: the growing problem of new toxicities from novel anticancer agents. The case of sorafenib and sunitinib」;Wood L.ら、Community Oncology 2010、第7巻、no.1、23−29ページ:「Practical Considerations in the Treatment of Hand Foot Skin reaction caused by Multikinase Inhibitors」に記載されている。
【0018】
これらの文献において説明されているように、手足皮膚反応は、手掌足底感覚異常症(PPE)[手足症候群(HFS)としても知られる]とは臨床的および組織学的に区別され、5−FU、カペシタビン、またはペグ化リポソームドキソルビシンのような化学療法剤によって誘発される。
【0019】
この両方の疾患は、手のひら、足底に局在化し、圧痛、痛みを示し、薬物を断ったときに、その毒性の解消が示される。
【0020】
しかし、紅斑領域の周囲にある局所的な角化性病変の典型的なパターンによって、HFSRは、対称的な錯感覚、びまん性の弱い紅斑および浮腫が起こるPPEから区別される。さらに、HFSRは、つま先および指の間の皮膜、並びに足の裏の側面のように、圧力がかからない領域にも罹患することがある。病理学的に、MKIは、マルピーギ層においてケラチノサイトの空胞変性を誘発するとともに、表皮肥厚を誘発し、一方、化学療法によって誘発されるPPEは、真皮−表皮界面の皮膚炎、基底層のケラチノサイトの空胞変性を示す。HFSRにおいて観察される主な組織学的変化は、細胞の成熟における欠陥、ケラチノサイトの分化における改変、おそらく、ケラチノサイト細胞集団のアポトーシスが増加していること、特定の炎症を示唆している。HFSRの活動的な病変では、表皮細胞の複製率は顕著に促進されている。HFSRに最も関連性が高い組織学的特徴は、細胞質内の好酸性封入体として存在するケラチノサイトの損傷であり、この疾患に固有のものである。HFSRが始まるメカニズムは知られていない。
【0021】
HFSRの発生率は高い。メタアナリシスは、ソラフェニブで治療した患者におけるHFSRの発生率の集計結果から、グレード1〜3の場合、33.8%であり、グレード3の場合、8.9%であることを示している(Chu D.、Lacouture MEら、Acta Oncologica 2008;4 16−186:「Risk of Hand Foot Skin Reation with Sorafenib:A systematic Review and Meta−Analysis」)。スニチニブを用いる場合、発生率の集計結果は、グレード1〜3で18.9%、グレード3で5.5%と算出された(Chu D.Lacouture MEら、Clinical Genitourinary Cancer 2009、no.1 11−19:「Risk of Hand Foot Skin Reation with the Multitargeted Kinase Inhibitor Sunitinib in patients with Renal Cell and Non−Renal Cell carcinoma:Meta−Analysis」)。HFSRは、ソラフェニブおよびスニチニブのようなMKIで治療された患者において、健康に関連する生活の質と、日常の生活活動に悪い影響を及ぼす場合がある。
【0022】
HFSRの重篤度は、the National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events(NCI−CTCAE v 3.0)を用い、非常に幅広く示されている。それぞれのグレードの臨床的特徴は、以下のとおりである。
1.痛みを伴わず、皮膚炎の最小限の皮膚変化または皮膚炎(例えば、紅斑)
2.皮膚変化(例えば、剥離、水ぶくれ、出血、浮腫)または痛み;患者の日々の生活活動を妨害しない;
3.痛みを伴う潰瘍性皮膚炎または皮膚変化;患者の日々の生活活動を妨害する。
【0023】
さらに、臨床診療により適合する修正された基準を用いて、グレード分けしてもよい(Porta Cら、Clin Exp Med 2007、7:12−134):
1.患者の正常な活動を妨害しない、手または足の無感覚、感覚異常、錯感覚、チクチク感、痛みを伴わない腫れ、紅斑、または不快感;
2.以下の症状の1つ以上:患者の正常な活動に影響を与える、手または足の痛みを伴う紅斑、腫れ、角化、不快感;
3.以下の症状の1つ以上:患者が働くことができないか、または日々の活動を行うことができない、手および足の湿性落屑、腫瘍形成、水ぶくれ、角化、重篤な痛み、重篤な不快感。
【0024】
現時点でHFSRに有効な治療は存在しない。MKIで治療する前に、すでに存在している角化性領域および硬結を取り除くことが推奨される。MKIで治療を開始した後に皮膚反応が生じたときに、提案されているいくつかの治療法には、次のものがある:手または足にかかる圧力を防ぐ、冷湿布または氷のう;皮膚の水分補給;エモリエント皮膚クリーム、クロベタゾール軟膏または局所鎮痛薬。重篤度が高いグレード(2〜3)の場合、MKIを用いた治療の投薬量を減らすか、または中断することが推奨される。尿素、フルオロウラシル、タザロテンのクリームも、これらの薬剤がケラチノサイトの増殖を阻害するため、述べられている(Lacouture MEら、The Oncologist 2008、第13巻、no.9、1001−1011:「Evolving Strategies for the management of Hand−Foot Skin Reaction associated with the Multitargeted Kinase Inhibitors Sorafenib and Sunitinib」、Andersonら、The Oncologist 2009、第14巻、3、291−302:「Search for evidence−based approaches for the prevention and palliation of Hand−Foot Skin Reaction(HFSR) caused by the Multikinase Inhibitors」);Wood L.ら、Community Oncology 2010、第7巻、no.1、23−29ページ:「Practical Considerations in the Treatment of Hand Foot Skin Reaction caused by Multikinase Inhibitors」)。
【0025】
これらの提案されている治療法は、どれもまだHFSRを有効に治療または予防することができていない。これは、固有の不快感および痛み以外にも、進行したグレードでは、MKIを用いた化学療法を減らすこと、または中断することを暗示しており、これは治療される癌の生存および/または進行時間に影響を及ぼすため、患者にとっては重大な問題である。マルチキナーゼ阻害剤の全潜在能力、およびこれらを用いた現在および将来の種々の治療計画および組み合わせを縛りのないものとするために、HFSRの有効な治療法が未だ必要とされていることは明らかである。
【0026】
アロプリノールは、ヒポキサンチンの構造異性体であり、オキシプリンを尿酸に変換する酵素であるキサンチンオキシダーゼを阻害する。尿酸の産生を遮断することによって、この薬剤は、血清中および尿中の尿酸濃度を下げ、それによって、過剰な尿酸産生に関連する状態において、尿酸が介在する末端臓器の損傷から保護する。痛風、高尿酸血症および腎臓結石を治療または予防するために、経口投与または非経口の全身投与が何年も用いられてきた。
【0027】
また、アロプリノールには、口、喉、胃腸(GI)管を被覆する、急速に分裂する細胞に対するよくある化学療法または放射線によって誘発される損傷である粘膜炎の治療についての報告がある。アロプリノールは、マウスウォッシュの形態で用いられる(水分散物)(Porta C.ら、Am J clin Oncol.1994、第17巻、no.3、246−247)。アロプリノール、カルボキシメチルセルロース、水を含むマウスウォッシュの改良製剤がJP−3106817号に記載されている。Hanawaら、Drug Dev Ind Pharm 2004、30(2)151−161は、アロプリノール、ポリエチレンオキシド、カラギーナンを含む別のマウスウォッシュを記載している。Kitagawaらは、J Radiation Research 2008、第49巻、no.1、49−54において、アロプリノールゲルが、ラットにおいて、放射線によって誘発される粘膜炎および皮膚炎を和らげることを記載している。Dagherら、Canadian Journal of Hospital Pharmacy、第40巻、no.5 1987、ページ189は、5−FUによって誘発される粘膜炎を治療するための、アロプリノールマウスウォッシュおよび膣用0.1%クリームの使用を開示している。
【0028】
WO94/05293号およびWO94/05291号は、メチルスルホニルメタン(MSM)と、オキシプリノールまたはアロプリノールのうち少なくとも1つとを含む、相乗作用を有する組成物および、火傷、皮膚炎、角化、日焼け、皮膚の老化などを含む皮膚の状態、疾患および損傷を治療するためのこれらの使用を記載している。オキシプリノールおよびアロプリノールは、MSMの皮膚治癒性または修復性を高めると記載されている。
【0029】
W02007/138103号は、アロプリノールの使用、特に、フルオロピリミジン化学療法(5−FUおよびカペシタビン)によって誘発される手掌足底感覚異常症または手足症候群を治療するためのクリームの形態での局所的な使用を開示し、例示している。しかし、当業者は、フルオロピリミジンおよび多標的キナーゼ阻害剤が、非常に異なるメカニズムで、分子レベルで作用し、これらの皮膚毒性は、上述のように、臨床的にも組織学的にも異なっていることを知っている。
【0030】
実際に、Woodらによる学術的な専門家集団は(Community Oncology)1ページで以下のように述べている。
「MKIに関連するHFSRは、これより前の化学療法剤を用いたときにみられるHFSとは臨床的および病理学的に区別される皮膚毒性である」
【0031】
引用された文書には、アロプリノールが、手足皮膚反応(HFSR)の治療または予防に有用であることを述べているものはなく、または示唆しているものもない。
【発明の概要】
【0032】
本願発明者は、驚くべきことに、アロプリノールを局所投与すると、特に、患者の手のひらおよび足の裏に投与すると、多標的キナーゼ阻害剤(MKI)によって誘発される手足皮膚反応(HFSR)の治療および予防において非常に有効であることを見出した。実施例に示されるように、MKIで治療され、この状態が進行している癌患者にアロプリノールを局所投与すると、症状が完全になくなり、HFSRのさらなる発生が避けられる。実施例の1つに示されているように、手のひらおよび足の裏に存在する厚い角質層を局所的に治療するのはきわめて困難であると予想され、また、このプロセスを逆行させ、皮膚を短期間で正常な状態に戻し、角化を消すことはきわめて困難であると予想されるため、このことは、HFSRの典型的な角化が進行している患者の場合には、もっと顕著である。
【0033】
したがって、一つの態様において、本発明は、多標的キナーゼ阻害剤(MKI)によって誘発される手足皮膚反応の治療または予防において使用するための、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩を含む医薬に関する。
【0034】
第二の態様において、本発明は、多標的キナーゼ阻害剤によって誘発される手足皮膚反応を治療または予防するための医薬の製造における、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩の使用に関する。
【0035】
第三の態様において、本発明は、治療的に有効な量のアロプリノールまたはその医薬的に許容される塩を局所的に適用することを含んでなる、多標的キナーゼによって誘発される手足皮膚反応の、当該疾患に罹患しているか、または罹患しそうな患者における治療または予防方法に関する。
【0036】
本発明のさらなる実施形態は、特許請求の範囲に規定されている。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書において、用語「多標的受容体チロシンキナーゼ阻害剤」は、血管形成に重要であることが示されている複数の受容体に対する選択性を示す受容体結合プロフィールを有する化合物を指す。
【0038】
本発明において、用語「手足皮膚反応」(HFSR)は、多標的受容体チロシンキナーゼ阻害剤で治療される癌患者の手および足の皮膚に対する副作用を定義している。これらの臨床的特徴および組織学的特徴、およびそのグレード分けは、上述した。説明されているように、手足皮膚反応は、5−FUおよびカペシタビンのような他の化学療法剤によって誘発される手掌足底感覚異常症(PPE)(手足症候群(HFS)としても知られる)とは異なっている。
【0039】
本発明において、用語「アロプリノール」は、その化合物の異なる互変異性体も指す。なぜならばアロプリノールは、1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−4−オールと1,5−ジヒドロ−4H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−4−オンの互変異性体混合物だからである。
【化1】

上述のように、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩の1つを局所適用すると、驚くべきことに、MKIによって誘発されるHFSRを治療および予防するのに有用であることが見出された。
【0040】
したがって、一つの態様において、本発明は、多標的キナーゼ阻害剤治療によって誘発されるHFSRを治療または予防するための医薬の製造における、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩の使用に関する。
【0041】
一つの実施形態において、医薬は、クリームの形態である。好ましくは、クリームは、親水性クリームである。
【0042】
別の実施形態において、医薬は、MKIであるソラフェニブ単独または他の薬剤と組み合わせることによって誘発されるHFSRの治療用である。
【0043】
別の実施形態において、医薬は、MKIであるスニチニブ単独または他の薬剤と組み合わせることによって誘発されるHFSRの治療用である。
【0044】
したがって、この医薬は、癌、好ましくは、腎細胞の癌腫、肝細胞の癌腫、乳癌、消化管間質腫瘍(GIST)、非小細胞肺癌(NSCLC)、黒色腫を患い、アジュバント、ネオアジュバントまたは苦痛緩和剤としてMKI治療を受ける患者の治療に有用である。HFSRを誘発する治療および患者の例は、「背景技術」の欄に記載されている。
【0045】
HFSRを治療するためのアロプリノールを含む医薬は、ソラフェニブ、スニチニブ若しくは他のMKIを単独でまたは他の薬剤と組み合わせて受けている患者または受けようとしている患者に特に有用である。
【0046】
アロプリノールの局所適用は、罹患領域を有効に標的化することができ、全身へのアロプリノールが癌患者に引き起こし得る毒性および合併症を避けることができる。これにより、癌治療への影響を避けることができる。
【0047】
アロプリノールは、水およびアルコールには非常にわずかしか溶けない化合物であり、実質的にクロロホルムおよびエーテルには不溶性であり、アルカリ水酸化物の希釈溶液に溶解する。そのまま使用してもよく、また水への可溶性を高めるために、ナトリウム塩のような塩を塩基の代わりに用いてもよい。
【0048】
好ましい実施形態において、医薬は、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩を、1つ以上の局所的に許容されるキャリア材料とともに含んでなる、手および足を治療するための局所医薬組成物の形態である。
【0049】
HFSRを治療するために用いられる局所組成物において、アロプリノールまたはその塩は、典型的には約1〜10%まで、特に1〜8%、より特定的には1〜6%、特に1〜5%までの量で存在する。約1%、約3%、約8%の濃度が好ましい。
【0050】
好ましい範囲は、重量基準で、組成物全体の2〜5%まで、より好ましくは2〜4%である。約3%の量が良好な結果を与え、特に好ましい。全ての百分率は、特に断らない限り重量%(w/w)である。
【0051】
手および足に、より好ましくは、手のひらおよび足の裏の罹患領域に局所投与するのに適した医薬組成物は、例えば、クリーム、ローション、軟膏、マイクロエマルション、脂肪から作られた軟膏、ゲル、エマルションゲル、ペースト、フォーム、チンキ剤、溶液、パッチ、包帯および経皮治療システムである。最も好ましいのは、クリームまたはエマルションゲルである。
【0052】
クリームまたはローションは、水中油型エマルションである。使用可能な油性基剤は、脂肪族アルコール、特に、炭素原子を12〜18個含むものであり、例えば、ラウリル、セチルまたはステアリルアルコール、脂肪酸、特に、炭素原子を10〜18個含むもの、例えば、パルミチン酸またはステアリン酸、脂肪酸エステル、例えば、グリセリルトリカプリロカプレート(中性油)またはパルミチン酸セチル、液体から固体のワックス、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、羊毛脂または蜜ロウ、および/または炭化水素、特に、液体、半固体もしくは固体のものまたはこれらの混合物、例えば、ペトロリウムゼリー(ペトロラタム、ワセリン)またはパラフィン油である。適切な乳化剤は、親水性が優位な界面活性物質、例えば、対応する非イオン性乳化剤、例えば、ポリアルコールの脂肪酸エステルおよび/またはこれらのエチレンオキシド付加物、特に、脂肪酸部分が炭素原子を10〜18個含む、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコールまたはソルビトールとの脂肪酸エステル、特に、ポリヒドロキシエチレンソルビタンの部分グリセロール脂肪酸エステルまたは部分脂肪酸エステル、例えば、ポリグリセロール脂肪酸エステルまたはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)、さらに、脂肪族アルコール部分が、特に炭素原子を12〜18個含み、脂肪酸部分が、特に炭素原子を10〜18個含む、ポリオキシエチレン脂肪族アルコールエーテルまたは脂肪酸エステル、例えば、ポリヒドロキシエチレングリセロール脂肪酸エステル(例えば、Tagat S)、または対応するイオン性乳化剤、例えば、脂肪族アルコールサルフェート、特に、脂肪族アルコール部分に炭素原子を12〜18個含む脂肪族アルコールサルフェートのアルカリ金属塩、例えば、通常は、脂肪族アルコール(例えば、セチルアルコールまたはステアリルアルコール)存在下で用いられるラウリル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム、またはステアリル硫酸ナトリウムである。水相に対する添加剤は、特に、クリームが乾燥するのを防ぐ薬剤(例えば、保湿剤)であり、例えば、ポリアルコール、例えば、グリセロール、ソルビトール、プロピレングリコールおよび/またはポリエチレングリコール、さらに、防腐剤、香料、ゲル化剤などである。
【0053】
軟膏は、水相または水系相を70%以下で、しかし好ましくは、約20%〜約50%含む油中水型エマルションである。脂肪相として適切なのは、特に、炭化水素、例えば、ペトロリウムゼリー、パラフィン油および/または硬質パラフィンであり、水への結合能力を高めるために、好ましくは、適切なヒドロキシ化合物、例えば、脂肪族アルコールまたはそのエステル、例えば、セチルアルコールもしくは羊毛脂アルコール、または羊毛脂もしくは蜜ロウを含む。乳化剤は、対応する脂溶性物質、例えば、上に示した種類の脂溶性物質、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル(Span)、例えば、オレイン酸ソルビタンおよび/またはイソステアリン酸ソルビタンである。水系相に対する添加剤は、特に、保湿剤、例えば、ポリアルコール、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールおよび/またはポリエチレングリコール、さらに、防腐剤、香料などである。
【0054】
マイクロエマルションは、以下の4成分に基づく等方性系である:水、界面活性剤、例えば、張力活性を有する脂質、例えば、非極性または極性の油、例えば、パラフィン油、オリーブ油またはトウモロコシ油のような天然油、脂溶性基を含むアルコールまたはポリアルコール、例えば、2−オクチルドデカノールまたはエトキシル化グリセロールまたはポリグリセロールエステル。所望な場合、他の添加剤をマイクロエマルションに加えてもよい。マイクロエマルションは、大きさが200nm未満のミセルまたは粒子を含み、透明または半透明の系であり、自然に生成し、安定である。
【0055】
脂肪から作られた軟膏は、水を含まず、基剤として、特に、炭化水素、例えば、パラフィン、ペトロリウムゼリーおよび/または液体パラフィン、さらに天然脂肪または部分的に合成の脂肪、例えば、グリセロールの脂肪酸エステル、例えば、ココナツ脂肪酸トリグリセリド、または、好ましくは、硬化油、例えば、水素化ラッカセイ油、ヒマシ油またはワックス、さらに、グリセロールの脂肪酸部分エステル、例えば、グリセロールのモノステアレートまたはジステアレート、さらに例えば、水吸収能を高めた脂肪族アルコール、乳化剤、および/または軟膏に関連して述べられた添加剤を含む。
【0056】
ゲルの場合、膨潤性のゲル形成材料で構成される水性ゲルと、水を含まないゲルと、水を低い含有量で含むゲルとが区別される。特に、無機高分子または有機高分子に基づく、透明なヒドロゲルが用いられる。ゲル生成能を有する高分子量の無機成分は、主に、水を含有するシリケート、例えば、アルミニウムシリケート、例えば、ベントナイト、マグネシウムアルミニウムシリケート、例えば、ビーガム、またはコロイド状ケイ酸、例えば、アエロジルである。高分子量有機物質としては、例えば、天然、半合成、または合成の高分子が用いられる。天然および半合成のポリマーは、例えば、多種類の炭水化物成分を含む多糖類(例えば、セルロース、デンプン、トラガカント、アラビアゴム)および寒天、ゼラチン、アルギン酸およびアルギン酸塩、例えば、アルギン酸ナトリウム、およびこれらの誘導体(例えば、低級アルキルセルロース、例えば、メチルセルロースまたはエチルセルロース、カルボキシ低級アルキルセルロースまたはヒドロキシ低級アルキルセルロース、例えば、カルボキシメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロース)から誘導される。合成ゲル生成高分子の成分は、例えば、適切に置換された不飽和脂肪族化合物、例えば、ビニルアルコール、ビニルピロリジン、アクリル酸またはメタクリル酸である。
【0057】
エマルションゲルは、「エマルゲル」とも呼ばれ、ゲルの性質と、水中油型エマルションの性質をあわせもつ局所組成物をあらわす。ゲルとは対称的に、エマルションゲルは、脂肪を保有する性質のために、製剤がもみこまれると同時に、望ましい性質として皮膚が直接吸収することができるような脂質相を含む。さらに、脂溶性の活性成分に対する溶解性の増加を観察することができる。水中油型エマルションより優れるエマルションゲルの利点の1つは、存在する場合、さらなるアルコール成分が蒸発するため、冷たさによってもたらされる冷却効果が高まることにある。
【0058】
フォームは、例えば、加圧容器から投与され、エアロゾル形態の液体の水中油型エマルションであり、置換されていない炭化水素、例えば、アルカン(例えば、プロパンおよび/またはブタン)が噴射剤として用いられる。油相として、特に、炭化水素、例えば、パラフィン油、脂肪族アルコール(例えば、セチルアルコール)、脂肪酸エステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピル)および/または他のワックスが用いられる。乳化剤として、特に、親水性が優位な乳化剤(例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween))と、脂溶性が優位な乳化剤(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル(Span))との混合物が用いられる。従来の添加剤、例えば、防腐剤なども用いられる。
【0059】
チンキ剤および溶液は、一般的に、エタノール系基剤を含んでおり、これに、水を加えてもよく、これに、特に、ポリアルコール、例えば、グリセロール、グリコールおよび/またはポリエチレングリコールを、蒸発量を減らすための保湿剤として加えてもよく、脂肪を保有する物質、例えば、低分子量ポリエチレングリコール、プロピレングリコールまたはグリセロールとの脂肪酸エステル(いわゆる、水系混合物に可溶性である脂溶性物質)を、エタノールによって皮膚から除去された脂肪物質を置き換えるものとして用いてもよく、必要な場合、他の付加物および添加剤を用いてもよい。また、適切なチンキ剤または溶液を、適切な装置を用いることによって、スプレー形態で塗布してもよい。この場合、アロプリノールの可溶性に問題があるため、チンキ剤または溶液として塩の方が適している。
【0060】
経皮の治療薬系、特に、アロプリノールを局所送達する経皮の治療薬系は、有効量のアロプリノールを、場合により、キャリアとともに含む。有用なキャリアは、活性成分が皮膚を通過するのを助ける、薬理学的に適切な吸収性溶媒を含む。経皮送達系は、例えば、(a)基板(=裏打ち層または膜)、(b)活性成分と、場合によりキャリアと、場合により(しかし、好ましくは)この系を皮膚にくっつけるための特定の接着剤とを含むマトリックス、通常は、(c)保護箔(=剥離ライナー)を含むパッチの形態である。マトリックス(b)は、通常は、すべての成分の混合物として存在しているか、または別個の層からなっていてもよい。
【0061】
これらのすべての系は、当業者には十分に知られている。局所投与可能な医薬製剤の製造は、特に、例えば、アロプリノールを、基剤に、必要な場合、その一部に溶解するか、または懸濁させることによって、既知の様式で行われる。
【0062】
また、組成物は、皮膚に適用するための従来の添加剤およびアジュバント(例えば、防腐剤、特に、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンのようなパラベンエステル、または塩化ベンザルコニウムのような四級アンモニウム化合物、またはイミダゾニジニル尿素のようなホルムアルデヒド供与体、またはベンジルアルコール、フェノキシエタノールのようなアルコール、または安息香酸、ソルビン酸のような酸;pHバッファ賦形剤として用いられる酸または塩基;酸化防止剤、特に、ヒドロキノン、トコフェロール、これらの誘導体のようなフェノール系酸化防止剤、フラボノイド、またはアスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビルのようなその他の酸化防止剤;香料;フィラー、例えば、カオリンまたはデンプン;顔料または着色剤;UV遮断剤;保湿剤、特に、グリセリン、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、尿素、ヒアルロン酸またはこれらの誘導体;遊離ラジカル捕捉剤、例えば、ビタミンEまたはその誘導体;浸透促進剤、特に、プロピレングリコール;エタノール;イソプロパノール;ジメチルスルホキシド;N−メチル−2−ピロリドン;脂肪酸/アルコール、例えば、オレイン酸、オレイルアルコール;テルペン、例えば、リモネン、メントール、1−8シネオール;アルキルエステル、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル;イオン対化剤、例えば、サリチル酸)を含んでいてもよい。
【0063】
適切な局所製剤に関するさらなる詳細は、標準的な教科書、例えば、Marcel Dekker Inc.によって出版されたBanker and Rhodes(編集)Modern Pharmaceutics 第4版(2002);Harry’s Cosmeticology(2000)、第8版、Chemical Publishing Co.;Remington’s Pharmaceutical Sciences 第20版、Mack Publishing Co.(2000)を参照することによって得られるだろう。
【0064】
好ましい実施形態では、アロプリノールは、クリームとして製剤され、好ましくは、エモリエント基剤が皮膚への局所的な塗布に適しており、実質的に毒性がなく、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩に適切なキャリアを与える場合には、エモリエント基剤に配合される。また、適切に選択されたエモリエント基剤は、それ自体がある程度症状を緩和させることができる。特定の場合には、保湿クリームが基剤として好ましい。
【0065】
エモリエントは、例えば、脂肪族アルコール、炭化水素、トリグリセリド、ワックス、エステル、シリコーン油、およびラノリンを含有する生成物であってもよい。脂肪族アルコールは、例えば、セチルアルコール、オクチルドデカノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールである。炭化水素としては、鉱物油、ペトロラタム、パラフィン、スクアレン、ポリブテン、ポリイソブテン、水素化ポリイソブテン、セリシンおよびポリエチレンが挙げられる。トリグリセリドは、例えば、ヒマシ油、カプリル/カプリントリグリセリド、水素化植物油、スイートアーモンド油、小麦胚種油、ゴマ油、水素化綿実油、ココナツ油、小麦胚芽グリセリド、アボカド油、トウモロコシ油、トリラウリン、水素化ヒマシ油、シアバター、ココアバター、大豆油、ミンク油、ヒマワリ油、ベニバナ油、マカダミアナッツ油、オリーブ油、杏仁油、ヘーゼルナッツ油、ルリヂサ油である。ワックスとしては、例えば、カルナバワックス、蜜ロウ、カデリラワックスパラフィン、木蝋、微晶質ワックス、ホホバ油、セチルエステルワックス、合成ホホバ油が挙げられる。エステルとしては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、リノール酸イソプロピル、12−15アルコールベンゾエート、パルミチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、乳酸ミリスチル、酢酸セチル、プロピレングリコールジカプリレート/カプレート、オレイン酸デシル、ヘプタン酸ステアリル、マレイン酸ジイソステアリル、ヒドロキシステアリン酸オクチル、イソステアリン酸イソプロピルが挙げられる。シリコーン油は、例えば、ジメチコーン(ジメチルポリシロキサン)、シクロメチコーンである。ラノリンを含有する生成物は、例えば、ラノリン、ラノリン油、イソプロピルラノレート、アセチル化ラノリンアルコール、アセチル化ラノリン、ヒドロキシル化ラノリン、水素化ラノリン、ラノリンワックスである。
【0066】
好ましい実施形態では、アロプリノールは、市販の基剤クリーム(例えば、Bag BalmまたはBasiscreme DAC(Deutsches Arzneimittel codex))と混合することによって調製される。
【0067】
アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩を含む局所製剤の1日投薬量は、例えば、患者の性別、年齢、体重、個々の状態、患者に与えられるか、または与えられる予定の化学療法、HFSRの重篤度のような種々の因子に依存し得る。
【0068】
局所的な医薬組成物は、例えば、クリーム、エマルションゲルまたはゲルの形態で、1日に1回、2回、または3回塗布されてもよいが、HFSRの症状がなくなるか、または避けられる限り、1日に5〜10回のように、1日にもっと頻繁に塗布することも可能である。この投薬量は、HFSRの症状の重篤度、またはMKI治療による治療の回数または投薬量と関連して変わってもよい。手または足あたり、1回の塗布あたり、1本の指先に取る量が推奨される。
【0069】
本発明の医薬組成物は、異なるグレードでHFSRをすでに患っている患者に投与されるか、または、実施中もしくは実施予定のMKI治療の結果としてHFSRが進行すると思われる患者に予防的処置として投与される。
【0070】
投与は、HFSRが進行するリスクが高いときには、化学療法による治療のすぐ前、治療中、治療の後に量が増やされてもよく、サイクルの間の空き時間中は減らされてもよい。
【0071】
本発明を、実施例を用いてさらに説明するが、これらは、特許請求の範囲によって定義されるような本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0072】
実施例1
アロプリノールを含む局所製剤の調製
アロプリノール基剤(製剤合計の3重量%)を5%水に懸濁させ、次いで、Basiscreme DAC(92%)を加え、混合することによって製剤を調製した。
Basiscreme DACの組成は、以下のとおりである。
モノステアリン酸グリセロール:4.0
セチルアルコール 6.0
中鎖トリグリセリド 7.5
白色ワセリン 25.5
ポリオキシエチレングリセロールモノステアレート 7.0
プロピレングリコール 10.0
水 40.0
得られたクリームを、適切な容器に分配し、保存する。クリームは、患者により容易に塗布され得る。
【0073】
実施例2
手足皮膚反応の治療
進行した転移性腎細胞癌腫(MRCC)の男性患者(65歳)を手術によって治療し、転移が進行した後、苦痛緩和剤治療として、投薬量を減らしたNexavar(登録商標)(ソラフェニブ)で治療した(1日に200mgを2回)。治療は、7ヶ月後に、HFSR、疲労、食欲減退、下痢のために中断された。第3の系列/第2の系列の苦痛緩和剤治療を、1日で37.5mgまで投薬量を減らしたSutent(登録商標)(スニチニブ)を用いて、6週間ごとに1〜28日間行った。
【0074】
患者は、ソラフェニブで治療している間にHFSRが進行し、手のひらおよび足の裏に非常に厚い角化と痛みが起こり、医薬をソラフェニブからスニチニブに変えても消えなかった。患者の状態を改善し、癌治療の中断を避ける試みのために、実施例1で調製したクリームを用い、1日に3回、局所的な治療を開始した。
結果:アロプリノールで局所的に治療した後、HFSRの症状はほぼ完全に消え、スニチニブを用いた治療は、HFSRのために投薬量を減らしたり、治療を遅らせたりすることなく終了させることができた。局所的なアロプリノール治療に関連する毒性の影響は観察されなかった。
驚くべきことに、アロプリノールでほんの1週間治療した後に、HFSRの症状は、ほとんどの領域でグレード3から1に戻った。最も重要な点として、厚い角化が消えた。腫瘍の進行のためにこの治療が中断されるまで、スニチニブおよびアロプリノールのクリームを用いた治療を続けた。
【0075】
実施例3
手足皮膚反応の治療
進行した肝細胞癌腫(HCC)の男性患者(74歳)に、初期の減らした投薬量で、ソラフェニブを用いて苦痛緩和剤治療を開始した(1日に200mgを2回)。2ヶ月半後、患者は、HFSRグレード1に進行した。この患者を、実施例1に記載されるアロプリノールクリームで治療し、HFSRの症状は7日間で消えた。
ソラフェニブの投薬量を、推奨投薬量である400mgを1日に2回まで増やした。さらなるHFSRの症状はみられず、下痢のような他の副作用があらわれたが、管理可能であった。患者に、計画通りにソラフェニブを用いた治療を続けた。
【0076】
実施例4
転移性腎細胞癌腫(MRCC)の男性患者(56歳)は、2008年8月に骨と肺に転移していると診断された。まず、この患者をトリセルで6ヶ月間静脈から治療した。転移が進行し、右腎臓の腎摘術を行った後、この患者を、標準的な投薬量である1日50mgのSutent(登録商標)(スニチニブ)で、6週間ごとに1〜28日間、苦痛緩和剤治療として治療した。
【0077】
患者は、スニチニブで治療している間にHFSRが進行し、手のひらおよび足の裏に角化症(指の先に落屑および病変)と痛みが起こり、エモリエントクリームで治療した後も消えなかった。患者の状態を改善し、癌治療の中断を避ける試みのために、実施例1で調製したアロプリノールクリームを用い、1日に3回、局所的な治療を開始した。
結果:アロプリノールで局所的に治療した後、HFSRの症状はほぼ完全に消え、スニチニブを用いた治療は、HFSRのために投薬量を減らしたり、治療を遅らせたりすることなく終了させることができた。局所的なアロプリノール治療に関連する毒性の影響は観察されなかった。
アロプリノールでほんの1週間治療した後に、HFSRの症状は、ほとんどの領域でグレード2からグレード1および0に戻った。スニチニブおよびアロプリノールのクリームを用いた治療は現在継続中である。
【0078】
実施例5
2001年に、腎細胞癌腫であると最初に診断された女性患者(71歳)を手術によって治療した。2005年に、この患者は、転移性腎細胞癌腫(MRCC)(肝臓および局所転移)が進行し、転移が進行した後に、この患者を、Nexavar(登録商標)(ソラフェニブ)苦痛緩和剤治療として治療した(1日に400mgを2回)。この治療は、毒性(HFSR、下痢)のために2007年9月に中断された。第2の系列の苦痛緩和剤治療を、Sutent(登録商標)(スニチニブ)を用い、1日に50mgの投薬量で、6ヶ月ごとに1〜28日間治療した。Nexavarを用いた場合よりも大きな毒性の問題があったため(浮腫、鬱病、アレルギー)、1ヶ月後に中断しなければならず、Nexavar(ソラフェニブ)の治療に戻し、1ヶ月後に、実施例1のアロプリノールクリームおよびロペラミドを用いて実施し、HFSRおよび下痢を治療した。この治療によって、ほぼ2年間にわたってHFSRを良好に制御することができたが、下痢は制御できなかった(2007年11月〜2009年9月)。この治療は、癌が進行した後に中断された。次いで、この患者を、アフィニトール(エベロリムス)を1日10mg用いて短期間治療し(2009年9月〜2010年3月)、応答がなくなり、腫瘍が進行するという観点で中断された。代替的な治療を行わない状態で、少ない投薬量のNexavar(ソラフェニブ)を2010年3月に再開した。HFSRが進行した後、アロプリノールクリームを用いた処理を、1ヶ月後に再び実施した。
結果:アロプリノールで局所的に治療した後、HFSRの症状はほぼ完全に消え、Nexavarを用いた治療を続けることができた。局所的なアロプリノール治療に関連する毒性の影響は観察されなかった。
【0079】
実施例によって示されるように、HFSRが進行した4人の患者の場合に、アロプリノールで治療すると、HFSRが改善し、MKI治療を計画通りに終了させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩を含んでなる、多標的キナーゼ阻害剤(MKI)治療によって誘発される手足皮膚反応(HFSR)の治療または予防のための医薬。
【請求項2】
前記手足皮膚反応が、スニチニブによって誘発されるものである、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
前記手足皮膚反応が、ソラフェニブによって誘発されるものである、請求項1に記載の医薬。
【請求項4】
前記医薬が局所投与用であり、好ましくは手または足の皮膚への局所投与用である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項5】
前記医薬がクリーム、好ましくは親水性クリームである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項6】
前記医薬が、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩の組成物を約1〜10重量%、好ましくは約1%〜約8重量%、より好ましくは約2〜約5重量%含んでなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項7】
前記医薬が、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩の組成物を約3重量%含んでなる、請求項1に記載の医薬。
【請求項8】
多標的キナーゼ阻害剤(MKI)治療によって誘発される手足皮膚反応(HFSR)を治療または予防するための医薬の製造において用いるための、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩の使用。
【請求項9】
多標的キナーゼ(MKI)治療によって誘発される手足皮膚反応(HFSR)の治療または予防において使用するための、アロプリノール。
【請求項10】
スニチニブによって誘発される手足皮膚反応(HFSR)の治療または予防において使用するための、アロプリノール。
【請求項11】
ソラフェニブによって誘発される手足皮膚反応(HFSR)の治療または予防において使用するための、アロプリノール。
【請求項12】
手足皮膚反応を治療または予防するために、治療的に有効な量のアロプリノールまたはその医薬的に許容される塩を含む医薬を患者に投与することを含んでなる、必要な患者において、多標的キナーゼ(MKI)治療によって誘発される手足皮膚反応(HFSR)を治療または予防する方法。
【請求項13】
HFSRがソラフェニブによって誘発されるものである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
HFSRがスニチニブによって誘発されるものである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記医薬が、皮膚に局所投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記医薬が、手または足の皮膚に局所投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記医薬がクリームである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記医薬が親水性クリームである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記医薬が、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩の組成物を約1〜10重量%含むものである、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記医薬が、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩の組成物を約1〜5重量%含むものである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記医薬が、アロプリノールまたはその医薬的に許容される塩の組成物を約3重量%含むものである、請求項20に記載の方法。

【公表番号】特表2012−525358(P2012−525358A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507765(P2012−507765)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055806
【国際公開番号】WO2010/125143
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(508353433)ノベラ ファルマ ソシエダッド リミターダ (3)
【出願人】(511254583)アドバンセル アドバンスト イン ビトロ セル テクノロジーズ、エセ ア (1)
【氏名又は名称原語表記】ADVANCELL ADVANCED IN VITRO CELL TECHNOLOGIES, S.A.
【Fターム(参考)】