説明

抄紙ウエットエンド環境の制御システム

【課題】 抄紙ウエットエンド環境の適正化システムの提供。
【解決手段】 白水ピット20および/またはチェスト排水ピット30と、これらに接続配管を介して接続され、pH4以上7未満で次亜塩素酸又は亜塩素酸を含有する水溶液を供給する次亜水供給装置10と、上記白水ピット110および/またはチェスト排水ピット120に付設され、白水または排水中の残留塩素濃度を測定する装置と、該測定装置の測定信号に基づき、上記次亜水供給装置5からの供給量をコントロールする動力制御盤10とを備え、投入時濃度0.5ppm以上を目算にpHが弱酸性に調整された次亜塩素酸または亜塩素酸を含む水溶液を連続又は断続的に添加し、白水循環内は残留塩素濃度を0.1から3ppm、多くて5ppm、または白水循環系外は残留塩素は1ppm未満にコントロールすることを特徴とする抄紙ウエットエンド環境の制御システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抄紙ウエットエンド環境の制御システムに関し、特に抄紙ウエットエンドの環境の最適化を行うことができる制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な環境問題に対する関心の高まりや抄紙条件の中性化による影響でパルプ原料事情は、年々厳しさを増している。中でもDIPやコートブロークの配合量増加は歩留りの低下、濾水性等のウエットエンドの物性の低下や紙力、サイズ度等の紙質の低下を引き起こすばかりでなく、抄紙マシンの汚れトラブルを生ずる要因となっている。
このような生産性、操業性低下の歯止めとして、様々な薬剤が過剰に添加される傾向にあり、さらなる抄紙マシンの汚れトラブルを引き起こすという悪循環をもたらしている。また、中性抄紙化に伴い、微生物によるスライムトラブルが増加する一方、硫酸バンドの効果低下によってピッチ、アニオントラッシュ等の夾雑物の系内への蓄積が増加しており、スライムトラブルとともにピッチやアニオントラッシュ等の夾雑物は相互に汚れの原因となっている。したがって、現在、抄紙マシンの汚れ対策を含め、ウエットエンド環境の最適化は、生産性、操業性向上にとって大きな課題の一つになっており、これらを一挙に解決することが重要である。これに対し,特許文献1においてはアルカリ性電解質と食塩からなる中性塩からなるアルカリ性電解質溶液を電解してアルカリ性の電解液を有害微生物の殺菌に利用して製紙スライムの抑制を行う方法が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−251355号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法ではアルカリ性で殺菌作用を図ろうとしているため,その薬剤量は比較的大量でハロメタンを生成させる原因となる。そのため,現在の対策は、スライム、ピッチ、アニオントラッシュそれぞれに対しコントロール剤を投入しており、その薬剤の添加効果は相互の反応が伴い、一元的に薬剤管理をすることは極めて困難であった。また、できたとしても測定結果のフィードバックが遅延し、調整が複雑であるため、ウエットエンド環境の自動管理にはほど遠い現状にある。
【0005】
そこで、本件発明者らはこれらウエットエンド環境を適正化するために鋭意研究の結果、次亜塩素酸を代表とする酸ハロゲン系酸化剤は酸性下でウエットエンドの抄紙後の白水に添加すると、添加時に、(1)強力な殺菌効果を発揮し、スライムコントロールを不要とするだけでなく、(2)有機物の分解および種々の夾雑物によるアニオントラッシュの影響を除去または減少させると同時に紙力が増強し、その結果(3)スケールトラブルが減少するという驚くべき事実を見出した。しかも、(4)この処理方式は有効塩素濃度を管理し、これに基づき、次亜塩素酸の投入量を調整することにより一元的に管理することができ、ウエットエンド環境の管理の自動化が容易であることを見出した。したがって、本発明の目的は、酸性条件下に次亜塩素酸等の酸ハロゲン化剤を用いて抄紙環境を最適化することができる制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、製紙原料水に薬剤添加し、抄紙マシンで白水を抄紙し、抄紙後の白水を循環使用する抄紙ウエットエンド環境において、
白水ピット110および/またはチェスト排水ピット120と、これらに接続配管を介して接続され、pH4以上7未満で次亜塩素酸又は亜塩素酸を1000ppm以上含有する水溶液を供給する次亜水供給装置と、上記白水ピット110および/またはチェスト排水ピット120に付設され、白水または排水中の残留塩素濃度を測定する装置と、該測定装置の測定信号に基づき、上記次亜水供給装置からの供給量をコントロールする動力制御盤10とを備え、投入時濃度0.5ppm以上を目算にpHが弱酸性に調整された次亜塩素酸または亜塩素酸を含む水溶液を連続又は断続的に添加し、白水循環内は残留塩素濃度を0.1から3ppm、多くて5ppm、または白水循環系外は残留塩素は1ppm未満にコントロールすることを特徴とする抄紙ウエットエンド環境の制御システムにある。
【0007】
上記次亜水供給装置が次亜塩素酸ソーダ又は亜塩素酸ソーダ水溶液タンク1および希塩酸タンク2に定量ポンプ3.4を介して接続され、希塩酸と次亜塩素酸ソーダ又は亜塩素酸ソーダ水溶液を工業用水にて希釈混合してpH4以上7未満、特に6.5以下で1000〜10000ppm、好ましくは3000〜8000ppmの濃度に調整するミキサー5又は6であるか、塩化ナトリウム水溶液の電解装置を用い、生成する次亜塩素酸を塩酸にてpH4以上7未満、特に6.5以下に調節することによっても構成可能である。
【0008】
更に、白水中の残留塩素濃度を測定するための測定装置は、該測定信号を上記動力制御盤にフィードバックして希釈次亜塩素酸または亜塩素酸を含む水溶液の白水ピットまたはチェスト排水ピットへの投入量を自動調整するのが好ましい。
【0009】
古紙使用の抄紙の場合、白水循環内の菌数105以下、好ましくは菌数104以下にコントロールすることができるように、環境内の残留塩素濃度と残留菌数との関係を示す検量線を予め作成し、その検量線を予めメモリーに蓄積し、制御システムを構成するのが好ましい。
【0010】
次亜塩素酸または亜塩素酸を含む水溶液としては次亜塩素酸、亜塩素酸を含む電解液、次亜塩素酸ソーダ、亜塩素酸ソーダ等の希釈水溶液が使用可能であるが、塩素ガスを発生しない領域、pH4以上7未満、好ましくは6.5以下で1000〜10000ppmの次亜塩素酸ソーダまたは亜塩素酸ソーダを使用するのが経済的に好ましい。
【0011】
上記次亜塩素酸水溶液はHSP(株)製ステリミキサーなどを用い、現場で製造することができる。現場で製造し、投与する場合は、pH4〜6.5で、1000〜10000ppm,特に3000〜8000ppmの濃度が好ましい。また、塩化ナトリウムを含有する食塩水または海水の電気分解により生成させることができ、塩酸を用いてpH4以上6.5以下に調整するのが好ましい。
【0012】
通常、塩酸酸性で、次亜塩素酸または次亜塩素酸ソーダ水溶液を製造するにあたっては、pHが4以下に下がると、7塩素ガスの発生が認められるので、pH4以下にならないように緩衝剤を使用するのが好ましい。また、ミキサ−で製造する時は30%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下の希塩酸を用い、20%以下、好ましくは12%以下の次亜塩素酸ソーダ水溶液と混合し、pH4以上6.5以下、好ましくはpH5以上6以下の領域内で有効塩素濃度3000〜8000ppmまで水により希釈することにより、塩素の発生もなく、所定の次亜塩素酸ソーダ水溶液を製造することができる。特に、次亜塩素酸ソーダ水溶液を調製する場合は、pHが下がり過ぎないようにpH調整剤を用いるのが好ましく、有効塩素に影響を与えない無機系の、例えば炭酸水素カリウムまたはナトリウム塩を添加されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
このように、弱酸性で、次亜塩素酸又は亜塩素酸を含む水溶液が酸性下でウエットエンドの抄紙後の白水に添加されると、以下のように抄紙ウエットエンド環境の改善に努めることができる。本発明による制御システムでは有効塩素濃度を管理し、これに基づき、次亜塩素酸の投入量を調整することにより一元的に管理することができるので、ウエットエンド環境の管理の自動化が容易である。
(1) 強力な殺菌効果を発揮し、スライムコントロール剤を不要とする。因みに、白水循環系内の残留塩素濃度を0.1以上3、多くとも5ppmに維持することにより古紙使用抄紙の場合に菌数104以下に抑制することができる。
(2) セルロ−スに帯電するマイナスイオンを中性化させ、紙力増強剤の使用料を20〜35%減少させる。
(3) ビニ−ル、アクリル系を始めとする化合物のエステル部を次亜水の酸化力により分解するので、ピッチコントロ−ル剤使用料が20〜30%に減少する。
(4) 有機物の分解および種々の夾雑物によるアニオントラッシュの影響を除去または減少させ、トラブル処理に添加される薬剤効果を最大限に引き上げることができる。
(5) 硫化水素などの有機物臭気を完全に分解するので、消臭効果が高い。有機物の分解により排水CODを減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
10%の希塩酸と12%の次亜塩素酸ソーダ水溶液とを混合し、pH5以上7未満の領域内で有効塩素濃度3000〜10000ppmまで工業用水により的確に希釈する。この際、HSP(株)の次亜塩素酸ソーダ水溶液製造装置ステリミキサーを使用する。
【0015】
(実施例1)
図1は古紙原料使用抄紙工程の白水循環ラインにおけるウエットエンド環境の制御システムの概略図で、抄紙マシン100で抄紙された白水は一旦白水ピット110に送られ、ここでスライム処理が行われ、一部はストックインレット150に再循環され、一部は排水ピット120に送られる。他方、原料のパルパーは脱墨工程槽160から種箱140に送られ、スクリ−ン槽130を経て、ストックインレット150に送られ、抄紙マシン100に至る。ここでは、1台の抄紙マシン100に1槽の白水ピット110が図示されているが、通常抄紙マシン100が4台直列され、各マシンに各白水ピット110の(a),(b),(c),(d)槽が設けられる。
【0016】
上記白水ピット(a),(b),(c)(d)槽に次亜水供給システム200から所定の次亜水を矢印170方向に、連続供給するようになっている。
各槽には処理後の白水中の残留塩素濃度を測る測定装置D1からD4が設けられ次亜水供給システムにその測定信号180をフィードバックするようになっており、これにより所定の次亜水処理が行えるように供給量を調節している。もちろん、各測定装置で得られた測定値に基づいて供給量を手動で調節するようにしてもよい。このとき、各工場の状態の検量線を予め用意し、これに基づいて調整することができる。また、白水循環路の所定の位置に残留塩素濃度測定装置を設けるようにし、循環中の白水中の残留塩素濃度を測定するようにしてもよい。
【0017】
上記次亜水供給システム200は図2に示すように構成することができる。すなわち、次亜塩素酸ソーダ水溶液タンク1と、希塩酸タンク2から定量ポンプ3.4を介して希塩酸と次亜塩素酸ソーダ水溶液とをミキサー5及び6に供給する。別途、工業用水がミキサー5及び6に供給される。ここでは、工業用水にて希塩酸と次亜塩素酸ソーダ水溶液とを希釈混合してpH4以上6.5以下で1000〜10000ppm、好ましくは3000〜8000ppmの濃度に調整する。ミキサー5、6で調整された希釈次亜塩素酸ソーダ水溶液はウオータエンドの白水ピット110またはチェスト排水ピット120への配管を介して供給される。該配管には制御バルブが設けられた生成水ヘッダー9が設けられ、ウオータエンドの白水ピットまたはチェスト排水ピットへの投入量を調整する。10は動力制御盤で、上記ミキサーへの水、次亜塩素酸ソーダ又は亜塩素酸ソーダ水溶液及び希塩酸の供給量を制御するとともに上記ヘッダー9の制御バルブを制御し、白水ピット110,排水ピット120への次亜水の供給量を制御している。なお、7は次亜塩素酸サブタンク、8は希塩酸サブタンクである。
【0018】
通常、ウオータエンドの白水ピットまたはチェスト排水ピットに付設される、白水中の残留塩素濃度を測定する測定装置は、該測定信号を上記動力制御盤10に送信して希釈次亜塩素酸ソーダまたは亜塩素酸ソーダ水溶液のウオータエンドの白水ピットまたはチェスト排水ピットへの投入量を調整しているが、白水循環内は残留塩素濃度を0.1から3ppm、多くて5ppm、または白水循環系外は残留塩素は1ppm未満にコントロールするのが好ましい。
【0019】
上記残留塩素濃度の調整により、古紙使用の抄紙の場合、白水循環内の菌数105以下、好ましくは菌数104以下にコントロールすることができる。そして、このような残留塩素濃度では有害なトリハロメタンが生成する原因にならないことが確認されている。
【0020】
なお、上記実施例では6000ppmの塩酸酸性次亜塩素酸ソーダを現場で調製して投入したが、3000ないし8000ppmの高濃度次亜塩素酸ソーダ水溶液は保存性に優れるので、これをタンクに貯蔵し、使用するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0021】
以上、本発明によれば、従来に比して塩酸酸性の次亜塩素酸塩水溶液を古紙抄紙工程に使用したが、バージンパルプを使用する場合は、菌数、ピッチ、有機物種が異なるので、現場の状況に応じて調整するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る次亜水供給システムを備えた白水循環系の概略図である。
【図2】本件発明の制御システムの具体例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0023】
100 抄紙マシン
110、120 白水ピット
200 次亜水供給制御システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙原料水に薬剤添加し、抄紙マシンで白水を抄紙し、抄紙後の白水を循環使用する抄紙ウエットエンド環境において、
白水ピット110および/またはチェスト排水ピット120と、これらに接続配管を介して接続され、pH4以上7未満で次亜塩素酸又は亜塩素酸を1000ppm以上含有する水溶液を供給する次亜水供給装置と、上記白水ピット110および/またはチェスト排水ピット120に付設され、白水または排水中の残留塩素濃度を測定する装置と、該測定装置の測定信号に基づき、上記次亜水供給装置5からの供給量をコントロールする動力制御盤10とを備え、投入時濃度0.5ppm以上を目算にpHが弱酸性に調整された次亜塩素酸または亜塩素酸を含む水溶液を連続又は断続的に添加し、白水循環内は残留塩素濃度を0.1から3ppm、多くて5ppm、または白水循環系外は残留塩素は1ppm未満にコントロールすることを特徴とする抄紙ウエットエンド環境の制御システム。
【請求項2】
上記次亜水供給装置が次亜塩素酸ソーダ又は亜塩素酸ソーダ水溶液タンク1および希塩酸タンク2に定量ポンプ3.4を介して接続され、希塩酸と次亜塩素酸ソーダ又は亜塩素酸ソーダ水溶液を工業用水にて希釈混合してpH4以上7未満で1000〜10000ppm、好ましくはpH4以上6.5以下で3000〜8000ppmの濃度に調整するミキサー5または6である請求項1記載の制御システム。
【請求項3】
上記次亜水供給装置10が塩化ナトリウム水溶液の電解装置を含み、生成する次亜塩素酸を塩酸にてpH4以上6.5以下に調節可能である請求項1記載の制御システム。
【請求項4】
更に、白水中の残留塩素濃度を測定するための測定装置を備え、該測定信号を上記動力制御盤にフィードバックして希釈次亜塩素酸ソーダまたは亜塩素酸ソーダ水溶液の白水ピット110またはチェスト排水ピット120への投入量を自動調整する請求項1記載の制御システム。
【請求項5】
古紙使用の抄紙の場合、白水循環内の菌数105以下、好ましくは菌数104以下にコントロールする請求項1記載の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−2348(P2007−2348A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181532(P2005−181532)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(504128622)エイチ・エス・ピ−販売株式会社 (3)
【Fターム(参考)】