説明

把持型ロボットハンド

【課題】2本の指を備え、指を駆動するアクチュエータへの指令値が零となっても、把持対象物を落とさない機構を有する把持型ロボットハンドを提供する。
【解決手段】第3リンク1に第2板ばね2が接続され、第2板ばね2に第2リンク3が接続され、第2リンク3に第1板ばね4が接続され、第1板ばね4に第1リンク5が接続されている指12であり、指12は外装6で覆われており、第1リンク5がアクチュエータ10の回転軸9の回転で直線運動することにより、把持対象物が外装6により把持され、外装6が把持対象物に接触する際に第1板ばね4と第2板ばね2が把持対象物に沿って変形することにより把持対象物を安定して把持でき、第1リンク5に接続される引張ばね7の張力とダンパー8の減衰力によりアクチュエータ10への指令値が零となっても把持対象物を安定に落とさずに把持できる把持型ロボットハンド14である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日常生活の中で、自らの手の代わりに使うことのできる把持型ロボットハンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
手に怪我を負ったり、病気により手が不自由になった場合、日常生活を快適に送ることが難しくなり、介助者のサポートが必要となる場面が多くなる。
【0003】
しかし、日常生活の多くの場面を介助者に依存することは、要介助者にとって精神的に圧迫される(QOLの低下)だけでなく、自らの自立性を損なうことにも繋がる。
【0004】
このため、腕の不自由な人が1人で食事をすることのできる食事支援装置が提案されている(特許文献1参照)。また、産業用小型ロボットハンドを日常生活に取り入れることも考えられる。
【特許文献1】特開2004−8327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の食事支援装置は、食事支援に限定しているため、食事以外の日常生活の様々な事象に応用できないという問題があった。また、上記の産業用小型ロボットハンドは、日常生活で人と共存することを前提に開発されていないため、重量、安定性、安全性など多くの問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、日常生活で人と共存することを前提に、十分な小型、安全、安定性を有する把持型ロボットハンドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、ロボットアームにの先端に装着され、一対の指を備えており、アクチュエータで駆動されて把持対象物を把持可能とする把持型ロボットハンドであって、前記一対の指は、それぞれロボットアームに近い基端側の第1リンク、中間の第2リンク及び先端側の第3リンクを備えており、第3リンクに第2板ばねが接続され、第2板ばねに第2リンクが接続され、第2リンクに第1板ばねが接続され、第1板ばねに第1リンクが接続されており、指は外装で覆われていることを特徴とする把持型ロボットハンドを提供する。
【0008】
前記一対の指は、それぞれの第1リンクがアクチュエータの回転軸の回転で直線運動することにより、同時に駆動される構成とすることが好ましい。
【0009】
前記一対の指は、前記外装が把持対象物に接触して該把持対象物を傷つけることなく把持でき、前記外装が把持対象物に接触する際に前記第1板ばねと前記第2板ばねが把持対象物に沿って変形することにより、把持対象物を安定して把持できる構成とすることが好ましい。
【0010】
前記一対の指は、それぞれの第1リンクの間に接続される引張ばねの張力とダンパーの減衰力により、アクチュエータへの指令値が零となっても、把持対象物を安定に落とさずに把持できる構成とすることが好ましい。
【0011】
前記一対の指を駆動するアクチュエータへの電流を利用して、力センサの代わりに利用できる構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記構成としたので、次のような効果が生じる。
(1)第1〜3リンクの相互間を板ばねで接続し、指は外装で覆われる構成としたので、指に過大な力が作用しても、板ばねが変形することにより、指を破損することなく、力を吸収可能となる。板ばねが把持対象物に沿って変形することにより把持対象物を安定して把持できる。
【0013】
(2)一対の第1リンクがアクチュエータの回転軸の回転で直線運動することにより、2本の指が同時に駆動する構成としたので、アクチュエータの数を減らすことができ、軽量化、部品点数の減少が可能となる。
【0014】
(3)一対の第1リンクに接続される引張ばねの張力とダンパーの減衰力によりアクチュエータへの指令値が零となっても把持対象物を落とさずに把持できる構成としたので、把持対象物を把持した状態で、モータの暴走や緊急停止したい時など、モータへの指令値が零となっても、機構的に把持対象物を安全・安定に把持することが可能となる。
【0015】
(4)指を駆動するアクチュエータへの電流を利用して力センサの代わりに利用する構成としたので、ロボットハンドの把持力を電流として検出可能となり、把持対象物を安全・安定に把持可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る把持型ロボットハンドを実施するための最良の形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は本発明の実施例における、把持型ロボットハンド14の全体構成を示す側面図であり、図2は把持型ロボットハンド14の全体構成を示す正面図である。この把持型ロボットハンド14は、台座13を介してロボットアームなどに固定される。
【0017】
把持型ロボットハンド14は、一対の指12、12を備えている。各指12は、指先から第3リンク1、第2板ばね2、第2リンク3、第1板ばね4、第1リンク5が順に接続される。さらに、指12は外装6で覆われる。外装6は、ゴム、布、プラスチック等の材料で形成される。
【0018】
把持型ロボットハンド14は、アクチュエータ9に接続された回転軸8で一対の指12、12で駆動し、1自由度を有する。 具体的には、一対の指12、12における、一対の第1リンク5、5が、それぞれアクチュエータ9の回転軸8の回転で直線運動すること(ラックとピニオン機構を利用する。)により、指12が把持対象物を把持することができる機構である。アクチュエータ9(アクチュエータとしてはモータ等が利用される。)は、図1に示すように台座13に取り付けられたアクチュエータ制御部11で制御される。
【0019】
図3に示すように把持対象物を把持する際、一対の指12、12のそれぞれの外装6が把持対象物に接触するため、把持対象物を傷つけることなく把持できるだけでなく、第1板ばね4と第2板ばね2が把持対象物に沿って変形するため、把持対象物を安定して把持できる。
【0020】
把持対象物を把持した状態で、アクチュエータ10の暴走により把持対象物を潰してしまう時など、把持型ロボットハンド14の緊急停止のために、アクチュエータ制御部11からアクチュエータ10へ指令値を零とすることがある。一対の第1リンク5、5の間には、引張ばね7とダンパー8が接続されているために、アクチュエータ10への指令値が零となっても、引張ばね7の張力とダンパー8の減衰力により把持対象物を落とさずに安定して把持し続けることができる。
【0021】
一対の指12、12が把持対象物を把持する状況下では、一対の指12、12を駆動するアクチュエータ10への電流値が大きくなる。このため、アクチュエータ10を駆動する電流値を力センサの代わりに利用することで、一対の指12、12が把持対象物を把持する力を制御できる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によれば、食事支援に特化した装置や産業用小型ロボットハンドとは異なり、軽量、安全、安定性を有する把持型ロボットハンドの開発が可能となるため、日常生活で人と共存でき、把持型ロボットハンドによる人の日常生活支援が可能となる。予想外の出来事により、把持型ロボットハンドを駆動するアクチュエータへの電流値を零としても、引張ばねの張力により把持対象物を把持することができるため、把持対象物が急に落下することを回避できる。
【0023】
したがって、把持型ロボットハンドを使用することにより、手に不自由を抱える人が、把持型ロボットハンドを自らの手のように扱うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例における、把持型ロボットハンドの全体構成を示す側面図である。
【図2】本発明の実施例における、把持型ロボットハンドの全体構成を示す正面図である。
【図3】本発明の実施例における、把持型ロボットハンドが把持対象物を把持する動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0025】
1 第3リンク
2 第2ばね
3 第2リンク
4 第1ばね
5 第1リンク
6 外装
7 引張ばね
8 ダンパー
9 回転軸
10 アクチュエータ
11 アクチュエータ制御部
12 指
13 台座
14 把持型ロボットハンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームの先端に装着され、一対の指を備えており、アクチュエータで駆動されて把持対象物を把持可能とする把持型ロボットハンドであって、
前記一対の指は、それぞれロボットアームに近い基端側の第1リンク、中間の第2リンク及び先端側の第3リンクを備えており、
第3リンクに第2板ばねが接続され、第2板ばねに第2リンクが接続され、第2リンクに第1板ばねが接続され、第1板ばねに第1リンクが接続されており、指は外装で覆われていることを特徴とする把持型ロボットハンド。
【請求項2】
前記一対の指は、それぞれの第1リンクがアクチュエータの回転軸の回転で直線運動することにより、同時に駆動されることを特徴とする請求項1記載の把持型ロボットハンド。
【請求項3】
前記一対の指は、前記外装が把持対象物に接触して該把持対象物を傷つけることなく把持でき、前記外装が把持対象物に接触する際に前記第1板ばねと前記第2板ばねが把持対象物に沿って変形することにより、把持対象物を安定して把持できることを特徴とする請求項1又は2記載の把持型ロボットハンド。
【請求項4】
前記一対の指は、それぞれの第1リンクの間に接続される引張ばねの張力とダンパーの減衰力により、アクチュエータへの指令値が零となっても、把持対象物を安定に落とさずに把持できることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の把持型ロボットハンド。
【請求項5】
前記一対の指を駆動するアクチュエータへの電流を利用して、力センサの代わりに利用できることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の把持型ロボットハンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−100323(P2008−100323A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285706(P2006−285706)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】