説明

抗アレルギー物質

【課題】褐藻の乾燥物を、アレルギー症状などに伴う炎症を緩和する可能性のある機能性食材として提供すること。
【解決手段】
サガラメからクロロフォルム・アルコール抽出した化合物を主成分とすることを特徴とする抗アレルギー物質を抽出するための方法であって、乾燥サガラメ粉末をヘキサンにて脱脂し、ヘキサンと酢酸エチルの混合液に浸漬させて色素の除去ならびに脱脂を行い、濾過後、脱脂サガラメ粉末を回収し、クロロフォルムとアルコールとの混合液に浸漬し、濾過後、濾液中の成分を、水、ジエチルエーテルの順に転溶させ、ジエチルエーテル乾固物を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラメ、カジメ、クロメ、サガラメ、ツルアラメをはじめとする褐藻類のクロロフォルム・メタノール抽出物(以下、クロメタ抽出物と略することがある。)に含まれる成分が、培養細胞に対してヒスタミンやPGD2、LTB4の放出抑制効果を示すことより、褐藻類の乾燥粉末を、アレルギー症状をはじめとする炎症を緩和できる可能性のある機能性食材として供するものである。
【背景技術】
【0002】
アレルギーモデルラットに対して乾燥粉末が抗アレルギー効果を示したことから、乾燥粉末を作成することにより、抗アレルギー素材としてペットフード、更には、様々な食品素材に配合・添加することが可能である。また、既に抗アレルギー効果が報告されているアルギン酸(非特許文献1)やフコイダン(特許文献1)などの粘性多糖を同時に摂取することが出来る。
褐藻類のクロメタ抽出成分は、食材へ適用可能なエタノールに可溶であり、エタノール抽出により抽出エキスとして、より濃縮され、効果の高い食材として提供可能である。
【0003】
三重県南部の沿岸部で採取され、刻みアラメと称されているものは褐藻サガラメに分類される。サガラメ乾燥品は縁起物としてアラメ巻や酢漬けなどの伝統料理にも使用され、古くは関西地区では冷え性などの婦人病に効果があるとして民間療法的に用いられてきた。しかし、そのような生理機能についての科学的検証がこれまでに殆ど無い。
抗炎症・抗アレルギー効果についても、褐藻サガラメの近縁種である褐藻アラメ(非特許文献2, 3)のクロメタ抽出物に、生体内の炎症に関わる酵素を阻害する作用のあることを中村らがこれまでに報告している(非特許文献4)が、褐藻類の有機溶媒抽出物についてヒスタミンやプロスタグランジン、ロイコトリエンなどの炎症誘発物質を放出する培養細胞を使った試験や、乾燥粉末を使ったアレルギーモデル動物での、抗アレルギーおよび抗炎症効果の検討はなされてこなかった。
特許文献2には、海藻等からの抽出物を抽出成分とする抗アレルギー剤が記載されている。また、特許文献3には、アラメからアルコール抽出した物質を主成分とする抗ウイルス物質が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10-72362
【特許文献2】特開平10-279491
【特許文献3】特開2001-122796
【0005】
【非特許文献1】Bioscience Biotechnology and Biochemistry, 1997, 61, 1030-1032, M. Asada, M. Sugie, M. Inoue, K. Nakagomi, S. Hongo, K. Murata, S. Irie, T. Takeuchi, N. Tomizuka, S. Oka: Inhibitory effect of alginic acids on hyaluronidase and on histamine release from mast cells.
【非特許文献2】藻類, 1953, 1, 49-53, 新崎盛敏: アラメに就て
【非特許文献3】日本産コンブ類図鑑, 川嶋昭二 編・著, 北日本海洋センター, 1989, p141-143, 205
【非特許文献4】Journal of Applied Phycology, 2003, 15, 61-66, T. Shibata, K. Nagayama, R. Tanaka, K. Yamaguchi, T. Nakamura: Inhibitory effects of brown algal phlorotanninson secretory phospholipaseA2s, lipoxyganases and cyclooxygenases.
【0006】
【非特許文献5】Chemistry Letters, 1985, 6,739-742, Y. Fukuyama, I. Miura, Z. Kinzyo, H. Mori, M. Kido, Y. Nakayama, M. Takahashi, M. Ochi: Eckols, novel phlorotannins with a dibenzo-p-dioxin skeleton possessing inhibitory effects on α2-macroglobulin from brown alga Ecklonia kurome OKAMURA.
【非特許文献6】Chemical and Pharmaceutical Bulletin, 1989, 37, 2438-2440, Y. Fukuyama, M. Kodama, I. Miura, Z. Kinzyo, H. Mori, Y. Nakayama, M. Takahashi: Anti-plasmin inhibitor. V. Structures of novel dimericeckols isolated from the brown alga Ecklonia kurome OKAMURA.
【0007】
【非特許文献7】Phytochemistry, 1985, 3,543-551, K.-W. Glombitza and G. Gerstberger: Phlorotannins with dibenzodioxin structural elements from the brown alga Eisenia arborea.
【非特許文献8】Chemical and Pharmaceutical Bulletin, 1990, 38, 133-135, Y. Fukuyama, M. Kodama, I. Miura, Z. Kinzyo, H. Mori, Y. Nakayama, M. Takahashi: Anti-plasmin inhibitor. VI. Structures of phlorofucofuroeckol A, a novel phlorotanninwith both benzo-1, 4-dioxin and dibenzofuran elements, from Ecklonia kurome OKAMURA.
【非特許文献9】Chemical and Pharmaceutical Bulletin, 1992, 40, 1439-1442, H.Kakegawa, H.Matsumoto, T. Satoh: Inhibitory effects of some natural products on the activation of hyaluronidase and their anti-allergic actions.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、褐藻類の乾燥粉末もしくはその抽出成分が抗アレルギー様作用を有するかどうか培養細胞やアレルギーモデル動物を用いて探索し、アレルギー症状などに伴う炎症を緩和する可能性のある機能性食材として供することにある。
本発明者らは、抽出物の中に抗アレルギー作用を有する化合物の存在を認め、該化合物を抽出単離することに成功し、ここに本発明をするに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、次のような構成を有している。
(1)試験材料として、三重県の伊勢・志摩地区で採取できる褐藻サガラメを使用。サガラメからクロロフォルム・アルコール(メタノールまたはエタノール)抽出した化合物を主成分とすることを特徴とする抗アレルギー物質。
(2)(1)に記載する物質を抽出するための方法において、乾燥サガラメ粉末をヘキサンにて脱脂し、ヘキサンと酢酸エチルの混合液に浸漬させて色素の除去ならびに脱脂を行い、濾過後、脱脂サガラメ粉末を回収し、クロロフォルムとアルコールとの混合液に浸漬し、濾過後、濾液中の成分を、水、ジエチルエーテルの順に転溶させ、ジエチルエーテル乾固物を得ることを特徴とする抗アレルギー物質抽出方法。
【0010】
(3)本発明者らは、化学式1に記載する新規物質を抽出単離した。
【化1】

(式中Rは水素原子またはメチル基を示す。)で表されるフロロフコフロエコール。
【0011】
(4)(3)に記載する化合物、エコール(化学式2の化合物)、6−6´バイエコール(化学式3の化合物)、6−8バイエコール(化学式4の化合物)、8−8´バイエコール(化学式5の化合物)、及びフロロフコフエコール(化学式6の化合物)を含む混合物。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【0012】
(5)(4)に記載する混合物において、化学式1の化合物 3.3mg、エコール 11.3mg、6−6´バイエコール 4.1mg、6−8バイエコール 3.3mg、8−8´バイエコール 22.3mg、フロロフコフエコール 5.3mgの重量比率であることを特徴とする混合物。
(6)(1)、(3)乃至(5)に記載する物質、化合物、混合物の少なくともいずれか1つを成分として含む乾燥粉末。
【0013】
上記化合物等の効果を確認するために次の実験を行った。詳細な実験結果は、後で説明する。
サガラメのクロメタ抽出物について、ラット由来培養細胞のヒスタミン放出を抑制するかどうかの確認。
ヒスタミン以外で、培養細胞からの炎症誘発物質の放出も抑制されるかどうか確認するために、プロスタグランジンD2およびロイコトリエンB4の培養上清中への放出量の測定。
ヒトへの効果を鑑み、ヒト由来KU812細胞に対してサガラメ由来抽出物のヒスタミン放出抑制効果を確認。
【0014】
サガラメに含まれる有効成分を分離・同定するために、クロメタ抽出物について高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて成分分画を実施し、それぞれについてのマススペクトルおよび核磁気共鳴装置による機器分析測定。それぞれの成分およびそれら混合物について、RBL-2H3細胞に対するヒスタミン放出抑制効果の確認。
サガラメ乾燥粉末に実際の生体で効果があるかどうか、抗原として卵白アルブミン(OVA)を腹腔内投与したアレルギーモデルのBrown Norway(BN)ラットを用いた検討。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、実施例をもって本発明を説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
乾燥粉末の作成
麦崎(三重県南部の沿岸部)にて採取したサガラメを水道水で洗浄し、よく水切りしてから3日間の陰干し、続いて3日間、37℃にて乾燥機内で送風乾燥した。その乾燥物を一般家庭用のミキサーで破砕して粗粉末を作成し、超遠心粉砕機で粒子径0.2〜0.5 mmの乾燥サガラメ粉末を調製した。
【0016】
クロロフォルム・メタノール抽出
以下の手順でクロロフォルム・メタノール(クロメタ)抽出を実施した。即ち、乾燥サガラメ粉末10gに対して50mlのヘキサンにて1昼夜脱脂し、続いて、ヘキサン:酢酸エチル=8:2、5:5の順に1時間づつ浸漬して色素の除去ならびに脱脂を行った。濾過後、脱脂サガラメ粉末を回収し、60mlのクロロフォルム:メタノール=2:1混合液に1昼夜浸漬して濾過後、濾液中の成分を、水、ジエチルエーテルの順に転溶させ、ジエチルエーテル乾固物をクロメタ抽出物とした。抽出物を適切な濃度になるようにTyrode緩衝液に溶解してサンプル溶液を調製し、培養上清に100倍希釈となるように添加した。
本抽出法は、ヘキサンによる脂肪酸類の脱脂後、上記比率のヘキサン/酢酸エチル混合液を順に用いることにより色素類を効果的に除去でき、フロロタンニン類の抽出のためのクロメタ抽出を行う時に、精製の妨げとなる脂肪酸類や色素類が混入しないものである。
【0017】
クロメタ抽出成分の培養細胞に対する影響の評価
細胞はラット由来白血病細胞(RBL-2H3細胞)をモデルとした。細胞は0.5×105 cells/mlの密度となる様にEMEM培地に懸濁し、24穴プレートに播き込んで3日間、37℃、5% CO2条件下で培養した。次に18時間、抗DNP-IgE抗体にて細胞を感作した後、培地をTyrode緩衝液に置き換え、サンプル溶液を添加した。サンプル添加後10分で、抗原としてDNP-BSAを添加し、35分間反応させてヒスタミンを放出させた。ヒスタミン放出剤としてA23187(カルシウム・イオノフォア)を用いて非免疫的にヒスタミンを放出させた場合は、培養液をTyrode緩衝液に置き換え後、10分してから添加し、30分間反応させた。氷水上に15分間、24穴プレートを放置して反応を停止させ、培養上清を回収した。
【0018】
培養上清中に含まれるヒスタミンおよびPGD2、LTB4について放出量を測定した。ヒスタミンは蛍光検出法によった。即ち、回収・濾過した培養上清1mlに対し、塩化ナトリウム0.6g、n-ブタノール1.25mlを添加して3分間激しく攪拌した。900×g、室温にて3分間遠心した後、上層のブタノール層1mlを回収してn-ヘプタン1.9ml、0.12N塩酸0.6mlと混合し、1分間激しく攪拌した。次に600×g、4℃低温にて5分間遠心した後、下層の水画分0.5mlを回収し、氷水中にて0.75N 水酸化ナトリウム0.2ml、0.05% o-フタルアルデヒド0.06mlを混合して40分間放置した。氷水から出して1.25M リン酸0.1mlを混合してから、室温にて20分間放置した。蛍光検出は励起波長360nm、蛍光波長450nmにて実施し、ヒスタミン量を測定することにより陽性対照に対する放出抑制率を算定した。結果を図1〜3に示した。
【0019】
図1は、実施例、抗原抗体反応により刺激されたRBL-2H3細胞のヒスタミン放出に対するサガラメの効果を示した結果である。クロメタ抽出物について、量依存的な効果を評価したものである。サンプルの曝露時間は45分である。
図2は、サガラメのクロメタ抽出物について、時間依存的な効果を評価したものである。サンプルの濃度は1mg/mlである。
図3は、A23187によって非免疫的刺激されたRBL-2H3細胞のヒスタミン放出に対する、サガラメのクロメタ抽出物の効果である。陽性対照はA23187による刺激のみでサンプルを与えていない試験区である。サンプルの曝露時間は45分、濃度は1mg/mlである。
サガラメ抽出物は量・時間依存的にヒスタミン放出抑制効果を示し、抗原抗体反応およびA23187の何れの刺激にも関わらず効果を示した。
【0020】
PGD2、LTB4についてはそれぞれ市販のELISAキットにて吸光度測定により検出・定量した。その結果を図4、5に示した。
図4は、RBL-2H3細胞を抗原抗体反応にて刺激した時のLTB4放出に対する、サガラメのクロメタ抽出物の効果を示す。非陽性対照は抗原抗体反応による刺激ならびにサンプルを与えていない試験区である。陽性対照はA23187による刺激のみでサンプルを与えていない試験区である。サンプルの曝露時間は45分、濃度は1mg/mlである。測定した物質の種類は縦軸の項目中で表記してある。
図5は、RBL-2H3細胞を抗原抗体反応にて刺激した時のPGD2放出に対する、サガラメのクロメタ抽出物の効果を示す。非陽性対照は抗原抗体反応による刺激ならびにサンプルを与えていない試験区である。陽性対照はA23187による刺激のみでサンプルを与えていない試験区である。サンプルの曝露時間は45分、濃度は1mg/mlである。測定した物質の種類は縦軸の項目中で表記してある。PGD2およびLTB4の放出に対する抑制効果は非常に強いものであった。
【0021】
ヒトに対する効果も鑑み、KU812細胞に対するヒスタミン放出抑制効果も検討した。A23187により非免疫的にヒスタミンを放出させ、検出手順はRBL-2H3細胞の場合に即したが、KU812細胞は浮遊性細胞のため、適宜、遠心分離を行って上清を回収する作業を検出手順に折り込んだ。図6にその効果を示した。図6は、A23187刺激されたKU812細胞のヒスタミン放出に対する、サガラメのクロメタ抽出物の効果を示す。対照はA23187による刺激のみでサンプルを与えていない試験区である。サンプルの曝露時間は45分、濃度は1mg/mlである。
図3では、ラット由来RBL細胞をA23187刺激した時には44.2 %の抑制効果を示したのに対し、図6では、ヒト由来KU812細胞をA23187刺激すると81.4 %とより強い効果を示したので、クロメタ抽出物はヒトに対してより効果的であることが見出された。
【0022】
サガラメ中の有効成分の分離・同定
サガラメ乾燥粉末(500g)のクロメタ抽出物について、主要な有効成分の分離・同定を試みた。即ち、HPLCにて分離分画を実施した。分離分画の条件は、カラムはDevelosil ODS-5(分析用:4.6×250mm、分取用:10×250mm)を用い、流速は分析時には0.5ml/min、分取時は1ml/minにて、移動相は水-アセトニトリル間のアイソクラチックまたはリニアグラジエント条件、検出は280nmの紫外吸収とした。得られた6種類の分画物についてMALDI-TOF-マススペクトル(MS)および核磁気共鳴(NMR)装置により測定し、分子量および分子構造を解析した。構造は化学式1乃至6に示してある。
【0023】
化合物I〜IV、VIはMSおよびNMR測定で得られたスペクトル解析の結果、I(化学式2で示す化合物)はエコール(eckol、収量11.3mg、非特許文献5)である。II(化学式3で示す化合物)は6-6’ バイエコール(6,6’-bieckol、収量4.1mg、非特許文献6)である。III(化学式4で示す化合物)は6-8 バイエコール(6,8-bieckol、収量3.3mg、非特許文献7)である。IV(化学式5で示す化合物)は8-8’ バイエコール(8,8’-bieckol、収量22.3mg、非特許文献6)である。VI(化学式6で示す化合物)はフロロフコフロエコール(phlorofucofuroeckol; PFF、収量5.3mg、非特許文献8)であった。化合物V(化学式1で示す化合物 収量3.3mg)についてはマススペクトルおよびNMRスペクトルデータは表1の通りになり、新規物質であった。
分子式:C30H18O14、マススペクトル(MALDI-TOF-MS):m/z 603 (M+H)。水酸基の1H NMRデータが取れなかったので、誘導体化してメチル化体としてNMRスペクトルを比較検討した。スペクトルデータは表2の通りになり、分子式:C39H36O14、マススペクトル(MALDI TOF-MS):m/z 729 (M+H)であった。
図18及び図19は、実施例の有効成分の分離・同定について、新規化合物Vおよびそのメチル化体の13Cおよび1H NMRスペクトルデータを示す表図である。
【0024】
これら6種類の化合物について、各々、RBL-2H3細胞に対するヒスタミン放出抑制効果を検討した。ヒスタミン放出の手順は抗原・抗体反応による免疫的刺激およびA23187による非免疫的刺激ともに上記に即した。ヒスタミンの検出は簡便法を用いた。当簡便法は直接ヒスタミンを検出するものではなく、細胞がヒスタミンを脱顆粒する際に、顆粒球中に共存するβ−ヘキソサミニダーゼ(β−Hex)も放出され、そのβ-Hex量を測定することによりヒスタミン放出量の相対値とするものである。即ち、ヒスタミン(β-Hex)を放出させた培養上清を適量回収して96穴プレートに移し、気質(p-ニトロフェニル-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド;NAG)を加えて37℃、60分間保温することにより、酵素・気質反応により発色させた。0.1M炭酸ナトリウム緩衝液を添加して反応を停止させ、吸光波長405nmにてβ-Hexを検出・定量し、相対的なヒスタミン放出量とみなし、陽性対照に対する放出抑制率を算定した。その結果を図7〜9に示した。
【0025】
図7は、化合物I〜VIおよび陽性対照としての茶カテキン(EGCG)の、抗原抗体反応で刺激されたRBL-2H3細胞のヒスタミン放出抑制効果を評価した結果を示す。サンプルの曝露時間は45分、濃度は横軸に表記した通りに各試験区3段階設けて実施した。
図8は、A23187によって非免疫的刺激されたRBL-2H3細胞のヒスタミン放出に対する、化合物I〜VIおよびEGCGの効果を示す。サンプルの曝露時間は45分、濃度は化合物Iを250μM、II〜VIおよびEGCGを25μMとして実施した。
図9は、RBL-2H3細胞を抗原抗体反応およびA23187にて刺激した時のヒスタミン放出に対する混合物の抑制効果を示す。サンプルの曝露時間は45分、濃度は1 mg/mlにて実施した。
いずれの化合物及びそれら混合物はRBL-2H3細胞に対してヒスタミン放出抑制効果を示しており、これら主要6成分が抗アレルギー様作用を担っていることが見出された。また、抗原抗体反応およびA23187の何れの刺激にも関わらず効果を示した。
【0026】
乾燥粉末の生体に対する効果
モデル動物としてBrown Norway(BN)ラットを用いた。4週齢 雌性ラットを1週間馴化処理した後、対象区では飼料としてAIN-76を与え、試験区はサガラメ乾燥粉末を5%添加した試験飼料(組成は図20を参照)に切替え、飼料切替え後の7、9、11、14、16、18日後の計6回、OVA水溶液(OVA濃度:1mg/ml)の腹腔内投与を実施し、投与終了10日後に採血を実施した。図20は、陽性対照区および試験区の実験動物に与えた、各々の飼料組成を示す表である。
【0027】
採血後の血清の調製は、60分間常温にて血球を凝集・沈殿させ、4℃低温にて2000×g、20分間遠心して上清を回収し血清とした。血清中の抗体IgE量はELISA法にて検出した。即ち、特異的抗体の場合は炭酸ナトリウム溶液に溶解したOVA溶液をウェルの底に一晩4℃低温にてコーティングし、0.1%BSAにてブロッキングした後、リン酸緩衝液にて希釈した血清を96穴プレートにアプライして4℃低温にて20時間反応させた。ビオチン標識Mouse anti-rat Ig、ストレプトアビジン-HRP(フォース・ラディッシュ・ペルオキシダーゼ)にて順次ラベリングし、TMB(テトラメチルベンジジン)にて発色させた。2N硫酸にて反応を停止させ、吸光波長450nmにて検出・定量を実施した。非特異的抗体の場合は、OVA溶液によるコーティングを行わなかった。IgGの検出ではビオチン標識Mouse anti-rat Igの代わりにHRP標識Goat anti-rat IgGをラベリングし、次にTMBにて発色、吸光波長450nmにおける検出・定量の順で実施した。
【0028】
血清中のヒスタミン量は、採血後24時間以内に測定を行った。即ち、適量の血清に等量の3%過塩素酸溶液を混合してタンパク質を除去し、遠心後、上清中のヒスタミンを上記と同様の方法で抽出・蛍光検出した。
IFN−γ、IL-4、10の検出は以下の手順で実施した。即ち、エーテル麻酔下にて開腹し、脾臓を摘出した。RPMI1640培地中にて内容物を扱き出し、ステンレスメッシュ#100にて濾過、37℃、30分間保温して繊維芽組織を沈殿させて再度濾過した。濾液にリンパ球分離試薬を重層し、1500×g、30分間室温にて遠心して中間層のリンパ球層を回収した。RPMI1640培地にて2回洗浄した後、細胞数が2×106 cells/mlとなるように5μg/mlのCon A 含むRPMI1640培地に懸濁し、24時間37℃、5% CO2条件下で培養した上清を回収して、市販のELISAキットを用いて検出・定量した。上記、実施例の結果を図10〜17にて示した。
【0029】
図10は、実施例の生体に対するサガラメの効果を、血中の抗体量抗OVA−IgEを指標に評価した結果。測定した抗体の種類は縦軸の項目に表記してある。OVAのみを投与した陽性対照区とOVAならびにサガラメを与えた試験区を比較して示してある。
図11は、実施例の生体に対するサガラメの効果を、血中の抗体量抗OVA−IgGを指標に評価した結果を示す図である。測定した抗体の種類は縦軸の項目に表記してある。OVAのみを投与した陽性対照区とOVAならびにサガラメを与えた試験区を比較して示してある。
【0030】
図12は、実施例の生体に対するサガラメの効果を、血中の抗体量総IgEを指標に評価した結果を示す図である。測定した抗体の種類は縦軸の項目に表記してある。OVAのみを投与した陽性対照区とOVAならびにサガラメを与えた試験区を比較して示してある。
図13は、実施例の生体に対するサガラメの効果を、血中の抗体量総IgGを指標に評価した結果を示す図である。測定した抗体の種類は縦軸の項目に表記してある。OVAのみを投与した陽性対照区とOVAならびにサガラメを与えた試験区を比較して示してある。
図14は、血中のヒスタミン量に対するサガラメの効果を評価した結果を示す図である。OVAのみを投与した陽性対照区とOVAならびにサガラメを与えた試験区を比較して示してある。
【0031】
図15は、生体内のサイトカイン量である脾臓由来リンパ球のIFN−γ産生に対するサガラメの効果を評価した結果を示す図である。測定したサイトカインの種類は縦軸の項目に表記してある。OVAのみを投与した陽性対照区とOVAならびにサガラメを与えた試験区を比較して示してある。
図16は、生体内のサイトカイン量である脾臓由来リンパ球のIL−4産生に対するサガラメの効果を評価した結果を示す図である。測定したサイトカインの種類は縦軸の項目に表記してある。OVAのみを投与した陽性対照区とOVAならびにサガラメを与えた試験区を比較して示してある。
図17は、生体内のサイトカイン量である脾臓由来リンパ球のIL−10産生に対するサガラメの効果を評価した結果を示す図である。測定したサイトカインの種類は縦軸の項目に表記してある。OVAのみを投与した陽性対照区とOVAならびにサガラメを与えた試験区を比較して示してある。
サガラメ5%添加食試験区について、血中においてはIgGレベルの上昇、IgEおよびヒスタミンレベルの上昇抑制、脾臓中ではIFN-γレベルの上昇、IL-4、10レベルの抑制効果がみられ、何れの試験項目においても、抗アレルギー様作用が認められた。
【0032】
図1から図17に示される効果について
アレルギー症状を緩和するには、ヒスタミンやプロスタグンランジン、ロイコトリエンなどのケミカルメディエーターを炎症性のリンパ球から脱顆粒させないようにする必要がある。サガラメ乾燥粉末由来のクロメタ抽出物をラット由来培養細胞(RBL-2H3)やヒト由来培養細胞 (KU812)を用いて検討した結果、図1〜6に記載したように細胞からのヒスタミンやプロスタグランジン、ロイコトリエンの脱顆粒を抑制した。このことから、クロメタ抽出物はアレルギー反応に伴う炎症反応を抑制・緩和する可能性が見出された。
また、逆相系HPLC精製やMS、NMR測定によるスペクトル解析の結果、6種類のフロロタンニン類が同定され、そのうちの1つは化合物1に記載する新規物質であった。RBL細胞を用いたヒスタミン放出抑制効果について、図7に記載したように化合物2に記載するエコールを除いて他の5種類は対象物質である茶カテキン(EGCg)よりも同等、若しくはそれ以上の効果を示し、特に新規物質の効果は、EGCgのIC50値(抑制率が50 %を示すときの濃度)が11.0μMであるのに対して新規物質のそれは7.8μMと、より効果的であった。更に、一般的に医療で用いられている抗アレルギー剤 TranilastのIC50値は682.4μM(非特許文献9)であることからも、新規物質が非常に効果的であることがいえる。
【0033】
アレルギー発症には、生体内における2タイプのTリンパ球のバランスが関与しているといわれており、抗アレルギー効果を見出すには、Th1細胞由来の抗体やサイトカインレベルを上昇させ、一方でTh2由来の抗体やサイトカインレベルを低下させることにより改善させる必要がある。本発明では、サガラメ乾燥粉末をOVA免疫したアレルギーモデルラット(Brown Norway ラット)に与えたところ、図10〜17に記載したようにTh1細胞由来のIgG、IFN-γレベルの上昇、Th2細胞由来のIgEやIL-4、10の上昇抑制が認められ、明らかなアレルギー状態の改善が見出された。尚、乾燥粉末はクロメタ抽出を経ていないため、これまでに抗アレルギー効果が報告されている粘性多糖(アルギン酸、フコイダン)も同時に摂取することが出来るため、相乗的な抗アレルギー効果が見込まれるものである。
以上のことから、本発明により、クロメタ抽出により取り出され、化合物1で示される新規物質をはじめとするフロロタンニン類は抗アレルギー効果を示し、それらフロロタンニン類や効果が既知の粘性多糖を含むサガラメ乾燥粉末も抗アレルギー効果が見出されたことから、サガラメのクロメタ抽出物およびサガラメ乾燥粉末を抗アレルギー素材として提供することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】抗原抗体反応により刺激されたRBL-2H3細胞のヒスタミン放出に対するサガラメの効果を示した結果図である。
【図2】サガラメのクロメタ抽出物について、時間依存的な効果を評価した図である。
【図3】A23187によって非免疫的刺激されたRBL-2H3細胞のヒスタミン放出に対する、サガラメのクロメタ抽出物の効果を示す図である。
【図4】RBL-2H3細胞を抗原抗体反応にて刺激した時のLTB4放出に対する、サガラメのクロメタ抽出物の効果を示す図である。
【図5】RBL-2H3細胞を抗原抗体反応にて刺激した時のPGD2放出に対する、サガラメのクロメタ抽出物の効果を示す図である。
【図6】A23187刺激されたKU812細胞のヒスタミン放出に対する、サガラメのクロメタ抽出物の効果。対照はA23187による刺激のみでサンプルを与えていない試験区。サンプルの曝露時間は45分、濃度は1mg/ml。
【図7】化合物I〜VIおよび陽性対照としての茶カテキン(EGCG)の、抗原抗体反応で刺激されたRBL-2H3細胞のヒスタミン放出抑制効果を評価した結果を示す図である。
【図8】A23187によって非免疫的刺激されたRBL-2H3細胞のヒスタミン放出に対する、化合物I〜VIおよびEGCGの効果を示す図である。
【図9】RBL-2H3細胞を抗原抗体反応およびA23187にて刺激した時のヒスタミン放出に対する混合物の抑制効果を示す図である。
【図10】実施例の生体に対するサガラメの効果を、血中の抗体量抗OVA−IgEを指標に評価した結果を示す図である。
【図11】実施例の生体に対するサガラメの効果を、血中の抗体量抗OVA−IgGを指標に評価した結果を示す図である。
【図12】実施例の生体に対するサガラメの効果を、血中の抗体量総IgEを指標に評価した結果を示す図である。
【図13】実施例の生体に対するサガラメの効果を、血中の抗体量総IgGを指標に評価した結果を示す図である。
【図14】血中のヒスタミン量に対するサガラメの効果を評価した結果を示す図である。
【図15】生体内のサイトカイン量である脾臓由来リンパ球のIFN−γ産生に対するサガラメの効果を評価した結果を示す図である。
【図16】生体内のサイトカイン量である脾臓由来リンパ球のIL−4産生に対するサガラメの効果を評価した結果を示す図である。
【図17】生体内のサイトカイン量である脾臓由来リンパ球のIL−10産生に対するサガラメの効果を評価した結果を示す図である。
【図18】実施例の有効成分の分離・同定について、新規化合物Vの1H NMRスペクトルデータを示す表図である。
【図19】実施例の有効成分の分離・同定について、新規化合物Vのメチル化体の13C NMRスペクトルデータを示す表図である。
【図20】陽性対照区および試験区の実験動物に与えた、各々の飼料組成を示す表図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サガラメからクロロフォルム・アルコール抽出した化合物を主成分とすることを特徴とする抗アレルギー物質。
【請求項2】
請求項1に記載する物質を抽出するための方法において、
乾燥サガラメ粉末をヘキサンにて脱脂し、ヘキサンと酢酸エチルの混合液に浸漬させて色素の除去ならびに脱脂を行い、濾過後、脱脂サガラメ粉末を回収し、クロロフォルムとアルコールとの混合液に浸漬し、濾過後、濾液中の成分を、水、ジエチルエーテルの順に転溶させ、ジエチルエーテル乾固物を得ることを特徴とする抗アレルギー物質抽出方法。
【請求項3】
【化1】

(式中Rは水素原子またはメチル基を示す。)で表される化合物。
【請求項4】
請求項3に記載する化合物、エコール、6−6´バイエコール、6−8バイエコール、8−8´バイエコール、及びフロロフコフエコールを含むことを特徴とする混合物。
【請求項5】
請求項4に記載する混合物において、
請求項3に記載する化合物 3.3mg
エコール 11.3mg
6−6´バイエコール 4.1mg
6−8バイエコール 3.3mg
8−8´バイエコール 22.3mg
フロロフコフロエコール 5.3mg
の重量比率であることを特徴とする混合物。
【請求項6】
請求項1、請求項3乃至請求項5に記載する物質、化合物、混合物の少なくともいずれか1つを成分として含む乾燥粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−217339(P2007−217339A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39321(P2006−39321)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年8月31日 社団法人日本食品科学工学会主催の「日本食品科学工学会第52回大会」において文書をもって発表
【出願人】(393008223)カネハツ食品株式会社 (1)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】